モララーのビデオ棚in801板56at 801
モララーのビデオ棚in801板56 - 暇つぶし2ch353:江戸御菓子噺 6/7
10/03/14 15:33:12 b5fM5CE+0
「待ってつかあさい、武智先生。」
「伊蔵?どういたがじゃ。」
理由は、廊下の方から感じた幾つかの気配にあった。
ドタドタと足音荒く近づいてくる、それらは戸口に立つ門弟の背後、群れをなして現れ、止まった。
「塾頭!たまたまうちで饅頭が余りまして!」
「たまたま実家から羊羹が!」
「貸本屋を通りがかったら、たまたま先生の探しておられた本を見つけて!」
「…………そんなたまたまがあるがかぁ!」
口々に叫ぶ門弟達相手に声を張り上げて、伊蔵がその場に仁王立ちになる。
するとそれに彼らも対抗して声を荒げてきた。
「なんだとぉ!!」
「おんしら下心が見え見えなんじゃ!そんな汚い性根で武智先生に近づくのは許さんぜよ!」
「おまえ、同じ国元だからって調子に乗るなよ!それでなくても一人部屋の中に入れてもらって。
俺らなんてなぁ、いつもいつもここで帰されるんだぞ!」
「そうながか?……やのうて、いつもいつもっておんしら何しちゅう!!」
「おまんら……」
喧々諤々と飛び交う怒号の中に、この時一言ひんやりとした声が混じる。
それにその場にいた全員がビクッと固まり、そして恐る恐ると視線を部屋の中へ向ければ、
そこには畳の上、静かに端坐し、手にした茶を飲み干すとそれをゆっくりと置く武智の姿があった。

354:江戸御菓子噺 7/7
10/03/14 15:34:14 b5fM5CE+0
思わず皆の息が止まる中、その唇が再び動く。
「そんなに元気が余っちゅうなら、道場で素振り百回。出来るな?」
否定を許さぬ肯定的疑問を投げ掛けながら顔を上げ、にこりと微笑んでくる。
それには伊蔵の口からはたまらず、泣き事めいた悲鳴が上がっていた。
「武智先生っ、それは無いですきにっ」
「行きや、伊蔵。」
「……はい…」
しかし武智にそう繰り返されれば、自分に逆らう術は無かった。だから、
「おらっ、おんしらも行くぞ!」
「えーっ!」
「えーっ、やない!いったい誰のせいでこんな事になったと思っちゅう!」
戸口に集まっている者達をほとんど蹴り倒すような勢いで元来た道に押し返し、伊蔵が部屋を
出ていく。
そしてそれらを見届け、声も完全に聞こえなくなった時、
「まっこと、仲が良すぎるのも考えもんじゃのう。」
皿や湯呑みを片付けながら、やれやれとばかりに零された武智の言葉。
それを聞かずにおれた事は、伊蔵達にとっておそらくは幸いだった。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
江戸修行時代の家族の肖像、出来ればもう少し長く見たかった。
土イ左弁がエセなのはあらためて許してつかあさい。


355:風と木の名無しさん
10/03/14 21:24:36 Uvx2uuqN0
>>337
まさかこの二人が読めるとは!
ありがとう!幸せです。

356:項垂れる曇り空1/5
10/03/14 21:31:25 1v36SWCw0
お借りします。
?・邦楽、一角獣の双子コンビ(notカプ)
・年下組が仲良くしてるのが好きな人推奨。



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

357:項垂れる曇り空2/5
10/03/14 21:32:58 1v36SWCw0
暖かくなってきたし遊ぼうや、と連絡をしてきたのは亜辺だ。
前に会ってからたいして間も空いていないのに、二つ返事で朝から車を走らせた。
いつもなら車に必ず積むゴルフセットに一瞬手を伸ばし、すぐに引っ込めた。
玄関から一歩外に出ると、青空とはほど遠い色をしている空が視界に飛び込む。

連絡をしてきたのは自分だというのに、わざわざ呼び寄せて置いて亜辺は何も考えていなかったらしい。
すっかり馴染みになったカフェに連れ出され、二人して今にも雨が降り出しそうな曇り空を見上げて
同時にため息を吐く。
「昨日夕焼け綺麗だったから、絶対晴れると思ったんだけどなー」
「夜の天気予報で雨降るって言うとったぞ」
「そっかー……」
「何じゃ、何の考えも無しに電話してきたん?」
「うん。ちょっと迷ったけどね」
今忙しいでしょ、皆。呟いた言葉は湿っぽい空気にじわりと解けて広がる。

怒濤の2年間を終えようやく各々が自分のペースで動き始め、
飽きるほど顔を合わせることはなくなった。
かといって、打ち合わせやちょっとした秘密の集まりは不定期にやっているし、
それ以外でも誰かと誰かがこそこそやってるのも知っている。
別に会いたければ連絡でも何でもすればいい。昔のように変に勘ぐられることもないし、
むしろ会いやすい環境になったと思う。

358:項垂れる曇り空3/5
10/03/14 21:34:00 1v36SWCw0
「何かさあ、ぎゅっと凝縮され過ぎちゃった感じしない?」
平気な顔をして自分たちは一人に慣れていたつもりだったのに、
実は全然そうじゃなかった、と気付いてしまった。
5人でいるときの独特の空気感や、バカなことをしてギャーギャー笑ってしまいには笑い疲れる、
そういう時間の居心地の良さを思い出し、その中に自分の居場所があることはとてつもない安心感があった。
「馬鹿騒ぎし過ぎたっちゅー見方もあるけどな」
「いいじゃん、そういうのがうちらっぽいじゃん。でも、失敗したかなあって思うこともあるけどね」
「何をよ」
「……現場行ってあの甲高い笑い声が聞こえないとさ、『あーそっか、今日は一人なんだー』って思っちゃって。
ま、俺の仕事だから当たり前なんだけど」
結局そこにいくんかい、とツッコミを心の中だけで入れ、頬杖をつく亜辺の横顔をぼうっと見つめる。
(……あー、あいつ今ツアーで飛び回ってんだっけか)
同じくツアー中の最年長と地元で仲良くやっていたことを思い出し、
灰が落ちかけていた吸い殻を灰皿に力一杯押しつける。
あのブログを見たことも知られたくないし、ちょっとだけイラッとしたことは
もっと知られたくない。プライドに賭けて。

「連絡すりゃーええじゃん」
「でもさ、『ごめんね、忙しいから~』とか言われたら心折れちゃうっしょ」
「中学生か、おまえ」
40過ぎて恋だの何だのの話題をこいつとすることになるなんて思わなかった、と冷めかけたコーヒーを啜る。
それこそ、再結成前の自分が亜辺にまで隠していたことと同じようなもので、
要はおおっぴらに言うか言わないかの違いだけだ。
ただ、隠していたつもりだったはずのその辺りのことは亜辺どころか周辺の人間にはバレバレだったらしく、
あの鈍感な海老にまで指摘されたのは未だに心外だ。
『多三男は隠せてたつもりかもしんないけど、だだ漏れだったよねえ?』
自慢げに胸を張る海老を睨みつける多三男、の図に呆れたように笑う彼もまた同じような状況の中にいて、
自由奔放に振る舞い続ける相手に振り回されるお互いを見ては苦笑いをするしかないのだ。今も。

359:項垂れる曇り空4/5
10/03/14 21:34:56 1v36SWCw0
「お土産買ってきてくれるんだって」
「海老が?」
「ん。買ってくから楽しみにしててね、とか言われちゃったらさー……待つじゃん、
俺そういうとこ素直だし」
「で、その連絡が来ないと。で、耐えられんから俺を呼び出したと。そういうこと?」
うん、と子供のように頷いた一つ年下の友人の頭を思いっきりはたきたいのを堪え、次の言葉を待つ。
「広島でその話、河弐っさんにしたら『成る程、んじゃ俺も買ってこ』って
言ってたらしいけど、連絡ないの?」
「……おっさん、絶賛合宿中だから。明後日帰ってくるけど」
「なら、そろそろ連絡来るんじゃね?」
「……だといいけどな」
相手のことだったらこんなにも親身に考えられるのに、俺たちは自分のことになると途端に素直じゃない。
お互いに一向に鳴る気配のない携帯をちらちら気にしながら次の煙草に火を点け、
違う相手のことを思い浮かべながら長く、それでいて甘ったるい雰囲気を漂わせるため息を吐いた。

本当に、恋なんてもんは厄介で仕方ない。
でも、そんな厄介な感情に振り回されてる自分たちは案外嫌いではない。

360:項垂れる曇り空5/5
10/03/14 21:35:34 1v36SWCw0



□STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
何言いたいのかよくわからなくなったけど、この2人の阿吽の呼吸以外の何物でもない会話が好きだ。
何だかんだでこの人らは事ある毎にこそこそキャッキャしてると思う。

361:江戸御菓子噺 其の弐 1/3
10/03/14 22:27:31 b5fM5CE+0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と飛来。>>347の続きで別ver。
ほぼ連投ですみませんが、あと数レスお借りします。


「なんですか?これは。」
「もらい物の菓子じゃ。今度は配れる数があっての。」
「今度は?」
「なんちゃぁない。」
武智が身支度を整えるのを待ちながら、通された部屋で収次郎は目の前に置かれた
風呂敷包みに視線を落としていた。
稽古が終わり、帰ろうとしていたところで呼び止められ、部屋で待つように言われた。
何事かと思えば、久しぶりに武智も藩の中屋敷へ顔を出すので共に行こうとの事。
そして汗を落とし着物を着替えた武智は、刀架から刀を取り上げると、それを腰に差しながら
この時、背後の収次郎にこう告げてきた。
「そう言えばおまん、伊蔵に何を言うた?」
「はい?」
唐突にそんな事を言われ、意味が把握できず間の抜けた声で聞き返す。
するとそんな自分に武智は微かに視線を後ろに流しながら、続きの言葉を口にしてきた。
「なんちゃあ嘆かれたぞ。わしは藩の屋敷におるよりも百井に世話になっておる方が
ええんやと、収次郎に怒られたと。」
「……っ、伊蔵っ、あいつ!」
「伊蔵を叱るなよ、収次郎。」
秘密裏に話した事を当人にばらされて、思わず声を荒げた収次郎に、しかし武智は穏やかな
戒めを告げてくる。そして、
「そんなに、わしに気を使うてくれんでもええぞ。」
まるでこちらの胸中を何もかもを見透かしたかのようにそう静かに諭してくる。
が、しかしそれに収次郎の憂いが取り払われる事は無かった。

362:江戸御菓子噺 其の弐 2/3
10/03/14 22:28:37 b5fM5CE+0
いくら本人がどう言おうと、藩の屋敷にあればこの人は必然的に土イ左の下司全体の
まとめ役のような立場に立たされる。
それは言い代えれば、上司との交渉事において常に矢面に立たされると言う事と同義だった。
この人と上司との関係。
何を言われた訳でも、知った訳でもない。
あくまで邪推の域を出ない、しかしそれでも自分はこの人に必要以外に上司連中を近づけるのは
嫌だった。
それゆえに返事が出来ずに沈黙する。
そんな収次郎に武智はこの時、微かな苦笑を洩らしたようだった。
「おまんは、心配性じゃのう。」
柔らかな声の響き。それに収次郎がはっと顔を上げれば、そこには踵を返し、こちらに向け
優しい視線を落としてくる武智の姿があった。
「さて、行くがか。」
仕度が整った事を告げられ、収次郎は慌てて目の前の包みを手に取ると、立ち上がる。
しかしその間にも、目の中には先程見た武智の穏やかな表情が張り付いていた。
だから、
「…抱きたい…のぉ…」
無意識に自分の中に沸き上がった感情。
想うと同時に、目の前の武智の目が驚いた様に見開かれる。
その反応に収次郎はこの時初めて、自分が内心の想いを実際の声にしてしまっていた事に気付いた。
「あっ…いやっ、これはそのっ、そう言う意味やのうて…っ」
急ぎ取り繕ろうと言葉を発するが、それはなかなか意味あるものになってくれない。あげく、
「ただなんちゅうか、こう…柔らかそうや思うたら、触れとうなったっちゅうか、突つきとう
なったっちゅうか…っ…」
意味的には同じと言うか、むしろ変質的に更にまずいと言うか……
混乱してしどろもどろになる。そんな収次郎を武智はしばし無言で見遣っていたようだった。
だからその視線に居た堪れなさを感じて、収次郎はたまらず堅く目を閉じる。
が、そんな自分の胸元、不意にふわりと入り込んできた気配があった。

363:江戸御菓子噺 其の弐 3/3
10/03/14 22:30:20 b5fM5CE+0
えっ?と思い、反射的に目を開ける。と、そこにあったのはひどく近くにある武智の姿だった。
「たっ、武智先生?!」
我知らず上擦った声が口をつく。
するとそれに武智は、やはりしばらくの間沈黙を守っていたが、それでもやがてこう呟いた。
「体は……別になんちゃあ変哲のない堅いもんじゃぞ。」
ひそりと落とされた、その言葉の真意を測りかねた収次郎が、思わずその顔を覗き込もうとする。
しかし武智はそれを許さなかった。その代わり、
「……それを、こんだけでええがか?」
重ねられた言葉。
許されているのかと理解をすれば、それは同時にそれだけと言われると少々困ると言う
欲深なものになった。
けれど、
「……はい…」
今は、目の前の僥倖を享受する事にだけ目を向ける事にする。
手にした包みごと、腕をその背に回す。
初めは触れるか触れないか程に恐る恐る。
しかしそれにも武智が逃げない事がわかれば、腕の力はたまらず強いものになった。
深く胸の中に引き寄せ、抱き締める。
強く、誇り高く、それゆえに脆く、心のどこかで己を厭うている人だった。
そんな人が抱き締められた腕の中で少しだけ可笑しそうに呟く。
「おまんも伊蔵も……阿呆じゃ。」
慕う自分達をそんなふうに言って笑う。
そんな武智が、今の収次郎にはひどく寂しく、そして愛しかった。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
先生を幸せにしてやりたかった。

364:風と木の名無しさん
10/03/14 23:07:54 /DiVn1R60
>>356
ありがとう恋バナな双子じれったくて可愛過ぎる。
お土産が無事届きますようにww

365:風と木の名無しさん
10/03/14 23:34:19 7snfPTlp0
>>347
>>361
タイガー姐さん待ってました!!
笑顔のイゾとテンテーが嬉しい!でも幸せそうな様子がかえって切ないのは何故なんだろう
そして待ってました漢シュージロ・・・おまえさん漢だよ。ホント。テンテ支えてやってくれ


366:風と木の名無しさん
10/03/15 12:08:12 a2Fo0JeZ0
>>325
亀だけど萌えたよ!!ありがとう!

367:板缶1/3
10/03/15 23:48:58 VpLON/4V0
il 板缶です。最終回に触発されて初捏造します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!




 ふっと目を覚ました瞬間。
 見やった時計は、まだ夜明けが遠い。暖房の消えて久しい室内は冷え切っていて、布団の中、腕に包んだ温もりがことさら温かく感じる。
 いつもなら満足げに目を閉じて、猫のように背中を丸めているはずの温もり。
 その綺麗な顔が、苦悶に歪んでいたから、慌てて背中をさすった。
「おい。おい、神部!」
 額に浮かんだ油汗。何かに耐えるように、口は堅く引き結ばれている。
 いやいやをするように首を振って、何事かうめく。その頬を軽くはたくと、ん、と小さく身じろいだ後、ようやくまぶたが持ち上げられた。
「あー……おはよう、ございます」
「おはよう。じゃねぇよ、うなされてたぜ」
「そうですか?」
 額に手をやって、深くため息をつく。少し前までいた夢の世界の記憶を振り払うように、軽く頭を振った。
 その仕草の慣れた様子も気がかりだったが、それ以上に驚いたのは、こいつの瞳の色だ。
 伏せられた瞳に浮かんだ、ぞっとするほどに暗い光。こんな目をしているこいつは、知らない。
「すみません。起こしてしまいましたよね」
 ふっと寄せられた唇。頬をかすめた感触は乾いている。
「余計なこと心配してんじゃねぇよ」
 肩をひきよせて布団をかける。抱きしめるように腕につつみこんでやると、ふっと笑ったような息遣いが聞こえた。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
「……はーい」
 優しい言葉なんてかけられない。甘い言葉も慰めも、俺の辞書にはないから。
 それでも、こいつはちゃんと、憎たらしいほどそのことを分かっている。
 


368:板缶2/3
10/03/15 23:51:08 VpLON/4V0
 肩に触れる息が、規則正しいものになっていく。やがてその息遣いが穏やかなものになって、体の力が抜けていったのを確認して、ようやく訪れた眠気に身を任せることにした。

 これが初めてというわけではない。夜中にうなされて、はっと飛び起きることなんて、本当に日常茶飯事だった。
 どうしてなのか、気にならないわけではない。それでも理由は聞けなかった。
 俺たちは、知らないことが多すぎる。元々、一足飛びにいろいろなものを飛び越えて結んだ関係だ。
 俺もこいつに話していないことなんて山ほどあるし、こいつもきっとそうだろう。

 それでもいいと思った。
 刹那の関係だから、なんて思っているわけじゃないけれど。
 今こいつがここにいる、そのことだけで、俺には十分すぎる。

「(話したくなったら自分から話すだろ、俺がつっかかったところで、お前さんはどうせ、笑って流すだけだろうさ……)」
 温もりを引き寄せて、遠い夜明けに思いをはせながら、ようやく目を閉じた。

 今日はあまり、眠れなそうな気がした。


******

 夢が、近くなっているという自覚はあった。
「……おい。…おい、神部!」
 まぶたを強引にこじ開けたのは、あの人の力強い声。
 背中に感じた大きな手の感触に、目を開く力をもらう。


369:板缶3/3
10/03/15 23:54:12 VpLON/4V0
「あー……」
 目を覚ましたとき、愛しい人が近くにいる。素肌で触れ合って、存在を確かめる。そんなことで安心できるなんて、俺も相当、重症だ。
 おはようございます。なんてボケた呟きにも、律儀に返事が返ってくる。
 彼の低い声は、うなされていたことを告げても、決してその理由は聞いてこない。そうされるたびにいつも、まるで針でちくちくと刺されているような気持ちになる。
 優しい、けれど。その優しさに答えられない自分が、嫌で仕方なくなる瞬間だ。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
 肩を抱く腕に、力がこもる。その腕の温かさに、ふっと体の力が抜けていく。
 ここにいるだけで、安心できる。この不器用で無骨な人の、大雑把な優しさは、俺にとっては心地いい。

 俺の帰る場所は、ここにある。
 いつかきっと、彼が俺のすべてを知る日が来る。そのとき彼が、今と同じように俺を迎えてくれるかなんて、分からないけれど。
 それでも。せめて今だけは、この温もりに溺れていてもいいでしょう?

 筋肉に覆われた硬い腕に指先を這わせて、まぶたを閉じる。

 今度は、さっきより少しだけ、いい夢が見られそうな気がした。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
文章難しいです。いつも投下してらっしゃるネ申お姉さま方を尊敬します。
お付き合いありがとうございました。

370:風と木の名無しさん
10/03/16 00:36:16 B2yCiS6RO
>>356
各々の恋に悩む双子たちがめっちゃ可愛かったです!
(連絡が来たらまた報告しあうのかな?秘密かなw)
いい萌えをありがとうございました

371:風と木の名無しさん
10/03/16 02:16:44 Bm8GvWAZO
>>367
板缶待ってました!いつもの姐さんとは違う方なんですね。色んな方の板缶ウェルカムです!
板の不器用な優しさが萌えた!缶がうなされる夢、その過去が大変気になります…居場所できて良かったね缶(´Д⊂
こっちの板缶もシリーズで読めたら嬉しいです。

372:風と木の名無しさん
10/03/16 06:11:39 xXP1c9SQ0
>>367
おおおおお!
板缶はやっぱりいいなあ
萌えをありがとう!

373:風と木の名無しさん
10/03/16 07:01:31 Gz9rC7fNO
>>367
あああ、ありがとうございます!やっと板缶が読めた!
心底ウェルカムです!板缶和むな~

374:il缶ウキョ 1/3
10/03/16 19:40:14 XPoJxzSiO
il缶×ウキョ 缶独白です
il続いてしまって申し訳ありません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

最初はなんでこんな仕事、と思いましたよ。
僕にはやらなきゃいけない事がたくさん残っていたし
今するべき仕事なのか?ってね。
だけど必要な事だと言われればそういうものだと疑う事もしなかった。
こちらの方が必要な仕事で、FRSは部下が引き継いでくれている。
この仕事が終われば、僕もまたFRSの開発に戻るんだろうと思っていたしね。
庁/内Sを派遣されるような人物にも興味あったし?
ま、さっさと終わらせて早く元の部署に戻ろうと考えていたけど。
ところがあなたは最初から警戒心剥きだし、意地悪そうな顔してるし、
細かいし冷たいしすぐにどっか行っちゃうし僕の事無視するし
僕ほんとなんでこんな人の観察しないといけないんだろうってかなりいらついちゃいました。
でもあなたの観察が僕の仕事ですから?一生懸命やりましたけどね僕なりに。
もうほんと違法捜査ばっかりだしでっちあげとか考えられないですよ僕ら警察ですよ?
なのにえ?そんな所見てんの?みたいな。え?そんな事も知ってんの?みたいな。
誰もがあなたみたいに博識だと思わないでくださいね。
あなたみたいな人についていくのがどれだけ大変だったか。
だって僕だって負けてられないじゃないですか。
ミイラ取りがミイラに飲み込まれるわけにはいかないんですよ。
次の日に行く所がわかってたら一夜漬けで勉強しましたよええそれこそ朝方までね。
そのへんの苦労、今度たっぷり時間をかけてお話したいと思ってます。あなたの好きな鼻の里ででも。
あ、でも今度僕のいきつけのお店にでも連れてっちゃおうかな?
あなたが知らなそうなとこ、いっぱい知ってますからンフ
僕だってね、いつもいつも感心させられてばかりじゃ悔しいですから。
あなたのその鼻っ柱をへし折ってやりたくもなるんですよ。

375:il缶ウキョ 2/3
10/03/16 19:41:36 XPoJxzSiO
ああ、我ながらなんでこんな道選んじゃったんだろー。
たくさん飲んじゃったな~。大高知さんどこ行ったんだろ。
未練?そりゃありますよ。あるって言ったらまたなんかうるさそうだから言わなかったけどね。
だってFRSの開発はそれこそ僕は企画から携わってきたんだから。
僕がこの仕事に就いて…一番力を入れていた、いわば…「夢」だったんです。
これで日本が変わるんだって。これでたくさんの犯罪が減るんだって。
そう信じてたのにな…。
良かれと思っていても、正しいと思っていても、結果がうまくいくとは限らない…か。
もちろん、うまくいかないとも限らない。
絶対にそんな事はあり得ないって思っているけど僕だっていざあのシステムを目の前にしたらもしかして…。
祝いさんだって打手さんだって、僕と同じ信念を持ってあの開発に携わっていたんだから。

だけど、あの杉舌警部をその主任捜査官に選んだのはすごいよねぇ…
そうじゃなかったら僕はあの人と会う事はなかったんだ。
こんな狭い世界で、一生会わなかった。
…ああ…なんで僕はこんなに…
いつからだろう。この半年間。たった半年、でも、十分な月日だった。
あなたのイメージは、孤独で異端で人と関わる事を嫌うような、いわゆる「厄介者」だった。
ところが実際のあなたは誰よりも人が好きで、他人の事に一生懸命で、できる事なら全ての人を守ろうと思っていた。
きっと、僕の事も。
僕が庁/内Sだなんてそれこそ会った瞬間にもう気づいてたんだろうなぁ。
それなのに。「ついてこなくていいですよ」、の次には「どうぞお好きに」がついてくる。
だから僕は好きにした。
出世だとか、僕の長年の夢だとか、その全てを捨てても構わない。
むしろどうしてもそうしたい。
この半年間、あなたを見てきた僕の答えです。

376:il缶ウキョ 3/3
10/03/16 19:42:36 XPoJxzSiO
僕は…きっと言葉にできないほどあなたに惹かれているんだ。
憧れなのかな。僕はあなたのような警察官になりたい。
あなたの近くでずっとあなたを見ていたい。
もっとあなたの事を知りたい。
あなたの事を知れば知るほどのめり込んでいく自分を感じるんです。
こんな気持ちは初めてだな。

未練なんかタラタラだよ。
これからいや~な目にいっぱい会うんだろうし。あーあやだやだ。
でもなんでだろ。清々しい。
それになんだか嬉しい。
だってどんな事が起きても、彼は僕を裏切らない。
絶対に裏切らない。
そして…僕も彼を絶対に裏切らない。
こういう関係をなんて言うんだろう。
こういう関係を、なんて……


「寝てるのか
…まったく。これからの自分の立場を分かっているんだろうな?
…だがあの人なら………。
俺も、信じてみる事にした。
お前がそこまでして信じた…「相棒」ってやつを、な。」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

377:風と木の名無しさん
10/03/16 19:47:49 mrEvzFAQO
>>374

GJ!
憧れの存在っていいなあ(´ω`)

378:風と木の名無しさん
10/03/16 20:05:44 +lPWTIRc0
>>367
板缶嬉しい!!
ああ、もっと板缶読みたいです!!

379:風と木の名無しさん
10/03/16 21:12:06 Tyr9/ybS0
>>374
相思相愛缶ウキョいいなあ
GJすぎて正直泣きそうだ
未練たらたらでも、アイボウもできたしラムネもいるし、帰る場所がちゃんとできてよかったね缶(ToT)

380:速安 speed drunker
10/03/16 22:46:54 wRiWhudS0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ハンチョウの速安ダヨ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  原作よりで匂わせてるだけだモナ……。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「お疲れ。今上がりか?」
署から出ようとしたところで、安積は速水とばったりはち合わせた。
「俺も上がりなんだ。乗ってかないか。たまには俺とドライブしようぜ」
ちょうど事件が一つ片づいたところで少し疲れていた。
速水の運転というのが少々気になるが、帰宅のラッシュに揉まれるよりはいいかもしれない。
「お前が上品に運転してくれるのなら考えないでもない」
ナンパのような誘いに、安積は勿体ぶって答えた。
「わかったわかった、どこかのお姫様でも乗せてるみたいに運転してやるよ」
速水は見事なウインクを残し、本人曰く「法の許す限りにおいてばりばりにチューンナップ」された愛車を取りに行った。

381:速安 speed drunker
10/03/16 22:47:55 wRiWhudS0
台場はがらんとした街だ。
大きなビルが建ち並んではいるが、ごちゃごちゃとしていないせいで、逆にだだっ広さを感じさせる。
それを過ぎて橋を渡る。暮れなずみ、灯りが点り始めた一番美しい時間。
風景が車の窓ガラスをなめらかに流れてゆく。仕事の気分がだんだん薄れていくのを安積は感じた。
速水はすっかりリラックスしてハンドルを握っている。
気の置けない友と二人きりの車内は、エンジンの音だけが穏やかに響いていた。
金色が一瞬、水平線のふちに最後の光芒を煌かせて消えていく。
安積は夕日を背負った飛ばし屋の少年を思い出した。
殺人事件の参考人となった彼が速水に仕掛けた公道でのレース。
乗り合わせてしまった安積は、絶叫マシン顔負けのスリルを速水の運転でたっぷり味わわされたことがある。
命がけのバトルで、速水は伝説と呼ばれたその少年を一度抜いた。
その時見た全身から気迫が吹き出しているような速水の姿。
いつも飄々とした旧友の初めて見る一面に、不可思議な高揚が背筋を駆け抜けたのを思い出し、
安積は前方を見つめる横顔に「今日は大人しいんだな」と話しかけた。
「そりゃあ、大事な大事なお姫様を乗せてるからな」
速水はにやりと笑いながら安積に向かって恭しく点頭した。
「誰がお姫様だ」
「じゃあ、飛ばしてやろうか」
不適な笑みを閃かせた速水は、返事を待たずにアクセルを踏み込んだ。
やめろと言っても聞く男ではない。
安積は呆れ顔を少しひきつらせ、Gで押しつけられたシートにしっかりと掴まった。
車線移動を駆使して、速水は次々に車を追い抜いていく。
これくらいのスピードはなんてことないのだろう、鼻歌交じりだ。

382:速安 speed drunker
10/03/16 22:49:16 wRiWhudS0
しばらくすると、安積もスピードに慣れてきた。
余裕が出てくれば、恐怖は簡単に爽快感へととって変わる。
追いかけ、追いついて、追い抜く。スィングするジャズのようなリズムがその走りにはあった。
バスドラムのように低く響くエンジン音。鋭く鳴るシンバルのような鮮やかな方向転換。
速水の奏でる旋律に魅せられ、安積の心も浮き上がっていく。
陳腐な台詞だが、男は少年の頃からなにも変わっちゃいない。
ミニカーを手で押して遊びながら、自分より遙かに大きい鉄の塊を自在に操る夢を見ている。
スピードの快感に酔える生き物だ。
だが今俺が感じているのはそれだけじゃないようだ、と安積は思った。
自分で運転するときは次にどう進むのか分かっているから体が身構えられる。
誰かに運転を任せたとしても大体予想がつく。
しかし速水の助手席では、全く予測できずにただ振り回されてしまう。
今感じているのは、無防備なまま強く大きいものに翻弄される快感だ。
やや被虐的な悦びも混じっている。
そういうのも自分は嫌いじゃないらしい、と安積はまた思う。
「気持ちいいだろ、安積」
見透かしたように速水が言った。
「あぁ。……少し、癖になるな」
陶然とした声で答えると、速水が含み笑いをして目を細めた。
混みあった部分を抜き去り、前を走る車はほとんどいなくなっていた。
スピードは落とされたが、見通しがいいという一事だけで十分に気持ちがいい。
乗せられているだけでこうなのだから、運転している速水はさぞかしいい気分だろう。

383:速安 speed drunker
10/03/16 22:50:09 wRiWhudS0
「なあ、飛ばすのってどんな気分なんだ?」
「それは仕事のことか? それともプライベートの話か?」
「お前にその区別があるようには見えないがな」
「ひどいなぁ。ありますよ、もちろん」
速水は指をハンドルの上で軽やかに踊らせ、タタンタタンとリズムを刻んだ。
「じゃあ聞くが、刑事が犯人を追い詰めるときの気分はどんな感じだ?」
「質問返しか?」
言い返しながら、安積の手は口元に自然と伸びた。薄い唇を親指で弄るのは考えるときの癖だ。
「刑事は猟犬みたいなものだ。俺たちは捜査の間、犯人のことばかり考えている。
追い詰めたときやワッパを掛ける瞬間は、高揚感も確かにある。
だが俺たちの仕事では被害者が必ずいるんだ。
だから……楽しいとか嬉しいとか思ったことはないな。
そういう感覚は持ってはいけないんだろうと俺は思ってる」
「同じだ」
速水はあっさりと言った。
いつものように真面目過ぎるとからかわれるかもしれないと思ったから少し意外な気がした。
「じゃあ、プライベートのときはどうなんだ?」
「そりゃもう、いい気分だ」
すっかり暗くなった窓から、安積は速水の方へと目を移した。
レースの快感を体の内に蘇らせているのか、速水の表情が次第に精悍さを増してゆく。
「一人で飛ばすのもいいが、強い相手がいたほうがもっといい。
そいつのことしか見えなくなる。飛ばして、追いついて、ねじ伏せたくなる」
速水は口元に緩い笑みを浮かべた。精悍さに、凶暴な衝動の匂いが加わる。
「一旦抜いて頭を押さえたのに、またすり抜けられるのも悪くないな。
手が届きそうで届かない、そういう獲物ほど燃えて、体が疼く」
速水がちらりと安積の方を向いた。

384:速安 speed drunker
10/03/16 22:52:48 wRiWhudS0
「肉食獣みたいだな。ライオンとかそういう、猫科の」
目が合ってはじめて見とれていた自分に気づき、安積は照れ隠しに言った。
「……そうかもしれない」
速水はうっそりと笑い、唇をぺろりと舐めた。
「猫は獲物を弄ぶって言うからな。本気を出せば手に入れられることは分かってる。
だが、俺はずっと駆け引きを楽しんでるんだ」
意味ありげに安積を見た速水の瞳が、街灯の光を反射して光った。
その瞬間、ぞくりとした快感が背筋を駆け抜けた。
「……っ……!」
安積は息を詰まらせ、両腕で己の体を抱きしめた。
得体の知れない感覚が体の中で膨れ上がっている。
何かが疼くような、苦しいのに、どこか甘いような―。
「どーしたの、安積くん? 車酔いか?」
さっきまでとは一転して呑気な声で速水が訊いた。
何にも知りませんとばかりに惚けた顔をしている。何が肉食獣だ。こいつは絶対、分かってやっているんだ。
「さっきの話……なんか含み持たせただろ」
むかっ腹が立った安積は、じとりと速水を睨んだが。
「考えすぎでしょ?」
はげるよ、安積ちゃん、といつものように軽く言い、
速水は「お前のマンションまで送ってやるよ」と読めない瞳で笑ってみせた。
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 | | □ STOP.       | |
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385:キューカンバーの猫 1/5
10/03/17 09:14:18 KY+WLi9f0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  リリで801スレの>>399からの流れを
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  遅ればせ&超自己解釈ながら書いてみるよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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スーパードッグリリ/エン/タールのねこと虎の話
ねこ独白でヤマなしオチなしイミなしエロなしです
ソフトに喰う喰われる系の話なので、一応ご注意を


386:キューカンバーの猫 2/5
10/03/17 09:17:14 KY+WLi9f0

シュバ/インさんにきゅうりを頂いた。瑞々しく歯ごたえの良い、美味しいきゅうり。
シュバ/インさんは、私の成り行き上の飼い主:アキラの上司で、とある組織の管理職に就いている。オールバックのなかなか良い男で、仕事もできる、申し分のない大人だ。茶髪のヒラ組員で、銃が無ければ仕事ができないアキラは、今この部屋には居ない。
薄暗い部屋には、私と、煙草を嗜むシュバインさんだけ。
あぁ、壁面の水槽で泳いでいるアロワナも居ましたね。アキラは、私がネコなのに魚を食べたがらないことを不思議がっていたなぁ。
スーパーうちゅうねこの私が魚ではなくきゅうりを主食とするのは至極当たり前のことだから、アキラやその他の人間が勝手に考えた理屈を当てはめないで欲しいと思うのだけれど。
そういえば、私と同じ時に生まれた、あの方は……

「きゅうりは美味くなかったか、ネコさん?」

―あぁ、ぼんやりとしていてきゅうりを食べるのを忘れていました。シュバ/インさんに要らぬ気遣いをさせてしまいましたね。

『いいえ、少し考え事を。きゅうりはとても美味しいですよ』
「そうか」

ボリボリ ボリボリ
再びきゅうりを咀嚼し始める。薄いけれど固い皮、真ん中と周りで微妙に食感の異なる中身、甘くも酸っぱくもない味。
以前シュバ/インさんが「きゅうりは最も栄養の無い野菜だそうだ」と教えてくれたけれど、恐らくRD-1の不思議な力で、私はきゅうりからエネルギーを得られているのでしょう。
ほとんどの生物はたんぱく質等を摂らなければ生きていけない、というのが世の常識であるから、そういうエネルギーサイクルを持つ自分が特異なのは分かります。

そう考えると、あの方の好物は至極道理に適ったものだったなぁ。
思い返すのは、同じ日に存在を始め、自分より早く消え失せてしまった「血も/涙も/ない虎」のこと。彼は、私を食べるために生まれ、私を食べることにのみ執着した、私にもっとも近い存在だった。


387:キューカンバーの猫 2/5
10/03/17 09:18:07 KY+WLi9f0

アキラに初めて出会った、生まれたばかりの頃は、ただ漠然と「存在」しているだけで、何をすべきか分からなかった。今なら分かるが、食欲などの基本的欲求も感じず、思考能力は低く言葉も持たなかった。
だが、目の前に彼が現れてからは、「自分は狙われている」「逃げるべき」「飛べる」「姿を消せる」といった情報が一気に流れ込んできて、誕生からほんの数時間で私の知識量と能力はぐんと上がった。
同じように彼も、「猫を食べる」「飛べる」といった情報をぐんぐんと吸収したのだろう、追い付け追い越せのスピードで成長していった。危うく、アキラごと食べられてしまうところだった。

最後には、見えない何かによってその存在は消されてしまったけれど。

ボリ ボリ ボリ ゴクン
咀嚼し嚥下したきゅうりが、食道を通って胃に落ちたような感覚。
血も/涙も/ない虎さん。あなたがもし私を捕えていたのなら、私はきゅうりのように噛み砕かれて、あなたのお腹に納まっていたのでしょうね。
RD-1の力によって生み出された私たちの体がどうなっているか分からないけれど、飲み込まれてから消化されるまでの間、私はあなたの中で、何を考えるでしょうか。


388:キューカンバーの猫 4/5
10/03/17 09:20:30 KY+WLi9f0

正直なところ、私、あの時あなたに食べられていても良かったかな、なんて思ってるんです。だってあなたは私と同じですから。
得体の知れないモノから生まれた得体の知れない自分は、なんだかフワフワしていて、不安になる時があるんです。
同じ存在のあなたに取り込まれて内側から観察できたら、自分のことが少しは分かるんじゃないか、なんて思ったりしてるんですよ。
……そんなことを考えたって、あなたは居なくなってしまったのだから、埒の無い話ですけどね。

「失礼します!シュバ/インさん、聞いて下さいボンボン組の奴らが…」

おや、アキラがやってきました。考え込んでいたから、気配にも足音にも気付きませんでした。なんだか興奮している様子です。おやすみビームでも出してあげましょうか。

アキラやシュバインさんと過ごす毎日は、穏やかだけど刺激的で、日々自分の何かが成長していくのを感じます。それは、フワフワした自分が、安定した形に作り上げられていくような感覚です。
虎さん、いつか、自分の存在を不安定に感じなくなった時、すぐに消えてしまったあなたのことも理解できるようになるのでしょうか。そうだとしたら、私は、とても楽しみだ。


389:キューカンバーの猫 5/5
10/03/17 09:21:16 KY+WLi9f0
 ____________
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ものすごい今更感
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
自分で言っといてシリアスでも何でもない……
ナンバリングミスったしよくわからん話でごめんなさい

390:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 1/3
10/03/17 21:38:31 BgtTiecXO
架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠です。
感想、続きリクエストありがとうございました。
架空のスタッフについては模索中でして、実は全作品別人のつもりで書いておりました。
今回これを機に前作と同一のスタッフとして前作のその後を作りました。
師匠が出てこない会話だけのお話ですが、読んでいただければ幸いです。
一覧:13-489 48-11 55-156 56-265
延々規制中につき携帯より失礼します。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


松/村はヒラ/サワの背後に回ると、耳元で囁いた。
「あいつに何されたんですか?」
「…変なこと。」
「お腹見られてましたね。」
「うん。」
「脱いだらすごいのばれちゃいましたね。」
スルリと服の中に手が差し入れられ、腹部をなぞる。
ヒラ/サワがくすぐったさにのけぞると、その首筋を松/村の舌が這う。
指はそのまま上へと向かい、突起をかすめた。
「…っ」
「今日は抵抗しないんですね。」
「ん…っ」
「それに、いつもより感度がいい。」
松/村はまるでメンテナンスをするかのようにヒラ/サワの体を解いてゆく。
「俺にしか聞けないいい声…聞かせてください。」
ヒラ/サワは唇を噛みしめ、松
「おい」

391:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 2/3
10/03/17 21:39:53 BgtTiecXO
「はっ!」
しまった。世界に入ってた。
仕事の合間の待ち時間、ちょっと暇を持て余した俺はノートブックに落書きをしていた。
それを、背後から見られてしまったようだ。
松/村に。
「お前なぁ…」
「なんだよ。勝手に見るなよ。」
「俺出しといてよく言うわ」
「お前じゃねーよこの松/村は別の松/村だよ。……なぁ、あの後どうなったんだよ」
「…壊れたヒラ/サワさんをメンテナンスした。」
「まじで?!詳しく聞かせろよ。」
「変な想像すんじゃねーよ。」
「嘘だ、あんな状態のヒラ/サワさんを前に何もしない男なんか居るか」
「お前なぁ…」
「たまらなかったよな。あのダラーッとしたヒラ/サワさん。」
「…。」
「いつもはキビキビ動いてて隙が無いじゃん」
「…いや、隙は結構あるだろあの人。」
「いっつもなんか睨まれてるような気がするし下手な事言えないし」
「お前が変な目で見てるから警戒してるんだろ。」
「それがあんな風にフニャフニャになってトロンとした目で溜息つかれたら…ヤバイだろ」
「別に。全然。」
「俺だけじゃないと思うよ?」
「お前だけだよ。」
「もうなんかだって…ストレートに言うとさぁ…。喘いでる声が聞きたいんだよ。」
「…はぁ?!」
「で、「やめて」って言いながら感じてる顔が見たくてしょうがない。」
「おま…」
「嫌がるヒラ/サワさんをこう、こう…」

392:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 3/3
10/03/17 21:40:52 BgtTiecXO
「この、変態。」
「え?何モノマネ?似てないし!…お前は?そういうの無いの?」
「無い。………好きなの?」
「え?」
「恋してんの?」
「…いや?」
「違うの?」
「なんか、とにかく気持ちよがってる所が見たいってだけなんだけど。」
「ただの変態じゃん」
「でも酷い事がしたいわけじゃないんだよ。」
「酷いだろ充分」
「違う。気持ちよくさせたいっていうか…逆に喜ばれたい。」
「喜ぶわけねーだろ」
「そうなんだけど~」
「……。」
「……想像しちゃった?」
「いや、」
「しちゃっただろ?」
松/村は数秒黙った後、頭上を払うような振りをした。
やっぱり想像しちゃったんだ。
「見たくない?」
「ない。」
「嘘だ。自分の手で、こう、」
「なーい。」
そうなのかなぁ…。
ああ、今日も妄想が止まらない。
これじゃ、まるで、恋だ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

393:il 板+缶 1/2
10/03/17 22:47:21 OHrlzyvk0
il 板+缶 ほのぼのというかなんというか。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

久し振りに訪れたちょっといい居酒屋で、ほろ酔いのいい気分で、何故だか俺は眉間を撫でられている。

「もーそんな無駄に怖い顔だから余計に怖がられるんですよー
 ほら、特にここ、眉間、皺になっちゃってるじゃないですかー」
細い指が、眉間の皺を伸ばすようにぐいぐいと押し当てられる。
「だからー、そんなに怖い顔してると、ここもっと皺が深くなっちゃいますよー?」
皮肉気なうすら笑いを常に貼り付けているような男が、何が楽しいのか、子供のような喜色を目に浮かべて眉間を執拗に撫でてくる。
からかいというよりじゃれあいと言うべき行動に意表を突かれ、呆れてうんざりした挙げ句に忌々しいと振り切っていただろう。普段なら。
そうしなかったのは酔っていたからだ。多分。
じゃれ合いにつき合ってやろうと思ったのも酔っていたからだ。間違いなく。
「警部補殿はもうちょっと皺があった方が貫禄出るんじゃないですかね!」
お返しと言わんばかりに、俺は目の前のつるりとした顔を両手でぎゅうと挟みこんだ。
虚を突かれたように目が見開かれたのは一瞬で、またすぐ糸のように細くなる。
頬を挟まれたままタコのように口を尖らせて、なにするんですかー、とでも言っているのかくぐもった声を出す。目に笑いを浮かべたまま。
両手で挟んだ頬が熱い。顔に出ないだけで酔っているのかこの男は。
そもそも、若干の感謝と、過去に関わった事件の話を聞いてやるつもりもあってこの店を選んだのに、何がどうしていい年をした男二人が子供のようなふざけ合いをしているのか。
思い至って気が抜けて、白い頬から手を離す。

394:il 板+缶 2/2
10/03/17 22:49:29 OHrlzyvk0
自分より酔っ払った人間が居ると酔いが醒めるの法則で、途端にじゃれ返した自分が大いに恥ずかしくなってくる。何をやっているんだ一体。大して親しい間柄でもないくせに。
酔った男はますます笑みを深くして、なおもこちらの眉間に手を伸ばしてくる。
本気で怒るのも馬鹿馬鹿しく、適当に手を振って白い指先をかわすと今度は手を標的にじゃれてくる。子供から猫か。どっちも相手をするのは苦手だ。
今ここから酔っていいものかどうか、ぬるくなっていく酒を片手に逡巡する俺をよそに、両の目元と口元を三日月にした酔っ払いは、上機嫌の猫のようにあくびをした。

たっぷりと朝の日差しが差し込む玄関フロアの中を、二日酔いの欠伸をかみ殺しながら歩いていると、視線の先にすらりと背の高い黒スーツの男がかすめた。

「……あー、昨日は…」
「あ、昨日はごちそうさまでしたー」
ひょいと礼をして上げられた顔にはいつも通りの薄い笑みが張り付いて、昨夜の子供染みた気配は欠片も見当たらない。
「い・い・え。おそまつさまでした」
反射的に憎々しげな口調で返す。
大方昨夜のあれはこれやは酔って記憶にないのだろう。それならこちらも大いに助かる。
足取り軽く立ち去るその背中を、いつも通りの顰めた面で、恐らくきっと二日酔いの不機嫌さで見送って、

そして、何故だか俺は自分で自分の眉間を撫でた。

「僕、貫禄足りませんかね」
「はいー?」
「いえなんでもないです」
「何かありましたか?」
「いえほんと、なんでもないです」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

395:風と木の名無しさん
10/03/17 23:03:36 cXyJh/mf0
>>393
か、可愛ええー!!なんて可愛い板缶なんだ!
やっぱり板缶嬉しいなあ。どうもありがとう!!

396:風と木の名無しさん
10/03/17 23:22:06 4U1SkM1+O
>>393
覚えるのか缶w
子供で猫でじゃれてくる酔っ払い缶可愛いです!板缶はやっぱりいいなぁ。姐さんありがとう!

397:風と木の名無しさん
10/03/17 23:54:21 tJSjN0mX0
>>390
待ってました!!あなたの作品大好きです!変態スタッフがんばれww

398:風と木の名無しさん
10/03/18 00:19:20 QOZ9C5Ep0
>>393
手玉にとられる板イイヨー
やっぱり缶は猫なんだ・・・かわいすぎる
素敵な萌えをありがとう

399:歩くような速さで 1/6
10/03/18 17:39:29 /sBn5cNt0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  愛某、缶と彼
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  テラ捏造だよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ >>393サンキューサ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

400:歩くような速さで 2/6
10/03/18 17:40:03 /sBn5cNt0
 その場に駆けつけたときには既に、目的の半分は果たされていた。
 遠くに、先ほど聞いた悲鳴の主と思われる女性の姿、近くに、よろめき駆けてくる、フルフェイスのヘルメット。
 そして、そのちょうど中間に、倒れたバイクと、バッグを抱えて転がった、男の姿があった。
「ちょ、お兄さん、そいつ止めて! 引ったくり! 引ったくり!」
「言われなくても、見りゃ判るっての」
 男の叫びに呟きながら、両手をいっぱいまで広げ、フルフェイスの進路を塞ぐ。
 狭い路地である。相手は一瞬、こちらを避けるか迷ったようだが、すぐに方針を強行突破に切り換え、一気に速度を上げた。
 恐らく自分が、見た目に甘い、優男だからでもあったろう。しかし生憎、神部健は、そういう理由で軽視されるのが、何より嫌いな男であった。
「はいはい、ストーップ。さもないと、」
 続きを待たずに殴りかかってきた腕を躱して、引っ掴む。そのまま、突進の勢いを逆手にとって反転すると、神部はアスファルトを踏みしめて、一気に相手を背負い投げた。
 ずだん!と大きな音をさせ、フルフェイスが地面に落ちる。したたか背中を打った体が、呻きを漏らして、痙攣した。
「……こういうことになっちゃうよ、と」
 もう遅いけど。と付け足しながら、男の体を引っくり返し、背中を膝で押さえつける。更に両腕を捻り上げると、流石に男も観念したのか、ヘルメットの頭を落として、くたびれた声で毒づいた。
「だいじょぶ? 怪我ない? あ、落ち着いたら、中、調べてね。盗られたもんない?」
 転がっていた男にも、どうやら大事はないようだ。バッグを女性に渡しながら、気遣う言葉をかけている。
 間もなく、事態に気が付いた誰かが通報したのだろう、サイレンを鳴らして近づいてくるパトカーが傍に停まるまで、神部は引ったくりの両腕を固定しながら、待っていた。

401:歩くような速さで 3/6
10/03/18 17:40:32 /sBn5cNt0
 そして、加害者と被害者を、それぞれに合った対応で預かってくれる人間の手に、よろしく頼んで渡したところで。
「ありがとうございましたっ!」
 と、たいそう大きな仕草で頭を下げると、今回の功労者の一人は、まるで子供のように笑った。
「お兄さんが来てくれなかったら、危うく逃がしちゃうところだったよ。バイクを倒すまでは上手くやったんだけど、歳かねえ」
「たいしたもんですよ。走ってるバイクに横から突進したんでしょ?」
「やー、丈夫だけが取り柄だから」
 開けっぴろげな男らしい。
 見た目は、神部と同年輩か、もう少し上というところだろう。カーキのフライトジャケットを着て、髪は短く刈り込まれている。赤銅色と言ってもいいほどよく陽に焼けた肌をして、くるくると動く表情は、いかにも健康的だった。
「しっかし、お兄さん、強いねえ! いや、止めてーとは言ったものの、……あ、気を悪くしないでね? 正直、吹っ飛ばされちゃうんじゃ、って」
「慣れてるんです」
「と、言うと」
「本職なんで」
「……やくざ屋さん?」
 その発想はなかった。
「刑事さん」
「ああ!」
 一気に合点がいった様子で、男は、ぽんと手を打った。
「いや、その、ごめんね、言っちゃ何だけど、」
「ホストか何かと思ってましたか」
「よく言われますか」
「よく言われます」
 しかも本日は非番である。普段からさほど堅苦しい格好はしない神部だが、オフともなれば、オンよりまして、カジュアルな服装をする。
「やー、最近の警察は、イケメン揃えてんだなあ」
 腕を組み、うんうんと頷く男は、フォローしているつもりらしい。鼻で笑うべきところだが、不思議と、そういう気にならないのは、まるであくどさを感じさせない、男の笑顔のせいだろうか。

402:歩くような速さで 4/6
10/03/18 17:40:58 /sBn5cNt0
「ともかく、ありがと。イケメンの上に腕っ節も強いなんて、警察の、いや、日本の、もとい、世界の未来は明るいなー!」
 ばしりと平手で打たれた背中は、それ相応に痛んだが、やはり文句を言ってやるという気持ちは、不思議と起こらない。むしろ何となく浮かれた気分になって、神部は微かに笑った。それを見とめたらしい男が、自身も目尻に皺を作る。
「実はさ、俺も、」
「いた! 馨ちゃん!」
 口を開いた男の言葉は、しかし女性の、辺りに凛と響いた声に阻まれた。見れば、男と同年輩の、颯爽とした女性が一人、低めのヒールを鳴らしながら、早足でこちらに近づいてくる。
「よ」
「よ、じゃない! ちょっと目を離すと、すぐどっか行っちゃうんだから! 一時帰国って言ったって、とんぼ返りなんだから、そんなに余裕はないんだよ!」
「あ、これ、三輪子。俺の、コレね。コレ」
「誰がどれか! さっさと来たまえ! 挨拶に行かなきゃならないとこ、まだまだいっぱいあるんでしょ!」
「わーかってるって、行きます、行きます! じゃ、元気でね、お兄さん」
「お世話さまでした!」
「はあ。こちらこそ」
 嵐のような二人である。
 何が何だか解らないまま、見送る形になった神部に、恋人に腕を引かれて、というより、引きずられながら歩く男は、首だけ捻って振り向くと、大きな声で、こう言った。
「あと、よろしくね!」
 何の「あと」だか、やはり、さっぱり解らない。ただ、何となく右手を上げると、神部は軽く、左右に振った。男が、笑顔で応じるように、ぶんぶんと大きく腕を振る。
「前向け前ー!」
「いて、痛えって、お前! 解った、前向く! 前見ます!」
 騒ぐ男も、その恋人も、以降は、一度も振り向かなかった。二人の背中が角を曲がって、完全に視界から消えるまで、神部はしばらくその場に立って、綻んだ口許を掻いていた。

403:歩くような速さで 5/6
10/03/18 17:41:20 /sBn5cNt0
 そして、翌日。
「ご機嫌ですね、椙下さん」
「そう見えますか」
 職場に着くと、名札を返し、神部はボトルの蓋を開けた。
「実は昨日、友人と、久方ぶりに会いましてね」
「ご友人」
「意外そうですね。僕に友人は似合いませんか」
「いぃえぇ?」
「そう言う君の方こそ、ご機嫌のように見えますが」
「ご機嫌、というか、……いや、昨日、変な男に会いまして」
「ほう」
「何ですかね、こう、無理やり気分を、上に引っ張っちゃうような」
「いますね、そういう人」
「いますよねえ」
「僕は嫌いじゃないですが」
 穏やかな笑みを浮かべた口に、椙下がカップを押し当てる。
「僕も嫌いじゃないですよ」
 その様子を眺めながら、神部も、炭酸水を含んだ。

404:歩くような速さで 6/6
10/03/18 17:41:55 /sBn5cNt0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ (公式で)やられる前にやれ!と思った
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

405:風と木の名無しさん
10/03/18 18:00:05 v7RXXs8j0
>>399
目から汁が出た
有り難う有り難う愛してる

406:風と木の名無しさん
10/03/18 19:22:32 LAsp7EUPO
>>399
有り難う!
缶と彼のやり取りが、映像で再生されました
ぽかぽかする読後感に浸って、良い気持ちです
本当に有り難う

407:風と木の名無しさん
10/03/18 20:58:41 YijyazHvO
>>399
私にはあの二人が出会ったらウキョさん争奪戦くらいしか思い付かなかった。
なんという暖かいお話。
ほんとそうだ、瓶ってそういう男だ。缶ってそういう男だ。
ウキョさんも幸せそうですごく嬉しい。
なんだか読んでて幸せな気持ちでいっぱいになりました。
どうもありがとうございました。

408:板缶1/3
10/03/18 22:58:32 481GIjeN0
il 板缶です。il続いてしまってすみません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


 彼と庁内ですれ違うことは、よくあることだ。職場が同じなのだから当たり前だけれど。
 いつもは、軽く会釈をしながらすれ違うだけ。そうしようと決めたわけではないけれど、そういうものだろう。
 だから、少なからず驚いた。
 すれ違いざま、誰もいない廊下。俺の手をむんずと掴んだ彼の空いた手が、非常階段への扉を開けた。

「ちょっと、伊民さん?」
 広い背中をからかうように声をかけても、彼は何も言わなかった。かんかん、と非常階段を上がる高い靴音。諦めて、腕を引かれるままにした。どうせ暇なんだ、俺の仕事は。
 階段を上った先には、喫煙スペースにもなっている場所がある。昼を少しまわったところで、人影はなかった。
 晴れていたけれど、コートを着ていない体には三月の空気は少しだけ寒くて、襟をかきあわせた。
「どうしたんです?」
 俺の問いに、伊民さんは無言で煙草に火をつけた。深く吐き出された息とともに、紫煙が立ちのぼる。この気だるそうな顔が、俺はけっこう好きだったりする。
「昨日、どこ行ってた?」
 今朝、二日酔いの頭痛で目を覚ましたとき、携帯の電源を落としたままだったことを思い出した。
 たったひとりの部屋。昨晩の記憶ははっきりと残っていた。それこそ、痛みのためではなく頭を抱えたくなるほどに。
「あー、古い知人と飲んでました。すみません、携帯切ったままだったのすっかり忘れていて」
「そうか」
 ふう、と息をつく。ならいい、と肩をすくめた仕草に、唐突に気づく。


409:板缶2/3
10/03/18 23:00:09 481GIjeN0
「伊民さん、ひょっとして昨日、家に帰ってないでしょ?」
 ぴく、と肩がゆれる。その背中を包んでいる背広もネクタイも、昨日と同じものだ。
 近寄り、襟に触れる。伊民さんはなにもせずに、ただされるがままだ。
「シャツは違いますよね?」
「長丁場になることもあるからな。それくらいはロッカーにあるさ」
 小さいため息のあと、俺の腕を包んだ手があった。
 かさついているけれど、大きくて温かい手。ぐっと引きよせられた瞬間、体を包み込む体温を、ずっと近くに感じた。
 背中に回された手。躊躇うようにかすかに触れた唇に、噛み付くようにして応えてやる。
「……どうしたんです?」
 広い胸板に染み付いた、煙草の香り。その中に確かに感じる彼のにおいに、ふっと目を閉じて触れる。
 答えが返ってくるとは思っていなかった。それでも、よかった。
「心配だった」
 だから、頭の上でぼそっと彼が呟いた言葉を聞いたときは、本当に驚いた。
「え?」
「お前さんが、」
 背中を抱く腕に力がこもる。表情は見えないし、その声もいつもと変わらないけれど。
 確かに、感じる。いつもと違う、彼の思いを。
「帰る場所がない、なんて言うから」
 そうだ、彼は聞いていたのだ。あの取調べ室での騒ぎを。
「……うれしかったですよ。あの時飛び込んできてくれたのが、あなたで」
 思わず、口元に笑みが浮かんだのが自分でも分かる。そのことが分かったのか、背中に回されていた腕が離れ、肩を掴まれた。
 瞳を覗き込まれる。キスをするわけでもないのに、こんなに近くで見つめ合うことなんてあまりない。
 その瞳の色に、目を奪われる。


410:板缶3/3
10/03/18 23:03:36 481GIjeN0
「……本当に、そんな風に思ってたのかよ」
 真剣で、真摯で。心を刺されるような、まっすぐな瞳だ。
 引力に支配されたように無意識に、その頬に触れる。指先に伝わる体温に、目の奥がツンと痛んだ。
「いいえ。そんなこと、思ってませんよ」
 その唇に、今度は俺から、触れるだけのキスを。
「もしかして、探してくれたんですね?俺のこと」
 電話に出ない恋人を、心配する姿なんて想像したこともなかった。
 不器用なこの人のことだ、夜通しやきもきするだけでなく、街に探しにでるようなこともしたかもしれない。それこそ、家に帰るのも忘れるくらい。
「もう大丈夫なのか?」
 再び背中に回された手。ぶっきらぼうな言葉だけれど、その手から、隠そうともしていない思いが伝わってくる。
「ええ」
 煙草の香り。彼のにおい。体を包む温もり。
 すべてが愛しく、すべてが誇らしい。
 ようやく、実感した。
「……おかえり」
「ただいま、」
 やっと、帰ってきた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがちですが、書きたかったので書いてしまいました。
お目汚し失礼いたしました。

411:風と木の名無しさん
10/03/18 23:39:26 D59JE1/V0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )デラコネタ!ナマ!

1.誘導

「紅茶って10回言ってみ?」
「?紅茶紅茶紅茶こうty・・・・・・こうちゃ!」
「俺は?」
「こういち」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もしかして光ちゃんってゆうて欲しかったんか?」
「うん」


2.予想外

「つよしって10回言ってみ?」
「つよしちゅよ・・・あっ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「絶対噛むとおもっとったけど、いくらなんでも2回目に噛むとは思わんかったわ」
「噛んでない」
「いやほんまお前は予想外でおもろい」
「だから噛んでない!」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )キホンテキニショウガクセイダンシ!

412:風と木の名無しさん
10/03/18 23:46:40 vhyUSCWm0
>>411
デラカワスユwGj!
じゃれ合ってる二人が目に浮かぶよw

413:風と木の名無しさん
10/03/19 00:52:42 bmzenNrl0
>>408
伊民テラかっこよす!
あのシーンの伊民はマジ神だった

>>411
かわええええええ
めっちゃ想像つくw本番前の楽屋あたりかなー

414:それを魔法と呼ぶのなら 7/0
10/03/19 00:58:08 /X7sEInF0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマ盤越え葡萄唄×恐竜唄「スメル」の続き
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ぬるいエロ・露骨な不倫及び浮気表現注意
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

415:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 1/7
10/03/19 00:59:21 /X7sEInF0
はじめに触れたのは、指先だった。
ゆっくりと包む。彼の右手がおれの汗で濡れた。
手はそのままに、おれはソファへのぼる。
無理矢理にのぼったので、馬乗りの状態になってしまった。もう後戻りはできない。
自分の足が震えていた。それすら疎ましくてならなかった。

正面から彼の顔を見ながら、放り出された左手をおれの右手で掴む。
この手から彼の音が産まれてくるのだと思うと、涙が出そうなぐらいに恋しかった。
そのまま、彼の首元に顔を埋める。あのにおいはしなかった。その代わりに、人間の肌のにおいがした。
彼のにおいを嗅いでいるようで、優越感しか感じなかった。

「恋人同士みたいやな」

恋人にするように言った。耳元で、彼にしか聞こえないぐらい小さな声で。
はにかむ声が聞こえて、おれも笑った。

「それ、言われたことあるから」

「そうだったっけ」ととぼけると、彼の指が動く。
掴むように握っていたお互いの手が、所謂"恋人繋ぎ"に変わる。
恥ずかしかった。そう考える余裕が、そのときにはあった。
目を伏せる彼を見て、彼も恥ずかしいのかな、なんて思う。
やっぱり、おれの目には麗しく見えた。

それから、彼の首元に唇を寄せた。触るように口付けた。
感触を楽しむように。何度も、同じ箇所に触れた。

顔をあげて、今度は唇に近付いた。触れた瞬間に、糸が切れたように、貪り合った。
体温を感じて、心地に触れて、唾液を飲んだ。閉じても見えるような厭らしさに脳が沸騰しそう。
息の仕方も忘れるぐらいに、互いの舌を食し合った。

416:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 2/7
10/03/19 01:00:28 /X7sEInF0
離れると、目の前の現実に眩暈がした。
下にいる彼の口から、液体が零れていた。
掴んでいた彼の左手がおれから離れて、その手が液体を拭ってから、やっと、目が合った。
そこで感じる、罪悪と背徳。前者の方が強かった。
彼も感じているのかと思うと、ゾクゾクした。
まだ握ったままだった彼の右手を開放して、彼の頭に手を回す。栗色の髪が、指に絡みつく。
なんども触れたことがある。今後も触れるであろう。
けれども、その感触を忘れないように、何度も手を差し込んだ。
彼がはにかんだもんだから、おれもにやにやしてしまう。伝染。

しばらく見つめあった後、もう一度口付けると、今度は丁寧に感じるように触れ合った。
歯型をなぞり、舌の裏から、上顎まで、拭うように追いかけた。
彼の声が溢れる。それからおれの頭に回される手。体温が上がった。
おれのやったように、彼も舌を動かす。上顎を舐められたときは声が出そうなぐらい震えた。
最後に唇を舐めてから離れる。たかがこれだけの行為なのに、体の熱は十分すぎるほど発育していた。

「やらしいね」
「それはおまえや。あと、ちゃんと髭剃れ」

気が抜けるような笑い声。これだけでも充分に気が狂いそうだった。

首筋を見て、噛み付きたくなる衝動を感じた。
とりあえず、そこに口付けるだけ口付ける。ふと問う。

「なあ、痕つけてもええ?」
「うん。お好きなように」
「だって、お前、彼女おるんやろ」

彼の肌から体温が引くような気配がした。
そして、確かに沈黙は流れた。
傷ついているわけではなかった。それはお互いに。だけど、訊かなければよかったと思った。

417:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 3/7
10/03/19 01:01:41 /X7sEInF0
「なんで知ってるの?囃子から聞いた?」
「見てれば分かるわ」

だって、おれと同じ顔をしていたから。
「お互い様やろ」と言ってから、首筋に噛み付く。
苦痛に耐える声がした。もしかしたら違う意味だったかもしれない。
でも、聞こえなかった振りをした。目の奥が痛んだ。眠い。
首筋から離れると、決して白くも無い肌に浮かぶ朱。
これさえも綺麗だと思えてしまうのは、罪なのか。罰なのか。

「おれにも付けてーな」

そう言ってから、もう一度そこを舐めた。唾液が糸を引く。まだ綺麗だ。

しばらく二人で黙り込み、見詰め合う。そして、やっとあのCDが掛けっぱなしだったことに気付く。
なんだか自分自身に視姦されているみたいで不愉快だった。
ただ、その音を止める程の余裕も持ち合わせていなかった。
彼のスラックスに手を掛ける。それは、彼の欲で熱く膨らんでいた。
静止の声が聞こえるだろうと思ったけれど、聞こえたのはおれの音だけだった。
ちらと彼の顔を伺うと、とろりとした目と合う。
急に迫る罪悪感。それは、前に感じた「自分への」とは違う、左手の疎ましさとは別の罪悪だった。
それが、余計に、おれを加速させた。

膝あたりまで彼のスラックスを下ろすと、その中心部へ手を這わす。
形をなぞるように布の上から触れると、溜め息のような喘ぎが聞こえる。
予想以上に自分が興奮していることに気が付いた。
耐え切れなくなって、ボクサーパンツとスラックスを一気に脱がす。
彼の体が震える。寒さからか、快楽からか。
直に触れると、その熱さがさらに興奮を呼ぶ。
扱くことで増す、彼の喘ぎ。その声が息が耳にかかると、今度はおれの方が熱くなって。
彼が感じるように、先端に親指を這わす。

418:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 4/7
10/03/19 01:02:26 /X7sEInF0
「んあぁッ、ちょっ、やばっ、…」

はっきりとしたその声に、つい頬が緩む。更に手の動きを加速させると、また大きくなる声。
裏筋を強く擦ると、言葉にならないような声が聞こえた。

「あっ、うぁ、イく…から…!」

今まで抵抗を見せなかった彼が、扱いていた右腕を掴む。
おれは動きを止めて、ゆっくりと彼を見る。
目が合うと、彼がゆっくり首を横に振った。
はじめての抵抗。そこで理解。
彼は、最後まで為すつもりだ。

右手を離すと、粘液が手の平に。それを見詰めて、また彼の顔に視線を落とす。
顔が赤かった。その瞳が、おれを脅迫するようでも、懇願するようでもあった。

「ええの?」

今のおれは、ひどく情けない顔をしているだろう。
色々な言葉が浮かんだ。すべて、この行為を正当化するための言い訳にしかならないものだった。
アナルセックスは経験がある。男との経験も、ないことはなかった。
後戻りできないことは、重々承知している。
それなのに、今更、おれは、なにを恐れているのか。それさえ見失っていた。
このまま一緒に落ちれば、それだけでいいのに。

419:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 5/7
10/03/19 01:03:13 /X7sEInF0
「もう、それしかしょうがないんじゃない?」

それでも、彼はひどく明るい。

後孔に指を這わせると、息を飲む声が聞こえる。
彼のものから出た粘液を指に絡ませ、そのままゆっくり挿し込む。

「あ、あ、うあぁ、」

耳には彼の声。彼の眉間が苦しみを物語る。そこを左手で撫でる。
耐えていたのであろう息が長く吐かれる。おれは閉じられた瞼ばかり見詰めていた。
二本目の指が入りきる頃には、喉仏に汗が浮かんでいた。
決して気持ちよさそうな表情には見えない彼。
なんでそうしたのか分からないが、彼の耳たぶを噛んだ。
身を捩る彼、おれはそのまま耳に舌を入れる。

「全然、気持ちよくなさそうやん」
「だって、苦しっ、」

また、深く息を吐く彼。耳に当たっておれの方が声が出そう。
どうにかして、彼の性感帯に辿り着きたかった。
ある種の使命のような焦りと、彼の渋い顔からの罪悪で押し潰されそうだった。
もしかしたら、ただぶち込みたいだけだったのかもしれない。
それでも、ふりだしに戻ろうなんて非道な事は吐けなかったし、今でさえ、考えることも許されていない。

420:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 6/7
10/03/19 01:03:39 /X7sEInF0
「あっ、あっ、そこっ、んっ」

彼がやっと甘い声を出す。思わず指を引いたが、またその場所を目指して動かした。

「はぁ、あっ、やめっ」
「気持ちよおなってきた?」

髪を振り乱しながら頷く彼が、妖艶で仕方がない。
さっきまで力を失くしていた彼自身も、また硬くなっていた。
おれは指を抜いてそのまま、自分のベルトに手を掛ける。
自分で脱ぐのが恥ずかしいぐらいに、おれのそこは熱くなっていた。
ソファの上、無理矢理にジーンズとトランクスを脱ぎ、今度は彼の脚の間に収まる。
彼の膝の裏に手を入れて、脚を持ち上げる。
そして、彼の孔にそのまま押し込む。

「あ、んあ…!」
「はあ、ん、まだきつかった。すまん」

そこは息が止まるぐらいに狭くて、かつ深かった。
彼のものを扱くと、だんだんと孔が広がる。

「ひぁ、そ、れ、ムリだっ、んああ!」

右手で扱きながら奥深くまで入れると、彼が大きな声をあげる。それも、悲鳴のような。
何度か腰を動かしてみると、それは次第に快を帯びてくる。
性感帯に当たったのか。それとも、慣れただけなのか。

421:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 7/7
10/03/19 01:05:16 /X7sEInF0
「あん、はぁ、んっ、ちょっ、と、もうイ、くっ・・!」

彼が、おれの首筋に噛み付く。痛くて痛くて、それでも止められなかった。

「反則やろ…」

そして、彼自身から液体。べとべとと、気持ちよくない。
おれは、彼から自分のものを抜き、彼の精液が付いたままの手で扱いた。
激昂。吐き出す。気持ちがいい。
彼のTシャツにかけた。おれが彼に興奮し、セックスをした証拠。

「なんか、俺だけ気持ちいい気がする」
「せやな。おれそんな気持ちようなかったわ」

汚い右手で彼の左手を握る。冷たいのか、温かいのか分からない。知らなくてもいい。

もう、落ちるところまで落ちた。あとは、後悔することだけしか残されていない。
反省なんてできる身分ではなかった。
それでも、世の中に転がる排他的な行為よりか幾分マシだ。
目の前で深呼吸を繰り返す彼に、ただ恋をしていただけなんだ。

こんなに苦しいのに、いくらでも繰り返せる。死ぬまで。今だけならそう言える。
それを

422:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら おわり
10/03/19 01:05:59 /X7sEInF0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |               色々失敗した…
 | |                | |           ∧_∧ お粗末様です…
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |

423:風と木の名無しさん
10/03/19 01:08:37 7Trdwab10
>>408
姐さんの板民に惚れたよ
裏#9?素敵なもの読ませてもらって感謝です!

424:風と木の名無しさん
10/03/19 01:23:49 ZMcVDi1BO
>>408
あの発言聞いた板の板缶キター
私も色々と妄想してましたが姐さんの板缶素敵すぎます
板の不器用な心配、「おかえり」、缶の帰る場所がここにもあったんですね

425:風と木の名無しさん
10/03/19 08:25:49 5al9tbDwO
>>408
素敵な板缶!姐さんありがとう!!
やっぱり板缶いいなあ。

426:風と木の名無しさん
10/03/19 22:17:37 sOiPf1o2O
>>408
あの発言に対して、いたみんが怒ってくれて良かった
缶を抱きしめてくれて良かった!姐さんありがとう!

>>414
神曲で続きキター!!!
粘着質なのにどこか爽やかなのが、すごく「らしい」のでドキドキします。ありがとう姐さん!

427:風と木の名無しさん
10/03/20 22:44:44 A1G9soEp0
>>390
新作待ってました!
変態スタッフに滅茶苦茶同意しながら読んでますw
フ/ル/ヘ以上のものを聞きたいですねw
動揺してる松/村も妄想の中の師匠も可愛いです。
ありがとうございました!

428:風と木の名無しさん
10/03/21 07:59:21 SxkPZhrk0
>>399
駄目だ。声上げて目から汗が出て止まらない。
>>405じゃあないけど、本当に有難う。
姐さん愛してる。

429:ピンポン 呪縛 1/7
10/03/21 21:39:09 lSgeDiwU0
ピンポン  原作以前を捏造
風間が風間たる所以
この後ドラゴン×チャイナにもつれ込む予定
需要がなくても自家発電!

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

海王学園高校一年生の風間竜一は、試合前に男子便所の個室に篭るのが常だ。
二・三年生からは生意気だと言う声が上がっていたが、面と向かって風間に言う勇気のある者はいなかった。
夏の男子卓球インターハイ予選の、開会式直後。
風間は薄暗い男子便所の一番奥の個室にいた。
手の中でラケットを握りしめる。
肩が落ち、首が項垂れる。
胃が縮む。胸の中の重い塊。足の力は抜け、走れないかもしれないと思う。
なにもかも恐い。扉の向こうから漏れ聞こえる喚声に怯える。
力のない嘆息が唇から洩れる。
少しずつ高まる緊張が限界に達する。
ラケットを握る手を見る------血豆が幾度も破れて握りダコの出来た指。緊張で力がうまく入らない。
風間は目を閉じた。
後頭部を壁に軽くぶつけ、意識して息を吐く。

試合はもうすぐだ。

430:ピンポン 呪縛 2/7
10/03/21 21:40:42 lSgeDiwU0
5歳の風間竜一が、初めて卓球に触れたのは、家庭教師のバッグの外ポケットにあったラケットとボールをいたずらした時だった。
バッグから落ちた小さな白い球が、カツカツと音を立てて軽く弾む。
自由な軌道を描いて飛び跳ねる白い球に魅せられた。
「竜一君、やってみますか?」
家庭教師が、趣味でやっているのだけど…と言った。
「教えてあげますよ。楽しいですから」
無論卓球台などはなかったので、裏の物置から使っていないテーブルを庭師に出してもらい、芝の上で打った。
夢中になった。
なんて楽しいのだろう!
「素質がありますね」
見様見まねで球を打つ竜一を見て、普段笑わない家庭教師の目が、銀縁の眼鏡の奥でにこにこしている。
締めていたネクタイはとうに外され、白いシャツの袖もまくり上げられている。
「もっとおしえてちょうだい」
「いいですとも。お勉強がすんだら、明日も教えて上げますよ」
「ありがとう」
竜一は息を弾ませながら、丁寧に礼を述べた。
次の日、撞球室に全て新品の台とラケット、球が用意されていた。午前中に業者が運んできたものだ。
家庭教師は面食らったようだが口には出さなかった。
「おじいさまが、こちらをつかうようにって」
「そうですか。ラケットが各種ある。球もいいものだ。すごいですね」
「そう?」
昨日は祖父はいなかった。
夜も帰ってきてはいない様子だったのに、どうして僕が卓球したことをお祖父様はおわかりになったんだろうと思う。
いつものことながら、竜一はそれが不思議だ。

431:ピンポン 呪縛 3/7
10/03/21 21:42:08 lSgeDiwU0
家庭教師はまず、球を持つところから教えてくれた。
「初めが肝心ですから。形が伴わないものに上達も楽しみもありません」
ラケットの持ち方とフォームを簡単に教えてもらうと、竜一の飲み込みは早かった。
軽い球は信じられないスピードで飛ぶ。
打ちあううちに、スマッシュがヒットした。
もちろん家庭教師は竜一に手心を加えていただろう。しかし竜一は興奮した。
白い球を追って、無心に走る。
おもしろい。楽しい。なんて楽しいんだろう。
勝ちたい。
上手くなりたい。
竜一の心に、貪欲な勝利への欲求が生まれた。

幼稚園から帰ってきて、家庭教師と「お勉強」をし、撞球室で卓球を教わるようになってから、一週間が過ぎた。
「竜一君はきっといい選手になりますね」
一汗かいて、ふたりでおやつに出されたジュースで咽喉の渇きを癒していると、家庭教師はうれしそうに呟いた。
「上手だし、勘所もいいですね」
「すごく、たのしいです」
「うん、楽しいという気持ちは大事ですね。竜一君はとても楽しそうに走っている。一緒に打っていて、私も楽しいですよ」
「もっとじょうずになれますか?」
「上手になれるし、強くなりますよ」
「まけたくないです」
「負けるのも大事なんですよ。負けた経験がなければ、勝てません」
「でも、まけるのはいやだなあ」
「その気持ちは大事です。負けるのがいやだと思えば、たくさん練習するでしょう? 練習して、強くなって、負けたり、勝ったり、そこが勝負のおもしろさですよ」
「…よく、わからないです」
「竜一君にはまだ難しかったかな」
「うん。でも、せんせいがおしえてくれるでしょう?」
「約束しますよ。もちろん、お勉強してからね」
二人で顔を見合わせてにっこり笑うと、「ではまた明日」と、家庭教師が言った。

432:ピンポン 呪縛 4/7
10/03/21 21:43:10 lSgeDiwU0
銀縁眼鏡の家庭教師が突然来なくなり、かわりの家庭教師が来、撞球室から卓球台が新しく作られた床張りの運動室に移され、ジャージを着た卓球の「コーチ」が竜一に付いたのは、一カ月後のことである。
その日の朝、祖父と両親と共に朝食をとった竜一に、祖父が言った。
「竜一。何かをやるのならば頂点を目指せ」
その日から、卓球は楽しい遊びではなく、竜一が背負う、一つの枷になった。
まえのかていきょうしのせんせいはどうしたのですか、と聞くことも許されなかった。

竜一の家は、江戸時代から代々続く家業を生業としている。
明治の時代になっていちじるしく身代が傾いた。
息も絶え絶えの家業を、日本有数のと言う冠が付くまでに再興させたのは、竜一の祖父である。
代々続く自分の血統への誇りと、一代にして家を興し直したその矜持が、祖父を形作っている。
風間家の芯そのものであったし、風間の家そのものであったと言ってもいい。
祖父の期待は父以上に竜一に向けられた。
そしてまた、竜一は祖父に似ていた。竜一は祖父の期待に応えるべくして応えた。幼い竜一にはそれは当然のことであったし、応えられることがまた嬉しくもあった。
竜一は、コーチについてめきめきと腕をあげた。
祖父の、竜一に対する期待はとどまるところを知らなかった。
小学校に上がる頃には、小学生に交じってほとんどの大会で優勝していた。
ある大会で、体調が悪くあと一歩というところで優勝を逃した。
準優勝のトロフィーを持って祖父へ報告に行った竜一に、祖父は一瞥をくれると「勝たねば意味はない」と言った。
「わかるか竜一。負けるということは、すなわち今まで積み重ねてきたものを一瞬で全て失うということだ。やり直しは効かない。勝負というものは恐ろしいものだ。勝て。この祖父のために」
「…はい」
その時初めて、竜一は泣いた。
そうして竜一はただ勝つために、ラケットを振り続けた。

433:ピンポン 呪縛 5/7
10/03/21 21:44:06 lSgeDiwU0
祖父が亡くなったのは、竜一が小学校五年の時だった。
その頃の記憶は曖昧で、余りはっきりしない。
病に倒れ、何カ月か寝込んだ祖父は、少しずつ命が削られていくように痩せていった。
病院の特別室は、特別室であるにもかかわらず、よどんだ臭いがした。
それは病そのものが吐き出す臭いであったかもしれない。
祖父は時々、昔と記憶が混同するようになっていた。意識もおぼつかないことがある。
竜一を誰か知らない名前で呼んだり、天井を凝視しながら、竜一には見せたことのない笑顔で誰かに話しかけたりする。
竜一が一人で病院に見舞いに行くことなどありえないから、父か母か、誰か大人と行ったのであろうが、その日はなぜか、祖父の病室に竜一一人だった。
付添の看護婦が必ずいるはずだったが、点滴の交換にでも出た時だったろう。
その日は肌寒い日で、病室には暖房が入っていたが、祖父は暑い暑いと上掛けをはねのけた。
その日に限って、祖父はひどく暑がった。

434:ピンポン 呪縛 6/7
10/03/21 21:45:06 lSgeDiwU0
「お祖父様、僕は昨日県大会で優勝しました」
祖父はずいぶんと痩せ衰えて、しかし眼光だけは鋭かった。
起きようとする様子に、竜一は背を支えて上半身を起こした。
自分をちゃんと支えられない祖父の頭がゆらゆら揺れる。すぐに後に倒れ、慌てた竜一は手を伸ばした。
祖父が、その手を取り、竜一を凝視した。
見つめられて、竜一はぞっとした。
祖父の目は竜一の顔を見ていたが、視線は、竜一を通り越したその後を見ていた。
竜一は自分の後に誰かいるのかと振り向いたが、誰もいなかった。
ふと祖父の目に力が戻った。
祖父が口を開く。
「竜一か」
「はい」
「いいか。敗北は腕を切り落とすに等しい。勝利のみを強く望め。お前は勝つ。お前はこれから父のために、日本のために戦え。よいか。わかったか」
「はい」
「よし」
祖父は力尽きたように身体を横たえた。そして目を閉じ、肩で息をしながら寝息を立てはじめた。
竜一は固まったように動けなかった。

その日の夜遅く、祖父は息を引き取った。
たかだか11歳の竜一の人生に、重すぎる枷が加えられた。祖父の最期の言葉が、風間竜一の、呪縛となった。

435:ピンポン 呪縛 7/7
10/03/21 21:46:27 lSgeDiwU0
竜一に卓球を教えたあの銀縁眼鏡の家庭教師に似た少年を初めて見たのは、中学最後の県大会だった。
似ているのは顔だけで、フォームもスタイルも違っていた。
しかし、風間はその少年から目が離せなかった。
風間竜一の、月本誠に対する執着の始まりであった。

風間は男子便所の個室の奥で、閉じていた目を開いた。
怒りに似た闘志が沸き上がる。
風間は勝つだろう。負けることなど許されない。
そうやって戦ってきた。これからもそうやって戦うだろう。
それが風間の卓球であり、生き方であった。

風間はドアを開け、戦いの場へと足を踏み出した。

ざんぎり頭のヒーローが、風間竜一の呪縛を解くまで-----あと2年。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

風間ってあれで18歳なんだぜ!

436:風と木の名無しさん
10/03/21 21:49:55 +N2gL+md0
>>429
元ネタ知らないんだけど面白かった!
引き込まれたよ。
今から原作求めて旅に出る。

437:風と木の名無しさん
10/03/22 12:04:53 DuYUF3+F0
>>429
雑誌連載時から燃え&萌えだった自分が来ましたよ
ドラ→笑顔いいなあ…
このあとドラゴン×チャイナなんて美味しすぐる
PINGPONGはどいつもこいつもいい男ばかりで目移りするくらいだから
>>436の旅が良いものになるよう祈ってる

438:風と木の名無しさん
10/03/22 12:53:47 D3gmd2zhO
>>429
棚でドラが見れるとは!
続き楽しみにしてます

439:Ich liebe Berlin!(1/8)
10/03/22 15:49:02 Kq0wDqo/0
半ナマ
ミュージ力ル「デ.ィ.ー.ト.リ.ッ.ヒ」よりデザイナーと映画監督(とスタッフ)
人物捏造ありマス


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「Nein! 使えない!! お前ら何なんだ!!」
 1929年ベルリン郊外のとある映画スタジオ。
 場末のバーをイメージして作られたセットをちらりと振り返り、衣裳デザイナーのト.ラ.ヴ.ィ.ス・バ.ン.ト.ンは溜め息をついた。
「またですよ、あの石頭」
 地元の若いスタッフが訳知り顔で話しかけてくる。
 スタッフの顔合わせでそれぞれ自己紹介はしたはずだが、ト.ラ.ヴ.ィ.スには名前が思い出せない。
 それを表情には出さないようにしながら曖昧に頷いた。
「ホント、完璧主義者ね、ス.タ.ン.バ.ー.グ監督」
「まったくですよ。これで6人目です。なにが気に食わないのか」
 男が肩をすくめる。
 主人公は早々に決まったというのに、肝心のヒロインの女優がいまだに決まらない。
 自分の思い通りの演技をしない女優たちに怒鳴り散らす監督の怒声は、衣裳を準備するト.ラ.ヴ.ィ.スを毎回びくりとさせる。
 もともとオーストリア出身のス.タ.ン.バ.ー.グは、ト.ラ.ヴ.ィ.スと同じくドイツ側の要求でアメリカのパ.ラ.マ.ウ.ン.ト映画から派遣されてきている。
 ドイツ女優をヒロインにした新作映画が期待されているが、肝心の女優選びに難航しているらしい。
 高校教師を誘惑し、堕落させ、最後には悲哀の底に落とす、妖艶で退廃的な酒場の歌姫。
 監督のイメージに合う女優がなかなか見つからない。
 早く女優が決まらないと、ト.ラ.ヴ.ィ.スの仕事も進まない上、あの怒鳴り声を四六時中聞かなければならない。


440:Ich liebe Berlin!(2/8)
10/03/22 15:50:10 Kq0wDqo/0


「もういい! 今日は終わりだ!」
「監督、まってください、彼女はドイツ一人気なんですよ!? これ以上誰を連れて来いって言うんです!」
「私の『嘆きの天使』は完璧な女優にしかできん! あいつらは何人やっても同じだ! おいト.ラ.ヴ.ィ.ス!」
「はい監督!」
 急にス.タ.ン.バ.ー.グの怒りの矛先がト.ラ.ヴ.ィ.スに向かった。
 びく、として直立したト.ラ.ヴ.ィ.スが監督を振り返る。
 ト.ラ.ヴ.ィ.スは、この同い年のユダヤ人監督がどうも苦手だった。
 作る映画は素晴らしいと思う。
 社会派の作品を世に出すためにチャップリンにアタックした発想力と粘り強さもすごいと思う。
 が、一緒に仕事をするにはいささか気詰まりなことの多い人物なのも事実だ。
 なにより声が大きいのがいただけない。
 あんな声で怒られたら、恫喝されているようで、それだけですくみあがってしまう。
 それでもト.ラ.ヴ.ィ.スはぎこちない愛想笑いを顔に貼り付けて、ス.タ.ン.バ.ー.グを振り返った。
「な…なんでしょう?」
「あのデザイン画はなんだ。まったく駄目だ、やり直せ!」
「はい監督っ、すぐやり直します…!」
 言うだけ言うとさっさと行ってしまう。
 背を見やって、ト.ラ.ヴ.ィ.スは息をついた。
 この数日怒られてばかりいる。
 一応天下のパ.ラ.マ.ウ.ン.ト映画のチーフデザイナーであるト.ラ.ヴ.ィ.スは、いわばデザイナーのトップにいるといっても過言ではないのだが、ス.タ.ン.バ.ー.グにはそんな地位など関係ないらしい。
 少しくらいは尊重して欲しいとは思うが、それを口にする勇気はト.ラ.ヴ.ィ.スにはない。
 女優選びが難航していてイライラする気持ちもわかるが、あたり散らさないで欲しい。
 だいたい、誰が着るかが決まらなければ、衣裳だってイメージが固まるわけではないのだから、そうせっつかないで欲しい。


441:Ich liebe Berlin!(3/8)
10/03/22 15:50:57 Kq0wDqo/0

「あー怖かった。ダメ出し、これで3回目よ…」
「何様のつもりだ、ス.タ.ン.バ.ー.グめ」
 忌々しげにスタッフが呟く。
「ホント。完璧主義者で…でも理想主義者って素敵」
 同意しかけたところでス.タ.ン.バ.ー.グが振り返り、ト.ラ.ヴ.ィ.スは慌てて言葉を繕った。
 胸に手を当て、笑顔を作るト.ラ.ヴ.ィ.スを、監督はいぶかしげに見遣る。
 ヒゲも生やした立派な成人男性のくせに、女性的な振る舞いが妙に似合うト.ラ.ヴ.ィ.スを、胡散臭く見る者も多い。
 自分がそういう人間であることをト.ラ.ヴ.ィ.スは充分すぎるほど理解しているが、慣れたとはいえ少しつらい。
「あんなユダヤ野郎の言うことなんか気にすることないですよ。それより今夜飲みません? いい店あるんですよ」
 スタッフが慰めるように肩を叩く。
 自分よりいささか若い彼を見遣り、ト.ラ.ヴ.ィ.スはうなずいた。
 こういうなにをやってもうまくいかないときは、酒でも飲んで忘れるのが一番だ。
 それに、ワイマール憲法下の、自由で開放的なベルリンの街は大好きだ。
 自分のような者さえ丸ごと受け入れられている感じがする。
 先の大戦を終えてヨーロッパじゅうから芸術家たちが集まり、そこここで様々な議論を繰り広げている。
 本来の仕事場のハリウッドも開放的だが、あそことは違う心地よさがある。


442:Ich liebe Berlin!(4/8)
10/03/22 15:52:27 Kq0wDqo/0
 連れて行かれたのは、ベルリン市内のマールスドルフと呼ばれる地区だった。
 一見するとごく当たり前の民家だが、生垣に隠れるように地下への階段があり、そこにMerak Ritze(ムラック・リッツェ)の看板が出ていた。
「こんなところバーがあるの?」
「バーというよりも、アメリカ人のあなたからするとキャバレーでしょうけどね」
「あら、あたしキャバレーも好きよ」
 急な階段を下りていくと、重厚な扉の奥から、蓄音器のワルツが聞こえてきた。
「いらっしゃい、まぁゲオルク、ずいぶんと久しぶりね」
 扉の向こうのカウンターの中で、女性の服を着た男性がにこやかに迎える。
 ああそういえば連れの名前はゲオルクだった、と思い出しながら、ト.ラ.ヴ.ィ.スは曖昧に微笑んだ。
「あら新しい彼氏?」
「違うって、ムッター。今の仕事仲間。衣装デザイナーのト.ラ.ヴ.ィ.ス」
「はじめまして、ト.ラ.ヴ.ィ.スです」
「ムラック・リッツェへようこそ。アメリカ人?」
 ト.ラ.ヴ.ィ.スのドイツ語にアメリカ訛りを聞きとったのか、彼女(彼?)はゲオルクに顔を向けた。
「アメリカで有名なデザインーなんだ」
「まぁ素敵」
 微笑む彼女(?)にぎこちなく笑んで見せてから、ト.ラ.ヴ.ィ.スは勧められるままにカウンターに腰かけた。
 いつもの癖で膝を揃えて座るト.ラ.ヴ.ィ.スをエスコートしてから、ゲオルクも隣に座った。
 カウンターの奥には蝋管式の古風な蓄音器が、古いワルツを奏でている。
 ゆったりした音楽に合わせて、店内ではいく組かのカップルが踊っている。
 が、よく見れば男女のペアは少なく、ほとんどが男同士、もしくは女同士だった。
「ふぅん」
 差し出されたシェリー酒のグラスの縁を舐めながら、ト.ラ.ヴ.ィ.スは感心したように息を吐いた。
「あなた、こういうところは初めて?」
 ムッター(ママ)と呼ばれた彼女がカウンターの向こうから語りかける。
 一見すればあきらかに男性なのだが、身のこなしは洗練された女性のもので、ト.ラ.ヴ.ィ.スは強い親近感を抱いた。


443:Ich liebe Berlin!(5/8)
10/03/22 15:53:06 Kq0wDqo/0
 ト.ラ.ヴ.ィ.スも、外見だけならごく普通の成人男性だから異性装者ではないが、言動は女性のそれだ。
 もっとも本人は、男女にこだわっているわけではなく、自然な自分であろうとすればそういうふうになってしまうだけだと思っている。
「こんな店、ニューヨークでも見たことないわ」
「自由の国なのに?」
「同性愛者は自由を享受しちゃいけないらしいわよ、あの国じゃ」
 皮肉めいた笑みを浮かべて肩をすくめる。性に関しては、パリやベルリンのほうが開放的だ。
「私はシャーロッテ。あなた運がいいわ。ベルリンがこんなにおおらかなのは歴史上類がないもの。…ちょっとゲオルク、この店に入るなら、その鉤十字のバッジ、はずしなさいよ」
「なんだよ、ムッター」
 ビールを受け取ったゲオルクが顔をしかめる。
 その彼の胸元には、地の上の白円の中に黒のハーケンクロイツが描かれたバッジがある。
「この店はホモは差別しないでナ.チは差別すんの?」
「あんた知らないの? ナ.チはユダヤ人だけじゃなく、ホモも毛嫌いしてんのよ」
 ぴん、とシャーロッテが指先でゲオルクの額を弾く。痛、と眉を寄せたが、彼女に睨まれてゲオルクは渋々とバッジを外した。ト.ラ.ヴ.ィ.スはまたふぅん、と呟いた。
 寛容なベルリンに見えるが、深いところではいろいろとあるのかもしれない。
 と、さきほどまで踊っていたペアの一組が、奥のドアに消えていくのが見えた。
「…気になります?」
 ト.ラ.ヴ.ィ.スが見ているものに気づいて、ゲオルクが耳元に口を寄せて囁いた。
「あっちに、特別ルームがあるんです」
「特別ルーム?」
「いくつかのソファやベッドが置いてあって…わかるでしょう?」
 するり、とゲオルクの手がト.ラ.ヴ.ィ.スの肩を撫でた。
 性的な意味合いを多分に含む指先に、ト.ラ.ヴ.ィ.スは背筋を震わせる。
 そういえば、ベルリンに来てからはとんと御無沙汰だった。
 いやもっと言えば、2年前にチーフデザイナーに就任した時から、忙しすぎて恋をする時間がなかった。
 そう自覚したとたん、急にアルコールが身体中を駆け巡ったような気がした。
 古風な蓄音器が官能的なメロディを奏でている。
「僕たちも、行きません?」
 かすれた声に囁かれ、ト.ラ.ヴ.ィ.スは気づけば小さく頷いていた。

444:Ich liebe Berlin!(6/8)
10/03/22 16:04:47 OtXI08mHO
「だぁかぁらぁ、ト.ラ.ヴ.ィ.ス、ト.ラ.ヴ.ィ.ス・バ.ン.ト.ンだってばぁ。ハントじゃないわよぉ」
 ホテルのロビーで夕刊の劇評を読んでいたス.タ.ン.バ.ー.グは、聞き覚えのある声にフロントのほうを振り返った。
 植木の陰でよく見えないが、聞こえてきた名前は間違いようがない。
 黒髪の華奢な後姿が目に入り、やれやれと立ち上がった。
「何してる、ト.ラ.ヴ.ィ.ス」
「あーら監督ぅ、グーテン・アーベン、ごきげんよぅ」
「…呂律が回ってないぞ」
 フロントにもたれかかっていたト.ラ.ヴ.ィ.スが、ス.タ.ン.バ.ー.グの顔を見ると満面に笑みを浮かべて手を振った。
 頬は紅潮し、服装もいくらか乱れている。
 酔っ払いの醜態に眉を寄せながら、支えようと肩を貸してやる。
「あたしねぇ、今すっごいご機嫌なのぉ」
「わかった、それはわかったから、とにかく部屋に…」
「もう歩けなぁい、連れてってぇ」
 くたん、としなだれかかってこられ、慌てて受け止める。
 仕方なくフロントのボーイから鍵を受け取り、エレベーターへト.ラ.ヴ.ィ.スを引きずった。
「お前、一人でこんな飲んだのか」
 足元が危うくなるくらいの酔いように、怒鳴りつけたい気持ちを抑えて歩かせる。
「一人じゃないわよぉ、ゲオルクとよぉ」
「ゲオルク……ああ、あいつか」
 そういえばト.ラ.ヴ.ィ.スと仲良くしている進行係がいた、と脳裏に顔を思い浮かべる。
 なんとかエレベーターに押し込み、階数ボタンを押す。
 動き出した箱にやれやれと息をつく。
 せっかくいい女優を見つけて上機嫌だったのに、いい気分がブチ壊されてしまった。
 酔っ払いに怒鳴ってもしょうがないが、部屋についたら説教の一つもしてやりたい。

445:Ich liebe Berlin!(7/8)
10/03/22 16:05:56 OtXI08mHO
「……おいト.ラ.ヴ.ィ.ス、着いたぞ。自分で歩け」
「…んー、監督ぅ……運んでぇ…」
「無理言うな」
 いくら華奢に見えても、平均よりは身長のあるト.ラ.ヴ.ィ.スを運べる自信はない。
 それに運ぶなら、今夜偶然入った劇場で見つけたあの女優のような、綺麗な足の女がいい。
「監督、冷たい…」
「うるさい。歩け」
 ぐすん、と鼻をすすりながらも、よたよたと不安定な足取りで歩く。
 なんとか鍵を開けて中へ運び入れ、ベッドへ投げ出す。
 ついでに靴を脱がせ、ネクタイを緩めてやる。
「ねぇ、監督ぅ…あたし、ベルリン好きよぉ」
 唐突に、ト.ラ.ヴ.ィ.スが口を開いた。
「なんだ、いきなり」
「だって、とってもすごしやすいんですもの。居心地いいわぁ」
「…そりゃあ」
 お前ならそうだろうな、と思いながらどうやって部屋を出ようかとうろうろとあたりを見回す。
 と、机の上に散らばるデザイン画が目にとまった。
「けどねぇ、来年、選挙あるでしょぉ? あれで、ナ.チってとこが勝ったら、あたしたち、もうベルリンにいられなくなるんですって…」
「…達、ってなんだそれ」
「だから、あたしとあなたよぉ」
 机に散らばるデザイン画を見ながら、聞くとはなしに耳を傾けていると、しゃくりあげる声にぎょっとした。
 見れば、ベッドの上に横になったト.ラ.ヴ.ィ.スが涙を流している。


446:Ich liebe Berlin!(8/8)
10/03/22 16:07:01 OtXI08mHO
「…なに泣いてるんだ」
「だって、だってぇ…ゲオルクってば……げおるく…ナ.チなんて嫌いよぉ…」
 ぽろぽろと零れる涙がシーツを濡らす。
 何があったのかは知らないが、おおかた、連れと喧嘩でもしたのだろう。
 ひとつ溜め息をついて、ス.タ.ン.バ.ー.グはデザイン画を一枚手にし、ベッドに歩み寄った。
「明日、カメラテストをする」
「…へ?」
「いい女優を見つけた。このイメージで、新しいデザイン画を描いてこい」
 ひらり、とト.ラ.ヴ.ィ.スの前に投げ落とす。
 がば、と起き上がり、ト.ラ.ヴ.ィ.スは自身のデザイン画を見つめる。
「……やっぱり、あなたって素敵。好きよぉ」
 ほやん、と微笑むト.ラ.ヴ.ィ.スに肩をすくめて見せる。
「明日も早い。さっさと寝ろ」
「はぁい。おやすみなさぁい」
 ぽふん、とベッドに沈む。
 にっこりした笑顔に一瞬動悸が高まった気がしたが、息を吐くことで誤魔化し、ス.タ.ン.バ.ー.グは背を向けた。
 『好きよぉ』
 声が耳の中で蘇ったが、わざと大きく扉を閉めて、それを打ち消した。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

デザイナーの可愛さが上手く出ない…orz
マイナーすぎてごめんなさい

447:風と木の名無しさん
10/03/24 02:37:45 nqBlyxiAO
>>439
この雰囲気好きです
ありがとう!

448:ピンポン はじまりのかたち 1/6
10/03/24 21:49:27 UC9etkqa0
ピンポン ドラ×チャイ
原作最終巻のインハイ予選終了後から1年半経過した頃
チャイのビジュアルは映画版推奨

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

人垣の真ん中に、星野と月本が何か話をしているのが見える。
星野が渡欧するという今日、風間は空港に見送りに来ていた。
少し離れたところに、孔が柱にもたれて立っているのに気がついた。
風間は歩くスピードを緩めて、孔に近づいた。
「やあ」
「風間」
「久しぶりだな」
孔と肩を並べる。
星野は周りの人間に頭をぐしゃぐしゃ撫でられたり、肩を叩かれたりしていた。
月本がこちらに目を向けた。二人に気がついたのだろう、星野に顔を寄せて何か話しかけた。
星野が嬉しそうに人垣をかき分けてこちらに歩いてくる。
「ドラゴン! チャイナ! 来てくれたんか」
「壮行会には行けなくてすまなかった」
「んん、見送り来てくれただけで十分よ」
「星野、気をつけて、行け」
「ありがとチャイナ」
月本が二人に頭を下げた。
「お久しぶりです、風間さん。孔も」
「ああ」
「飛行機初めてだからさぁ、オイラぶるっちゃうぜ」
星野の向こうに、佐久間の顔が見えた。目礼をよこす佐久間に、頷く。
いったい佐久間と顔を合わせるのはいつぶりになるのか、インターハイ予選会場の便所で声を掛けられた、あの時以来かもしれない。
いや、あれは扉越しに話をしただけで、顔を合わせてはいない。
恒星の引力のように、星野の周りに一度はバラバラになった人間が集まっている。
彼がいなくなれば、重力を失ってまた散り散りになるのだ。

449:ピンポン はじまりのかたち 2/6
10/03/24 21:50:21 UC9etkqa0
搭乗を告げるアナウンスが流れると、月本が星野を促した。
「…ペコ。行ってらっしゃい」
「ん」
佐久間と田村が星野に声を掛け、それに向って星野は笑うと、荷物を肩に、ゲートの中へ入った。
振り向いて大きく手を振り、
「ちいっと行ってくるかんねー!」
と叫び、後ろ向きに歩いてゆく。
星野は最後まで手を振りながら後ろ向きのまま歩いていたが、人の背中に紛れて消えた。

飛行機が豆粒よりも小さくなって、空に吸い込まれていく。
月本に目をやると、フェンスに寄りかかり、見えなくなった飛行機を探しているように空を凝視していた。
「行ったな」
風間の呟きに、ふと我に返ったように月本が振り向き、「そうですね」と小さく笑った。
風間は、いつも見送られる側だった。
見送る側と言うのはなかなかセンチメンタルなものだ。
佐久間が「ムー子、知らねえガキに構うな。オババ、…スマイル、そろそろ」と声をかけ、「風間さん、…ご無沙汰していました。今日は電車で?」と聞いてきた。
「いや、車だ」
「俺達も車です。こいつら乗せてきたんですが、初心者マークにはちょい試練でした。星野はぎゃあぎゃあうるせえし。ワンボックスなんで楽は楽でしたが、やっぱり成田は遠い」
「そうだな。まあたまには気分転換になっておもしろい。免許取り立てで首都高走ったのなら度胸がついただろう」
佐久間が星野と月本を乗せて、か。風間は海王での佐久間しか知らない。幼馴染みというのはそう言うものなのか。幼くから世代を共にする人間との密な関係と言うものに縁がない風間にとっては、想像の範疇外だ。
ふと思いついて、風間は孔に振った。
「孔は?」
「わたし、でんしゃで来たよ」
「乗っていくか」
「いいのか」
「帰りは誰かが一緒の方が退屈せんだろう。眠くなっても困る」
話がまとまりそうだと見たのか、佐久間が「それじゃ」と頭を下げた。

450:ピンポン はじまりのかたち 3/6
10/03/24 21:51:47 UC9etkqa0
ハンドルを握ると、孔が顔をのぞき込んで、不思議そうな表情をした。
「なんだ?」
「さっきから、気になてた。風間、なにか、かお、ちがう?」
「顔? …ああ、これか、眉か?」
「ああ! そか。まゆげかぁ」
いかにも得心がいったという様子の孔に、つられて笑みが浮かぶ。
海王学園を卒業後、風間は大学へ進学した。
卒業と同時に寮を出、一人暮らしを始めたのだが、それをきっかけに眉を剃ることだけはやめた。
自分の中で、海王からの卒業が一区切りであったことは間違いない。
「風間、まゆげあるの、いい」
「そうか」
「かみのけは?」
「髪は、まだなんとなくな。伸ばせないままだ」
「まゆある、顔、ぜんぜんちがう」
「そうだな。時々うっかり剃ってしまいそうになる」
「あたま剃るとき?」
「そうだ」
孔が声をたてて笑った。
「かみのけ、のばすといい。見てみたい」
ギアをローに入れ、ゆっくりと発進する。
「途中でどこか寄りたいところはあるか?」
「ない。あ、でも、おなかすいたな」
「それでは適当なところで食事を取ろう。道中は長いぞ」
窓の外では、まるで突然地上から生えたかのように飛行機が上昇してゆく。
風間はしばらく無言で車を走らせた。
孔は助手席で窓の外を眺めていた。
「…おもしろい、ね。なにもないところに、おおきいたてもの、ある」
「そうだな」
「おなじ空港、でも、上海とずいぶん、ちがう」
「思い出すか?」
「んー」
孔は少し考えるそぶりを見せ、「なつかしい、ね」と言った。

451:ピンポン はじまりのかたち 4/6
10/03/24 21:54:05 UC9etkqa0
車が首都高に入ると、孔はくねる道に沿って迫ってくる壁に、「哦!」と声をあげた。
首都高は、ビルの合間を縫って作られているので、高速道路にあるまじきカーブをそこら中に配置している。
スピードを故意に落とせば、後続車を巻き込んだ事故になりかねない。
運転に緊張を強いられるところであり、それを偏愛しているドライバーがいるのも確かだ。
それでも風間の走る湾岸線は、都内を走るよりも細かいカーブがないだけ楽だ。
「風間、かべ、ぶつかるっ」楽しそうな声が風間に向けられた。
「ぶつからん」
「ゴーカート、みたい」
「遊園地ではないぞ」
自然と風間の声にも笑いが混じる。
食事は成田から東京へ向う高速道路途中のサービスエリアで、軽くすませていた。
成田を出る頃は青かった空が、既に夕暮れに染まっていた。
薄い膜のような雲が、流れるように空を覆っていた。
孔の座る助手席側の窓には、星が光りはじめている。夜と夕方が混在している。美しい光景だ。
風間は黙り込んでしまった孔に視線を投げた。
孔は惚けるように空を見ていた。細い鼻梁と、頬がオレンジ色に染まっている。きれいな顔をしているな、と思う。
夕暮れの中のドライブは、まるでデートをしているようだ。
「くも、すごいね」
「美しいな」
「うん」
「…ートのようだな」
「え、なに?」
「いや、なんでもない」
無表情を装って、風間は運転に専念した。孔はそれ以上聞いてこなかった。

452:ピンポン はじまりのかたち 5/6
10/03/24 21:55:16 UC9etkqa0
高速を降りて一般道に入ると、時刻は既に宵を回っていた。
赤信号で車を停め、無口になった孔をそっと目の端で見る。眠っているのだろうか。
孔が身じろぎして、顔をこちらに向けた。
「寝ていなかったのか」
「…おもいだしてた。いろいろ。ひこうき見て」
「ほう」
信号が青になる。
「私の国の、おとうさん、おかあさん…コーチ…それから、風間」
「私をか?」
「風間に、私、まけた」
前の車のストップランプが消えた。風間もギアをローに入れ、クラッチをゆっくり戻す。車が動き出す。
「あのとき、卓球、やめよう、おもた。ユースやめるときより、ショック、ショック、だたよ。コーチ、いったね。『文革、きみのじんせい、はじまたばかり』 …わからなかたよ。わたしのじんせい、もうおわた、おもたよ」
孔の言葉は独り言のように、ぽつりぽつりと続く。
「しばらく、かんがえた。わからない。わからない。でも、辻堂、残る、きめた。わたし、かえらない」
正面を向いてハンドルを握りながら、風間の耳と心は孔を向いていた。
「つぎのとし、わたし、星野にまけた。あなたと試合、できなかたね。でも、あなた、星野と、いい試合、した」
「ああ」
「私も、あなたと、いい試合、したい、おもたよ。だから」
信号が赤になった。車はゆっくりと停車する。
風間は助手席の孔を見た。
孔の目が、車の中に差し込む白い街灯の光で鈍く光っている。風間の目をひたと見つめてくる。
「わたし、やめなくてよかた、おもた。…それを、おもいだしてた」
「いつか、また手合わせ願おう」
「…うん」
孔が微笑んだ。
「うん」

453:ピンポン はじまりのかたち 6/6
10/03/24 21:56:37 UC9etkqa0
その時風間の中に生まれたものに、風間はまだ気がつかない。
それは時を経て、風間の中で少しずつ育ってゆく。風間がその存在に気がつくまで、心の奥に封印されて、眠る。

車が孔のアパートの前に着いた。
「ありがと、遠かたね。つかれたね? あがて、おちゃ、のむ」
「いや、遠慮しておこう。路上駐車が出来る道ではなさそうだ」
「そう…またね。ありがとう」
「ああ、また」
孔がドアを閉め、身をかがめて窓をのぞき込み、手を振った。
風間は名残惜しい気持ちを抱えながら、アクセルを踏んだ。
「また」
孔がフロントミラーの中で小さくなってゆく。風間は言葉に出来ない思いを少しばかり持て余して、アクセルを踏んだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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