モララーのビデオ棚in801板56at 801
モララーのビデオ棚in801板56 - 暇つぶし2ch311:Gガンダム キョウジ×ドモン 2/9
10/03/11 21:52:58 o4AD5Suh0
……とまあ、そんな前置きはおいて。
宴会の話である。
式典などで久々に集った仲間たちが、
その後身内だけで酒を酌み交わすことは珍しくなかった。
今日はネオジャパン側が用意したそこそこの格式の料亭で、
みなが膳を囲み車座になって、宴もたけなわ、久々の旧交を楽しんでいた。
シャッフル同盟5人だけでなく、彼らにごく近い仲間だった
ネオスウェーデン代表やネオネパール代表の姿もある。

既にほとんどの皿は空き、2合徳利が何本もごろごろと転がっていた。
顔を赤くしていない者のほうが珍しく、
宴会芸と称してスウェーデン代表が梁の上で新体操を披露したり、
フランス代表が刺身の薄切りで得意げに薔薇を作ってみせたり、
アメリカ代表がピエロの幻覚を見て泣きながら座敷の隅でうずくまっていたり、
ロシア代表は平然としているように見えて、
手首に巻きついているのが味付け海苔の二枚重ねだったりする。
彼らのファンにはとても見せられない光景だった。
リーダーであるはずの我らがドモン・カッシュも、
いつも身に着けている鉢巻きを中国代表に奪われ
その中国代表は鉢巻きをリボン代わりに自らの髪をお団子に結っている。

「……ドモン」

そのどんちゃん騒ぎを眺めながら
自分も強かに酔って壁際にもたれていたドモンの元に、にじりよる者があった。
ドモンとは違う母親ゆずりの栗色の髪の毛、
堅苦しいトレンチコートの上に乗った顔は珍しく素肌を晒しており、
こちらは兄弟でよく似ている黒い瞳を酒のためにうるうると滲ませていた。

「に、にいさん?」

312:Gガンダム キョウジ×ドモン 3/9
10/03/11 21:53:21 o4AD5Suh0
ドモンは少しだけうろたえた。
いくら酔っているとは言え、膝だけでこちらにずりずりと近寄り
畳に両手を付いたままぺたんを座り込んでいる様子はあまりにも普段の兄と違っていたのだ。
ほんの80cmほどの距離で、彼は口を開いた。

「俺はなあ、ドモン。お前がいなくなってから凄く探したんだぞ。
 それはもう必死だった。警察にも行ったし、探偵も雇った。
 書置きは見たけど……10歳足らずの子供が突然いなくなったんだ、
 誘拐とか、事件に巻き込まれた可能性もあるじゃないか。
 心配で心配でしょうがなかった」
 
少しだけ視線を伏せてとうとうと語り始めた彼に、
ドモンはかける言葉を見つけられなかった。

「だってそうだろう。単なる家出なら、すぐに見つからなきゃおかしいんだ。
 まさか『下』に行ってたなんて……
 ああ、そっちを調べなかったのは俺のミスだった。
 生きてるのか死んでるのかも分からないのに、帰りを信じて待つのは辛かったよ」
 
伏せていた顔を上げて、更に彼はぐいとドモンに近づく。
 
「いいんだ、言ってくれ、ドモン。
 将来を決められてたのが嫌だったのか?
 俺にいつもからかわれてたのが嫌だったのか?
 悪かった、許してくれ」
「……っ兄さん」
「お前が可愛かったし、だから父さんと二人で
 お前のためになるようなことをしてやりたかった。
 でもその反面でからかったりもした。あの時は俺も子供だったんだ……」

313:Gガンダム キョウジ×ドモン 4/9
10/03/11 21:54:08 o4AD5Suh0
常ではありえない饒舌さで謝罪の言葉を述べる彼に、
ドモンは胸が震える思いがした。
戦いを通じて、兄とはもう十分に分かり合えた気がしていた。
昔のような屈折した反発とも違って、素直な尊敬を感謝を持つことも出来た。
しかしまだそれが全てではなかったのだ。
無鉄砲に飛び出した家で、そんな風に想われていたとは考えもしなかった。
互いにすれ違ったままだった過去の時間が、きちんと重なり合っていく音がする。

「……もういいんだ、兄さん。謝らなきゃいけないのは俺の方だ。
 俺は、何でもできる兄さんがずっとうらやましくて……」

酒の力か、ドモンの口からも自らが驚くほどにすらすらと言葉が出た。

「いつも頭をなでてくれてたけど、俺はその度に
 兄さんを追い越したいと思ってたんだ。
 でも、そのためにはあそこにはいられないと思って……
 だって、あんなに優しい兄さんがいたんじゃどうしても甘えたくなるから……
 甘えてしまったら、兄さんよりは強くなれないだろう。
 だからほとんど勢いに任せて飛び出したんだった」
 
鉢巻きがないためか、いつもより幾分幼く見える顔を赤くしながらドモンはそんな風に語った。

彼らの話の途中から、いつしか宴会場の中は静まり返って
誰もがその会話に聞き入っていた。
感動的な兄弟の和解のシーンに、スウェーデン代表などは胸の前で指を組んで
その大きな瞳を潤ませている。

「……俺たち、馬鹿みたいな遠回りをしたんだなあ」

言葉そのものは過去を悔やむものでありながら、どこか安堵したような響きの声で
彼は身体の中からこぼれ出てくるような笑みを顔に浮かべた。
それにつられるようにして、ドモンもまた照れくさそうに微笑む。

314:Gガンダム キョウジ×ドモン 5/9
10/03/11 21:55:20 o4AD5Suh0
「ドモン」
「?」
「頭をなでさせてくれないか?……昔みたいに」

兄がそうしたいと言うのなら、拒む理由はドモンにはなかった。
こんな衆人環視の中、常ならばとても了承できたものではないのだが
二人はごく近い距離の中で話をしているせいか、
周りから注目を浴びている事には露ほども気が付いていない。
小さくこくりと頷く。
すると彼の兄はいっそう笑みを深くして、すぐ傍にある弟の頭へと腕を伸ばした。
記憶よりもずいぶんと大きくなった頭を撫でながら
あまり手入れがされている感じでもない髪の毛を指で梳いてやる。

「少しくせっ毛なのは、変わってないんだなあ……」
「そ、その。あんまりじろじろ見ないでくれ、兄さん」
「どうしてだ?」
「恥ずかしいだろ……」
「恥ずかしいことがあるものか。こんなに可愛い顔なのに」

少し伸びた前髪を梳いていた指が、そのまま下へ降りて頬をとった。
誰もが、あ、と思う間もなく。

「「「!!!!!」」」

ドモンの少し薄い唇を彼が奪っていた。

ほんの数秒合わせられていただけだったそれは、次第に動きが大胆になり
舌がドモンの唇を舐めたかと思ったら、そのまま割り入って
驚いて逃げる事も忘れている相手のそれを絡めとった。
舌先で根元をくすぐり、吸い上げる。

315:Gガンダム キョウジ×ドモン 6/9
10/03/11 21:56:15 o4AD5Suh0
「ふぅッン……!」

上あごのドームを、触れるか触れないかといった弱さで舐め上げられたとき
ドモンの肩がびくりと跳ね上がった。

「っん、んぅ……ふ、んんっ……」

そのまま歯列をなぞられ、口腔の隅から隅までを蹂躙されながら
いつの間にかドモンの瞼は陶然となったように閉じられており、
指は無意識に兄の腕へすがり付いていた。

「ん……」
「…………ふぁ……?」

長い長い時間をかけて、二人の唇はやっと離された。

経験したことのない大人のキスに、ドモンが茫然自失の状態になっているのをいいことに
彼は行動を止めずドモンの唇からこぼれそうになっていた唾液を舐めとり、
そのままちゅっちゅっと頬だの額だのに際限なくキスしまくっている。

そして、あまりの勢いに二人ともがどさっと畳の上に倒れこんだ時点で
周囲はやっと我を取り戻した。

「な、なにをやっているんです!」
「離れろこのドイツ仮面!!」
「いや、引き剥がせ!!」

やにわに会場内の温度が上がった。
今にも飛び掛ってこようとする彼らを、ネオドイツ代表はめんどくさそうに一瞥し、
次の瞬間にはドモンを抱えたまま窓際まで跳躍していた。
その素早さに誰もが瞠目する。

316:Gガンダム キョウジ×ドモン 7/9
10/03/11 21:56:53 o4AD5Suh0
「そうかお前たち、うらやましいのか?うらやましいんだろう?そら」

ちゅううぅ。
言うが早いか、ゲルマン忍者は再び腕の中のドモンの唇を吸った。
ドモンはまだ硬直したまま我を失っている。

「ははは、しかしこれは私のだからな!
 お前たちにくれてやるわけにはゆかん!」
 
すっかり「キョウジ・カッシュ」ではなく
「シュバルツ・ブルーダー」に戻ってしまっている様子で、彼は高らかに笑う。

「ええい、あんな酔っ払いごときに遅れをとるシャッフル同盟ではありませんよ!」
「応!」
「アニキを返せこのやろー!」

同じく酔っ払いであるはずの3人も、思い思いにゲルマン忍者に躍りかかっていった。
実はメンタル面で弱いアメリカ代表だけは、小さく「おーまいがっ……」と呟いたきり絶句してしまっている。

「甘いッ!」

フランス代表がとっさに拾って投げつけた塗り箸は、
カカカッ!と小気味よい音を立ててお膳の底に突き立った。
ロシア代表の重い拳を、ドモンを肩に担いだままでひらりひらりとかわしながら
中国代表の拳法と組み合う。
しかし拳が合わさったと思った次の瞬間、彼の長い髪がぱらりとほどけていた。

「!?」

バックステップで素早く身をかわした忍者の手には
リボン代わりにされていた鉢巻きが握られている。
一瞬の間に髪をほどいてそれを取り戻したのだ。

317:風と木の名無しさん
10/03/11 22:00:04 cgDzdsv7O
支援

318:Gガンダム キョウジ×ドモン 8/9
10/03/11 22:00:17 o4AD5Suh0
「お兄さんだからって、容赦しないん……だからねッ!」

しかし間髪入れず、飛び退ったその場所へ
スウェーデン代表が鋭い飛び蹴りを叩き込んだが、
シュバルツがいたはずのその場所はいつの間にか座布団の簀巻きに変わっており
細いかかとの飛び蹴りはその簀巻きの中へぐっさりと決まった。

「ふふふ……お前たち、そんな様子ではシャッフルの紋章が泣くぞ?」

不敵な笑い声は大窓の外から響いてきた。
4人が慌てて窓際へ駆け寄ると、この料亭の母屋である隣の瓦屋根の上に
ひとつの影が優雅に佇んでいた。完全に気を失ってしまったのか、
ぐったりとしたドモンを抱いたまま大きな満月を背負うその姿は
正義のヒーローにも悪魔の使いにも見える。

「では、さらばだ諸君!また会おう!」

高らかな声を残して、影は消えた。

「ガッデム!あの酔っ払いめ!」

やっと自分を取り戻したアメリカ代表が悪態をついた。

「そりゃおいらたちも酔っ払ってたけどさぁ、なんなんだよあの動き~」
「アジアお得意の酔拳と言うものじゃないのか」
「いえ、それではあのキレは説明が付きませんよ……」
「ん……?」

はた、とアメリカ代表が何かに気づいた顔をした。

319:Gガンダム キョウジ×ドモン 9/9
10/03/11 22:00:54 o4AD5Suh0
「ああああ!!あのジャガイモ野郎、元からアンドロイドじゃねーか!!」
「あっ!!」
「そっか、酔っ払うはずがないんだ!?」
「まさかずっと素面で……?」
「酔った振りしてジャパニーズをたぶらかしやがったんだ!あの妖怪め!」

悔しがるような遠吠えだけが、しばらく月夜に響いていた……

――

……おやおや。
なんとも予想外の展開ですが、各国の代表がこんな調子では
世界平和はまだまだ先の話かもしれませんねえ。
それでは皆さん、また―来週ではないですね、
次にお会いできるのは一体いつになるのでしょう。
しかしわたくしは不滅ですよ。
ガンダムファイトを愛する人がこの世に一人でもいる限り!
今一度申し上げましょう、
それではみなさん、また会う日まで!

320:Gガンダム キョウジ×ドモン おわり
10/03/11 22:01:19 o4AD5Suh0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ お粗末さまでした
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

べろんべろんに酔う兄さんが可愛い!と思って書き始めたのに
結局酔ってないことになっちゃってすみません。
スレでネタ提供&萌えるレスの皆様方、ありがとうございました。

321:風と木の名無しさん
10/03/11 23:24:44 xdanpJIq0
>>305
やったあああーーー!!
嬉しい嬉しい!!保護者カンサシカンいいです!!

322:風と木の名無しさん
10/03/12 00:31:35 veAL7e0J0
>>310
超GJでした!萌えました!
まさかここでGガンが読めるなんて・・・
兄弟ラブなので本当に嬉しかったです!


323:風と木の名無しさん
10/03/12 03:25:44 iRXDB8cCO
>>305
ああGJです姐さん!
大事な娘を嫁に出すみたいなおとんでおかんなラムネに最終回も姐さんのSSにも禿たw

黒猫缶(*´д`*)ハァハァ

324:風と木の名無しさん
10/03/12 03:38:27 SNep5Alr0
>>310
キャラ達が皆すげーGガンっぽくて笑いつつ萌えた。
そしてやっぱりGガンにはストーカーの仕切りがなくちゃなw GJ!

325:801+52 鴨←舌打ち眼鏡 1/3
10/03/12 05:10:04 ACN8enZvO
最終回の鴨←舌打ち眼鏡。
携帯からは初投稿なので不備があったらごめんなさい。

|>PLAY ピッ◇⊂(・∀・ )…ウマクイクカナ?

2ヶ月前はあんなに疎ましい存在だったのに。
たった2ヶ月だっていうのに。
一体俺はどうしちまったんだ。
一体俺は何をしているんだ。
鼻先3cmにある『疎ましい筈の規格外』なんかに!

「あ、あのぉ~…真縞クン?」
困惑を織り交ぜたおどけ口調に、俺は我に返った……つもりだった。が。
「とりあえずは…この手の力、緩めて欲しいなー…って」
鴨さんの胸倉を掴んだ手は、その革ジャンに食い込んだままだった。
しかも廊下の壁に鴨さんを押し付けたままで。
以前、俺がそうされたように、今は俺が鴨さんを押さえつけている。
ここは署内の廊下だ。背後を行き来する警官達の視線を感じて耳が赤くなった。
何しているんだよ、俺はっ。班のあの部屋で『お別れ』は済んだ筈だろうっ。
なのに、ガキみたいに周りを気にして、ケータイでメールうつフリして部屋を出て、
飄々と去り行く背中に追いついた途端、腕が勝手に動いた。


326:801+52 鴨←舌打ち眼鏡 2/3
10/03/12 05:11:52 ACN8enZvO
「電車の時間が…そろそろ…ねっ?」
最後は溜息混じりになっていた。
その微かな息が手の甲に触れると、意思に反して拳の力が更に強まってしまった。
俺は何がしたかったんだろう。
わざわざ鴨さんを捕まえて、もっとちゃんとしたお別れの言葉でも言いたかったんだろうか。
いや、それは無理だ。
<…一日ぐらい……いいじゃないですか……>
床を見つめながらのあの言葉。あれが俺の精一杯だ。本人直視でちゃんとした言葉だなんて絶対に言えやしない。
ならば、言葉は要らない昭和オヤジに相応しいような厚い信頼の握手でもしたかったんだろうか。
いやいや、それはもっと無理だ。
第一どんなカオして鴨さんに向き合えと?
苛立たしさと恥ずかしさと情けなさと残念さと、何より目の前の男に対してのなんかもうよく分からない感情とが濁流となって押し寄せる。
もう自分で自分が分からなくなっていた。

「あのさ…。…お前のあんな表情、初めて見たよ」
ボソッと零れた低い声に、やっと手の力が弛んだ。
「さっきの。別れ際の、さ。…お前でもあんな表情するんだな」
あんなってどんなだ? 俺はどんなカオをしていたんだ?
「この2ヶ月、何かと迷惑かけてすまなかったな」
手がずるずると革ジャンから滑り落ちていく。そんな神妙なカオしないでくれ。違う、そんな言葉が聞きたいんじゃない。
「11から聞いたよ。お前、係長に言ってくれたんだってな。俺を信じたいって」
途端に顔が火照った。係長どころか銃器の奴等もいる中で言い切ったあの言葉。係長をも驚かせた俺の本心。
でも、あれは、鴨さんがいなかったから言えたんだ。
色々言い繕いたかったけれど、喉の奥が引きつるばかりで声が出なかった。代わりに目頭に熱が集まっていくのを感じる。
「ああ、またその表情だ」
柔らかい声。『大人』の苦笑い。鴨さんの鴨さんたる眼差し。
それらが今の俺のカオを教えてくれた。
もうどうしていいのか分からない。ただ唇を引き締めて、溢れ出そうな感情を押さえ込むことしかできない。

327:801+52 鴨←舌打ち眼鏡 3/3
10/03/12 05:15:08 ACN8enZvO
「ごめんな」
小さく呟いて、鴨さんが壁から身を離した。
ああ、そうだ、いつまでもこうしていられる訳がない。
分かっているんだ、俺だって、それぐらいは。
だから。……だから。

──必ずここに帰ってきて下さい──

最後にどうしてもそう言いたかった。
しっかりと鴨さんの目を見て。
でも、熱い目頭は限界で、唇の端も言う事を聞いてくれなかった。
そうこうしている内に、一歩、また一歩、鴨さんの背中が離れていく。ここから去っていく。
無意味に空回りしただけの自分が悔しくて、自然と舌打ちが出た。
「そーそー。そっちの方がお前らしいぞ!」
振り向く事はなかったけれど、その声は楽しそうだった。聞こえてないと思ったのに。
ああもういいや。鴨さんにはどうせお見通しなんだ。全部。
だから。

照れ隠しと、言えなかった言葉と、ありったけの感情を引っ括めて。
俺はその背中にわざとらしいぐらい盛大な舌打ちを贈った。

□STOP ピッ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

この後、係長とのラブイベになります。

328:風と木の名無しさん
10/03/12 07:42:34 yvsDv5VSO
>>310
本スレにも書いたけどこっちにもお礼を。
ちらっと書き込んだネタを拾ってもらって本当にありがとうございます。
萌えながら嬉しすぎて転がりまくりましたw
素敵な作品にしてくださって本当にありがとうございました!

329:風と木の名無しさん
10/03/12 15:24:39 fi9rWj3D0
>>325
GJ!!
ぜひとも係長とのラブイベもお願いします!!

330:風と木の名無しさん
10/03/12 18:10:48 +CWYYzlD0
>>325
hageたー!
舌打ちツンデレかわいい!

331:風と木の名無しさん
10/03/12 22:28:56 l1UKg4DlO
>>300
GJ!!禿萌えた!!!
是非続編を読んでみたいです!!

332:スメル 0/4
10/03/12 23:35:55 vgl1fCVf0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマモノ盤越え・葡萄の蔓唄×三本角の恐竜唄です。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  超ドマイナーカプでごめんなさい
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

333:スメル 1/4
10/03/12 23:36:58 vgl1fCVf0
何があったわけでもないのに、二人で集まって飲んだことがあった。
どちらが誘ったかは憶えていない。彼の家だったと思う。
彼のことを思い出すときは、小さな斑の犬のにおいが思い出される。
あの二匹。確かに、その日の記憶からはあのにおいがした。

きっと、近況報告のようなものをした。
はじめは、お互いを懐かしむため、いや、ただの社会人間として生きるときの常識なのか、
彼の言う所の最近の俺を報告し合った。多分。
義務を果たしたおれたちは、冗談を交わした。もちろん、猥談もした。いや、正直猥談がメインだった。
彼と会うときは、ビールを飲むことが多い。
しかしながら、その日はイベントで偶然会ったわけでもなかったので、遠慮なく彼の家にあった日本酒を戴いた。
日本酒を飲んだ舌で煙草を吸うと、ひりひりと痛むような、また、喉が震えるような、強烈な衝撃を感じた。
とっても体に悪いことをしていたらしい。
「喉が射精しすぎたあとみたいだよ。」そんな色気もなにもない比喩を口に出すと、
彼は、いつもの、母上を思い出させるような笑い方をした。

アルコールも適度に回り、気持ちよくなってきた頃。
こういうときはどうしても、音楽の話になってしまう。悲しきミュージシャンの性。
どういう話をしたのか、具体的には憶えていない。
憶えていたのは、彼が笑う度に口元に寄せる、その右手の、指環の形状ぐらいだ。

「なんか、CD聴きたくなっちゃった。かけてもいい?」

ふいに彼が立ち上がり、整頓されていないスチールラックから、CDを取り出した。
おれはてっきり、彼の好きな、あの王様の曲でもかけるんだろうと思った。

334:スメル 2/4
10/03/12 23:37:57 vgl1fCVf0
だけど、彼が取り出したものは、フランス語のタイトル。
の、おれのバンドの、アルバム。

「なんで持ってんねん」
「買ったんだよ。えらいでしょ?おれのも買ってよね」

冗談か本気か分からない口調で彼は言う。
屈託のない笑み。つい、少年のようだ、と思ってしまった。
どういうセンスしてるのだろうか。同じミュージシャンとして恥ずかしいぐらいのセンスのなさだ。
回る円盤。大きなスピーカーから、おれの音が流れる。何百回も聴いた気がする。
煙草の歌が始まる。

「止めろや。恥ずいやろ」

と言いながらも、こう聴いてみるとなかなかいい曲だと思う。
さっきの考えは撤回しておこう。同じミュージシャンとして誇りだよ。

ああ、酔ってるな。今日は呑まれる日かもしれない。

「なんでー。好きだよ、これ」

どきりとした。文字通り、どきりと。
自分のアルバムが褒められたからではない、この昂揚。
きっと、酔ってる。二年ほど前の対バンのときも、飲みすぎていた。
結構、恥ずかしいことをMCで言った気がする。もっと恥ずかしいことを、MCで言われた気もする。

「そー。ありがとう」

目の前の彼は未だに笑っている。

335:スメル 3/4
10/03/12 23:39:01 vgl1fCVf0
彼はいつの間にか、歌詞カードを取り出してじっと見詰めていた。
今度は、犬のようだ、と思った。
「なにしてんねん」と突っ込むと、彼は視線を動かさずに言う。

「おれってほら、あんまり頭がいい歌詞が書けないわけ。だからね、憧れるんだよ」

一瞬、誰のことを言っているのか分からなかった。
少し、恥ずかしくなって、嬉しかった。それも、とてつもなく。

「ええやん。おれの偏屈な歌詞より、輪打っちの歌詞のがええと思うけど」

これは、謙遜しているわけでもなく、紛れも無い本心だった。
だけど、この言葉を素直に受け取ってはくれないだろうことも、分かっていた。
彼は少し顔をあげて、「なんかすいません」と笑いながら言う。うっすら憂いを帯びている。
少し、色っぽいなんて思ってしまったり。

「多分、酔ってる。ちょっと横になってもいい?」

ソファに寝転がる彼。
彼も、酔っている。
息を吐きながら目を瞑る彼は、やっぱり色っぽくて。目元を隠す右腕がむしょうに愛おしくてならない。
おれも、酔っていた。
煙草が吸いたい。それは、流れている音楽の所為ではなく、目の前の彼の所為だ。

336:スメル 4/4
10/03/12 23:40:01 vgl1fCVf0
「レコーディング、順調?」
「まあまあ。そっちは?」
「まあまあって言われたら、まあまあとしか返せへんよ」

うっすらと笑う彼。ダメだ。触れてしまいそうだ。
おれは彼の寝転がるソファに近付いた。彼は目を瞑ったままだった。
触れてしまいそう、が、触れようとしている、に変わってしまう。
左手には、まだ光が残っていた。とても大切な、きっと彼は持っていない光。
そんなことは知っていた。でも、それでも、いいのかもしれないと思った。
右手を、指先を、彼の唇へ近づける。

「なんかさあ」

突然。彼が言った。触れる前だった。
手にかいていた汗を、ジーンズで拭った。
そして、同時に、助かった、と思った。

「もしかしたらおれ、棚可くんとセックスしたいと思ってるかもしれない」

拭ったはずの汗がまたじわり。
鼓動が、早くなる。
彼の唇が、最低だ、と動いた。
もっと最低なのは、おれかもしれない。

左手には、まだ光があった。

337:スメル おわり
10/03/12 23:41:38 vgl1fCVf0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |                捏造ばっかりです。
 | |                | |           ∧_∧ お粗末様でした。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

338:風と木の名無しさん
10/03/13 00:07:35 LmWcD932O
うあああああ!!!
目 覚 め た!!!
姉さんありがとう!ちょっとアルバム聴いてきます!!

339:il缶とウキョ1/3
10/03/13 00:58:19 B2Q9zH8iO
il 缶×ウキョ ウキョ独白です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


キミが庁/内Sではないかという事は、最初からわかっていましたよ。
最も、目的はわかりませんでしたけどね。
概ね、僕のお目付け役といった所だろうという程度に考えていました。
そんなキミとは毛頭、打ち解けるつもりなどありませんでした。
僕は普通にしていれば、だいたいの方はすぐに居なくなりますから。
…例外が一人、居ましたけど。
彼とキミはまるで違うタイプでしたから、その心配も無いだろうと思っていたんですがねぇ。
ブツブツと悪態をつきながらも、必ずついてきましたね。非常に鬱陶しかったです。
しかしキミは仕事熱心で、勉強熱心で、負けず嫌いな所もあって、
正しい行いをするよう僕を咎める事もありました。
キミはキミで、自分の仕事をまじめに必死にやり遂げようとしているのだと途中で気付きました。
組織に従って一生懸命働いているだけなのだと。
たとえそれが僕の観察だとしてもね。
それがわかってからは、僕はキミに隠し事はしませんでしたよ。
キミは仕事上、僕に隠し事ばかりでしたけどね。
そう、確かキミの昔の恋人が現れた時でしたか、
キミは警察官として事件を解決したいという気持ちを僕に打ち明けてくれましたね。
初めてキミの等身大の姿を見た気がしました。
隙を見せまい、本性を知られまいとしていたキミも、徐々に素直な部分を覗かせるようになりました。
事件解決のためにもたくさん働いてくれました。
それでも自分の仕事に誇りを持って、毅然としていましたね。
キミの本当仕事が僕の観察である以上、いつまでもこのままで居られるわけはないと思っていましたよ。
いつかこんな日が来ると、最初からわかっていた事です。
キミには隠し事をするつもりはありませんでしたが、
こうなる事がわかっていた僕は、やはりどこか心を隠していたのかもしれません。

340:il缶とウキョ2/3
10/03/13 01:00:12 B2Q9zH8iO
最近、キミの様子がおかしい事には気づいていました。

Sの事、これまでの事、全てを話してくれましたね。
僕は、嬉しかったです。ええ。嬉しかったですよ。
それと同時に、とうとうこの日が来たのだな、と思いました。
やっと打ち解けあえたような気もしたんですけどねぇ。
すみませんねぇ。
僕は少し、彼の事を…
亀山君の事を思い出していました。
お恥ずかしい話ですけれど、僕はあの時ばかりは少し、参ってしまいましてね。
それでも僕は、もう二度とあんな思いはしたくない、などとは思わない人間だと、思っていたんですがねぇ。
自分で思っているより僕はずっと弱かったようです。

自分の道を歩むようにと、そう言ったのに。
キミはまた、僕の目の前に現れました。
「自分の意志で」
そう言いました。
正直、僕は怖かったんです。
もう二度とあんな思いはしたくないと。
だから心に入らないで欲しいと。
嬉しい反面、僕は怖かったんです。

昨夜の僕は玉木さんにご心配をかけてしまうほど、態度に出てしまっていたようです。

僕はもともと一人でしたから、それでもやっていけます。
そう、元に戻るだけ。
だから何も変わらない。
いつも通り、僕は僕の正義を貫くだけだと、
そう言い聞かせていました。

341:il缶とウキョ3/3
10/03/13 01:01:03 B2Q9zH8iO
なのに、意外な方にキミの選択した道を伝えられました。
そればかりか、キミの事をよろしく、と頼まれてしまいました。

イバラの道ですが、僕は歓迎します。

僕は今日、少し早く出勤してしまったようです。
隣りにかかった名札を見て、また亀山君を思い出しました。
彼は今日もまた、遠い地で自分の正義を貫いている事でしょう。

ここに来ると決めたキミへ。

ようこそ、匿名係へ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

342:風と木の名無しさん
10/03/13 01:59:10 0IKun4p70
>>339
GJGJ!!
本当によいil
帰る場所出来て良かった

343:風と木の名無しさん
10/03/13 06:10:06 ZZj+A9q1O
>>332
ここで彼らに遭遇できるとは!しかもそのアルバム好きなんで嬉しい
壊れる手前の、というところかなGJGJ

344:風と木の名無しさん
10/03/13 06:26:53 T+fjzydfO
>>339

朝から泣いちゃったじゃないかどうしてくれるw

345:風と木の名無しさん
10/03/13 06:44:11 WaSEn1kN0
>>339
GJすぎて涙出てきた……!
朝から良いもん読んで萌え転がった。ありがとう!

346:風と木の名無しさん
10/03/14 01:36:01 oUDbNU1UO
>>339
泣いたよ
素敵な作品をありがとう

347:江戸御菓子噺 0/7
10/03/14 15:26:52 b5fM5CE+0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と伊蔵。江戸修行時代のほのぼの。
本スレからまた色々とネタをお借りして、たまには明るいモノを目指してみた。

348:江戸御菓子噺 1/7
10/03/14 15:27:56 b5fM5CE+0
目の前に茶色く丸い物体があった。
皿の上に一つ置かれた、それに視線を落としながら口が開く。
「今川焼……」
「好きじゃろ?」
呟いた瞬間後ろから声を掛けられ、伊蔵は座したままハッと背後を振り返る。
するとそれには、湯呑みと急須の乗った盆を手に、部屋の戸口に立つ武智の姿があった。
慌てて立ち上がり、手のものを受け取ろうとする。
しかしそれに武智は、ええからと伊蔵と制すると、その前に回り込み自らも膝を折った。
置いた盆の上で茶の入り具合を確かめ、すべらかな手つきで湯呑みに注ぎ入れ出す。
その間、もう一度座り直した伊蔵は、なんとも所在なく目を周囲にさ迷わす事くらいしか
出来なかった。
稽古後に招かれた、そこは武智の百井道場での私室だった。
入門し早々に道場主に認められ、塾頭を任されるのと同時に与えられた。
自分達の居住する藩の中屋敷は、さして遠くにある訳では無かったが、それでも
通うよりは住み込んだ方が塾頭を務めるには何かと楽だろうと、熱心な薦めを受け
居を移したそこは、確かに藩邸の部屋よりは一回りほど大きく、作りも綺麗だった。
机の上に整然と積まれた本の山や棚の上を飾る活けられた花。
居心地が良さそうなその空間に、しかし伊蔵の胸には逆に複雑な想いがこみ上げる。
それはなんとも、まるでこちらに武智を取られてしまったような。
そしてそんな感情を後押しするように、黙る伊蔵の脳裏にはこの時、昨日の出来事が蘇っていた。
あれも稽古後の事だった。
裏の井戸で汗を拭っていた自分を、不意に取り囲んできた百井の門弟達。
江戸の三大道場の中で格の百井と謳われながらも、自分達が入門した時にはひどく素行が荒れ、
品行も悪かった門弟達は、当初規律厳しくそれらに叱責を飛ばした武智に反感を抱いたようだった。
土イ左の田舎の新入りのくせにと、あからさまに逆らい、言う事にも耳を傾けず。
しかしそうして彼らがその生活を乱れさせている間にも、武智は一人自らの身を律し続けた。
朝稽古には誰より早く入り、雑事にも率先して取り組み、終われば寄り道の一つもせず
まっすぐに藩屋敷へと戻ると、夜も時折行われる他藩有志との会合に顔を出す以外は、
遊びに出掛ける事も無い。

349:江戸御菓子噺 2/7
10/03/14 15:28:57 b5fM5CE+0
酒も女も賭博もやらぬ。
他人に厳しいが自分にも厳しい。それをここまで徹底されれば、人間何かしら自分の中の
後ろめたさが刺激されるのだろう。
気がつけば日が経つごとに徐々に徐々に、百井の門弟達の素行の悪さは治まっていった。
いや、治まっただけではない。それ以上に、
「おいっ。」
背の低い自分をわざと見下ろすように掛けてくる高圧的な声。
それにムッと伊蔵がその大きな瞳の眼差しをきつくすれば、数人いた彼らは一瞬ひるみかけた
ようだったが、それでもそれをなんとか取り繕うと、続けざまにこう言葉を発してきた。
「聞きたい事があるんだが、」
到底人に物を尋ねる態度とは思えぬ口調で、しかし彼らが次に口にした事は伊蔵を驚かせるに
十分足りるものだった。
「塾頭が下戸で甘党と言うのは本当か?」
「……はぁっ?」
いきなり何なのだと思った。しかしそうして伊蔵が返事を返せずにいると、彼らはやがて
焦れたように口々に問いを発してきた。
「甘党ならば何が好きだ?饅頭か?団子か?」
「それとも羊羹や心太の方がいいか?」
「今川焼などは食されるか?」
たぶん……全部食べると思う。
けれどそう答えてやるのはやはり何故か癪で、それゆえ尚も押し黙っていると、彼らはその問いを
更に過熱させていった。
「ならば花は好きか?先日、百井先生の部屋の花を活けられているのを見たが。」
「本がお好きなようだが、どのようなものを読まれる?気に入りの作者とかはおられるか?」
いったいなんなんだ、と思った。
だから一言、知らん!と言い捨て彼らに背を向ければ、途端背後に激しく罵声を浴びせられる。
それにも伊蔵はチッと思う。あやつら、つい先日まで武智先生の悪口ばかり言うておったくせに。
恥知らずな。
しかしそんな彼らの行動力は、苛立った自分の想像の更に上を行くもののようだった。

350:江戸御菓子噺 3/7
10/03/14 15:29:59 b5fM5CE+0
「今川焼…」
もう一度、なんだか昨日耳にしたような気がする物の名を呟いてみる。
するとそれに武智は煎れ終わった茶を伊蔵に差し出しながら、ん?と顔を上げてきた。
「あぁ、これならいただき物じゃ。百井先生が門弟の一人に買うてくるよう頼んだらしゅうての。
なんでも江戸で有名な店のもんらしい。が、なんちゃあ数を間違うて多めに買うてきてしまった
とかで、良ければっちゅう事でわしにも数個届けて下さった。」
「……はぁ。」
「もう少し数があれば藩の皆にも配ってやれたんじゃが、どうにも足らんかったでの。
せやきにこれは内緒じゃぞ。」
わずかに声を潜め、武智が伊蔵に悪戯めいた表情を見せてくる。
ひどく砕けたそんな珍しい武智の様子に、伊蔵はこの時しばし見惚れた。
そして今更ながらに、他の誰でもない、菓子を分け与えてくれる相手に武智が自分を選んでくれた
幸せを噛み締める。
例えそれが子供扱いだったとしてもだ。
「いただきます。」
行儀良く手を合わせた後、その手を伸ばす。
するとそれにならうように武智も菓子を手に取った。
2人ほぼ同時に口に運び、味わう。
「思ったより甘さ控えめな、上品な味じゃのう。」
食べながら武智がそんな批評を口にする。しかし伊蔵にすると、そんなものか?と言う感想しか
出てこなかった。
ただそんな繊細な味がわかるなんてやはり武智先生はすごいなぁとは思う。その上で、
「でもおいしいですき。」
感謝の想いも込めてそう告げれば、それに武智は少し驚いた様に伊蔵に向けて顔を上げ、
そして破顔した。
「そうか。」
穏やかに優しく笑まれる。
それに伊蔵は、あぁまただと思った。

351:江戸御菓子噺 4/7
10/03/14 15:31:04 b5fM5CE+0
江戸に着いてから、そして更に言えばここに移って以来、武智はよく笑うようになった。
素行の悪い門弟達を相手に檄を飛ばす事も多かったが、それでもその声の響きには、
土イ左にいた時のような張りつめた厳しさは無かった。
ただ力強く、ただ凛と。
だからやはり思ってしまう。
「武智先生…」
無意識に、手にしていた菓子を食べかけのまま皿の上に置いて。
「先生は、わしらと一緒におるより、ここにおった方がええろうか…」
小さくぽつりとそう呟けば、それに武智はえっ?とその動きを止めたようだった。
「伊蔵?」
うかがうように名を呼ばれる。その声がまた柔らかいものだったから、伊蔵の中のもやもやした
感情は更に頭をもたげてしまった。
だからつい言ってはならないはずだった事を口にしてしまう。
「収次郎さんには怒られたけんど、」
つい先日言葉を交わした、共に江戸まで来た同郷の年輩者の名を出す。
するとそれに武智は鸚鵡返しに尋ねてきた。
「収次郎が?何を?」
「藩屋敷におるより、ここにおった方が武智先生にとってはええがじゃと。理由は教えて
もらえんかったけんど、でも……」
事実ならば……それは自分にはひどく寂しい。
子供扱いをされている最中なのに、更に子供じみた事を考えてしまう。
それが情けない事だという事はわかっていても、どうしても顔を重く伏せてしまう。
そうして沈黙した伊蔵に、武智はしばしの間の後、静かに声を掛けてきた。
「伊蔵。」
教え、諭すように名を呼んでくる。そして、
「何を心配しちゅうかはようわからんが、これだけは確かな事を言うておく。わしにとって、
一番大事なもんは、土イ左じゃ。」
「…………」
「こん国の為、皆の為、土イ左をどこよりも強い藩にしたい。その為にわしは江戸に来た。
ここには便宜上おらせてもろうちょるが、それで藩の事を疎かにしたつもりはない。」
毅然と言い切られる。その響きの真摯さに、思わず伊蔵が顔を上げれば、そこにはこちらを
まっすぐに見つめてくる武智の瞳があった。

352:江戸御菓子噺 5/7
10/03/14 15:32:08 b5fM5CE+0
迷いなく、揺らぎ無い。
その信念の強さと対峙して、伊蔵はあらためて今しがた自分が口にした事の小ささを知る。
だから、
「すいません!」
慌ててもう一度頭を下げ、その心中に懐疑を抱いた事をわびる。
するとそれに武智は小さく息を吐いたようだったが、それでも次に発せられた声は
また先刻の優しげなものに戻っていた。
「誤解が解けたんならそれでええ。それより菓子がまだ半分残っちゅうぞ。」
手元に置かれた皿の上に促す視線を落とされて、それに伊蔵は慌てて手を伸ばす。
そして勢いのまま食べかけだった今川焼にかぶりつけば、それを見ていた武智の顔には
この時、はっきりとした笑みが浮かび上がった。
「そんなに急いで口に放り込まんでも。餡がはみ出しちゅう。」
言いながら、その指先で自らの口元を指し示してくる。
それにえっ?と思い、伊蔵が口の端を拭おうとするが、その所作にも武智の笑みは更に深まった。
そして、
「こっちじゃ。」
言いながら伸ばされた武智の手。
指先で拭った方と逆の口の端をなぞられ、ついていた餡の欠片を取られ、そしてそれを、
「――っ!」
少しの逡巡の後、そのまま自分の口に運んだ武智を見た瞬間、伊蔵の背がビシリと固まる。
が、それとほぼ同時に、伊蔵は何かが落ちた音をその背後に聞いていた。
「誰じゃ!」
それゆえ反射的に振り返りながら、脇に置いていた刀の束に手を掛ければ、しかしそんな殺気立った
自分に対し、この時伊蔵の目に飛び込んできたのは部屋の戸口、呆けたように開いた腕から
その足元に何やら花のついた枝を取り落としている、一人の門弟の姿だった。
「あの…庭の剪定をして切った花があったので……塾頭にと…」
視線をこちらに固めたまま、呆然とした口調で告げてくる。
それに部屋の奥から武智の声が飛んだ。
「それはわざわざすまんかったのう。」
言いながら受け取る為に立ち上がろうとする。
しかしそんな武智を、この時伊蔵は止めた。

353:江戸御菓子噺 6/7
10/03/14 15:33:12 b5fM5CE+0
「待ってつかあさい、武智先生。」
「伊蔵?どういたがじゃ。」
理由は、廊下の方から感じた幾つかの気配にあった。
ドタドタと足音荒く近づいてくる、それらは戸口に立つ門弟の背後、群れをなして現れ、止まった。
「塾頭!たまたまうちで饅頭が余りまして!」
「たまたま実家から羊羹が!」
「貸本屋を通りがかったら、たまたま先生の探しておられた本を見つけて!」
「…………そんなたまたまがあるがかぁ!」
口々に叫ぶ門弟達相手に声を張り上げて、伊蔵がその場に仁王立ちになる。
するとそれに彼らも対抗して声を荒げてきた。
「なんだとぉ!!」
「おんしら下心が見え見えなんじゃ!そんな汚い性根で武智先生に近づくのは許さんぜよ!」
「おまえ、同じ国元だからって調子に乗るなよ!それでなくても一人部屋の中に入れてもらって。
俺らなんてなぁ、いつもいつもここで帰されるんだぞ!」
「そうながか?……やのうて、いつもいつもっておんしら何しちゅう!!」
「おまんら……」
喧々諤々と飛び交う怒号の中に、この時一言ひんやりとした声が混じる。
それにその場にいた全員がビクッと固まり、そして恐る恐ると視線を部屋の中へ向ければ、
そこには畳の上、静かに端坐し、手にした茶を飲み干すとそれをゆっくりと置く武智の姿があった。

354:江戸御菓子噺 7/7
10/03/14 15:34:14 b5fM5CE+0
思わず皆の息が止まる中、その唇が再び動く。
「そんなに元気が余っちゅうなら、道場で素振り百回。出来るな?」
否定を許さぬ肯定的疑問を投げ掛けながら顔を上げ、にこりと微笑んでくる。
それには伊蔵の口からはたまらず、泣き事めいた悲鳴が上がっていた。
「武智先生っ、それは無いですきにっ」
「行きや、伊蔵。」
「……はい…」
しかし武智にそう繰り返されれば、自分に逆らう術は無かった。だから、
「おらっ、おんしらも行くぞ!」
「えーっ!」
「えーっ、やない!いったい誰のせいでこんな事になったと思っちゅう!」
戸口に集まっている者達をほとんど蹴り倒すような勢いで元来た道に押し返し、伊蔵が部屋を
出ていく。
そしてそれらを見届け、声も完全に聞こえなくなった時、
「まっこと、仲が良すぎるのも考えもんじゃのう。」
皿や湯呑みを片付けながら、やれやれとばかりに零された武智の言葉。
それを聞かずにおれた事は、伊蔵達にとっておそらくは幸いだった。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
江戸修行時代の家族の肖像、出来ればもう少し長く見たかった。
土イ左弁がエセなのはあらためて許してつかあさい。


355:風と木の名無しさん
10/03/14 21:24:36 Uvx2uuqN0
>>337
まさかこの二人が読めるとは!
ありがとう!幸せです。

356:項垂れる曇り空1/5
10/03/14 21:31:25 1v36SWCw0
お借りします。
?・邦楽、一角獣の双子コンビ(notカプ)
・年下組が仲良くしてるのが好きな人推奨。



|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

357:項垂れる曇り空2/5
10/03/14 21:32:58 1v36SWCw0
暖かくなってきたし遊ぼうや、と連絡をしてきたのは亜辺だ。
前に会ってからたいして間も空いていないのに、二つ返事で朝から車を走らせた。
いつもなら車に必ず積むゴルフセットに一瞬手を伸ばし、すぐに引っ込めた。
玄関から一歩外に出ると、青空とはほど遠い色をしている空が視界に飛び込む。

連絡をしてきたのは自分だというのに、わざわざ呼び寄せて置いて亜辺は何も考えていなかったらしい。
すっかり馴染みになったカフェに連れ出され、二人して今にも雨が降り出しそうな曇り空を見上げて
同時にため息を吐く。
「昨日夕焼け綺麗だったから、絶対晴れると思ったんだけどなー」
「夜の天気予報で雨降るって言うとったぞ」
「そっかー……」
「何じゃ、何の考えも無しに電話してきたん?」
「うん。ちょっと迷ったけどね」
今忙しいでしょ、皆。呟いた言葉は湿っぽい空気にじわりと解けて広がる。

怒濤の2年間を終えようやく各々が自分のペースで動き始め、
飽きるほど顔を合わせることはなくなった。
かといって、打ち合わせやちょっとした秘密の集まりは不定期にやっているし、
それ以外でも誰かと誰かがこそこそやってるのも知っている。
別に会いたければ連絡でも何でもすればいい。昔のように変に勘ぐられることもないし、
むしろ会いやすい環境になったと思う。

358:項垂れる曇り空3/5
10/03/14 21:34:00 1v36SWCw0
「何かさあ、ぎゅっと凝縮され過ぎちゃった感じしない?」
平気な顔をして自分たちは一人に慣れていたつもりだったのに、
実は全然そうじゃなかった、と気付いてしまった。
5人でいるときの独特の空気感や、バカなことをしてギャーギャー笑ってしまいには笑い疲れる、
そういう時間の居心地の良さを思い出し、その中に自分の居場所があることはとてつもない安心感があった。
「馬鹿騒ぎし過ぎたっちゅー見方もあるけどな」
「いいじゃん、そういうのがうちらっぽいじゃん。でも、失敗したかなあって思うこともあるけどね」
「何をよ」
「……現場行ってあの甲高い笑い声が聞こえないとさ、『あーそっか、今日は一人なんだー』って思っちゃって。
ま、俺の仕事だから当たり前なんだけど」
結局そこにいくんかい、とツッコミを心の中だけで入れ、頬杖をつく亜辺の横顔をぼうっと見つめる。
(……あー、あいつ今ツアーで飛び回ってんだっけか)
同じくツアー中の最年長と地元で仲良くやっていたことを思い出し、
灰が落ちかけていた吸い殻を灰皿に力一杯押しつける。
あのブログを見たことも知られたくないし、ちょっとだけイラッとしたことは
もっと知られたくない。プライドに賭けて。

「連絡すりゃーええじゃん」
「でもさ、『ごめんね、忙しいから~』とか言われたら心折れちゃうっしょ」
「中学生か、おまえ」
40過ぎて恋だの何だのの話題をこいつとすることになるなんて思わなかった、と冷めかけたコーヒーを啜る。
それこそ、再結成前の自分が亜辺にまで隠していたことと同じようなもので、
要はおおっぴらに言うか言わないかの違いだけだ。
ただ、隠していたつもりだったはずのその辺りのことは亜辺どころか周辺の人間にはバレバレだったらしく、
あの鈍感な海老にまで指摘されたのは未だに心外だ。
『多三男は隠せてたつもりかもしんないけど、だだ漏れだったよねえ?』
自慢げに胸を張る海老を睨みつける多三男、の図に呆れたように笑う彼もまた同じような状況の中にいて、
自由奔放に振る舞い続ける相手に振り回されるお互いを見ては苦笑いをするしかないのだ。今も。

359:項垂れる曇り空4/5
10/03/14 21:34:56 1v36SWCw0
「お土産買ってきてくれるんだって」
「海老が?」
「ん。買ってくから楽しみにしててね、とか言われちゃったらさー……待つじゃん、
俺そういうとこ素直だし」
「で、その連絡が来ないと。で、耐えられんから俺を呼び出したと。そういうこと?」
うん、と子供のように頷いた一つ年下の友人の頭を思いっきりはたきたいのを堪え、次の言葉を待つ。
「広島でその話、河弐っさんにしたら『成る程、んじゃ俺も買ってこ』って
言ってたらしいけど、連絡ないの?」
「……おっさん、絶賛合宿中だから。明後日帰ってくるけど」
「なら、そろそろ連絡来るんじゃね?」
「……だといいけどな」
相手のことだったらこんなにも親身に考えられるのに、俺たちは自分のことになると途端に素直じゃない。
お互いに一向に鳴る気配のない携帯をちらちら気にしながら次の煙草に火を点け、
違う相手のことを思い浮かべながら長く、それでいて甘ったるい雰囲気を漂わせるため息を吐いた。

本当に、恋なんてもんは厄介で仕方ない。
でも、そんな厄介な感情に振り回されてる自分たちは案外嫌いではない。

360:項垂れる曇り空5/5
10/03/14 21:35:34 1v36SWCw0



□STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
何言いたいのかよくわからなくなったけど、この2人の阿吽の呼吸以外の何物でもない会話が好きだ。
何だかんだでこの人らは事ある毎にこそこそキャッキャしてると思う。

361:江戸御菓子噺 其の弐 1/3
10/03/14 22:27:31 b5fM5CE+0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と飛来。>>347の続きで別ver。
ほぼ連投ですみませんが、あと数レスお借りします。


「なんですか?これは。」
「もらい物の菓子じゃ。今度は配れる数があっての。」
「今度は?」
「なんちゃぁない。」
武智が身支度を整えるのを待ちながら、通された部屋で収次郎は目の前に置かれた
風呂敷包みに視線を落としていた。
稽古が終わり、帰ろうとしていたところで呼び止められ、部屋で待つように言われた。
何事かと思えば、久しぶりに武智も藩の中屋敷へ顔を出すので共に行こうとの事。
そして汗を落とし着物を着替えた武智は、刀架から刀を取り上げると、それを腰に差しながら
この時、背後の収次郎にこう告げてきた。
「そう言えばおまん、伊蔵に何を言うた?」
「はい?」
唐突にそんな事を言われ、意味が把握できず間の抜けた声で聞き返す。
するとそんな自分に武智は微かに視線を後ろに流しながら、続きの言葉を口にしてきた。
「なんちゃあ嘆かれたぞ。わしは藩の屋敷におるよりも百井に世話になっておる方が
ええんやと、収次郎に怒られたと。」
「……っ、伊蔵っ、あいつ!」
「伊蔵を叱るなよ、収次郎。」
秘密裏に話した事を当人にばらされて、思わず声を荒げた収次郎に、しかし武智は穏やかな
戒めを告げてくる。そして、
「そんなに、わしに気を使うてくれんでもええぞ。」
まるでこちらの胸中を何もかもを見透かしたかのようにそう静かに諭してくる。
が、しかしそれに収次郎の憂いが取り払われる事は無かった。

362:江戸御菓子噺 其の弐 2/3
10/03/14 22:28:37 b5fM5CE+0
いくら本人がどう言おうと、藩の屋敷にあればこの人は必然的に土イ左の下司全体の
まとめ役のような立場に立たされる。
それは言い代えれば、上司との交渉事において常に矢面に立たされると言う事と同義だった。
この人と上司との関係。
何を言われた訳でも、知った訳でもない。
あくまで邪推の域を出ない、しかしそれでも自分はこの人に必要以外に上司連中を近づけるのは
嫌だった。
それゆえに返事が出来ずに沈黙する。
そんな収次郎に武智はこの時、微かな苦笑を洩らしたようだった。
「おまんは、心配性じゃのう。」
柔らかな声の響き。それに収次郎がはっと顔を上げれば、そこには踵を返し、こちらに向け
優しい視線を落としてくる武智の姿があった。
「さて、行くがか。」
仕度が整った事を告げられ、収次郎は慌てて目の前の包みを手に取ると、立ち上がる。
しかしその間にも、目の中には先程見た武智の穏やかな表情が張り付いていた。
だから、
「…抱きたい…のぉ…」
無意識に自分の中に沸き上がった感情。
想うと同時に、目の前の武智の目が驚いた様に見開かれる。
その反応に収次郎はこの時初めて、自分が内心の想いを実際の声にしてしまっていた事に気付いた。
「あっ…いやっ、これはそのっ、そう言う意味やのうて…っ」
急ぎ取り繕ろうと言葉を発するが、それはなかなか意味あるものになってくれない。あげく、
「ただなんちゅうか、こう…柔らかそうや思うたら、触れとうなったっちゅうか、突つきとう
なったっちゅうか…っ…」
意味的には同じと言うか、むしろ変質的に更にまずいと言うか……
混乱してしどろもどろになる。そんな収次郎を武智はしばし無言で見遣っていたようだった。
だからその視線に居た堪れなさを感じて、収次郎はたまらず堅く目を閉じる。
が、そんな自分の胸元、不意にふわりと入り込んできた気配があった。

363:江戸御菓子噺 其の弐 3/3
10/03/14 22:30:20 b5fM5CE+0
えっ?と思い、反射的に目を開ける。と、そこにあったのはひどく近くにある武智の姿だった。
「たっ、武智先生?!」
我知らず上擦った声が口をつく。
するとそれに武智は、やはりしばらくの間沈黙を守っていたが、それでもやがてこう呟いた。
「体は……別になんちゃあ変哲のない堅いもんじゃぞ。」
ひそりと落とされた、その言葉の真意を測りかねた収次郎が、思わずその顔を覗き込もうとする。
しかし武智はそれを許さなかった。その代わり、
「……それを、こんだけでええがか?」
重ねられた言葉。
許されているのかと理解をすれば、それは同時にそれだけと言われると少々困ると言う
欲深なものになった。
けれど、
「……はい…」
今は、目の前の僥倖を享受する事にだけ目を向ける事にする。
手にした包みごと、腕をその背に回す。
初めは触れるか触れないか程に恐る恐る。
しかしそれにも武智が逃げない事がわかれば、腕の力はたまらず強いものになった。
深く胸の中に引き寄せ、抱き締める。
強く、誇り高く、それゆえに脆く、心のどこかで己を厭うている人だった。
そんな人が抱き締められた腕の中で少しだけ可笑しそうに呟く。
「おまんも伊蔵も……阿呆じゃ。」
慕う自分達をそんなふうに言って笑う。
そんな武智が、今の収次郎にはひどく寂しく、そして愛しかった。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
先生を幸せにしてやりたかった。

364:風と木の名無しさん
10/03/14 23:07:54 /DiVn1R60
>>356
ありがとう恋バナな双子じれったくて可愛過ぎる。
お土産が無事届きますようにww

365:風と木の名無しさん
10/03/14 23:34:19 7snfPTlp0
>>347
>>361
タイガー姐さん待ってました!!
笑顔のイゾとテンテーが嬉しい!でも幸せそうな様子がかえって切ないのは何故なんだろう
そして待ってました漢シュージロ・・・おまえさん漢だよ。ホント。テンテ支えてやってくれ


366:風と木の名無しさん
10/03/15 12:08:12 a2Fo0JeZ0
>>325
亀だけど萌えたよ!!ありがとう!

367:板缶1/3
10/03/15 23:48:58 VpLON/4V0
il 板缶です。最終回に触発されて初捏造します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!




 ふっと目を覚ました瞬間。
 見やった時計は、まだ夜明けが遠い。暖房の消えて久しい室内は冷え切っていて、布団の中、腕に包んだ温もりがことさら温かく感じる。
 いつもなら満足げに目を閉じて、猫のように背中を丸めているはずの温もり。
 その綺麗な顔が、苦悶に歪んでいたから、慌てて背中をさすった。
「おい。おい、神部!」
 額に浮かんだ油汗。何かに耐えるように、口は堅く引き結ばれている。
 いやいやをするように首を振って、何事かうめく。その頬を軽くはたくと、ん、と小さく身じろいだ後、ようやくまぶたが持ち上げられた。
「あー……おはよう、ございます」
「おはよう。じゃねぇよ、うなされてたぜ」
「そうですか?」
 額に手をやって、深くため息をつく。少し前までいた夢の世界の記憶を振り払うように、軽く頭を振った。
 その仕草の慣れた様子も気がかりだったが、それ以上に驚いたのは、こいつの瞳の色だ。
 伏せられた瞳に浮かんだ、ぞっとするほどに暗い光。こんな目をしているこいつは、知らない。
「すみません。起こしてしまいましたよね」
 ふっと寄せられた唇。頬をかすめた感触は乾いている。
「余計なこと心配してんじゃねぇよ」
 肩をひきよせて布団をかける。抱きしめるように腕につつみこんでやると、ふっと笑ったような息遣いが聞こえた。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
「……はーい」
 優しい言葉なんてかけられない。甘い言葉も慰めも、俺の辞書にはないから。
 それでも、こいつはちゃんと、憎たらしいほどそのことを分かっている。
 


368:板缶2/3
10/03/15 23:51:08 VpLON/4V0
 肩に触れる息が、規則正しいものになっていく。やがてその息遣いが穏やかなものになって、体の力が抜けていったのを確認して、ようやく訪れた眠気に身を任せることにした。

 これが初めてというわけではない。夜中にうなされて、はっと飛び起きることなんて、本当に日常茶飯事だった。
 どうしてなのか、気にならないわけではない。それでも理由は聞けなかった。
 俺たちは、知らないことが多すぎる。元々、一足飛びにいろいろなものを飛び越えて結んだ関係だ。
 俺もこいつに話していないことなんて山ほどあるし、こいつもきっとそうだろう。

 それでもいいと思った。
 刹那の関係だから、なんて思っているわけじゃないけれど。
 今こいつがここにいる、そのことだけで、俺には十分すぎる。

「(話したくなったら自分から話すだろ、俺がつっかかったところで、お前さんはどうせ、笑って流すだけだろうさ……)」
 温もりを引き寄せて、遠い夜明けに思いをはせながら、ようやく目を閉じた。

 今日はあまり、眠れなそうな気がした。


******

 夢が、近くなっているという自覚はあった。
「……おい。…おい、神部!」
 まぶたを強引にこじ開けたのは、あの人の力強い声。
 背中に感じた大きな手の感触に、目を開く力をもらう。


369:板缶3/3
10/03/15 23:54:12 VpLON/4V0
「あー……」
 目を覚ましたとき、愛しい人が近くにいる。素肌で触れ合って、存在を確かめる。そんなことで安心できるなんて、俺も相当、重症だ。
 おはようございます。なんてボケた呟きにも、律儀に返事が返ってくる。
 彼の低い声は、うなされていたことを告げても、決してその理由は聞いてこない。そうされるたびにいつも、まるで針でちくちくと刺されているような気持ちになる。
 優しい、けれど。その優しさに答えられない自分が、嫌で仕方なくなる瞬間だ。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
 肩を抱く腕に、力がこもる。その腕の温かさに、ふっと体の力が抜けていく。
 ここにいるだけで、安心できる。この不器用で無骨な人の、大雑把な優しさは、俺にとっては心地いい。

 俺の帰る場所は、ここにある。
 いつかきっと、彼が俺のすべてを知る日が来る。そのとき彼が、今と同じように俺を迎えてくれるかなんて、分からないけれど。
 それでも。せめて今だけは、この温もりに溺れていてもいいでしょう?

 筋肉に覆われた硬い腕に指先を這わせて、まぶたを閉じる。

 今度は、さっきより少しだけ、いい夢が見られそうな気がした。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
文章難しいです。いつも投下してらっしゃるネ申お姉さま方を尊敬します。
お付き合いありがとうございました。

370:風と木の名無しさん
10/03/16 00:36:16 B2yCiS6RO
>>356
各々の恋に悩む双子たちがめっちゃ可愛かったです!
(連絡が来たらまた報告しあうのかな?秘密かなw)
いい萌えをありがとうございました

371:風と木の名無しさん
10/03/16 02:16:44 Bm8GvWAZO
>>367
板缶待ってました!いつもの姐さんとは違う方なんですね。色んな方の板缶ウェルカムです!
板の不器用な優しさが萌えた!缶がうなされる夢、その過去が大変気になります…居場所できて良かったね缶(´Д⊂
こっちの板缶もシリーズで読めたら嬉しいです。

372:風と木の名無しさん
10/03/16 06:11:39 xXP1c9SQ0
>>367
おおおおお!
板缶はやっぱりいいなあ
萌えをありがとう!

373:風と木の名無しさん
10/03/16 07:01:31 Gz9rC7fNO
>>367
あああ、ありがとうございます!やっと板缶が読めた!
心底ウェルカムです!板缶和むな~

374:il缶ウキョ 1/3
10/03/16 19:40:14 XPoJxzSiO
il缶×ウキョ 缶独白です
il続いてしまって申し訳ありません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

最初はなんでこんな仕事、と思いましたよ。
僕にはやらなきゃいけない事がたくさん残っていたし
今するべき仕事なのか?ってね。
だけど必要な事だと言われればそういうものだと疑う事もしなかった。
こちらの方が必要な仕事で、FRSは部下が引き継いでくれている。
この仕事が終われば、僕もまたFRSの開発に戻るんだろうと思っていたしね。
庁/内Sを派遣されるような人物にも興味あったし?
ま、さっさと終わらせて早く元の部署に戻ろうと考えていたけど。
ところがあなたは最初から警戒心剥きだし、意地悪そうな顔してるし、
細かいし冷たいしすぐにどっか行っちゃうし僕の事無視するし
僕ほんとなんでこんな人の観察しないといけないんだろうってかなりいらついちゃいました。
でもあなたの観察が僕の仕事ですから?一生懸命やりましたけどね僕なりに。
もうほんと違法捜査ばっかりだしでっちあげとか考えられないですよ僕ら警察ですよ?
なのにえ?そんな所見てんの?みたいな。え?そんな事も知ってんの?みたいな。
誰もがあなたみたいに博識だと思わないでくださいね。
あなたみたいな人についていくのがどれだけ大変だったか。
だって僕だって負けてられないじゃないですか。
ミイラ取りがミイラに飲み込まれるわけにはいかないんですよ。
次の日に行く所がわかってたら一夜漬けで勉強しましたよええそれこそ朝方までね。
そのへんの苦労、今度たっぷり時間をかけてお話したいと思ってます。あなたの好きな鼻の里ででも。
あ、でも今度僕のいきつけのお店にでも連れてっちゃおうかな?
あなたが知らなそうなとこ、いっぱい知ってますからンフ
僕だってね、いつもいつも感心させられてばかりじゃ悔しいですから。
あなたのその鼻っ柱をへし折ってやりたくもなるんですよ。

375:il缶ウキョ 2/3
10/03/16 19:41:36 XPoJxzSiO
ああ、我ながらなんでこんな道選んじゃったんだろー。
たくさん飲んじゃったな~。大高知さんどこ行ったんだろ。
未練?そりゃありますよ。あるって言ったらまたなんかうるさそうだから言わなかったけどね。
だってFRSの開発はそれこそ僕は企画から携わってきたんだから。
僕がこの仕事に就いて…一番力を入れていた、いわば…「夢」だったんです。
これで日本が変わるんだって。これでたくさんの犯罪が減るんだって。
そう信じてたのにな…。
良かれと思っていても、正しいと思っていても、結果がうまくいくとは限らない…か。
もちろん、うまくいかないとも限らない。
絶対にそんな事はあり得ないって思っているけど僕だっていざあのシステムを目の前にしたらもしかして…。
祝いさんだって打手さんだって、僕と同じ信念を持ってあの開発に携わっていたんだから。

だけど、あの杉舌警部をその主任捜査官に選んだのはすごいよねぇ…
そうじゃなかったら僕はあの人と会う事はなかったんだ。
こんな狭い世界で、一生会わなかった。
…ああ…なんで僕はこんなに…
いつからだろう。この半年間。たった半年、でも、十分な月日だった。
あなたのイメージは、孤独で異端で人と関わる事を嫌うような、いわゆる「厄介者」だった。
ところが実際のあなたは誰よりも人が好きで、他人の事に一生懸命で、できる事なら全ての人を守ろうと思っていた。
きっと、僕の事も。
僕が庁/内Sだなんてそれこそ会った瞬間にもう気づいてたんだろうなぁ。
それなのに。「ついてこなくていいですよ」、の次には「どうぞお好きに」がついてくる。
だから僕は好きにした。
出世だとか、僕の長年の夢だとか、その全てを捨てても構わない。
むしろどうしてもそうしたい。
この半年間、あなたを見てきた僕の答えです。

376:il缶ウキョ 3/3
10/03/16 19:42:36 XPoJxzSiO
僕は…きっと言葉にできないほどあなたに惹かれているんだ。
憧れなのかな。僕はあなたのような警察官になりたい。
あなたの近くでずっとあなたを見ていたい。
もっとあなたの事を知りたい。
あなたの事を知れば知るほどのめり込んでいく自分を感じるんです。
こんな気持ちは初めてだな。

未練なんかタラタラだよ。
これからいや~な目にいっぱい会うんだろうし。あーあやだやだ。
でもなんでだろ。清々しい。
それになんだか嬉しい。
だってどんな事が起きても、彼は僕を裏切らない。
絶対に裏切らない。
そして…僕も彼を絶対に裏切らない。
こういう関係をなんて言うんだろう。
こういう関係を、なんて……


「寝てるのか
…まったく。これからの自分の立場を分かっているんだろうな?
…だがあの人なら………。
俺も、信じてみる事にした。
お前がそこまでして信じた…「相棒」ってやつを、な。」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

377:風と木の名無しさん
10/03/16 19:47:49 mrEvzFAQO
>>374

GJ!
憧れの存在っていいなあ(´ω`)

378:風と木の名無しさん
10/03/16 20:05:44 +lPWTIRc0
>>367
板缶嬉しい!!
ああ、もっと板缶読みたいです!!

379:風と木の名無しさん
10/03/16 21:12:06 Tyr9/ybS0
>>374
相思相愛缶ウキョいいなあ
GJすぎて正直泣きそうだ
未練たらたらでも、アイボウもできたしラムネもいるし、帰る場所がちゃんとできてよかったね缶(ToT)

380:速安 speed drunker
10/03/16 22:46:54 wRiWhudS0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ハンチョウの速安ダヨ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  原作よりで匂わせてるだけだモナ……。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「お疲れ。今上がりか?」
署から出ようとしたところで、安積は速水とばったりはち合わせた。
「俺も上がりなんだ。乗ってかないか。たまには俺とドライブしようぜ」
ちょうど事件が一つ片づいたところで少し疲れていた。
速水の運転というのが少々気になるが、帰宅のラッシュに揉まれるよりはいいかもしれない。
「お前が上品に運転してくれるのなら考えないでもない」
ナンパのような誘いに、安積は勿体ぶって答えた。
「わかったわかった、どこかのお姫様でも乗せてるみたいに運転してやるよ」
速水は見事なウインクを残し、本人曰く「法の許す限りにおいてばりばりにチューンナップ」された愛車を取りに行った。

381:速安 speed drunker
10/03/16 22:47:55 wRiWhudS0
台場はがらんとした街だ。
大きなビルが建ち並んではいるが、ごちゃごちゃとしていないせいで、逆にだだっ広さを感じさせる。
それを過ぎて橋を渡る。暮れなずみ、灯りが点り始めた一番美しい時間。
風景が車の窓ガラスをなめらかに流れてゆく。仕事の気分がだんだん薄れていくのを安積は感じた。
速水はすっかりリラックスしてハンドルを握っている。
気の置けない友と二人きりの車内は、エンジンの音だけが穏やかに響いていた。
金色が一瞬、水平線のふちに最後の光芒を煌かせて消えていく。
安積は夕日を背負った飛ばし屋の少年を思い出した。
殺人事件の参考人となった彼が速水に仕掛けた公道でのレース。
乗り合わせてしまった安積は、絶叫マシン顔負けのスリルを速水の運転でたっぷり味わわされたことがある。
命がけのバトルで、速水は伝説と呼ばれたその少年を一度抜いた。
その時見た全身から気迫が吹き出しているような速水の姿。
いつも飄々とした旧友の初めて見る一面に、不可思議な高揚が背筋を駆け抜けたのを思い出し、
安積は前方を見つめる横顔に「今日は大人しいんだな」と話しかけた。
「そりゃあ、大事な大事なお姫様を乗せてるからな」
速水はにやりと笑いながら安積に向かって恭しく点頭した。
「誰がお姫様だ」
「じゃあ、飛ばしてやろうか」
不適な笑みを閃かせた速水は、返事を待たずにアクセルを踏み込んだ。
やめろと言っても聞く男ではない。
安積は呆れ顔を少しひきつらせ、Gで押しつけられたシートにしっかりと掴まった。
車線移動を駆使して、速水は次々に車を追い抜いていく。
これくらいのスピードはなんてことないのだろう、鼻歌交じりだ。

382:速安 speed drunker
10/03/16 22:49:16 wRiWhudS0
しばらくすると、安積もスピードに慣れてきた。
余裕が出てくれば、恐怖は簡単に爽快感へととって変わる。
追いかけ、追いついて、追い抜く。スィングするジャズのようなリズムがその走りにはあった。
バスドラムのように低く響くエンジン音。鋭く鳴るシンバルのような鮮やかな方向転換。
速水の奏でる旋律に魅せられ、安積の心も浮き上がっていく。
陳腐な台詞だが、男は少年の頃からなにも変わっちゃいない。
ミニカーを手で押して遊びながら、自分より遙かに大きい鉄の塊を自在に操る夢を見ている。
スピードの快感に酔える生き物だ。
だが今俺が感じているのはそれだけじゃないようだ、と安積は思った。
自分で運転するときは次にどう進むのか分かっているから体が身構えられる。
誰かに運転を任せたとしても大体予想がつく。
しかし速水の助手席では、全く予測できずにただ振り回されてしまう。
今感じているのは、無防備なまま強く大きいものに翻弄される快感だ。
やや被虐的な悦びも混じっている。
そういうのも自分は嫌いじゃないらしい、と安積はまた思う。
「気持ちいいだろ、安積」
見透かしたように速水が言った。
「あぁ。……少し、癖になるな」
陶然とした声で答えると、速水が含み笑いをして目を細めた。
混みあった部分を抜き去り、前を走る車はほとんどいなくなっていた。
スピードは落とされたが、見通しがいいという一事だけで十分に気持ちがいい。
乗せられているだけでこうなのだから、運転している速水はさぞかしいい気分だろう。

383:速安 speed drunker
10/03/16 22:50:09 wRiWhudS0
「なあ、飛ばすのってどんな気分なんだ?」
「それは仕事のことか? それともプライベートの話か?」
「お前にその区別があるようには見えないがな」
「ひどいなぁ。ありますよ、もちろん」
速水は指をハンドルの上で軽やかに踊らせ、タタンタタンとリズムを刻んだ。
「じゃあ聞くが、刑事が犯人を追い詰めるときの気分はどんな感じだ?」
「質問返しか?」
言い返しながら、安積の手は口元に自然と伸びた。薄い唇を親指で弄るのは考えるときの癖だ。
「刑事は猟犬みたいなものだ。俺たちは捜査の間、犯人のことばかり考えている。
追い詰めたときやワッパを掛ける瞬間は、高揚感も確かにある。
だが俺たちの仕事では被害者が必ずいるんだ。
だから……楽しいとか嬉しいとか思ったことはないな。
そういう感覚は持ってはいけないんだろうと俺は思ってる」
「同じだ」
速水はあっさりと言った。
いつものように真面目過ぎるとからかわれるかもしれないと思ったから少し意外な気がした。
「じゃあ、プライベートのときはどうなんだ?」
「そりゃもう、いい気分だ」
すっかり暗くなった窓から、安積は速水の方へと目を移した。
レースの快感を体の内に蘇らせているのか、速水の表情が次第に精悍さを増してゆく。
「一人で飛ばすのもいいが、強い相手がいたほうがもっといい。
そいつのことしか見えなくなる。飛ばして、追いついて、ねじ伏せたくなる」
速水は口元に緩い笑みを浮かべた。精悍さに、凶暴な衝動の匂いが加わる。
「一旦抜いて頭を押さえたのに、またすり抜けられるのも悪くないな。
手が届きそうで届かない、そういう獲物ほど燃えて、体が疼く」
速水がちらりと安積の方を向いた。

384:速安 speed drunker
10/03/16 22:52:48 wRiWhudS0
「肉食獣みたいだな。ライオンとかそういう、猫科の」
目が合ってはじめて見とれていた自分に気づき、安積は照れ隠しに言った。
「……そうかもしれない」
速水はうっそりと笑い、唇をぺろりと舐めた。
「猫は獲物を弄ぶって言うからな。本気を出せば手に入れられることは分かってる。
だが、俺はずっと駆け引きを楽しんでるんだ」
意味ありげに安積を見た速水の瞳が、街灯の光を反射して光った。
その瞬間、ぞくりとした快感が背筋を駆け抜けた。
「……っ……!」
安積は息を詰まらせ、両腕で己の体を抱きしめた。
得体の知れない感覚が体の中で膨れ上がっている。
何かが疼くような、苦しいのに、どこか甘いような―。
「どーしたの、安積くん? 車酔いか?」
さっきまでとは一転して呑気な声で速水が訊いた。
何にも知りませんとばかりに惚けた顔をしている。何が肉食獣だ。こいつは絶対、分かってやっているんだ。
「さっきの話……なんか含み持たせただろ」
むかっ腹が立った安積は、じとりと速水を睨んだが。
「考えすぎでしょ?」
はげるよ、安積ちゃん、といつものように軽く言い、
速水は「お前のマンションまで送ってやるよ」と読めない瞳で笑ってみせた。
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 初投下なんでナンバリングし忘れた、スミマセン。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

385:キューカンバーの猫 1/5
10/03/17 09:14:18 KY+WLi9f0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  リリで801スレの>>399からの流れを
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  遅ればせ&超自己解釈ながら書いてみるよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

スーパードッグリリ/エン/タールのねこと虎の話
ねこ独白でヤマなしオチなしイミなしエロなしです
ソフトに喰う喰われる系の話なので、一応ご注意を


386:キューカンバーの猫 2/5
10/03/17 09:17:14 KY+WLi9f0

シュバ/インさんにきゅうりを頂いた。瑞々しく歯ごたえの良い、美味しいきゅうり。
シュバ/インさんは、私の成り行き上の飼い主:アキラの上司で、とある組織の管理職に就いている。オールバックのなかなか良い男で、仕事もできる、申し分のない大人だ。茶髪のヒラ組員で、銃が無ければ仕事ができないアキラは、今この部屋には居ない。
薄暗い部屋には、私と、煙草を嗜むシュバインさんだけ。
あぁ、壁面の水槽で泳いでいるアロワナも居ましたね。アキラは、私がネコなのに魚を食べたがらないことを不思議がっていたなぁ。
スーパーうちゅうねこの私が魚ではなくきゅうりを主食とするのは至極当たり前のことだから、アキラやその他の人間が勝手に考えた理屈を当てはめないで欲しいと思うのだけれど。
そういえば、私と同じ時に生まれた、あの方は……

「きゅうりは美味くなかったか、ネコさん?」

―あぁ、ぼんやりとしていてきゅうりを食べるのを忘れていました。シュバ/インさんに要らぬ気遣いをさせてしまいましたね。

『いいえ、少し考え事を。きゅうりはとても美味しいですよ』
「そうか」

ボリボリ ボリボリ
再びきゅうりを咀嚼し始める。薄いけれど固い皮、真ん中と周りで微妙に食感の異なる中身、甘くも酸っぱくもない味。
以前シュバ/インさんが「きゅうりは最も栄養の無い野菜だそうだ」と教えてくれたけれど、恐らくRD-1の不思議な力で、私はきゅうりからエネルギーを得られているのでしょう。
ほとんどの生物はたんぱく質等を摂らなければ生きていけない、というのが世の常識であるから、そういうエネルギーサイクルを持つ自分が特異なのは分かります。

そう考えると、あの方の好物は至極道理に適ったものだったなぁ。
思い返すのは、同じ日に存在を始め、自分より早く消え失せてしまった「血も/涙も/ない虎」のこと。彼は、私を食べるために生まれ、私を食べることにのみ執着した、私にもっとも近い存在だった。


387:キューカンバーの猫 2/5
10/03/17 09:18:07 KY+WLi9f0

アキラに初めて出会った、生まれたばかりの頃は、ただ漠然と「存在」しているだけで、何をすべきか分からなかった。今なら分かるが、食欲などの基本的欲求も感じず、思考能力は低く言葉も持たなかった。
だが、目の前に彼が現れてからは、「自分は狙われている」「逃げるべき」「飛べる」「姿を消せる」といった情報が一気に流れ込んできて、誕生からほんの数時間で私の知識量と能力はぐんと上がった。
同じように彼も、「猫を食べる」「飛べる」といった情報をぐんぐんと吸収したのだろう、追い付け追い越せのスピードで成長していった。危うく、アキラごと食べられてしまうところだった。

最後には、見えない何かによってその存在は消されてしまったけれど。

ボリ ボリ ボリ ゴクン
咀嚼し嚥下したきゅうりが、食道を通って胃に落ちたような感覚。
血も/涙も/ない虎さん。あなたがもし私を捕えていたのなら、私はきゅうりのように噛み砕かれて、あなたのお腹に納まっていたのでしょうね。
RD-1の力によって生み出された私たちの体がどうなっているか分からないけれど、飲み込まれてから消化されるまでの間、私はあなたの中で、何を考えるでしょうか。


388:キューカンバーの猫 4/5
10/03/17 09:20:30 KY+WLi9f0

正直なところ、私、あの時あなたに食べられていても良かったかな、なんて思ってるんです。だってあなたは私と同じですから。
得体の知れないモノから生まれた得体の知れない自分は、なんだかフワフワしていて、不安になる時があるんです。
同じ存在のあなたに取り込まれて内側から観察できたら、自分のことが少しは分かるんじゃないか、なんて思ったりしてるんですよ。
……そんなことを考えたって、あなたは居なくなってしまったのだから、埒の無い話ですけどね。

「失礼します!シュバ/インさん、聞いて下さいボンボン組の奴らが…」

おや、アキラがやってきました。考え込んでいたから、気配にも足音にも気付きませんでした。なんだか興奮している様子です。おやすみビームでも出してあげましょうか。

アキラやシュバインさんと過ごす毎日は、穏やかだけど刺激的で、日々自分の何かが成長していくのを感じます。それは、フワフワした自分が、安定した形に作り上げられていくような感覚です。
虎さん、いつか、自分の存在を不安定に感じなくなった時、すぐに消えてしまったあなたのことも理解できるようになるのでしょうか。そうだとしたら、私は、とても楽しみだ。


389:キューカンバーの猫 5/5
10/03/17 09:21:16 KY+WLi9f0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ものすごい今更感
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
自分で言っといてシリアスでも何でもない……
ナンバリングミスったしよくわからん話でごめんなさい

390:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 1/3
10/03/17 21:38:31 BgtTiecXO
架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠です。
感想、続きリクエストありがとうございました。
架空のスタッフについては模索中でして、実は全作品別人のつもりで書いておりました。
今回これを機に前作と同一のスタッフとして前作のその後を作りました。
師匠が出てこない会話だけのお話ですが、読んでいただければ幸いです。
一覧:13-489 48-11 55-156 56-265
延々規制中につき携帯より失礼します。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


松/村はヒラ/サワの背後に回ると、耳元で囁いた。
「あいつに何されたんですか?」
「…変なこと。」
「お腹見られてましたね。」
「うん。」
「脱いだらすごいのばれちゃいましたね。」
スルリと服の中に手が差し入れられ、腹部をなぞる。
ヒラ/サワがくすぐったさにのけぞると、その首筋を松/村の舌が這う。
指はそのまま上へと向かい、突起をかすめた。
「…っ」
「今日は抵抗しないんですね。」
「ん…っ」
「それに、いつもより感度がいい。」
松/村はまるでメンテナンスをするかのようにヒラ/サワの体を解いてゆく。
「俺にしか聞けないいい声…聞かせてください。」
ヒラ/サワは唇を噛みしめ、松
「おい」

391:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 2/3
10/03/17 21:39:53 BgtTiecXO
「はっ!」
しまった。世界に入ってた。
仕事の合間の待ち時間、ちょっと暇を持て余した俺はノートブックに落書きをしていた。
それを、背後から見られてしまったようだ。
松/村に。
「お前なぁ…」
「なんだよ。勝手に見るなよ。」
「俺出しといてよく言うわ」
「お前じゃねーよこの松/村は別の松/村だよ。……なぁ、あの後どうなったんだよ」
「…壊れたヒラ/サワさんをメンテナンスした。」
「まじで?!詳しく聞かせろよ。」
「変な想像すんじゃねーよ。」
「嘘だ、あんな状態のヒラ/サワさんを前に何もしない男なんか居るか」
「お前なぁ…」
「たまらなかったよな。あのダラーッとしたヒラ/サワさん。」
「…。」
「いつもはキビキビ動いてて隙が無いじゃん」
「…いや、隙は結構あるだろあの人。」
「いっつもなんか睨まれてるような気がするし下手な事言えないし」
「お前が変な目で見てるから警戒してるんだろ。」
「それがあんな風にフニャフニャになってトロンとした目で溜息つかれたら…ヤバイだろ」
「別に。全然。」
「俺だけじゃないと思うよ?」
「お前だけだよ。」
「もうなんかだって…ストレートに言うとさぁ…。喘いでる声が聞きたいんだよ。」
「…はぁ?!」
「で、「やめて」って言いながら感じてる顔が見たくてしょうがない。」
「おま…」
「嫌がるヒラ/サワさんをこう、こう…」

392:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠 3/3
10/03/17 21:40:52 BgtTiecXO
「この、変態。」
「え?何モノマネ?似てないし!…お前は?そういうの無いの?」
「無い。………好きなの?」
「え?」
「恋してんの?」
「…いや?」
「違うの?」
「なんか、とにかく気持ちよがってる所が見たいってだけなんだけど。」
「ただの変態じゃん」
「でも酷い事がしたいわけじゃないんだよ。」
「酷いだろ充分」
「違う。気持ちよくさせたいっていうか…逆に喜ばれたい。」
「喜ぶわけねーだろ」
「そうなんだけど~」
「……。」
「……想像しちゃった?」
「いや、」
「しちゃっただろ?」
松/村は数秒黙った後、頭上を払うような振りをした。
やっぱり想像しちゃったんだ。
「見たくない?」
「ない。」
「嘘だ。自分の手で、こう、」
「なーい。」
そうなのかなぁ…。
ああ、今日も妄想が止まらない。
これじゃ、まるで、恋だ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

393:il 板+缶 1/2
10/03/17 22:47:21 OHrlzyvk0
il 板+缶 ほのぼのというかなんというか。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

久し振りに訪れたちょっといい居酒屋で、ほろ酔いのいい気分で、何故だか俺は眉間を撫でられている。

「もーそんな無駄に怖い顔だから余計に怖がられるんですよー
 ほら、特にここ、眉間、皺になっちゃってるじゃないですかー」
細い指が、眉間の皺を伸ばすようにぐいぐいと押し当てられる。
「だからー、そんなに怖い顔してると、ここもっと皺が深くなっちゃいますよー?」
皮肉気なうすら笑いを常に貼り付けているような男が、何が楽しいのか、子供のような喜色を目に浮かべて眉間を執拗に撫でてくる。
からかいというよりじゃれあいと言うべき行動に意表を突かれ、呆れてうんざりした挙げ句に忌々しいと振り切っていただろう。普段なら。
そうしなかったのは酔っていたからだ。多分。
じゃれ合いにつき合ってやろうと思ったのも酔っていたからだ。間違いなく。
「警部補殿はもうちょっと皺があった方が貫禄出るんじゃないですかね!」
お返しと言わんばかりに、俺は目の前のつるりとした顔を両手でぎゅうと挟みこんだ。
虚を突かれたように目が見開かれたのは一瞬で、またすぐ糸のように細くなる。
頬を挟まれたままタコのように口を尖らせて、なにするんですかー、とでも言っているのかくぐもった声を出す。目に笑いを浮かべたまま。
両手で挟んだ頬が熱い。顔に出ないだけで酔っているのかこの男は。
そもそも、若干の感謝と、過去に関わった事件の話を聞いてやるつもりもあってこの店を選んだのに、何がどうしていい年をした男二人が子供のようなふざけ合いをしているのか。
思い至って気が抜けて、白い頬から手を離す。

394:il 板+缶 2/2
10/03/17 22:49:29 OHrlzyvk0
自分より酔っ払った人間が居ると酔いが醒めるの法則で、途端にじゃれ返した自分が大いに恥ずかしくなってくる。何をやっているんだ一体。大して親しい間柄でもないくせに。
酔った男はますます笑みを深くして、なおもこちらの眉間に手を伸ばしてくる。
本気で怒るのも馬鹿馬鹿しく、適当に手を振って白い指先をかわすと今度は手を標的にじゃれてくる。子供から猫か。どっちも相手をするのは苦手だ。
今ここから酔っていいものかどうか、ぬるくなっていく酒を片手に逡巡する俺をよそに、両の目元と口元を三日月にした酔っ払いは、上機嫌の猫のようにあくびをした。

たっぷりと朝の日差しが差し込む玄関フロアの中を、二日酔いの欠伸をかみ殺しながら歩いていると、視線の先にすらりと背の高い黒スーツの男がかすめた。

「……あー、昨日は…」
「あ、昨日はごちそうさまでしたー」
ひょいと礼をして上げられた顔にはいつも通りの薄い笑みが張り付いて、昨夜の子供染みた気配は欠片も見当たらない。
「い・い・え。おそまつさまでした」
反射的に憎々しげな口調で返す。
大方昨夜のあれはこれやは酔って記憶にないのだろう。それならこちらも大いに助かる。
足取り軽く立ち去るその背中を、いつも通りの顰めた面で、恐らくきっと二日酔いの不機嫌さで見送って、

そして、何故だか俺は自分で自分の眉間を撫でた。

「僕、貫禄足りませんかね」
「はいー?」
「いえなんでもないです」
「何かありましたか?」
「いえほんと、なんでもないです」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

395:風と木の名無しさん
10/03/17 23:03:36 cXyJh/mf0
>>393
か、可愛ええー!!なんて可愛い板缶なんだ!
やっぱり板缶嬉しいなあ。どうもありがとう!!

396:風と木の名無しさん
10/03/17 23:22:06 4U1SkM1+O
>>393
覚えるのか缶w
子供で猫でじゃれてくる酔っ払い缶可愛いです!板缶はやっぱりいいなぁ。姐さんありがとう!

397:風と木の名無しさん
10/03/17 23:54:21 tJSjN0mX0
>>390
待ってました!!あなたの作品大好きです!変態スタッフがんばれww

398:風と木の名無しさん
10/03/18 00:19:20 QOZ9C5Ep0
>>393
手玉にとられる板イイヨー
やっぱり缶は猫なんだ・・・かわいすぎる
素敵な萌えをありがとう

399:歩くような速さで 1/6
10/03/18 17:39:29 /sBn5cNt0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  愛某、缶と彼
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  テラ捏造だよ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ >>393サンキューサ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

400:歩くような速さで 2/6
10/03/18 17:40:03 /sBn5cNt0
 その場に駆けつけたときには既に、目的の半分は果たされていた。
 遠くに、先ほど聞いた悲鳴の主と思われる女性の姿、近くに、よろめき駆けてくる、フルフェイスのヘルメット。
 そして、そのちょうど中間に、倒れたバイクと、バッグを抱えて転がった、男の姿があった。
「ちょ、お兄さん、そいつ止めて! 引ったくり! 引ったくり!」
「言われなくても、見りゃ判るっての」
 男の叫びに呟きながら、両手をいっぱいまで広げ、フルフェイスの進路を塞ぐ。
 狭い路地である。相手は一瞬、こちらを避けるか迷ったようだが、すぐに方針を強行突破に切り換え、一気に速度を上げた。
 恐らく自分が、見た目に甘い、優男だからでもあったろう。しかし生憎、神部健は、そういう理由で軽視されるのが、何より嫌いな男であった。
「はいはい、ストーップ。さもないと、」
 続きを待たずに殴りかかってきた腕を躱して、引っ掴む。そのまま、突進の勢いを逆手にとって反転すると、神部はアスファルトを踏みしめて、一気に相手を背負い投げた。
 ずだん!と大きな音をさせ、フルフェイスが地面に落ちる。したたか背中を打った体が、呻きを漏らして、痙攣した。
「……こういうことになっちゃうよ、と」
 もう遅いけど。と付け足しながら、男の体を引っくり返し、背中を膝で押さえつける。更に両腕を捻り上げると、流石に男も観念したのか、ヘルメットの頭を落として、くたびれた声で毒づいた。
「だいじょぶ? 怪我ない? あ、落ち着いたら、中、調べてね。盗られたもんない?」
 転がっていた男にも、どうやら大事はないようだ。バッグを女性に渡しながら、気遣う言葉をかけている。
 間もなく、事態に気が付いた誰かが通報したのだろう、サイレンを鳴らして近づいてくるパトカーが傍に停まるまで、神部は引ったくりの両腕を固定しながら、待っていた。

401:歩くような速さで 3/6
10/03/18 17:40:32 /sBn5cNt0
 そして、加害者と被害者を、それぞれに合った対応で預かってくれる人間の手に、よろしく頼んで渡したところで。
「ありがとうございましたっ!」
 と、たいそう大きな仕草で頭を下げると、今回の功労者の一人は、まるで子供のように笑った。
「お兄さんが来てくれなかったら、危うく逃がしちゃうところだったよ。バイクを倒すまでは上手くやったんだけど、歳かねえ」
「たいしたもんですよ。走ってるバイクに横から突進したんでしょ?」
「やー、丈夫だけが取り柄だから」
 開けっぴろげな男らしい。
 見た目は、神部と同年輩か、もう少し上というところだろう。カーキのフライトジャケットを着て、髪は短く刈り込まれている。赤銅色と言ってもいいほどよく陽に焼けた肌をして、くるくると動く表情は、いかにも健康的だった。
「しっかし、お兄さん、強いねえ! いや、止めてーとは言ったものの、……あ、気を悪くしないでね? 正直、吹っ飛ばされちゃうんじゃ、って」
「慣れてるんです」
「と、言うと」
「本職なんで」
「……やくざ屋さん?」
 その発想はなかった。
「刑事さん」
「ああ!」
 一気に合点がいった様子で、男は、ぽんと手を打った。
「いや、その、ごめんね、言っちゃ何だけど、」
「ホストか何かと思ってましたか」
「よく言われますか」
「よく言われます」
 しかも本日は非番である。普段からさほど堅苦しい格好はしない神部だが、オフともなれば、オンよりまして、カジュアルな服装をする。
「やー、最近の警察は、イケメン揃えてんだなあ」
 腕を組み、うんうんと頷く男は、フォローしているつもりらしい。鼻で笑うべきところだが、不思議と、そういう気にならないのは、まるであくどさを感じさせない、男の笑顔のせいだろうか。

402:歩くような速さで 4/6
10/03/18 17:40:58 /sBn5cNt0
「ともかく、ありがと。イケメンの上に腕っ節も強いなんて、警察の、いや、日本の、もとい、世界の未来は明るいなー!」
 ばしりと平手で打たれた背中は、それ相応に痛んだが、やはり文句を言ってやるという気持ちは、不思議と起こらない。むしろ何となく浮かれた気分になって、神部は微かに笑った。それを見とめたらしい男が、自身も目尻に皺を作る。
「実はさ、俺も、」
「いた! 馨ちゃん!」
 口を開いた男の言葉は、しかし女性の、辺りに凛と響いた声に阻まれた。見れば、男と同年輩の、颯爽とした女性が一人、低めのヒールを鳴らしながら、早足でこちらに近づいてくる。
「よ」
「よ、じゃない! ちょっと目を離すと、すぐどっか行っちゃうんだから! 一時帰国って言ったって、とんぼ返りなんだから、そんなに余裕はないんだよ!」
「あ、これ、三輪子。俺の、コレね。コレ」
「誰がどれか! さっさと来たまえ! 挨拶に行かなきゃならないとこ、まだまだいっぱいあるんでしょ!」
「わーかってるって、行きます、行きます! じゃ、元気でね、お兄さん」
「お世話さまでした!」
「はあ。こちらこそ」
 嵐のような二人である。
 何が何だか解らないまま、見送る形になった神部に、恋人に腕を引かれて、というより、引きずられながら歩く男は、首だけ捻って振り向くと、大きな声で、こう言った。
「あと、よろしくね!」
 何の「あと」だか、やはり、さっぱり解らない。ただ、何となく右手を上げると、神部は軽く、左右に振った。男が、笑顔で応じるように、ぶんぶんと大きく腕を振る。
「前向け前ー!」
「いて、痛えって、お前! 解った、前向く! 前見ます!」
 騒ぐ男も、その恋人も、以降は、一度も振り向かなかった。二人の背中が角を曲がって、完全に視界から消えるまで、神部はしばらくその場に立って、綻んだ口許を掻いていた。

403:歩くような速さで 5/6
10/03/18 17:41:20 /sBn5cNt0
 そして、翌日。
「ご機嫌ですね、椙下さん」
「そう見えますか」
 職場に着くと、名札を返し、神部はボトルの蓋を開けた。
「実は昨日、友人と、久方ぶりに会いましてね」
「ご友人」
「意外そうですね。僕に友人は似合いませんか」
「いぃえぇ?」
「そう言う君の方こそ、ご機嫌のように見えますが」
「ご機嫌、というか、……いや、昨日、変な男に会いまして」
「ほう」
「何ですかね、こう、無理やり気分を、上に引っ張っちゃうような」
「いますね、そういう人」
「いますよねえ」
「僕は嫌いじゃないですが」
 穏やかな笑みを浮かべた口に、椙下がカップを押し当てる。
「僕も嫌いじゃないですよ」
 その様子を眺めながら、神部も、炭酸水を含んだ。

404:歩くような速さで 6/6
10/03/18 17:41:55 /sBn5cNt0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ (公式で)やられる前にやれ!と思った
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

405:風と木の名無しさん
10/03/18 18:00:05 v7RXXs8j0
>>399
目から汁が出た
有り難う有り難う愛してる

406:風と木の名無しさん
10/03/18 19:22:32 LAsp7EUPO
>>399
有り難う!
缶と彼のやり取りが、映像で再生されました
ぽかぽかする読後感に浸って、良い気持ちです
本当に有り難う

407:風と木の名無しさん
10/03/18 20:58:41 YijyazHvO
>>399
私にはあの二人が出会ったらウキョさん争奪戦くらいしか思い付かなかった。
なんという暖かいお話。
ほんとそうだ、瓶ってそういう男だ。缶ってそういう男だ。
ウキョさんも幸せそうですごく嬉しい。
なんだか読んでて幸せな気持ちでいっぱいになりました。
どうもありがとうございました。

408:板缶1/3
10/03/18 22:58:32 481GIjeN0
il 板缶です。il続いてしまってすみません。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


 彼と庁内ですれ違うことは、よくあることだ。職場が同じなのだから当たり前だけれど。
 いつもは、軽く会釈をしながらすれ違うだけ。そうしようと決めたわけではないけれど、そういうものだろう。
 だから、少なからず驚いた。
 すれ違いざま、誰もいない廊下。俺の手をむんずと掴んだ彼の空いた手が、非常階段への扉を開けた。

「ちょっと、伊民さん?」
 広い背中をからかうように声をかけても、彼は何も言わなかった。かんかん、と非常階段を上がる高い靴音。諦めて、腕を引かれるままにした。どうせ暇なんだ、俺の仕事は。
 階段を上った先には、喫煙スペースにもなっている場所がある。昼を少しまわったところで、人影はなかった。
 晴れていたけれど、コートを着ていない体には三月の空気は少しだけ寒くて、襟をかきあわせた。
「どうしたんです?」
 俺の問いに、伊民さんは無言で煙草に火をつけた。深く吐き出された息とともに、紫煙が立ちのぼる。この気だるそうな顔が、俺はけっこう好きだったりする。
「昨日、どこ行ってた?」
 今朝、二日酔いの頭痛で目を覚ましたとき、携帯の電源を落としたままだったことを思い出した。
 たったひとりの部屋。昨晩の記憶ははっきりと残っていた。それこそ、痛みのためではなく頭を抱えたくなるほどに。
「あー、古い知人と飲んでました。すみません、携帯切ったままだったのすっかり忘れていて」
「そうか」
 ふう、と息をつく。ならいい、と肩をすくめた仕草に、唐突に気づく。


409:板缶2/3
10/03/18 23:00:09 481GIjeN0
「伊民さん、ひょっとして昨日、家に帰ってないでしょ?」
 ぴく、と肩がゆれる。その背中を包んでいる背広もネクタイも、昨日と同じものだ。
 近寄り、襟に触れる。伊民さんはなにもせずに、ただされるがままだ。
「シャツは違いますよね?」
「長丁場になることもあるからな。それくらいはロッカーにあるさ」
 小さいため息のあと、俺の腕を包んだ手があった。
 かさついているけれど、大きくて温かい手。ぐっと引きよせられた瞬間、体を包み込む体温を、ずっと近くに感じた。
 背中に回された手。躊躇うようにかすかに触れた唇に、噛み付くようにして応えてやる。
「……どうしたんです?」
 広い胸板に染み付いた、煙草の香り。その中に確かに感じる彼のにおいに、ふっと目を閉じて触れる。
 答えが返ってくるとは思っていなかった。それでも、よかった。
「心配だった」
 だから、頭の上でぼそっと彼が呟いた言葉を聞いたときは、本当に驚いた。
「え?」
「お前さんが、」
 背中を抱く腕に力がこもる。表情は見えないし、その声もいつもと変わらないけれど。
 確かに、感じる。いつもと違う、彼の思いを。
「帰る場所がない、なんて言うから」
 そうだ、彼は聞いていたのだ。あの取調べ室での騒ぎを。
「……うれしかったですよ。あの時飛び込んできてくれたのが、あなたで」
 思わず、口元に笑みが浮かんだのが自分でも分かる。そのことが分かったのか、背中に回されていた腕が離れ、肩を掴まれた。
 瞳を覗き込まれる。キスをするわけでもないのに、こんなに近くで見つめ合うことなんてあまりない。
 その瞳の色に、目を奪われる。


410:板缶3/3
10/03/18 23:03:36 481GIjeN0
「……本当に、そんな風に思ってたのかよ」
 真剣で、真摯で。心を刺されるような、まっすぐな瞳だ。
 引力に支配されたように無意識に、その頬に触れる。指先に伝わる体温に、目の奥がツンと痛んだ。
「いいえ。そんなこと、思ってませんよ」
 その唇に、今度は俺から、触れるだけのキスを。
「もしかして、探してくれたんですね?俺のこと」
 電話に出ない恋人を、心配する姿なんて想像したこともなかった。
 不器用なこの人のことだ、夜通しやきもきするだけでなく、街に探しにでるようなこともしたかもしれない。それこそ、家に帰るのも忘れるくらい。
「もう大丈夫なのか?」
 再び背中に回された手。ぶっきらぼうな言葉だけれど、その手から、隠そうともしていない思いが伝わってくる。
「ええ」
 煙草の香り。彼のにおい。体を包む温もり。
 すべてが愛しく、すべてが誇らしい。
 ようやく、実感した。
「……おかえり」
「ただいま、」
 やっと、帰ってきた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがちですが、書きたかったので書いてしまいました。
お目汚し失礼いたしました。

411:風と木の名無しさん
10/03/18 23:39:26 D59JE1/V0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )デラコネタ!ナマ!

1.誘導

「紅茶って10回言ってみ?」
「?紅茶紅茶紅茶こうty・・・・・・こうちゃ!」
「俺は?」
「こういち」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もしかして光ちゃんってゆうて欲しかったんか?」
「うん」


2.予想外

「つよしって10回言ってみ?」
「つよしちゅよ・・・あっ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「絶対噛むとおもっとったけど、いくらなんでも2回目に噛むとは思わんかったわ」
「噛んでない」
「いやほんまお前は予想外でおもろい」
「だから噛んでない!」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )キホンテキニショウガクセイダンシ!

412:風と木の名無しさん
10/03/18 23:46:40 vhyUSCWm0
>>411
デラカワスユwGj!
じゃれ合ってる二人が目に浮かぶよw

413:風と木の名無しさん
10/03/19 00:52:42 bmzenNrl0
>>408
伊民テラかっこよす!
あのシーンの伊民はマジ神だった

>>411
かわええええええ
めっちゃ想像つくw本番前の楽屋あたりかなー

414:それを魔法と呼ぶのなら 7/0
10/03/19 00:58:08 /X7sEInF0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマ盤越え葡萄唄×恐竜唄「スメル」の続き
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ぬるいエロ・露骨な不倫及び浮気表現注意
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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415:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 1/7
10/03/19 00:59:21 /X7sEInF0
はじめに触れたのは、指先だった。
ゆっくりと包む。彼の右手がおれの汗で濡れた。
手はそのままに、おれはソファへのぼる。
無理矢理にのぼったので、馬乗りの状態になってしまった。もう後戻りはできない。
自分の足が震えていた。それすら疎ましくてならなかった。

正面から彼の顔を見ながら、放り出された左手をおれの右手で掴む。
この手から彼の音が産まれてくるのだと思うと、涙が出そうなぐらいに恋しかった。
そのまま、彼の首元に顔を埋める。あのにおいはしなかった。その代わりに、人間の肌のにおいがした。
彼のにおいを嗅いでいるようで、優越感しか感じなかった。

「恋人同士みたいやな」

恋人にするように言った。耳元で、彼にしか聞こえないぐらい小さな声で。
はにかむ声が聞こえて、おれも笑った。

「それ、言われたことあるから」

「そうだったっけ」ととぼけると、彼の指が動く。
掴むように握っていたお互いの手が、所謂"恋人繋ぎ"に変わる。
恥ずかしかった。そう考える余裕が、そのときにはあった。
目を伏せる彼を見て、彼も恥ずかしいのかな、なんて思う。
やっぱり、おれの目には麗しく見えた。

それから、彼の首元に唇を寄せた。触るように口付けた。
感触を楽しむように。何度も、同じ箇所に触れた。

顔をあげて、今度は唇に近付いた。触れた瞬間に、糸が切れたように、貪り合った。
体温を感じて、心地に触れて、唾液を飲んだ。閉じても見えるような厭らしさに脳が沸騰しそう。
息の仕方も忘れるぐらいに、互いの舌を食し合った。

416:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 2/7
10/03/19 01:00:28 /X7sEInF0
離れると、目の前の現実に眩暈がした。
下にいる彼の口から、液体が零れていた。
掴んでいた彼の左手がおれから離れて、その手が液体を拭ってから、やっと、目が合った。
そこで感じる、罪悪と背徳。前者の方が強かった。
彼も感じているのかと思うと、ゾクゾクした。
まだ握ったままだった彼の右手を開放して、彼の頭に手を回す。栗色の髪が、指に絡みつく。
なんども触れたことがある。今後も触れるであろう。
けれども、その感触を忘れないように、何度も手を差し込んだ。
彼がはにかんだもんだから、おれもにやにやしてしまう。伝染。

しばらく見つめあった後、もう一度口付けると、今度は丁寧に感じるように触れ合った。
歯型をなぞり、舌の裏から、上顎まで、拭うように追いかけた。
彼の声が溢れる。それからおれの頭に回される手。体温が上がった。
おれのやったように、彼も舌を動かす。上顎を舐められたときは声が出そうなぐらい震えた。
最後に唇を舐めてから離れる。たかがこれだけの行為なのに、体の熱は十分すぎるほど発育していた。

「やらしいね」
「それはおまえや。あと、ちゃんと髭剃れ」

気が抜けるような笑い声。これだけでも充分に気が狂いそうだった。

首筋を見て、噛み付きたくなる衝動を感じた。
とりあえず、そこに口付けるだけ口付ける。ふと問う。

「なあ、痕つけてもええ?」
「うん。お好きなように」
「だって、お前、彼女おるんやろ」

彼の肌から体温が引くような気配がした。
そして、確かに沈黙は流れた。
傷ついているわけではなかった。それはお互いに。だけど、訊かなければよかったと思った。

417:そ/れ/を/魔/法/と/呼/ぶ/の/な/ら 3/7
10/03/19 01:01:41 /X7sEInF0
「なんで知ってるの?囃子から聞いた?」
「見てれば分かるわ」

だって、おれと同じ顔をしていたから。
「お互い様やろ」と言ってから、首筋に噛み付く。
苦痛に耐える声がした。もしかしたら違う意味だったかもしれない。
でも、聞こえなかった振りをした。目の奥が痛んだ。眠い。
首筋から離れると、決して白くも無い肌に浮かぶ朱。
これさえも綺麗だと思えてしまうのは、罪なのか。罰なのか。

「おれにも付けてーな」

そう言ってから、もう一度そこを舐めた。唾液が糸を引く。まだ綺麗だ。

しばらく二人で黙り込み、見詰め合う。そして、やっとあのCDが掛けっぱなしだったことに気付く。
なんだか自分自身に視姦されているみたいで不愉快だった。
ただ、その音を止める程の余裕も持ち合わせていなかった。
彼のスラックスに手を掛ける。それは、彼の欲で熱く膨らんでいた。
静止の声が聞こえるだろうと思ったけれど、聞こえたのはおれの音だけだった。
ちらと彼の顔を伺うと、とろりとした目と合う。
急に迫る罪悪感。それは、前に感じた「自分への」とは違う、左手の疎ましさとは別の罪悪だった。
それが、余計に、おれを加速させた。

膝あたりまで彼のスラックスを下ろすと、その中心部へ手を這わす。
形をなぞるように布の上から触れると、溜め息のような喘ぎが聞こえる。
予想以上に自分が興奮していることに気が付いた。
耐え切れなくなって、ボクサーパンツとスラックスを一気に脱がす。
彼の体が震える。寒さからか、快楽からか。
直に触れると、その熱さがさらに興奮を呼ぶ。
扱くことで増す、彼の喘ぎ。その声が息が耳にかかると、今度はおれの方が熱くなって。
彼が感じるように、先端に親指を這わす。


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