モララーのビデオ棚in801板56at 801
モララーのビデオ棚in801板56 - 暇つぶし2ch150:SJヒトヒメ 5/8
10/02/27 13:54:14 Baugfw6u0
 それでも男である以上、このシュバルツバースでの生活を経て、溜まらない訳がない。
 だから、挑発さえ成功すれば、こいつは「ノウメン」を脱ぎ捨てて、人間らしい欲を見せるかもしれないと思っていたのだが、こうも延々と続けられると、性欲がないという噂にも信憑性が出てくる気がする。
 もしかしなくても、かなり面倒な男に仕掛けてしまったか。
 萎えそうになるが、やはり丁寧に前を扱く手が、それを許さない。吐き出す息ばかりが熱い状況にうんざりとして、この野郎、蹴り飛ばしてやろうかと身じろいだときに、そいつは聞こえた。
「動くなよ」
 淡々と、小さな声で、しかし仲魔に命じる強さで言われた台詞に、一瞬、凍る。同時に、指の一本が、ごく浅いところを引っ掻いた。
「あ……?」
 じわりと、水に落としたインクが瞬時に溶けて広がるように、そこから全身に染み出したのは、紛れもない快楽だった。
「な、に……ッ」
「ここか」
 ヒトナリが合点したように呟いた。そして同じところを今度は指先で押し、強く捏ねる。
「ひ……ッ」
 途端に全身を刺激が駆け抜け、足が張った。僅かに隆起しているらしいそこをこりこりと弄られるたびに、爽快感には程遠い、しかし確かな快楽が、体の内側から外側へ向かって、脈打つように生まれる。
 ありえない。何だ、こいつは。こんな話が。こいつは。まさか。
 がくがくと震え始めた体を容赦なく押さえ付けられる。何とか拒もうと思っても、丁寧にほぐされ、膏薬と唾液で完全にとろけた後ろの穴は、異物を押し出すどころか、飲み込もうとして蠕動した。
 ぐちゃぐちゃと遠慮のない音を立て始めたヒトナリの指が、ただ一点だけを突き、引っ掻き、押し潰す。

151:SJヒトヒメ 6/8
10/02/27 13:55:07 Baugfw6u0
「うぁ、あッ、そこ、や、そこ、やめ……ッ! ひ、あ、ぁあ……ッ!」
 嬌声と呼ぶにはあまりにも色気のない声で喚き散らす。逃げを打とうと暴れても、俺より重さのあるヒトナリの体が乗ってきて、それを許さない。いつしか前を離れていた左手でも押さえ付けられ、俺はもう何もすることができず、ただ腰を振って悦がり乱れた。
「あ、ひ、やぁ、あぁ……ッ!」
 狂う、と思った。おかしくなる。変になる。抱いた女の何人かはそういった台詞を口にしたが、俺は、サービスのよくできた女だとしか思わなかった。
 セックスで気が狂うほど感じることなどありえない。セックスで得られる快楽は、溜まった情欲を解き放つ爽快感の類いであって、頭に血が上るような感覚などは生まれない。そう思っていた。思っていたのに。
「ひ、ぁ、ヒトナリ、ぅあ、ヒト、ナリ……ッ」
 もはや何も考えられず、俺は唯一脳裏に浮かんだ単語を何度も口にした。もう体に圧し掛かる重みまでもが気持ちいい。背中を舐められ、首筋を噛まれて、がくりと頭が仰け反った。ぐちゃぐちゃと鳴り続ける水音が耳に入って痺れを生む。
「ここにいる」
 その痺れの中で、誰かが低く囁いた。
「ここにいる。ヒメネス」
 理解できたのは、自分の名前だけだった。
 ひどく心地いいその声が耳を通って体内に入り、体の芯に至ったところで、俺は射精しないまま達した。

152:SJヒトヒメ 7/8
10/02/27 13:55:42 Baugfw6u0
 結局、あのあとヒトナリは、達したばかりで痙攣していた俺の体を引っくり返すなり、またしても別人みたいになって、奥まで挿れると、散々に突き上げた。俺はこいつの肩に縋ってこいつの名前を呼びまくり、喘ぎまくり、叫びまくって、ようやく射精を許された。
 ……日本人ってな、みんなこうなのか。それともこいつが格別にアレなのか?
 ともかく、何もする気が起きず、俺は今、ベッドを占領して、ぐったりとくたばっている。ヒトナリはというと、共用のシャワールームに行くからと言って、さっさと着替えを済ませてしまった。
(あー)
 今なら余韻を気にする女の言い分が解る気がする。穴でイかされると、だるい。爽快感とはまるで違った、粘っこい何かが体に残る。これではセックスのあとしばらくは動きたくなくなるだろう。そしてとっとと動き始める男が憎ったらしく感じる。
「冗談でなければ、悪い夢でもいいと言ったな」
「……言ったか?」
「ああ、言った」
 ベッドの脇まで寄ってきたヒトナリを胡乱に見上げてみる。いつでも姿勢の良い男だ。そのせいでひどく顔が遠い。
「どちらだった?」
 微かに笑った珍しい表情が気に食わない。そのくせ何か好感のようなものも生じて落ち着かない。
「どっちでもねえよ」
「なら、いい夢だったか」
「いけしゃあしゃあと言うな、くそったれ……」
 呻くと、頭に散々俺を啼かせた指が触れてきた。疎ましいそれを払いのけて、俺はヒトナリを睨みつける。
「楽になるまでここで寝ていろ。俺はラボにいる」
「当然だ、馬鹿野郎」
 そしてそのまま、靴音を立てて出て行く背中を見送った。

153:SJヒトヒメ 8/8
10/02/27 13:56:16 Baugfw6u0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ドラマCDが楽しみすぎて生きるのがつらい
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

154:風と木の名無しさん
10/02/27 20:21:35 uIk60paaO
>>146
まさかこのスレでSJが読めるとは…!
前立腺開発おいしいです
ご馳走様でしたありがとう

155:風と木の名無しさん
10/02/27 20:32:40 JkZPuSI90
>>146
いいもん読ませてもらった
おかげで途中で止まってた続きをやるモチが上がったw

156:風と木の名無しさん
10/02/27 21:20:15 SNmyRxr90
うあああ不覚にも萌えた

157:風と木の名無しさん
10/02/27 21:44:04 pm3i5gsA0
>>146
グローリア!グローリア!

ここでムッツリTDN×ビッチぶってるヒメネスのSSが読めるとは…
アーサーの回線に侵入すれば監視モニターの映像がコピーできるかもしれんな

ちょっと今から南極いてくる

158:風と木の名無しさん
10/02/27 23:45:19 MPcQI8n60
>>146
悶え死んだ
地球が滅亡しても今なら悔いは残らない

159:風と木の名無しさん
10/02/27 23:50:03 F+kIEo3E0
>>146
死ぬほど萌えて生きるのが辛い
まさに心底読みたかったビッチぶってるヒメネスと淡々ヒトナリだった本当に有り難う
でももっともぉっと読みたいです

160:風と木の名無しさん
10/02/28 00:09:04 AINtZXfW0
>>146
ありがとうありがとう!
本当になんかもう理想というか、キャラが好みすぎてもう…!
ありがとう…悶えました!

161:風と木の名無しさん
10/02/28 00:11:52 +ou4qvC60
>>146
涎が止まりません!ごちそうさまです!!!
キャラがたまらなかった…ウウッ生きるのが辛い

162:風と木の名無しさん
10/02/28 18:11:28 Vyp++0twO
>>146
絶妙な距離感の二人に禿萌えました…!!
真Ⅰへのさりげないオマージュとか、何もかもGJです!

163:風と木の名無しさん
10/02/28 18:40:20 8WE1fp1B0
>>146
>>162読んで真1オマージュ?としばらく悩んでやっと気付いた
カオスヒーローの最期の台詞か!
姐さん芸が細かすぎるぜ…!

164:風と木の名無しさん
10/03/01 01:00:32 NV5S7WeH0
>>146
原作知らないんだがグイグイ引きこまれた
良い作品を見せてくれてありがとう

165:シュバルツバースでマターリ 1/8
10/03/02 19:18:15 IQwlwHpG0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  真・女神転生SJ、ヒメネスとバガブーとヒトナリだよ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  バガブーの「フレン」発言についてkwsk考えたらこうなった
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ レンゾクトウカ ゴヨウシャネガウ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

166:シュバルツバースでマターリ 2/8
10/03/02 19:19:40 IQwlwHpG0
 艦の中では、仲魔の召喚は、基本、禁じられている。
 しかしヒメネスにはその「基本」に従う意思がまったくない。一部の「うるさいの」が声高に騒ぐ悪魔の危険性を、悪魔に限った話ではないと考えているからだ。
 シュバルツバースで出会った奴らは、悪魔といっても見た目や性格は人間と同じくさまざまで、羽根を生やした美少女が、隙あらば脳味噌を吸おうとしたり、どろどろぐちゃぐちゃのスライムが、意外に気のいい奴だったりする。
 話せば解る奴もいるし、話しても解らない奴もいれば、そもそも話をする気なんてまったくない奴もいる。
 つまり、悪魔は人間と、何一つとして変わらないのだ。そう考えれば召喚を禁じるなどと馬鹿げている。いつか犯罪を起こすかもしれないからという理由で、一般人を監禁すれば、その方がよほど犯罪だ。
 悪魔と人間、両者の間に、線を引く理由は一切ない。互いに気が合い、尊重し合えば、悪魔と人間はいい隣人でいられるし、友人にもなれる。少なくともヒメネスは、そう感じたし、そう信じている。
 だから!……と真剣に演説をぶつのも面倒臭いので、ヒメネスは皆から良い印象を持たれていないのをいいことに、好き放題にバガブーを呼び出しては連れ歩いている。
 くだんの「うるさいの」も最近は遠巻きに愚痴るだけになった。勿論、愉快ではないが、耳許まで来てキンキンと騒がれるよりずっといい。
 そういう訳で、今日もヒメネスは、バガブーを連れて艦内を自由に歩き回っている。廊下で擦れ違ったのは機動班のクルーばかりで、ほかのクルーたちよりも悪魔に親しんでいる彼らは、概ねヒメネスの考え方に好意的、且つ、共感的だ。
 よう、バガブー、などと声をかけ、頭を撫でたりもしてくれる。バガブー自身も優しくされるのに満更ではないようで、黒い尻尾を振りながら、心地好さそうに触れられていた。

167:シュバルツバースでマターリ 3/8
10/03/02 19:20:58 IQwlwHpG0
 そんな「社会見学」という肩書きを付けた艦内散歩も、そろそろ終わりに近付いた頃、ヒメネスは狭い廊下の向こうに、東洋人のクルーを見つけた。
 恐らくミッションログでも確認しながら歩いているのだろう、腕に備えたPCを見ながら、こちらに気が付くこともなく、通り過ぎるところだったので、軽い調子で声をかける。
「よ」
 気付いた男は、ヒトナリだった。持ち上げられた視線がまずはヒメネスの顔に注がれると、次いでバガブーに留まって、僅かな当惑を滲ませる。
「お前、また」
 曇ったところで、能面は、やはり能面だ。
「ゼレーニンに見られたらどうする」
「ごめんなさいとでも言っとくさ」
「何かあったら責任を問われるのはお前だぞ」
「二度としませんも付けておくかな」
「まったく……」
 眉を寄せ、嘆息するが、それ以上は口にしない。だからヒトナリは「うるさいの」の構成員には入らないのだ。そもそもヒトナリはヒメネスの次にバガブーを知る人物であり、バガブーが無害であることは、よく理解してくれている。
「バッガ?」
 自分が話題に上っていることを何となく覚ったのか、バガブーが小さく首を傾げて、ヒトナリの顔を下から覗いた。そして、元気付けるかのように、一声、大きく発する。
「ヒトナリ!」
 いつも変わらない能面を、一瞬、驚きの色が過った。珍しいものを見た嬉しさで、にやつきながら肩に凭れる。
「ブー? ヒト、ナリ?」
「ヒメネス、お前、俺の名前まで教えたのか」
「お前だけが一方的に知ってるってのも不公平だろ。それよりちゃんと応えてやれよ、こいつが不安がってるだろうが」
「ああ、悪かったな。そうだ、バガブー」
「ヒトナリ?」
「そう、ヒトナリだ」
「ブー!」

168:シュバルツバースでマターリ 4/8
10/03/02 19:21:33 IQwlwHpG0
 間違っていないと解ったらしいバガブーが、尻尾を左右に振る。その仕草に目を細めると、ヒトナリはスーツのポケットから、チャクラドロップを取り出した。見上げるバガブーの目の前で、一つを口に入れ、一つを差し出す。
「バッガ?」
「ドロップだ」
「ドロッ……ブー?」
「一気に不味そうなものになったな……ドロップだ。ドロップ。食べてみろ」
「バー」
 かぱんと開いた口の中に、ヒトナリがドロップを放り込む。噛み合わせの良くない口がしばらくもちゃもちゃと音を鳴らすと、やがて揺れていた羽根が止まり、黒い尻尾が真っ直ぐ伸びた。
「バッガ!」
「美味いか」
「バガッ! ブー! ヒトナリ!」
「甘い、と言う」
「スィ?」
「スイートだ」
「スイッ!」
 どうやら味も言葉の響きも相当気に入ったらしい。あまり品のない音を立てながらドロップを舐めるバガブーは、ヒトナリの周りをうろうろ回り、何度も「スイッ」を繰り返す。
「理解が速いな」
「マスターがいいのさ」
「コミュニケーション能力はマスターより高そうだ」
「言いやがったな、この野郎……」
「あまり汚い言葉を遣わない方がいいんじゃないのか、マスター」
「ファッ? ジャッ?」
「どちらも覚えなくていい」
「スイッ!」
「そうだな、それにしておけ」
 まったく、こいつの悪魔扱いの巧妙さには、頭が下がる。
 「スイッ」に飽きたバガブーは、ドロップに集中したようだ。その場に胡坐で座り込み、くっちゃくっちゃと口を鳴らす。たまに涎を垂らしては手の甲で拭う姿を見ながら、ヒメネスはヒトナリに寄りかかり、なあ、と甘えて囁いた。

169:シュバルツバースでマターリ 5/8
10/03/02 19:22:09 IQwlwHpG0
「で?」
「ん?」
「俺にはないのかよ」
「何が悲しくて貴重なチャクラドロップをお前にやらなきゃならない」
「ケチくさいことを言うなよ、ヒトナリ。こちとらフォルマが不作でな、ここんとこアーヴィンに嫌われてるんだ」
「そうか」
 くるりと踵を返したヒトナリを再び反転させる。
「何をする」
「いいだろうが、十個くらい!」
「十個単位で要求するつもりの時点でやる気が失せる」
「心の狭い男だな!」
「広いと言った覚えはない」
「悪魔の依頼は片っ端から請けてるだろうが!」
「報酬あっての話だ」
「お前は仲間に金品を要求する気か!?」
「ヒメネス、いいから落ち着いて自分の胸に手を当てろ」
「フレン!」
 言い争いは蚊帳の外から入った声で中断した。
 視線を下げれば、ドロップを食べ終えたらしいバガブーが、どことなく楽しそうな顔で、再び「フレン」と声を発する。
「フレン! ヒメネス! ヒトナリ!」
「ばッ、おま……!」
 思わず緩んだ手から脱けると、ヒトナリが床に膝を突いた。目線の合ったバガブーが、嬉しい様子で小さく羽ばたく。

170:シュバルツバースでマターリ 6/8
10/03/02 19:22:37 IQwlwHpG0
「フレン……フレンドか?」
「バッガ! フレン!」
「ヒメネスはお前に俺をフレンドだと教えてるのか」
「ヒトナリ!」
「そうか」
 立ち上がりながら、にやりと、……多分、この艦にいる誰に言っても信じてはもらえない顔をして、ヒトナリは口の端を持ち上げ、ひどく凄惨な笑みを作った。
「気が変わった。手を出せ、ヒメネス」
 言うが早いか手を引き出され、ドロップを山盛り載せられる。
「フレンドの頼みなら聞き入れるのに吝かじゃない」
「バッガ! ブー!」
「無駄遣いするなよ、フレンド」
「フレン!」
「じゃ、またあとでな、フレンド」
「フレンッ!」
「ところで、フレンド」
「フレ」
「ぃやかましいわあああッ!」
 やはりと言うか、怒号にびくりとしたのは、バガブーだけだった。
 こちらの紅潮した顔をたっぷりと観察した上で、ふっ、と思わせぶりに笑い、ヒトナリはゆっくりと背を向ける。そして、ひらひらと片手を振って、悠然と歩き去っていった。

171:シュバルツバースでマターリ 7/8
10/03/02 19:23:35 IQwlwHpG0
 治まらないのはヒメネスの羞恥から来る焦りである。確かに、ヒトナリは何者なのかと知りたがっていたバガブーに、適当な答えが見つからず、友人であると教えはしたが、まさか本人を目の前にして暴露されるとは思わなかった。
 まずい。非常にまずい事態だ。あの隠れサディスト、もとい、特に隠れてないサディストは、これから事あるごとにさっきのネタを持ち出してくるだろう。
「あ……ッの、クソ野郎!」
「ヒメネス! ファッ、ノー! ジャッ、ノー! スイッ!」
「誰がスイートかッ! いいか、バガブー! 今後は人前でフレンドもスイートも使用禁止だッ! 特にあいつの前では!」
「ヒトナリ?」
「そうだ、ヒトナリだッ!」
 ヒトナリの名は「仁成」と書き、慈愛の心を持つ者にという意味が込められているらしい。
 残念ながら両親の願いは叶わなかったようだ。あの男は鬼畜である。それも対自分限定の。そんなののどこが「仁成」か。
 まだ熱い頬を押さえながら、首を傾げているバガブーを、強引にデモニカの中へと戻す。
 うっかり艦の最後尾までそぞろ歩いて来てしまったため、ここから、ヒメネスに宛がわれている部屋までは、結構な距離がある。
 そこまで辿り着くのが早いか、顔に上った血が下りるのが早いか、誰かに出くわして顔の赤さを指摘されるのが早いかは、今のところ、アーサーにさえ予測できないことだった。

172:シュバルツバースでまた会いましょう 8/8
10/03/02 19:24:46 IQwlwHpG0
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 | __________  |
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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ この間にも地球はガンガン滅んでいってるのであった
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

追記:
・レスくれた姐さんたちありがとう
・板の中の人たち超乙
・鯖落ち中は異様に筆が進みました

173:風と木の名無しさん
10/03/02 21:36:59 +U8EXQqa0
>>172
非常に乙。こういうのが読めるのなら鯖落ちも悪くない、いややっぱ寂しいです。
皆様の辻を思い出してしまったw

174:風と木の名無しさん
10/03/02 22:04:56 xp5QRwH10
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ilの板缶その5モナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  復旧とともに規制解除北モナ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

175:板缶 1/5
10/03/02 22:06:30 xp5QRwH10
「あんた、なんで俺みたいなオッサンがいいんだよ?」
物好きな・・・と、呆れたような口調で訊かれるたびに神部は笑って、
「人の好みってそれぞれでしょ。伊民さんは、俺の好みのタイプなんですよ」
そう答えてきた。その言葉に嘘はない。
しかし、それだけというわけでもない。

伊民という男は、これまで神部の周囲にいた連中とはまるで違う、強面の現場要員だった。
神部よりいくつか年上だが、階級はただの巡/査部長だ。昇進試験のための勉強なぞ今さらする気もないとばかり、犯人検挙の手がかりを求めていつも現場を動き回っている。
グルメでも口がうまいわけでもなく、このご時世にまだタバコを吸っていて、特にセックスがいいわけでもない。わりと無趣味な仕事バカ、優しいけれどそれを言葉ではうまく表現できないタイプだ。

ただ彼は、低い、いい声をしていた。すらりと背が高く、のっぽの案山子にスーツを着せたようなその立ち姿は、遠くからでも神部の目についた。でたらめな食生活をしているわりに痩せていたが、
脱がせてみるとガリガリというのではなく無駄な贅肉がついていないだけで、しなやかな筋肉に覆われていた。
長くすんなりと伸びたその腕は、男の神部を抱きしめてもまだ余るくらいだった。

最初はほんとうに、ただ外見が気に入って近づいてみただけだったのだ。
その次には、このワーカホリックなノンケの心がだんだん自分に傾いてくるのを見るのが楽しくて、しかたがなくなった。
そしていまでは、・・・完全に彼にのめり込んでしまっているという自覚が、神部にはあった。
決して口に出しては言わないが。

***

警/察官の非番というものは、休暇ではない。待機時間だ。ましてや捜/査一課の刑事ともなれば、休日といえどもいつ呼び出されるかわかったものではない。
とはいえ、彼らにも私生活というものはあり、その気になれば束の間のプライベートタイムを恋に費やすこともできた。

「・・・なあ、いいだろ・・・?」
耳許で囁く声が、濡れて聞こえた。
返事のかわりに神部は微笑み、タバコとビールのにおいのするキスを受け止めた。

176:板缶 2/5
10/03/02 22:08:03 xp5QRwH10
伊民の部屋にはもう何度か招かれたことがあった。実家住まいの神部と違って、伊民は気楽な一人暮らしだ。
いつものようにリビングのソファでテレビを見ながら軽く飲んだあと、ふわふわと気持ちのいい気分になって寝室へ来た。

狭いベッドにふたりして倒れ込み、ゆるく抱きしめられると、伊民の体温と匂いに包まれるような気がした。耳朶を甘噛みされ、項に口づけが降らされる。
まだスーツの上着を脱いだだけだった神部のほうが、先に着衣を剥がれた。伊民も、プルオーバーの上だけはさっさと脱いで、ベッドの脇へ投げ落とした。
すると、神部の好きな、すらりと引き締まった身体が現れた。薄い皮膚と脂肪の層の下にあるのは、見せびらかすためにジムでつけたようなのではない実用的な筋肉だ。
骨柄の大きい伊民の、肩から二の腕へと連なるおおらかなラインの美しさに目を奪われながら神部は、その腕が鳥かごのように自分の頭を囲い込んでくれるのを見上げていた。
もう一度、キスが降ってくる。最初のように甘く優しいだけではない、深いキス。歯列を割られて舌を引きずり出され、呼吸もままならないほど求められる。
酸素の足りなくなった頭で考えるのは、この人ともっと近くなりたい、ただそれだけだ。
布越しに腿に当たる伊民のものがもう熱を持ち始めている。それが素直に嬉しい神部は手を伸ばして触れようとしたが、すぐにその手を掬いあげられて、伊民の首の後ろに回されてしまった。
「・・・いいから、あんたはしっかり俺につかまってろ」
「ずるい。俺だって触りたいのに」
「そんなことされたら、今すぐ突っ込みたくなっちまう」
痛いの嫌いだろ、と笑いながら伊民は、大きな手のひらで神部の胸や脇腹を愛撫しはじめた。男の身体に触れる手つきにもうためらいはないのに、なかなかその下までは触れてこない。
きっと伊民は急ぎたくないのだ。胸の上に顔を伏せられると、癖のない彼の前髪が鎖骨の上をさらさらとくすぐっていった。
神部はその頭を抱いて片膝を立て、ふーっとゆるく息を吐いた。腰の周りに、痺れるようなぞわぞわとした快感が集まりつつあった。

仕事を離れたこの夜、神部は申し分なく幸せだった。
・・・伊民が今しも脱ぎ捨てようとしていたチノパンのポケットで、携帯が鳴り始めるまでは。

***

177:板缶 3/5
10/03/02 22:09:06 xp5QRwH10
楽しい時間を邪魔したのは、携帯に最初から入っている有名な映画のテーマ曲だった。神部は、伊民がこの音を誰からの着信に割り当てているか知っていた。
出ないでほしい、と言いそうになったが、とても言えなかった。

「・・・伊民」
苦虫を噛みつぶしたような顔をして、それでも当然のごとく伊民は電話に出た。神部の顔のすぐ近くでシンプルなストラップが揺れた。携帯からの声も、すっかり聞こえた。
相手は彼の同僚刑事の芹澤だ。歩きながら話しているのか、ややスタッカートのかかった口調で、事件の発生を告げている。
『先輩、新宿で殺しです。ガイシャは帰宅途中の会社員。強殺みたいです。犯人の目撃証言あり、若い男。ナイフ持って逃げてます。緊配かかりました。あと、神田で男女の変死体。こっちはまだ所轄が現着したとこで、詳細不明です』
「非番にも招集かかってんのか」
『あー・・・まだですけど』
電話の向こうの芹澤は、なんとなく意外そうに言い淀んだ。
『サーセン。でもたぶん、時間の問題だと思うンすけどね・・・?』
「・・・だろうな」
うんざりだと言わぬばかりにため息をついた伊民が、すいっと身体を起こした。
わりぃな、と唇だけで神部に言って、そのままベッドを降りてしまう。伊民はまだ話し続けていたが、芹澤の声は神部には聞こえなくなった。
「おう・・・了解、坂の下まで行っとくわ」
芹澤は、現場へ向かう途中で伊民を拾っていくつもりなのだろう。この時間なら、霞ヶ関の警/視庁からここまで、ゆっくり走っても20分かからないかも知れない。パトランプをつけてぶっ飛ばしたら、もっと早く着けるだろう。
大急ぎで身支度しなければならない伊民がクローゼットから取り出したスーツとワイシャツを持ってリビングへと出て行くのを、神部は黙って見送った。

「おお、持って帰ってる・・・バカ言え、てめえ」
すっかり仕事モードに切り替わった伊民の口調はピリピリと感電するような緊張感をはらみ、つい数分前までの低く豊かな声音とはまるで違っている。
どちらが本当の、というわけではなく、どちらも伊民そのものである、二種類の声。
「・・・担当、誰だ? ・・・チッ、ツイてねえなあ」
その声を、神部は少し遠くに聞きながら、自分も身体を起こしてベッドの上で膝を抱えた。

178:風と木の名無しさん
10/03/02 22:09:08 fYdSKn2H0
>>172
まさかこんなに早く新しい物が読めるとは思わなかった・・・!
バガブーを交えたやり取りにほのぼの、性格設定といちゃいちゃした感じがたまらん
ファッキンだのジャップだの口が悪いヒメネスにもにやにや スイートには恋人をかけてるのかな?
出来るのであれば172のドライな文体の作品をもっと読みたい・・・

いつかサーチに新着サイトが追加されると信じて待ってます

179:板缶 4/5
10/03/02 22:09:48 xp5QRwH10
どうせ、特/命係に事件の情報が回ってくるのは明日の朝だ。テレビのニュースで知るほうが早いくらいかも知れない。それまでに犯人が逮捕されてしまえば、あの特殊なムードの職場では朝の軽い話題にしかならないだろう。

「・・・ひでぇな、そりゃ。なんでそれで人着割れねえんだよ」
リビングでごそごそと着替えながら、伊民はまだ話し続けていた。器用なことだ。
それにもまして、かなり「その気」になっていたはずの伊民が、こんなにも素早く出かけようとしていることに、神部は驚かずにいられなかった。たった数分しか経たないのにもうおさまったのだろうか、と。
「わかった、もう出るから切るぞ。ちょっと待たすかも知れねえ」
声が急に近くなった。次の瞬間、もうすっかりスーツを着込んだ伊民がドアの向こうから顔を覗かせて、簡単に言った。
「わりぃ、行くわ」
「はーい」
「鍵、置いとくから。寝てってもいいし、好きにしてくれ」
「帰りますよ」
「そっか」
伊民は一瞬、なんとも言えないような顔をして神部を見たが、それきり何も言わずに出ていった。


玄関のドアが閉まるのを待って、神部はやれやれと息をついた。
どうせ伊民というのはあんな男だろうと思っていたが、ほんとうにそうだった。素っ気ないにもほどがある。
・・・それはいい。しかたがない。
実を言えば、そういうところも好きなのだ。

180:板缶 5/5
10/03/02 22:11:09 xp5QRwH10
神部とて、法学部を出てわざわざ警察官を志した動機は、この手で誰かを助けたいと思ったからだ。世間にはびこる悪人や犯罪者たちを捕らえ、彼らのために不幸になる人間をひとりでも減らしたいと願ったからだ。
伊民は、まっすぐにその道を行っている。若い頃の神部が憧れたとおりの刑事の姿だ。
たとえ相手が武器を持っていようが、どんなに危険な場所であろうが、伊民は真っ先に飛び込んでゆくに決まっている。彼の鋭い目で睨みつけられ、怒声を浴びせられれば、どんな犯罪者も震え上がるだろうと思われた。
肩幅の広いその背中と、向かい風に負けまいと顎を引いた横顔が、神部を惹きつけてやまないのだ。
ある意味では妬ましくもあり、自分の置かれた立場と引き比べていくばくかの寂寥感に襲われることもあったが、それで伊民を責めるような気持ちなどには到底なれなかった。
そんなこと照れくさくて、本人にはとても言えそうになかったが。

***

しばらくしてから服を着てリビングへ出ていき、灯りをつけると、伊民が置いていった鍵がテーブルの上で鈍く光っていた。
神部はそれを取り上げてしげしげと眺め、手のひらに載せて、きゅっと握った。
それから自分の携帯を探して、メールを打った。

『これから知らないふりして現場行ってもいいですか』

思いがけず、すぐに短い返信があった。

『特/命係の出る幕はねえ!』

その最後に怒りマークの絵文字がついているのを見て、神部はふふっと笑った。

『この鍵、俺が持ってていいですか?』

今度は違う絵文字がひとつだけ、返ってきた。
神部は微笑みを深め、鍵と携帯をポケットにしまって、部屋を出た。


<おしまい>

181:風と木の名無しさん
10/03/02 22:11:42 xp5QRwH10
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )いつも感想嬉しい、つい書いてしまうモナ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

いつもぬるくて、しかも時系列バラバラですみません。
これからもこっそりと書いていきたいので、もし気づいたら読んでやってください。

182:風と木の名無しさん
10/03/02 22:12:05 fYdSKn2H0
>>174
リロード忘れてた・・・!!途中で切ってしまって本当にすみません!

183:風と木の名無しさん
10/03/02 22:14:21 xp5QRwH10
>>182
いえいえこちらこそ!
空気嫁ず、すみませんです・・・。

184:風と木の名無しさん
10/03/02 22:47:17 BCxl2NP20
>>181
姐さん毎度ごちそうさまです!
ゆったりした非番の描写に禿げました

185:風と木の名無しさん
10/03/02 22:57:59 nsPRjES+O
>>181姐さん
今回は傾れ込むのか!とWKTKしましたが、缶が板を好きな理由に俄然説得力が出ました!
板って凄く素敵な人みたい。ニンニク臭くても良いのかな缶は。
芹も好きなのでサーセンもうれしかったです。

186:風と木の名無しさん
10/03/02 23:02:54 8jxp1aPc0
>>172
GJです!地球乙すぎるw

普通に子持ち夫婦みたいな会話を交わしてるヒトナリさんとヒメネスに萌えた
バガブーも可愛すぎてダメージ床を素足で歩ける勢いだ
ここで姐さんの書く作品に出会えた事に感謝したい

187:風と木の名無しさん
10/03/02 23:25:40 vTAzAtk/0
>>181
おお、ついにお喋り以上が!!と思ったらw
そこがたまらない!喋ってるだけで萌える・・・
缶から見た板の描写が本当に魅力的です。

188:風と木の名無しさん
10/03/02 23:38:24 VfAjSgeB0
>>181
読む度に板缶がますます好きになっていくよ~!いつも本当にありがとう
匂い立つような色気に萌え転がり最後のメールやり取りで髪の毛無くなったさ
西田感激!のお世話になってきます

189:おやすみ(1/7)
10/03/03 11:52:34 +csziAT40
懲りずにブソレンよりヴィクバタ前提ヴィク&パピ。
月へ行く直前のころです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「俺も娘と同じホムンクルスにしてくれ」
 白い核鉄で黒い核鉄の力を相殺したのち、ヴィクターは錬金戦団の亜細亜支部大戦士長、坂口照星にそう申し入れた。
 月へ、地上のすべてのホムンクルスを移住させ、ホムンクルスから再び人間に戻る方法が見つかるまで、月の世界で暮らす、と。
 その申し入れを容れた戦団ではあったが、月への移住準備が整うまでの数週間、ヴィクターのホムンクルス化は控えられた。
 ホムンクルスになれば食人衝動を持つことになる。
 人を喰いたいと思わないのは、現在確認されているなかではただ一人しかいない。
 そして彼と同じように食人衝動を持たないホムンクルス化が、容易に可能であるとは思えない。
 ドクターアレクのクローン技術で、彼らの食糧は確保できるが、だからといってヴィクターがそれを口にする期間は短いほうがいい。
 これからの長い長い生に比べれば、その期間はほんの微々たるものだろうが、それでも気休め程度にはなるだろう。
 その判断をヴィクターも受け容れた。


190:おやすみ(2/7)
10/03/03 11:54:28 +csziAT40

「パパがよければ、ちょっとくらいなら旅行してもいいって」
 彼の娘ヴィクトリアがそう言ってきたのは、月への移住日程がおおよそ決まりつつあるときだった。
「どうせすることないでしょ? パパは今のところ普通の人間と同じだし、それに地球にはしばらく戻れないんだし」
 どこか投げやりな口調の娘を見つめ、ヴィクターは少し考え込んだ。
「もちろん監視はつくみたいだけど。パパ、このあいだは空からしか見てないんでしょ?」
 呼吸するように生命体から生命力を吸収すエネルギードレインが起こるかつての彼であれば、人の間に入り混じるというのは到底かなわない話だった。
 人ごみの中にでもあれば、彼の周囲にある人間はとたんにエネルギーを吸い取られ、疲弊する。
 もちろん人以外の、すべての生命にとっても同じこと。
 それが分かっていたヴィクターは、決して多くの生命の集合体に近づこうとはしなかった。
 世界を見て回っている間、ごく一部に被害は出たが、のちの検証で最低限の犠牲だったことが確認されている。
 錬金術に対しての怒りはすさまじかったが、だからといってすべての生命を滅ぼそうなどとは、決してしなかった父親の思案する顔を見上げながら、ヴィクトリアは口を開いた。
「パパだって、未練がないわけじゃないんでしょう?」
 同情するような色を目に浮かべたヴィクトリアを見下ろし、ヴィクターは少し迷ってから小さく頷いた。
「考えてみよう」



191:おやすみ(3/7)
10/03/03 11:54:52 +csziAT40

 数日後。
 ヴィクターは銀成市の駅前に立っていた。
 100年前とすっかり様変わりしてしまった街を見まわし、ヴィクターはひとつ息を吐き出した。
 空から見ても充分変化しているが、その中に降り立つと、100年どころか異世界に迷い込んだような心地になる。
 100年前、まだ人間だった蝶野爆爵に連れられてこの街に来た時、3階より高い建物は存在していなかったし、人々の服装もまるで違っていた。
 もうひとつ息をついて、ヴィクターはもらった地図に視線を落とした。
 飛行できなくなった今、与えられた期日では、日本国内か、周辺諸国くらいしか行けない。
 できることなら故郷を見たいが、現代の技術をもってしても1日で日本の瀬戸内海からイギリスの田舎へ往復することは難しいらしい。
 それなら、もうひとつの思い入れのある土地を見ておきたかった。
 すべてに絶望していた日々に、ほんのわずか、苦しみを和らげてくれた彼と住んだかの地を。
 蛍火色の髪と赤銅の肌をしたヴィクターは、たいそう目立ったために、外を出歩くことはほとんどなかった。
 それでもときおり、人の往来がなくなる深夜、彼とともに、銀成の街を散歩した。
 手を伸ばせば触れられそうな見事な満月に、どうしてイギリスとこれほど違うのだろうと思わず呟くと、少し離れて歩いていた彼は楽しげに笑ったものだった。
 今キミは月が美しいと言ったが、イギリス人は月など見ないだろうと返され、そうかもしれないと真剣に考え込むと、彼はその特徴的な口髭を震わせたものだった。
 彼の笑顔や笑声はいつでも、ヴィクターの心をほんのりと温めた。


192:おやすみ(4/7)
10/03/03 11:55:32 +csziAT40

「…ここか」
 顔を上げて地図と目の前の場所とを確認する。
 日本語は覚えたが、漢字はなかなかマスターできない。それでも覚えた数少ない中で、確実に覚えている文字が、門柱に書かれている。
 つい、と扉を押すと、案に相違して扉は簡単に開いた。意外さに一瞬呆気にとられてから、ヴィクターは慌てて開いていく扉に手をかけた。そして荒れた邸内に息を呑む。あれほど見事だった敷石は草に覆われ、はびこる雑草に美しい庭の面影はない。
 あまりの変わりように驚いていると、上空から声が降ってきた。
「何をしている」
 見上げると、細身の長身に、背に蝶の翅を生やした男が浮いていた。
 蝶々の仮面をつけたこの男に、ヴィクターは見覚えがあった。月から地上に戻ったとき、武藤カズキ、ヴィクターと同じような存在になってしまった男に、いきなり勝負をしかけた男だ。この男が、武藤カズキの白い核鉄を作ったとも聞いた。
 右腕を切り落とされていたはずだが、治療したのか、綺麗にくっついている。
 名前を聞いているはずだ、とヴィクターはわずかに眉を寄せた。
「キミは……パピヨン、だったか」
「ほう、名を知られていたとはな。光栄だ」
 シニカルな笑い方が、彼にどこか似ている。
「いかにも、オレは蝶人パピヨン。なにをしに来た、ヴィクター・パワード」
 ふわり、とヴィクターの前に降り立つその姿は、確かに蝶のように軽やかだ。
 その姿に、ことさら蝶を愛でていた彼を思い出す。
「ここは…チョウノの家ではないのか」
「ああ、そうだが? なんだ、ひいひいじいさんの遺品でも見に来たのか?」
「ひいひいじいさん…ではキミはバタフライの…」
「玄孫。やしゃごというやつだ」
「ヤシャゴ……」
「a great-great-grandchild。こう言えば分かるか?」
 直系の血族。
 だからこれほど似ているのか。


193:おやすみ(5/7)
10/03/03 11:56:08 +csziAT40

 ヴィクターを上から下までじろじろと観察していた男は、ふん、と鼻を鳴らした。
「ホムンクルスにはまだなっていないようだな」
「…」
 なぜ知っているのだろうとの考えが頭をよぎる。
 それを見て取ったのか、男はにやりとした。
「自身もホムンクルスになって、月で再人間化技術の確立を待つとは、ずいぶんとお人好しなことだ」
「…キミも、ホムンクルスだろう?」
「オレは蝶人パピヨンだ。言っておくが、月へなぞ行かん。あんな殺風景な世界のなにが楽しい」
 そんなことは許されない、と言いかけて、パピヨンに食人衝動がないことをヴィクターは思い出した。
 娘が、珍しい事例だと言っていたし、大戦士長もパピヨンは例外だと言っていたはずだ。
 荒れた邸内へ視線をくれてから、ヴィクターはパピヨンに背を向けた。
「ああそうだ。アンタに渡すものがあった」
 タイミングを見計らったかのように、パピヨンが声をかける。
「……なんだ」
 振り返らずに訊ねた。
「ついてくれば分かる」
 短くそれだけを告げて、パピヨンはさっさと屋敷へ上がり込む。
 どうしようかとしばし迷ってから、ヴィクターは踵を返した。
 パピヨンに敵意は感じられないし、万が一でも負けることはないだろう。
 そう思ってからふと、パピヨンが途中から英語で話していたことに気づいた。
 あまりに自然に切り替わっていたから気づかなかったが、パピヨンのそれは綺麗なクイーンズイングリッシュだった。
 かつて度々耳にした、彼の発音に、ひどく似ていた。
 ヴィクターは頭を振った。
 彼の血族だからか、パピヨンを見ていると彼を思い出してならなかった。


194:おやすみ(6/7)
10/03/03 11:57:58 +csziAT40
 屋敷内にずかずかと上がり込むパピヨンのあとを追うと、廊下の途中でガラス戸を開け放ち庭に降りた。
 どこまで行くのかと問いかけるが答えはない。マスクのために表情は分かりにくい上、今はヴィクターに背を向けている。黙ったまま、大股に歩くパピヨンは、庭を通り抜け、建ち並ぶ蔵の前に立った。破壊のあとが目立つそれらに、ヴィクターは眉を寄せる。
「気にするな。オレと武藤が戦ったあとだ」
 ちらりとヴィクターを見遣ったパピヨンが無感動に告げながら、ひとつだけ無事に残った蔵の扉を開け放った。真昼だというのに、覗き込んだ蔵の中は暗い。
 ふいにヴィクターは、彼が最初にヴィクターを匿った場所であることを思い出した。少なくともいくつかある蔵のひとつであるはずだった。
 ほのかな月明かりの下、着物姿の彼から、エネルギーを吸い取ったことを思い出す。触れれば彼を苦しめると、分かっていたからこそ、それでも近づこうとする彼を、あのときばかりは恐れた。
 たん、と足音も高くパピヨンが中に足を踏み入れる。
 とっさに手を伸ばし、ヴィクターはパピヨンの手首を掴んだ。
「…何だ?」
 見返すパピヨンの視線は冷たい。
 違う。似てはいても根本的に違う。彼は、ヴィクターにだけは、決してこのような目を向けたりはしなかった。常に尊敬と畏怖と、それ以上に言い知れぬ温かな感情を込めた目をしていた。彼だけは信じられるとヴィクターが思うほどに。
「…すまない」
 自身の行動にうろたえ、ヴィクターは慌てて手を離した。
 興味が失せたのか、ヴィクターの手から解放されるとすぐにパピヨンは蔵の奥へと足を向けた。いくつか置かれた箱や棚をがさごそと漁りはじめるパピヨンをしばらく見てから、ヴィクターは自身の手に視線を落とした。
 触れられた、そのことに驚きを感じていた。
「……蝶を触ると」
 独り言のように言葉が口をついて出る。
「蝶は弱るだろう」
 何事かと、パピヨンが視線だけを向ける。


195:おやすみ(7/7)
10/03/03 11:58:32 +csziAT40

 構わずヴィクターは語り続ける。
「あれと同じで、俺が彼に触れると、彼は弱った」
「だから、触れたことはない、か」
 面白くもなさそうに呟いて、同時にパピヨンは何かをヴィクターに投げつけた。
「!」
「ひいひいじいさんの日記だ。アンタがフラスコに入ってからのことが書かれてる」
 とっさに受け止めたそれは、分厚い本だった。何百もあるページそれぞれに、彼の流麗で几帳面な文字が記されている。
「英語で書いてあるところを見ると、ほかの人間に見られたくなかったんだな」
 散らかした書籍を片づけながらパピヨンが呟く。日記には、ヴィクターのフラスコの状態が詳細に記されている。その合間に、彼からの、ヴィクターへの思いが綴られていた。
『いつになれば、君を救えるのだろう』
『君は私を信頼してくれた。それに応えねば』
『この命尽きても…』
 気づけば、ぽたりと落ちるものがあった。慌てて手の甲で拭う。
 ふん、と呟いて、パピヨンが蔵を出ていく。
「それは好きにしろ。オレはもう行く。これでも忙しいんでね」
「待ってくれ!」
 スタスタと歩き去ろうとするパピヨンを呼び止める。
「…………ありがとう」
「……ふん」
 ヴィクターの感謝を、パピヨンは背で受け止める。
「用が済んだらさっさと出ていけ。ここは蝶野の敷地、つまりオレのものだ」
 それだけを言い捨てると、パピヨンは黒い翅を広げて飛び立った。
 それを見送って、ヴィクターはもう一度彼の日記に視線を戻した。
「…おやすみ、バタフライ」
 そっと呟き、日記を閉じた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでしたorz


196:風と木の名無しさん
10/03/03 18:19:48 wOHUVBFQ0
>>172
姐さんの書くTDNが好きすぎて生きるのが辛い
スイートになってしまえよヒメネス…!

197:風と木の名無しさん
10/03/03 21:39:04 7Q2Ydx2n0
>>181
姐さんいつも本当に有り難う!
今回も萌えたよ、萌えまくったよ。
缶のはーい、がもう聞こえるようですた。
次はぜひ本ば ゲホゴホww

198:風と木の名無しさん
10/03/03 22:00:16 pY/VQbKKO
>>195
GJでした!好きなのに近づけなかった爺様も、事実を知ったヴィクターも切ない…
玄孫も、爺様はかつての自分とそっくりで苦笑してそうです

199:初めての……【1/6】
10/03/03 23:35:23 zzLu2g+FO
デ/ジ/モ/ン/セ/イ/バ/ー/ズより
ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン×マ/サ/ル、最終回後
時/空/の/壁は安定してゲートを一定周期で開いているという設定です


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

200:初めての……【2/6】
10/03/03 23:37:20 zzLu2g+FO
 「ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン!」
 頭上からかけられた声に、反射的に顔を上げると同時に、
崖から飛び降りてくる小さな影が目に入る。
 「マ/サ/ル!」
 慌てて手を差し伸べると、その小さな影……大/門/大を受け止めた。
 「流石ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン、ナイスキャッチ!」
 差し出された掌に着地すると、やや緑がかった琥珀色の瞳で
無邪気に見上げてくる青年に、思わずため息が零れる。
 「…マ/サ/ル、いくら何でも無謀過ぎるぞ。もし私が受け止め
損ねたらどうするつもりだ? いくらお前でも無事では
済まないだろう?」
 ……いや、マ/サ/ルならこの位の崖から飛び降りても大丈夫
かも知れないが、見ている方としてはたまったものではない。
 只でさえマ/サ/ル(とア/グ/モ/ン)が旅に出ている時や
人間界へ戻っている間、病気や怪我をしていないか、トラブルに
巻き込まれていないか気が気でないのだ……この話を他の
ロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツにした所、
『ク/ロ/ンデ/ジ/ゾ/イ/ド並みに頑丈な奴だから心配ないだろう』
『…そもそも、ス/グ/ルやマ/サ/ルは本当に人間なのか?』
等と言われたが。
 「んー…あの位の高さなら大丈夫だと思ったし、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンなら
絶対に受け止めてくれると思ったからさあ……」
 そんなク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンの想いも知らず、マ/サ/ルは満面の
笑みを浮かべると。
 「ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンの姿を見たら、すぐに傍に行きたくなっちまったんだ」
 「マ/サ/ル……っ」
 だがすぐに心から申し訳なさそうに眉を下げる。
 「けど、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンに迷惑かけちまったな……悪りぃ」
 「い、いや……今度からはいきなり飛び降りるのは止めて
もらいたいだけだ」

201:初めての……【3/6】
10/03/03 23:39:58 zzLu2g+FO
 ……何故だろうか。
 マ/サ/ルがデ/ジ/タ/ル/ワ/ー/ル/ドに来て以来、彼の何気ない
会話や表情に一喜一憂してしまうのは。
 マ/サ/ルの笑顔を見る度に、身体の奥が暖かく、ぎゅっと
締め付けられるような感覚に囚われてしまうのは。
 ロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツの一員として誕生してから、一度として
体験した事の無い物ばかりだ……が、思えば、マ/サ/ルとの
最初の出会いからして強烈な体験だった。

 『何がロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツだ! 何が神だ! 世界が滅びようって時に、
てめえらの神様は一体何してやがる! 世界を救えもしねえ奴が
神を……神を名乗ってんじゃねええええっっ!!』
 
 シ/ャ/イ/ン/グ/レ/イ/モ/ンへと止めを刺そうとした魔槍ク/ラ/ウ・ソ/ラ/スを
素手で止めたばかりか押し返した。
 それだけでは無い。

 『見せてやる、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン! こいつが人間の…
可能性だああああっっ!!』

 ……更にその後の再戦にて、魔楯ア/ヴ/ァ/ロ/ンをも打ち砕いたのだ。

 それらは自らのアイデンティティーを粉々にされる出来事
だったが、同時に“大/門/大”という漢を己の心に深く
刻み込むきっかけになり。
 また、この不可思議な気持ちの始まりだった。
 という事は。
 (……マ/サ/ルのデ/ジ/ソ/ウ/ルの影響なのか?)

202:初めての……【4/6】
10/03/03 23:41:53 zzLu2g+FO
 以前、イ/グ/ド/ラ/シ/ルが言っていた事を思い出す。
 “デ/ジ/モ/ンは人の感情に強い影響を受ける”

 イ/グ/ド/ラ/シ/ルが挙げた例は、人間の負の感情に
引き込まれたデジモン達の事だったが、人の感情全てが
悪い物ばかりでは無いだろう。
 現に、自分が感じているこの感覚は不快では無い。

 寧ろ……。

 「……モ/ン、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン!」
 「っ…!」
 いつの間にか考え事に没頭していたらしい。
 眉を寄せたままのマ/サ/ルと目が合う。
 「やっぱり疲れているんじゃねえか? 任務が無いなら、
今日はもう帰って休めよ」
 「だが、今日はお前と約束が……」
 その言葉に『生真面目過ぎるぞ』と言いながら、改めて
ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンを見上げる。
 「別に出掛けるのは明日でもかまわねえし……それによ、
俺はどこかに行きたいんじゃなくて、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンと一緒に
いたいだけっつーか……っ、あー、何か変な事言っちまったな、
忘れてくれ」
 「…? ああ……」
 いきなり真っ赤になって己の発言を忘れるよう言っている
マ/サ/ルを不思議に思いながら。

203:初めての……【5/6】
10/03/03 23:43:31 zzLu2g+FO
 (明日ス/レ/イ/プ/モ/ンに相談してみるか……)
 人間界で過ごした時間が長く、またデ/ジ/ソ/ウ/ル研究にも
関わっていた盟友なら、この初めての感覚の正体を知っている
かも知れない。

 だが、今はそれよりも。
 掌の上で真っ赤になったまま押し黙ってしまったマ/サ/ルに
どう対応するべきか、その事だけに集中する事にしたのだった。

204:初めての……【6/6】
10/03/03 23:46:23 zzLu2g+FO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

205:風と木の名無しさん
10/03/04 00:04:19 7b/0AcKjO
>>174-181
今回も動悸が止まらない板缶をありがとう!姐さんの板缶本当に素敵。
まず「なぁ…いいだろ…」に禿た。声に惹かれるてのよくわかる。そしてあの低音ボイスで再生されてドキドキw
ノンケ板がどのように段々缶に惹かれいったかの過程が超読みたいです!寸止めに終わってしまった本番もいつか…

一つ気になるのは勃ったまま板は現場行くのかなwてっきり行く前に缶に口なり手なり抜いてもらうのかとw
いや、1人どっかのトイレで缶を想像して抜くのもおいしいw

規制がなかったら是非また次書いて下さい。

206:風と木の名無しさん
10/03/04 00:16:27 JCiJfo3b0
>>181
板がオンもオフもすげーセクシーでギュンギュンしました!
そりゃ缶も惚れる・・いい男!
最終回のあと、姐さんの板缶がどうなるのかも楽しみでーす!

207:某生兄弟1/3
10/03/04 06:51:56 0mx5jQOrO
某生
非エロだけど兄弟モノ注意。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサグエンガオオクリシマース!


父がしていたバッチが今は弟の胸にある。なんだか不思議な気分だった。
会いたいときに会えなかった父。その父と同じ道を選んだ弟。
顔を合わす度に頼もしさを増している姿が眩しい反面、その大変さは父を見てきたからよくわかってる。

「なんか、ちょっと、寂しいかも。」

さっきまで笑って鍋を囲んでたのに。
互いの近況や思い出を話すうち、なんだか弟が遠くに行ってしまうような…そう感じたら
じわりと涙が滲んで零れていた。

「はは、泣いたか。」

兄の涙もろいのを知っているからか、それとも照れ隠しか。
弟がコートのポケットからハンカチを差し出した。

「うっさい。」

爽やかに笑いながらも鼻の奥がツンと痛む。
寂しいと言ってみたところで状況がどうなることでもないし、どうしたいわけでもない。
そんなのは小さい頃からわかっている。言っても困らせるだけだ。

「寂しいのはお互い様でしょ。」

弟が手のひらで兄の髪をポンポンとして、慰めるようにあやす。
それは子供扱いするような仕草で、兄は照れるようにやや拒否したが、
弟は自分よりも背が高い体をそのままぎゅっと抱きしめていた。

208:某生兄弟2/3
10/03/04 06:55:01 0mx5jQOrO
「俺だって寂しかったよ。おにいが芸能界入ってから。おにいなんて売れないで
帰ってきちゃえばいいんだって思った。」

他人から見ればこんなのはおかしいことだろう。いい年こいた弟が兄貴をこんなに抱きしめているなんて。
でも誰にも理解できないかもしれなくても、兄弟であるという思いと同じくらい、戦友な気がしていた。
何をするのも一緒で、どこへ行くにも連れてってくれた兄。
世間では恵まれてると言われてきた自分たちだけど、ガマンすることも多かったと思う。
パパを困らせちゃだめだよ。ガマンしなきゃだめなんだよ?て。兄に何回言われたかわからない。
そんな兄が、自分に会えなくなったのが寂しいとガマンできずに涙を零している。
弟は少し困惑したが、それ以上に自分を想ってくれていることが嬉しくてしかたがなかった。

兄がそばにいて自分をたくさん守ってくれた。
だから兄の気持ちは自分が一番わかっているつもりだった。
だが、寂しい思いをしてたのは兄の方だったのかもしれない。

誰かに強制されたのでなく、会いたいときに会えない道を選んだ自分。
弟が秘書として父と共に戦っていた裏で、兄はどんなに不安で心配していたか。
あの経験で成長できた。でもできるならもうあんな思いは味わいたくない。
いつか兄がそう言っていたのを思い出した。
やっと父があの戦場から生還してきたと思った矢先、今度は入れ替わるように弟が…
生まれた家がそうだから諦めてる、わかってる。兄はきっとそう言うだろう。
でもやるせない。

209:某生兄弟3/3
10/03/04 07:01:01 0mx5jQOrO
「ごめんな。」

さっきよりきつく抱きしめると、兄が弟の肩へと顔を埋めた。
よく知ってるにおいがする。

「なんで謝る?…なんだ、今度はお前が泣いてんの?」

「もらい泣きしたかも。俺の気持ちわかった?」

自分のとよく似た形の指が涙を払った。
涙もろいのはどちらも父親譲りだから同じなのは仕方ない。
どんなに離れても同じ血がこの体に流れてる。
お互いが愛してやまない、あの父の血が。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでした。需要ないと思いますが吐き出したかった。
>>2にあるように全てがネタです、許して下さい。
寂しいと言って涙した兄エピと、それに対し、俺も寂しかった。
売れないで帰ってくればいいと思った。あんときの俺の気持ちがわかったか…!
な弟エピ以外は。

210:風と木の名無しさん
10/03/04 13:02:32 IVJ8zxOnO
>>207
姐さんのおかげで目覚めてもうたがな!GJっす!
今まで兄単体萌え(例の幼馴染みはイマイチ萌えられず)だったんだが、弟イイヨイイヨー。

211:風と木の名無しさん
10/03/04 14:17:02 6nstpDsjO
>>174
あったかい気持ちになったよありがとう

212:風と木の名無しさん
10/03/04 18:45:56 c5KhnB3OO
>>209
姐さんGJです
全身ツルツルに禿萌えた
なんちゅーエピ隠し持ってるんだ

213:シーソー 1/3
10/03/04 21:19:45 nvQ4sDeW0
三たび真・女神転生SJ、ヒトナリとヒメネス。
カプ不明。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ミジカイヨ

214:シーソー 2/3
10/03/04 21:20:13 nvQ4sDeW0
 あれは悪魔で、この身は人間。
 行なわれている戦いは、悪魔と人間が一つしかない未来を取り合う、喰らい合い。

「全員、帰還」
 静かに命じて、天帝の剣を低く構える。驚愕した仲魔たちが、一斉に大きな声を上げた。
「正気か、ヒトナリ!?」
「無茶よ! 死ぬ気なの!?」
「お言葉は聞けません! 我らは、」
「黙んな」
 騒ぎの一切を静まらせたのは、目の前にいる、悪魔だった。赤い、黒い、人間が持ち得ない色を纏った、一匹の。
「解るぜ、ヒトナリ。この一戦は、悪魔と人間の争いだ。悪魔の俺を殺すのは、俺の同属じゃなく人間、……つまり、お前でなくちゃならない。そう考えてるんだろ?」
「ああ」
 マスクの下で笑っても、悪魔の目には見えないだろう。だが、あの悪魔は、自分が笑っていることを、きっと、知っている。
「いいぜ。かかってきな、ヒトナリ。だが一つ、教えといてやる」
 悪魔の右手が持ち上がる。その先にある爪が伸び、濡れた色をして、ぞろりと光った。
「この戦いはな、悪魔が人間を縊り殺して、終わるんだよッ!」
 悪魔が床を蹴り、跳び込んでくる。どこかで見たことのある顔が、息の交じり合う近さまで。

 避けることは、しなかった。
 それより、この剣の方が、速い。

215:シーソー 3/3
10/03/04 21:20:37 nvQ4sDeW0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )オソマツサマデシタ

216:風と木の名無しさん
10/03/04 23:46:39 +Gr0usR/0
>>215
某吸血鬼と神父を彷彿とする殺し愛ktkr
どっちが勝っても、後で残った方が静かに狂ってそうだよなぁ
大変美味しゅうございました

217:風と木の名無しさん
10/03/05 00:46:04 gq6NLROZ0
>>215
短いのにぞわっとした…
一度もヒメネスとは呼ばないヒトナリが悲しくい
毎回まるで違う作風を見せる姐さんに吃驚させられ通しだ

218:風と木の名無しさん
10/03/05 02:40:02 2RX9m3GE0
>>207
ちょw
兄萌えだけどそんなエピがあったとは…それも含めて禿萌えたGJ!



219:騎士と魔術師 1/4
10/03/05 05:10:19 QI7lMWXVQ
オリジナル 騎士と魔術師 エロ描写一切無し 一応モトネタありだが、掛け離れてるのでオリジナルで

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

220:騎士と魔術師 2/4
10/03/05 05:11:10 QI7lMWXVQ
遠くを見て彼は言う。
「……それでも戦わなくちゃいけない」
一度ボロボロにやられた後回復した彼は、皮肉に笑う。
「多勢に無勢でも、いくら倒されても……」
彼は俺に向き合った。真面目な顔で手に持った盾を腰にぶら下げ、ランスを持つ。
「お前を護るのが……」
綺麗に笑った彼の笑顔が眩しかった。
「俺の使命」
ランスを構えて彼は俺を庇うために術を唱えた。俺は後ろから攻撃魔術を放つ。多勢に無勢……彼の言葉を思い出す。
『無駄な抵抗はするな』
敵の声が聞こえる。だけど、少しでも彼を助けたい、そう思った。彼の背中から声がする。
「無理すんな」
周りがうるさくても、不思議と彼の声だけははっきりと聞き取れた。
「……上手く逃げろよ」
「出来る訳ないだろ……見損なうな」
最初からそうだった。まだレベルの低かった俺に、なぜか彼は剣を捧げて、二人で色々な戦場を渡り歩いた。

221:騎士と魔術師 3/4
10/03/05 05:15:03 QI7lMWXVO
「そうか」
いざとなったら、自分が犠牲になって俺を逃がしてきた彼。
「俺も最後まで戦う」
俺だってレベルも上がって、戦場を渡り歩く一端の傭兵として彼に認められたかった。
「……無理はするなよ」
彼はそれだけを言って口をつぐんだ。攻撃を仕掛けてくる敵に、意識を集中させているのが解る。俺も意識を集中させ、次の魔術に備える。
彼の小さな息遣いまで、なぜか綺麗に俺の耳に届いた。その瞬間集中が切れ、雑念が沸き上がる。
この戦場の仕事が終わったら聞いてみよう。なぜ、俺に剣を捧げたのか、俺を庇ったのか……どんな気持ちを俺に感じているのか。不意に彼が振り返った。
「お前の中に有るのと一緒だよ」
口だけが動いて、少し目に笑いが滲み出た。彼の視線が、俺の上に一瞬留まる。
「集中しろよ」
つい、口から出た言葉に彼は面食らったらしい。切れ長の目が少しだけ大きく開かれた。

222:騎士と魔術師 4/4
10/03/05 05:16:28 QI7lMWXVO
そうだな、と言うふうに彼は頷いて前に視線を戻す。
「お前も集中しろ」
……何だろう、少し照れ臭そうにしている彼が見えるような声。声をかけようとしたら周りの敵が動きはじめる。……生き延びられたら、沢山聞こう。気持ちも、なにもかも。
「生き延びような」
彼は俺の言葉に答えなかった。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ジョブは違うけど若干、師匠と弟子っぽい。ID変わってますが同一人物が書いてます。

223:原因と結果 1/4
10/03/05 14:43:13 C1ZXg+T20
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     | 生注意 六角形なクイズ番組煙草銘柄ユニット
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 紫色×水色 既にデキてる前提で
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ふと目が覚めた。
暗い部屋に目が慣れてくると、うっすらと家具の輪郭が浮かんでくる。
水が飲みたい。
一旦そう思うと、喉の渇きが我慢できない。
隣の寝息を乱さないように、そっと布団から抜け出る。
自分の部屋では無いものの、通い慣れ、泊まり慣れた部屋である。
さしたる迷いも無くドアを向かおうと立ち上がったつもりが、へなへなと床に座り込んでしまった。
「マジかよ……」
体ががくがくして、腰に力が全く入らない。



224:原因と結果 2/4
10/03/05 14:43:51 C1ZXg+T20

何故こんなことになったのか。
原因は分かってる。
今も安らかな寝息を立てているこの部屋の主のせいだ。
新曲の練習が終わった後部屋に来て、風呂から始まりベッドに移動して、何度も何度も愛された。
宝物を扱うかのような優しい指先は、どこまでも甘く追い詰めてきて、半ば失神するように眠りに落ちた。
「あんなに放してくれなかったら、そりゃ腰も立たないよな」
ある種の納得と諦めが混じったため息を一つつき、布団の中から手探りでTシャツとボクサーパンツを引っ張り出して身に着ける。
サイドテーブルに手をかけてなんとか立ち上がって壁伝いに歩き出した時、背後で衣擦れの音と共にスタンドライトの小さな灯りがともった。
「ひろ、み……?」
かすれた声に心臓が跳ねる。
この寝起きの声で名前を呼ばれるのが一番好きだ。
もちろん本人には一生言うつもりは無いけど。

「比呂巳、なんでそんな格好してんの?」
言われて己の姿を確認してみれば、へっぴり腰で壁にすがっていて、まるで老人のようだ。
「誰のせいだと思ってるんですか?まっすぐ立てないんですよ」
「マジで?」
驚いた声に続いて噴出している。
ムッとした瞬間、軽々と抱え上げられた。
「ちょ、ちょっと!なんでお姫様抱っこなんですか!?」
「なんでって俺の姫みたいなもんじゃん」
「俺は男です」
「知ってるよ。で、どこ行こうとしてたんだ?トイレ?」
「違います。喉が渇いて……」
「おっけー。水持ってくる」
ベッドに下ろされ、部屋を出て行く背中を見送る。


225:原因と結果 3/4
10/03/05 14:44:25 C1ZXg+T20

「タフだなー」
こっちは腰が立たないのに、向こうはダメージゼロ。
お姫様抱っこする余裕すらあることが、なんとなく腑に落ちない。
時計に目をやると、3時を回ったところだ。
疲れてくたくたなのに、変な時間に目が覚める事がたまにある。
今日もそんな日なんだろう。
「お待たせ」
ペットボトルを受け取ろうと手を出すと
「俺が飲ませてやるよ」
「大丈夫ですよ」
「いーから、いーから」
「でも……」
水を含んだ唇に反論を封じ込められる。
流し込まれた冷たい水が驚くほど甘いのは、喉が渇いていたせいなのか。流し込む相手のせいなのか。
唇の端から零れた水が首筋を伝うのを丁寧に舐めとられると、それだけで息が弾む。
もう一口、と流し込まれ、水が無くなっても唇は離れない。
絡めた舌で口の中を探られると、体の芯に熱が宿る。
「…ん……だめ、ですよ……今日もしゅう、ろくが」
途切れ途切れの抗議に力があるはずも無く、呆気無く押し倒された……。



226:原因と結果 4/4
10/03/05 14:45:03 C1ZXg+T20

「だから駄目だって言ったじゃないですか」
収録で大失態を演じた俺の前で土下座する人物を睨むのは、この日の夜のお話。



 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ <失敗も美味しく頂きました
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |


227:風と木の名無しさん
10/03/05 21:33:47 XzschdPfO
>>223

立てないってどんだけw
優しい指先に追い詰められるって
あたりに盛大に萌えた!

そして先視点が読めて嬉しい!
thnks(゚∀゚)

228:風と木の名無しさん
10/03/05 21:58:03 lGSm6Pto0
亀レスだけど>>189
ヴィクバタ姐さん来てたー!ひゃっほー!
ヴィクバタ!ヴィクパピ!
蝶を触ると蝶は弱って、触った手には跡がずーっと残るよね・・・甘切ない・・・

229:風と木の名無しさん
10/03/05 22:23:37 x7quUAjDO
>>223
姐さんゴチです!
コヅ体力ありすぎw

230:原人バンド唄六弦 1/8
10/03/06 00:01:25 HyzNrVmw0
生注意 元青心臓、元高低 現原人バンドの唄&六弦の話
時系列は原人バンド結成前。事実も織り交ぜてますが大部分虚実です当然です。

じゃっかん唄×六弦気味

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ああ、まるで子供みたいだ、と。

真縞は匕口卜のくしゃくしゃに歪んだ顔を見上げながら、ぼんやりと思った。



交互に使っているスタジオ、現れるはずのない時間帯に顔を出した匕口卜。
セッションしよう、と無邪気に彼は言った。
「俺さ、昨日の晩さ、匕°ス卜ルズの『ア十ーキーイソザUK』のドラムコピーしたんだぜー」
だからさ、マーツーギター弾いてよ。そう言う匕口卜があまりにもわくわくと楽しそうで、ドラムセットに座りながら自分を見上げるその目が、あまりにもきらきらと期待に輝いていて。
流されるままに真縞は、ギターを手にとっていた。
愛器を肩に掛け、2、3度試し弾きをすると、待ち構えていたようにヒロトの持つスティックがカウントを始める。

曲の最初のギターコードをつま弾いた後にちらりと背筋を駆け抜けたのは、自分の決意が揺らいでしまいそうな、そんな不安だった。


231:原人バンド唄六弦 2/8
10/03/06 00:02:29 gA9nQnCi0
匕口卜とのセッションは楽しかった。

なるほど、一晩かけて練習してきたというドラムパートはなかなかのもので、そのしっかりとしたリズムに助けられながら、うろ覚えのコードを探るように、聴き馴染みの曲を演奏していく。
どちらともなく歌いだし、自然とボーカルのパートは2人でとる形になった。
真縞がミスをしたり、思いだしあぐねてもたついたりすると、ドラムのリズムも一緒にもたついてくれる。それが楽しくて、嬉しくて、顔を見合わせて笑う。
一度目は本当にボロボロで、泣きの再チャレンジ。
一度目よりはましになったけれど、納得いかなくてさらにもう一度。
そのうちに、他の曲もやってみようという話になり、今度こそ2人そろってうろ覚えもいいところの、かなり酷い演奏を、大笑いしながら繰り返した。
怪しいコード進行のギター。独創的なドラムのリズム。唄の歌詞などまるでデタラメで、半ばヤケのように2人でがなり立てる。
何度か繰り返すうち、自分たちなりに満足いく演奏ができたら、次の曲、そしてまた次の曲。
そうやって、いったい何時間が過ぎたのか。


気づけばスタジオの外は夕暮れていた。


「あー、楽しかったーー」

満足げにドラムスティックを置く匕口卜の顔が、夕日に照らされていた。
そのせいか、またはセッションの高揚感のせいなのだろうか、いつもは青白い匕口卜の顔が紅潮している。
その様子をしばらくの間ぼおっと見つめていた真縞は、ふと我に返ると、慌てて匕口卜から視線を逸らせた。
あーあ、とわざとらしく大儀そうな声を上げ、ギターを肩から外してスタンドに立てかける。
「久しぶりに真面目にギター弾いたら、疲れちゃったよ」
そして、匕口卜に背を向け、腕をぐるぐる回しながらスタジオの隣の休憩室に向かった。
まるで、匕口卜から逃げるように。
後を付いて来てくれるな、と祈りながら。


232:原人バンド唄六弦 3/8
10/03/06 00:04:57 HyzNrVmw0
けれど、

「なーなーなー、」
そんな真縞の身勝手な望みなど匕口卜に分かるはずもなく、楽しげに弾んだ声と軽やかな足取りが、すぐに追いついてくるのだった。
「マーツー、楽しかった?」
並んで休憩室に入ると、匕口卜は回り込み、真縞の顔を覗き込んできた。
「うん、楽しかったよ」
そのどこか不安そうな顔に、真縞はかすかに笑ってみせる。
楽しかった。それは偽りのない事実だったから。
匕口卜はニコニコと頷いた。
「やっぱさー、人と演奏するのは楽しいね?」
「……うん、そうだね」
それも、本当だ。
「いやでも、マーツーとだったから、余計楽しかったのかもなぁ…」
「…………」
それも、本当のことだ。少なくとも真縞にとっては。
匕口卜と一緒に演奏するのは、ロックを共にやるということは、掛け値なしに楽しい。最高に。
けれどそれは、今の真縞にとってはひどく苦しく、辛い現実なのだった。

ねえねえ、とまるで近所の気になる子を初めて遊びに誘う子供のような、はにかんだ匕口卜の口調。
どうか、その先は言わないでほしい――、
そんな真縞の願いが、やはり通じるはずもない。

「またさ……、一緒にやろうよ」

「……………」
何を、と問わなくても、匕口卜の言いたいことは痛いほどよく分かっていた。
数か月前に事実上解散したバンド、終わらせた2人での音楽活動。
その再開を匕口卜は望んでいるのだ。
また一緒にロックをやっていくことを、彼は望んでくれるのだ。こんな自分と――、
それは何よりも嬉しいことで、同時に何よりも恐れていることでもあった。

233:原人バンド唄六弦 4/8
10/03/06 00:05:41 gA9nQnCi0
真縞は、胸の痛みに耐えるようにそっと目を閉じた。
細く長く、息を吐き出す。これから言う言葉が、匕口卜を落胆させるであろうことを覚悟しながら。
匕口卜をひどく傷つけてしまうかもしれないことを、怖れながら。

「…………ごめん…」

それは無理だ、と真縞の口から出たのは、蚊の泣くような呟き。
とたん、2人の間に重く沈黙が落ちた。
「……………」
「…………………」
もしかして聞き取れなかったのだろうか?
長すぎるその沈黙を不安に思った真縞は、閉じていた目をヒロトに向けた。
そのときだった。

「……やっぱり…」

静かな部屋の中に、低く重く、呻くような声が響く。
ヒロトは俯き、身体をかすかに震わせていた。

「―――え?」

「やっぱりお前、俺のことがイヤになったんだろ!!?」

「ヒロト……!?」
叫び声。それと共に身体に与えられる衝撃。

突き飛ばされた真縞は大きくよろけ、気づけば休憩室のソファに座り込み、くしゃくしゃに歪んだ、子供の泣き顔のようなヒロトの顔を見上げているのだった。

234:原人バンド唄六弦 5/8
10/03/06 00:06:27 gA9nQnCi0
それは、久しぶりに匕口卜が見せた激情だった。

「俺と一緒にいるのがイヤんなったから……、一緒にロックンロールやるのに飽きたから、だからお前、バンド辞めるなんて言い出したんだろ!!?」

やはりそう感じていたのか、と真縞は思う。
突然のバンド休止の申し出の原因が、別のところにあることを。
努めてとった匕口卜との距離の意味するところを。
聡いこの男が気づかないはずがないのだ。
そして、そのことに心を痛めていないはずもない――。

あの時―、バンドを辞めたいと真縞が突然言い出したときでさえも、匕口卜は穏やかだった。
少し困った顔をしながらも、タイアップが決まりかけていた曲をあっさりと放り出し、「お前がそうしたいんなら、じゃ、休止しよっか?」と軽い調子で言ってくれた、そんなヒロトなのだ。
それが今は、真っ赤にした顔を歪ませて、こんなに感情を昂らせている。
怒っているのではなかった。付き合いの長い真縞には、それがよく分かっていた。

「なあ、俺のこと、そんなに嫌い……? バンド辞めて逃げ出すほど、スタジオ来る時間ずらして、俺と顔合わさないようにしなきゃなんないほど、俺と一緒に居るのがイヤんなっちゃったのか………?」

不安げにゆれる瞳。言葉もなくじっと見返すと、それは今にも泣き出しそうに潤む。
自分のそんな表情を隠したいのか、あるいは真縞をどこにも逃がすまいとでも言うのだろうか、ヒロトは床に座り込み、長い腕をソファに座る真縞の腰に巻きつけ、腹の辺りに顔をうずめた。
まるで、親に捨てられるのを怖れる子供のように。


235:原人バンド唄六弦 6/8
10/03/06 00:07:12 gA9nQnCi0
そう、匕口卜が感じているのはきっと、不安だ。
長年一緒に過ごしてきた人間が去っていくという不安。
自分が心を許せる人間を、失うかもしれないという不安。
真縞よりずっと友人知人も多く、大勢の人間に囲まれて朗らかにふるまっているように見える匕口卜だが、その実、人と打ち解けるのがあまり得意ではない。
だから、彼が本当に心を開ける人間はほんのわずかしかいないのだ。そんなところは切ないほど自分と似ていて、真縞は、だからこそ匕口卜の抱いている喪失の不安が、己のことのように実感できた。

匕口卜の問いに、そうだ、と返答できたら。
嫌いだ、と嘘をついてしまえたら、どんなに簡単なことだっただろう。

けれど、真縞は誰よりもよく知っているのだ。
匕口卜が自分の周囲の人間を、心の許せる人間を、どんなに懸命に愛しているのか。
自分が、どんなに匕口卜に大切にされてきたのか。
そして、自分などよりよほど情に厚い、優しいヒロトが、この別れでどんなに心傷つくことだろう―?
そう思うと、心にもない言葉で2人の関係を終わらせることなど、とてもできないのだった。

真縞はしがみつく匕口卜の頭を、愛しげに撫でた。
ちがうよ、そうじゃない、と子供をなだめる親のような口調とともに。

「お前のことがイヤになったんじゃない。……お前が好きだよ、すごく大切に思ってる」

こんな直截なことを匕口卜に言うのは初めてで。
どんなに気恥ずかしいだろうと口に出す前は思っていたが、真縞の耳は自分の言葉を、思いのほか自然な響きだと感じていた。
それはきっと、心からの本音だからだ、と真縞は思う。
けれど、いまの2人にとってはひどく薄っぺらな言葉だ、とも。

一緒にロックをやらない、それは2人にとって決別にも等しいことなのだと、互いによく分かっているのだから。

236:原人バンド唄六弦 7/8
10/03/06 00:08:03 HyzNrVmw0
撫でた手の下で匕口卜の頭は一瞬震え、真縞の腹にぐりぐりと押しつけられる。

「……それなら、」「でも、もう一緒にやることはできない」

最後の希望にすがるようにも聞こえる匕口卜の言葉を、真縞は残酷に遮った。
匕口卜に、そして何より自分に言い聞かせるように、真縞は言葉を並べた。
「これからも、俺が力になれることなら喜んでする。お前がソロやってくんなら裏方やるし。いつだって俺はお前の味方だよ。
 でもさ……、俺たちは長く一緒に居すぎたんだ。少し離れた方がいい」

匕口卜がぶるり、と激しく身体を震わせた。
「……なんでだよ!? なんで、俺たち離れた方がいいんだよ!?
 こんなに楽しいのに……、ロックンロールやって、あんなに最高の気分になれるのに、どうして俺たち一緒にいちゃだめなんだよ!!?」
「匕口卜………」

いっそう強くなる拘束。苦しいほどの締め付けと匕口卜の悲痛な声に、真縞は顔を歪める。

「なあ……俺を見捨てないでくれよ。 やだよ……、お前が俺をここまで引っ張ってきたんだろ…?」
「匕口卜、違う…」
「なにが違うんだよ!!……ダメだ!! 俺は、お前が離れてくなんて絶対許さねぇぞ!!」

不安がる子供のさまから、次第に狂気じみてさえきた匕口卜の自分に対する執着が、次第に真縞を追い詰めていく。

237:原人バンド唄六弦 8/8
10/03/06 00:08:48 gA9nQnCi0
落ち着け、と真縞は大きく深呼吸をした。
「――、匕口卜、離せ」
「いやだ!! お前がもういちど俺と一緒にやるって言うまで、離してなんてやらねーー!」
「いい加減にしろ、子供みたいなこと言ってんじゃねぇよ」
「うるせぇ!! お前がうんって言わないからいけないんじゃんか!!」
「――匕口卜!!」

堂々巡りの押し問答、募る苛立ち。

「なんでだよ……!? なんで俺から離れてっちゃうんだよ…、マーツーっっ!!」

そして何よりも、悲痛な匕口卜の声を聞くことの、身を切るような辛さに耐えきれず――、


「しょーがねーだろ!!?」

しまった、と思ったときには、すでに抑えてきた感情のダムが決壊していた。
真縞は叫んだ。

「だって、もう俺は、からっぽの抜け殻なんだから!!!」

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
まだ続きます、申し訳ない。
それから、新バンド結成を持ちかけたのは六弦だそうですが、
きっかけを作ったのは唄の方からだって無理に解釈しちゃってすみません…

238:風と木の名無しさん
10/03/06 12:04:59 60mQfKfn0
>>230
続きwktkで待ってます!!

239:風と木の名無しさん
10/03/06 12:42:27 DLbi1JzcO
>>230
美味だ―
続きハフハフしながら待ってます

240:風と木の名無しさん
10/03/06 14:15:37 68HGPMBC0
>>230
この2人の話をどれだけ待っていたことか…!!
いつまでだって待ちますぜ

241:原人バンド唄六弦 1/8
10/03/06 15:13:37 gA9nQnCi0
>>238>>239>>240さんありがとうございます
>>230-237の続きです

生注意


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

『真縞さんの作る曲が、だんだん匕口卜さんのと区別つかなくなってきてるような気がするんですけど』

そんな指摘で、自覚したのはいつだったか。

最初は愕然として、それから必死で否定して、それでも否定しきれず認めるしかなくて。
そして――、怖くなったのだ。
自分の世界の大部分が、匕口卜で占められているという事実に。
匕口卜という存在に飲み込まれ、“自分”が段々と無くなっていくような、そんな感覚に。

真縞は、“自分”でいたかった。
匕口卜が時に全てを委ねるような信頼をしてくれる、「自分にとって特別な存在だ」と公言してくれる、それに値するような自分でありたかった。
それなのに、気づいてしまったのだ。

「俺にはもう、なにも無い。――からっぽだ」

いつの間にか拘束は解かれ、ポカンとした顔が真縞を見上げていた。
情けなく歪んだ顔を見られるのが嫌で、真縞は両手で顔を覆い隠した。

242:原人バンド唄六弦 2/8
10/03/06 15:14:17 gA9nQnCi0
真縞にはもう何も無かった。
音楽を通して表現したいこと、主義主張。
怒りや悔しさ、虚無感、疎外感……、かつて自分の表現の源だと思っていたそれらの感情も、ギタリストとしての矜持すらも。
いまの真縞にあるのは、ただこれだけだった。

「俺はもう、お前とロックをやりたいって、それ以外のことは何一つ残ってないんだ――」

匕口卜がいればそれだけでいい

そんなことすら思ってしまう自分が心底嫌だった。
そして、これ以上、情けない男になりたくなかった。、
ただ匕口卜にすがることしかできない、何もない男には。
いつか匕口卜にも呆れられるだろう、みじめで空虚な男になり下がるのは、まっぴらご免だ。

だから、逃げるんだ。お前から。
手遅れにならないうちに。
自分の足で逃げ出すことができるうちに。
これ以上お前に溺れてしまう前に。
そうしていつか、お前に見限られてしまう、その前に。

「だから……、もう許してくれよ…。俺をお前から…、解放してくれ……」

顔を覆った手の隙間から、呻くような自分の告白が溢れ流れ出していくのを、真縞はどこか人ごとのように聞いていた。
そして祈っていた。
早く行ってくれ、と。
こんな価値のないガラクタのような俺なんか、いっそもう今すぐ見限って、ここに捨て置いてくれ。
そして、お前は変わらずに歩いていってくれ。ロックンロールの道を、わき目も振らず、ひた向きに。
それが、いまの俺にただ1つ残された誇りなんだ――、と。

243:原人バンド唄六弦 3/8
10/03/06 15:15:00 gA9nQnCi0
そのまま2人黙り込み、どのくらいの時間が経ったのか。
しかしその重苦しい沈黙は、のんびりとした匕口卜の声で破られた。


「いやー……、なんか、嬉しくて死んじゃいそうだなぁ……」


「―――!?」

匕口卜は笑っていた。
驚き見上げる真縞の前で、照れくさそうに鼻を掻いて、なんだかプロポーズとかされた気分だ、などと言いながら。

「……お前…、茶化すなよ…」
憮然として真縞は、やにさがる目の前の男の顔を睨みつけた。
「茶化してなんかないよ」
けれど、匕口卜から返ってきたのは、思いのほか強い視線だった。

「だって、俺もおんなじだもん」

俺だって、マーツーとロックンロールやりたいーって、それだけだよ。
あっけらかんと匕口卜は言った。

「他のことなんて、ホントどーでもいい。 ハハ…、すごいね、俺たちって両想いじゃん」

244:原人バンド唄六弦 4/8
10/03/06 15:15:54 gA9nQnCi0
茶化すな、とその言葉を否定するには、匕口卜の目は真剣でありすぎた。
だから真縞は、力なくでも、と言い募った。
声が掠れてしまうのは、拭いきれない不安のせいか。
それとも――、じわじわと湧きあがる喜びのせいなのか。
「でも……、そんなのはダメだろう…?」
お互いさえあればいい、だなんて、何も持っていなかった若いころよりもさらに乱暴で、傍若無人な言い分が、許されるはずもない、と。

「ダメでもいいじゃん」
こともなげに匕口卜は言う。
「ダメでどーしようもなくて、世界中の皆に怒られても、2人一緒ならきっと大丈夫。楽しいよ」
「…………」
「マーツーとロックンロールさえあれば、俺は他になにもいらない」
「………………」

それは、いろいろなものを抱えた今の自分たちには望むべくもない我儘だ。
それでも、きっぱりとそう言いきってしまう匕口卜の瞳の光の強さに、真縞はしばし見惚れた。

ヒロトは言う。

「だからさ、一緒にいよう?」

真縞の手をとり、今までみたことのないほど優しげな、慈しむような表情で真縞を見つめながら。

「2人でロックンロールやって、好きなことばーっかやって、笑いあって、ずっと一緒にいよう?」

今までに聞いたことのない、真摯な口調で。

それはまるで―――、

245:原人バンド唄六弦 5/8
10/03/06 15:16:28 gA9nQnCi0
「……お前の言ってることの方が、よっぽどプロポーズみたいじゃんか」
思わず真縞は破顔していた。
「ええ? そうかなぁ……?」
少しきまり悪そうに、匕口卜は首をかしげる。
それでも真縞を見つめ、実に嬉しそうに笑うのだ。
「やーーっと笑ったな」
「え……?」
そんなに自分は仏頂面をしていたのだろうか? 真縞が意味を掴みかねて見つめた匕口卜は、拗ねたように口を尖らせた。
「ここんとこずっと、お前の嘘笑いしか見れてなかったからさぁ」
「……………」
今度は真縞がきまり悪い思いで俯く番だった。
聡いこの男にどこまでも見透かされていたのかと思うと、恥ずかしいやら、申し訳ないやら、様子をうかがうように匕口卜を見上げると、予想に反して緊張した顔がこちらを見ていた。

それで?と匕口卜が厳粛な口調で言う。
「で、返事は…?」
「ん?」
「……プロポーズの返事だよっ!!」

「……お前なぁ…」

呆れた視線を投げるも、緊張を通り越して不安げになっている匕口卜の表情にぶつかって、真縞は苦笑する。
―自分の心の中が、この男を愛おしく思う気持ちでいっぱいになっていくのを感じながら。

246:原人バンド唄六弦 6/8
10/03/06 15:17:25 gA9nQnCi0
さっきはあんなに自信に溢れて、世界中の人間に怒られても平気だ、と言い放った男が。
自分の返答を不安な気持ちで待っているのだ。
お前に溺れそうで怖い、と先ほど告白したばかりなのに、それでもまだ不安に思っているのだ。

真縞は匕口卜の肩を軽く小突いた。

「イエス、に決まってんだろ」

悔しいけれど、もう自分は1人では上手く歩いていけそうにもない。
ヒロトと肩を組んで、支えあって、馬鹿なことをやって、ロックをやって―、そうやって生きていく他に想像がつかないのだから。
そして、それこそが自分の望んでいることなのだから――。

「一生、お前と一緒にいるよ」

言ったとたん、真縞の視界は90度回転した。

「………………!!!」
飛びかかるように抱きついてきた匕口卜と共にソファに沈む。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる苦しさに辟易しながらも、真縞は、自分にしがみつく男の背を、子供をあやすように撫でた。
その感触が心地よいのか、くすぐったいのか、耳元で匕口卜が笑う気配。
そして、真縞の耳に押し付けられた柔らかな感触。

247:原人バンド唄六弦 7/8
10/03/06 15:18:24 gA9nQnCi0
「…………」
耳に、頬に、額に、顔中にくり返し押し付けられる匕口卜の唇を、真縞は黙って受け入れる。
なんだか大型犬にでも懐かれた気分だ、と内心で苦笑しながら。
そうして、どこまでも優しいその感触に心地よさすら感じてきた真縞が目を閉じかけた、その時だった。

「――っっ!!?」
唐突に口を口で塞がれ、驚く間もなくぬるり、と匕口卜の舌が入り込んできて。
「………ちょ、…っ」
さすがに堪りかね、真縞は頭を振って口付けから逃れると、匕口卜の身体を押しのけた。
案外あっさりと離れていった身体は、けれど悪びれた様子もなく、のろのろと起き上がる真縞を楽しげに見守っている。
その顔をしかつめらしく睨み上げながら、真縞は唾液に濡れた口を拭った。

「今のはさすがにちょっとさ………。なんなの?いったい……」
「いやぁ、なんかね、原始的な衝動がね?」
「……ね? じゃないよまったくもう…」

いたずらが成功した子供のように笑う匕口卜にいよいよ呆れて、真縞は大きなため息を吐いた。
と、同時に真縞の脳裏にひらめいたのは、あるインスピレーション。

「……………」
「わー、もうこんな時間かぁ」
すっかり日が落ちた窓の外の景色と壁にかかった時計を交互に見ながら、匕口卜が腹が減ったと騒いでいる。
「マーツー晩メシどうする? 家に帰って食べるつもりじゃなかったら、これから一緒にどっか行かない?」
「……う、ん…、どうしよっかなぁ……」
匕口卜の誘いに気もそぞろな返答をしながら、真縞は逃げていこうとする先ほどの閃きの影を追いかけた。

248:原人バンド唄六弦 8/8
10/03/06 15:19:02 gA9nQnCi0
(……原始的、か…)

捕まえてみてもまだはっきりとした形を成さないそれは、しかし心が湧きたつような楽しい色を帯びていた。
真縞は抜け殻だった自分の身体に再び音楽に対する活力がみなぎってくるのを確かに感じ、そしてつくづくと思うのだった。


どうやら匕口卜と共にあることが、今の自分の音楽表現の源らしいと。
やはり、自分は匕口卜がいなければ駄目なのだ、と。


「マーツー? どうかしたの?」
「ん…、なんでもない。 メシ、行こうか」

ソファから立ち上がり、匕口卜と目線を合わせると、ニコリと、無邪気な笑顔が返ってくる。
その安心しきった表情を見ながら、幸福な気持ちであきらめのため息をひとつ。

「俺、カレーが食べたい」
「ええーー、またぁ?」

真縞はいつもと同じように匕口卜と肩を並べ、部屋を後にした。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

この2人なら、恋愛感情すっとばしてうっかり将来を誓い合っちゃったりしてるんじゃないかって
妄想が止まらなくなってついやっちまいました…

長々と失礼しました。

249:風と木の名無しさん
10/03/06 16:07:23 XqSTSfOO0
>>248
すごく良いものを拝ませていただきました
乙でした!

250:風と木の名無しさん
10/03/06 19:07:03 x3oImHUiO
>>248
原始人ズには全然詳しくないのに差し出がましいですけど感動しました!!
良いもの読ませていただいてありがとうございました。

251:風と木の名無しさん
10/03/06 21:51:53 M33vPlNyO
>>248
gj!
もう、すごくいいものを読ませてもらった、としか言えない。
248は萌えよりの使者だ。

252:原因と結果 4/4
10/03/06 23:34:54 FLHAmES30
>>248
うわー、すごく素敵なお話を有難うございます!
文体も超好みで萌えました

253:風と木の名無しさん
10/03/06 23:36:00 FLHAmES30
すみません!
>>252の名前欄は無視して下さいorz

254:風と木の名無しさん
10/03/06 23:58:22 QOXrM2bS0
>>253
あるあるw

どんまい

255:風と木の名無しさん
10/03/07 00:43:12 Si0fW0JfO
>>248
この二人まってました…!
GJ!

256:夜明け前1/9
10/03/07 01:38:03 QPNE23G90
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と伊蔵の9話後あたりの話。この2人はほのぼのっぽいが
本スレからお智恵を拝借して上司2人×武智なんかも少し有り。
そんなにエロは無いですが、痛い描写が少々あるかもなのでご注意下さい。
先生があいかわらずグルグルしてます。


霞む視界に白くくゆる煙が見えた。
日はまだ高く。それでも障子越しに差し込む光はどこか薄暗く。
鼻腔に感じるのは畳の古い井草の匂いと、狭い部屋に満ちる人いきれ。
足を抱え上げる手と肩を押さえつけてくる手は別物だった。
頭上で交わされている声がある。笑っているようにも思える。
しかしその意味までを聞きとる事は出来ない。
一方自分の口からも溢れるものがある。おそらくは無意識の悲鳴。
それは即座に肩から離れた片手が、塞ぐように押さえつけてきた。
口元に感じるその武骨な手の平の感触を、しかしそれならそれで構わないと思う。
自分とてこれ以上こんな姿を、外にいるかもしれない誰かに悟られたいとは思わない。
いずれ変わりゆくだろう己の浅ましい声色を耳にしたいとも思わない。
それくらいなら塞がれ続けている方がましだった。
視界の中で煙が揺れる。
それが組み敷かれている自分の傍ら、置かれている煙草盆の上の煙管からのもの
だと言う事を認識したのはしばらくたった後だった。

257:夜明け前2/9
10/03/07 01:39:07 QPNE23G90
傍若無人に押し開かれ、揺さぶられ、それにもはや抵抗する力も無いと見て取られると、
肩を掴んでいた男の手が不意に離された。
茫洋と開かれた視界の中で、その手が傍らの煙管を取り上げるのを見止める。
ゆっくりと運ばれた、その雁首が自分の上で微かに傾く。
火皿から零れ落ちる灰は赤いのだと知った。
その赤が肌一枚をちりりと焼く、その感覚に悲鳴がまた口をつくが、それは再び
広げられた手の平で強く抑え込まれた。
知覚した痛みに揺り戻された意識が、声を声として初めて拾う。
顔は駄目じゃ、足も土イ左まで戻る事を考えれば不憫ぜよ、ならば、
向けられる残酷な好奇の視線に、たまらずに身が竦む。
その脅えが相手を煽る事はわかっているのに、どうする事も出来ない。
案の定、頭上の声は途端喜色を帯びた。
そして告げられる。
可哀想に。愚かな門弟を持ったばかりに。それでも、
おんしの責めは免れんぞ。
先刻も告げられたその言葉が、呪詛のように深く身の内に染みてゆく。
そしてあらためて思い出す。そうだった。覚悟はしていた、最初から。
だからこの時、諦めと共に目は堅く閉じられ、胸の内には繰り返される言葉があった。
大丈夫、自分は慣れている。こんな事には慣れている。慣れている………


それでも――心は擦り切れた。

258:夜明け前3/9
10/03/07 01:40:18 QPNE23G90
瞼の裏で火花が爆ぜる。
その赤さに跳ねるように飛び起きれば、そこはまだ夜も明けきらぬ自分の部屋だった。
辺りに満ちる薄闇に、夢かと武智は深い息をつく。
しかしそうしてあらためて周囲を見渡せば、そこには広げられたままの自分の荷物の山があり、
その寒々しい光景にまたしても一つ吐息が洩れた。
昨夜の内に片付けきれなかった、江戸を去り、土イ左へと戻る仕度。
戻る事情は収次郎には話した。もっともそれは下手な嘘ではあったのだけれど。
だから一瞬いぶかしげな光を灯した彼の視線や追求を恐れ、自分は昨夜遅く、藩の中屋敷から
この世話になっていた道場に身を移すと、短い期間ながらそこに間借りをさせてもらっていた
部屋の整理に取りかかり、そしてそのまま床についた。
さすがに昨夜ばかりは藩邸に戻る気になれなかった。
おそらくは殺到するだろう皆の問い掛けに、冷静を装う余裕も気力も無かった。
それでも、逃げてばかりいる訳にはいかない事もわかっている。
日に日に冬へと向かう朝の空気は、今見た夢にうっすらと汗ばんだ肌に冷たく、
武智は布団の上に掛けていた羽織を引き寄せると、それを肩に掛けた。
まだ早い時間だが、もう一度眠る事は出来そうになかった。
だから起き上がり、着替えようとする。その時、
不意に部屋の戸の向こう、続く廊下の奥の方からなにやら騒がしい気配を感じ、武智は
手早く着物を改めると、戸を引き開けた。
騒ぎは聞き間違いではないようだった。
廊下の奥から徐々に近づいてくる乱雑な足音と入り乱れる声。
一方が制止し、一方がそれを振り払うような、そんな気配が角を曲がり現れる。
その瞬間、武智の目に飛び込んできたのはひどく取り乱した様子の伊蔵の姿だった。


259:夜明け前4/9
10/03/07 01:41:21 QPNE23G90
驚き、一瞬声も無かった自分を、見つけた彼の目が大きく見開かれる。
「武智先生!」
刹那、大きな声で叫ばれる。
それに武智は何事かと問う前にその事情を察していた。
あぁ、彼も知ったのか。
だからそんな彼を必死に押し止めようとするこの桃居の道場の門弟に、この時武智は静かに
声をかけていた。
「朝から騒がせてすまんかったな。こやつとはわしが話をするきに。」
おそらくは踏み込んできた伊蔵から自分の眠りを守ろうとしてくれたのだろう、そんな相手に
ねぎらいの言葉を与えれば、その門弟は一度複雑そうな視線を伊蔵に向けながらも塾頭であった
武智に黙って頭を下げた。
そしてその場から立ち去る。
後に残されたのは二人だけとなった。
伊蔵の息はまだ整わないようだった。それでも見上げてくる大きな瞳には苛烈なまでの激情が
浮かんでいる。だから、
「ここで騒いでは先生や先生のご家族にもご迷惑がかかる。」
部屋を間借りしている道場主への配慮を口にし、武智は伊蔵にひそりと告げた。
「外へ出よう、伊蔵。」

260:夜明け前5/9
10/03/07 01:42:23 QPNE23G90
百井道場は二つの川と合流する三十間堀の河岸にあった。
その堀沿い、藩邸の方角には背を向ける形で武智は歩く。
辺りはまだ薄暗く、道には人影も無く、そんな中伊蔵は先程の勢いはどこへやら、ただ黙って
自分の後ろを着いてきていた。
だから武智はこの時、静かに口を開く。
「国元から手紙がきたがじゃ。」
「…………」
「婆様の具合が悪うなっての。先も危ういやもしれん。せやきに、藩に帰国の許しをもろうた。」
考え、繰り返し声にし、ようやく人に告げられるようになった説明。
そして武智は伊蔵にはこうも付け加える。
「じゃが、心配せんでもええ。帰るのはわしだけじゃ。おまんと収次郎についてはそのまま
江戸に留まれるよう話はつけてある。」
元は自分の江戸修行の願い出の時に同行を許してもらった二人だ。
だが彼らは今回の自分の動向とは関係ないのだと、その立場を安心させてやろうとする。
しかしそれに伊蔵はこの時ハッと息をのんだようだった。
「わっ、わしはそんな事を気にしちゅう訳では…っ」
叫ぶ言葉が途中で詰まり、一瞬の惑いの後、地面を蹴る音が背後で聞こえる。
勢いよく自分の前に回り込んでくる、彼は自分を真正面に見据えるとこう叫びの続きを口にした。
「わしも一緒に行きますきに!」
「伊蔵?」
「先生だけを一人で帰す訳にはいかん!」
悲痛な声色でそう告げてくる、そんな伊蔵に武智は一瞬戸惑いを覚える。
が、そんな違和感は胸の内に押し隠し、今は年長者の度量で諭しを口にしようとした。
「何を言うがじゃ。帰るくらいわし一人で大丈夫じゃ。それよりおまんは、残りの滞在期間で更に
剣の腕を磨き、立派な侍に…」
「武智先生!」
ありきたりな説教は無用とばかりに、再度叫ばれる名。
いつもは自分の言う事をいっそ従順なまでに聞く、そんな彼の頑なさにこの時武智は明確に
いぶかしさを覚える。だから、
「どうかしたがか、伊蔵?」
うかがうように問う。するとそれに伊蔵は瞬間泣き出しそに表情を歪めると、クッとその顔を伏せた。


261:夜明け前6/9
10/03/07 01:43:27 QPNE23G90
「……の…せいじゃ…」
「……………」
「わしが…涼真を頼ったきに…先生が……」
ぽつぽつと落とされる、その呟きに武智はハッとする。
彼の言おうとしている事。それは彼が真相を知っているとは思えないが、それでも今回の一連の事の
顛末の本質を少なからず突いていた。
数日前に起きた、自らの門弟が引き起こした不始末。
夜道で拾った商家所有の舶来時計を質屋へ持ち込み、盗品と見抜かれ、奉行所へ訴え出られた。
その処分は上司から自分に任された。そしてそれに自分は切腹を申しつけた。
けれどそれに涼真は抗い、自ら動き、商家に訴えを取り下げさせると自分に情状酌量を願った。
しかし……自分はそれに応えられなかった。
切腹は予告した通り、日の出と共に。
しかしその朝を待たず、その門弟は夜の明ける前、姿を眩ました。
証拠は無い。痕跡も無い。しかしその手引きをしたのが涼真だろう事は自分には察しがついていた。
そしてそれを心のどこかでほっと安堵している自分がいる事も事実だった。
罪を犯したとは言え、自分を慕ってくれた教え子であり仲間でもあった者だ。
許してはやりたかった。助けてもやりたかった。
だが同時に、そう思ってしまう自分自身の弱さが、許せなくもあった。
自分一人だけならば、なりふり構わぬ事も出来たかもしれない。
しかし今の自分には背負う物がありすぎた。
唱えたい主張がある。国の行く末を想う理想もある。それに共鳴してくれる仲間もいる。
しかしそれらの事を成すには、藩内で連綿と続く身分差はあまりに大きな弊害で、それを改めさせようと
思えば、まず取り掛かれる事は下司全体の規律を正し地位向上を図る事くらいだった。
侮られぬよう、隙を作り見下されぬよう、必ず自分達の存在を認めさせる。
そう皆に触れを出した、これはその直後に起こった事件だった。
だから見逃してやる訳にはいかなかった。
彼一人への情と仲間全員に対する責。
それは自分の立場では、秤にかけてもいけない事だった。
なのに……揺れた。自分の弱さ、それは自分だけの罪だった。だから、
「涼真は…関係ないきに。」
後悔の念を口にする伊蔵に静かに語りかける。
しかしそれにも伊蔵は首を激しく横に振った。

262:夜明け前7/9
10/03/07 01:44:31 QPNE23G90
「せやきに、わしが涼真を呼んで、事を大きくして、それで少しでも希望を持たせてしもうたから
あいつは逃げ出すような事しでかして……そのせいで武智先生が…」
訴える主張は、やはり少し的を外している。
けれど今回の事で自分に累が及んだ、それを察しているらしい伊蔵の勘の良さに武智は少しの驚きを抱く。
まだ子供だと思っていた。
素直で、幼く、導いてやらねばならないとばかり思っていた。そんな彼が今、自分の事を慮って
悔恨を口にする。
だがそれを武智はやはり無用だと思った。
あの者が逃げようと逃げまいと、処罰がされようとされまいと、どのみち、自分の責任は
多かれ少なかれ免れはしなかった。だから、
「おまんは、何も気に病まんでええ。」
本心からそう告げる。けれどそれに伊蔵は納得を見せなかった。
「武智先生!」
責めるように縋るように名を呼び、その手を伸ばしてくる。そして掴まれた二の腕。
指が着物越しに強く肌に食い込む。その瞬間、武市は肘の内側に走ったひりつくような痛みに
思わず顔を歪めていた。
「……つっ…」
口の端からも噛み殺せなかった声が洩れる。それに伊蔵は慌てたようにバッとその手を離してきた。
「すっ、すいません!」
自分の手と武智を交互に忙しなく見やり、うろたえる。
それに武智は腕の痛みが治まるのを待って、一度深く息を吐いた。
そしてゆっくり顔を上げる。と、そこには堀沿いに営まれている茶店の、軒先に寄せられた腰掛けが
あるのが目に止まった。
「少し、座るかえ?伊蔵。」
言い、返事を待たずに踵を返す。
そして無意識に肘を庇うように腰を下ろし視線を上げれば、そこにはまだ尚困惑したように
道の真ん中に立ち尽くす伊蔵の姿があった。
途方に暮れたような、そんな頼りなげな様子に思わず苦笑めいた笑みが唇に浮かぶ。
だからそれを開いて、
「来いや。」
もう一度呼び寄せれば、それに伊蔵はようやくおずおずと歩を進めると、指示された武智の横へ
その腰を下ろしてきた。

263:夜明け前8/9
10/03/07 01:45:36 QPNE23G90
身長の差から見下ろす形になる、その肩越しに言葉をかける。
「少し前に痛めての。別におまえのせいやないきに。」
繰り返す、それは今回の事も、腕の痛みも。
思いながらもう一度触れる場所。
着物越しに確かめる。そこにあるのは、癒えきっていない火傷の跡だった。
処罰者の逃亡を許した、その申し開きをする為に訪れた上司の部屋で施された、それは罰と言うよりは
ただの嫌がらせだった。
普段の姿では気付かれる事の無い。しかしわずかでも腕を晒す機会があれば余人に見咎められるだろう
位置につけられた所有の印。
おそらく彼らにとって自分はもともと目障りな存在であったのだろう。
下司の分際でありながら、藩士らが多く通う百井の道場で塾頭に任じられた。
だから今回の騒動は、自分を痛めつける良い材料だったのだ。
身に加えられた私情交じりの制裁。
しかしそれに自分が何を言えるか。
いや、むしろこれは僥倖と捉えるべきであったかもしれない。
本来なら下司全体に及んだかもしれない処断が、目先の欲にかられた彼らによって己一人に向けられたのだから。
それでも、事が済んだ後に告げられた処罰。
江戸を辞しての土イ左戻り。
責の罪状としては軽いものだったのかもしれないと受け止めながらも。
それでも……心はさすがに軋んだ。
知らずため息が漏れてしまいそうになる。しかしそれを意識して殺した武智の隣り、この時
膝に置かれた伊蔵の拳を握った手の甲に落ちる何かがあった。
いぶかしく思い、視線で追う。
うつむいた伊蔵の顔から落ちる、それは彼の涙のようだった。
頑是ない子供のように小刻みに肩を震わせて泣く、その姿に武智はつい先程成長したと思ったのに、と
不意におかしくなる。だから、
「顔を上げや、伊蔵。」
優しく命じて、しかしそれに伊蔵は首を横に振れば、今度は手を伸ばして。
頬を包むようにしてこちらに顔を上げさせれば、そこには止めどなく涙を溢れさせる大きな瞳があった。
触れた彼の、自分の為に流される涙は温かかった。
そしてそれを温かいと感じられる自分が少し不思議だった。

264:夜明け前9/9
10/03/07 01:46:58 QPNE23G90
身に受けた痛みと共に擦り切れると思った。
一輪の花を愛でる事の出来る人ではないかと指摘をされれば、疼き苦しかった。
繰り返され、積み重なっていく苦痛にいっそ無くなってしまえば楽になれるかもしれないとさえ
思った心が、しかし今触れた温かさを飢えたように求めているのがわかる。
それは自分の弱さだった。戒めなければならない。けれど、
「そんなふうに、泣かんでもええ。」
二人以外誰もいないこの場だけは今少しの間、許して欲しかった。
「わしなら大丈夫じゃ。せやきに、おまんはおまんでここで頑張ればええ。剣の腕を磨いて、
見聞を広めて、そして土イ左に戻ったら、その時はわしにまた力を貸してくれ。」
「……………」
「それを誓うてくれる事が、何よりの旅の手向けになるがぜよ。」
教え諭すように。告げたその言葉に伊蔵は頬を取られたままこの時何度も頷きを見せた。
懸命なその稚い所作に、やはり笑みが誘われる。
だから濡れる頬を指の腹で拭ってやれば、それに伊蔵はすいませんと自ら袖でそれを拭く素振りを見せた。
だからゆっくりと手を離し、見下ろす。その肩に武智はこの時、ふらりとその額を寄せていた。
「…武智先生っ?」
驚いたような伊蔵の声が耳に届く。けれどそれにも伏せた顔は動かさなかった。
「おまんの肩の高さはちょうどええ。」
「……は…い…」
「このところ、ちっくと眠りが浅くての。せやきに……」
ほんの少しだけ……
身の重さを少しだけ預ける、その胸に誓う想いがある。
支えを乞うのはこれで最後にする。約束を、するから……
辺りに人影は無く、音も無く、そんな中でただ二人、息をひそめて寄り添う。
夜が明ける前の闇は一際暗い。
それでも彼のこの温もりを覚えてさえいれば、自分は今しばしその中で耐えられる気がした。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
白先生とお花イゾー、書けるうちに書いておく。
本スレ姐さん達、いつも素敵な妄想ありがとうございます。煙管ネタ萌えました。

265:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠1/4
10/03/07 02:13:07 jzerBC4SO
架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
延々規制中につき携帯より失礼します。


今日はずっとトロンとした目でボーッとしている。
かと思えばたまに盛大な溜息。
その溜息ですらなんだかいい声だ。
せっせと機材を運び込む俺達を手伝う気配もない。
まぁもうこれで終わりだからいいですけどね。
「ヒラ/サワさん、これで終わりますけど、何か飲みますか?」
声をかければこちらを見るが、返事は無い。
「相当お疲れですね…素敵でした、昨日のライブ。」
あ、また溜息。
こんなヒラ/サワさんは珍しい。
というか、初めて見た。
最近新しいファンがたくさん増えて、昨日最終日を迎えた3日間のライブは全日満員御礼だった。
昨今では平日なんか当日券はあたりまえ、休日でも広い会場では後ろはガラガラだったのに。
ヒラ/サワさん自体は何も変わっていない。
ただ、多くの人が彼を知る機会があっただけだ。
人が多ければお客さんのノリも変わるもので。
人の期待にはできる限り応えてしまう性格のヒラ/サワさんはそのノリに合わせて無茶をして相当疲れたようだ。
「…なんか、恥ずかしい」
お、やっと喋った。恥ずかしい?あら、まぁ…。
「なんか…翻弄されたっていうか…燃え尽きちゃった」
翻弄…?
「MCでもない所で休憩とかしちゃったし。私とした事が。不覚。くそ。」

266:架空のスタッフ×某テクノなおっさん師匠2/4
10/03/07 02:15:04 jzerBC4SO
ええ、ええ。
あれはかわいかったですよ。
萌えられてもしょうがないと思います。
「燃え尽きるなんて恥ずかしい…」
また。恥ずかしがるヒラ/サワさんなんて滅多にお目にかかれない。
ちょっとじっくり見たい代物だ。
「私の方が優位に立ってないと、ヤだ。」
ヤだ、ねぇ。
「見下ろしてあすんでいたい。」
はい知ってますよもちろん。
ていうかお客さんは誰も自分があなたより優位に立ってるとは思ってないでしょうけど。

でも…そんな上からのヒラ/サワさんだからこそねじ伏せてみたい、と思ってる人が、何人かは居るだろうな。
少なくとも俺は。
「つまりこういうことですか。」
ぼんやりした目がこちらを向いてからゆっくり話す。
「からかって遊んでたら、逆に襲われて、いっぱい喘がされてイッちゃったみたいな感じですか。」
あ、睨まれた。
「下品。」
「だってなんかそんな感じなんですもん。」
そんな風に睨まれると余計に…くる。
抗いがたい色気があるんだよなぁ。
なんでだろう。あなたの何がそうさせるんだ。俺は男だしあなたはもう50過ぎた中年だ。
なのにその色気と、かわいらしさはなんだ。
耐えがたい魅力がある。そそられるんですよどうしようもなく。
あ、だから溜息やめてください。漏れているのは息だけじゃないんです。
「あいつら。馬の/骨め。くそ。」
あらら。ほんっと珍しい。
まずいなぁ。ほんとに欲情しちゃうな。
きっと喘ぎ声もいい声なんだろうなーとか…想像した事もあるんですよ。
…鳴かせてみたい。


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