モララーのビデオ棚in801板56at 801
モララーのビデオ棚in801板56 - 暇つぶし2ch100:関西だからおバカとは言わないで 9/9
10/02/19 03:26:15 nXmEHznsO

「あんなあ」
長いキスの後、まだ半裸状態の京大の肌に舌を滑らそうとしたところを当の本人に押し留められ、大阪府大はややむくれ顔で口を開いた。
「縄跳びん時オマエが来てくれてホンマに嬉しかったし、罰ゲームん時は席離れとったから直で言えんかっただけでちゃんと大丈夫か?って心配したし―とか、オマエそんなんイチイチ言われんとわからんのん?」
「いや、だって…」
「オマエに爆笑するのかて、オマエが好きだからこそやろ。俺だけが許された、言わばオマエのコイビトの特権やで?それくらい察しろやー!」
「う……」
さっきまでの甘い雰囲気もどこへやら、大阪府大の京大に対する『これは果たして喜んでいいものか』的微妙な説教は延々と続くのであった。
「オマエIQは高いけど、そういうとこはホンマにアホやんなあ」
「結局どっちに転んでも、俺はアホ扱いかい!」


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!



最後規制にひっかかってしまい申し訳ありませんでした。

この後大阪府大サマに「『すがの耳に念仏』って、母音が合うとるだけで全っ然おもんないから、今後二度口にすんなよ?」と念押しされ、神妙に頷く京大さんw


101:厄日(1/8)
10/02/19 03:49:20 t/xBTVRN0
エヌエチケーにて放送中の人形劇三十四より アヌス×谷やんです。
本スレの素晴らしい流れに感化されて書いてみました。


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「これじゃあ、何をしに行ったんだか…」
今朝あった様々な出来事、そして頭を悩ませる枢機卿からの誘いについて考えるうちに、
いつのまにか下宿までついてしまった。気は乗らないが、今日は朝から行き先も伝えずに
出てきてしまったので、そろそろ戻らなければ不審に思われるに違いない。努めて平静を
装い下宿の扉を開くと、予想に反して室内は静まり返っていた。
2階の自分たちの部屋に上がっても静寂はそのままで、どうやらこの下宿の全員が全員今
は留守にしているらしい。正直ほっとした気持ちになって、自分のベッドに倒れこむと
深いため息が漏れた。無意識のうちに枕の下に隠している枢機卿からの贈り物に手が伸び、
その怪しい輝きに目を奪われてしまう。こんなものが欲しいわけではない、と常々思って
はいるのだが、そのまま傍に置いておけばただ危険なだけの宝石を手放すことができない
のはどうしてだろう。思わず「まいったなぁ」と独り言が漏れた。

102:厄日(2/8)
10/02/19 03:51:04 t/xBTVRN0
「確かにたいぶ参っているようだな。ダル」
あると思っていなかった返答に、ダルタニアンは慌てて起き上がる。声の主はゆっくりと
階段を上がってくるところで、とっさに毛布の下に宝石を隠した。
「アトスさん、おかえりなさい。 
 皆さん留守のようですけど、どこかにおでかけなんですか?」
「…まぁ、戦争も近いし色々ヤボ用があるんだろう。
 そんなことより、お前今日は朝からどこに行っていた?」
内心ぎくり、としたのを悟られないよう、できるだけ何でもない風を装って
「ジョギングと散歩に」と答えた。
「ふうん。
 …お前の散歩コースは、だいぶ遠いところまで延びているようだな」
そう言うが否や、何かを顔をめがけて投げつけられて一瞬視界が遮られる。あまりの唐突
さに抗議しようと思った声は、投げつけられたものが何かを確認してそのまま水蒸気の
ように消えてしまった。
“それ”は、昨日貰ったばかりの、見た目は多少粗末かもしれないが、想いのこもった
銃士隊の隊服、だった。そう、今朝枢機卿のところに置き忘れてきて、「後で届けさせる」
と約束してもらった隊服。
『何もアトスさんに持たせなくても…!』
さぁっと、血の気が引くのがわかり、思わず枢機卿を呪いたくなる。

103:厄日(3/8)
10/02/19 03:52:10 t/xBTVRN0
「ダルタニアン、枢機卿に何の用があった。 何を話したんだ」
「……言えません」
その回答でアトスが納得するわけがないことはわかっていても、それ以外に答えようがない。
「言えない、か。 おい、ダル。悪いことは言わん。
 …痛い思いをしないうちに、全て打ち明けたほうが身のためだぞ」
やんわりと、だが明確に脅迫をするアトスに、この脅され方をされたのは二回目だ、と
かすかな記憶が蘇る。あの時はトレヴィル隊長の助け舟が入ったが、今回は救いの手を
差し延べてくれそうな人間に心当たりがない。自力で窮状を脱する以外にないのだが、
唐突すぎる展開に頭のほうがついていかない。
「…言えないものは、言えません」
「やけに強情だな。なんでそこまで枢機卿に義理立てする必要があるんだ」
じりじりと間合いをつめられ、気がつけば後ろはベッドと壁、前はアトスに挟まれた格好
で、このままでは逃げるに逃げられなくなってしまう。確かこういう場合
『逃げ場は前にしかない!』
と教わった気がするのだが、前に立ちふさがるのがそれを教えた張本人なのだから、そう
簡単に見逃してくれるとは、やはり思えなかった。

104:厄日(4/8)
10/02/19 03:53:04 t/xBTVRN0
「それとも、とても口にできないような事でもしてきたか」
勘違いも大概にして欲しいところだが、「じゃあ、何をしていたのか」と切り返されたら
どう答えば良いか、上手い口上も思い浮かばなくて。その言い訳を考える間の沈黙が変
な方向に作用したらしい。

「お前が誰のものか わからせてやる!」
不意を突かれてベッドに押し倒され、強かに頭を打ちつけてしまった。マットが安物なの
で、さしてクッションの役割をしてくれるでもなく、後頭部からじわじわと鈍痛が波の
ように押し寄せる。思わず
「痛った! 何すんです」
か、そう叫びかけた抗議の声は、そのまま荒々しくされた口付けによってかき消されて
しまった。あごを掴まれ無理やり上向かされると、口の中を蹂躙するような乱暴なキス
に上手く呼吸もできなくて、息苦しさから逃げようと力一杯抵抗をしてみてもアトスは
びくともしない。酸欠の苦しさに涙がにじんだ。
ようやく唇が解けると急激に空気が肺に流れ込み、げほげほと情けなくも咳き込んでしまう。


105:厄日(5/8)
10/02/19 03:54:06 t/xBTVRN0
その苦しさに恨みがましくアトスを睨み付けるが、そのアトスの視線は何故かこちらには
向いていなくて。その視線の先を確認して、体中の血が凍りつくかと思った。
そこには、燦然と輝く“罪”の証があった。

「これは、どうしたんだ」
言えない。この状況で言えるわけがない。
「言い訳は必要ないぞ。俺は、これに見覚えがあるからな」
「あの、違うんです」
何が何と違うと言いたいのだろう。自分でも良くわからない。
「言い訳はいいって言っただろ!」
その激しい剣幕に圧倒されてしまい、覆いかぶさるように再びベッドに押し倒されて、
シャツを繋ぎ止める皮ひもを力任せに引き抜かれても、その下のベルトに手が掛けられても、
抵抗らしい抵抗もできなかった。アトスと体を重ねるのは、なにもこれが初めてではない。
それなのに、こんなにもアトスが怖いと思ったことはかつてなかった。
こんなやり方は『嫌だ』と大声で喚きたかったが、決定的な証拠を見咎められた後ろめた
さと、何か言えば、更なる怒りを買うだけなのではないかという恐怖が口をつぐませる。


106:厄日(6/8)
10/02/19 03:59:02 t/xBTVRN0
「お前が、こんな“やり手”だとは知らなかったよ」
こちらの意志などお構いなしに続けられる行為と、嘲るような口調になけなしの自尊心も
手ひどく傷つけられて、もう誤解だろうが何だろうが、なるようになればいいと思えてきた。
本来なら、誤解は解くように努めるべきだったし、枢機卿のところへ出向いた理由や転がり
出てきた宝石のことだって沈黙で返したりせずに、それなりに取り繕えば良かったのだろ
うが、『本当に知られたくないことは何なのか』すらもうわからなくて、何もかもが面倒だった。
その誠実でない態度が招いた“罰”は天罰覿面とばかりに自分に返ってきて。
…愛情の欠片もない行為が、こんなにも辛いとは知らなかった。

胸の突起を弄ぶ手つきも、わき腹や内股をなぞる愛撫も、全てが邪険にされている気がして、
いつもなら夢見心地で全身を蕩けさせてくれるそれが、今日はただ怖いとしか思えない。
それなのに身体だけは刺激に敏感で、意志に反して浅ましく快楽を貪り『もっとして欲しい』
と主張をする。
性急に攻められて吐き出した精を潤滑油代わりに、指で後ろを慣らすのもいつにはない
乱暴さで、気のせいではなくわざとそうされているのだとわかって、鼻の奥がつんと熱く
なった。こんなことで泣いたりなんかしたくないのに、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。


107:厄日(7/8)
10/02/19 04:02:15 t/xBTVRN0
「泣くまで我慢する前に、正直に全部白状しちまえば良かったのに」
「だって…」
「洗いざらいしゃべる気になったか」
「…ごめんなさい。今は、まだ。 考えがまとまらなくて」
「ふん。 強情だな」
その言葉は少し呆れたような口調ではあったが、さっきまでの怒気はほとんど感じられ
なかった。
「まあいい。今は、ってことは“そのうち”話してくれるってことだろ」
そのうち、か。確かに遅かれ早かれいつかは結論を出さなくてはいけないのだ。そのとき
は、好む好まざると関係なく全てが白日の下に晒されることになる。
出した結論によっては、この関係もそれまでのままとはいかない。でも、その瞬間が訪れる
まではできるだけ甘い夢を見ていたいと思うのは、…きっとただの我侭なんだろう。
ぐるぐるとした思考を停止させたのは、両足をいきなり抱え上げられた事に対する驚きで、何事かと視線を向けるとアトスと目が合った。
「考え事は終わったか」
「…え?」


108:厄日(8/8)
10/02/19 04:04:22 t/xBTVRN0
「じゃあ、お仕置きの続きだ」
「って、えええぇぇ?!」
こっちの抗議もさして気にする風でもなくぐっと挿れられたそれに、慣らされているとは
いえ圧倒的な異物感は拭いようがない。その上身構えもできないうちに貫かれたから、
最初の衝撃を受け流すこともできなくて。お仕置きだといってたアトスの言葉に偽りは
なく、後はひたすら泣き続ける羽目になった。

「誰か帰ってきたらどうするんですか…こんな」
「しばらくは誰も帰ってこねえよ」
「なんで、そんなことがわかるんですか?」
「お前の秘密を話してくれたら、教えなくもないが」
「…ならいいです」
まだ昼前だというのに今日はもう何もしたくないほど疲弊しきって、他の皆が何をして
いるのかなんて、そのときは考えようとも思わなかった。アトスが帰ってこないという
ならそうなのだろうと、不自然ではない程度に身繕いをすませると生理的欲求に身を
任せて眠りに落ちた。
それが幸か不幸かは、まさに神のみぞ知る というやつだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

お目汚し失礼しました。

109:BUTTERFLY(1/4)
10/02/19 18:34:43 9zoVBP470
ブソレンよりヴィクバタ(爆)
>>11-14の続きっぽいものです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



「君は誰だ」
 かの高貴な女性にちなんだ名を冠した流暢なイギリス語に呼びかけられ、ヴィクターはわずかに顔をあげた。
 船員や船長の粗野な言葉ではない。
 話しかける流麗なクイーンズイングリッシュは、貴族的な響きすら含んでいる。
 ゆっくりと目を上げると、長身のシルエットが見えた。顔はよく見えない。
 仕立てのいいインバネスマントを羽織っているのはわかる。髪はおそらく黒い。
 なにより目を引くのは、蝶々の形に整えられた見事な口髭だった。
 バタフライ、と朦朧とした意識の中そんな言葉が浮かんだ。



110:BUTTERFLY(2/4)
10/02/19 18:35:17 9zoVBP470


「私は、蝶野爆爵」
「…チョウノ・バクシャク?」
 耳馴染みの薄い発音に、思わず問い返してしまう。
 てっきり貴族かよほど伝統のある資産家の英国人かと思っていたが、外国人なのだろうか。生粋の英国人でもこれほど美しい英語を話す者は少ないだろうに。
 なにより、発音しにくい。
 船倉で密航を発見されたヴィクターは、なぜだか目の前の男の客として船室のベッドに横たわっている。
 いや、理由は分かっている。この男は、錬金術を知っている。その事実が、ヴィクターをひどく警戒させた。
 だがこの部屋に運び込まれてから、男は錬金術についてヴィクターに訊ねることはなかった。
 それに安心したわけではないが、気が緩んだのか、数日発熱した。
 朦朧とした意識ではっきりと覚えてはいないが、その間彼が傷の手当てや看病をしてくれていた気がする。
 ヴィクターのエネルギードレインは、たとえ本人の意識がなくとも常時周囲の生命から自動的に行われる。それを思えば、いささかの申し訳なさをあとになってヴィクターは感じた。
 ようやく熱が引いてから、自身の部屋を明け渡した男が再びヴィクターの前に現れた。
 そしてヴィクターの体調を訊ねてから、自己紹介がまだだった、と名を名乗った。
「この船は日本へ向かっている」
「日本…」
 ならばこの男は東洋人か。髪や目の色が黒いのはそのためか。しかし港などで見かける苦力(クーリー)と肌の色が違う。彼らよりはるかに白いが、かといって西洋人のように透けるような肌の色ではない。どちらかというと…。
「アイボリー…」
「ん? 象牙?」
「あ……いや…」
 肌理の細かな肌は象牙色をしている。日本人の肌とは皆こういう色なのだろうか。
 ヴィクターは相手の男をじっと見つめた。



111:BUTTERFLY(3/4)
10/02/19 18:35:45 9zoVBP470

「食事は口に合っているかね?」
「……食べられるなら、なんでも」
「夢のないことを言うな、君は。食事は身体の栄養だけではない。よい食事は心も満たす。食事を楽しまずに過ごすのは人生への冒涜でもある」
 チョウノ、という男の言葉にヴィクターは失った家族との食卓を思い出す。
 戦いの日々の中ではありながらも、3人で過ごした穏やかな時間は何物にも代えがたい。
 けれど同時にそのあとの悲劇を思い出す。
「…」
 黙り込んだヴィクターに、男は小さく肩をすくめた。
「まぁいい。食べたいものがあれば言いたまえ。可能な限り手配しよう」
「………」
「それから、目的地は日本だが、君が望むなら航路を変更することも可能だ。今は喜望峰経由のインド航路を取っている」
「………キミは何者だ」
 なんでもないことのように口にされた内容に、さすがにヴィクターは驚いた。
 こんな船上で、賓客のごとくもてなされ、むしろ船長以下を配下のごとく扱い、航路の変更にまで一存で決めてしまえる彼は何者なのだろう。
「私か」
 ふむ、と男は髭を撫でた。
「日本人、貿易商、この船の船主、医師、…………錬金術の探究者」
 はっとして、ヴィクターは身を固くした。
 久しぶりにALCHEMYの単語を耳にした。
 さりげなくとヴィクターの反応を観察していた男は、小さく笑った。
「どれでも好きに思いたまえ。外国からの新しい学問に心奪われているだけの半人前の学者、錬金術の力を使って国家転覆を企む大悪党、それとも…」
「いや…」
 ヴィクターは首を振った。
 一目でヴィクターの胸の印を錬金術の技によるものと見抜いたところを見れば、一介の学者ではない。
 悪人と言ってしまうにもためらいが残る。
「……今は、結論は出さない。キミが何者か、私は私の目で見極めよう」


112:BUTTERFLY(4/4)
10/02/19 18:36:35 9zoVBP470

 瀕死の密航者をわざわざ匿い、自身の身の危険を押してさえ錬金術にこだわるのはなぜなのか。
 ヴィクターに近づけば、それだけで生命力が奪われるのはもうすでに学習しているだろうに、いまだに数歩の距離にまで歩み寄ろうとするのはなぜなのか。
「キミに興味がわいた」
「それは光栄だ」
 男が笑う。
 そういえば他人の笑顔を見るのも久しぶりだ。彼は実に楽しそうに笑う。
「ミスター・パワード、私は君に最大限の助力を差し上げよう」
「…だが、錬金術について教えるとは言っていない」
「それについては、保留としておこう。君にも深い事情がありそうだ」
 あっさりと引かれて、ヴィクターは一瞬驚く。なんだか虚を突かれたような気分だ。
「……いいのか。私が口を割らない可能性もあるぞ」
「まず君の存在そのものが、錬金術の可能性を示している。それだけでも今の私には充分だ」
 ヴィクターは眉を寄せた。
「それにしても、この疲労感の理由くらいは、教えてもらいたいものだがな」
 額に浮いた汗をハンカチでぬぐいながら、男が呟くように言った。
「………バク…あー?」
「バクシャク、……そうだな、言いづらければバタフライとでも」
「バタフライ?」
「蝶野家は昔からバタフライをシンボルにしている」
「だから、その髭か」
「これは私の趣味だ」
「…そうか」
 妙な男だ、とヴィクターは思った。同時に、胸の内におかしみがほんの少しわいてきたようだった。
 あの悲劇の日から、忘れ去ったと思っていた温かい何かが、心の中によみがえった気がした。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

夢見すぎと罵ってくださいorz
お目汚し失礼しました。


113:風と木の名無しさん
10/02/19 23:55:01 I0E7rlcOP
>>112
GJ!人間不信に陥ってたヴィクターが、初めてかつ唯一心を
許したのが爺様だったんだろうなあ…

114:il間棒長缶1/4
10/02/20 16:32:27 Ufy50/Ur0

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  さらっと短め。ハードはまたね。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  お目汚し失礼。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

115:il間棒長缶2/4
10/02/20 16:33:35 Ufy50/Ur0
彼に呼び出されるのは初めてのことだった。
連絡が入ったのは一昨日。
もちろん極秘で聞きたいことがあるという。
昨夜は遅くまでレポートを仕上げ、少し疲れている。
今までの特/命で関わった事件をまとめ上げ、詳細を記す。
内容は全て頭に入っていた。

間棒長が缶部を呼び出したのはシティホテルの一室だった。
「缶部です。入ります」
「急に呼び出して悪かったね」
「いいえ、かまいません。大至急レポートを・・・」
「それより上着脱いで」
「は?」
「盗聴機、仕掛けられたりしてない?」
「まさか?」
「一応、確認してみてよ」
ジャケットを脱ぎ、あちこち探ってみる。
「ありません」
「後ろ向いてみて」
壁を見て間棒長を背に立つ。
後ろからベットの上に倒された。
「何するんです?!」
遠慮のない視線が上から全身に投げつけられる。
缶部は今日ここに呼び出された意味を悟った。

・・・さっさとこの部屋を出て行けばいい。間棒長は俺を力ずくでどうにかできやしない。
  その後も知らぬ顔をしてれば・・

116:il間棒長缶3/4
10/02/20 16:34:25 Ufy50/Ur0
「君はSなんでしょ。自分の立場はちゃんとわかってるんじゃないかしら」
その諭すような柔らかくも確信を持ったもの言いに
缶部の全身の力が少しずつ抜けていく。
・・・大公知の顔が脳裏に浮かぶ。

・・・迂闊だった。すっかり油断してしまっていた。
 特殊な仕事のせいで疲れてるのか
 今までも先輩や上司の視線には慎重に警戒し、うまく回避してきたのに
 間棒長のそれにはまったく気づかないなんて。

天井を見上げ、ため息を一つ、つく。

「間棒長に逆らうつもりはありません」

シャツのボタンが一つ一つ外されていく。
「君は頭がいいもの」
白い肌があらわになった。
首筋から下へ遠慮なく肌をまさぐってくる。
恥ずかしさに声が出そうになるのを堪える。

こんなことは初めてじゃないし、何でも無い。
逆に弱みを握ってやる。
そう頭の中で繰り返しながら、その時を声を殺して堪えた。

117:il間棒長缶4/4
10/02/20 16:35:48 Ufy50/Ur0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お付き合いありがとうございました。

118:風と木の名無しさん
10/02/20 16:49:39 XpTdZhPb0
>>117
うわぁぁぁぁ!感傍聴缶!感傍聴の台詞がナチュラルにあのボイスで再現されました。
その後、缶は傷付いた心を隠して何でもない顔をしてラムに会いに行ったりするのかなぁと
妄想してしまいました。萌えをありがとうございます、姐さん!

119:風と木の名無しさん
10/02/21 04:32:13 DKXu2efgO
>>117
うはっ!姐さんGJ!この後がめっちゃ気になります!監房朝刊ねっとりしたエロさw
缶は今までもこんな事が度々…大変だな缶

他の人に抱かれた後でもクールな顔してラムや板に会うのかね…
板なら知ったら嫉妬が凄そう。

120:1/4
10/02/21 22:21:31 WYqSESx/0
服蜜シゲユキの作品「life」(和訳)から
主人公とその仲間。若干仲間→主人公気味

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



何し…えっ? 何、何してんだろう、僕。ていうか、あれ、駄目だ、なんか分かんないぞ……
「泣くなって、なぁ」
泣く……僕は泣いてるのか。
あ、ほんとだ。すっごい顔濡れてる。
しかもなんか、この人の胸に顔埋めてるぞ……何やってんだ僕は……

そうだ、僕は。あの子が、別に好きだなんて言ってなかったけど、あの子が可愛かったから、多分ちょっと好きで。
たまに聞く話からあの子がそんなに幸せそうな感じじゃないって分かって、それで、だから、僕が幸せにしたいとか思って。
違う…違う……分かってる。
僕は別にそんなに好きだったわけじゃない。ていうか可愛い女の子なら誰でも良かったし、
ただ僕の一番近くに居た子があの子だったから。なんかあの子は僕を裏切らないぞとか、勝手なことばっかり思って……
そりゃそうだよ、迷惑に決まってる。あの態度。あの態度!!

「うっ、うっうっう~! ぼ、僕は、なんかもう…なんで…」
あそこ辞めたらどうするんだ。僕なんか雇ってくれるところが他にあるはずがない。
一生犬の散歩をしていくなんてまっぴらごめんだ。
一回でいいから女の子のおっぱいを思う存分揉みたい。
あと可愛い子を侍らせて街を歩きたい。でもそれはなんか僕みたいな人が可哀想だからやめよう……
「大丈夫だって、な?」
「すっすいません、ありがとうございます…」

121:2/4
10/02/21 22:23:12 WYqSESx/0
…そういえば、僕から押し掛けておいてなんだけど、なんでこの人こんな優しいんだろう?
最初会った時からそうだった。僕が暴れてたのを捕まえたのはこの人なのに、警察にも行かないで、付き合ってくれて。
どうやって声かけていいか分かんないから、毎回変な言い訳つけて、
「コーラ飲みましょう」とか、わけが分からないことを言ってたと思うのに、全然受け入れてくれた。
なんでだ?
顔を上げて見てみるけど、別にそんなに悪い顔じゃないと思う。いい人だし、……あれ? いい人ってだけ、か?
そうだよな、別にこの人は、お金持ちじゃない。職もない。強くもない。
コンビニのバイトだけで毎日過ごしてるんだ。いや僕はバイトもしてないんだけど。
「不安じゃない、んですか?」
ふっと僕を見下ろしてから、困ったように眉尻を下げた。この顔、何度も見たことがある。
やっぱり僕のこと、扱いにくい奴とか思ってるんだろうか。
「何度も言っただろ、不安でしょうがないって」
「じゃ…じゃあなんで、僕なんか慰めるんですか?」
「お前が出てかねーんだろ」
決して嫌悪感や怒りの混じった言葉じゃなかったけど、それは僕の胸にはグサッと刺さった。
ああ、駄目だ。こういうちょっとでも突き放した言葉でふらふらするだけ、やっぱり僕は社会不適合者なんだ……
「すいません、出てきます…」
「え? もう深夜だよ? 電車ないし」
「歩いていきます」
無理だ…僕にそんな根性があると思えない。第一出歩いたらあいつらに出くわすわけで、それだけでも辛い……

122:3/4
10/02/21 22:24:26 WYqSESx/0
胸がチリチリした。またこの人と出会う前みたいに、色んな人に迷惑をかけている自分を想像した。
今度はあいつらに捕まるのか。いや、僕なら倒せるんじゃないか?
……あれ?
最初会った時、僕はどうして、この人を無視して行かなかったんだろう。
今の僕なら、見捨てる、多分……それは僕が強くなったからじゃなくて、優しくなくなったんじゃないか?
あれ? いや? 僕は優しかったのか? それはないだろ……あれだけ暴れてて、優しいとか……
「そっか」
また変な風に思考がずれていた僕に、ふわっとした声が入ってきた。
この人の声は、街のムカつく奴らと違って、音じゃなくてちゃんとした言葉に聞こえる。
「寂しくなるな」
寂しく……なるって。

「……僕、あなたにとって、必要な人ですか」

………ハッ
な、ななな、何を言ったんだ僕は! 必要な人ですかって! 気持ち悪いだろ普通!
なんかもう、面接でも聞かないよそんなこと! ああああ、やばい、顔見れない、に、逃げよう!
「うん」

123:4/4
10/02/21 22:26:15 WYqSESx/0
「………え?」
慌てて背中を向けた僕に、肯定の言葉が聞こえてきた。幻聴、じゃないよな?
「正直、お前と会ってから、めんどくさいことが色々あったけど、結局またこうやってコンビニでバイトしてるし。
 …あの子も、おじさんも、居なくなっちゃってさ。だから俺が手に入れたのは、お前だけだよ」
あっいや手に入れたって図々しい言い回しだけど、と何やら訂正が入ってくる。だけど僕は全然その言葉を聞く気になれない。
だって僕は、全然、仕事とかできないし。家族からもなんか奇異な目でしか見られてないし。女の子とも話せないし。
おっぱいどころか手も繋いだことないし。あったとしても不意打ちだし。
「ぼ、僕は……」
「うん」
「…うっ。う、うっ、うわあ~ん!」
「あああもう泣くなって、男だろお前」
ぐしゃぐしゃと頭を掻き回された。優しい。どうしよう。
女の子だったら絶対好きになってるとか結構前から思ってたけど、もう普通に好きだ。
人間性とかそういうところが本当に好きだ。ホモじゃないけどこの人は好きだ。
「俺明日もバイトだからさ、ほら、もう寝ようぜ」
駄目だ、僕は……もうなんか、色々と駄目だ……
頼むからこれ以上優しくしないでほしい。あっでも冷たいこと言われるのも嫌だ。とりあえず、なんか……
………バイトでも、探そう。
「おやすみ」
数年振りに聞いた言葉に、僕はまた泣きそうになっていた。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

続き知らないからよく分からないけど、とにかく萌える…
どこかに同志が居ることを期待します。続編楽しみ。

124:霖雨1/8
10/02/24 01:10:03 LxGg8mwFO
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの飛来×武智。気が迷いまくってエロがアル。


痩せた、と思った。
その日、雨は夜になっても降り止まなかった。
帰り仕度をする為に、人気の無くなった道場の引き戸を締めてゆく。
そして振り返った背後の神棚の前に一人座す武智の背中を見留めた時、飛来は思わず胸の内で
同じ言葉を繰り返していた。
痩せた。
見間違えではおそらくない。
もともと背が高いのもあって、けして恰幅良く見える体格の人ではなかったが、それでも
この所の一目見て線細い印象は、もはや誤魔化しが効くものでは無くなってきているように思える。
原因は何か。
思いあたる事は多々あった。
江戸に来航したと言う黒舟。国を開いた幕府。
その弱腰に憤りながらも、どうする事も出来ないこの国の下司の焦燥感。
そんな中でこの人の肩にかかる皆の期待は大きい。
才高く、人望も厚い。
だから信奉し、集ってくる者達の中には、しかし自らの思考を止め、安易にすべてを委ねようとする
輩も少なくない。
そんな者達は撥ねつけてしまえばよいのに、と自分などは思う。
しかしこの人はそのすべてを受け入れ、抱え込もうとするから。
そして人一人ではどうする事も出来ない壁に当たり……追いつめられていく。
「先生、戸締りはわしがしておきますきに。雨も強うなってきましたから、今日は戻られて下さい。」
胸が詰まるような、そんな想いを振り払うようにわざと明るく飛来は声をかける。
けれどそれにも武智が振り返る事はなかった。
「いや、わしはもう少しここにおる。おまんこそ今日はもうええぞ。」
代わり、道場内に通った静かな声。
それに飛来はまたしても思う。

125:霖雨2/8
10/02/24 01:11:19 LxGg8mwFO
いつの頃からだろう。この人が家に戻る時間を徐々に遅らせるようになったのは。
そして……いつからだろう。
この人の雰囲気が、今にも切れてしまいそうな糸のように、張りつめたものになったのは。
「先生、いかんちや。戻って休んでください。なんやここんところ顔色が悪い。
なんならわしが家まで送りますきに。」
適当な理由を付け、なんとかここから去らせようと思う。
そしてゆっくりと背後に近付きその手を伸ばせば、しかしそれはこの時、気配を察した武智から
手厳しい反撃を喰らった。
「ええ言うちょるやろっ」
鋭い語調と共に、差し出した手を払われた。
その勢いの強さに飛来が驚く。しかし驚いたのは自分だけではなかったようだった。
「…………っ…」
無言のまま振り仰ぐように向けられた、武智の顔にもこの時、自らの行為に驚いたような
色が浮かんでいた。そして、
「すまん…」
短な謝罪と共に、振り返りざま立ち上がろうとしてくる。
立てられる膝。
しかしその体はこの時不意に、飛来の目の前で落ちるようにその均衡を失った。


126:霖雨3/8
10/02/24 01:14:52 LxGg8mwFO
「武智さん?!」
咄嗟に名が出、腕が出ていた。
斜めに崩れ落ちようとする体を受け止めようとする。が、目眩を起こしたらしいその体はこの時
ひどく重く、それゆえ飛来は腕にした武智ごと自分も床の上に激しく倒れ込んでいた。
ガツッと嫌な音を立てて肘を打ち、それでもその腕の中に巻き込んだその人の頭を庇う。
そのままの体制でしばし痛みに耐え、痺れにも似たそれがようやく治まったと思ったと同時に声が出た。
「大丈夫ですかっ、武智さん!どこか打っちょりませんか?!」
慌てて体を起こし、確認する為にその顔を覗きこもうとする。
道場の中は暗かった。
外は雨。蝋燭の灯りはすでに消されており、体を起こせばその分だけ床に重なる影の闇が濃くなる。
その向こう、この時武智からの返事は無かった。その代わり、
「……いて…くれ、…じろう……」
耳に届いたのはどこか震えるような、掠れた声。
はっきりとは聞き取れず、だからもう一度聞き直そうとする。
しかしそんな飛来に、武智は今度は下からその腕を伸ばしてきた。
「どいてくれっ…周二郎…っ」
白い道着からまっすぐに伸びた手が、迫っていた飛来の肩を押し返そうとしてくる。
突っ張るような力を込めて。しかし驚いた飛来がそれに咄嗟に反応出来ずにいると、その手は
やがて形を拳に変え、強い力で数度自分の肩先を叩いてきた。
「どけっ!」
もはや頼む体裁をも失った口調で叫ばれ、眼下で激しく身動がれる。
それは飛来がこれまで一度として見た事が無いような、武智の取り乱し方だった。
だから呆気に取られると同時に、飛来は思わず反射的にその腕を取り押さえようとしてしまう。
「どういたがですか、武智さん?落ち着いて下さい!」
振り上げられる手首を掴み、なんとか気を静めさせようとする。
けれど暴れる者の力と言うのは片手間に抑えられるようなものではなくて。
「武智さん!」
気付けば叫ぶ激しさと同じ全身の力で、飛来は捕らえた武智の手首を道場の堅い床板に押し付けていた。

127:霖雨4/8
10/02/24 01:17:11 LxGg8mwFO
「しっかりしてつかあさい!」
身を伏せるような姿勢でもう一度大きく訴える。
しかしそんな飛来の懇願も今の武智には届かず、そのままどれくらい同じ体勢で固まっていたのか。
「いや…じゃ……」
不意に聞こえた小さな呟き。
それにハッと飛来が反射的に上半身を起こすと、そんな己の下で武智はこの時、それまでの
極度の緊張からか、ぐったりと力を失ってしまっていたようだった。
そんな様子の中、まるで覆い被さる影から逃れようとでもするかのように反らされた横顔の、その歯の根が
合っていないのがわかる。
痛々しいほどに張りつめていた糸が、完全に切れてしまったかのような姿。
それに飛来は瞬間、早く上からどかなければと思った。
本当にそう思った……なのに体はなぜか、僅かなりとも動こうとはしてくれなかった。
尊敬。憧憬。崇拝に近い思慕。
長年近くにありながらけして手が届かないと思っていた存在の、脆く崩れた姿を目の当たりにした時、
そこに沸き上がったのは物狂おしいような愛しさと……それさえも通り越した先にあった欲望だった。
だから思う心とは真逆に、ゆっくり手首から離された飛来の手はこの時、半ば無意識の動きで眼下にあった
白い道着の襟元にかけられる。
そのまま抗う間を与えず、それを左右に乱暴に肌けると、夜気に晒した首筋に吸い寄せられるように
顔を埋めた。
我を忘れたように夢中で貪る、初めて触れた肌の感触。
「やめ…っ…周二郎、やめいっ…」
体の下から再び弱々しい悲鳴が上げられても、己の中の衝動を止める事が出来ない。どころか、
何をされるのか、この人は知っている。
それに気付けば耳に届く悲痛な叫びは、飛来にとってむしろ激しい煽りとなった。だから、
「……酷うは、しませんきに…」
囁いた、もう止められない自分の欲望。
そして腕を回せば痩せたとはっきりわかる体を強く抱き締めれば、それに武智はこの時、
ただ絶望したような息を呑んだ。


128:霖雨5/8
10/02/24 01:19:15 LxGg8mwFO
男の言葉など当てにはならない。
大切に優しくしたいと思う心が、触れる傍から崩れてゆく。
「あ……ひぁ…っ…ん…」
引き下ろした道着で腕を後ろ手に取られ、抗いもままならない武智の体を、飛来は貫く。
指と舌で丹念に慣らしはした。
それでも長年自分の中に積み重なっていた劣情は、一度堰を切ればもはや止める事が出来なくて、
衝動のまま膨らむ怒脹を性急に受け入れさせれば、狭いそこは途端軋むような震えを帯びた。
きつい強張りに、半ばも行かぬうちにそれ以上進めなくなくなる。だから、
「ゆっくりでええですきに、力を抜いてつかあさい。」
宥めるように告げ、飛来は抱く相手のその頬に片手を寄せた。
しかしそれにも武智はただ荒い息を吐き、応えようとはしない。
その様にはもはや拒絶する力が無いだけで、けして受け入れている訳ではないのだと言わんばかりの
武智の心が伝わってくる。
だからそれに飛来は焦れた。
一つを手に入れれば、次が欲しくなるきりの無い欲。
体の奥底から突き上げてくるそんな暗い感情に煽られるように、飛来はこの時自分の体を起こすと
組み伏す武智の腰の下にその腕を回していた。
力を込めて引き上げ、座した自分の膝の上に抱えあげる。
途端、解かれていなかった繋がりが一気に自重で深くなり、それに武智が声にならない悲鳴を上げる。
仰け反る肌に緊張が走り、本能的に逃れようとその身が捩られる。
けれど飛来はそれを許さなかった。
どころか逆に引き寄せた胸元へ唇を落とすと、そこにあった突起を捕らえる。
一つは舌で。もう一つは這い上がらせた指先で。
舐め、捏ね、転がし、執拗なまでに時間をかけて腕の中の肌の緊張を解こうとすれば、それに武智の唇からは
やがて呻くような声が洩れだした。


129:霖雨6/8
10/02/24 01:22:09 LxGg8mwFO
「…ぅ…くぅ…あっ…」
固く目を閉じ頭が弱々しく打ち振られる。が、そんな拒絶の仕草も飛来が緩やかに下からの突き上げを
再開させれば、徐々にその様相を変えてゆく。
「…あ…やぁ…っ…ぁ…」
小刻みに揺さぶられ、隠せぬ艶が声に滲み出す。
体を支える足にはもはや力が入らないのか、されるがままゆっくりと体を深く開かれていく感覚に
追いつめられた肌が、手の中で火照りを帯びた。
溶けてゆく。
あらためて気付く、それはけして初めてではありえない、快楽を知る体だった。
だが飛来は今、それをどうでもいいと思う。
何があったのか、この人が語らないのならばけして聞くまい。
それでも腕の中にあるこの存在は、今は自分だけの物だった。
気付けば貫く楔を根元まで受け入れ、熱い襞を無意識に絡みつかせてくる武智の腰が、飛来に
同調するように揺れ始めていた。
それを受け止めながら飛来はこの時、武智の後ろ手に纏わりついていた道着をその手首から抜いてやる。
自由になった手が自分にどう向けられるのか。
拒まれるか、縋られるか。
果たしてその指はその時、彷徨い辿りついた肩先に強く爪を立てた。
「あぁ……ぁ…あっ…」
重ねる肌に胸と下腹部の熱を擦られ、あげる喘ぎを懊悩とした啜り泣きに変えてゆく武智に
引きずられる様に堕ちる、重く甘い泥の中を這い回るような快楽。
「武智…さん…っ…」
名を呼び穿つ、その内襞に逆に強く締め付けられ、飛来は刹那堪え切れなかった己の精を
武智の中に放っていた。
奥深くまで注ぎ込まれる、その熱い感触に腕の中の武智の体が跳ねる。
と同時に武市の欲もこの時、短な悲鳴と共に重ねた互いの腹の間で弾けていた。
抱き止めた背筋に走る一瞬の強張りと、その後に襲う脱力感。
崩れる。
そう思った瞬間、飛来は武智の唇が動くのを見た気がした。
微かに開かれた、その隙間から零れ落ちたのは人の名らしきもの。
自分のものではない。ならばそれは誰のものなのか。
この時の飛来に、その答えを知るすべは無かった。

130:霖雨7/8
10/02/24 01:24:34 LxGg8mwFO
引き戸を開ければ、外の雨は尚も強く降り続いていた。
しかし飛来はこの時、そんな雨に濡れるのも構わず庭へ下りると、井戸の蓋を外し、手にしていた桶に水を汲む。
そしてその中に自分の手拭いを浸すと、足早に道場の中へと戻った。
足を踏み入れたその先に、武智はいた。
灯りの無い道場の薄暗い闇の中、起こした上半身に掛けられている白い道着こそひどく着崩れてはいたが、
その背には数刻前と同じ、孤高とした空気が戻っている。
だから飛来はそれに気圧されるように、少し距離を置いた背後に座すと、手の桶を静かに差し出していた。
「…使うてつかあさい。」
懸命に声を絞り出す。
しかしそんな自分に返される彼の声は、この時無かった。
ひどく居た堪れない。
自分がそんな事を思う資格は無いのかもしれないが、それでも落とされる沈黙はまるで針の筵のようで、
飛来はしばし歯を食い縛ると、ついには耐えられぬようにその場から立ち去ろうとする。
「戸締りをしてきますきに。」
だからその間に、と逃げを打つ。
そのずるさが伝わったのだろう。
「…わしは…ええ…」
不意に耳に届いた細い声。それに飛来がハッと顔を上げると、武智はもう一度、しかしけして後ろを
振り向かぬままその言葉を発してきた。
「おまんが…使え…」
「……………」
「きれいな体や、無かったろ。」
汚れたのはむしろそちらの方だろうと、暗に告げられた言葉の語尾に自嘲の色が滲んでいるのがわかる。
だからその響きに飛来は刹那、胸に切り刻まれるような鋭い痛みを覚えていた。
すぐ否定の言葉を告げたかった。ただひたすらに謝りたかった。
しかしそれはこの人を更に深く傷つけるような気がして、ままならぬ想いに手が膝の上、きつく拳を握る。
それでも……このまま黙っている訳にはいかない事もわかっていた。
だから、


131:霖雨8/8
10/02/24 01:26:37 LxGg8mwFO
「武智さん……」
名を呼び、膝立ちに身を起こす。
静かに迫るその背後、起き上がる事は出来てもそれ以上の力は入らず、投げ出されたようになっていた
武智の手の上に、この時飛来は自分のそれをそっと重ね置いていた。
脅えられるのは覚悟の上だった。
実際、触れたその甲には瞬間、隠しきれない震えが走る。
咄嗟に引かれかける。けれど飛来はそれを瞬間握り込む事で逃がさなかった。そして、
「側に……おらせてつかあさい……」
懇願した。
この人が汚れているなどとは思わない。思うはずがない。
だから、多くは望まない。いや、もうこれだけでいい。
近くで声を聞き、目に姿を映し、それを見守る事が許されるのならば、自分は……
重ね、上になった己の手の甲に身を折る様に額を押し付け、飛来は祈る。
「後生ですきに…」
繰り返す。その願いに、それでも武智は初め何も応えなかった。
ただ凍ったように、その姿勢を正し続ける。
頑ななまでに清冽に。けれど、
「………じゃ…」
それがほんの一瞬、揺らぎを見せた。
辺りは外降る雨の音に満ちていた。
強く、単調に、いつまでも。
その音の帳に密かな呟きが滑り落ちる。
「おまんは……阿呆じゃ…」
力無く、そこには怒りも嘲りも無く。
ひっそりと零された武智のそのいっそ幼い声の響きに、飛来はこの時、胸の奥深く誓いを抱く。
許されるのならば、そばにいられるのならば。
自分はこの人の為にどんな事でもしよう。
それが例え……人の道から外れる事であったとしてもだ。
顔は見ず、ただ手だけを重ね、二人静かに身を沈める闇の底。
聞こえる雨の音は、いまだ止む気配を見せなかった。


132:風と木の名無しさん
10/02/24 01:28:10 LxGg8mwFO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
書き終わってから、同じシュチュでも爽やかに起き上がるのがリョマ。
ガッツリいくのが飛来だと気がついた…


133:風と木の名無しさん
10/02/24 01:32:53 FDEVVhcn0
>>132
うおーリアルタイムで初めてみた
姐さんもしかして二作目ですよね……?違ったらごめんなさい
とりあえず801小説で萌えるより泣くとは思わなんだですw
文章上手いなあ。

134:風と木の名無しさん
10/02/24 19:54:06 o1AQ+AofO
>>124
どうわあああああ!!泣き萌えた!
帰宅して早々素晴らしい作品見せてくれてありがとう姐さん。
テンテーせつないよテンテー。でも萌える。
ガッツリいくんだな飛来w

135:猿とシラミ 1/7
10/02/26 23:29:27 CgKN7Hsz0
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 某国が801と八百長を
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 勘違いしたのに便乗
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 動物の猿と昆虫のシラミ注意
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!  ※Not擬人化
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"                                        
                                        

↓が元ネタ(?)です

1 名前:Koreans[] 投稿日:2010/02/25(木) 21:36:06 ID:xYgtXhR90
Hey Monkey
Do you know that japanese' nickname is a MONKEY
Don't know? Yet? Oh my god
Eat your lice in your hair! wwwwwwwwwwwwwwwwwww                                      

136:猿とシラミ 2/7
10/02/26 23:29:57 CgKN7Hsz0
プチッ、プチッ。
猿は頭に手をやっては、毛のあいだから器用にシラミの卵をこそげとる。目のまえに
もってきて、白い粒をみつめると、歯と歯でプチンとつぶして食べる。
孵ったシラミをつかまえることもある。そんなときは、虫をつまんだ指を口にあてて、
舌でペロリと舐めてとる。小さなちいさな虫が、舌の表面でうごめく。くすぐったいとさえ
いえない、かすかな刺激が粘膜につたわる。
猿は舌で、クチュリとシラミをおしつぶす。
頭に飽きると、つぎは頬。肩に腕、胸、足。猿の指が毛にもぐる。長い指をのばした先に、
シラミのいないためしはない。
ぴちゃぴちゃシラミを味わいながら、猿はときおり目を細める。まるで秘め事の最中の
ような、ぼんやり霞んだ顔をする。

137:猿とシラミ 3/7
10/02/26 23:30:29 CgKN7Hsz0
たまには猿が、シラミを放っておくこともある。満腹だったり、ヒラヒラ舞う蝶にずっと
気をとられたりで、指が仕事を忘れるときがある。
するとちっぽけな虫けらは、罰するように猿を刺す。
しっかと脚が猿をつかむ。シラミの口から、三本の棒が勃ちあがる。濡れた先端を
熱い肌に押しつけて、爪を皮膚にくいこませて、シラミは体を震わせる。
ずるりと、口器が猿の中にさし挿れられる。鋭い針が穴をあけ、えぐって無理やり
おし広げて、ゆっくり猿に入っていく。
穴の縁に血がにじむ。シラミの咽頭が、飢えたように動きはじめる。
皮膚がヒクッと脈打って、体液がこぼれた。猿の放ったものが管をつたい、シラミは
その液をすっかり呑み干した。
それは一度で終わらない。猿の体中を、無数のシラミが蹂躙する。腹をこすりつけ、
体液をしぼりとり、かわりに自分の分泌物を猿の体内に注ぎこむ。集団でくりかえし
猿を犯しては、犯した証の卵を産みつけてゆく。
強烈なかゆみに猿が耐えきれなくなるまで、シラミは猿をさいなみつづける。

138:猿とシラミ 4/7
10/02/26 23:30:59 CgKN7Hsz0
猿の指が役目を思い出す。
白い卵をつまみとり、からかうように逃げまどう虫をとらえては、ぬめった舌にこすり
つける。
プチッ、プチン。
ペロぺロ、クチュリ。
コックン。ゴクン。
シラミだけで、猿の腹がみたされるわけはない。それでも、どんなエサをさがすより
多くの時間を、猿はシラミを食べてすごした。シラミは猿に食べられてすごした。
山の奥の岩の上、木々にかこまれた日だまりのなか、猿とシラミは蜜月のような
時をもっていた。それは猿が歳をとり、もしくはほかの獣の牙にかかって、命をなくす
そのときまで、ゆるやかにつづいてゆく日常のはずだった。

139:猿とシラミ 5/7
10/02/26 23:31:24 CgKN7Hsz0
ある日、猿はいやな気配をかんじた。
騒がしさと、雑多な色と、ツンとする火薬の臭い。
ヒトの集団だった。猿はいそいでその場から遠ざかろうとした。
そのとき、脚が燃えた。灼熱とともに、はじけた。
咆哮がほとぼしりでた。
なにが起きたのかわからなくて、猿は本能のまま、いやな気配から逃れようとした。
けれど、ヒトに捕まえられた。暴れようとしたけれど、下半身がうまく動かなかった。
視界がもうろうとしていた。腕に力が入らなくて、相手をひっかくことさえ満足にできなかった。
やがて猿は気を失った。
猿は、鳥を狙った人間に、誤って撃たれたのだった。
猟銃を発射した人間は、罪の意識から猿を家に連れ帰り治療をした。猿は命を
とりとめたけれど、以前のように速く走ることも高く跳ぶことも、身軽に木に登る
ことさえできなくなった。
猿は檻の中で飼われることになった。
猿は、自分になにが起きたのか、まったく理解できなかった。それでもおかれた状況に、
徐々に慣れていった。もっと動きたいとかんじることもあったけれど、軽く跳ねただけで
鈍い痛みがはしる脚では、その気持ちもすぐに萎えた。
人間に飼われ、エサをやられ、親しげに声をかけられる暮らしは、とくにいいものでも、
いやなものでもなかった。

140:猿とシラミ 6/7
10/02/26 23:31:50 CgKN7Hsz0
けれどひとつだけ、慣れないことがあった。
人間は、猿を清潔にした。猿を洗い、さまざまな粉をふりかけて、毛を梳いた。
猿が頭に指をやる。さらりとした感触がある。なめらかな毛並みのどこにも、なじんだ
卵の感触はない。おおきな手で全身を叩く。どこからも、白い虫はこぼれてこない。
長いあいだ、わざと寝ころんでいた。以前ならすぐに体のあちこちを襲ったかゆみは、
かけらもおとずれはしない。
シラミはいなくなってしまった。卵の湿り気もまるみも粘りも、しっとりやわらかな虫の体も、
みんなどこかへいってしまった。
猿はとほうに暮れた。檻に体当たりして、エサをぶちまけて、吼えて啼いて乞うたけれど、
なにももどってこなかった。
あの極小の白い虫。
皮膚にぴたりとよりそい、ときにざわざわと這い、ときに猿を咬んだ。猿の体液だけを
すすって生きて、猿の体表が世界のすべてだった。そのシラミは、猿以外の生き物に
寄生できないほど、宿主とひとつになっていた。
猿もそうあれといつも怒っていた、嫉妬ぶかい小さな昆虫。
もういない。
とりもどすすべもない。
いまも猿は、檻のなかにいる。人間にかわいがられ、不自由のない暮らしをしながら、
ぽっかりあいた空洞を胸にかかえている。陽光がその空洞に射しこみ、虚無を癒すことはない。
長い指が頭をかく。頬に肩に腕に胸。腹を腿を膝をたどる。自分で自分の全身にふれていく。
どんなにしつこく、どんなに丹念にまさぐっても―。
その指先が、愛しい相手にたどりつくことは、もはやない。

141:猿とシラミ 7/7
10/02/26 23:32:25 CgKN7Hsz0
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < お目汚し失礼しました!
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < 読んでくださった方は
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < ありがとうございました!!
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
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 |         | ./
 |_____レ

142:風と木の名無しさん
10/02/27 00:13:00 Wb4ops0p0
>>141

ちょwwww姐さん鬼才すぐるwwwwww
ほとばしるエロスに萌えていいのか笑っていいのか分からないよ…!!
濡れ場もないし猿とシラミなのに完全にやおいだ!!

143:風と木の名無しさん
10/02/27 00:22:54 BbTxzMBc0
>>141
感心した。すごいなあんた。

144:風と木の名無しさん
10/02/27 01:27:20 fRNJLpb40
なんだろう、天才を目の当たりにした気分だ

145:風と木の名無しさん
10/02/27 11:22:17 lSKQkq4U0
なんだ、ただのネ申か


146:SJヒトヒメ 1/8
10/02/27 13:48:20 Baugfw6u0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  真・女神転生SJ、ヒトナリ×ヒメネスだよ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ぬるいけどエロあり
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

147:SJヒトヒメ 2/8
10/02/27 13:50:05 Baugfw6u0
 仕掛けたのは、俺からだった。
 下手すりゃ一つのセクター攻略に何週間もかかるシュバルツバースで、何の収穫も変化もない日々を積み重ねていれば、当然、ストレスは蓄積されるし、ストレス以外のもんも溜まる。そいつを解消したいと思うのは、自然なことだ。そうだろう?
 従軍中なら女は割かし容易く手に入ったが、地上かどうかさえ危ういシュバルツバースじゃ、そういう訳にもいかない。だからといって艦の女どもに頼み込むのも癪だったし、大体、俺は、この艦にいる女どもとはソリが合わない。
 レッドスプライトに拾われてもう結構な日にちが経つが、未だに女どもは、俺を遠巻きに、泳ぎっぱなしの目で見てくる。そんな女を口説く気になれる男がいる訳ない。いるなら、そいつは、単なる馬鹿だ。生憎、俺はそうじゃなかった。
 だから、発想の転換が利いた。別に女じゃなくたっていい。そう考えたら、あっさり足は、奴の部屋へと向いていた。
 タダノヒトナリ。豊かな国からお出でになられたエリート様。言ってしまえば俺の最も嫌いな人種にある男を、それでも誘う気になったのは、興味半分、面白半分。いかにも遊び慣れてない朴念仁といった雰囲気の、奴に俺みたいな人間の中身を見せてみたかった。
「俺だ。いるか?」
「開いている」
 ドアを叩けば、抑揚のない、だが流暢な英語が返る。スイッチを押してドアを開けると、相変わらず表情のない顔(奴の国では「ノウメン」とか言うらしい)をして、ヒトナリはベッドに腰掛けていた。傍らには銃のパーツが丁寧に並べられている。
「忙しそうだな」
「いや。もう済んだ」
 言葉のとおり、ヒトナリの手は、瞬く間に銃のパーツを元の形に組み上げていく。
 こいつが意外に実戦向きだということは、拾われた日に解った。ブルージェットの墓場まで俺を救出に来たこいつは、ゴアを殺されたことには当然、衝撃と怒りを覚えたようだが、それを即座に飲み込んで、あっという間に悪魔を倒した。
 矢継ぎ早に繰り出されたのは、精密な攻撃と、的確な指示。普段は淡々と、いっそ眠そうな響きさえ含んで喋る声は、大音声のレベルまで上げられ、奴の仲魔を叱咤した。

148:SJヒトヒメ 3/8
10/02/27 13:50:51 Baugfw6u0
 この男に対する嫌悪は、あのときから崩れ始めた。こいつは根っからの軍人だ。それも戦場に馴染んでいる。あの平和な国でどうして経験を積めたのか知らないが、少なくとも基地に篭もって、ひたすら無線を握り締めてるタイプじゃないのはよく解った。
 おもむろに奴の前まで歩き、間近に至って立ち止まる。天井の照明が背中に当たって、ヒトナリの上に影を作った。
 ゆっくりと、まるで驚いた様子なく上げられた顔を見て、にやりと笑う。腰に手を当てて軽く屈むと、唇に唇を押し当てた。
「しようぜ」
 頭のいい男は、流石に理解が速かった。
「セックスを? お前とか?」
「ああ」
「どうして俺を相手に選んだ」
「日本人のはサイズはアレでも、硬さは半端じゃねえって聞いた。本当かどうか、俺が直々に、確かめてやろうと思ってな」
 股間に手を伸べ、撫でさすっても、ヒトナリはまるで動じなかった。じっと、瞬きの少ない目で、真正面から俺を見つめる。
 ああ、もしかすると、俺はこの、正面切って向けられる視線に飢えていたのかもしれない。
「心配ないぜ、下になるのは俺だし、それなりにリードもできる」
「経験があるということか」
「何なら語って聞かせてやろうか」
 脚の間に跪き、だらりと両腕を持ち上げて、しなだれかかる女のように、ヒトナリの首の後ろに廻した。少しだけ開けた唇の隙間から舌先を覗かせる。
「膏薬くらいは持って来てるぜ。お前はそいつで穴をほぐして、突っ込むだけで終了だ」
「具合は保証できるのか?」
 思わず口笛が出た。
「その手の冗談も言えるんだな」
「冗談で始めて冗談で終わりたいんだろう」
「ご明察」
 ちゅ、と安っぽい音を鳴らして、奴の唇の脇に吸い付く。
「冗談じゃなきゃ、悪い夢でも構わないがね。どうするよ?」
 この一言で、立場は変わる。俺の酔狂が、ここから先は、エリート様の酔狂になる。
 そのことを恐らく完璧に察知し、理解した上で、それでも奴は、ヒトナリは、俺の挑発に乗ってきた。

149:SJヒトヒメ 4/8
10/02/27 13:53:01 Baugfw6u0
「おい、……ヒトナリ、もう、」
 唾液で緩んだ膏薬がぐちぐちと鳴っている。日本人ってな繊細な、もとい、細かい人種だと思っちゃいたが、ここまで懇切丁寧にやるとは思っていなかった。
 俯せにされてから二十分。もう二十分も、延々と、後ろばかりを弄られている。組み上げた銃を払い落とし、俺をベッドへ一気に組み敷いた男とは、まるで別人だ。
 まず周りを揉みほぐし、穴に膏薬を塗り込んで、一気に拡げるのかと思えば、指先だけを挿れられた。そこから指が奥に至るまで十分、増やされるまで十分。
 痛みどころか異物感さえほとんど感じないようにして、じわりじわりと拡張される。両利きらしい奴の左手は前も弄ってくれてはいるが、萎えない程度にしているだけで、イかせようという気は感じられない。
「てめえ、いい加減にしろ……ッ」
 はっきり言って、穴なんて、たいして感じるもんじゃない。女はそこに引き込む必要があるから感じて当たり前だが、男の場合は「付いてた場所を無理やり使ってる」訳だから、感じろってのが無理な話だ。
 実際、そろそろ飽きてきた。傷付けないよう気遣ってくれるのは実にありがたい、ありがたくて涙が出るが、慣れてるのは宣言済みだし、少しくらい切れたところでたいした問題じゃない。
 そもそも俺は溜まってるものを抜きに来たんであって、後ろを撫で続けられるためにこいつを訪ねて来たんじゃない。
 大体、こいつはどうなんだ。
 首を捻って見た顔は、いつもどおりの「ノウメン」で、欲情も焦りも感じられない。いや、欲情しろってのは無理かもしれないが、溜まってるのは同じのはずだ。
 ヒトナリは俺と違って女のクルーたちにも人気が高いが、それに胡坐をかいて自由にしているという話はまったく聞かない。むしろ「あいつは性欲ってものがないんじゃないのか」と囁かれるほど、女に対して優しく、平等で、紳士的で、そして、素っ気ない。

150:SJヒトヒメ 5/8
10/02/27 13:54:14 Baugfw6u0
 それでも男である以上、このシュバルツバースでの生活を経て、溜まらない訳がない。
 だから、挑発さえ成功すれば、こいつは「ノウメン」を脱ぎ捨てて、人間らしい欲を見せるかもしれないと思っていたのだが、こうも延々と続けられると、性欲がないという噂にも信憑性が出てくる気がする。
 もしかしなくても、かなり面倒な男に仕掛けてしまったか。
 萎えそうになるが、やはり丁寧に前を扱く手が、それを許さない。吐き出す息ばかりが熱い状況にうんざりとして、この野郎、蹴り飛ばしてやろうかと身じろいだときに、そいつは聞こえた。
「動くなよ」
 淡々と、小さな声で、しかし仲魔に命じる強さで言われた台詞に、一瞬、凍る。同時に、指の一本が、ごく浅いところを引っ掻いた。
「あ……?」
 じわりと、水に落としたインクが瞬時に溶けて広がるように、そこから全身に染み出したのは、紛れもない快楽だった。
「な、に……ッ」
「ここか」
 ヒトナリが合点したように呟いた。そして同じところを今度は指先で押し、強く捏ねる。
「ひ……ッ」
 途端に全身を刺激が駆け抜け、足が張った。僅かに隆起しているらしいそこをこりこりと弄られるたびに、爽快感には程遠い、しかし確かな快楽が、体の内側から外側へ向かって、脈打つように生まれる。
 ありえない。何だ、こいつは。こんな話が。こいつは。まさか。
 がくがくと震え始めた体を容赦なく押さえ付けられる。何とか拒もうと思っても、丁寧にほぐされ、膏薬と唾液で完全にとろけた後ろの穴は、異物を押し出すどころか、飲み込もうとして蠕動した。
 ぐちゃぐちゃと遠慮のない音を立て始めたヒトナリの指が、ただ一点だけを突き、引っ掻き、押し潰す。

151:SJヒトヒメ 6/8
10/02/27 13:55:07 Baugfw6u0
「うぁ、あッ、そこ、や、そこ、やめ……ッ! ひ、あ、ぁあ……ッ!」
 嬌声と呼ぶにはあまりにも色気のない声で喚き散らす。逃げを打とうと暴れても、俺より重さのあるヒトナリの体が乗ってきて、それを許さない。いつしか前を離れていた左手でも押さえ付けられ、俺はもう何もすることができず、ただ腰を振って悦がり乱れた。
「あ、ひ、やぁ、あぁ……ッ!」
 狂う、と思った。おかしくなる。変になる。抱いた女の何人かはそういった台詞を口にしたが、俺は、サービスのよくできた女だとしか思わなかった。
 セックスで気が狂うほど感じることなどありえない。セックスで得られる快楽は、溜まった情欲を解き放つ爽快感の類いであって、頭に血が上るような感覚などは生まれない。そう思っていた。思っていたのに。
「ひ、ぁ、ヒトナリ、ぅあ、ヒト、ナリ……ッ」
 もはや何も考えられず、俺は唯一脳裏に浮かんだ単語を何度も口にした。もう体に圧し掛かる重みまでもが気持ちいい。背中を舐められ、首筋を噛まれて、がくりと頭が仰け反った。ぐちゃぐちゃと鳴り続ける水音が耳に入って痺れを生む。
「ここにいる」
 その痺れの中で、誰かが低く囁いた。
「ここにいる。ヒメネス」
 理解できたのは、自分の名前だけだった。
 ひどく心地いいその声が耳を通って体内に入り、体の芯に至ったところで、俺は射精しないまま達した。

152:SJヒトヒメ 7/8
10/02/27 13:55:42 Baugfw6u0
 結局、あのあとヒトナリは、達したばかりで痙攣していた俺の体を引っくり返すなり、またしても別人みたいになって、奥まで挿れると、散々に突き上げた。俺はこいつの肩に縋ってこいつの名前を呼びまくり、喘ぎまくり、叫びまくって、ようやく射精を許された。
 ……日本人ってな、みんなこうなのか。それともこいつが格別にアレなのか?
 ともかく、何もする気が起きず、俺は今、ベッドを占領して、ぐったりとくたばっている。ヒトナリはというと、共用のシャワールームに行くからと言って、さっさと着替えを済ませてしまった。
(あー)
 今なら余韻を気にする女の言い分が解る気がする。穴でイかされると、だるい。爽快感とはまるで違った、粘っこい何かが体に残る。これではセックスのあとしばらくは動きたくなくなるだろう。そしてとっとと動き始める男が憎ったらしく感じる。
「冗談でなければ、悪い夢でもいいと言ったな」
「……言ったか?」
「ああ、言った」
 ベッドの脇まで寄ってきたヒトナリを胡乱に見上げてみる。いつでも姿勢の良い男だ。そのせいでひどく顔が遠い。
「どちらだった?」
 微かに笑った珍しい表情が気に食わない。そのくせ何か好感のようなものも生じて落ち着かない。
「どっちでもねえよ」
「なら、いい夢だったか」
「いけしゃあしゃあと言うな、くそったれ……」
 呻くと、頭に散々俺を啼かせた指が触れてきた。疎ましいそれを払いのけて、俺はヒトナリを睨みつける。
「楽になるまでここで寝ていろ。俺はラボにいる」
「当然だ、馬鹿野郎」
 そしてそのまま、靴音を立てて出て行く背中を見送った。

153:SJヒトヒメ 8/8
10/02/27 13:56:16 Baugfw6u0
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ドラマCDが楽しみすぎて生きるのがつらい
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

154:風と木の名無しさん
10/02/27 20:21:35 uIk60paaO
>>146
まさかこのスレでSJが読めるとは…!
前立腺開発おいしいです
ご馳走様でしたありがとう

155:風と木の名無しさん
10/02/27 20:32:40 JkZPuSI90
>>146
いいもん読ませてもらった
おかげで途中で止まってた続きをやるモチが上がったw

156:風と木の名無しさん
10/02/27 21:20:15 SNmyRxr90
うあああ不覚にも萌えた

157:風と木の名無しさん
10/02/27 21:44:04 pm3i5gsA0
>>146
グローリア!グローリア!

ここでムッツリTDN×ビッチぶってるヒメネスのSSが読めるとは…
アーサーの回線に侵入すれば監視モニターの映像がコピーできるかもしれんな

ちょっと今から南極いてくる

158:風と木の名無しさん
10/02/27 23:45:19 MPcQI8n60
>>146
悶え死んだ
地球が滅亡しても今なら悔いは残らない

159:風と木の名無しさん
10/02/27 23:50:03 F+kIEo3E0
>>146
死ぬほど萌えて生きるのが辛い
まさに心底読みたかったビッチぶってるヒメネスと淡々ヒトナリだった本当に有り難う
でももっともぉっと読みたいです

160:風と木の名無しさん
10/02/28 00:09:04 AINtZXfW0
>>146
ありがとうありがとう!
本当になんかもう理想というか、キャラが好みすぎてもう…!
ありがとう…悶えました!

161:風と木の名無しさん
10/02/28 00:11:52 +ou4qvC60
>>146
涎が止まりません!ごちそうさまです!!!
キャラがたまらなかった…ウウッ生きるのが辛い

162:風と木の名無しさん
10/02/28 18:11:28 Vyp++0twO
>>146
絶妙な距離感の二人に禿萌えました…!!
真Ⅰへのさりげないオマージュとか、何もかもGJです!

163:風と木の名無しさん
10/02/28 18:40:20 8WE1fp1B0
>>146
>>162読んで真1オマージュ?としばらく悩んでやっと気付いた
カオスヒーローの最期の台詞か!
姐さん芸が細かすぎるぜ…!

164:風と木の名無しさん
10/03/01 01:00:32 NV5S7WeH0
>>146
原作知らないんだがグイグイ引きこまれた
良い作品を見せてくれてありがとう

165:シュバルツバースでマターリ 1/8
10/03/02 19:18:15 IQwlwHpG0
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  真・女神転生SJ、ヒメネスとバガブーとヒトナリだよ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  バガブーの「フレン」発言についてkwsk考えたらこうなった
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ レンゾクトウカ ゴヨウシャネガウ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

166:シュバルツバースでマターリ 2/8
10/03/02 19:19:40 IQwlwHpG0
 艦の中では、仲魔の召喚は、基本、禁じられている。
 しかしヒメネスにはその「基本」に従う意思がまったくない。一部の「うるさいの」が声高に騒ぐ悪魔の危険性を、悪魔に限った話ではないと考えているからだ。
 シュバルツバースで出会った奴らは、悪魔といっても見た目や性格は人間と同じくさまざまで、羽根を生やした美少女が、隙あらば脳味噌を吸おうとしたり、どろどろぐちゃぐちゃのスライムが、意外に気のいい奴だったりする。
 話せば解る奴もいるし、話しても解らない奴もいれば、そもそも話をする気なんてまったくない奴もいる。
 つまり、悪魔は人間と、何一つとして変わらないのだ。そう考えれば召喚を禁じるなどと馬鹿げている。いつか犯罪を起こすかもしれないからという理由で、一般人を監禁すれば、その方がよほど犯罪だ。
 悪魔と人間、両者の間に、線を引く理由は一切ない。互いに気が合い、尊重し合えば、悪魔と人間はいい隣人でいられるし、友人にもなれる。少なくともヒメネスは、そう感じたし、そう信じている。
 だから!……と真剣に演説をぶつのも面倒臭いので、ヒメネスは皆から良い印象を持たれていないのをいいことに、好き放題にバガブーを呼び出しては連れ歩いている。
 くだんの「うるさいの」も最近は遠巻きに愚痴るだけになった。勿論、愉快ではないが、耳許まで来てキンキンと騒がれるよりずっといい。
 そういう訳で、今日もヒメネスは、バガブーを連れて艦内を自由に歩き回っている。廊下で擦れ違ったのは機動班のクルーばかりで、ほかのクルーたちよりも悪魔に親しんでいる彼らは、概ねヒメネスの考え方に好意的、且つ、共感的だ。
 よう、バガブー、などと声をかけ、頭を撫でたりもしてくれる。バガブー自身も優しくされるのに満更ではないようで、黒い尻尾を振りながら、心地好さそうに触れられていた。

167:シュバルツバースでマターリ 3/8
10/03/02 19:20:58 IQwlwHpG0
 そんな「社会見学」という肩書きを付けた艦内散歩も、そろそろ終わりに近付いた頃、ヒメネスは狭い廊下の向こうに、東洋人のクルーを見つけた。
 恐らくミッションログでも確認しながら歩いているのだろう、腕に備えたPCを見ながら、こちらに気が付くこともなく、通り過ぎるところだったので、軽い調子で声をかける。
「よ」
 気付いた男は、ヒトナリだった。持ち上げられた視線がまずはヒメネスの顔に注がれると、次いでバガブーに留まって、僅かな当惑を滲ませる。
「お前、また」
 曇ったところで、能面は、やはり能面だ。
「ゼレーニンに見られたらどうする」
「ごめんなさいとでも言っとくさ」
「何かあったら責任を問われるのはお前だぞ」
「二度としませんも付けておくかな」
「まったく……」
 眉を寄せ、嘆息するが、それ以上は口にしない。だからヒトナリは「うるさいの」の構成員には入らないのだ。そもそもヒトナリはヒメネスの次にバガブーを知る人物であり、バガブーが無害であることは、よく理解してくれている。
「バッガ?」
 自分が話題に上っていることを何となく覚ったのか、バガブーが小さく首を傾げて、ヒトナリの顔を下から覗いた。そして、元気付けるかのように、一声、大きく発する。
「ヒトナリ!」
 いつも変わらない能面を、一瞬、驚きの色が過った。珍しいものを見た嬉しさで、にやつきながら肩に凭れる。
「ブー? ヒト、ナリ?」
「ヒメネス、お前、俺の名前まで教えたのか」
「お前だけが一方的に知ってるってのも不公平だろ。それよりちゃんと応えてやれよ、こいつが不安がってるだろうが」
「ああ、悪かったな。そうだ、バガブー」
「ヒトナリ?」
「そう、ヒトナリだ」
「ブー!」

168:シュバルツバースでマターリ 4/8
10/03/02 19:21:33 IQwlwHpG0
 間違っていないと解ったらしいバガブーが、尻尾を左右に振る。その仕草に目を細めると、ヒトナリはスーツのポケットから、チャクラドロップを取り出した。見上げるバガブーの目の前で、一つを口に入れ、一つを差し出す。
「バッガ?」
「ドロップだ」
「ドロッ……ブー?」
「一気に不味そうなものになったな……ドロップだ。ドロップ。食べてみろ」
「バー」
 かぱんと開いた口の中に、ヒトナリがドロップを放り込む。噛み合わせの良くない口がしばらくもちゃもちゃと音を鳴らすと、やがて揺れていた羽根が止まり、黒い尻尾が真っ直ぐ伸びた。
「バッガ!」
「美味いか」
「バガッ! ブー! ヒトナリ!」
「甘い、と言う」
「スィ?」
「スイートだ」
「スイッ!」
 どうやら味も言葉の響きも相当気に入ったらしい。あまり品のない音を立てながらドロップを舐めるバガブーは、ヒトナリの周りをうろうろ回り、何度も「スイッ」を繰り返す。
「理解が速いな」
「マスターがいいのさ」
「コミュニケーション能力はマスターより高そうだ」
「言いやがったな、この野郎……」
「あまり汚い言葉を遣わない方がいいんじゃないのか、マスター」
「ファッ? ジャッ?」
「どちらも覚えなくていい」
「スイッ!」
「そうだな、それにしておけ」
 まったく、こいつの悪魔扱いの巧妙さには、頭が下がる。
 「スイッ」に飽きたバガブーは、ドロップに集中したようだ。その場に胡坐で座り込み、くっちゃくっちゃと口を鳴らす。たまに涎を垂らしては手の甲で拭う姿を見ながら、ヒメネスはヒトナリに寄りかかり、なあ、と甘えて囁いた。

169:シュバルツバースでマターリ 5/8
10/03/02 19:22:09 IQwlwHpG0
「で?」
「ん?」
「俺にはないのかよ」
「何が悲しくて貴重なチャクラドロップをお前にやらなきゃならない」
「ケチくさいことを言うなよ、ヒトナリ。こちとらフォルマが不作でな、ここんとこアーヴィンに嫌われてるんだ」
「そうか」
 くるりと踵を返したヒトナリを再び反転させる。
「何をする」
「いいだろうが、十個くらい!」
「十個単位で要求するつもりの時点でやる気が失せる」
「心の狭い男だな!」
「広いと言った覚えはない」
「悪魔の依頼は片っ端から請けてるだろうが!」
「報酬あっての話だ」
「お前は仲間に金品を要求する気か!?」
「ヒメネス、いいから落ち着いて自分の胸に手を当てろ」
「フレン!」
 言い争いは蚊帳の外から入った声で中断した。
 視線を下げれば、ドロップを食べ終えたらしいバガブーが、どことなく楽しそうな顔で、再び「フレン」と声を発する。
「フレン! ヒメネス! ヒトナリ!」
「ばッ、おま……!」
 思わず緩んだ手から脱けると、ヒトナリが床に膝を突いた。目線の合ったバガブーが、嬉しい様子で小さく羽ばたく。

170:シュバルツバースでマターリ 6/8
10/03/02 19:22:37 IQwlwHpG0
「フレン……フレンドか?」
「バッガ! フレン!」
「ヒメネスはお前に俺をフレンドだと教えてるのか」
「ヒトナリ!」
「そうか」
 立ち上がりながら、にやりと、……多分、この艦にいる誰に言っても信じてはもらえない顔をして、ヒトナリは口の端を持ち上げ、ひどく凄惨な笑みを作った。
「気が変わった。手を出せ、ヒメネス」
 言うが早いか手を引き出され、ドロップを山盛り載せられる。
「フレンドの頼みなら聞き入れるのに吝かじゃない」
「バッガ! ブー!」
「無駄遣いするなよ、フレンド」
「フレン!」
「じゃ、またあとでな、フレンド」
「フレンッ!」
「ところで、フレンド」
「フレ」
「ぃやかましいわあああッ!」
 やはりと言うか、怒号にびくりとしたのは、バガブーだけだった。
 こちらの紅潮した顔をたっぷりと観察した上で、ふっ、と思わせぶりに笑い、ヒトナリはゆっくりと背を向ける。そして、ひらひらと片手を振って、悠然と歩き去っていった。

171:シュバルツバースでマターリ 7/8
10/03/02 19:23:35 IQwlwHpG0
 治まらないのはヒメネスの羞恥から来る焦りである。確かに、ヒトナリは何者なのかと知りたがっていたバガブーに、適当な答えが見つからず、友人であると教えはしたが、まさか本人を目の前にして暴露されるとは思わなかった。
 まずい。非常にまずい事態だ。あの隠れサディスト、もとい、特に隠れてないサディストは、これから事あるごとにさっきのネタを持ち出してくるだろう。
「あ……ッの、クソ野郎!」
「ヒメネス! ファッ、ノー! ジャッ、ノー! スイッ!」
「誰がスイートかッ! いいか、バガブー! 今後は人前でフレンドもスイートも使用禁止だッ! 特にあいつの前では!」
「ヒトナリ?」
「そうだ、ヒトナリだッ!」
 ヒトナリの名は「仁成」と書き、慈愛の心を持つ者にという意味が込められているらしい。
 残念ながら両親の願いは叶わなかったようだ。あの男は鬼畜である。それも対自分限定の。そんなののどこが「仁成」か。
 まだ熱い頬を押さえながら、首を傾げているバガブーを、強引にデモニカの中へと戻す。
 うっかり艦の最後尾までそぞろ歩いて来てしまったため、ここから、ヒメネスに宛がわれている部屋までは、結構な距離がある。
 そこまで辿り着くのが早いか、顔に上った血が下りるのが早いか、誰かに出くわして顔の赤さを指摘されるのが早いかは、今のところ、アーサーにさえ予測できないことだった。

172:シュバルツバースでまた会いましょう 8/8
10/03/02 19:24:46 IQwlwHpG0
 ____________
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 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ この間にも地球はガンガン滅んでいってるのであった
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

追記:
・レスくれた姐さんたちありがとう
・板の中の人たち超乙
・鯖落ち中は異様に筆が進みました

173:風と木の名無しさん
10/03/02 21:36:59 +U8EXQqa0
>>172
非常に乙。こういうのが読めるのなら鯖落ちも悪くない、いややっぱ寂しいです。
皆様の辻を思い出してしまったw

174:風と木の名無しさん
10/03/02 22:04:56 xp5QRwH10
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ilの板缶その5モナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  復旧とともに規制解除北モナ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

175:板缶 1/5
10/03/02 22:06:30 xp5QRwH10
「あんた、なんで俺みたいなオッサンがいいんだよ?」
物好きな・・・と、呆れたような口調で訊かれるたびに神部は笑って、
「人の好みってそれぞれでしょ。伊民さんは、俺の好みのタイプなんですよ」
そう答えてきた。その言葉に嘘はない。
しかし、それだけというわけでもない。

伊民という男は、これまで神部の周囲にいた連中とはまるで違う、強面の現場要員だった。
神部よりいくつか年上だが、階級はただの巡/査部長だ。昇進試験のための勉強なぞ今さらする気もないとばかり、犯人検挙の手がかりを求めていつも現場を動き回っている。
グルメでも口がうまいわけでもなく、このご時世にまだタバコを吸っていて、特にセックスがいいわけでもない。わりと無趣味な仕事バカ、優しいけれどそれを言葉ではうまく表現できないタイプだ。

ただ彼は、低い、いい声をしていた。すらりと背が高く、のっぽの案山子にスーツを着せたようなその立ち姿は、遠くからでも神部の目についた。でたらめな食生活をしているわりに痩せていたが、
脱がせてみるとガリガリというのではなく無駄な贅肉がついていないだけで、しなやかな筋肉に覆われていた。
長くすんなりと伸びたその腕は、男の神部を抱きしめてもまだ余るくらいだった。

最初はほんとうに、ただ外見が気に入って近づいてみただけだったのだ。
その次には、このワーカホリックなノンケの心がだんだん自分に傾いてくるのを見るのが楽しくて、しかたがなくなった。
そしていまでは、・・・完全に彼にのめり込んでしまっているという自覚が、神部にはあった。
決して口に出しては言わないが。

***

警/察官の非番というものは、休暇ではない。待機時間だ。ましてや捜/査一課の刑事ともなれば、休日といえどもいつ呼び出されるかわかったものではない。
とはいえ、彼らにも私生活というものはあり、その気になれば束の間のプライベートタイムを恋に費やすこともできた。

「・・・なあ、いいだろ・・・?」
耳許で囁く声が、濡れて聞こえた。
返事のかわりに神部は微笑み、タバコとビールのにおいのするキスを受け止めた。

176:板缶 2/5
10/03/02 22:08:03 xp5QRwH10
伊民の部屋にはもう何度か招かれたことがあった。実家住まいの神部と違って、伊民は気楽な一人暮らしだ。
いつものようにリビングのソファでテレビを見ながら軽く飲んだあと、ふわふわと気持ちのいい気分になって寝室へ来た。

狭いベッドにふたりして倒れ込み、ゆるく抱きしめられると、伊民の体温と匂いに包まれるような気がした。耳朶を甘噛みされ、項に口づけが降らされる。
まだスーツの上着を脱いだだけだった神部のほうが、先に着衣を剥がれた。伊民も、プルオーバーの上だけはさっさと脱いで、ベッドの脇へ投げ落とした。
すると、神部の好きな、すらりと引き締まった身体が現れた。薄い皮膚と脂肪の層の下にあるのは、見せびらかすためにジムでつけたようなのではない実用的な筋肉だ。
骨柄の大きい伊民の、肩から二の腕へと連なるおおらかなラインの美しさに目を奪われながら神部は、その腕が鳥かごのように自分の頭を囲い込んでくれるのを見上げていた。
もう一度、キスが降ってくる。最初のように甘く優しいだけではない、深いキス。歯列を割られて舌を引きずり出され、呼吸もままならないほど求められる。
酸素の足りなくなった頭で考えるのは、この人ともっと近くなりたい、ただそれだけだ。
布越しに腿に当たる伊民のものがもう熱を持ち始めている。それが素直に嬉しい神部は手を伸ばして触れようとしたが、すぐにその手を掬いあげられて、伊民の首の後ろに回されてしまった。
「・・・いいから、あんたはしっかり俺につかまってろ」
「ずるい。俺だって触りたいのに」
「そんなことされたら、今すぐ突っ込みたくなっちまう」
痛いの嫌いだろ、と笑いながら伊民は、大きな手のひらで神部の胸や脇腹を愛撫しはじめた。男の身体に触れる手つきにもうためらいはないのに、なかなかその下までは触れてこない。
きっと伊民は急ぎたくないのだ。胸の上に顔を伏せられると、癖のない彼の前髪が鎖骨の上をさらさらとくすぐっていった。
神部はその頭を抱いて片膝を立て、ふーっとゆるく息を吐いた。腰の周りに、痺れるようなぞわぞわとした快感が集まりつつあった。

仕事を離れたこの夜、神部は申し分なく幸せだった。
・・・伊民が今しも脱ぎ捨てようとしていたチノパンのポケットで、携帯が鳴り始めるまでは。

***

177:板缶 3/5
10/03/02 22:09:06 xp5QRwH10
楽しい時間を邪魔したのは、携帯に最初から入っている有名な映画のテーマ曲だった。神部は、伊民がこの音を誰からの着信に割り当てているか知っていた。
出ないでほしい、と言いそうになったが、とても言えなかった。

「・・・伊民」
苦虫を噛みつぶしたような顔をして、それでも当然のごとく伊民は電話に出た。神部の顔のすぐ近くでシンプルなストラップが揺れた。携帯からの声も、すっかり聞こえた。
相手は彼の同僚刑事の芹澤だ。歩きながら話しているのか、ややスタッカートのかかった口調で、事件の発生を告げている。
『先輩、新宿で殺しです。ガイシャは帰宅途中の会社員。強殺みたいです。犯人の目撃証言あり、若い男。ナイフ持って逃げてます。緊配かかりました。あと、神田で男女の変死体。こっちはまだ所轄が現着したとこで、詳細不明です』
「非番にも招集かかってんのか」
『あー・・・まだですけど』
電話の向こうの芹澤は、なんとなく意外そうに言い淀んだ。
『サーセン。でもたぶん、時間の問題だと思うンすけどね・・・?』
「・・・だろうな」
うんざりだと言わぬばかりにため息をついた伊民が、すいっと身体を起こした。
わりぃな、と唇だけで神部に言って、そのままベッドを降りてしまう。伊民はまだ話し続けていたが、芹澤の声は神部には聞こえなくなった。
「おう・・・了解、坂の下まで行っとくわ」
芹澤は、現場へ向かう途中で伊民を拾っていくつもりなのだろう。この時間なら、霞ヶ関の警/視庁からここまで、ゆっくり走っても20分かからないかも知れない。パトランプをつけてぶっ飛ばしたら、もっと早く着けるだろう。
大急ぎで身支度しなければならない伊民がクローゼットから取り出したスーツとワイシャツを持ってリビングへと出て行くのを、神部は黙って見送った。

「おお、持って帰ってる・・・バカ言え、てめえ」
すっかり仕事モードに切り替わった伊民の口調はピリピリと感電するような緊張感をはらみ、つい数分前までの低く豊かな声音とはまるで違っている。
どちらが本当の、というわけではなく、どちらも伊民そのものである、二種類の声。
「・・・担当、誰だ? ・・・チッ、ツイてねえなあ」
その声を、神部は少し遠くに聞きながら、自分も身体を起こしてベッドの上で膝を抱えた。

178:風と木の名無しさん
10/03/02 22:09:08 fYdSKn2H0
>>172
まさかこんなに早く新しい物が読めるとは思わなかった・・・!
バガブーを交えたやり取りにほのぼの、性格設定といちゃいちゃした感じがたまらん
ファッキンだのジャップだの口が悪いヒメネスにもにやにや スイートには恋人をかけてるのかな?
出来るのであれば172のドライな文体の作品をもっと読みたい・・・

いつかサーチに新着サイトが追加されると信じて待ってます

179:板缶 4/5
10/03/02 22:09:48 xp5QRwH10
どうせ、特/命係に事件の情報が回ってくるのは明日の朝だ。テレビのニュースで知るほうが早いくらいかも知れない。それまでに犯人が逮捕されてしまえば、あの特殊なムードの職場では朝の軽い話題にしかならないだろう。

「・・・ひでぇな、そりゃ。なんでそれで人着割れねえんだよ」
リビングでごそごそと着替えながら、伊民はまだ話し続けていた。器用なことだ。
それにもまして、かなり「その気」になっていたはずの伊民が、こんなにも素早く出かけようとしていることに、神部は驚かずにいられなかった。たった数分しか経たないのにもうおさまったのだろうか、と。
「わかった、もう出るから切るぞ。ちょっと待たすかも知れねえ」
声が急に近くなった。次の瞬間、もうすっかりスーツを着込んだ伊民がドアの向こうから顔を覗かせて、簡単に言った。
「わりぃ、行くわ」
「はーい」
「鍵、置いとくから。寝てってもいいし、好きにしてくれ」
「帰りますよ」
「そっか」
伊民は一瞬、なんとも言えないような顔をして神部を見たが、それきり何も言わずに出ていった。


玄関のドアが閉まるのを待って、神部はやれやれと息をついた。
どうせ伊民というのはあんな男だろうと思っていたが、ほんとうにそうだった。素っ気ないにもほどがある。
・・・それはいい。しかたがない。
実を言えば、そういうところも好きなのだ。

180:板缶 5/5
10/03/02 22:11:09 xp5QRwH10
神部とて、法学部を出てわざわざ警察官を志した動機は、この手で誰かを助けたいと思ったからだ。世間にはびこる悪人や犯罪者たちを捕らえ、彼らのために不幸になる人間をひとりでも減らしたいと願ったからだ。
伊民は、まっすぐにその道を行っている。若い頃の神部が憧れたとおりの刑事の姿だ。
たとえ相手が武器を持っていようが、どんなに危険な場所であろうが、伊民は真っ先に飛び込んでゆくに決まっている。彼の鋭い目で睨みつけられ、怒声を浴びせられれば、どんな犯罪者も震え上がるだろうと思われた。
肩幅の広いその背中と、向かい風に負けまいと顎を引いた横顔が、神部を惹きつけてやまないのだ。
ある意味では妬ましくもあり、自分の置かれた立場と引き比べていくばくかの寂寥感に襲われることもあったが、それで伊民を責めるような気持ちなどには到底なれなかった。
そんなこと照れくさくて、本人にはとても言えそうになかったが。

***

しばらくしてから服を着てリビングへ出ていき、灯りをつけると、伊民が置いていった鍵がテーブルの上で鈍く光っていた。
神部はそれを取り上げてしげしげと眺め、手のひらに載せて、きゅっと握った。
それから自分の携帯を探して、メールを打った。

『これから知らないふりして現場行ってもいいですか』

思いがけず、すぐに短い返信があった。

『特/命係の出る幕はねえ!』

その最後に怒りマークの絵文字がついているのを見て、神部はふふっと笑った。

『この鍵、俺が持ってていいですか?』

今度は違う絵文字がひとつだけ、返ってきた。
神部は微笑みを深め、鍵と携帯をポケットにしまって、部屋を出た。


<おしまい>

181:風と木の名無しさん
10/03/02 22:11:42 xp5QRwH10
 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )いつも感想嬉しい、つい書いてしまうモナ
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

いつもぬるくて、しかも時系列バラバラですみません。
これからもこっそりと書いていきたいので、もし気づいたら読んでやってください。

182:風と木の名無しさん
10/03/02 22:12:05 fYdSKn2H0
>>174
リロード忘れてた・・・!!途中で切ってしまって本当にすみません!

183:風と木の名無しさん
10/03/02 22:14:21 xp5QRwH10
>>182
いえいえこちらこそ!
空気嫁ず、すみませんです・・・。

184:風と木の名無しさん
10/03/02 22:47:17 BCxl2NP20
>>181
姐さん毎度ごちそうさまです!
ゆったりした非番の描写に禿げました

185:風と木の名無しさん
10/03/02 22:57:59 nsPRjES+O
>>181姐さん
今回は傾れ込むのか!とWKTKしましたが、缶が板を好きな理由に俄然説得力が出ました!
板って凄く素敵な人みたい。ニンニク臭くても良いのかな缶は。
芹も好きなのでサーセンもうれしかったです。

186:風と木の名無しさん
10/03/02 23:02:54 8jxp1aPc0
>>172
GJです!地球乙すぎるw

普通に子持ち夫婦みたいな会話を交わしてるヒトナリさんとヒメネスに萌えた
バガブーも可愛すぎてダメージ床を素足で歩ける勢いだ
ここで姐さんの書く作品に出会えた事に感謝したい

187:風と木の名無しさん
10/03/02 23:25:40 vTAzAtk/0
>>181
おお、ついにお喋り以上が!!と思ったらw
そこがたまらない!喋ってるだけで萌える・・・
缶から見た板の描写が本当に魅力的です。

188:風と木の名無しさん
10/03/02 23:38:24 VfAjSgeB0
>>181
読む度に板缶がますます好きになっていくよ~!いつも本当にありがとう
匂い立つような色気に萌え転がり最後のメールやり取りで髪の毛無くなったさ
西田感激!のお世話になってきます

189:おやすみ(1/7)
10/03/03 11:52:34 +csziAT40
懲りずにブソレンよりヴィクバタ前提ヴィク&パピ。
月へ行く直前のころです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「俺も娘と同じホムンクルスにしてくれ」
 白い核鉄で黒い核鉄の力を相殺したのち、ヴィクターは錬金戦団の亜細亜支部大戦士長、坂口照星にそう申し入れた。
 月へ、地上のすべてのホムンクルスを移住させ、ホムンクルスから再び人間に戻る方法が見つかるまで、月の世界で暮らす、と。
 その申し入れを容れた戦団ではあったが、月への移住準備が整うまでの数週間、ヴィクターのホムンクルス化は控えられた。
 ホムンクルスになれば食人衝動を持つことになる。
 人を喰いたいと思わないのは、現在確認されているなかではただ一人しかいない。
 そして彼と同じように食人衝動を持たないホムンクルス化が、容易に可能であるとは思えない。
 ドクターアレクのクローン技術で、彼らの食糧は確保できるが、だからといってヴィクターがそれを口にする期間は短いほうがいい。
 これからの長い長い生に比べれば、その期間はほんの微々たるものだろうが、それでも気休め程度にはなるだろう。
 その判断をヴィクターも受け容れた。


190:おやすみ(2/7)
10/03/03 11:54:28 +csziAT40

「パパがよければ、ちょっとくらいなら旅行してもいいって」
 彼の娘ヴィクトリアがそう言ってきたのは、月への移住日程がおおよそ決まりつつあるときだった。
「どうせすることないでしょ? パパは今のところ普通の人間と同じだし、それに地球にはしばらく戻れないんだし」
 どこか投げやりな口調の娘を見つめ、ヴィクターは少し考え込んだ。
「もちろん監視はつくみたいだけど。パパ、このあいだは空からしか見てないんでしょ?」
 呼吸するように生命体から生命力を吸収すエネルギードレインが起こるかつての彼であれば、人の間に入り混じるというのは到底かなわない話だった。
 人ごみの中にでもあれば、彼の周囲にある人間はとたんにエネルギーを吸い取られ、疲弊する。
 もちろん人以外の、すべての生命にとっても同じこと。
 それが分かっていたヴィクターは、決して多くの生命の集合体に近づこうとはしなかった。
 世界を見て回っている間、ごく一部に被害は出たが、のちの検証で最低限の犠牲だったことが確認されている。
 錬金術に対しての怒りはすさまじかったが、だからといってすべての生命を滅ぼそうなどとは、決してしなかった父親の思案する顔を見上げながら、ヴィクトリアは口を開いた。
「パパだって、未練がないわけじゃないんでしょう?」
 同情するような色を目に浮かべたヴィクトリアを見下ろし、ヴィクターは少し迷ってから小さく頷いた。
「考えてみよう」



191:おやすみ(3/7)
10/03/03 11:54:52 +csziAT40

 数日後。
 ヴィクターは銀成市の駅前に立っていた。
 100年前とすっかり様変わりしてしまった街を見まわし、ヴィクターはひとつ息を吐き出した。
 空から見ても充分変化しているが、その中に降り立つと、100年どころか異世界に迷い込んだような心地になる。
 100年前、まだ人間だった蝶野爆爵に連れられてこの街に来た時、3階より高い建物は存在していなかったし、人々の服装もまるで違っていた。
 もうひとつ息をついて、ヴィクターはもらった地図に視線を落とした。
 飛行できなくなった今、与えられた期日では、日本国内か、周辺諸国くらいしか行けない。
 できることなら故郷を見たいが、現代の技術をもってしても1日で日本の瀬戸内海からイギリスの田舎へ往復することは難しいらしい。
 それなら、もうひとつの思い入れのある土地を見ておきたかった。
 すべてに絶望していた日々に、ほんのわずか、苦しみを和らげてくれた彼と住んだかの地を。
 蛍火色の髪と赤銅の肌をしたヴィクターは、たいそう目立ったために、外を出歩くことはほとんどなかった。
 それでもときおり、人の往来がなくなる深夜、彼とともに、銀成の街を散歩した。
 手を伸ばせば触れられそうな見事な満月に、どうしてイギリスとこれほど違うのだろうと思わず呟くと、少し離れて歩いていた彼は楽しげに笑ったものだった。
 今キミは月が美しいと言ったが、イギリス人は月など見ないだろうと返され、そうかもしれないと真剣に考え込むと、彼はその特徴的な口髭を震わせたものだった。
 彼の笑顔や笑声はいつでも、ヴィクターの心をほんのりと温めた。


192:おやすみ(4/7)
10/03/03 11:55:32 +csziAT40

「…ここか」
 顔を上げて地図と目の前の場所とを確認する。
 日本語は覚えたが、漢字はなかなかマスターできない。それでも覚えた数少ない中で、確実に覚えている文字が、門柱に書かれている。
 つい、と扉を押すと、案に相違して扉は簡単に開いた。意外さに一瞬呆気にとられてから、ヴィクターは慌てて開いていく扉に手をかけた。そして荒れた邸内に息を呑む。あれほど見事だった敷石は草に覆われ、はびこる雑草に美しい庭の面影はない。
 あまりの変わりように驚いていると、上空から声が降ってきた。
「何をしている」
 見上げると、細身の長身に、背に蝶の翅を生やした男が浮いていた。
 蝶々の仮面をつけたこの男に、ヴィクターは見覚えがあった。月から地上に戻ったとき、武藤カズキ、ヴィクターと同じような存在になってしまった男に、いきなり勝負をしかけた男だ。この男が、武藤カズキの白い核鉄を作ったとも聞いた。
 右腕を切り落とされていたはずだが、治療したのか、綺麗にくっついている。
 名前を聞いているはずだ、とヴィクターはわずかに眉を寄せた。
「キミは……パピヨン、だったか」
「ほう、名を知られていたとはな。光栄だ」
 シニカルな笑い方が、彼にどこか似ている。
「いかにも、オレは蝶人パピヨン。なにをしに来た、ヴィクター・パワード」
 ふわり、とヴィクターの前に降り立つその姿は、確かに蝶のように軽やかだ。
 その姿に、ことさら蝶を愛でていた彼を思い出す。
「ここは…チョウノの家ではないのか」
「ああ、そうだが? なんだ、ひいひいじいさんの遺品でも見に来たのか?」
「ひいひいじいさん…ではキミはバタフライの…」
「玄孫。やしゃごというやつだ」
「ヤシャゴ……」
「a great-great-grandchild。こう言えば分かるか?」
 直系の血族。
 だからこれほど似ているのか。


193:おやすみ(5/7)
10/03/03 11:56:08 +csziAT40

 ヴィクターを上から下までじろじろと観察していた男は、ふん、と鼻を鳴らした。
「ホムンクルスにはまだなっていないようだな」
「…」
 なぜ知っているのだろうとの考えが頭をよぎる。
 それを見て取ったのか、男はにやりとした。
「自身もホムンクルスになって、月で再人間化技術の確立を待つとは、ずいぶんとお人好しなことだ」
「…キミも、ホムンクルスだろう?」
「オレは蝶人パピヨンだ。言っておくが、月へなぞ行かん。あんな殺風景な世界のなにが楽しい」
 そんなことは許されない、と言いかけて、パピヨンに食人衝動がないことをヴィクターは思い出した。
 娘が、珍しい事例だと言っていたし、大戦士長もパピヨンは例外だと言っていたはずだ。
 荒れた邸内へ視線をくれてから、ヴィクターはパピヨンに背を向けた。
「ああそうだ。アンタに渡すものがあった」
 タイミングを見計らったかのように、パピヨンが声をかける。
「……なんだ」
 振り返らずに訊ねた。
「ついてくれば分かる」
 短くそれだけを告げて、パピヨンはさっさと屋敷へ上がり込む。
 どうしようかとしばし迷ってから、ヴィクターは踵を返した。
 パピヨンに敵意は感じられないし、万が一でも負けることはないだろう。
 そう思ってからふと、パピヨンが途中から英語で話していたことに気づいた。
 あまりに自然に切り替わっていたから気づかなかったが、パピヨンのそれは綺麗なクイーンズイングリッシュだった。
 かつて度々耳にした、彼の発音に、ひどく似ていた。
 ヴィクターは頭を振った。
 彼の血族だからか、パピヨンを見ていると彼を思い出してならなかった。


194:おやすみ(6/7)
10/03/03 11:57:58 +csziAT40
 屋敷内にずかずかと上がり込むパピヨンのあとを追うと、廊下の途中でガラス戸を開け放ち庭に降りた。
 どこまで行くのかと問いかけるが答えはない。マスクのために表情は分かりにくい上、今はヴィクターに背を向けている。黙ったまま、大股に歩くパピヨンは、庭を通り抜け、建ち並ぶ蔵の前に立った。破壊のあとが目立つそれらに、ヴィクターは眉を寄せる。
「気にするな。オレと武藤が戦ったあとだ」
 ちらりとヴィクターを見遣ったパピヨンが無感動に告げながら、ひとつだけ無事に残った蔵の扉を開け放った。真昼だというのに、覗き込んだ蔵の中は暗い。
 ふいにヴィクターは、彼が最初にヴィクターを匿った場所であることを思い出した。少なくともいくつかある蔵のひとつであるはずだった。
 ほのかな月明かりの下、着物姿の彼から、エネルギーを吸い取ったことを思い出す。触れれば彼を苦しめると、分かっていたからこそ、それでも近づこうとする彼を、あのときばかりは恐れた。
 たん、と足音も高くパピヨンが中に足を踏み入れる。
 とっさに手を伸ばし、ヴィクターはパピヨンの手首を掴んだ。
「…何だ?」
 見返すパピヨンの視線は冷たい。
 違う。似てはいても根本的に違う。彼は、ヴィクターにだけは、決してこのような目を向けたりはしなかった。常に尊敬と畏怖と、それ以上に言い知れぬ温かな感情を込めた目をしていた。彼だけは信じられるとヴィクターが思うほどに。
「…すまない」
 自身の行動にうろたえ、ヴィクターは慌てて手を離した。
 興味が失せたのか、ヴィクターの手から解放されるとすぐにパピヨンは蔵の奥へと足を向けた。いくつか置かれた箱や棚をがさごそと漁りはじめるパピヨンをしばらく見てから、ヴィクターは自身の手に視線を落とした。
 触れられた、そのことに驚きを感じていた。
「……蝶を触ると」
 独り言のように言葉が口をついて出る。
「蝶は弱るだろう」
 何事かと、パピヨンが視線だけを向ける。


195:おやすみ(7/7)
10/03/03 11:58:32 +csziAT40

 構わずヴィクターは語り続ける。
「あれと同じで、俺が彼に触れると、彼は弱った」
「だから、触れたことはない、か」
 面白くもなさそうに呟いて、同時にパピヨンは何かをヴィクターに投げつけた。
「!」
「ひいひいじいさんの日記だ。アンタがフラスコに入ってからのことが書かれてる」
 とっさに受け止めたそれは、分厚い本だった。何百もあるページそれぞれに、彼の流麗で几帳面な文字が記されている。
「英語で書いてあるところを見ると、ほかの人間に見られたくなかったんだな」
 散らかした書籍を片づけながらパピヨンが呟く。日記には、ヴィクターのフラスコの状態が詳細に記されている。その合間に、彼からの、ヴィクターへの思いが綴られていた。
『いつになれば、君を救えるのだろう』
『君は私を信頼してくれた。それに応えねば』
『この命尽きても…』
 気づけば、ぽたりと落ちるものがあった。慌てて手の甲で拭う。
 ふん、と呟いて、パピヨンが蔵を出ていく。
「それは好きにしろ。オレはもう行く。これでも忙しいんでね」
「待ってくれ!」
 スタスタと歩き去ろうとするパピヨンを呼び止める。
「…………ありがとう」
「……ふん」
 ヴィクターの感謝を、パピヨンは背で受け止める。
「用が済んだらさっさと出ていけ。ここは蝶野の敷地、つまりオレのものだ」
 それだけを言い捨てると、パピヨンは黒い翅を広げて飛び立った。
 それを見送って、ヴィクターはもう一度彼の日記に視線を戻した。
「…おやすみ、バタフライ」
 そっと呟き、日記を閉じた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでしたorz


196:風と木の名無しさん
10/03/03 18:19:48 wOHUVBFQ0
>>172
姐さんの書くTDNが好きすぎて生きるのが辛い
スイートになってしまえよヒメネス…!

197:風と木の名無しさん
10/03/03 21:39:04 7Q2Ydx2n0
>>181
姐さんいつも本当に有り難う!
今回も萌えたよ、萌えまくったよ。
缶のはーい、がもう聞こえるようですた。
次はぜひ本ば ゲホゴホww

198:風と木の名無しさん
10/03/03 22:00:16 pY/VQbKKO
>>195
GJでした!好きなのに近づけなかった爺様も、事実を知ったヴィクターも切ない…
玄孫も、爺様はかつての自分とそっくりで苦笑してそうです

199:初めての……【1/6】
10/03/03 23:35:23 zzLu2g+FO
デ/ジ/モ/ン/セ/イ/バ/ー/ズより
ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン×マ/サ/ル、最終回後
時/空/の/壁は安定してゲートを一定周期で開いているという設定です


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

200:初めての……【2/6】
10/03/03 23:37:20 zzLu2g+FO
 「ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン!」
 頭上からかけられた声に、反射的に顔を上げると同時に、
崖から飛び降りてくる小さな影が目に入る。
 「マ/サ/ル!」
 慌てて手を差し伸べると、その小さな影……大/門/大を受け止めた。
 「流石ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン、ナイスキャッチ!」
 差し出された掌に着地すると、やや緑がかった琥珀色の瞳で
無邪気に見上げてくる青年に、思わずため息が零れる。
 「…マ/サ/ル、いくら何でも無謀過ぎるぞ。もし私が受け止め
損ねたらどうするつもりだ? いくらお前でも無事では
済まないだろう?」
 ……いや、マ/サ/ルならこの位の崖から飛び降りても大丈夫
かも知れないが、見ている方としてはたまったものではない。
 只でさえマ/サ/ル(とア/グ/モ/ン)が旅に出ている時や
人間界へ戻っている間、病気や怪我をしていないか、トラブルに
巻き込まれていないか気が気でないのだ……この話を他の
ロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツにした所、
『ク/ロ/ンデ/ジ/ゾ/イ/ド並みに頑丈な奴だから心配ないだろう』
『…そもそも、ス/グ/ルやマ/サ/ルは本当に人間なのか?』
等と言われたが。
 「んー…あの位の高さなら大丈夫だと思ったし、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンなら
絶対に受け止めてくれると思ったからさあ……」
 そんなク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンの想いも知らず、マ/サ/ルは満面の
笑みを浮かべると。
 「ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンの姿を見たら、すぐに傍に行きたくなっちまったんだ」
 「マ/サ/ル……っ」
 だがすぐに心から申し訳なさそうに眉を下げる。
 「けど、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンに迷惑かけちまったな……悪りぃ」
 「い、いや……今度からはいきなり飛び降りるのは止めて
もらいたいだけだ」

201:初めての……【3/6】
10/03/03 23:39:58 zzLu2g+FO
 ……何故だろうか。
 マ/サ/ルがデ/ジ/タ/ル/ワ/ー/ル/ドに来て以来、彼の何気ない
会話や表情に一喜一憂してしまうのは。
 マ/サ/ルの笑顔を見る度に、身体の奥が暖かく、ぎゅっと
締め付けられるような感覚に囚われてしまうのは。
 ロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツの一員として誕生してから、一度として
体験した事の無い物ばかりだ……が、思えば、マ/サ/ルとの
最初の出会いからして強烈な体験だった。

 『何がロ/イ/ヤ/ル/ナ/イ/ツだ! 何が神だ! 世界が滅びようって時に、
てめえらの神様は一体何してやがる! 世界を救えもしねえ奴が
神を……神を名乗ってんじゃねええええっっ!!』
 
 シ/ャ/イ/ン/グ/レ/イ/モ/ンへと止めを刺そうとした魔槍ク/ラ/ウ・ソ/ラ/スを
素手で止めたばかりか押し返した。
 それだけでは無い。

 『見せてやる、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン! こいつが人間の…
可能性だああああっっ!!』

 ……更にその後の再戦にて、魔楯ア/ヴ/ァ/ロ/ンをも打ち砕いたのだ。

 それらは自らのアイデンティティーを粉々にされる出来事
だったが、同時に“大/門/大”という漢を己の心に深く
刻み込むきっかけになり。
 また、この不可思議な気持ちの始まりだった。
 という事は。
 (……マ/サ/ルのデ/ジ/ソ/ウ/ルの影響なのか?)

202:初めての……【4/6】
10/03/03 23:41:53 zzLu2g+FO
 以前、イ/グ/ド/ラ/シ/ルが言っていた事を思い出す。
 “デ/ジ/モ/ンは人の感情に強い影響を受ける”

 イ/グ/ド/ラ/シ/ルが挙げた例は、人間の負の感情に
引き込まれたデジモン達の事だったが、人の感情全てが
悪い物ばかりでは無いだろう。
 現に、自分が感じているこの感覚は不快では無い。

 寧ろ……。

 「……モ/ン、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ン!」
 「っ…!」
 いつの間にか考え事に没頭していたらしい。
 眉を寄せたままのマ/サ/ルと目が合う。
 「やっぱり疲れているんじゃねえか? 任務が無いなら、
今日はもう帰って休めよ」
 「だが、今日はお前と約束が……」
 その言葉に『生真面目過ぎるぞ』と言いながら、改めて
ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンを見上げる。
 「別に出掛けるのは明日でもかまわねえし……それによ、
俺はどこかに行きたいんじゃなくて、ク/レ/ニ/ア/ム/モ/ンと一緒に
いたいだけっつーか……っ、あー、何か変な事言っちまったな、
忘れてくれ」
 「…? ああ……」
 いきなり真っ赤になって己の発言を忘れるよう言っている
マ/サ/ルを不思議に思いながら。

203:初めての……【5/6】
10/03/03 23:43:31 zzLu2g+FO
 (明日ス/レ/イ/プ/モ/ンに相談してみるか……)
 人間界で過ごした時間が長く、またデ/ジ/ソ/ウ/ル研究にも
関わっていた盟友なら、この初めての感覚の正体を知っている
かも知れない。

 だが、今はそれよりも。
 掌の上で真っ赤になったまま押し黙ってしまったマ/サ/ルに
どう対応するべきか、その事だけに集中する事にしたのだった。

204:初めての……【6/6】
10/03/03 23:46:23 zzLu2g+FO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

205:風と木の名無しさん
10/03/04 00:04:19 7b/0AcKjO
>>174-181
今回も動悸が止まらない板缶をありがとう!姐さんの板缶本当に素敵。
まず「なぁ…いいだろ…」に禿た。声に惹かれるてのよくわかる。そしてあの低音ボイスで再生されてドキドキw
ノンケ板がどのように段々缶に惹かれいったかの過程が超読みたいです!寸止めに終わってしまった本番もいつか…

一つ気になるのは勃ったまま板は現場行くのかなwてっきり行く前に缶に口なり手なり抜いてもらうのかとw
いや、1人どっかのトイレで缶を想像して抜くのもおいしいw

規制がなかったら是非また次書いて下さい。


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