08/05/16 21:19:03 yuVsLE5yO
蕎麦湯は、疲れきった体を厨房の鍋の中で漂わせていた。
すでに幾人もの蕎麦たちを茹であげ、美しく透き通っていたその身は蕎麦達の白いもので濁っている。
(…後は捨てられるだけ…か。)
自嘲気味に笑う蕎麦湯の心の中に、ある男の姿が浮かんだ。
(馬鹿だな…こんなに汚れちまった俺なんかがアイツと一緒になれるわけないのに…。)
と、その時、蕎麦湯の耳に客と店員の会話が届いた。
「蕎麦湯ください」
「はいー」
…!?
耳を疑う蕎麦湯の体が、店員の手によって乱雑に器に移された。
わけも分からぬまま盆に乗せられテーブルへと運ばれる蕎麦湯。
「一体何が…?―…っ!!あ、あんたは!」
「蕎麦湯!蕎麦湯なのか?」
そこに居たのは、蕎麦湯の恋人、麺汁である。
そして、客の手によって蕎麦湯に優しく麺汁が注がれた。
「蕎麦湯…!もうお前を離さない」
「麺汁、やっと、やっと俺達ひとつに…!」
一つに溶け合った二人を、客の「ごちそうさま」が祝福していた。