08/11/19 23:29:08 BLu619e30
>>296
玄関のドアを開けると、下駄箱の上に手紙が置かれていた。
今日の日中に届いたものらしい。
手にとって見てみると、何やら古びた紙質で、字も決して上手なものではなかった。
「……姐葉さんから」
僕は思わず声を上げてしまった。
今、家族の誰とも顔を合わせたくはない、そう思った僕は、手紙を握り締めて逃げるように自室へと閉じこもった。
忘れていた訳ではない。
散々悩んだ末に書き上げた姐葉さんへの手紙を僕が投函したのは、先月のことだった。
あれから…ひと月近く。
改めて手の中の手紙を見ると、紙が古いのではなくて、よれて染みだらけになっていることが分かった。
少し不審に思いながら封を開く。
2枚の便箋に、びっしりと書かれた文章が目に飛び込んできた。
当たり障りのない時候の挨拶、返事が遅れたことへの謝罪、刑務所の中でのことなどが、
くどくどと書きつけてある。
あろうことか便箋の裏まで使って、しかも細かい字で書かれ、おまけに文章が回りくどい。
正直読むのに疲れてしまった。
溜め息をついて初めて、自分が今まで立ったままで手紙を読んでいたことに気付いた。
そこまで切羽詰まっていたのか。
苦笑しながら椅子に座り、再び手紙を読み始めると、今度は頭の中で姐葉さんの声が聞こえるような気がした。
くどくどとしたしゃべり方が、あの人らしい。
胸が締め付けられるような、何とも言えない気分で読み進めていくと、手紙の最後はこう結ばれていた。
待ってます。姐葉
ああ、そうか。この便箋の汚い染みの数々は、涙の跡だったのか。
そう思ったら、僕の視界が俄かに曇って来て文字が読めなくなった。
以上です。