08/10/08 00:12:20 nYjHM2zp0
>>251
事後の、なんとなく手持無沙汰な時間に、尾島の手が宙を揺らめいた。
弾む息を漸く整え終えた冨士田が見守る中、その手はゆっくりとサイドテーブルに伸び、
煙草を探し、手にとって、だが…結局何も掴まずに布団の上に戻っていく。
冨士田は訝しげに眉をひそめていた。
「…どうしたんですか」
「なんだ、見てやがったのかよ。お前いつも言うだろ、煙草吸うなって。だからよ」
「止めたんですか?煙草」
溜めていた息を吐き出しながら、尾島は身体を仰向けに反した。
「前ほど欲しくなくなったんだよ。俺も年かな。最近は、軽くふかす程度さ」
「…吸ってもいいですよ。たまになら」
「へっ。どうした風の吹き回しだよ。お前も丸くなったのか?」
数年前と比べて、ややふくよかになった冨士田の腹を叩き、尾島は片頬を引きつらせて笑った。
ところが…怒って蹴りでも入れてくると思った冨士田の反応が、ない。
今度は尾島の方が心配になって、冨士田の顔を覗き込んでいた。
穏やかな顔で、冨士田がそっと口を開く。
「俺…やりたいように生きようって思ったんです。前の会社立ち上げた時にも
そんな風に思ってたはずなのに、いつの間にか色んなしがらみとか、何とか…
変に他人のこと意識しちゃって、社会正義とか言っちゃったり…
そのことは後悔はしてませんし、当時のことを否定したくもありませんけど。
でも、今は自分に正直に生きようって。
だから、あなたにも俺の考えを押し付けたりはしないでおこうって」
キラギラしくもなく、浮かれた感じもなく。
かと言って暗くもなく、冨士田は落ち着いた、澄んだ目をしてそう言った。
「ふうん、お前も悟りやがったのか。変われば変わるもんだな」
「お前も?尾島さん、悟り開いたんですか」
けっ、何言ってやがる、鼻で笑って尾島はそっぽを向いた。
「そんなんじゃねぇ。お前も成長したんだなあってことだよ」
(俺の知らねぇ間に…)