08/09/03 01:03:27 YkpUDu7f0
「君のその、よく通る声は廷内では強い武器になるだろうね。ああ、そう言えばもう一人…」
教授が口を閉じ何かを思い出そうとする表情をした。
こういう時は黙って待っている方が良い、そのくらいの分別は麻雛も持ち合わせている。
「…ああ、丁度来たよ。あの子もよく通る声の子だよ。君達二人とも、ボーイソプラノだね」
廊下の向こうから、数人の修習生とともに歩いて来る小柄な男の方に教授は顎をしゃくって見せた。
それに合わせてそちらに目を向けると、その男は麻雛の方を眼光鋭く睨み返してきた。
「……っ!」
うろたえる麻雛を、教授はどこか楽しげに見やった。
「はは、気の強い子だろ?確か末井って名前だったか」
気の強い…と言うか、何か身体中から癇気を発散させまくっているような男だった。
一緒に歩いている修習生はそれに気づいていないんだろうか?
気後れした麻雛が教授の後ろに隠れてしまうと、末井は型通りの会釈をしてその前を通り過ぎて行った。
それが、二人の初めての出会い、だった。
次に麻雛が末井に会ったのは、それからしばらくしてのことだった。
日々修習や弁論のまねごとに明け暮れ、他の修習生や教授相手に突っかかり、またかわされては切り込まれる。
その中で、異彩を放って見えたのが末井だった。
切れ味の鋭い舌鋒でたたみ掛けるように教授相手に論陣を張る。
火の出るような、とはこのような論戦を言うのだろう。
その容赦のなさに、離れた所にいるはずの麻雛が身を竦ませてしまったこともある。
だが、弱い所を突っ込まれると、意外と脆く崩れてしまった。
攻め立てている時が見事なだけに、その鮮やかな崩れ方もどうしても目立ってしまう。
「…まだまだかな」
先の教授が、溜め息混じりに言った言葉が、何故か麻雛の耳に残った。