08/06/27 02:08:20 ONR06VvK0
その日の夜遅く、講演会とその後の飲み会を終えて事務所へと帰ってきてみると、
部屋の中には末井が倒れていた。
……流石の俺も二の句が継げなかった。
所々引きちぎられた様な服、打撲の痕や細かい傷の残る手足、
そして辺りにうっすらと残る血生臭さ。
駆け寄って末井を抱き抱えようとすると、こいつはそれを振り払って床上へと再び倒れ込んだ。
「お、俺の言ってることは、間違いじゃない!俺は、間違ってなんか…」
甲高い声で叫びながら、俺に噛み付かんばかりにして暴れ出す。
やっぱり…誰かに襲われたのか…それとも自分から喧嘩を吹っ掛けたのか。
末井は、子供が駄々をこねるように必死で手足を動かし、首を左右に振っている。
床の上で頭がゴン、ゴンと音を立てているが、そんなことにはお構いなしのようだ。
赤く腫れ上がった両目は涙か目ヤニのようなもので塞がれている。
「…おい、何も見えへんのか?俺が分かるか、末井?」
何とか末井の肩口を押さえ込んだ俺は、上下に揺さぶりをかけながら声を掛け続けた。
「末井、俺や、夜須田や!どうした、何があったんや?誰に一体、こんなこと」
漸く俺の声が耳に届いたのか、びくっと身体を震わせると、末井はその動きを止めた。
「夜須田さん」
痛々しく腫れ上がった両目の隙間から、すっと水のように涙が流れ落ちる。
「とにかく、その目ェ何とかせな。ちょっと拭いたるから待っとれ」
俺は末井をその場に残し、洗面所へタオルを濡らしに行った。
(全く、無茶しぃや、ホンマに…)
無意識にぶつぶつと呟いてしまい、それを自分の耳で聞いて更にげんなりしてしまう。
戻ってみると、末井は俺に背を向けて身体を小さく丸め、少しばかり肩を揺らしていた。
泣いているのか。
俺が黙ってタオルを目に当てると、末井も無言でそのタオルを握り締めた。
他のタオルで手足の傷を拭い始めると、こいつはぼそっと吐き捨てるように言った。
「もう…どうでもいいんですよ」
「…何?」