07/06/14 11:32:49.49 aVHO0qQ20
ジムから出ると、途端に俺とミュウツーの傍に人の波が押し寄せてきた。
次は僕と闘ってくれないか? サインしてください等、そこかしこから湧き出る言葉に俺はただただ目
を丸くするしかない。ここ数ヶ月、ミュウツーをゲットしてからというもの、俺の喜び以上に周囲が色め
きたっていた。
確かにポケモン図鑑に登録だけはされているものの、その存在は殆どと言っていいほど未知のものだっ
た。最強、幻、最終進化形態。彼女を形容する言葉ならいくらでも出てくる。それをバッチもろくに集め
終わっていない中途半端なトレーナーがゲットしたというのだから、ある程度の報道規制はなされている
ものの毎日がお祭のように騒がしい。寄ってくる人は大抵がその伝説のポケモン見たさに寄ってくる人た
ちばかりだ。バトルして欲しい、データだけでも良いから欲しい、中には手持ちのポケモン全てを譲るか
ら交換してくれなどという人も珍しくない。
とにかく、そこらのアイドルよりも有名になってしまった俺は人波に揉まれて辟易するだけなのだけれ
ど、渦中の彼女はともかく冷静だった。
「消えろ。目障りだ」
よく澄んだ声が周囲を圧倒する。比較的、ポケモンは知能が高く人語を解するものは多いのだけれど、
このように人語を操るポケモンはミュウツー一匹だけだ。それだけに彼女から発せられる一言は何よりも
重く感じられる。
「去れ。主の邪魔だ」
次の瞬間にはモーセの十戒のごとく、一本の道が出来ている。俺はまたも先に行く彼女を追おうと、な
ぜだか周囲にペコペコと頭を下げながら通った。
なぜ頭を下げるのだ、主よ。もっと胸を張り堂々とするべきだ。
孤高とも言うべき背中がそう語りかけてきている気がした。