14/10/12 01:05:12.11 UiH/15tv
日垣:『知的生活の方法』の77ページに《買えるときに買わなければ本当に欲し
い時に手に入らなくなってしまう》という記述があります。極端なのは「その
本を買わなければおいしいビフテキを食えるだろうしガールフレンドと映画を
見たり食事をしたりコーヒー飲んだりできるだろうけど、そういうことをせず
本を買え」と書いてあって、それはそれで大切なのではないのかなと思いまし
た(笑)。
渡部さんは大学時代、図書館の奥に寝場所を確保して、住み込みで管理する
アルバイトをしていた苦学生でした。自分の学生時代と大学院生時代に学費を
稼いでなおかつ部屋代をタダにしていたんですね。彼は本のある場所で生活し
たいわけですから図書館の中に住むのはちょっとした発明です。
図書館には高価な本もありますから、図書館や大学からの信頼がないと任さ
れません。そのバイト中に、馬鹿でやんちゃな大学生が一番高価な本を持って
行ってしまって大変な目に遭ったと渡部さんは書いています。その学生の名前
は伏せていましたが、小説家になったと書いてありました。故井上ひさしさん
は上智大学に行っていたときについて「大学院生で本当に嫌な奴がいた。図書
館に住んでいた管理人が閉館時間は9時なのに5分前に閉めるので、ギリギリに
本を借りに行くと借りることができない。こいつを懲らしめてやろうと思って、
一番高価な本を外に持ちだした。そいつは今高名な評論家になっている」と、
書いていました。私はお二人に質問する機会があったのでそのことについて聞
いてみると、井上ひさしさんは気さくにそのことについて話してくれましたが、
渡部昇一さんに「あの本を持ち出した学生は井上ひさしさんですよね」と聞い
たら、「知らん」と答えられたので、相当頭に来ていたんだろうなと思いまし
た。
渡部昇一さんは生涯で買った本を捨てたのは一冊だけで、小学4年生の時に
捨ててしまったのが人生最大の禍根だとおっしゃっていました。それ以外は全
部取ってある。それで蔵書が17万冊になってしまったのですけれども、まだス
ペースがたくさんあります。一冊2,000~3,000万円の本も持っている。ダーウ
ィンの初版本を見せていただいたときに、「ここに線引いていいですか」と冗
談で言ったら本気で驚いていました。情報のための本というより本の美しさ、
物として愛しているのだなと思います。
大学の講師になって初めて使ったテキストの初版本がどうしても欲しくて、
上智大学の退職金に2,000万円を上乗せした額まで用意したそうです。ちょっ
と絶句してしまいました。ダーウィンの『種の起源』初版本は世界に17冊しか
なく、その本の状態によって値段が決まっています。持ち主が誰かわかってい
て、亡くなったらオークションに出るのですが、お金を何千万も用意して待っ
ていたと知られたらカモになってしまう。そこで、ユダヤ系の古書店の人に頼
んでそれほど欲しくないという態度で接したら、1,700万円で買えたととても
嬉しそうに話していました。…1,700万円も高いですけれど(笑)。たくさん
本を書くようになったのも本を買うためだったようですし、やはり原本や初版
本で読みたかったという願望があったのでした。
初版本と言ってもただの初版本ではないんですよね。例えば、チャーチル大
統領の自伝でその版を改めていくときに、本人が第二版、三版とそれぞれに手
を入れている場合があります。それは、イギリスの歴史研究者や英文学研究者
にしてらものすごく貴重なもので、図書館にあっても貸し出してもらえないで
しょう。研究者としてそこに好奇心が高じて手に入れたくなる。そこは、共感
できるところです。