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朝日新聞 天声人語 2006年10月18日
ここはどこだろう。まっくらだ。ワタシがだれなのかもわからない。
まわりには、ワタシのようなものはいないようだ。これから、
どうなるのだろうか。てがかりは、とおいかすかなきおくにしかない。
いつかどこかで、ふたつのものがあわさってワタシというものが
はじまったようなのだ。まだみてはいないが、このそとには、せかいと
いうひろいところがあるらしい。そこには、オトコといういきものと
オンナといういきものがいて、それがであってあたらしいいのちができる、
ときいたきおくがある。ワタシは、ひにひにおおきくなってきた。
せまいこのばしょではきゅうくつだ。そろそろ、せかいのほうにうつるころ
なのだろうか。「カッパ」といういきもののせかいでは、そとへのでぐちで、
きかれるそうだ。アクタガワリュウノスケさんによると、チチオヤが、
ハハオヤのおなかにむかっていう。「おまえは、このせかいへうまれて
くるかどうか、よくかんがえたうえでへんじをしろ」。「いやだ」と
いえば、でなくてもいいらしい。あれあれっ、そとへおしだされそうだ。
すごいあつりょくだ。だれも、でたいかどうかきいてくれない。
きかれても、なんといえばいいのかわからないが、きかれないのも
ちょっとさびしい。ついに、そとへでた。ひかりがまぶしい。
あたらしいせかいのはじまりだ。からだに、ちからがわいてくるよう
なきがした。ワタシをあのくらいところではぐくんでくれたオンナの
ひとが、ワタシのハハオヤのハハオヤだとは、まだしらなかった。