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【書評】『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』鈴木涼美/青土社/ 1995円
【評者】井上章一(国際日本文化研究センター教授)】
どうして自分はAV女優になったのか。そんな自分語りを、女優たちはしばしばくりひろげる。雑誌のインタビュー
のみならず、AVの画面でも。
それぞれ、なかなか聞きごたえもある。おもしろい語りになっている。だが、その表面的なあざやかさやわかり
やすさをうのみにしては、いけない。彼女たちは、日常的に自分語りを要請されている。
仕事をもらうためには、業界内でのさまざまな面接をへなければならない。彼女らの語りは、たびかさなる面接
をへて、みがきあげられていく。「お兄ちゃん」に犯された過去などは、いともたやすくつくられてしまうのだ。
こうした語りは、また彼女たち自身を納得させる効用も、もっている。ほんとうのところは、どうしてこの道に
はいったのかがわからない。少女が自分の性を軽やかに商品化する。都会ではよく見かけるそんな場から、
一歩ふみこんだだけだったのかもしれない。しかし、自分語りをつづけていくうちに、彼女らはもっともらしい
説明へたどりつく。視聴者の欲望する女優像のみならず、今の自分が合理化できる語りを見つけだす。
女優のインタビュー集などは、気をつけて読まねばならないなと思う。性の商品化を問いただす既存の社会学
にも、とんちんかんなところがあったなと、感じいる。彼女は自由意志でその道をえらんだのか、それとも強制
されたのか。そればかりを問題にしていても、AVという世界は読みとけない。強制されているものがあるとすれ
ば、それは自分語りのほうなのである。語りこそが売春の対象とされている状況に、今までの社会学は無力で
あったというしかない。
それにしても、どうして日本のAV画像は、しばしば女優の語りをはさみこむのだろう。彼女たちの身辺雑事に
まつわるトークが、なぜ商品たりうるのか。私はそこに、日本近代文学の、私小説的な伝統を感じなくもない。
諸外国のAVは、こういう女優の語りをどうあつかってきたのか。誰か対比的にしらべてくれないかな。
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