13/04/04 15:47:09.55 0
・木の芽時である。この時期になると、調子を崩して精神科を受診なさる方が増える。
一昔前であれば、「KGBから指令がくる」と訴える患者さんがいたものだが、ソ連の崩壊後は見かけなくなった。
幻覚や妄想も時代の流れとともに移り変わるようだ。
最近は、「指令」を伝えるのは電波だと思い込んでいる患者さんが多いが、電波という概念自体がなかった頃は、
幻聴を一体どんなふうに受け止めていたのだろうか。誰かが「指令がくる」とか「悪口を言われている」と言い出したら
周囲の人は驚き、「狐憑き」や「祟り」などと解釈して、お祓いやお祈りをしていたのかもしれない。
幻聴というのはかなり生々しい体験らしく、他の人には聞こえていなくても、患者さん本人は実際に聞こえていると
感じるようである。そのためか、ある患者さんに、「こんなにはっきり聞こえているのに、『幻聴』のはずがありません。
本当に聞こえているんです」と真顔で言われたことがある。
別の患者さんは、「一人暮らしなので、部屋には自分以外に誰もいないはずなのに、声が聞こえてくる。録音して
きたから聞いてくれ」とカセットテープを持参なさった。「再生する機械がないから」と丁重にお断りしたら、「持ってきた」と
テープレコーダーを取り出されて、面食らったものである。
声が聞こえるのは、頭の中にスピーカーかなにかが埋め込まれているせいだと信じていた患者さんは、脳外科を受診して
「手術で取り除いてほしい」と頼んだらしい。
脳のMRI検査の結果、そんなものは見つからなかったのだが、ご本人がなかなか納得なさらず、精神科を受診するまでに
紆余曲折あったようだ。
こういう患者さんを数多く診察してきたので、人間の知覚なんて実にあやふやなものだと思ってしまう。同じ音を耳にして
同じ光景を目にしていても、自分が他人と同じように感じ取っているとはかぎらない。
そういえば最近、インターネットで自分の名前を検索してみたら、関連するキーワードとして、「トンデモ」とか「おかしい」
という悪口が出てきた。一瞬目を疑い、幻視かと思ったのだが、その後もなかなか消えないので思い悩んでいるところである。(一部略)
URLリンク(sankei.jp.msn.com)