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▼大阪朝日新聞 1929.6.20「南洋フィリッピン」【野田豊特派員】
椰子の木は繁る。マンゴー、パパイヤ、マングステン、ドリアンは熟す。サロンを腰に巻きバジュクローンにゆったりと
くるまって椰子の葉陰に昼寝をしていた南洋土人の夢の枕を蹴飛ばしてポルトガル人が大砲と銃剣をつきつけたは十五世
紀終りのことである。それからスペイン人が来た。オランダ人が商品を持って来た。イギリス人も来た。フランス人も
やって来た。一六〇〇年にはイギリスの東印度会社が設立され、オランダ人も直ぐオランダ東印度会社をたてた。そして
イギリス人が銀行を設け、スペイン人やポルトガル人が教会を作り、オランダ人が道路を造り上げたころには、彼等の酋
長サルタン達は奥地に追い込まれていた。
かくしてマレイ半島、北ボルネオは英国に、スマトラ、ジャバ、ボルネオ、セレペス、ニューギニアはオランダに、フィ
リッピンはスペイン(今は米領)に、印度支那はフランスに分割された。そして土人は昼寝の夢から叩き起されて賃銀奴隷
に追い使われ、帝国主義の鞭で尻を叩かれている。これが南洋の現在である。
昔の記者は文才があるなぁ。冒頭が特に良い。