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>>1の続き
彼が「日本人としての危機感」を持つようになったのは、民主党政権が発足した2009年からだという。
それまでは特に政治への関心も興味もなかった。そんな彼を憂国の道に誘ったのはネットの世界である。
ネットには民主党政権発足を危惧する言葉があふれていた。各種掲示板で、ブログで、右派系サイトで、日本の危機が叫ばれていた。
売国奴が政権を握った。外国人参政権が成立するのも時間の問題だ。「在日」が日本に反旗を翻す。売国奴と連携した中国が日本を攻めてくる。日本が日本でなくなる。
怖くなった、真実を知った、と彼は言う。本当の敵を発見した、とも言う。
外国人が日本を蹂躙し、隅に追いやられる日本人、つまり自分の姿を想像した。それまで想像すらしたことのなかった暗黒の世界が広がった。
そして彼の孤独な“戦い”が始まった。深夜、アルバイト先から帰宅すると愛用するノートパソコンと向き合った。ネット掲示板や右派系のブログ、SNSを巡回する。
彼の「お気に入り」は日を追うごとに増えていった。
韓国、北朝鮮、中国といった「特定アジア」(ネット右翼が好んで使う用語のひとつ)、在日だけでなく、
マスコミ、労働組合、左派系市民運動といった「新たな敵」も発見した。これらはすべて、日本を貶める売国奴である。
有事の際には敵国勢力に呼応して破壊工作に乗じる敵の第5列だ。彼はそう信じた。
それらを討つためにネットに書き込み、危機を訴え、そして日本に必要だと思われる動画を拡散させた。それが彼にとっての「戦争」だった。
―それでスッキリした気持ちになるの?
私は彼に尋ねた。
「するわけないじゃないですか」
彼は即答した。
「ネットでは盛り上がるけれど、現実社会を見れば、いまだ政権を倒すことすらできていない。まだまだ負けているんですよ、僕らは」
そう訴えたときのやりきれない顔つきは、私がこれまで取材してきた多くのネット右翼の言葉や表情に重なった。生真面目さと憎悪、焦燥。
彼ら彼女らは危うい情熱に包まれていた。
続く