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井上ひさし 『巷談辞典』(文春文庫、1984年)
「動物を可愛がっておいでの皆さんからは叱られるかもしれないが、子どもの時分からずいぶん犬や猫を苛めてきた。
(略)
たとえば小学五年のとき、近所の猫を煮干し用雑魚(じゃこ)でおびきよせ、とっ捕えてやつの鼻の穴にわさびの塊を
押し込んだことがある。
(略)
友だちと猫の着地術を研究したことがある。やはり近所の猫を雑魚でおびきよせて捕え、火の見櫓の天辺から落したのだ。
猫はにゃんともいわずに即死した。(略)火の見櫓の高さは三十米はたっぷりあった。妖怪変化と仙人と鳥類以外は、
これはだれでも即死する高さである。
高校時代、日向ぼっこをしていた猫にガソリンをかけ、マッチで火をつけたことがある。猫はあっという間に火の玉と燃えあがり、
ひかり号なみの速度で西に向って走り出し、これまた行方不明となった。