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東京電力福島第一原発事故の後、文部科学省が、放射性物質の濃度の実測値を基に原発からの放出量を推定する
「逆算」に取りかかりながら、担当が原子力安全委員会に移ったとして作業をやめていたことが、同省の内部文書
から分かった。安全委が同じ方法による拡散予測を公開したのは、同省が中止した一週間後。同省が続けていれば
より早く予測が公開され、住民の被ばくを減らせた可能性がある。
昨年三月十九日の同省の「放射線班メモ」によると、同省は同月十六日までに千葉県内で検出した大気中の放射性
ヨウ素などの濃度を基に放出量を逆算するよう、日本原子力研究開発機構(原子力機構)に依頼した。
原子力機構は、広範囲の予測ができる「世界版SPEEDI(WSPEEDI=ワールド・スピーディ)」を使って
試算を開始。ところが、同省は十六日に官邸で開かれた放射線のモニタリングに関する省庁間の協議の結果、予測
データの評価が安全委の担当に移ったとして、機構への依頼を取り下げた。
メモでは、同省は逆算の結果を安全委に「参考で送付するよう指示した」とある。だが安全委によると結果は届いて
おらず、文科省から逆算作業の引き継ぎなどもなかった。
その後、安全委は独自に、同じ逆算式による放射性物質飛散の予測に着手。原発周辺の拡散を予測する緊急時迅速放射
能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を使って被ばく状況の予測図を作成し、三月二十三日に初公開した。
福島第一原発周辺では当時、原発から二十キロ圏の警戒区域の避難はほぼ完了していたが放射線量の高い地域は北西方向
へと、より広範囲に広がっていた。拡散する方向に避難した人もおり、文科省が早期に試算をして結果を公表していれば
無用の被ばくが避けられた可能性がある。
同省の担当者は「官邸での協議で役割分担が決まり、『逆算』は(安全委が担う)データ評価に入ると考えた」と説明。
「当時の観測データは原発近くのものではなく、その後の安全委での逆算作業でもなかなかデータが得られなかったと
聞く。仮に文科省で続けていても、予測図の完成時期はあまり変わらなかったのでは」としている。
▽東京新聞(2012年3月10日 07時07分)
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