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今井正剛『南京城内の大量殺人』
「先生、大変です、来て下さい」
血相を変えたアマにたたき起こされた。話をきいてみるとこうだった。
すぐ近くの空地で、日本兵が中国人をたくさん集めて殺しているというのだ。
その中に近所の洋服屋の楊のオヤジとセガレがいる。
まごまごしていると二人とも殺されてしまう。二人とも兵隊じゃないのだから早く行って助けてやってくれというのだ。
アマの後ろには、楊の女房がアバタの顔を涙だらけにしてオロオロしている。
中村正吾特派員と私はあわてふためいて飛び出した。
支局の近くの夕陽の丘だった。空地を埋めてくろぐろと、四、五百人もの中国人の男たちがしゃがんでいる。
空地の一方はくずれ残った黒煉瓦の塀だ。その塀に向って六人ずつの中国人が立つ。
二、三十歩離れた後ろから、日本兵が小銃の一斉射撃、バッタリと倒れるのを飛びかかっては、背中から銃剣でグサリと止めの一射しである。
ウーンと断末魔のうめき声が夕陽の丘いっばいにひぴき渡る。次、また六人である。
つぎつぎに射殺され、背中を田楽ざしにされてゆくのを、空地にしゃがみこんだ四、
五百人の群れが、うつろな眼付でながめている。この放心、この虚無。いったいこれは何か。
そのまわりをいっばいにとりかこんで、女や子供たちが茫然とながめているのだ。
その顔を一つ一つのぞき込めば、親や、夫や、兄弟や子供たちが、目の前で殺されてゆく恐怖と憎悪とに満ち満ちていたにちがいない。
悲鳴や号泣もあげていただろう。しかし、私の耳には何もきこえなかった。
パパーンという銃声と、ぎゃあっ、という叫び声が耳いっばいにひろがり、
カアッと斜めにさした夕陽の縞が煉瓦塀を真紅に染めているのが見えるだけだった。
(『目撃者が語る日中戦争』P53~P55)