11/12/19 14:18:50.20 phpcvgWh0
「三笠・長門見学」
船は横須賀の波止場へ着いた。ポーッと汽笛が鳴る。私達は桟橋を渡つた。薄曇りで、また酷い暑さの今日は、海迄だるさうだ。
併し、僕達は元気よく船から飛び出す。三笠の門の前に集合し、そして芝生の間の路に歩を運ぶ。艦前に来て
再び集まり、三笠保存会の方から、艦の歴史やエピソォドを伺つた。
お話が終ると私は始めて三笠を全望した。
見よ! 此の勲高き旗艦を。そしてマストにはZ信号がかゝげられてゐる。
時に、雲間を割つて出でた素晴らしき陽は、この海の館を愈々荘厳ならしめた。艦頭の国旗は、うすらな風に
ひるがへり、今にも三笠は、大波をけつて走り出さうだ。一昔前はどんな設備で戦つてゐたのか、早く見たくなつた。
やがて案内の人にともなはれて急な階段を上り、艦上に入る。よく磨かれた大砲が海に向つて突き出てゐる。
こゝで日本の大きな威力が世界に見せられたわけだ。伏見宮様の御負傷の御事どもをお聴きして、えりを正した。
其処此処に戦士者の写真が飾られてあるのも哀れだ。
(続く)
平岡公威(三島由紀夫)中等科一年、12歳の作文