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焼け野原に裸足の少年が立っている。おんぶひもで背負った赤ん坊は、すでに息がない。
幼い兄は、川のほとりで小さい弟を焼いてもらうため、じっと順番を待っているところだ。
きつく結んだ口もと、正面を見据える目、ぴんと伸びた指先。
原爆投下後の長崎で、米軍カメラマンのオダネル軍曹が撮った有名な写真は、
人種も言葉も超えて万人の胸を打つだろう。
と思ったら、それは甘かった。スイス・ジュネーブの国連欧州本部に11日新設された
原爆常設展示。準備段階で長崎市がこの写真を提案したところ、国連職員たちの委員会審査であっけなく却下された。
「直立不動の姿勢が軍隊みたいだ」「この子は悲しいのに泣いていないじゃないか」。そんな物言いがついたらしい。
そもそも長崎市は「まず被爆の悲惨さを知ってほしい」(田上富久市長)と考え、
背中一面焼けただれた写真など十数点を用意したが、国連側から「子供の見学者も
来るので、ショッキングな内容は困る」と退けられた。焼き場の少年の写真は窮余の一策だったが、それもダメだという。
やり取りを交わすうち、国連内の議論の実情が漏れ伝わった。
「悲惨な目に遭ったのは原爆だけじゃない」「ホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)の
常設展も申請がある」「南京虐殺はどうなる」……。
結局、全体は国連の軍縮・核不拡散の歩みを紹介する展示となり、
原爆の記述は11枚のパネルのうち2枚にとどまった。使われた写真は、
広島・長崎の焼け跡と、衝撃度の少ない被爆者の後ろ姿の3枚である。
他の惨事と比べられない被爆の特殊性。表に出さないほどに深い悲痛。
どちらも日本の常識が、国連では通じない。それを分からせるのが外交だが、
事のてんまつに、なぜか外務省は登場しない。(ジュネーブ支局)
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