12/03/31 08:51:18.95
>>261
つづき
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ブルバキと「数学原論」 斎藤毅
(抜粋).
(つづき)
ではなぜ彼らはこういう文体, 構成をとったのでしょうか. それは, 彼らが目標とし
た, 正確さ, 厳密さを確保するための方法によるものなのです. それがどういうもので
あるかは, 各分冊の最初のページにある, 「この本の使い方」に書かれています. いく
つか抜粋します.
「この原論は数学をその第一歩から取扱い, 完全な証明をつける」
「叙述の仕方は公理的, 抽象的であり, 原則として, 一般から特殊へと進む」
「内容は原則として厳密に定められた論理的順序に従って配列される」
「すでに広い知識を持合わせている読者にしかその効用がわからないような事柄も
含まれている」
完全な証明をつけるのですから, 図などを使って読者の直観に訴えるのは反則なのです.
定義の動機づけや, 定理や命題のもつ意味の説明がないのも, それを厳密に述べようと
すれば, 結局は理論を展開するほかないからでしょうか. とはいっても, こんなふうに
突き放されてしまうと, 初心者にはつらいものがありますね.
彼らが「数学原論」の記述に採用したのは, 公理的方法とよばれるものです. 例え
ば, 数直線, リー群, 代数多様体, 関数空間, p 進体など, さまざまな数学的対象がある共
通の位相的性質をもつことを証明したいとしましょう. そのときこの方法では, 1 つ1
つの対象に対して同じような証明をくりかえすなどということはしません. そうでは
なく, まずこれらの対象が共通にもつ性質を抽出し, それを少数の命題からなる位相空
間の公理としてまとめます. そして, この公理から問題となっている性質を導きだすこ
とによって, いっぺんに証明をすましてしまうのです. 公理的方法は抽象的なものです
が, 数学のさまざまな分野を結びつける力をもった強力なものです. 「数学原論」では,
この方法が極端なまでに組織的に, そして厳格に貫かれています.
(つづく)