【ジャンプ銀魂】規制された人用バレスレ5at ENTRANCE2
【ジャンプ銀魂】規制された人用バレスレ5 - 暇つぶし2ch67:Classical名無しさん
12/05/11 15:38:16.79 R5VXo7dH
「お前だけ逃げるっつー手もあるぜ。てめーのすぐ後ろが出口だ。俺もこいつを抱えていちゃ止められねぇからな」
 歯がみする。そんなまねが、できるものか。おいて逃げることなど絶対にできない。もう二度と。
 どうすれば切り抜けられるかを必死に模索する銀時の前で姫君はうなるように声を上げた。
「いけ……銀、時」
 かぶりをふった彼に、桂は不吉な笑顔で言葉を続ける。
「どうせ、俺、は……助からん」
 その言葉に高杉と銀時が驚愕に目を見開き、同時に桂が右裾から何かを自分たちの足下に放った。
「てめぇ!?」
「よせ、桂ァァァ!!」
 二人の叫び声は次の瞬間、爆発の轟音の中にかき消されていた。

68:Classical名無しさん
12/05/11 15:48:17.89 RdtGDUvw
気づけば銀時は叩きつけられた扉ごと庭まで吹き飛ばされていた。
 爆発は、先ほどの目くらましの比ではなかった。距離のあった彼でさえこの衝撃。痛みに顔をしかめながら目を開けていくと、煙の向こうに館のシルエットが映った。
 崩れてはいない。おそらく大広間の中で爆発しただけだろう。あのシャンデリアは粉々になっただろうか。破片がいくつか自分の近くに落ちているらしかった。火災の明かりでガラスが反射している。
 ふざけんじゃねーぞ、桂。
 お前をこんなところで死なせてたまるか。
 銀時は立ち上がった。杖代わりにしたくとも、持っていた刀はどこかに消えていた。
 かまわず、爆発炎上した館の前で足を引きずりながら銀時は前に進む。爆風で吹き飛ばされたダメージも濃い。だが身体はまだ動く。手も足も。自分の意思一つでどうにでもなる。
 煙が立ち上っているが、それでも炎があちこちで上がっているために視界は悪くない。だがその火災と煙のせいで進みにくいことこの上なかった。むせるような熱気と煙に咳き込みそうになる。
「くそ……」
 館は今にも崩れそうな雰囲気だった。うまく中に入れても二人揃ってお陀仏させられそうだった。
 だからといって引き返せるわけが……
 銀時は、目を見開いた。
 炎の向こうに、人影を見た。
 見間違いかと思い、瞼をこする。頭から垂れてきた血が邪魔だった。
 それは間違いなく人影で、こちらに歩いてくる。敵か味方かも判別できなかったが、銀時はそれにあわせて前に出ようとした。
 だが。
「……!」
 言葉を飲み込んで足を止めた彼の前まで、人影はやってきた。
 僅か数歩の位置で足を止め、その男は担いでいたものを銀時の方に放った。
「うお……っ」
 慌てて放られた人間を抱きとめる。それは貸しておいた着物がひどく汚れて、前に見た時よりもさらに怪我を負っている桂だったが、気を失っているだけで息はある。
 その様子を全く確認せず、桂を救い出した男は門の方へ歩き出した。
 銀時のすぐ横を、やや重い足取りですれ違う。
「おい……」
 が、男は足を止めない。構わずにまっすぐ進む。その歩調は遅く、どこか頼りない。
 銀時は叫んだ。
「待て、高杉!」

69:Classical名無しさん
12/05/11 15:49:05.24 HgZDDc+S
背を向けたままの高杉が、ようやく足を止める。そしてどこから取り出したのか、あの状況で破損もしていないらしいキセルをふかした。
 そして振り向いた。ほこりまみれで傷だらけの、そしてつまらなそうな表情で、呟くように言う。
「うるせぇなぁ……」
「なんでこいつを助けた」
 単刀直入に問うが、彼は鼻で笑った。
「……さぁな」
 塀の外側から何か叫ぶような声が聞こえてきた。野次馬たちが騒ぎを聞きつけたのだろうか。すぐにでも逃げ出さないと、警察がやってきてしまう。その前に捜索に出ていた鬼兵隊が駆け付けるだろう。
 だが、まだ動けなかった。
 この男と対峙している間は、動けない。
 だが、ぶった切ってやりたくとも、刀がない上に桂を抱えている。
 高杉はキセルを指で軽く揺らしながら口を開いた。
「気まぐれだ」
「……気まぐれだぁ?」
「こんなところでこんな最期じゃつまらねぇだろ、お互いよォ……」
 いろいろな含みを込めた物言いで高杉は嗤った。相変わらずひどく癪に障る表情で、こいつは笑う。
「それにてめぇらは春雨に狙われてる。もう、長くねーよ」
「知るか。そう簡単にやられやしねぇよ」
「だといいがな……」
 憐れみなど感じさせない表情と声音だった。むしろ何かを愉しんでいるようにも見える。
 何か、というのはこの状況すべてかもしれない。
 唐突に、男は口を開いた。
「せいぜい今のうちに思い出作りでもしておけよ」
「なんだ、そりゃ」
 何言ってやがるこいつ……いや、言葉通りの意味か。どうせこいつは察してやがるわけだし。

70:Classical名無しさん
12/05/11 15:51:17.10 KWpJ+NaQ
やけくそ気味に、銀時は口元をゆがめた。
「てめぇがわざわざそんなことを言うためにヅラぁ助けるなんざ思いもしなかったぜ」
「安心しろ」
 一気にその声音が冷えた。
 一刀両断に切り込むような鋭さを持って、その男は銀時をにらんでいる。
「次に会った時は、俺も気まぐれは起こさねぇ」
 睨みながら嗤っている。
「全力でてめーらを切りにいく」
「……そうかい」
 もはや彼の眼差しには純粋な敵意しか存在していなかった。口もとの歪みは、狂気に染まっていた。
 そのまま無言でにらみ合い、やがて高杉は銀時に再び背を向けた。
「……」
 銀時の目の前で彼の紫色の衣装に、血が黒く染み広がっていった。ずたぼろの衣装の上、色が色だけにひどい怪我を背に負っているのだとその時まで気づかなかった。
 あの怪我でこいつをここまで担いできたってのか?
 だが負傷などみじんも感じさせない声がとどく。
「じゃあな、銀時」
 隻眼の男は、最後にその一言だけを残して消えた。

71:Classical名無しさん
12/05/11 16:05:55.23 8vty/pEZ
なぁ、ヅラぁ。

 からかうような声が聞こえた。
 ヅラじゃない、といつものように答えると、そいつは笑った。
 どこかひねくれていて、だが真っ直ぐな眼をして、楽しそうに笑っていた。
 
 意識の混濁から現実に帰れば、同じ男の、さげすむよう憐れむような視線が待っていた。
 やがて、体中が痛みを訴えてくるのがわかった。彼はわずかに身じろぎしたが、戒めが緩むこともない。吊り下げられた腕の感覚が鈍く、しびれているようだった。
 あの変態男の言っていた薬とやらの効果が切れたのだろう。ややはっきりしてきた意識の中で、自分の向かいの壁に背を預けた男が何か言っているのがわかる。
 気づけば、自分とその男しか、この場にはいなくなっていた。
 そういえばこの男は、さきほど何か他の奴らに言っていたような。
「てめぇら、俺が呼ぶまで部屋ぁ出てろ」
 ああ、だからここにいるのは二人だけなのだ。
 何のためだ。
 お前も奴らと同じように、下種な真似でもするのか?
 やぶにらみの視線だけで彼が問うと、高杉は一瞬目を細め、鼻で笑った。
「ズレてやがんな、相変わらず」
 こちらが何を言わずとも、察しがいいのも、相変わらずだった。
 ちょうどいい、こちらは喉がひどく傷んで声が出せないのだから。
「いい月が昇ってるぜ。宴にゃ似つかわしい」
 そんなことを話すために、部下を払ったのか?
 高杉はわかっているだろうに、それに答えない。
「……あんときも、こんな夜だったなァ」
 いつのことだ。
 身体の痛みに、イライラしていることを自覚する。大体、この男の前で奴の部下にえらい目にあわされたのだ。身体が自由なら意地でもつかみかかって首を絞めるなり唾を吐きかけるなりしてやるのだが。
「あの戦争中に、宴開いたろ。言い出したのは辰馬の奴だった」
 思い出した。
 桂は唇を噛んだ。
 あの時のことを、この男は言いたいのだ。
 身体に負った傷が、急に痛みを増したように思えてくる。


72:Classical名無しさん
12/05/11 16:06:53.72 qPONaBPN
「ずいぶん酔っちまって、その場の勢いで俺ァお前を襲っちまった」
 そうだったな。それ以来、貴様のことが余計嫌いになったのだが。
 そんな桂の表情を見て高杉は、可笑しそうに笑っている。
「……ありゃあ手ひどく振られたよなぁ。お前が酒に強かったせいで、痛い目にあわされた」
 別に酒に強かったわけではない。貴様らが勢いで俺の分まで飲んでしまっただけだろうが。だが、貴様がそんなことをまだ覚えていたとはな。
 忌々しい記憶だったが、よくよく思い出せば高杉が何からしくないことを口にしていたような……
 不意に頭痛が襲い掛かり、桂はうめき声をあげた。
 今のこの状態は、考え事をしただけでも負荷がかかるようだ。
「まぁ、今更てめーが誰に手ごめられようと、どうだっていいんだが」
 いつの間にか高杉の声は、ひどく癇に障るものになっている。ひどい頭痛の中で桂は再び視線で問う。
 貴様、何が言いたい。
 高杉は見下ろすように首を傾けた。
「……あいつに知らせてやったらおもしれーだろーな」
 あいつ?
「わかってんだろ、ヅラぁ」
 ……貴様。
「んな顔するなよ……お前があいつのことをどう思ってるか、わかっちまうぜ」
 貴様に何がわかる。
「わかるさ……実際、ずっと前からそうだったんじゃねーか?」
 ……。
「ふん……いい顔しやがる」
 どうして貴様は、こんな男になってしまったのだ。
 妙な間があった。
 高杉がキセルをくわえて離すまでの間だが、彼の雰囲気がどこか変わっている。
「何でだろーな……」
 それが何なのか考える余裕はなかった。ひどく頭が痛み、視界がかすむ。頭痛と身体がきしむ痛みで意識を失わずに済んでいるにすぎない。だがそれも長くは持たないだろう。
 何かまだ、高杉は口を開いているようだったが、耳に入らない。
 言いたいことがあるならはっきり言え。貴様のせいで聞き取ってやれないではないか。いや、聞かなければいいのか。貴様の言葉など、どうせもうお前とは敵対したのだから……


73:Classical名無しさん
12/05/11 16:22:55.31 aSI3+p7o
気づけば、夢の中に落ちていた。夢だと自覚する夢は久しぶりじゃないだろうか。
 どこか幼さの残る彼から、はっきりとした声が聞こえてくる。
 高杉は怒りを乗せた顔で、突き放すような口調で、桂とまっすぐ向かいあいながら言うのだ。
 わかってねぇのは、てめーの方だろ。
 ……。
 拒絶したのはそっちだ。
 ……。
 勝手なことを今更言ってんじゃねぇよ。
 それは本心なのか、貴様の。そうだとしたら、俺は。
 だが、声が出せない。
 たとえ弁解しようとしたくても。せめて何かを言ってやりたいと思っても。
 黙って向かい合っていると、高杉の姿がかき消えた。
 どこからか、寂しそうな三味線の音、弦をはじく音色が聞こえてくる。哀しい旋律が、自分の中に染みいってくる。

74:Classical名無しさん
12/05/11 16:25:14.77 nLk5g2zB
てす

75:Classical名無しさん
12/05/11 16:28:05.87 YI5Z3qFs
次に意識が戻ってくると、十名前後の男たちが戻ってきていた。高杉は、また前の位置にいる。薄ら笑いを浮かべて、彼を見ている。
 すべて夢だったか。
 そうだな。お前が俺に情けをかけるとは思えない。
 お前はそういう男なのだ。
 楽しいか、高杉。
 答えろ。
「どうだっていいんだよ、んなこたぁ」
 キセルをふかせて高杉がニヤリと口角をさらに吊り上げた。
「どうだっていいんだよ……」
 その言葉を皮切りに、再び抑え込まれて床に倒れこんだ。体中が抗議の悲鳴をあげて痛み出す。
 彼の眼は語っている。
 ―てめーらのことなんざ知ったこっちゃねーよ。
 もう興味はねーし、必要がなけりゃこっちから手ェ出す気にもならねぇ。
 そっちも充分勝手じゃねーか。そんな奴らにいちいち文句をつけられる理由はねーんだよ―
 ああ。
 何が本当で、何が偽りなのか、わからなくなってきた。
 そしてすぐに、理性が押しやられる。片隅に押しやられた理性の中で、桂は思う。
 自分の意思ではないとわかっていても。
 やはりこれは、厳しい現実だ……


76:Classical名無しさん
12/05/11 16:53:42.34 SdcsFake
「おーい……だいじょぶかー」
 覗き込む銀時の口から出たのは気のない言葉だったが、桂のまぶたが動く。
「もしもーし」
 怪我の少なかった肩のあたりに触れて軽く揺さぶってやると、うっすらと目が開いていった。
「おお、目を覚ましたアル!」
 隣の神楽がしゃがみ込んで覗きながら笑う。桂の視線が二人を行き来した。
「だーから大丈夫だっつったろ。とりあえず水持って来い」
「わかったアル!」
 神楽が素早く移動すると、しばらくぼんやりしていた桂が目を見開いた。
 その勢いのまま身体を起こそうと動きかけ、止まる。
「う……ッ!」
「やると思った。とりあえずまだ横になっとけ」
 銀時の言葉に、彼は素直に従った。
「……俺は、どうしてここに」
「俺が連れてきたから」
「いや、そうではなくて」
「生きてたから拾ってきてやったんだよ。何? なんか文句ある?」
 半眼ですこし怒ったように言ってやると、彼は瞬きした。
「……いや、ない」
 神楽がお盆を手に戻ってきた。盆の上には縦長のコップに入った水が用意されている。
「ヅラぁ、お水アルよ! ちゃんと飲まないとだめネ」
「ああ、すまぬなリーダー」
 桂は軽く笑うとゆっくりと身体を起こした。途中でなんどか顔をしかめたのは、やはり身体のあちこちが痛んだからだろう。どうにか上半身を起こした桂に、神楽はコップを手渡した。
 やや窺うような視線で彼女は水を飲む桂を見つめる。彼は飲み終えると首をかしげて神楽に口を開こうとした。
 が、神楽が神妙な顔つきで先に言った。
「お前今うなされてたアル。大丈夫か」
 桂は一瞬妙な間を見せたが、すぐにうなずいた。
「……心配をかけたようだ。だが、おそらく寝ている間に少し傷が痛んだのだろう。大丈夫だ」
「そうアルか」
 ちょっとだけ安心したような控え目な笑みを神楽が浮かべる。そして彼女は「じゃあまたテレビ見てるヨ」とその場を離れた。


77:Classical名無しさん
12/05/11 16:56:08.57 0rn7N5u6
「銀時……」
「あん?」
 桂の声は、さきほどの神楽の微笑に負けず劣らず控え目な声音だった。
「リーダーに、俺のことは」
「……ボコボコにされたとしか言ってねぇよ。紅桜の一件の時も、お前が捕まってるかもしれねーと分かったとたん真っ先にあいつらのところに飛び込んで行った奴だぜ。純粋に心配してくれてんだよ。ありがたく思え」
 そう言ってから失敗したと銀時は思った。自分はこいつがどんな目にあったか大体察してると再確認させたようなものである。なんでもっとこう、頭が働かないのかと思わず自分を責める。
「……そうか」
 沈んだ声音に、銀時は内心うめいた。
「ただいまー」
 その時、新八が大きな声を上げながら帰宅を告げた。玄関の閉まる音がして、ややあってからひょっこりと二人のいる部屋に入ってくる。
「おぅ、お帰り」
「あ、桂さん目を覚ましたんですね。今ちょうどエリザベスに連絡をつけてきたんですよ」
 新八はエリザベスとのやりとりを手短に桂に伝えた。要約すると、鬼兵隊捜索のため警察が各所で網を張っているために桂にはしばらく万屋で療養してほしいということ、その間万屋に護衛を頼みたいということだった。
「というわけなので、ゆっくりしていってください。エリザベスたちと連絡を取りたいときは、僕に言ってくれればいいですよ」
「そうか……ではすまぬが世話になる」
「その代わり報酬はお願いしますよ。いやーもう渡りに船です。これでここの家賃を久しぶりに溜めずに済みそうですね、銀さん」
 新八が屈託なく笑う。こういうときのこいつの明るさは救いだな、などと銀時はぼんやり考えた。
 ……俺は何してんだろ。
 神楽が隣室に引っ込み、テレビを見ている音がする。新八は立ち上がって部屋を出て行った。おそらく神楽とテレビでも見始めるだろうか。
 そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴らされた。


78:Classical名無しさん
12/05/11 17:05:52.06 o/tSItR7
「はーい、今行きますよー」
 玄関の方に新八が返事を返しながら走っていく。
 数秒後。
「ひ、土方さんんん!?」
「げ」
 銀時は思わず半眼で壁の向こうから聞こえた新八の叫び声にうめいた。
「あんだよ、何をそんなに驚いてやがる。俺が来ちゃ悪いってのか?」
 玄関口から届くまぎれもない土方の声に銀時は「悪いよ、ヤなタイミングだよ」とつぶやいた。
新八が「いや、まさかそんな……」と応える声が聞こえてきた。そして神楽もそっちに行ったらしい。さっきよりも軽いドタバタという音がした。
「あー! 何しに来たアルか!? ここに来るときは酢昆布一年分持って来いって言ったアル!」
 よし、いいぞ神楽! そのまま追い出せ!
 ところが、土方の落ち着いた声。
「あぁ、少ねーが、とりあえずこんだけ買ってきたぜ」
「新八、何してるネ!? お客様を早くお通しするアル! さっさと粗茶出すアル!」
 何やってんですか神楽ちゃん! おめ、まさか、土産に目がくらんでこっちに桂がいるってこと忘れてんじゃねーの!?
 がさがさとビニールをあさる音が聞こえ、「んじゃ上がらしてもらうわ」という土方の声と足音が聞こえてくる。
 こうなりゃおめーが頼りだ新八! なんとかしやがれ!
 心の中で銀時が叫びまくる。
 後から振り返ってみれば、このとき彼は、自分が出て行って土方を押しとどめることを思いつけないほど焦っていた。
「……出て行かなくてはなるまい」
 その声に銀時が振り向くと、桂が身体を起こして顔をしかめていた。布団に倒れ伏すほどまだ傷が痛む上、寝込んでいたこの男に奴らから逃げられる体力があるわけもない。
「いや、こっちの部屋までははいってこねーよ。いいから横になっとけ」
「だめだ、お前たちにもう迷惑をかけるわけにはいかない」
「二日もまともに目ぇ覚ませなかった奴が、何言ってやがる。第一今逃げたらすぐバレちまうだろ」
 押しとどめるように手を伸ばして両肩をつかむと、桂の身体が一瞬震えて銀時の腕を凝視する。
「……っ!」
 何か思い出したのか、その瞳に恐怖の色が映ったように見えた。

79:Classical名無しさん
12/05/11 17:06:38.40 nYAZ7wAv
思わず手を離し、言い繕う。
「わっ、悪ぃ。……怪我ァ痛んだか」
「……いや、大事ない」
 非常に気まずい空気が流れた。
 が、実際それどころではなかった。
「おい、白髪頭はいねーのか?」
 土方の声は、隣の部屋から聞こえた。
 え、新八くん何してんの? 止めてくれたんじゃないの!?
「え、ええ。それがちょっと……」
「銀ひゃんに用アルか?」
 神楽が明らかに口にものを含んだ状態でしゃべっている。
 物を食べながらしゃべるんじゃありません! てかそれどころじゃねーし! なんとかそいつを追い出せっつーんだよ!
「銀ひゃんならほっひで―」
「だめだよ神楽ちゃんん!!」
 新八が神楽のくちを押さえたらしい。もごもごというこえが聞こえてきた。気づけば桂から異様な緊張感がただよってきている。
 いやそりゃ敵対勢力だし自分を追ってる男だもんね? わかる、わかるよヅラ。
 でも今そんな気配出してたら逆にバレちゃうからね?
「なんだ、何かあったのか?」
 どこかまだ気安さを感じる土方の声音だが、さすがに何かをいぶかしむ感情も含まれていた。
「い、今銀さん寝てるんです……そ、そっとしておいてもらえませんか?」
 新八の声は、若干たどたどしい。だがいいこと言った。それで押し通してくれ。
 そう思ったが。
「どういうこった」
 ああああ。やっぱり疑ってかかってきたよ多串君。おっかげでヅラがなんかじりじり動き始めちゃったんですけど! え、こいつ爆弾とかもう持ってないよね。
 焦る銀時をよそに、新八がゆっくりとあとを続けた。
「……すみません、その……」
「銀ちゃん、大怪我して今も寝込んでるアルよ」
 神楽があっさりと嘘をついた。
「なにぃ?」
「だからしばらくそっとしておいてほしいネ。話あるなら、私たちが聞くアル」
「いや、大怪我って、何があったんだよ?」
「神楽ちゃん!」

80:Classical名無しさん
12/05/11 17:08:05.03 /5RN2qFV
咎めるような新八だが、神楽は気にした様子もない。
「なんか、二日前に爆発事件に巻き込まれて、ドジ踏んだって言ってたアル。……でも、詳しいこと何も私たちに話してくれないアル」
「神楽ちゃん……」
「新八、こういうときはウソついてもしかたないネ。ちゃんと本当のことを言えば、トッシーもわかってくれるヨ」
 神楽が言っている内容は、実際のところ本当半分嘘半分である。あとは桂についてまったく口にしないだけであるが。
 新八と神楽に対し、銀時は高杉がらみの詳しい話を一切していなかった。ただ桂が捕らえられていたこと、それをどうにか助けてきたこと、おかげで散々な目にあったことだけ伝えてある。
 高杉とは二人とも面識があったが、奴らについての言及はしてこなかった。一人で巻き込まれるから怪我なんかするんだと、逆に説教をくらっただけで。
 誰かがため息をついたような音が聞こえた。おそらく土方だろう。
「前に来た時に言った屋敷が爆発騒ぎを起こしちまってな。鬼兵隊がらみらしいとようやく調べがついたんで、何か知ってるかと思ったんだが、案の定か……」
 まさかそのままこちらに乗り込んでは来やがらねーだろうな。妙に手に汗握る展開じゃねーか。
 向こうの部屋でも、新八たちが緊張しているような気配が伝わってくる。
「……んで、今はまだ寝込んでるって?」
「あ、はい……」
 再び、ため息の声が聞こえた。
「まぁいいか」
「え?」
「そっちで寝てる男に、あとで伝えといてくれ。『今度詳しい話を聞かせろ』ってよ」
「土方さん」
「どうせ今更焦ったところで鬼兵隊はしっぽも見せやしねー。万屋がある程度回復したら参考程度に聞きに来るからよ……見舞いの品でも持ってな」
 何か察してくれたらしい。おそらく、新八や神楽にも詳しいことを話していないということで。
 あの動乱で、土方も仲間と敵対するはめになった。割り切っているように見えて、いろいろ思うところがあったのかもしれない。
(まぁ、こっちはもう仲間云々の関係は一切ねーんだけどな、あの野郎とは)
 するとすぐに廊下のきしむ足音が聞こえてきた。
 とにもかくにも、土方が遠ざかったことに感謝する。
 壁の向こうはいつのまにか、こちらと完全に隔てられたように明るい雰囲気になっていた。


81:Classical名無しさん
12/05/11 17:37:33.44 NWAqvHft
「見舞いに、こないだ新発売された新味覚のマヨネーズを……」
「それキモいアル。ぜったい銀ちゃんと喧嘩になるヨ」
「いや、こんどのはすげーんだよ。カロリー少なめで……ほらCMやってる」
 ぶつん、とテレビが切られたらしい音がした。神楽だろう。万事屋のチャンネル選択権は基本的に神楽のものだ。
「あれ、神楽ちゃんどこいくの?」
「せっかくいい天気だから定春の散歩いくアル。定春~散歩いくヨ~!」
 元気のいい返事が聞こえ、どてどてという音が遠ざかっていく。
「おら、ダメガネ。おめーもさっさと来いヨ」
「ちょっと待って。銀さんに書き置き残して行かないと」
 何やら紙に書き付けるような音が聞こえてくる。ついでやや遠くの方から土方の声が聞こえた。
「なんだお前ら、あいつを放っといていいのか?」
「いいアル。どうせ放置しても動けないから何もできないし、ジャンプ買ってきて恩を売る方がいいネ」
「そうそう、大丈夫ですよ。どーせ寝てればいいだけなんですから。……よし、じゃあ行こっか、神楽ちゃん」
 何やら気を使い始めたようにも感じられる二人の言動に、銀時は少し妙な気がしたものの、とりあえず感謝だけはした。
 そのあとも何やら話し声が聞こえたが、それも遠ざかり、玄関を閉める音が聞こえた。
 彼らの部屋以外、人の気配が完全になくなった。
 それに安心したとたん、身体の力が抜けていった。寝床の桂も、さすがに表情は晴れないものの、緊張は解いている。
「あーよかった。また騒ぎになるとこだった」
 思わずへらへらと笑った彼に、桂が拳を握り締めて口を開いた。
「……すまんな、銀時」
「へ? 何が」
 唐突な言葉に銀時が戸惑う。
「考えてみれば、お前は奴らともうまくやっていたのだった」
「え、いや別にそういうわけじゃ」
 腐れ縁というか、たまに依頼してくるとかつっかかってくるだけどいうか。
「俺のせいでお前を巻き込んだ上に、こんなことになるとは……」
「え」
 いやそれ違うから。別にお前のせいじゃねーし。
 ……あれ? でも元を正せば大串君からそういう話を聞いてちょっと行ってみようって思ったんだっけ? だからといってヅラのせいってわけじゃ。
「あー、それ違うから。別にあいつらとは」
「……」

82:Classical名無しさん
12/05/11 17:38:11.73 Lk8r3lee
 銀時の言葉を聞いているのかいないのか、思った以上に深刻な表情で桂がうつむいている。
そもそも桂は、真撰組との関係を危惧してこんなことに、と口にしたわけではないだろう。銀時が怪我を負ったことや、自分をかくまっていることなども含めたすべてが気にかかっているのだ。
 まずい。
 これじゃ土方が来訪してるときとかの方がましだったんじゃないだろうか。
 ……あれ、これはデジャヴか?
 考えてもみれば、二人きりの状況はあの部屋でつながれていた時と大して変わらない。心情的には何一つ解決せず、わだかまりが残ったまま。気まずさが胃を締め付けてくる気がする。
 その時の状況を思い出したせいで、いつの間にか銀時は逆に緊張し始めていた。
『見てたんだよ、仕舞いまで全部』
 高杉は、嗤ってそう口にした。
 何を。
 何をされた。
 それも、あいつの前で。
 銀時はうつむき加減の彼を見つめながらかけるべき言葉を探した。彼の落ち込み方が尋常でないのは、よほど精神的に苦しめられたからではないのだろうか。薄ら寒くなるような、
吐き気のするようなことを、あいつらに。
思い出したくはなかったが、断片的に聞いた言葉だけでも想像を絶していた。
 狂乱の宴だと? ふざけるな。酒をかっくらって歌って踊ってどんちゃん騒ぎをするのが宴なんだよ。あー。やっぱりあの能面の変態は叩っ切っちまえばよかった。大体、三日三晩だって? がんばりすぎだろう、いくら何でも無理だ。嘘だろ、それは。
 だが、彼の消耗具合からすると考えられないことではなかった。戒められていた手足の傷もひどかった。よほど長い間戒められていなければ、あんなことにはなるまいとわかる。
 わかってしまうのも、嫌だった。
「……気にするこたぁねーよ」
 それは自分に言い聞かせたい言葉だった。
 桂が顔をあげて銀時を見る。表情こそいつも通りだが、どこか背筋に妙なものを走らせる、不安そうなまなざしだった。
 ……そんな目で見るなよ。
「偶然が重なって奴らに捕まっちまっただけだしよ。おめーが先に捕まってるなんて思ってもみなかったし」
「……そうか」
 その声も暗い。


83:Classical名無しさん
12/05/11 17:38:47.61 Taij4g+x
そして再びうつむく。普段の桂を知っているだけに、この状態はあまりにもらしくなさ過ぎた。
 いつもなら茶化して口論に持ち込めるかもしれないが、今回ばかりは無理だった。神妙すぎるこの男の姿が、ひどく痛々しくい。
 それに桂が深夜に何度もうめき声をあげていたことを、銀時は知っている。おそらく悪夢を見ていたのだろう。金縛りにあったように震えていたかと思えば歯を食いしばって何かに耐えようとしていることもあった。大声で叫び出すこともあった。
 どうすればいい。
 なんて言ってやればいい。かけるべき言葉が見つからない。自分の中でもやもやしたものが渦巻いて、うまく対応しきれない。
 桂も何も言わず、ひたすら自分の手もとを見下ろしている。無言の圧力。が、おそらく桂も何かを悩んでいるのだろう。でなければこんなにも重苦しい雰囲気にはなるまい。
 沈黙は五分間ほど続いた。
 その場の雰囲気に耐えかねて彼は立ち上がった。桂がそれに合わせて顔を上げる。
 それを見下ろしながら笑いかけ、銀時は口を開いた。
「俺腹減ったから飯食ってくるわ。お前はまた休んどけ。大串くんも、今日はもうぜってー来ねぇからよ」
 それだけ口にするので限界だった。気づけば顔をそむけるように彼に背中を向けている。情けないと自覚しつつ、銀時はその場を離れようと動きかけた。
 だが、身体が止まった。
 驚いて振り向くと、桂が銀時の寝巻きの裾をつかんでいた。
 泣き出しそうな顔で。
「え?」
「あ……」
 しかし彼はすぐさま我に返り、あわてて顔をそむけて手を離した。
「いや、すまん。なんでも、ない……」
 言葉の内容とは裏腹に、彼のそむけた横顔や言葉が震えていた。いつもは無表情気味の顔も、ほとんど取り繕えていない。
 何より、さっき一瞬だけ見せた表情はひどく印象的だった。あれが本当にこいつの表情で、しかも自分に向けられたものなのかと戸惑うほどに。
 まるで、銀時にすがりたいと言わんばかりの表情で……


84:Classical名無しさん
12/05/11 17:40:06.84 MsXxH4+z
銀時が思いを巡らせていると、寝床の男はようやく彼の方を向いた。また、平静を装ったらしい。
「お前の言葉に甘えさせてもらおう」
 は? どの言葉だって?
 俺、お前を甘やかすようなことを言ったか?
「……どうした?」
 平気そうな顔をしやがって。あんな顔を見せたくせに、何をいまさら取り繕ってやがる。
「腹が減ったのだろう、俺のことは気にせずとも大丈夫だ」
 そうやって無理をするんだよな、てめぇは。
 そう、そういうやつだ。こいつはいつも顔に出さない。だが、出さないようにしている時もある。
 わかってんだよ、くそ真面目な馬鹿が。
「……? 銀時?」
 無言でただじっと見下ろす彼を疑問に思ったらしい。桂が首をかしげながらつぶやくように尋ねた。
「どうしたのだ。傷が痛みでもしたか」


85:Classical名無しさん
12/05/11 17:40:50.92 /bEEcy3b
気がつけば、目の前に顔がある。触れるか触れないか、そんな距離に。

 驚いて自分を見つめ返す相手の瞳に、どこか怒ったような自分が映っていた。
 怒っているとも。
 今までにないほど、この相手に怒りを感じている。
「……ん……とき……?」
 唇を震わせ、かすれたような言葉が彼の耳に届く。逆に、まだ澄ました面構えを取り繕おうとしているこいつが、憎たらしく思えてきた。
 左腕で抱き寄せた身体の外で、彼の腕をはずそうと申し訳程度に桂の右手が添えられている。思わず引き離そうと伸ばしてきた左腕は、銀時の右手にからめとられた。
 桂の身体は震えている。それでも表情は驚愕の領域を抜けない。瞳の色に不安と恐怖が宿っても、表情が崩れない。ギリギリのところで何かを保っている。
 それがお前の強さだとでも言うのか。
 見せちまえよ、あいつの前で散々さらしたんだろう。
 弱いお前をさらしたんだろう? 変な薬を使われたんだか知らないが、あの野郎はお前が乱れる姿を知り尽くしたんだろ。この男のあえぐ姿はどれだけなまめかしいか。
泣き叫ぶ姿がどれほど哀れか。人斬りのヘッドホンから聞こえた声は、哀願する声だった。そんな声で、お前は、あの男にもすがったんじゃないのか? あの男に犯されながら、泣いたんじゃないのか。
 ああ畜生。どうして俺はあの男をぶった斬ってやれなかったんだ。
 今更ながら悔やむ。薄汚い嫉妬だろうともうしったことか。
 だから、曝してくれ。いや、曝せ。
 今ここで。
「お前、いったいあいつらに何されたの」
「……っ」
 目の前の表情が変わる。
 思わず桂の瞳に映る自分が笑った。さすがに、これはお前でもかわしきれない攻撃らしいな。
 まさか聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「な……なん……っ?」
 おびえた眼差しが逆に嗜虐心をもろに煽ってくる。困惑を隠せずに狼狽する姿が弱々しく、しおらしい。
 ああ、わかった気がする。わかっちゃいけないんだろうが、お前が三日三晩も可愛がられた理由がわかるように思う。
「それ……は、ん……」


86:Classical名無しさん
12/05/11 19:38:18.18 37U7F1EB
顔をそらされた。だが、即座に桂の左手をつかんでいる右手の人差し指だけで顔を真正面に向けさせてやる。
 そんなことをされると思わなかったに違いない。あっさりと首が向き直り、どこかおびえたような顔が彼と向き合う。
「な、話してみ? そしたらよ、けっこう、楽になると思うぜ」
 嘘がするりと口をついて出ていった。楽になる? 誰が楽になるって?
 泥沼にどちらもはまりこむだけじゃないのか。
 だが。
「嫌だ……」
 思わず銀時が驚くほど素直な言葉が返ってきた。桂の身体が震えている。先ほどより、震えは激しくなってきた。
 だがそれだけで許してやれるほど、甘くない。彼の理性はその感情に、はるか及ばない。
「話してくれよ……なぁ」
 追い詰めるように彼は言う。心の中では笑っているかもしれないが、表情はもうなくなっていた。
 いつのまにか桂と同じように表面を取り繕い始めたのか……
「待て、銀時。それは、お、お前が聞くようなことではない……!」
 桂が慌てて顔を背け直した。今度は銀時も止めなかった。そのままで許してやった。
 そして、まったくもって彼の言うとおりだった。むしろ銀時の立場は目をつむってやらなければならないものである。わかっていても聞かない、そんな優しさを示すべきなのに。
「お前に、き、聞かせても……嫌な話になるだけだ……」
 もっとはっきり言えばいい。自分がやつらにされた最大級の屈辱を思い出して誰かに伝えることなどできないと。自分が男たちに輪姦された話など、このんでする奴はいないからな。
 中途半端な言い訳だな、と銀時は思う。中途半端に俺に対しての義理を感じさせるから。
「聞かせてくれよ……」
「な、なん、……?」
 だから付け込まれるんだっつーの。
「んなもんよぉ……」
 体重をかけるように、彼はすぐさま桂を押し倒した。

87:Classical名無しさん
12/05/12 07:16:18.38 o7MK4Zv8
こんな事する前に早くグッズうpしろや自爆雑魚杉腐



最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch