04/11/21 00:54:06 cRIe5pGj
「おはよッ!」「おはよう!」
秋晴れの穏やかな朝。私立英光学園に通う生徒たちでにぎわうこの通りの中、一人の少女
が腕時計をにらみながら誰かを待っている。
「…おはよ、のっぴい! ゴメン、ゴメン…」
「遅いぞッ、ミーシャ! まったくいつもいつもお寝坊さんなんだから!」
親友の落合法子が、肩で大きく息をする香川美紗の背中を、カバンで軽く小突いた。
香川美紗は16歳、高校1年生。笑顔が印象的な、学園きっての輝くばかりの美少女だ。
「昨夜も遅くまで、台本の練習をしてたのよ。もう、なかなか憶えらんなくて…」
「ミーシャ、主役だもんね。まだ1年なのに大変だよ。どう、何とかなりそう?」
「わかんない。あと6日しかないけど、頑張るっきゃないわ。」
親指を立ててガッツポーズをする美紗。親友の法子も笑いながらサムズアップを返す。
「…あれえ? ここ、こんな看板、前からあったっけ?」
古ぼけた洋館の前で、美紗が不意に立ち止まった。
枯れかけた蔦がからまった巨大な門の傍らに、『富良戸ディメンショナル・パワー研究所』
と書かれた真新しい看板が掛けられている。
「ここ…ずいぶん長い間、空き家だったはずだよね?」
「うん。家族がみんな病死して、買い手がなかなか付かないって聞いてたけど。研究所っ
てことは、博士か何かが引っ越してきたのかな?」
「…何だかちょっと、いかがわしい名前だよね。」
美紗が咲き誇る花のような笑みを浮かべた。「わたしたちには関係ないね。行こ行こ!」