04/11/15 23:00:20 XcwvLl9j
「モシモシ」
期待をこめて彼は呼んだ。
「モシモシ」
声が出てきた。まぎれもない女の声だった。
やっと繋がったと思ったとたんに心臓が高圧ポンプのように動き出して、額に汗までにじんだ。
何を言っていいか、不器用な戸沢敬二はしばらく沈黙した。
「モシモシ、聞こえてるの?」
女の声がした。
「あ、聞いている」
辛うじて言った戸沢敬二の声はしゃがれ、口が渇いた。
「おかしな人ね。なぜ、黙ってるの」
「いや、なに、びっくりしたもんだから」
「ギャハハハ」
女は突然笑い出した。その甲高い笑い声が、受話器に押し当てた彼の耳の鼓膜を直撃した。戸沢敬二は顔をしかめて、受話器から耳を離した。
「あなた、いま、テレクラなんでしょ」
離した受話器から、女の声が細く流れ出した。彼はあわてて再び耳に受話器を押しつけた。
「そう、そう」
辛うじて彼は言った。
「だったら、電話があるのはアタリマエでしょ。それなのに、何にびっくりしたの?」
テレクラでは大勢の男がめいめい小部屋のなかで、女からかかってくる電話を、電話器とにらめっこしながら待っている。リンとベルが鳴って、いちばん最初にさっと電話を取りあげた男が勝ちで、〇・一秒でも遅れると、ツーという通話中の通信音だけしか聞こえてこない。
テレクラのこのシステムを話そうかと思ったが、戸沢敬二は面倒くさいのでやめた。
「いや、なに」