05/07/22 22:02:52
でも漏れ、こういう話好きだよ!
でも、本スレには投下したら駄目だよ…。
736:某書き手
05/07/23 00:28:14
「能力設定別モノ。ご了承ください」の一言で済まされると、
それまでヘボ書き手なりに他の書き手さんとバランス見ながら
書いてきた漏れとかって意味ねーのかな…という気になる…_| ̄|○
737:名無しさん
05/07/23 00:31:45
早く夏休みなんて終わればいいのに。
738:名無しさん
05/07/23 00:33:34
>>737
禿同
739:名無しさん
05/07/23 00:33:43
>>733
体中の毛が抜け落ちるほど同意。
これからもこういう厨書き手増えるのかな・・・。
これが夏か・・・。
740:名無しさん
05/07/23 06:44:04
とりあえずしたらば誘導だ
741:名無しさん
05/07/25 02:36:02
あんまりageたくないけど下がりすぎ。
742: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:03:39
最近余りに過疎気味なので、したらばの方に投下していた南海キャンディーズの話を前倒しして投下する事にしました。
一応眠り犬さんが書かれているお話とも繋げられるようにしているのですが、黒い欠片や石の能力についてちょっと今までの話とは
違う部分が出てくるので、都合が悪ければ番外編扱いにしてもらって構いません。
〈Snow&Dark〉
序章~ふゆのはじまり~
―あるひのことです。
あくまたちが、ひとつの かがみを つくりました。
うつくしいすがたは みにくく、わらいがおは なきがおに うつる、あべこべかがみ でした―
「―しずちゃん俺の事嫌いでしょ」
切欠は、よく覚えていない。
相方が「もうすっかり冬だねぇ」とかそういう事を話していたのは覚えているのだけれど、上の空で相槌を打つだけだったせいで、どういう話の流れでそんな言葉が出たのかは思い出せなかった。
相方がどんな声音でその言葉を口にしたのかさえ、定かではない。
真面目な口調だったのか、半分ふざけていたのか、それとも苦笑混じりだったのか。
743: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:04:55
―だから。
「……まぁ好きでない事だけは確かやな」
「ひでぇ…嘘でもいいから『そんな事ない』とか言って欲しかったんだけどな」
悪目立ちする赤い眼鏡を外し、しかめっ面で右目を擦っている山里が、やけに大袈裟な口調で呟く。どうやら目に何かゴミが入ったらしい。
その言葉を華麗に無視しつつ、隣に座る相方をジロリと一瞥して山崎は溜息をついた。
(ここまで落差があるとある意味怖いな……)
眼鏡を外した山里は、少々殺し屋じみた目をしている事を除けば案外―あくまで【案外】だが―普通の顔立ちだ。
普段彼がキモいだの何だのと言われる原因の五割以上はその眼鏡にある―ついでに言うと、残り五割の大半はその髪型が占めている―と、山崎は思っていた。
もう一度隣の相方の様子を窺ってみると、結局目のゴミは取れないままなのか、眼鏡は掛け直したものの釈然としない顔だ。
ついでに壁に掛けてある時計で時刻を確認して、あと5分ぐらいでスタッフが呼びに来るだろうか、と予想する。
この街独特のせっかちさとは無縁の緩やかな空気が流れる中、首に巻いた赤を基調とした色のスカーフを何とはなしに触りながら、山崎はふと窓の外に視線を向けた。
日を追う毎に冷たさを増す強い風に吹かれ、葉を落としていく街路樹が見える。
―冬は、まだまだこれからだ。
744: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:06:12
~ふぶきのよかん~
時間が流れるのは早いとよく言うけれど、ここ最近の自分の周りは特にそうだった気がする。
冬の始まりがつい先日のように思い出せるのに、もう寒さの一番厳しい時期だ。
木々はすっかり葉を落とし、細い枝先を冷たい風に晒している。
年が明けて一月余り経ち―つい先日山崎の誕生日が過ぎたばかりだ―すっかり普段に戻った街並を、山崎は楽屋の窓からほんやりと眺めていた。
昨年末の一大イベントで上位に喰い込んで以来、大阪での仕事だけでなく東京での仕事も大幅に増えている。
それは勿論喜ばしい事なのだが、急に―仕事だけが原因ではなく―慌しくなった日々には大きな戸惑いを感じていた。
抗えない大きな流れに流されていく事に、柄にもなく焦りと苛立ちが募っていく。
「…………」
楽屋には、先程から長い沈黙が訪れていた。
普段なら山里が喋り掛けてきたりするのだが、今日は手元の雑誌に視線を落としたまま何も言わない。
最近不意に流れるようになった沈黙の時間。ほんの微かに感じる、違和感。
延々と沈黙ばかりが続く楽屋は余り居心地が良いとは言えないのだが、かといってこちらから沈黙を破るのも憚られた。
チラリと壁掛け時計を見てみると本番まではまだ時間がある。
何となくじっとしているのが辛くなった山崎は、零れ掛けた溜息を押し込めるようにわざと音を立てて椅子から立ち上がった。
そのまま部屋から出ようとして、無言のまま出て行くのは悪いと思い振り返る。
「……ちょぉ出掛けてくるわ」
「行ってらっしゃ~い」
山里は振り返らず頭の横でひらひらと右手を振った。
どこか気障ったらしくも見えるその仕草は、いかにも彼らしい―とも思えるのだが。
―刺さって抜けない棘のように、何かが引っ掛かっている―
745: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:09:23
―カツン。
厚めの靴底が、少し大きい足音を立てる。
他の出演者たちはそれぞれ楽屋で寛いでいるのか、広い廊下には人通りがほとんどない。
のんびりとした足取りで数メートル程歩いた山崎は、ふと立ち止まると押し込めていた深い溜息を零し、俯いた。
(……右を向いても左を向いても諍いだらけ、ってのがこんなに辛いとは思わんかったわ)
ここ最近芸人の間で繰り広げられている、異能の力を持つ石を巡る争い。
『白』や『黒』に大した興味はないのに、周りが放っておいてはくれない。
石を狙う『黒』の人間に襲われた事も何度かあるし、他の芸人が争っているところに遭遇した事もある。
興味がないからといって、どちらにも付かない今の自分達が宙ぶらりんのとても不安定な状態である事を理解していないわけではないけれど―『白』や『黒』、そしてそもそもの原因である『石』に関する知識が足りない状態でどちらに付くか決める
事も、余りに危険な賭けとしか思えなかった―いや、それは言い訳にすぎないのかもしれない。巻き込まれたくないから、自分たちのペースを乱されたくないから、逃げているだけなのかもしれない。
―でも、もう少しだけ。もう少しだけでいい、このままで居る事を許して欲しい。
そう誰にともなく許しを請うたあと、ふと随分長い間立ち止まっていた事に気付いて、山崎は顔を上げた。
何かを振り払うようにゆるゆると頭を振って、再び歩き出す。
(……まだまだ全快には程遠いな……)
今日は朝からそうなのだが、時折薄い靄が掛かったように思考力が鈍る事があった。
気を抜くと、ぼんやりしてしまったり取り留めのない考えに浸ってしまう。
理性を失って暴走する程ではないが、限界まで石の力を使った副作用だ。
無意識に、首に巻いたスカーフ―正確に言うと、その内側にあるペンダントのチェーン―に触れ、その存在を確かめる。
この短い期間で、すっかり癖になってしまった仕草。
746: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:10:16
この短い期間で、すっかり癖になってしまった仕草。
天使の翼を模したペンダントヘッドの中央には、赤味がかった褐色の石が填まっている。
嘘のような話だが、ファイアアゲートという名前の高価なものらしいこの石―その時はまだ流線型にカットされただけの加工前のものだった―は、偶然拾った財布を交番に届けた時、
偶然その交番に来ていた持ち主がその場でお礼にとくれたものだった。
遠慮したにも関わらず半ば強引に渡され、仕方なく受け取った石だったが―この石が自分に与えた力を思えば、もしかしたらそれは必然と呼べるものだったのかもしれない。
(普通の宝石やった方が、まだ素直に喜べたかもしれんのにな……)
光を当てると水の波紋のような文様が浮かび虹色に煌く美しい石は、自分の心の中にあったちょっとした願望を叶えてくれる能力を持っている。
だたそれだけなら、自分は得体の知れない力を気味悪がりつつも大いに喜んだだろう。
だが、望まぬ争いに巻き込まれた今は傍迷惑だという思いの方が強かった。
エレベーターホールに着きパネルの表示を見てみると、二機のエレベーターは二つとも一階に停まっている。
数秒考え込んだあと、山崎はエレベーターで降りる事を諦め階段の方へと向かう事にした。
このままエレベーターを待つより階段で目的の階まで降りた方が早いだろう、という判断もあったが、それ以上に、軽い運動でもして少しでも苛立ちと頭に掛かる靄を晴らしたかった。
自分の中だけで抑え切る自信がないわけではないが、万が一相方に八つ当たりして本気で怪我でもさせてしまったら洒落にならない。
そう考えながら廊下から階段の踊り場に足を踏み入れ、一段目に足を踏み出そうとした、その瞬間。
747: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:11:23
―トン。
不意に背中に感じた、誰かの手の感触と軽い衝撃。
ぐらりと身体が前に傾ぎ、踏み出した足が空を切った。
「っ!」
慌てて手摺りを掴もうとしたが、間に合わない。
咄嗟に石の力を発動させた山崎は段に右手を突き、その腕を軸にくるりと一回転して着地した。
だが充分に勢いを殺し切れず前にのめり、そのまま最後の三段程を滑り落ちる。
小さく、鈍い音がした。
「いった……」
「だ、大丈夫ですか!?」
滑り落ちたところにちょうと通りかかったスタッフが、慌てて駆け寄ってくる。
一瞬ギクリとするが、一回転して着地した時点ではまだこのスタッフの姿は見えていなかったようだから、石の力を使った場面はギリギリで目撃されていないはずだ。
そこまで考えを廻らせると、まだ充分に回復していない状態で能力を使ったせいだろう、ほんの少し気が抜けた途端頭に掛かった靄が密度を増した。
滑り落ちた際に強打した右の膝を押さえながらも、心配そうな視線を向けてくるスタッフにとりあえずは大丈夫だと答える。
思考が曖昧さを増す中、山崎はどこかで不穏な予感を感じ取っていた。
―やがて吹き荒れる、強い吹雪の予感を。
748: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 01:17:48
すいません、タイトルは「第一章~ふぶきのよかん~」です。第一章を入れるの忘れました……。
保守の意味も込めて、今日はここまでにします(したらばには第六章の分まで投下してますが、コンスタントに投下した方が落ちにくいと思うので)。
他の書き手さん達の作品も楽しみにしてます。
749:名無しさん
05/07/26 11:49:43
8Y4t9xw7Nwさん、乙です!いわせてくれ「GJ」!!(´∀`)b
8Yさんの南キャンも大好きなんで、したらばでも楽しみにしてまつ。
750:名無しさん
05/07/26 12:27:04
キモスレage
751:名無しさん
05/07/26 13:37:50
こんな面白いスレがあるとは!
銭金小説キボンヌ
752:名無しさん
05/07/26 15:44:33
>>751
よし、ちょっとしたらば行こうか
753: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 22:20:36
第二章~ゆきぐもにおおわれたそら~
楽屋のドアを開けると、相方は数十分前の自分のようにぼんやりした様子で窓の外を眺めているようだった。
どうやら雑誌を読み終わって時間を持て余しているらしい。
「ただいま」
「あ、しずちゃんおかえり~」
出て行く時とは違い、山里は口元に笑みを浮かべて振り向いた。
(―あぁ、またや)
微かな違和感。ちくりと刺さる、小さな棘のような。
「随分長かったね~。…なんかあったの?」
無意識に、首元に手をやる。
「……ううん、何も」
先程の出来事を話そうかどうか一瞬迷ったあと、そう答えて楽屋に足を踏み入れた。なぜか、話しづらいと感じたのだ。
返答までに少し不自然な間が出来てしまったが、山里は大して気にも留めなかったらしい。
椅子に腰を下ろすと、山崎は隣に座る相方に気付かれないよう、こっそりと右膝に手を当てた。ズボンに隠れていて見えないが、先程階段から滑り落ちた時に強打した膝には、湿布が貼られている。
足を引き摺ってしまう程の重傷ではないが、何しろ打撲傷というのは地味でありながらやたらと痛い。
だが今日の仕事はこれで終わりのはずだ。我慢出来ない程の怪我ではないのだから、泣き言ばかりも言っていられない。
壁掛け時計を見てあと少しでスタッフが呼びに来る時間である事を確認し、山崎はそっと小さな溜息をついた。
「どぉも~南海キャンディーズで~す!」
「………ばぁん」
いつもと変わらない、変わるはずのない時間。
だが―分厚い雪雲は密やかに忍び寄り、いつの間にか青い空を覆い尽くす。
754: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 22:21:08
「……あれ?」
収録が終わり、スタジオから出ようと扉の前までやってきた山崎は、我に返ったようにふと立ち止まった。
先程まで隣に居たはずの相方の姿が見えない。
慌てて振り返ってみると、数メートル先で何やらスタッフと話している山里の姿。
石の副作用でぼんやりしていたとはいえ、あれだけ存在感のある相方が離れていくのを見落とした事に思わず苦笑しながら、話し込む二人の様子を目を凝らして見てみる。
「……あ」
山里と話しているスタッフの顔には、見覚えがあった。
間違いない、自分が階段から落ちた時に駆け寄ってきた、あのスタッフだ。
スタッフの話を聞いている山里の表情から話の内容に何となく想像がつき、山崎は顔を曇らせる。
「山ちゃん」
離れた相方の耳に届くよう少し大きな声で名前を呼ぶと、山里はこちらを振り返った。
見慣れた、やけに目立つ立ち姿。
だが―次の瞬間弾けるように心に浮かんだのは、あの微かな違和感だった。
深く深く刺さる、小さな棘。
「ごめんごめん、ちょっと話し込んじゃって」
話を打ち切って駆け寄ってきた山里が、不思議そうな視線を向けてくる。
「……どうかした?」
「何でもないよ……行こか」
ふとした瞬間に感じる微かな違和感が、日に日に回数を増やしていく。
―許されないのだろうか、もう少しこのままで居る事は。例え逃げだとしても、留まり続ける事は。
755: ◆8Y4t9xw7Nw
05/07/26 22:24:48
「―あのさ、さっき収録のあとスタッフに聞いたんだけど」
そう、躊躇いがちに山里が切り出したのは、それぞれ私服に着替え帰り支度に取り掛かった時だった。
「何?」
「……階段から突き落とされたってホント?」
先程あのスタッフと話し込んでいたのはその話だったのだろう、ある程度予想していた言葉ではあったが、一瞬返答に詰まる。
この違和感の正体は一体何なのだろう。
「………うん」
「大丈夫だったの? 怪我とかは?」
「ちょっと膝打っただけ。……大体、それなりの怪我してたらあんたが真っ先に気付くやろ?」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に呆れたような溜息をついて答えると、一瞬の沈黙のあと、そっか、とポツリと呟く声がした。
「よかったぁ、大した事なくて。スタッフから話聞かされた時なんか、もう俺動揺しちゃってさ~」
俯き、机の上に散らばった荷物を鞄に仕舞いながら言うその声音は、いつもと変わらない明るいものだ。
だが、前髪の影と眼鏡のレンズの反射に邪魔されて、その表情は酷く読みにくい。
視線を戻した山崎は、違和感の正体について考えを廻らせながら、机の上に転がったボールペンを取ろうと手を伸ばす。
(あ――)
その手が、凍り付いたように止まった。
一瞬、頭が真っ白になる。
悲鳴になり損なった掠れた吐息が、無意識に口から零れ落ちた。
―すとん、と何かが落ちてきたかのように。……呆れる程簡単に、浮かんできた答え。
なぜか、思い浮かんだその答えが間違っている可能性は全く思い付かなかった。
暖房が充分効いているはずなのに、身体が足元からすっと冷えていくような気がする。
両手に余る程の鉛を呑まされたらこうなるんじゃないか、と理由もなく思う。
染み出す重い毒に、じわじわと蝕まれていくような。
「……山ちゃん」
― 一度気付いてしまったら、もう目を逸らす事など出来ない。逸らしてはいけない、絶対に。