04/10/04 22:57:53 RvPhLcof
T君球場が興奮に包まれたその時です。T君のお母さんが静かにドアを開けました。
優しく微笑んでいました。ホッとしました。肉まんを2つお皿に乗せて持ってきてくれていました。
僕が「あ、すいません。」と言おうとしたその瞬間、
お母さんを押しのけてものすごい形相のT君のお父さんが飛び込んできました。
お父さんはこんな意味合いの事を怒鳴り散らしていました。
「この野郎!俺は朝から市場で働いて疲れてるってのに、眠れりゃしねぇだろ!」
そして、僕らの陰になっていたファミコンを見つけると、
さらに5倍ほど怒った顔になり、怒鳴り続けました。
「なんだこれはー!昨日ぶっ壊したのに、お前が買い与えたのかー!!」
お父さんは震える僕たちを尻目に、振り向きざまにT君のお母さんをぶん殴りました。
お母さんは飛びました。 肉まんも飛びました。お母さんが声を上げて泣きました。
比較的温厚な家庭に育った僕は、大人がお葬式以外で泣くのを初めて見ました。
このあたりのシーンは今でも克明に思い出します。
それでも収まらないお父さんは、僕のファミコンを掴むと床に叩き付けました。
何か、取れちゃいけなそうな部品が四方に飛びました。
そのいくつかが、もはや固まってしまった僕の前に転がりました。
あまりの出来事が、僕の頭の許容量を超えてしまったのか、
「こんな部品が入ってるんだ、ファミコンには。」 みたいなことを考えていました。
なんだか、とてもとても静かな広ーい広ーい部屋の片隅に僕がいて、
映画か何かを観ているような気分になっていました。
そして次の瞬間、T君が立ち上がりました。
「もうたくさんだよー!」 号泣、絶叫でお父さんにタックルをかましました。
僕はT君球場改め映画館から飛び出していました。