02/11/03 22:43
「どうしたの?そんなに濡れて…」
「…」
雨ではないものに濡れた黒い目が俺を見上げる。捨てられた仔犬のような、その悲しげな色。
「さっきも、そこにいたよね」
屋根のあるバス停。とはいえ、この時間バスはとっくに走っていないし
この吹き降りの雨に少年はずぶ濡れで、黒い髪の先からしずくまで滴っている有様で。
「…」
少年は答えない。
夜目にも白い、白すぎる顔色を心配して、俺は声をかけたのだが。
「…家、おくろうか?」
少年は力なくかぶりを振る。こちらの言葉がわからないわけではないらしい。
「…」
落ちた沈黙に先に耐えられなくなったのは、俺の方。
「…ああ、…その…俺んち、くるか?狭いけど、一人ぐらい、なんとでもなるから」
「…」
「何?」
少年のうす青い唇が、何か呟いたような気がして彼の顔を覗き込むと
「…僕のことなんか…僕のことなんかほっといてよっ」
俺の視線を避けて背けた頬のラインは幼げで、庇護欲(父性愛ではない)をそそる。
「…何言ってるんだ。こんな夜更けにこんなところで…風邪を引く…」
ついてくるようにと取った手は氷のように冷たく、なのに彼は意外なほどの力で俺の手を振り払った。
「僕が風邪を引こうと、死んでしまおうと、あなたには、関係なっ…」
はっと続く声を飲んだ彼の顔には、口を滑らせすぎたと書いてあった。