おにゃのこが改造されるシーン素体10人目at SFX
おにゃのこが改造されるシーン素体10人目 - 暇つぶし2ch100:名無しより愛をこめて
08/05/09 18:55:13 Iq5K17w50
>>99
びっくりしたw
なんか、maledictさん自らものすごいネタバレをなされたような気がするんですが気のせいですよね

へっぽこ探偵さん、どんなキャラでどんな活躍をされるのか、楽しみです
名探偵コナンの毛利小五郎みたいなのか、それとも破裏拳ポリマーの車錠みたいなのか
ふだんはダメダメでも偶然の行動が紗希ちゃんを助けてしまったりするんでしょうか

パピオマリオンの話からして、maledictさんは江戸川乱歩や古いミステリのファンでも
あるみたいなので、迷探偵がどんな迷推理をやらかすのか楽しみにしています

101:ダイレン
08/05/09 20:06:02 v83w26/SO
早速執筆開始しました


ヘルマリオンはBeefさんから始まり、作者の数だけ歴史分岐がありますね
蟻蜂フリークさんが書いた歴史だと由美ちゃんは悪側なのかなー、と考えたり
自分でも善サイドの改造を書くのは初めてです。エロパロでも被害者として弱い立場ばかりでしたし

102:名無しより愛をこめて
08/05/09 20:57:36 0TlVfhfB0
DNAから再生可能なら素体改造する理由がないよなあ。

量産が利くのと同義だもの。元はバックアップの為と後々の改良の為に残すよ。

103:名無しより愛をこめて
08/05/09 21:24:51 D0BvJYge0
DNAから再生できるのはしょせんクローンだからな
天然のクローンである双子の能力が同じでないのと同様
クローンを作っても決して同じ能力にはならない
経験や知識が違うんだもの
再生怪人を作る役には立つかも知れないが

104:名無しより愛をこめて
08/05/09 23:27:09 0TlVfhfB0
戦争は数だよ兄貴。ワンオフより量だよ。

105:ダイレン
08/05/10 00:44:58 IjZT2oAvO
しかし時には1人の、少数の強者が一騎当千をする

それこそがヒーロークオリティ

106:名無しより愛をこめて
08/05/10 02:06:01 wC016Lx+0
だが女怪人を作る際に重要視される要素はただひとつ「美貌」ではないのか
はっきり言って身体能力や知能はどうでもいい
それならばクローンだろうが何だろうがおk

107:名無しより愛をこめて
08/05/10 03:10:17 nY+09QLO0
>>35
>ここの1スレ目で話題になっていたブラックの「MADソルジャー計画」が
>あっちで紹介されたりなど、最近何だかわけが分からなくなりつつありますが

その「MADソルジャー計画」でエロ絵師(新貝鉄也と言えば特撮のキャラデザだと思うんだがw)が
描いた「ヒロインの全裸の改造シーン」の画像ほかが蜂女スレにうpされてるぞ!

108:名無しより愛をこめて
08/05/10 09:30:37 EItRhVDa0
>>106
いくら美人でも同じ顔ばっかりズラリではなあ…と思ったが
水野久美ばかりの惑星(♂はいらん)があったら行ってみたいと思うよなあ

109:名無しより愛をこめて
08/05/10 10:08:17 ODTpe2km0
>>106
身体能力に関しては持久力以外は♂の方が強いわけで
♀タイプは普通に考えれば篭絡用にしかならんと思う
だから♀タイプの怪人は美貌以外にも知能ってのが
重要なファクターになるかもしれん

110:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 10:11:29 7KhoNLms0
>>100
自分のイメージもその辺で(あと、キューティーハニーの早見とか)、
多分BeeF様もそうではないかと想像しています。
「ホラマー」みたいなエピソードがあっても面白いかもしれませんね
あと、蟻蜂様の作品のように警察を巻き込む展開になる場合、
クウガのおやっさんのような逆・立花藤兵衛状態(他の人が皆帆村みさきの
正体を知っているのに、探偵一人がそれを知らない)にもなりそうです。
色々あった紗希が唯一心を許せる好人物、と位置づけていて、
それゆえに最終回近くでの運命が気がかりになる人です。
で、「へっぽこ」の度合いとして
 1.人はいいがやることなすことドジばかり
 2.実は結構優秀なのだが、(多分、人のよさゆえに)いつもツメが甘い
のどちらがいいのか、迷っています。それぞれ一長一短な気がします

あと、乱歩やミステリは実はあんまり詳しくありません。詳しくないので、
その部分を一まとめに片づけられる設定をこじつけたということで

>>107
おお!「何度もヌイた」という例の書き込み以来、ずっと見たいと思っていました。
なぜかもう少しきつい顔の女性を想像していたのですが、清楚な感じで萌えです

111:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 10:32:29 7KhoNLms0
「『ディソルバー・サキ』第X話「砕かれた思い出」」投下行きます。
BeeF様と言えば鬼畜、鬼畜と言えばBeeF様、と自分は思っており(…誉めてます)、
その部分への自分なりのオマージュのつもりです。BeeF様による下記作品の後日譚、
第二弾(時系列では前作よりも前)です。まずこちらをお読みください。
URLリンク(wiki.livedoor.jp)
URLリンク(wiki.livedoor.jp)
かつての、心優しく勇敢な少女だった頃の沙耶ちゃんの姿を頭に刻みながら読むと、
悪堕ちギャップが楽しめるかもです。

6章構成で、章の切れ目の、規制がかかりそうなあたりで一度切るかもしれません。

112:名無しより愛をこめて
08/05/10 10:32:43 A25izO4aO
>>110
>「へっぽこ」の度合いとして

あとピンクパンサーのクルーゾー警部みたいに
3.実力はまったく無いんだけど悪運が異常に強くて、まぐれで事件を解決してしまう
というタイプもあるのでは?

113:砕かれた思い出1/思い出との再会(1/5)
08/05/10 10:33:55 7KhoNLms0
 帆村みさき、十七歳。獅子堂探偵事務所の助手。ショートカットに
眼鏡の、目立たない少女。だがその正体は常人をはるかに超えた能力を
駆使し、悪の組織「ヘルマリオン」と戦う女戦士「ディソルバー・サキ」
である。ヘルマリオンは彼女を改造した組織であり、その主要な構成員は
みな彼女のクラスメート。そんな過酷な運命の中、紗希は今日も戦い続ける。

 紗希には日課があった。週に一度、慎重に慎重を期しつつ、両親の
住む家の様子をそっと見に行くのだ。ヘルマリオンの手になる不穏な
事件は日々頻発している。平穏に暮らす両親がいつそれに巻き込まれるか、
紗希には気が気ではなかったのである。
 もちろん、両親の元に帰ることなどできはしない。脱走した紗希の
身元は組織の知るところとなっている。クラスメートも、双子の姉の
紗耶も、今やヘルマリオンの一員なのだ。それゆえ、紗希は両親の前に
現れて自分の無事を報告することも、自分や紗耶がたどった恐ろしい
運命を伝えることもできない。できるのはただ、敵の監視の目が光って
いるであろう自分の家を遠くから観察し、両親の無事を確認することだけだ。
 この程度の間接的な接触でも、両親や自分自身に危険を招き寄せる
可能性が皆無とは言えない。だが、紗希はにそれをやめることがどうしても
できずにいた。親子の情という自然な心の働きがそれを許さなかったのだ。
いざとなれば、やつらの攻撃を払いのければいい。幸い、自分は「仲間」の
中でもかなり高性能であるらしい。幾多の戦いでの勝利が、紗希に
そんな自信を与えていた。

114:砕かれた思い出1/思い出との再会(2/5)
08/05/10 10:35:07 7KhoNLms0
 その日も紗希は、深夜、自宅からやや離れた場所から両親の安らかな
寝息を識別し、安心して帰路につこうとしていた。だがそのとき紗希は、
家の周囲のどこかに、両親とはまた別の、聞き覚えのある息づかいを
感じ取った。その正体を明瞭に判別するよりも早く、紗希の心には懐かしく
心地良い思い出が数知れず湧きあがった。学校帰りの楽しい談笑、休日の
胸躍るショッピング、合宿先で夜通し語り合った興奮。そんな思いが
紗希の心を満たす。これは、この感じは…
 紗希は暗闇の中で超感覚を働かせた。そしてすぐ、人通りのない路地裏に、
かつての懐かしい親友の姿を確認した。相良ちさと。中学時代からの
紗希の大親友。どちらかというと内向的な紗希に対して、快活で活動的な
性格で、その正反対の部分が、互いの間に尊重や支え合いを生み出す。
そんな、互いにとってかけがえのないよき友が紗希とちさとであった。
 …だが、それはあくまでも、あの悲劇が起きる前までの、遠い過去の
記憶だ。あの日以降のちさとは、もはやかつての陽気で快活な少女では
ない。ヘルマリオンの手でその脳に人工頭脳を埋め込まれた、恐るべき
人類の敵、悪魔の操り人形、モルフォ蝶のソルジャードール・パピオ
マリオン。それが今のちさとである。たしかに目の前に横たわっている
ちさとは人間の姿をしている。だが、これはあくまで擬態であり、真の
姿ではない。それはちょうど「変身」前の紗希あるいは帆村みさきの姿が
本来の姿ではなく、あくまで仮の姿であるのと同じだ。
 だが、ちさとの様子は明らかにおかしかった。呼吸が不規則で、今にも
消え入りそうだ。目をこらすとすぐにその原因が分かった。腹部に大きな
穴が空き、大量の体液が流出した形跡があるのだ。
 紗希は悩んだ。紗希の「感情」は、目の前の傷ついたかつての友を、
安全な場所に運び介抱すべきことを告げる。他方、紗希の「理性」は
それに反対し、今こそ、恐るべき敵の息の根を止める好機である、と
訴える。どうしたらいい?どうしたらいいのか…

115:砕かれた思い出1/思い出との再会(3/5)
08/05/10 10:36:19 7KhoNLms0
 結局、紗希は人としての情に従った。衣服を脱ぎ、ディソルバー・サキ、
あるいはミツバチの改造人間、ソルジャードール・ビーマリオンの姿に
「変身」し、文字通り「虫の息」のちさとを抱き、夜明け前の空を飛翔し、
アパートの自室に戻ったのだ。
 自室に戻った紗希は、苦しみ続けるちさとを布団に寝かせ、自らの
乳首をちさとの口に含ませている。体内に、ヒーリングハニーと呼ばれる
物質を送り込んでいるのだ。ヘルマリオンによる一時的な洗脳を解く
など、各種解毒作用・回復作用があり、また高純度の栄養剤でもある。
但し、ちさとに組み込まれた人工頭脳の呪縛を解くまでの効果はない。
 「授乳」が終わると、ちさとの途切れそうな息が少しずつ回復を始めた。
あとは改造人間の驚異的な回復力が、腹部の穴すら急速に塞いでいくはずだ。
 半ば衝動的に治療を終えた紗希は、冷静になり、そしてため息をついた。
どうしよう。息を吹き返したらやはりちさとと戦い、結局は殺してしまう
ことになるのだろうか。だとしたらなぜ自分はあのままちさとを死なせ
なかったのか?
 …説明などできない。それが人間というものだ。脳をいじられなかった
自分と紗耶たちとの違いはそこにこそあるのだ。そう言うしかない。
 しばらくして、ちさとがうっすらと目を開ける。紗希は緊張し、そして
「変身」を解いてしまったことを軽く後悔する。ことによると直後に
戦いが始まるかもしれない。この姿では十分に戦えない。
 だが、目を開けたちさとは予想外の反応を示した。一切の邪悪さから
解き放たれた目で紗希を見つめ、童女のような口調でこう問いかけた
のである。
「おねえちゃん、だあれ?」

116:砕かれた思い出1/思い出との再会(4/5)
08/05/10 10:36:54 7KhoNLms0
 あれから三日がたった。ちさとの傷はかなり回復した。そして紗希は
ちさとの身に起きた異変の概略を知った。
 ちさとは記憶を失っていた。改造されてからのことも、改造される前の
ことも、ほぼすべての思い出を失っている。ちさとに残っている断片的な
記憶は、例えば「ふと気が付くと自分が恐ろしい怪物に変わっていて、
怯える自分を、やはり怪物になった友達が追いかけてくる夢」であり、
また「怪物になった自分が、体に手を差し込み、何かのカプセルを抜き
取っている夢」であった。それは「夢」ではなく、ちさとが力尽きて
倒れる直前までの記憶に違いなかった。つまり、ふとしたきっかけで
脳改造の呪縛から解き放たれたちさとは、自我の覚醒と共に発動する
自爆カプセルを自ら摘出し、追っ手の攻撃を受けつつ、必死に脱走して
きた。そして追っ手はまいたものの、力尽きてあの場に倒れ込んで
しまった。そんな経緯を、その「夢」は指し示していた。実際、今の
ちさとからは、ソルジャードール固有の凶暴な破壊衝動や、ヘルマリオンの
命令への強烈な忠誠心などの禍々しい爪跡は消えていた。記憶は失った
ものの、脳改造が解除されているのは間違いなさそうだった。
 やがて、幼い子供のように紗希にすがるちさとを見て、紗希の心に
一つの決心が芽生えた。ちさとの思い出を取り戻してあげよう。ちさとが
もとのちさとに戻ったら、彼女の意志を聞く。もしも一緒に戦う決意を
してくれたら、こんなに心強い味方はいない。もし戦いに背を向け、
安息と隠遁の道を選ぶなら、それもやむを得ない。それは十七の少女
としては当たり前の選択だ。むしろ恐ろしいのは、自分自身が何者か
という自覚もないちさとが、何も分からないまま自分と一緒に戦うと
言い出すことだ。そんな状態は人形と同じだ。そんなちさとを戦いに
追いやるとしたら、自分自身が、ヘルマリオンと同じ穴のムジナに
なってしまう。紗希はそれを避けたかった。

117:砕かれた思い出1/思い出との再会(5/5)
08/05/10 10:39:06 pEkVjd3pO
 とりあえず、明日の休日、変装して二人の思い出の場所を巡ってみよう、
と紗希は思った。そうすればちさとは過去を思い出すかもしれない。
それはまた、あの事件以降音信を断ってしまった親しい人々の安否を、
紗希自身が確かめられるかもしれない、またとないチャンスでもあった。


118:砕かれた思い出2/狂乱の放課後(1/5)
08/05/10 10:40:28 7KhoNLms0
 最初に向かったのは二人が通学路にしていた学校近くの公園だった。
休日らしく、子供連れや、カップルや、犬を連れた人々が行き来する
平和な場所。
 かつて通ったルートを同じように巡り歩く。その途上、紗希は懐かしい
知人を見かけた。あわてて目を背けようとした紗希の動作がかえって
先方の興味を掻き立て、こちらに注目させてしまうことになった。
 知人とは、二人が属していた文芸部の部長をしていた、樫輪聡美と、
その同級生佐堂滝彦である。二人とも新本格ミステリとライトノベル
専門の読書家で、八十年代以前の小説は一冊も読んだことがない、と
豪語していた。だがその読書量と速度はすさまじく、このジャンルに
属する膨大な作品をあらかた読み尽くしており、また授業中に分厚い
京極堂シリーズあたりを丸一冊読むなどはざらだった。しかも読書は
授業中と決めているらしく、休み時間や放課後には一切読書はせず、
部室に来るとトランプを始めながら「今回のは長くて、部活が始まる
までに読み終わるかどうか、焦った」などと、わけのわからないことを
言う。そんなことをしながらも二人とも成績はそこそこ上位というのも、
なおさらよくわからない。
 佐堂は紗希の初恋の対象であった。だがその恋は、強力なライバル
である聡美の存在によってあっさり潰えた。一方、聡美はちさとの憧れの
女性であった。聡美は多芸で、慰みに書いた小説がある新人賞の最終選考
にまで残ったことがある。中学時代「ラノベ作家になってひと山当てる」
という、がめついのかロマンチックなのかよくわからない夢をもって
いたちさとは、その夢が醒めた後でも、華やかで多才な聡美に憧れる
のはやめなかったのである。

119:砕かれた思い出2/狂乱の放課後(2/5)
08/05/10 10:41:34 7KhoNLms0
 紗希はなんとか他人のふりを貫こうとして、足早に通り過ぎようとした。
だが、眼鏡や帽子による変装にもかかわらず、結局聡美たちは二人の
正体を見抜いたようだ。振り切って逃げ出すかどうか紗希が迷っていると、
いきなりちさとがうれしそうな顔になり、大きな声を上げた。
「かしわせんぱい!」
 ちさとの記憶が断片的にであれ戻ったことを知った紗希は、足を止め、
公園のベンチに他の三人を誘った。
 聡美たちは揃っていわゆる一流大への進学が決まったらしい。また、
明言はしないが、二人は本格的につきあい始めているようだ。そんな
近況を語った聡美が、今度は二人に質問する。
「で、紗希とちさとは?どうしているの?……何が、あったの?」
いっとき世間を揺るがせた女子高生大量失踪事件の被害者二人が、変装
しながら公園を散歩しているのだ。興味を持たない方がおかしい。
だが、うまく言い出せずに黙っている紗希を見て、聡美たちは深く
詮索するのをやめる。
「まあ、あの後、もっと信じられない事件が毎週のように起こるように
なって、あなたたちの件も世間では忘れられてるんだけどさ。やっぱあれ?
国際的な陰謀団とか?あは…」
 紗希たちに何か込み入った事情があることを察し、深く立ち入ろうと
せず、冗談めかして話してくれる聡美が紗希にはありがたかった。それは、
ただならぬ事態に巻き込まれることへの、本能的な警戒心の表れだった
のかもしれない。だが、こうしてくれている限り、この二人をこれ以上
巻き込んでしまうことはないだろう。

120:砕かれた思い出2/狂乱の放課後(3/5)
08/05/10 10:42:35 7KhoNLms0
 ちさとはにこにこしながら憧れの人を見ている。それを見た紗希も、
思い切って先輩たちと話してよかった、とうれしい気分になった。だが
そのとき、聡美の横で笑顔で座っていた佐堂の様子が急変した。突然目が
うつろになり、わけの分からないことを言い出したのだ。
「いんぼうはいやだ!いんもうもいやだ!いんぼうはいやだ!
いんもうもいやだ!…」
そして立ち上がると、前を駆けていく幼女を追いかけて走り出し、幼女を
捕まえるとその下着を脱がせようとし始めた。悲鳴を上げる聡美。
 佐堂がおかしな薬をやっている可能性はなくもなかったが、十中八九
ヘルマリオンの仕業と見てよかった。遅発性の洗脳を施されたか、遠隔距離
から狙撃されて薬剤を注射されたか、何かその種の細工をヘルマリオンに
施されたのだ。
 紗希は佐堂のもとに駆け寄り、羽交い締めにしようとした。だが、
ヘルマリオンの薬のせいか、佐堂は常人離れした力で抵抗する。やむを
得ず紗希は最終手段を決意して、乳房を露わにし、それを佐堂に含ませる。
ヒーリングハニーによって佐堂を正気に戻そうというのである。
 ヒーリングハニーの浸出は、紗希の擬態、つまり人間としての姿を
維持することを許さなかった。徐々に異形化していく紗希。その衣服は
めりめりと破れかけている。それでも、この場が収まれば…。
そう思い、紗希は一心に、かつて恋した先輩に蜜を飲ませ続けた。
 だが、蜜を飲んだ佐堂は予想外の反応を示した。洗脳が解けるどころか、
さらに狂乱の度合いが増したのである。加えて、あろうことか、その
前頭部が破裂し、大脳のかなりの部分が飛び散った。そして、代わりに
頭蓋内にむくむくと形成されてきた人工頭脳がその肉体を支配した。
やがて肉体の変形も始まり、最終的に佐堂は、鋭い爪と牙を備えた、
両生類程度の知能しかない凶暴な野獣、マリオンビーストと化して
しまった。

121:砕かれた思い出2/狂乱の放課後(4/5)
08/05/10 10:43:27 7KhoNLms0
 ヒーリングハニーはもともとヘルマリオンが開発した薬剤である。
いつまでもそれが通用すると思っていた紗希が甘かったのだろう。
ヒーリングハニーを触媒にして人間を凶暴な怪物に変える技術を、
ヘルマリオンは開発したに違いなかった。
 怪物と化した佐堂は、泣き続けている幼女に今にも飛びかかろうと
している。おそらく今度は下着に手をかけるだけでは済むまい。鋭い爪と
強力な腕は、幼女を一瞬で肉塊に変えてしまうに違いない。大脳が飛び
散った佐堂を元に戻す手だてはない。やむをえない…。紗希は衣服を
脱ぎ捨て、完全に変身すると、変わり果てた佐堂に、乳房から発射される
高速の針、ビースティンガーを打ち込んだ。全身ハリネズミのように
なった、紗希がかつて憧れた男性は、血を吹き出しながら倒れ、息絶えた。
 ふと見ると、そんな紗希を聡美とちさとが恐怖の目で見つめていた。
彼女たちの目には、紗希が異形のものに変身し、佐堂を凶暴な怪物に
変え、その上で佐堂を惨殺したように見えているに違いない。いや、
佐堂が狂乱し幼女を襲い始めたこと自体、紗希のせいだと思われている
可能性も大きい。紗希が目を向けると聡美は悲鳴をあげて逃げ去り、
ちさとは腰を抜かしてその場にへたりこんだ。
 紗希は脱ぎ捨てた衣服を拾い、ちさとを連れて逃げ出した。幸い、
四人が話をしていたのは公園の奥まった場所だったので、逃げ出した
親子連れ以外、誰もいなかった。紗希は人目につかないところで変身を
解除し、衣服を着ながら、ちさとの誤解をどうにか解こうとした
―自分は気が狂いかけた佐堂先輩を救おうとした。あなたの命を助けた
あの蜜で。しかしその蜜に効き目はなく、佐堂先輩は完全に怪物化して、
女の子を殺そうとし始めた。やむをえず自分は先輩を殺した―
そんな説明を一生懸命ちさとに語った。

122:砕かれた思い出2/狂乱の放課後(5/5)
08/05/10 10:44:46 pEkVjd3pO
 ちさとは怯えながらも素直に聞いていた。あの蜜が悪いものである
はずがない、という思いが、蜜を飲みながら治癒したちさとの無意識には
深く刷り込まれている。それが幸いしたようだ。最終的にちさとは、
紗希が、その異形にもかかわらず、自分の味方であると納得してくれた。
 …でもまだ、この子に真相を告げるのは早い。今や、ちさと自身も、
自分の同類になってしまっていることを…。紗希はそう思った。

123:砕かれた思い出3/甘味処の惨劇(1/3)
08/05/10 10:46:21 7KhoNLms0
 それから紗希は、ちさとを連れ、予定通り、二番目の目的地である
あんみつ屋に行くことにした。和やかに甘味を味わうムードではなかった
のだが、紗希としては、どこかに腰を落ち着けてこの後のことを考え
たかったのだ。また、ヒーリングハニーを分泌した体が猛烈に糖分を
欲している、という事情もあった。
 店に入ると気さくな店主が声をかけてくるが、どうやら変装はばれて
いない。だが、ほっとした紗希が奥へ進むと、店の片隅にいた見知った
女性が、驚いた目で二人を認めた。一瞬で変装を見破ったらしい。
 女性の名は、文芸部顧問の女教師久家月子。「くげ つきこ」と読む。
二十代後半で、教員になる前は大学院で日本の中世・近世文学の研究を
しており、未だに学会誌に論文を発表している。ミステリファンでも
あり、明治期以降の探偵小説とそれ以前の文学との精神史的連続性、
というテーマが永年の研究課題だ。優秀な研究者だったのに大学に
残らなかったのは、欲得ずくのポスト争いに嫌気がさしたためだという。
少なくともこのジャンルでは、学内政治に奔走している教授たちより、
在野の研究者の方がよほど資料をたくさん読んでいるし、いい研究を
している、というのが口癖だった。文芸部員にしては珍しく「優等生」
である二人を月子は可愛がり、放課後三人で甘味を食べに行く仲だった。
この店に三人でよく入っては、文学談義を交わしたものだった。
 入った店を出るわけにも行かず、紗希は観念して月子の前に座った。
月子もまた、二人を見て騒ぎ立てたりせず、目立ちたくない、という
こちらの意向を察してくれているようだった。そしてやわらかな微笑を
浮かべながら、黙って二人を交互に見つめていた。そんな月子を見て、
ちさとが声を上げた。
「せんせい!せんせい!おひさしぶりです!」

124:砕かれた思い出3/甘味処の惨劇(2/3)
08/05/10 10:47:22 7KhoNLms0
 ちさとは月子を思いだしたようだ。その目には涙が浮かんでいた。
紗希は、ここに来てみて本当によかったと思った。先生の変わらぬ元気な
姿を確認でき、ちさとの記憶もまた一つ戻ったからだ。
 だがそのとき、店の奥で悲鳴が聞こえた。紗希たちの直後に入ってきた
客がヘルマリオンの戦闘員・プペロイドの正体を現し、店内を破壊し
始めたのである。内装ばかりでなく柱や壁までたたき壊し、さらに厨房に
向けて異臭を発する液体を放ち始める。液体を浴びた店主と何人かの
客が、恐ろしい悲鳴をあげながら溶解していく。パニックに陥る店内、
逃げ出す客。凶行を終えたプペロイドたちは速やかに退却を始めた。
 あっというまの惨劇を前に、紗希は一瞬唖然として固まってしまった。
だがすぐに我に返り、後を追わねばと判断した。その肉体は半ば反射的に
「変身」しかけていた。だが、店を出ようとした紗希の背後から、
月子の悲しそうな、憤りを込めた声が響いた。
「…紗希ちゃん、あなたも逃げるの?あの化け物たちは、あなたの
『連れ』なの?正直に言って!…先生、知っているのよ。警察や政府から
何回か照会を受けて、自分なりに調べてみたの。あなたと同じ、あの
サマースクールで失踪した子とよく似た子たちが、今回みたいな奇怪な
事件に関連して、何度も目撃されているのよ。ねえ、教えて。あなた
たちに何があったの?」
 紗希は急に悟った。月子が先ほど見せた、妙に物わかりのよい態度は、
いわば「腫れ物に触る」ような慎重な態度だったのだ。月子の心に、
懐かしさ、再会を喜ぶ心、といった感情がなかったわけではないのだろう。
だが、それと同程度に、月子の中には、紗希とちさとが何か恐ろしい
集団の一員として活動しているのではないかという疑惑もまたあったのだ。
その葛藤が、彼女のあの過度に穏やかな対応につながったのである。

125:砕かれた思い出3/甘味処の惨劇(3/3)
08/05/10 10:48:23 7KhoNLms0
 異形化しつつある紗希の姿を見る月子の目は、今や猜疑と恐怖の方へと
強く傾きつつあった。異臭の漂う店内の中、紗希は、プペロイド追跡を
諦め、月子に詳しい経緯を話す決意を固めた。
 だがそのとき、やはり店を出かかっていたちさとが、紗希の袖を引き
ながら言った。
「サキ!何やってるの!行くよ!」
 ちさとは我慢できないという様子で、外に飛び出した。プペロイドを
追いかけようとしているのだ。一人で追わせるわけにはいかない。今の
ちさとはやすやすと奴らに捕まり、組織に連れ戻されるか、あるいは
ただちに抹殺されてしまうに違いない。紗希は、深い猜疑心を湛えた
目を向けてくる月子に一礼すると、慌てて後を追った。
 ちさとは無邪気な憤りを込めた口調で言う。
「よくも、おじさんの大事なお店と、おじさんを!追いかけて、変身して、
あいつらをやっつけてよ!サキ!正義の味方なんでしょ!」
 だが、プペロイドはもはやどこにいるかわからなかった。あきらめて
恐る恐る店の方へ戻ると、すでに警察が駆けつけている。そして月子の
姿はどこにもない。
 月子は今頃、自分とちさとがプペロイドの仲間として、やつらと一緒に
逃走したと判断しているだろう。そう思った紗希の気持ちは暗く沈んだ。

126:砕かれた思い出4/古書肆崩壊(1/4)
08/05/10 10:50:25 7KhoNLms0
 紗希は途方に暮れていた。このまま部屋に帰るべきなのだろうが、
部屋に帰ったからといって、自分とちさとがこの先どうすればいいか、
はっきりした答えは見つからなそうだった。
 それで、紗希は予定通り駅に行き、電車で一時間ほどかかる、三番目の
目的地へと向かった。そこには、相談しさえすれば、今の状況の中で
最善のアドヴァイスをくれるであろう、希有な人物がいるのである。
 その人物とは、紗希のかつてのアルバイト先である古本屋の女店主、
四谷志摩子である。二十代後半、独身。大学卒業後、OLを数年勤める間、
運か才能か、デイトレードで巨額の儲けを得て、それを機に退社し、
株からも足を洗う。そして、商店街の外れ、住宅地の入り口に小さな
一軒家を買い、その一階にマニアックな品揃えの古書店を開き、以後
そこに籠もって売り物の本を端から読みふける生活をしているという、
変わった女性だ。欧米のミステリに関して信じられない博覧強記を示し、
紗希の憧れの一人である。
 実は紗希は、ヘルマリオン脱走後、この人物に相談しようかという
思いを何度となく抱いた。だが、無関係の人を恐ろしい戦いに巻き込んでは
いけない、という懸念が何度もそれを押しとどめたのだった。しかし
今回紗希は、とうとう彼女に相談する決意を固めた。彼女がちさとの
叔母であるという事情も、それを後押ししていた。
 ちさとを連れ店に入る。失踪した二人の突然の出現に、当然ながら
驚く志摩子。紗希が言う。
「すみません。声を上げないで下さい。事情はこれから詳しくお話し
します」

127:砕かれた思い出4/古書肆崩壊(2/4)
08/05/10 10:51:27 7KhoNLms0
 聡明な女性らしく、素直にうなずく志摩子を指し示し、紗希はちさとに
尋ねる。
「ちさと、この人に見覚えは?」
 実の叔母を前に、ちさとは首を振る。紗希は、ちさとのその様子を
志摩子に見せる。二人がただならぬ状況に置かれていることはそれだけ
でも十分に伝わった。例によって客が誰もないことを確認すると、
紗希は話し始める。
「志摩子さん、聞いて下さい。ちさとも聞いて。もう、いつまでも隠して
おけない。ちさと自身にもかかわる、大事な話をこれからします」
 そうして紗希は、ヘルマリオンによるクラスメートの拉致と改造、
紗希の脱出、その後の、かつての友とのつらく悲しい戦い、ちさととの
再会、それらを順を追って話した。
 想像を絶する非現実的な話を、志摩子は強靱な知的胃袋で飲み込み、
かみ砕き、消化していった。その様子を目にしながら、やはりこの人に
相談したのは正解だったと紗希は思った。
 やがて志摩子は腕を組んで目を閉じ、深い思索にふけり始める。それは、
紗希にとって頼もしい姿だった。こうして沈思黙考した果ての志摩子が
次に目を開けるとき、必ずや何か、現状を少しでもよくするいい考えが
その口から発されるのだ。
 その一方、紗希は、ちさとにこの話を聞かせてしまったのは時期尚早
であったらしい、と後悔し始めた。ちさとは、話に登場する、「サマー
スクールで拉致され、改造人間にされた女子高生」の中の一人が自分で
あることを察している。話が進むにつれ、ちさとの顔面は蒼白になって
いった。

128:砕かれた思い出4/古書肆崩壊(3/4)
08/05/10 10:52:29 7KhoNLms0
 紗希が、店内に侵入したトンボ型の小型殺人兵器を発見したのは
そのときだった。いけない!このままだと数秒後に志摩子さんは火だるまに
なって死んでしまう!恐慌に駆られた紗希は、あわてて服を脱ぎ、
変身した。そして、すんでの所で志摩子の命を救った。
 だが、救われた志摩子の命は代償を要求した。殺人兵器の攻撃が
逸れ、店の片側の壁にある本棚一面が炎上したのである。
 ほぼ同時に、ちさとの悲鳴が響いた。
「いやあぁぁぁ!何?これ?これがわたし?いやよ!いや!こんなの
わたしじゃない!!いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
 見ると、ちさとの擬態が解除され、パピオマリオンの姿に戻っていた。
記憶回復の副作用に違いなかった。
 志摩子が目を開いたのはそのときだ。彼女の目に映ったのは何だったか?
炎上する店内。そしてその中にたたずむ二体の、人間と昆虫の合体した
ような異形の生物。
 すべてを聞き、すべてを理解していた志摩子には、目の前で何が
起きたのかを正しく推理することは決して不可能ではなかったはずだ。
だが、それはあくまで、志摩子が冷静な理性を備えていればの話だ。
そのときの志摩子は違った。命よりも大事な本が炎上する姿を見て、
理性も分別も吹き飛んでいたのだ。その心はただ、異者を排斥するという、
人間のもつ暗い原初的な衝動に支配されていた。
「何を!何をやった!この化け物!!」
 逆上し、般若の形相で紗希をにらむ志摩子。

129:砕かれた思い出4/古書肆崩壊(4/4)
08/05/10 10:53:30 7KhoNLms0
 そのとき、やはり錯乱したちさとが、志摩子の怒りが伝染したので
あろう、紗希をにらみつける。
「あなたのせいなの!?そうなのね!全部あなたがやったのね!友達の
ふりをして、おばさんのお店をめちゃめちゃにして!わたしをこんな
化け物の仲間に変えたのも、あなたがやったんでしょ!?この化け物!
化け物!」
 違う、違うの!本能的に目をつぶり、耳を覆う紗希。…だが、冷静にも、
一瞬後に紗希は気づいた。こんなことをしている場合じゃない。今は
この建物から二人を連れ出して逃げなければ!生身の人間と、怪我の
回復しきっていない改造人間。この無力な二人を連れ出す能力と義務が
わたしにはあるんだ!
 だが、決然と目を開いた紗希の前から、なぜか二人は姿を消していた。
店のどこを探してもいない。紗希が目をつむり、耳を覆った一瞬の内に、
二人ともどこかへ逃げ出した―あるいは、何ものかに連れ去られた。
そうとしか思えなかった。
 誰かが呼んだらしい消防車の音を耳にした紗希は、変身を解き、脱いだ
衣服を大急ぎで着込むと、その場を後にした。

130:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(1/16)
08/05/10 11:02:03 pEkVjd3pO
 紗希は今や、今日の一連の事件が、自分とちさと双方にゆかりのある
場所や人物を標的にしていることに気づいていた。ならば次に狙われる
のが、二人の次の目的地でもある、紗希たちの家である可能性は大きい。
その家は、中学時代にちさとが足繁く通った場所でもあるからだ。
 紗希の父は普通のサラリーマンだが、母の紗羅は、名所旧跡を舞台に
した軽いミステリーを年に何冊か書く作家である。若い頃の文学少女の
プライドが邪魔してか、通俗ミステリの中に突然、場違いな実験的手法
やら難解な表現やらを挿入する癖が抜けず、そのせいで、コアなファンは
つくものの、大ヒットには今ひとつ及ばない。
 そんな紗羅のもとに、中学時代のちさとが家出して、押しかけ弟子入りに
来た。もちろんすぐに家に連絡が行って連れ戻されたのだが、その後も
ちさとは、作家志望の夢を諦める…というよりは、熱が冷めて飽きるまで、
紗羅のもとへ通い続けた。それがもとで紗希とちさとの友情が始まり、
結局同じ高校に進むことにもなったのだ。


131:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(2/16)
08/05/10 11:03:04 7KhoNLms0
 紗希が駆けつけたとき、家にいるはずの母はおらず、居間の中央に、
ズボンをぐっしょりと濡らし、茫然自失となった父だけが取り残されていた。
 紗希の姿を見た父は、うつろな目ににわかに恐怖の色を濃くし、
わめきながら紗希に向かい、凶器のようなものをかざした。
「来たな!紗耶の化け物が言っていたぞ。おまえもあいつらの仲間
なんだな!この化け物!化け物!おまえなんか娘じゃない!」
 目を見開き、真っ青な顔で凶器を振り回す父の言葉を聞き、紗耶は何が
起きたかを悟った。紗耶が来たのだ。そして、母を拉致した上、なにか、
とてつもなく異常で残酷な仕打ちを父に与えたのだ。
 ヒーリングハニーを飲ませれば、この狂乱は静まるだろうか。薬物や
装置による洗脳以外にあの蜜を用いたことはないが、ある程度の治癒は
期待できそうな気がする。だが、佐堂と同様のトラップが父にも仕掛け
られている可能性は大きい。紗希には、とても使う勇気はなかった。
 父は凶器を振り回し、こちらに近づいてくる。
「おまえもか!おまえもぼくにあんなことやこんなことをするんだな!
わはははは。やめろう!やめろう!」
 いったい紗耶は実の父親に何をしたというのか。子供のような口調で
わめきながら振り回す凶器が肩口をかすり、肩の肉がひとかけら切断
される。そしてようやく、父の振り回している凶器が、ただの棒ではなく、
ヘルマリオンの超兵器であることを知る。紗耶がわざと落としていったに
違いない。こんなものを未変身の状態で受けたらかなり危険だ。そう
思った瞬間、正面から父の一撃が迫った。慌てて紗希は服も脱がずに
変身する。変身と共に周囲に布の切れ端が散乱し、その中から、
ミツバチと人間の合体したような奇怪な生物が姿を現す。

132:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(3/16)
08/05/10 11:04:10 7KhoNLms0
 変身した紗希を見て、父は狂乱の度合いをさらに深めた。
「ひゃはははは!やっぱりだ!このやろう!紗耶を返せ!紗希を返せ!
ひょう!わひゃぅ!」
 もはや意味のない言葉を口から垂れ流しながら、ぐるんと父の目が
裏返った。そしてそのまま父は、超兵器を自分自身の首に当てた。父の
首が床に転がり、大量の血が居間の絨毯を黒く染めた。
「いやあぁぁぁ、お父さん!お父さん!」
 紗希は絶叫した。

 長い絶叫の後、我に返った紗希は、背後に人の気配を感じた。振り向くと、
後ろにはパピオマリオンの姿のままのちさとがいる。遠くから様子を
見るだけの予定とはいえ、この家を第四の目的地に決めていたのだから、
現れても不思議はなかった。
 ちさとはまた一つ記憶を取り戻したようだ。かつて、実の父のように
慕っていた紗希の父親の首を手に取り、それを見つめながら、紗希の
肺腑をえぐるような残酷な言葉を、その言葉の含意には気づかない様子
のまま、発した。
「おじさま…ひどい表情!何か、よほど恐ろしいものを見てしまったのね。
可哀想なおじさま…」
 父の死はもとをただせばヘルマリオンのせい、さらに言えば紗耶の
せいだ。だが、父の死の直接の原因は、紗希の変身を目の当たりにした
ことにある。ちさとの言葉は、その紗希の行動を責め立てているよう
だった。少なくともその言葉は、そのような意味をもって紗希の心に
突き刺さった。

133:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(4/16)
08/05/10 11:05:11 7KhoNLms0
「やめて!やめて!仕方がなかったのよ!仕方がなかったのよ!」
紗希は地面に突っ伏し、頭を抱えはじめた。
 すると、うずくまり続ける紗希の上から、トーンの異なる冷酷な声が
響いた。
「それがヘルマリオンに背いた報いよ。紗希、いや、ビーマリオン!」
 見上げるとそこにいるのは、もはやちさとではなかった。その表情に、
もはや先ほどまでの無邪気な面影はない。そこに浮かんでいるのは、
ソルジャードール特有の記号的で冷ややかな笑みだった。
「ふふふ。いいもの見せてあげる」
そう言ってちさとがスイッチを入れたテレビに、ヘルマリオンのアジトと、
その中に囚われた四人の女性が映し出された。六十倍速の再生速度だが、
紗希の改造された知覚系はそこに含まれた情報を漏れなく受容した。

134:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(5/16)
08/05/10 11:06:12 7KhoNLms0
 最初に現れたのは聡美の姿だ。だまされて連れてこられたらしく、
プペロイドによる拘束はない。
 聡美の目が、部屋の中にいる紗耶の姿をとらえる。緊張した面持ちで
紗耶を見つめる聡美に、やさしく微笑みかけて紗耶が言う。
「あ、樫輪先輩!お久しぶりです!」
「沙耶ちゃん?本当に沙耶ちゃん?妹さんが…妹さんが…」
「妹が、どうかしたんですか?」
「さっき、妹さんが、化け物に変身して…いえ、違うわね…妹さんに
化けた怪物が現れて、佐堂くんを狂わせ、化け物に変えたあげくに
殺してしまった。そしてわたしも襲われかけたの!そうして逃げ出したら、
政府の機関の人が、この場所なら大丈夫、あの怪物なら心配ない、
我々が引き受ける、と言って、ここにかくまってくれたの。あなたも
ここに保護されていたのね?政府の人から何か聞いていない?
あの化け物は何?」
「…先輩、化け物も結構素敵ですよ。わたし、先輩にも是非仲間に
なって欲しいな」
 そう言うと紗耶は擬態を解きホーネットマリオンの姿になる。同時に
現れたプペロイドたちが聡美の衣服をはぎとり、手術台の上へ運ぶ。
均整のとれた裸身をはりつけにされながら、聡美は狂乱の悲鳴を上げている。
「三十分後には、先輩も『化け物』の仲間入りよ。そしてその四十分後
には、『化け物』になれたことを、わが母なるヘルマリオンに、心から
感謝するようになっているわ」
「いやぁ!放して!放して!化け物なんていやよぉ!!」
 その声が改造装置へ消えていく。

135:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(6/16)
08/05/10 11:07:13 7KhoNLms0
 月子が紗耶の話を聞いている。やはりここを政府機関の施設だと
思いこんでいるようだ。
「…色々と調べていたつもりではいたけど、まさか、そこまで恐ろしい
組織だったなんて…。…じゃあ、紗希ちゃんは、その『ソルジャードール』
にされてしまったの?」
「まあそうなんだけど…そこのとこの事情はちょっとこみ入っているの。
いずれにしても、これ以上の話をするにはそれなりの準備がいるわ」
 紗耶はそう言いながら擬態を解除する。同時に、いつのまにか月子の
背後に回っていたプペロイドたちが月子を拘束し、その衣服をはさみで
切り裂く。月子は悲鳴を上げて抵抗を試みるが、それも空しく、すべての
衣服を剥かれて手術台に固定され、すらりとした裸身をむきだしにされる。
 手術台の上の月子に、ホーネットマリオンになった紗耶が話しかける。
「先生、もう探偵まがいの調査なんてしなくていいのよ。もうすぐ、
先生は組織の全貌を知ることになるわ」
 恐怖と当惑に包まれた月子が、変容した紗耶を見上げ、問いかける。
「沙耶ちゃん…あなたがソルジャードール?いったい、何がどうなって…」
 紗耶は愉快そうに説明する。
「何か勘違いしているみたいだけど、ここは、先生が調べていた組織、
ヘルマリオンのアジト。わたしは栄誉あるその一員。そしてわが組織には
鉄の掟がある。組織の秘密に深く立ち入った者は、組織に入り、組織に
忠誠を誓うか、死あるのみ。死ぬのはいやでしょ?だから、あれ以上の
情報が得たければ、こうするしかないのよ。よかったわね。晴れて望みが
かなうわけね」

136:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(7/16)
08/05/10 11:12:44 pEkVjd3pO
 月子は手術台の上で泣き叫ぶ。白い肉体の全面を鳥肌が覆う。
「いや!そんなの望みじゃないわ!いや!いや!放して!」
「もうすぐ『いや』じゃなくなるわ。脳改造が済めばね。だから
それまで、あんまり駄々をこねないでね」
「いやよぉ!それがいやなのよぉ!いや!いや!」
 月子が涙をぽろぽろとこぼし、もがきながら改造装置に運ばれていく。
その後、古本屋店主と、紗希と紗耶の母親も順に、各々の成熟した美しい
裸身を手術台に固定され、悲痛な絶望の叫びをあげながら同じ運命を
たどっていった。


137:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(8/16)
08/05/10 11:13:20 7KhoNLms0
 装置から排出された彼女たちの外見は、ソルジャードールやプペロイド
とは異なるコンセプトの生物兵器だ。聡美は、顔の上半分が半透明の
プラスチックのマスクのような形状に変形している。プラスチックの
下は、金属繊維のようなものに覆われている。両手両足は鉄の輪が
連なったような形態、胴体は鋼鉄色をしているが形態は全裸の人間体
そのままで、股間には豊かな恥毛が生える。月子は、顔の上半分が
青銅の仮面のようなマスク。両腕両足も青銅のような固い装甲に覆われ、
胴体は、青銅色である以外はその豊かなプロポーションをそのまま
とどめた、全裸の人間体。股間の豊かな恥毛も聡美と同じだ。志摩子は
全身が紫と緑と黄色の縞模様の、爬虫類のような皮膚に覆われ、顔の
上半分は銀色のマスクのように変形している。手足は銀色の装甲、
背中からコウモリのような羽根、胴体の形状はやはり人間だったときの
豊満な肉体のシルエットを残し、股間の恥毛も露わだ。そして紗羅は
黄金のマスクと、黄金の装甲に包まれた手足、黄金色の全裸の胴体。
やはり股間の恥毛も含め、皮膚の色以外は人間だったときの形態を
そのままとどめている。いずれも、昭和中期の少年探偵ものに登場する
悪趣味でチープな悪役をモチーフに、成熟した裸身を誇示する、
エキセントリックなデザインの怪人たちである。

138:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(8/16)
08/05/10 11:14:45 7KhoNLms0
 脳改造への待機時間、銀色の顔の志摩子が、これ見よがしに設置された
大きな鏡を見ながら、べそをかいている。
「いやだ…乱歩だったら、もっと耽美で文学的な作品もいっぱいあるのに、
よりにもよって、何でこんな…」
 それを聞いた紗耶が、面白そうに言う。
「あら、そういうのがいいの?じゃあ志摩子さんだけ特別に、
『怪奇芋虫女』か『猟奇イス女』あたりに再改造してあげましょうか?」
「いやあぁぁ!どっちもいやああああ!」
 志摩子は悲鳴を上げる。

139:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(10/16[前レスは9])
08/05/10 11:15:50 7KhoNLms0
 黄金の仮面をかぶったような姿に改造された紗羅は、中空を見ながら
ぶつぶつとつぶやいている。
「紗耶ちゃん、紗希ちゃん、大きくなったわねえ、うふふ、うふふ」
 紗耶は幾分慌てて言う。
「やだ、お母さん、狂っちゃったの?大変!これを飲んで!」
 そう言って紗耶は自分の乳房をこね回す。やがて乳首の先端に大きな
穴が空き、そこから芋虫のようなものがにゅるりと搾り出される。
寄生バチの改造人間たる彼女の体内で生成される擬似生物で、その名を
「ヒーリングワーム」という。紗希のヒーリングハニーに当たる物質で
ある。そのヒーリングワームを、紗耶は母親の口をこじ開けてのどに
押し込む。母親はびくんと震え、やがてはっと我に返る。そして
ホーネットマリオンの姿の紗耶と、大きな姿見に映った自分自身の異様な
姿を順に見て、やがて、黄金仮面の目からはらはらと涙をこぼし、言う。
「ああ、紗耶!やっぱり夢じゃないのね。現実なのね。いや!狂って
しまえば楽になれると思ったのに!なんで現実に連れ戻すの!?」
「お母さんには色々とやってもらう予定だからね。しっかりしていて
もらわないと。でも、狂ったらまた虫を食べさせてあげる。何度でも
正気に戻してあげるから、心配しなくていいんだよ」
「おおおおおおおおおおおお」
 母はまたも錯乱した声を上げ、紗耶は新しいヒーリングワームを
搾り出す準備を始める。

140:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(11/16)
08/05/10 11:17:00 7KhoNLms0
 やがて脳改造が終了し、カプセルから改造人間たちが歩み出る。その
表情に、もはや先ほどまでの恐怖や絶望はなく、代わりに平板で記号的な
笑みが口元に貼り付いている。邪念獣のプロトタイプ、いや、
カスタムタイプである、「邪念四怪女」の誕生である。
 怪女たちは、満足げな表情の幹部・骸教授の前に並び、まとった
マントをひるがえし、聡美、月子、志摩子、紗羅の順に、得意げに
名乗りを上げる。
「電嬢M!」
「青銅魔女!」
「宇宙怪女!」
「黄金面女!」
今後、拉致してきた人間の実体化した邪念を、この邪念四怪女が加工する
ことで、「邪念実体化計画」という凶悪な計画が実現していくのだ。

 恐ろしいビデオを半ば強制的に見せられた紗希は、怒りの形相で
ちさとをにらみつける。
「あなたが…すべての糸を引いていたのね!」
「まあ、そうとも言えるけど、そうじゃないとも言えるわ」
 パピオマリオンは謎めいた返事をした。そして冷笑を浮かべながら
言葉を続けた。

141:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(12/16)
08/05/10 11:18:21 7KhoNLms0
「あるところに、週に一度、未練がましく昔の家族を偵察に来る、
愚かで弱い未完成体がいました。ふふふ。その未完成体の行動は、
すぐに組織の知るところになった。そして、その未練と弱さを標的にした
精神攻撃の作戦が立てられたの。その作戦遂行のために、わたしは
選ばれた。あなたが毎週訪れる自宅の周囲でああやって死にかけていれば、
あなたが拾ってくれるのは間違いなかった。そうしてあなたの元に飛び込み、
あなたとわたしの愚かな人間時代の思い出の場所を一緒に訪れるふりを
しながら、一つ一つ潰していく。―いわば、ワトソン役が犯人だった
というところね。新しいトリックじゃない?さすがの推理マニアの
あなたにも盲点だったかしらね」
「そんなトリック、ずうっと前に偉い作家がやってるわ!そして、
そんな知識を使うまでもなく、あなたが一番怪しいことは、最初から
わかっていた。冷静に推理すれば、そう結論せざるを得なかったのよ…」
 紗希の目には涙が浮かんでいる。
「負け惜しみ?…違うわね?本当にわかっていたみたいね。でも、
だとすると、かえってわからない。どうして、あなたにはそんな不合理な
ことができるの?」
 ちさとは心底、紗希の心が分からない様子で首を傾げている。
 紗希が泣きながら言う。
「…わたしは…わたしは…あなたを信じたかったのよ!最後の最後まで!
わからないの?脳改造を受けると、そんなこともわからなくなっちゃうの!?」
「ふふ。本当、不合理ね。作戦立案者の紗耶が言ってたとおりよ。さすが
紗耶は優秀な改造人間。人間の不合理な心理をよく分析している。
わたしが、こんなバレバレの作戦、通用するかしら、と紗耶に言ったら、
大丈夫、最後の最後までわたしは疑われないと太鼓判を押してくれた。
その言葉は本当だったわ」

142:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(13/16)
08/05/10 11:19:27 7KhoNLms0
 それから、心から楽しそうにパピオマリオンは言葉を続けた。
「あのね、わたしや紗耶や骸教授が今回の計画をしかけたのは本当。
でも忘れちゃだめよ。佐堂先輩や、あんみつ屋のおじさんや、あなたの
お父様、そして、それに巻き込まれた多くの人たちが死んだのは、
そしてあの四人の女性があなたの敵に生まれ変わったのは、全部あなたの
せいなのよ!
 あなたは口先で『相良ちさとの記憶を探す』という口実をでっち上げ、
その実、あなた自身が人間だった頃の憩いの場所を再び訪れ、親しい人の
交わりを求めた。その人たちが、あなたと接触することで戦いに巻き
込まれることを予想できなかったはずはないのに。あなたは、自分の
エゴを満たすために、大事な人を何人も何人も巻き込んだ。全部あなたの
せいよ!」
 その言葉は紗希の心を深く貫いた。紗希の心は揺れ、その戦意はくじかれ
かけた。紗希が過度に理性的であったなら、このとき紗希は永久に
起きあがれなかったかもしれない。だが、合理的な人工頭脳を搭載した
他のソルジャードールにはありえない紗希の人間性、あるいは、未成熟な
幼児性が、いわば紗希を救った。紗希は、過度のストレスで思考が停止し、
逆上して闘争本能に身を任せたのである。
「うるさい!うるさい!黙れ!黙れぇぇぇぇ!!」
怒り狂った紗希の攻撃で、ちさとの両腕は瞬時に切断され、全身に
ビースティンガーが打ち込まれて、ちさとは地に伏した。
 弱々しい息の中、ちさとが語りかける。
「…思い出した…思い出したよ、紗希。わたし、操られていたんだね。
…ひどいこと、いっぱいしてゴメンね。やっつけてくれてありがと…。
これ以上悪いことしなくてすむよ。…最後に正気に戻れてよかった…」

143:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(14/16)
08/05/10 11:22:36 7KhoNLms0
 涙を浮かべて駆け寄り、その最後を看取ろうとする紗希。だがその
腕の中、閉じかけた目がかっと見開かれ、満面に邪悪な笑みが浮かぶ。
「…なあんて、言うと思った?甘えてんじゃないわよ!わたしは精神攻撃用に
徹底的に再カスタマイズされたの。戦闘力を大幅に犠牲にしてまでね。
人間の心なんてカケラも残っていないわ。
 よく聞きなさい。あんたはこれから親友殺しの罪を背負って生き続ける
のよ。もちろん、数多くのクラスメート殺しの罪も!ヘルマリオンに
背いたあんたは、一生その罪にまみれて苦しみ続けるの。修羅の道を
選択した自分自身を呪い続けるがいいわ!わたしも、あんたを地獄の
底で呪い続けてやる。あんたに殺された仲間と一緒に、呪い続けてやる…」
 呪詛の言葉と共にかつての親友が融けていった。自爆カプセルの除去は
なされていなかったようだ。何もかもが紗希を欺くための策略…

 消失した友を呆然と見下ろす紗希の前から、ふいに不自然に明るい
声が響いてきた。
「ただいま♪」
 顔を上げると、人間形態の紗耶が立っていた。庭へのサッシ窓が開いて
いる。母の拉致改造後、いつの間にかに舞い戻り、庭に隠れて一部始終を
見ていたようだ。
「自分でも言っていたけど、その子はあなたへの精神攻撃用に、頭脳に
集中して徹底的にカスタマイズされていたからね。戦闘には不向きなの。
だから予定通り退場してもらったわ。で、今回は戦闘要員にわたしが
来たってわけ。あなた、なんだか強くなっているからね。あなたの帰る
場所を奪った上で、精神攻撃で弱らせて、わたしが相手をする作戦
だったんだけど、うまくいったかなあ」

144:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(15/16)
08/05/10 11:23:09 7KhoNLms0
 紗耶の、友の死を悼む気配すらない、冷ややかな口上が終わる前に、
紗希の体は宙を舞い、家族の写真を切り裂きながら紗耶に迫った。高速で
飛び、鋭い翅で敵を切り裂く技、ビースラッシャーだ。だが、紗耶は
一瞬早くジャンプし、天井に張り付いていた。その姿はすでに擬態を
解除したホーネットマリオンだ。着ていた服が周囲に四散していた。
「ふふ。お互い、ここでなら着替えの心配をせずに擬態解除できるわね。
なにせ自分の家ですもんね。わたし、これが終わったら、お気に入りの
服をいっぱい持ち帰るつもりよ」
 ふざけたセリフを口にしながら、紗耶は攻撃に転じた。紗希はそれを
かわし、反撃する。ソファは裂け、壁の絵は砕け、食器棚は倒れる。
そうして、大事な思い出のこもった家をめちゃくちゃに荒らしながら、
二人の死闘は続く。だが、紗希は徐々に追いつめられていく。万事に
つけて紗耶の方が一枚上手なのだ。
 紗耶が意地の悪い挑発を口にする。
「ああっ、紗希ひどいわ。大事な花瓶を!あとでお母さんに謝りなさいね」
 間の抜けたセリフと裏腹の、鋭い攻撃が立て続けに浴びせられ、紗希は
追いつめられる。そこにすかさず紗耶のホーネットスティンガーが
雨あられと打ち込まれる。だが、その針は紗希の手足の自由を奪うだけで、
急所はことごとく外れている。針に仕込まれた薬剤も毒薬ではなく
麻痺剤である。
 崩れおちる紗希が、紗耶をにらみつけて言う。
「どうしたの?とどめをさしなさいよ!」

145:砕かれた思い出5/ホーム・ブラディ・ホーム(16/16)
08/05/10 11:23:24 pEkVjd3pO
それを聞いた紗耶は、頬に傷を作り、一筋の体液を流しながらも、
薄笑いを浮かべて言う。
「ばかねえ。せっかく戦闘経験を積んだ優秀なソルジャードールが手に
入るのよ?やっと大事な妹と仲直りできるのよ?殺したりするわけない
じゃない!」
その言葉の意味を理解し、紗希は青ざめた。
「…いやよ!お願い!いっそ殺して!脳改造だけはいや!!」
 哀れな懇願も空しく、到着した偽救急車に、毛布にくるまれて紗希が
担ぎ込まれていく。擬態し、介助の家族をふりをして一緒に乗り込む
紗耶は、いつの間にかお気に入りのドレスに身をかため、替えの衣装で
ぱんぱんにふくれたカバンを小脇に抱えている。


146:砕かれた思い出6/うまれかわるとき(1/5)
08/05/10 11:24:40 7KhoNLms0

 アジトに運ばれた紗希は脳改造カプセルに投げ込まれた。全身に接着し、
癒合し始める操りの糸、マリオンワイヤー。この糸を介して人工頭脳への
プログラミングがなされるのだ。紗希はなけなしの力をふりしぼり、
忌まわしい糸をビースラッシャーで切断しようとする。だが糸はびくとも
せず、翅の方がぼろぼろになってしまう。
 紗耶の高笑いが聞こえる。
「脳改造が済んだら、早速新しい作戦に取りかかってもらうわ。組織は
新型の改造装置を本格的に投入するの。適合者と不適合者の区別なく、
高性能の怪人に改造できる新型よ。あなたにはその素体集めを
してもらう。ふふふ」
 その冷酷な笑みに紗耶の心は凍り付く。
「あなたは、あなたがこれまで助けてきた人々を訪れる。もちろん、
脳改造なんて受けていないふりをしながらね。わたしの妹なんだから、
感情擬態力も抜群のはず。そして、不遜にもヘルマリオンの秘密に近づいた
危険な連中を、順々に拉致して、改造装置へ送り込んでいくの。人類の
最後の希望、ディソルバー・サキに裏切られた人々が、あなたを呪い、
絶望の底で苦しみ、やがて従順な操り人形に変わっていくのよ。ははは」
 血も涙もない作戦。紗希の脳裏に一瞬、近い将来の自分の姿が
ありありと浮かび上がる。…ああ、あのかわいらしく、健気で勇敢な、
中学生のよしこちゃんも…

147:砕かれた思い出6/うまれかわるとき(2/5)
08/05/10 11:25:42 7KhoNLms0
 ―ある日、よしこの前に、もう会うことのないと思っていた紗希が
姿を現す。よしこは、その正体が正義の戦士、ディソルバー・サキで
あることを知っている。その異形の姿に秘められた熱い正義の心に、
彼女はかつて命を救われたのだ。
 突然現れた紗希によしこは問いかける。
「紗希さん!どうしたの?まさか、また…」
「そうよ。ヘルマリオンの魔の手があなたを狙っていることがわかって、
駆けつけたの。無事でよかった!」
 そういって紗希はよしこを抱きしめる。それからよしこに手を
差しのべて言う。
「さあ、ここは危険よ。安全なところに案内するわ」
 かつてヘルマリオンが与えた恐怖と悲しみを思い出しながら、
よしこは紗希に導かれて逃げ出す。
 だが、たどり着いた先は奇怪な装置の据えられた部屋。部屋の中には
異形の者どもが動き回り、装置を起動する準備をしている。ただならぬ
空気を察し、振り向いた先にいるのは、後ろ手でドアのロックをかける、
擬態を解除したビーマリオン。その顔には冷たい笑いが浮かぶ。
よしこは青ざめて問いかける。
「紗希さん!ディソルバー・サキ!どういうこと?ここは…」
「おめでとうよしこちゃん。あなたは新しい技術でソルジャードール
に生まれ変わる最初の人間に選ばれたわ」

148:砕かれた思い出6/うまれかわるとき(3/5)
08/05/10 11:26:43 7KhoNLms0
 よしこの顔に困惑と怒りが生まれる。
「だましたのね!あなた、紗希さんじゃないわね!何者?紗希さんの
お姉さんの怪人?」
「違うわ。わたしは正真正銘、あなたの知っている紗希よ。ただ、
ちょっと違うのは、以前のわたしはまだ愚かな未完成体だったという
こと。あなたが会ったときのわたしは、ヘルマリオンへの恩義を忘れ、
ヘルマリオンにたてつく、愚かな存在だった。でも今は違うわ!わたしは
完全な存在に生まれ変わった。もうわたしは、ディソルバー・サキなど
といういびつな危険因子ではない。偉大なるヘルマリオンの
ソルジャードール・ビーマリオンよ!」
 そう言って哄笑する紗希のかたわらで、よしこの衣服ははぎ取られ、
その肉体はマリオンラーヴァの待ちうける手術台に固定される。
紗希は面白そうに言う。
「さあ、あなたは何の改造人間になるのかしらね。楽しみね。うふ、
うふ、うふふふふふふふ…」
「いやだ!もとの紗希さんに戻ってよ!改造人間なんていやだ!
放して!放して!」
「大丈夫。もうじきまた仲良しに戻れるわ。二人で人間をいっぱい
殺しましょうねえ」
「いやぁ!そんなのいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
 泣き叫ぶよしこを、無情にも改造装置は飲み込んでいく。それを心から
うれしそうに見送る紗希…―

149:砕かれた思い出6/うまれかわるとき(4/5)
08/05/10 11:30:16 7KhoNLms0
 糸の癒合が完了する。おぞましい未来の地獄絵図を思い浮かべた紗希は、
もはやその未来を逃れられる見込みがないだろうことを悟る。
 …駄目なのだろう。わたしは意志の続く限り脳改造に抵抗するつもりだ。
だが、今のわたしが、どんなに熱い正義の心を燃やしても、愛しい人々を
悪の魔手から守りたいとどんなに強く念じても、多分無駄なのだ。
なぜなら、目の前に、未来のわたしがいるからだ。わたしと同じ遺伝子を
もち、わたし以上に、純粋で、まっすぐで、優しく、心清らかだった
紗耶。その紗耶をこんな風に変えてしまうヘルマリオンの悪魔の技術。
それに抵抗するなど、恐らくは不可能なのだ…紗希の勝れた理性は、
そんな冷徹な結論を引き出した。
 絶望的な結論を認めざるを得なくなった紗希は、もはや狂乱に身を任せ、
想像の中のよしこさながら、叫び続ける以外のことができなかった。
「いやだ!脳改造なんていやだ!放して!でなければ、いっそ殺して!
いやだよ!ヘルマリオンの手先になるのはいやだ!いやだぁ…」
 泣きわめく紗希の声も空しく、頭部にヘルメットがかぶせられる。
そして頭蓋骨にメスが当てられ、激痛と共に、人工頭脳・クレイブレインを
注入するための穴が額に開けられてしまったことを紗希は知る。
「ふふ。穴が空いたわね。もうおしまいよ。仮に今、あんな停電が起きても、
もう脳改造は止まらない。もうすぐクレイブレインは、自律的に頭蓋内に
侵入し、その中で展開を開始する。そうなってしまえば、クレイブレインが
初期化され、脳改造が完了するまでの間、あなたは体を動かすことが
まったくできなくなる。ふふふ、もう少し、もう少しの辛抱よ…」
 そんな紗耶の勝ち誇った声のかたわらで、紗希の絶叫は続いた。

150:砕かれた思い出6/うまれかわるとき(5/5)
08/05/10 11:31:09 7KhoNLms0
   *    *    *    *    *    *

 読者諸氏もご承知の通り、この後紗希は、人工頭脳クレイブレインの
注入を免れ、ヘルマリオンのアジトを脱出することになる。「事実は
小説よりも奇なり」ということわざそのまま、その脱出劇は、どんな
作家の想像力も及ばぬほどの意外な出来事によって果たされることに
なるだろう。

 ―だが、それはまた別の物語である。

<了>

151:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 11:47:08 7KhoNLms0
…以上、お粗末様でした。
自サイトにあげたものとほぼ同じです。紗耶の行動に矛盾があったのを直し、
また改造時間が足りなくならないようにちょっと調整しました(まだ多少怪しいですが)。
あと「宇宙怪人」のデザインが不正確だったので修正しました。
他、くどい表現を多少直したところもあります。でも基本的に同じものです。

改造されたおにゃのこが命を落とす展開は自分もあまり好きではないのですが
(蟻蜂様もそこのところを何とかしたかったのだろうと思います)
話の展開上必要だと思ったのと、毎回ソルジャードールが一体ずつ
サキによって倒されていくのがシリーズの基本フォーマットであり、
そのルールに違反しまくるのはよくないだろうという判断の上でのことです。
(前回のような例外ももちろんありだとは思いますが)

ネーミングについて、未だに「人形にちなんだ」と言われる出典がわからないながら、
志摩子と月子は人形師「四谷シモン」と「人形の九月」からとりました。
聡美と佐堂は人形関係なくて、『N・H・Kにようこそ』のキャラがベースです。
紗希の偽名が「みさき」ちゃんなのと、「文芸部」というのでついやってしまいました。
紗羅は紗耶紗希の母らしい名前ということで何となくです。
最後の「よしこ」という適当な名前は「もう名前考えるの疲れました」の合図です(爆

そういえば『青銅の魔人』には小林少年と誘拐された兄妹が
青銅魔人に改造されてしまう(後に、実は衣装を着せられただけだとわかる)
というシーンがあり、なかなかいいです。

それでは…

152:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 11:52:30 7KhoNLms0
>>112
それも面白いですね。迷いますねえ
(なんとなく、そのどれでもある、みたいなゆるい書き方もあるかもしれません)

153:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 12:42:53 7KhoNLms0
あ、>>146の11行目の「紗耶」は「紗希」の間違いでした(汗

154:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/10 14:26:58 d4uf/hCq0
>>102 104
まあまあ、虐めないでやってくださいまし。
おっしゃるとおりですが、プペロイドだけでも充分でしょ?それならw

パピオマリオンがもったいないなかったのでDNA回収という手段を使わせて
もらいました。ヘルマリオンは組織構成員には優しい組織なのでw

兄上も脇が甘かったとうことでw



155:ダイレン
08/05/10 17:55:20 IjZT2oAvO
>maledictさん
乙です。紗希の過去……ずいぶんと詳しく書かれてますね


前にも書きましたが、全部世界観が別なので登場人物にもそれぞれの未来がありますよね

この改造マシーンは虫だけですか?

156:名無しより愛をこめて
08/05/10 17:59:53 e1pCzEYV0
>>155
>この改造マシーンは虫だけですか?
設定資料にはコウモリとかバラとかクラゲとかいるじゃん

157:名無しより愛をこめて
08/05/10 18:49:33 AuLrPY2v0
おにゃのこ改造@Wikiのテンプレがキモイんだがどうにかならんか?

158:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 19:17:43 7KhoNLms0
>>155ダイレン様
自分は虫を続けてしまいましたが、>>156様の言うとおり、色々ありのようです
あと、鳥類なんかも面白そうですよね。

>>154蟻蜂フリーク様
自分としてはクローン再生をありにしてしまうと紗希の戦いがあまりに
不毛になってしまうのと、逆に「かつての友人を殺さねばならない」という
紗希の悲劇性が薄れてしまう感じがするので、それはなしでいきたいと
思っています。

…ただ、それはそれとして、蟻蜂様の方の世界で一本浮かんでしまいました。
パピオマリオンのクローンが完成するシーンです。
勢いで書いたのでちょっと乱れているかもしれませんがご容赦ください。
で、勝手に妄想させて頂いて蟻蜂様すみません。

159:野望教授・妄想
08/05/10 19:22:10 7KhoNLms0
「さて、お次は…」
黒いマント、顔の半分は醜いケロイド、もう片方の目にスコープのような機械を埋めこんだ
奇怪な男が、「どれにしようかな」とおやつを選ぶ子供のように、わたしたちの一人一人
を指さしながら品定めをしている。。わたしに当たりませんように!そう念じかけたわたしは、
その願いが同時に友達の犠牲を願うことでもあることに気が付き、神様にお詫びする。
そしてわたしは変わり果てた大親友の方へそっと目を向ける。
 うずくまり、すすり泣いているその姿は、とても悲しいことに、もはや人間のものでは
なくなっている。体毛の一切ない、異様な質感の皮膚、乳房に浮かんだ毒々しい
同心円模様、額からは触角、頭の両脇には複眼。楽しいときも、辛いときも
いつも一緒にいた大親友、野々村紗希ちゃんは、その華奢で愛らしかった肉体を、
そんな、人間とミツバチを合成したような奇怪な生きもの「ビーマリオン」に改造されて
しまったのだ。
 その横では、同じく異形の者に変えられてしまった紗希の姉の紗耶ちゃんと、
手芸部のおとなしい少女、西村小夜子ちゃんがいる。小夜子は紗希と同じく
すすり泣き、紗耶はやはり力なくへたり込みながらだが、目を真っ赤にして、
奇怪な男、骸教授に向かって叫んでいる。
「卑怯者!この卑怯者!よくも紗希を!よくも紗希を!」
紗耶と紗希はその美しい兄弟愛につけ込まれ、たて続けに改造されてしまったのだ。
紗耶の怒り、悔しさはどれほどのものだろう。
 そうして、少女三人の改造を終え、もう一人の少女が改造に耐えられずに「食べ」られて
しまったのを確認した骸教授は、今や五人目の犠牲者の物色を始めているのだった。
 わたしは考えていた。改造は一人ずつ順々にしかできないらしい。クラスメートの全員を
改造し終えるにはまだ時間がかかる。そして、改造を待っている間に、何か幸運な奇跡が
起きるかもしれない。例えば、正義の味方が現れて、わたしたちを救出してくれるかもしれない。
そんな夢みたいな願いも、こんな悪夢みたいな状況下では、かえってかないそうな気がする。

160:野望教授・妄想(2/9)
08/05/10 19:24:30 7KhoNLms0
 だが、とわたしは思った。そんな奇跡が今すぐ起きる気配はない。五人目があの機械に
送り込まれるのは間違いないだろう。奇跡が起きて、クラスメートが助かるためには、少なくとも
その五人目の少女が改造される時間が必要だろう。誰かが犠牲になる必要があるのだ。
 ならば…わたしが、その生け贄になろう。大好きな紗希はもう改造されてしまった。わたし
だけが無事に助かっていいはずがないのだ。だって、だって、わたしたちは親友なのだから。
 骸教授の目が、いかにも悲劇のヒロインにふさわしそうな、お嬢様の御影さんに固定された。
そして新たな犠牲者を指さそうとその手を動かしかけた。
 わたしはそれを見て、ぶるぶる震えながら立ち上がり、言った。
「…わ・わ・わ・わたしを!」
 舌がもつれてうまくしゃべれない。目からは勝手に涙が流れてくる。
「わわわわたしを、かかかか改造しなさい!」
 思い切ってそう言いきったわたしは、軽く驚いている骸教授の方を向きながら、
震える指でブラウスのボタンを外し、ブラウスを脱ぐとスカートのホックを外し、次にブラを外した。
すうっとした外気が乳房に当たり、わたしは場違いな解放感を感じた。それから思い切って
ショーツを下ろした。
「か・か・改造には、こ・こうするのが必要なんでしょ!さあ、早くして!お・お・乙女に恥を
かかせないで!」
 骸教授が面白そうに答える。
「よかろう。次はお前にしてやる。それにしてもどういうことだ?人間でありながら、
ソルジャードールの美しさに目覚めたのかな?」
 わたしは怒り声で答える。
「そんなんじゃないわ。紗希が改造されて、わたしが改造されないなんて、わたし的には
ありえないからよ!だって、わたしたち、大親友だから!ね?紗希」

161:野望教授・妄想(3/9)
08/05/10 19:26:37 7KhoNLms0
 そう言って目を向けたわたしを、紗希は目を丸くして見つめている。それから紗希は、
ぽろぽろと涙をこぼしながら言った。
「ちさと!やめて!わたしなんかのために…」
 わたしはむりやり笑顔を作って言った。
「いいんだよ、紗希。自分で決めたんだから。こんな時だけ引っ込み思案なんて、わたしの
キャラじゃないんだよ!」
 そのやりとりを聞いていた骸教授はいやらしく笑いながら紗希に言った。
「むはははは、果報者だな。姉ばかりか、親友も、お前のために人間を捨てると言ってくれたぞ!
わはははは。美しいのう。わはははは」
 わたしは、ともすればすくんでしまう足を引きずりながら、恐ろしい改造装置へ向かってい
歩き始めた。そして靴と靴下を脱ぎ、手術台に横たわり、言った。
「始めて!」
 骸教授は念を押すように言った。
「言っておくが、マリオンラーヴァがお前を選ぶとは限らん。お前が適合者でなければ、おまえは
激しい苦痛と共にマリオンラーヴァに吸収され、その養分となる。いいな?」
「望む所よ」
 わたしは強気で言った。生きて化け物にされるのも、化け物に食われて死ぬのも、悲惨さでは
似たようなものだ。ただ、わたしが食べられたら、紗希は独りぼっちになっちゃうな。…ううん。
ちがった。紗希には紗耶がいるんだ。お腹の中にいたときからずっと一緒の、わたしなんかより
ずっとずっと強い絆で結ばれた女の子。わたしがどんなに紗希が好きで、紗希の一番の人に
なりたいと思っても、わたしは紗耶にはなれない。なんだか悔しいな。
 そんな幾たびも心に浮かんだ軽い嫉妬心を抱えたわたしを、手術台は装置の中に運び始めた。
そして、赤黒い光に照らされたわたしを、無数の触手が包んだ。緊張の糸がぷっつりと切れた
わたしを激しい恐怖が襲った。わたしは半狂乱になり、わけのわからないことを叫んでいた。
「ああ、入って来ちゃうよ!ああ!入ってくる!入ってくるよ…ああああああ!」

162:野望教授・妄想(4/9)
08/05/10 19:29:40 7KhoNLms0
 大声をあげてわたしはベッドから飛び起きた。 とてつもなく生々しい、おぞましい夢を見て
しまった。ぐっしょり汗をかいて激しく息をしているわたしに、横にいた紗耶が声をかける。
「…ちさと、大丈夫?ひどくうなされていたと思ったら、いきなり大声をあげて…」
 わたしは昨日までのままの姿をした紗耶の顔を見て、自分の体を見て、周りを見回して、
それから大きな安堵のため息をついた。ここは合宿所。今日はサマースクールの最終日。
悪夢の中で半日ほど過ごしてしまった日を、これから正式に迎えることになるわけだ、と
いうことが分かった。
「ちさと、もう朝食の時間だよ。早く着替えて食堂においでよ」
紗耶はそう言って部屋を出て行った。わたしはパジャマを脱ぎ、夢の中で着ていたのと
同じ衣装に着替えて、食堂に向かった。
 食堂ではもう朝食の準備ができあがっていて、みんながわたしが来るのを待っていた。
「ごめーん。また寝坊しちゃった」
 言いながら、まだ起きてきていない子も多いことに気づいた。春子がいないし、あの、夢の
中で怪物に食べられてしまったひな子もいない。そして…
「紗希は?わたしならともかく、紗希が寝坊するなんて珍しい、ていうかありえない!
何かあったの?」
 紗希に限って寝坊などありえないことをよく知るわたしは、真剣に紗希の様子が心配になった。
「わたし、部屋に行ってくるよ」
 そういって食堂を出ようとしたわたしを、紗耶がぞくっとするほど冷たい声で制止した。
「いいのよ。あんな出来損ない」
 何だ?何か変だ。いつもの紗耶じゃない。
 不審に思って紗耶の顔を見るわたしに、小夜子も声をかけた。
「そう。出来損ない、要らないわ」
 驚いて小夜子の顔を見る。その顔には何かどす黒い憎悪のようなものが貼り付いている。
いつものおとなしい小夜子じゃない。当惑するわたしに、紗耶がわけの分からない説明を始めた。

163:ダイレン
08/05/10 19:29:51 IjZT2oAvO
>>156
>maledictさん

ありがとうございます。自分の目が行き届いてないばっかりにお手数おかけいたしました

自分は由美ちゃんに友達を手にかけてほしくないんすけど……そこら辺は紗希の壊す力・由美ちゃんの救う力の違いを描きたいですね

戦闘とかにも力を入れていきたいと思いますんで、ご理解頂きたいと思います

164:野望教授・妄想(5/9)
08/05/10 19:32:45 7KhoNLms0
「紗希とわたしはいわば天然のクローンだからね。遺伝子はあるの。あなたと同じで記憶情報も
揃っている。でも、紗希の複製を作ってもあんまり意味はないのよ。なぜなら、ディソルバー・
サキの強さの由来は、その無改造の脳が繰り出す、予測困難で柔軟な行動パターン。
残念だけど、複製が『本物』にかなうわけがないことははっきりしてるのよ」
 何を…紗耶は何を言っているのだろう。わたしはあの悪夢がまだ醒めていないような気に
なってきた。この場を逃げ出すべきではないのか。このままここにいると、何かとても恐ろしい
ことに巻き込まれるのではないか。そんな、本能的な恐怖がわたしの中に芽生えた。
そしてその恐怖に促されるまま、わたしは食堂を出ようとした。
 だが、そんなわたしを紗耶の手が引き留めた。とても人間とは思えない強い強い力だ。
「逃がさないわよ」
 その顔には邪悪な喜びを湛えた笑みが浮かんでいる。紗耶は厨房の方に声をかけた。
「教授!そろそろ大丈夫ですか?」
 厨房から調理係のおばさんがマスクをして出てきた。そして、下卑た男性の声で答えた。
「もうとっくに細胞は定着しとるわい。まったく、くだらんことをしおって」
 調理のおばさんはマスクを取り割烹着を脱いだ。ああ。なんてこと。その下から出てきたのは
あの悪夢の主役、骸教授だ。
 紗耶は骸教授の姿を見て驚きもせず、強気で言い返す。
「『くだらないこと』じゃありません!ちさとの精神に、前回にはなかった要素を効率的に
組み込む、大事な手続きです!」
 骸教授は苦々しく言い返す。
「つくづく生意気なやつだ。ともかく、茶番は終了させるぞい」
 そう言って骸教授は手の中の装置のようなものを操作する。とたんに、食堂は姿を消し、
周囲は気味の悪い部屋に変わった。そして、紗希たちの衣服は消え去り、みんな
生まれたままの裸の姿になってしまった。みな、その姿を恥じらいもせずに堂々と立っている。
その様子は、何か別の生きものを見るようだった。

165:野望教授・妄想(6/9)
08/05/10 19:33:25 7KhoNLms0
 教授が軽く怒りながら言う。
「あ、お前たち衣服もホログラムだったのか。わし一人にこんなアホな格好させおってからに。
しかも、結局出番はなしじゃ!」
 ホログラム。つまりさっきまでの食堂は立体映像だったということらしい。そして、部屋の中央、
長テーブルのあった場所には、あの悪夢に登場したマリオン・ラーヴァと呼ばれる人工生命を
収納した機械が据えられ、夢の中と同じく、白い手術台がその前にせり出している。
 状況はよく分からないものの、自分が夢の中と同じく、あれに乗せられるだろうことだけは
直観的に分かった。目覚める直前のあの恐怖が甦り、わたしは絶叫した。
「いやああああああ!改造なんていやだ!」
 ふと見ると、わたしの腕を握っていた紗耶の手は、爪のない白いグローブをつけたような
形態に変化している。驚いて見上げると、その姿は悪夢に出てきた紗耶の姿そのままだ。
毛一筋ない青い皮膚、乳房を彩る毒々しい同心円模様、太い触角、頭に埋まった複眼…
 紗耶だけではない。小夜子もやはりあの蜘蛛の怪物になり、その他の子たちも様々な
異形に変じている。しかし、夢の中とは異なり、誰一人としてその姿を嘆いたり悲しんだり
恥じたりはしていない。むしろ、その姿を得意がり、誇示しているように見えた。
「ああ、紗耶!悪夢じゃなかったの?どういうことなの?」
 わたしはおびえ、うろたえながらどうにか言葉をつないだ。紗耶は説明を始めた。

166:野望教授・妄想(7/9)
08/05/10 19:34:05 7KhoNLms0
「あなたが見た『悪夢』は三年と少し前のあなた自身の記憶。正確に言うと、マリオンラーヴァ
にバックアップされた、オリジナルの相良ちさとの改造直前までの記憶情報よ。
 相良ちさと、あるいはパピオマリオンは一度死んだ。とてもひどい死に方だったわ。
それを惜しんだ骸教授が、あなたのクローンを培養した。そこにいる小夜子や綾香と
同じようにね。そして、一時間ほど前にちさとクローンの培養は完了し、早速その真っ白な脳に、
バックアップされていた相良ちさとの記憶情報がインストールされた。これで、改造直前の
相良ちさとがほぼ完全に復元された。あとはこの新しいちさと、つまりあなたをもう一度、
あのときよりも格段に性能の増したマリオンラーヴァに与えて、改造すればパピオマリオンは
復元される。だけど、わたしはその途中に一つのステップを提案したの。つまり、ホログラムを
用いた、ちさとクローンの精神誘導。あなたに三年前と同じパジャマを着せ、ホログラムで
再現された合宿所のベッドで寝かせる。要するにあなたが今しがた経験しつつある手続き。
 さて、マリオンラーヴァがお待ちかねよ。続きは作業しながら話すわ」
 紗耶の怪物はそう言うとその翅を一瞬羽ばたかせた。わたしの衣服は一瞬で切り刻まれ、
わたしは生まれたままの姿にされた。そして怪物化した紗耶のものすごい力で引きずられ、
手術台に固定されてしまった。
 紗耶の怪物、ホーネットマリオンはうれしそうにわたしの顔を覗き込んだ。
「もうじき大事な仲間が帰ってくる。とてもうれしいわ。あなたのオリジナルがあの作戦に
同意したときには、こんな日が来るとは思っていなかった。骸教授に感謝しなくてはね」
 悪夢…いや三年前の、今はいない「本物のわたし」の記憶通りに、装置の口が開く。だが、
手術台は動き出さない。紗耶が言う。
「前回のあなたには『絶望』がちょっと足りなかった。実はわたしもそうなんだけど、わたしの
場合にそれがいい方に発現したのに対して、あなたの場合、その要素が裏目に出て、
操り人形としての性能によくない影響が出たの。今回せっかくやり直せるんだから、
あなたにはしっかり絶望してもらおうと決めたのよ」

167:野望教授・妄想(8/9)
08/05/10 19:35:03 7KhoNLms0
 紗耶はむごいセリフを淡々と吐いた。骸教授が大きな舌打ちをした。自ら名乗り出たわたしを
手術台に送ったのは骸教授だ。紗耶にそのつもりはなくとも、紗耶のセリフが、暗にこの陰湿そうな
老人を責めているように聞こえたのだろう。
 紗耶は続けた。
「そしてもう一つ。今のうちにあなたにどうしても知っておいてもらいたいことがある。とても
重要な事実よ」
 これ以上、どんな恐ろしい事実を知らされるというのか。わたしは思わずごくりとつばを飲んだ。
「あなたをむごいやり方で殺したのは紗希よ!あなただけじゃない。小夜子や綾香や、そのほか
何人ものクラスメートを紗希は殺した。わたしたちが化け物だという理由で。自分も化け物に
なってしまったのに、そのことはちゃっかり棚に上げてね」
 わたしは思わず叫んでいた。
「嘘よ!そんなの信じない!」
 紗耶は追い打ちをかける。
「嘘だと思うなら、これをご覧なさい」
 そう言うと紗耶は壁面のスクリーンを指さした。スクリーンには、改造された紗希が、わたしの
顔をもった蝶の化け物を惨殺するシーンがはっきり映し出されていた。わたしは息をのんだ。
「残念だけど、これが真実よ。あなたはこれから肉体改造と脳改造を受け、心の中まで、
わたしたち同様、人間の基準で言う『化け物』になる。新型の改造装置の試作品で、
装置から出てきたときにはちゃんと「糸がつながった」、つまり完全に脳改造が済んだ状態に
なっているわ。肉体だけではなく、心の中まで人間らしさがなくなるの。恐ろしいでしょう?
人間なら当然の感情。でも、わたしたちはみな、その試練をくぐり抜けて一緒に生きてきた。
でも、その運命から、紗希一人が逃げ出したの。いつだってわたしたちは紗希を迎え入れる
準備をしているのに、紗希はそれを拒み、恐ろしい殺戮者として生き続けているのよ。
いい?つまり紗希は、自ら進んで『同じ』になることを決意したあなたを、裏切ったのよ!

168:野望教授・妄想(9/9)
08/05/10 19:35:44 7KhoNLms0
 …紗希を恨むなというのは無理ね。だけど、わたしはわたしなりに紗希を救いたいと思っている。
紗希は脳と肉体のバランスがとれていない、危険な未完成品なのよ。ちゃんとみんなと
同じになれば、そんなことはなくなる。妹だからわたしは何とかしてあげたい。でもね、
わたしのこんな気持ちを無理に共有しろとはいわない。あなたはあなたの思うように考えなさい。
 さあ、大事な話は終わったわ。改造を始めましょう。次に合うときはまた友達だね」
 最後の最後で、紗耶は昔のままのようなやわらかな声をかけた。もうじき人間では
なくなってしまうというとてつもない「恐怖」が、ほんの少し緩和された気がしたが、
これは改造にとってマイナスなのではないのかしら、と妙に冷静な思いが浮かんだ。
 だが次の瞬間、わたしを飲み込んだ改良型マリオンラーヴァが、わたしの体と心に、
ありとあらゆるどす黒く歪んだものを注ぎ込み始めると、そんな冷静さのカケラは吹き飛んで
しまった。わたしの体と心は急激に変化し、人間だったときの感情は急速に色あせ、
理解できなくなり始めた。ああ、怪物になっていく。手も、足も、お腹も、おっぱいも、
そして心も。人間のままの部分がどんどん失われていく。もう戻れない。二度と帰れない。

 マリオンラーヴァにくるまれ、怪物、いや改良型ソルジャードールとしての自覚が
急激に芽生え始めたわたしは、自分の中に人間のままの部分が一箇所だけ残っていることに
気が付いた。マグマのようなどす黒い思いだ。
―そう、それは、今しがた芽生えた、「紗希への憎悪」だった。

<了>

169:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/10 19:41:59 7KhoNLms0
…以上、お目汚し失礼しました。

紗耶は自分が紗希を逃がしたことを伏せてますね。
この腹黒さは蟻蜂様の「けなげキャラ」とはちょっとずれるかもしれませんが、
まあ、あくまで仲間になる前の、人間相手のことですので。
それより教授の出番がやっぱり減っちゃいました。
一応、教授の紗耶への感情を出すように意識したつもりですが。

>>163ダイレン様
規制が気になるあたりで書き込み頂いたので、後半さくさく投下できました。

由美ちゃんvs紗希ですか?楽しみです!

170:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/10 21:11:33 d4uf/hCq0
>>maledictさん
乙です^^ 感動です^^ どんどん使えそうなのがあれば使っちゃってくださいw
maledictさんの細かい表現技法とか大変勉強になります^^ 

スピンアウトをさらに重ねて、孫娘マリオンヘイルちゃんでネタ思いついてしまった^^;

171:名無しより愛をこめて
08/05/10 22:32:22 x7Zm2l0M0
maledictさん乙です
創作意欲がすごく湧いておられるようで驚きです

ところでヘルマリオンものに関してBeeF氏が残した設定資料を読んでて、ふと思ったのですが
パピオマリオン=相良ちさとの設定について
>紗希との想い出の数々のひとつひとつを踏みにじるように罠を掛けるが、最後には…?
とあるんですが、この「が、最後には…?」が気になります
ひょっとしてBeeF氏の構想では、maledictさんが書かれたように演技ではなく、ちさとは死のまぎわに
本当に自我を取り戻して紗希に詫びたあと、友情を再び確認し合うというエンディングにするつもり
だったのでは?
その意味ではBeeF氏以上に、maledictさんの方が鬼畜ですね(褒めてます)

まあSSのかたちになっていない以上、最初に書かれたものが正史になるということでいいと思います

172:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/05/11 00:00:44 MHS2HmaxO
>>171
お褒めいただきありがとうございます(冷汗

痛いご指摘です。たしかに「が、最後には…?」の部分はフォローできていません。
自分のもある種のどんでん返しではありますが、「踏みにじる『が』(しかし)」という逆接にはなっていませんね。
単に自我を取り戻す(拙作でいうと「糸が切れる」)だけならば毎回のお約束のシーンの筈で、
それ以上の何かなんだろうかと考えたものの、よくわからず、結局書きたいように書いてしまった、ということです

よく考えると上記の展開も、シャドウムーンさんの末期のセリフとして日曜の朝から全国に放映された
ものと大差なかったりしますね(考えれば、ブラックってかなりキツい話でしたね。偉大です)

173:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 06:47:51 ldFe4k/J0
出来立てホヤホヤのSS投下します。

調子がよく3時間で仕上がりましたが、早くできた分、
内容が浅いかもしれません^^;(その点はご容赦願います^^;)

174:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 06:51:06 ldFe4k/J0
「野望教授の孫」
【フランス共和国  ストラスブール】
「キャハハハハハハ!」
少女のような笑い声が聞こえると同時に強烈な爆音が響き、爆風によって人々が木の葉のように吹き飛ばされていく。
ドイツ国境近くの中堅都市は正体不明の物体に攻撃されていた。
TGVが停車する駅舎が吹っ飛び、フランスらしく洒落た外見を持つ欧州人権裁判所、欧州議会などのEUの主要施設の建物も次々と破壊
され、ユネスコの世界文化遺産に登録された旧市街も炎に包まれていく。
ヨーロッパ有数の伝統都市はわずか時間のうちに灰燼に帰した。
ラファール戦闘機やルクレール戦車などの強力な兵器を装備しているフランス軍も、謎の物体の前にあっさり撃破された。
「ホッホッホ、大統領よ。名はイヌコジとやらだったかの?無駄な抵抗はやめるのじゃ。次はマルセイユかリヨンか?いっそのこと貴様のいる
パリでも焼いてやろうかのぉ・・・ホッホッホ」
骸教授の『ご挨拶』のメッセージを受け取り、フランス大統領イヌコジはエリゼ宮の執務室で呆然としていた。
モニターには廃墟と化したストラスブールの街並み、無数の市民の焼死体、フランス軍の兵器の残骸が映っていた・・・・・・
対ヘルマリオン強硬派で知られる彼に反撃を躊躇させるのには充分なものだった。



175:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 06:52:11 ldFe4k/J0
【アジト】
「たっだいま~ じいちゃん!」
「ホッホッホ、おかえり。今帰ったのか。楽しかったか?」
「うん、いっぱい殺しちった。へへ」
骸教授がフランス帰りの孫娘と楽しそうに会話を交わす。
「そうか。よかったのぉ・・・。それじゃ、フンコロガシマリオンとでも遊んでおいで」
「は~い!」
マリオンヘイルはマリオンラーヴァの前を高速で走りぬけていった。
その折にプペロイドが2体跳ね飛ばされてしまった。
「こりゃ!もっと静かに行くのじゃ!」

すれ違うソルジャードルたちが立ち止まって最敬礼する。
「ちゃ!トンボちゃん元気ぃ~?」
「カゲロウちゃんも姉妹仲良しだね」
ソルジャードールたちに愛想よく声をかけていく。



176:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 06:53:20 ldFe4k/J0
「きゃはははは まてぇ~!」
「ヒィ~~~」
「フンコロガシ、今度捕まったら、キック3発ねぇ~ きゃはははははははは」
涙目でフンコロガシマリオンがフンを転がしながら逃げ回る。邪念獣ガッジーラもマリオンヘイルの後に従って飛び回る。
フンコロガシマリオンは実質マリオンヘイルのウォーミングアップに使わている。やみくもに汚物を転がすだけのものを養っておくほど、
ヘルマリオンも構成員に優しくはなかった。
「マリオンヘイル様、専用エネルギー『ドールビタンD』でございます。」
遊び終えたマリオンヘイルにスパイダーマリオンが哺乳瓶を跪いて差し出す。
「ねえねえ、クモちゃん、今度、人間狩りに行くんだって?ヘイルもついて行っていい?」
「はぁ・・・・構いませんが、骸教授様のお許しを得たほうがよろしいのでは?・・・・・」
「うん そうだね。クモちゃんはいつもみんなのお世話してエライね」
「いえ、そんなこと・・・・・・」
スパイダーマリオンは謙遜した。
「じゃあ、じいちゃんがいいよっていってくれたら、約束だよぉ!ちゃば~~い!」
エネルギー補充が終わると、通路を猛スピードで走り去っていった。プペロイドを3体ほど吹き飛ばしながら・・・・



177:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 06:54:10 ldFe4k/J0
【都内S区】
プペロイドを数十体引き連れて、人間狩りのターゲットポイントに現れた。
建物の中では、私服姿やブレザーやセーラー服などいろいろなタイプの制服に身を包んだ高校生が席に座って
参考書を読んでいたり、ひたすら問題集の問題を解いていたり、息抜きに友人と談笑したりしている。
「よかったですね。骸教授様のお許しが出て。」
「うん。でもねぇ、ホーネットちゃんがダメ~って言ってんだけど、じいちゃんが怒っちゃって、結局、OKだってさ。へへへ。」
マリオンヘイルは無邪気にスパイダーマリオンと会話する。
「ねえねえ、クモちゃん、あそこで人間狩りするの?」
「左様でございます。あそこは予備校というものでございまして、手ごろな素材がウヨウヨいます。どうやら今は休憩時間らしいですね。
改造前に私も夏期講習だとかでお世話になりました。」
「ふーん。クモちゃんもいたことあるんだ?ねぇねぇ、楽しかった?」
「いいえ、退屈なところでした。ですから、マリオンヘイル様、選ばれし者だけでも『楽しい』場所に連れていって上げましょう。」
「うん!で、誰を連れてけばいいの?」
「はい。今回は容姿にすぐれたメスがターゲットでございます。マリオンヘイル様のスカウティングセンサーにも反応が出ると思いますので、
反応のあったものをお捕まえください。」
「反応無しのとかオスは?」
「フフフ、そうですね~ 殺しちゃいましょうか。」
邪悪な微笑がスパイダーマリオンに浮かぶ。
「では、参りましょうか。」
「うん!」



178:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 06:55:36 ldFe4k/J0
「川井塾」という看板のある建物に2体とプペロイド達が突入した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!」
予備校の建物の中から悲鳴があがる。
学生達や職員や講師たちが逃げ惑う。
「フフフフ、もう逃げられないわ。」
スパイダーマリオンが口から吐いた糸がブレザー姿の可愛らしい顔の女子高生をグルグル巻きにしていた。
顔以外、糸でグルグル巻きにされ、一生懸命、体を動かして逃れようとしているが無駄な抵抗である。
マリオンヘイルやプペロイドは透明な拘束具を使って素材を確保する。
「きゃはははは、おもしろーい! アンタ邪魔!」
マリオンヘイルが男子高校生を払いのける。その男子高校生は飛ばされて、壁に叩きつけられて潰れ、肉片や血を撒き散らす。
予備校は地獄絵図の様相だった。



179:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:02:56 ldFe4k/J0
受付カウンターのテーブルの下で女性事務員が事務員が隠れて震えていた。
周囲が静かになったため、彼女はそっとあたりの様子を窺おうとテーブルから顔を出そうとした。が、そのとき、
「みーつけたっ!きゃははははは」
無邪気な笑顔で、西洋の少女人形のようなものがカウンターのテーブルの上に立っていた。
10歳ぐらいの小学生ほどの大きさがあった。
「い、いやぁ~~~~~!」
制服姿の事務員が悲鳴を上げる。
「うん?反応しないな・・・・・・」
マリオンヘイルがそういいながら、ひょいっと彼女を片手で持ち上げる。
「どうしよっかなぁ・・・・・ねえねえ、クモちゃん、コレ、どうすればいい?きゃはははは」
一通り捕獲を終え、そばに控えていたスパイダーマリオンに聞いた。
「ちょっと拝見させていただいて宜しいですか?マリオンヘイル様。」
スパイダーマリオンはそういって覗き見た。
「あなた、綺麗な顔してますね。フフフ。年はいくつ?」
「に、に、23です・・・・・」
事務員は怯えきった顔で答える
「ふ~ん。16~18才に設定してたせいで反応がなかったのね。おめでとう。あなたも連れて行ってあげる。
マリオンヘイル様、ソレは素材でございます。」
スパイダーマリオンは糸を吐いて事務員を拘束する。



180:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:03:58 ldFe4k/J0
「じゃあ、終わったことですし、引き上げましょう。マリオンヘイル様」
「うん!おもしろかったね~!クモちゃん」
「はい」
清清しい笑顔でスパイダーマリオンは返事をした。
獲物はプペロイドたちが抱えている。計34体を捕獲した。
玄関口を出ると、警官や野次馬やマスコミ関係者の死体が転がっていた。

「お迎えに上がりました。マリオンヘイル様。」
玄関口から出ると、ホーネットマリオンがそれまで腰掛けていた赤色灯のランプが叩き割られたパトカーから飛び降り、跪いて言った。
「スパイダーマリオン、ダメじゃない。モタモタしてたら!アンタたちが夢中で捕まえてるとき、すでに囲まれてたわよ。私がいなかったら
マリオンヘイル様に余計な手間をおかけさせてたところじゃない!」
「ごめんなさい・・・・ホーネットマリオン・・・・」
スパイダーマリオンが上下関係があるわけではなかったのだが、思わず謝ってしまった。
「え?手間じゃないよ~ 警察屋さんと遊ぶの大好きだしぃ~ きゃはははは」
マリオンヘイルが無邪気にしゃべる。
「マリオンヘイル様、骸教授様がお待ちです。さあ、参りましょう。」
「うん!ホーネットちゃん!」
ホーネットマリオンがその場を仕切っていた。
スパイダーマリオンは何か言いたそうな目でホーネットマリオンを見つめていた。



181:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:05:21 ldFe4k/J0
【都心近郊M市】
「くそ!しぶといな!プペロイドのくせに!」
ビーマリオンは息が切れそうになっていた。
「ギギッ!」
プペロイドがまだ10体ほど生き残っている。
(・・・・まだ5体ほどしか倒してないのに)
ビーマリオンは焦りを感じつつあった。
公安の長田からS区にある予備校が襲撃される恐れがあることを知らされて、ヘルマリオンが来る前に迎え撃とうとしようとしたのだが、
ヘラクレスマリオン率いる一団に襲われていた。
「ハッハッハ!そいつらは俺直属の格闘戦強化型のプペロイドさ。通常のヤツの2倍の戦闘力。並みとはちがうんだよ!並みとはな!
お前たち!やってしまえ!」
ヘラクレスマリオンがプペロイドをけしかける。
「ビースティンガー!」
ビーマリオンは乳房を揉むように刺激して乳首から発射する。
かろうじて1体倒す。しかし、生き残ったプペロイドが、なおも襲い掛かる。
「ええぃ!・・・ビースティンガー!乱れ撃ち!」
さらに乳房を刺激し、針を連射する。
まだ3体ほど生き残っている。プペロイドに今までこんなに苦戦したことはなかった。
「俺様が手を下すまでもないかな。ハッハッハ」
「おい、ヘラクレスマリオン!」
スタグビートルマリオンが姿を現す。
(よりによって・・・・・ソルジャードールが、もう1体も・・・・)


182:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:06:01 ldFe4k/J0
「なんだって、もう少しだぞ・・・・」
スタグビートルマリオンに耳打ちされた後、ヘラクレスマリオンは狼狽した。
「骸教授様の命令だ・・・・足止めだけでいいそうだ。」
「ちっ!ビーマリオン!命拾いしたな・・・・・次は覚悟しておけ!」
ヘラクレスマリオンたちは姿を消した。
ビーマリオンはその場で倒れこんでしまった。
そして激しい雨が降り出し、容赦なく大粒の雨がうつ伏せに倒れたビーマリオンをたたきつけていた。

やがて、公安の面々が駆けつけ、ビーマリオンをワゴン車でどこへともなく運び去った



183:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:07:48 ldFe4k/J0
【アジト マリオンラーヴァ】
「ホッホッホ。今日もまた大漁じゃの。ピチピチじゃわい。でかしたぞ!マリオンヘイルにスパイダーマリオン!」
「てへへ~褒められちった。」
マリオンヘイルはスパイダーマリオンのほうを向いて無邪気に笑う。スパイダーマリオンは跪きながら微笑で返す。
骸教授は檻の中の女子高生達を嘗め回すような目で見る。
「1匹、ちょっと年食ったのがいるようじゃが、まあ、よかろう。ホッホッホ。年功序列とやらでコイツから改造してやろう。
おい、そこのプペロイド、こいつを手術台へ持って行け!」
「い、いやぁ~~~~!」
可愛らしいルックスで予備校生たちからも人気のあった23歳の予備校事務員がプペロイドに引きずられていく。
プルンと形のいい胸があらわになり、全裸にされ、手術台に載せられる。
マリオンラーヴァは不気味に鼓動を繰り返す。
「きゃぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・」
悲鳴とともに彼女は飲み込まれていった・・・・・・・・
「ホッホッホ。アオスジアゲハかぁ・・・・ホッホッホ。ブルーラインマリオンと名乗るがよい。蝶は美しいのぉ。」
「ありがとうございます。ヘルマリオンに栄光あれ!」
「アオスジアゲハ、アゲハ~ きゃはははははははは。コレね~私が捕まえたんだよ。」
マリオンヘイルは嬉しそうにはしゃぐ。
「ホッホッホ、そうじゃったかぁ。孫のためにも頑張るのじゃぞ。ブルーラインマリオンよ!」
「かしこまりました。骸教授様」


184:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:20:45 ldFe4k/J0
「そうじゃ、マリオンヘイル。好きなの檻から選んで来るがよい。」
「え?いいの?じいちゃん、でも、どれ選んでいいかわかんない・・・」
「マリオンヘイル様、わたくしが手伝いましょう・・・・」
傍に控えていた何体かのソルジャードールの中からホーネットマリオンが名乗り出た。
「たわけ!出すぎた真似をするな!ホーネットマリオン!身の程を知るのじゃ!引っ込んでおれ!」
骸教授が怒鳴り声を上げると、ホーネットマリオンは一礼して元の位置に戻った。
ビクッとした、マリオンヘイルは泣きそうになっていた。マリオンヘイルは泣き出すと超強力な破壊音波を出す。
(・・・しまったわい!ワシとしたことが・・・・・)
骸教授自身も慌てていた。が、そのとき、
「マリオンヘイル様、ではわたくしと選びましょう・・・・」
咄嗟にスパイダーマリオンが歩み寄った。
「うん。クモちゃん。クモちゃん大好き。」
機嫌が直り、みなホッとため息をついた・・・・
「ホッホッホ。スパイダーマリオンよ、お前はほんとうに気が効くのぉ・・・(誰かと違って)」
骸教授がホーネットマリオンに対する皮肉を込めて言った。


185:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:24:02 ldFe4k/J0
「じいちゃん、こいつにする。クモちゃんと選んだんだよ。てへへへへ」
ショートボブの健康的なタイプの女子高生だった。
「離せ!このやろー!」
マリオンヘイルにつかまれながらも暴れている。
「フフフ、言葉の汚いこと・・」
横で、スパイダーマリオンがつぶやく。
「!!!(このクモの化け物、見覚えがある!捕まるずっと前にもどこかで・・・・・・・)」
女子高生は暴れながらも思いだそうとしていた、そしてソルジャードールの中のある者を目にしたとたん思い出した。
立てひざの体勢で跪いて控えてるソルジャードールの集団の中に見覚えのある顔が・・・・
(・・・・後藤先輩!?)
彼女はサマースクールで拉致された彼女たちと同じ高校の下級生であった。スパイダーマリオンに改造される前の西村小夜子とも1度は
顔を合わせたことがあったのだろう。無意識に記憶していたのかもしれない。そして彼女はラクロス部員であった。スコーピマリオンに改造
される前の後藤結の部活の後輩である。
(サマースクールで行方不明になった上級生達は皆、こいつらに拉致されたんだわ・・・・しかも化け物になんかにされて・・・・・・)
「ご、後藤先輩ですよね!先輩!わたしです!1年の辻沢ひかりです!助けてください!」
聞こえているはずなのに、スコーピマリオンはピクリとも反応しない。


186:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:27:00 ldFe4k/J0
「あら?私達の後輩?うれしいわ。スコーピマリオン、あなたと知り合いみたいよ?何か言ってあげたら?フフフ」
スパイダーマリオンがスコーピマリオンに声をかける。
「辻沢、久しぶりね。来年のレギュラー入り間違いなしだったよね。来年なんてもうないけど。あはははは。でもこれからはラクロスなんかより
もっと楽しいことがまってるわ。ようこそ。ヘルマリオンヘ。辻沢ひかりさん・・・なにマリオンになるのかな?楽しみね・・・・あははは」
「・・・せ、先輩・・・・・そ、そんな・・・・」
辻沢ひかりは尊敬した先輩がすでに人間でなくなっていることが見た目からもわかっていたのだが、もしや・・・・という一縷(いちる)の望み
も絶たれてしまい、絶望のふちに立たされてしまった。
「い、いや・・・・触らないで・・・近寄るな!」
大声をあげ、無駄な抵抗を続けたが、いつの間にか全裸にされてしまった彼女もまた、マリオンラーヴァに吸い込まれていった。
触手に絡まれたあともしばらくは抵抗を続けたが、次第に大人しく従順になり、新しい体へと作り変えられていった。
「ここまで抵抗するとはのぉ。ほっほっほ。改造後が楽しみじゃ。」
骸教授は下品な笑みを浮かべた。
「わ~い、出けた、出けたぁ~ わ~~い」
マリオンラーヴァから手術台が排出されてきた。


187:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:27:54 ldFe4k/J0
「ほほぉ!これは驚いたわい!アシナガ蜂か・・・ホーネットマリオンやビーマリオンとほぼ形状は同じじゃが色合いがちがうのぉ・・ホッホ。
ペーパーワスプマリオンと名乗るが良かろう。いや、ワスプマリオンと名乗るがよい。」
「ありがたき幸せです!蜂の力を存分に発揮させていただきます・・・・・・・・」
「うむ。良い心がけじゃ。期待しておるぞ。」
(ホッホッホ。ようやく正統派の蜂のソルジャーマリオンが出来たわい。ボディの基本色も青ではなく黄色ベースでまさに蜂そのものじゃ。)
骸教授は不敵な笑いを浮かべて、ホーネットマリオンの方を見た。
「同じ部活とやらのよしみでスコーピマリオンと組んで任務をこなすがよかろう。おい、スパイダーマリオンよ、可愛い後輩にアジトの中を案内
してやれ。」
「はい。かしこまりました。フフフ、とても素敵な姿よ。ワスプマリオン。さあ、行きましょ。」
ワスプマリオンはスパイダーマリオンに連れられて、訓練場の方へと向かっていった。



188:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:28:27 ldFe4k/J0
【アジト 研究室】
骸教授はモニターを見ていた。
「わがアメリカ合衆国、およびその同盟国は今、世界を騒がしているヘルマリオンなるテロ組織に決して屈することはないでしょう。こうして
ここホワイトハウスで主要国指導者が一同に介し声明を発し、我々の結束が強固なものであることをヘルマリオンに対して示すのであります!
我が国のボルチモア、フランスのストラスブール。この2つの都市が無残にも破壊され、罪のない何十万人もの市民が犠牲となりました。
平和で穏やかで幸福に満ちた彼らの人生そのものを奪ったテロ組織を断じて許すことは出来ません!犠牲となった市民に哀悼の意を示す
とともに、彼らを弔うべく、世界規模で大規模な軍事作戦を行うことを検討しています。平和に対する挑戦を我々は受けてたちます!・・・・・」
アメリカ大統領の演説が流れてる。世界中に同時中継されているらしい。
「ホッホッホ。第7艦隊と中堅都市ひとつでは懲りていないようじゃの。おろかなヤツじゃ。そうじゃ、マリオンヘイルよ、ニューヨークと
ロスアンゼルスで遊んできなさい。そうじゃ、それとガッジーラも連れて行きなさい。」
「はーい!じいちゃん、みんな殺してくればいいの?」
「おお。そうじゃ。皆殺しにしてきなさい。兵隊さんともよく遊んでやるんじゃぞ。」
「やったー!戦争ごっこだぁ~!わーい」
無邪気に喜びながら、信じられない速度でマリオンヘイルは邪念獣ガッジーラとともに東の空へ飛んでいった。

<完>


189:蟻蜂フリーク ◆/sIh2XqTo2
08/05/11 07:32:14 ldFe4k/J0
以上です。

孫娘は思いっきり鳥○明のDBじゃないほうの代表作の某キャラが入っちゃっています^^;
アシナガ蜂を出すのに悩みましたが、主役級の双子姉妹を生かすため、体の色で差別化を
図ってみました・・・・^^;

190:ダイレン
08/05/11 14:20:38 rjatU1DTO
改造よりも、ストーリーのが今回力いれちゃいましたが、エピソード1です

「地獄より生まれし天使」


―楽しいはずだった


動物公園へ遠足へ行った帰りにそれは起きた。ヘラクレスカブトムシのような化け物がバスを襲撃したのだ。
世間では"遠足の小学5年生 全員行方不明"と、なっていることだろう。現に子供達は秘密結社・ヘルマリオンによって拉致されたのだから。

目の前で担任の木下智恵美はムカデの怪人に改造された。ヘルマリオンでいう、改造超兵"ソルジャードール"である。
ムカデということで、センチピードマリオンと名付けられた。木下の変わり果てた姿である。


「きゃあ!!」
白い服で肌を包む由美。彼女はセンチピードマリオンによる"恐怖の選別"の合格者である。
それは2つある地獄への分かれ道。合格すれば、改造への適齢期への育成を受ける。不合格者はその行く先すらわからない。
ともかく、由美は容姿が可愛いという理由で合格したわけだ。そして、その教育を受けることとなった。
まずは体を鍛えさせられる。ノルマは小学5年生でありながら、大人と同じ程に厳しい特訓がなされる。
知識についても、"ヘルマリオンによる世界征服"を4時間程授業をさせられる。また、女子については発育育成のためのジュースを飲まされる事が良くある。
由美は体育と称されたトレーニングの時に倒れた綾を介抱しようとしたがプペロイドに邪魔されて、ぶたれたところだった。
綾はプペロイドに引きずられて休養室へ連れて行かれる。休養室と言っても、治癒用のカプセルがあるだけだ。
だが、女子はこのアジトの総司令である骸教授の意向で大切に扱われている。

191:ダイレン
08/05/11 14:21:53 rjatU1DTO
ぶたれた由美は頬を押さえて再び筋肉トレーニングへ戻る。とはいっても、女子は筋肉を付きすぎないように柔軟はかりさせられる。
「くそ!よくも由美ちゃんを……」
隣にいた健一はプペロイドへ殴りかかりに行った。虚をつかれたプペロイドは倒れたが、巨大な触手……いや、腕が健一の頭を掴んで床へとたたき伏せる。
「うぐっ……」
「あらぁ?健一君、下等動物の君がやるべき事は筋肉トレーニングでしょ?」
「僕らは……お前らのペットじゃ……ない……」センチピードマリオンはそのまま健一を上に上げて、子供達に見せつける。
「君らはペットじゃないわ~。家畜よ。出荷されるために太らされる豚と同じね」
「き、きの……し……うわぁ!」
締め付ける力が強くなり、健一の頭がキリキリと痛みを感じてくる。
「由美ちゃん、羨ましいわね~。勇敢な王子様に気にいられて……」
「木下先生……健一君を放してください……」
由美にはもう1本の腕を向けて軽く払う。それでビリビリと破けた由美の服から白い乳房が見えた。
「ふふふ……健一君、あなた勇敢に見えるけど、ずっと一緒にいる好きな子も襲えないの?所詮は臆病童貞野郎じゃない」
「な……」
「いっちょ前に勃たせてるんじゃないわよ」
放り投げられた健一の前にセンチピードマリオンは立って妖しげに笑った。
「フフフ……いいこと?二度と木下なんて下等動物だった時代の名前は呼ばないこと……」


その夜、由美は中々寝れずにいた。綾は帰ってきた後もふらふらで、健一には自分のせいで痛い思いをさせたからである。

192:ダイレン
08/05/11 14:23:19 rjatU1DTO
トイレに向かった由美は、物音を聞いてチラッとそちらを覗いた。すると、健一がまだ筋力トレーニングを続けていたのである。
「健一君……」
「!?。由美ちゃん……どうしたの?こんな夜中に……」
「それは健一君でしょ?体に悪いよ……」
「……力が欲しいんだ……。あいつらを倒して、脱出するための力……」
それは全員で共通な願いである。しかしながら、その力の差は歴然たるものがある。
「だからって……あいつらに勝てないよ……」
「諦めなきゃ………諦めなきゃ、きっと道が開けるはずだ。僕が……きっと君をここから出してあげるから」
この地獄のような生活の中で、芽生えた希望と信頼。由美は健一の顔を見入っていた。
窓から入ってくる月の光が2人を照らし出す。高鳴る鼓動と、湧き上がる衝動で由美は健一に抱きつく。
すると唇が触れ合い、2人は微睡みの中に入る寸前まで気持ちが高ぶった。

"ビーーーー!ビーーーー!ビーーーー!"


「何?」
乳房を慌てて隠した由美。警報が鳴ったということは、恐らく非常事態が起きたのだろう。
2人は急いで友達を案じて、寝室へと向かった。
「いったい何があったの?」
「わかんない。もしかしたら、誰か助けにきてくれたのかも……」
男子と女子全員が集まり、中央へと集まって基地画像を見る。
すると、蜂のような姿をした女性がプペロイドを切り刻んでいく様子が見えた。
「あれ、ソルジャードールなんじゃない?木下先生と同じ……」
玉崎と名札が張られている光が声を上げる。子供達はある英雄を思い出す。
かつて、自分達が生まれるよりずっと前にショッカーという組織を滅ぼした仮面ライダーというヒーローがいたことを。
それを受け継ぐように、あのヒーローは自分達を助けにきてくれたのだろう。

193:ダイレン
08/05/11 14:24:27 rjatU1DTO
「不合格組のみんなの収容所に入ってったぞ……やった!俺達、助かっ……」
ぬか喜びと言うのはこういうことなのか。そこへプペロイドが入ってきた。
「ワレワレハ、コノキチヲホウキスル。キサマタチヲウンパンサセテモラウ」
大量に入ってきたプペロイドが子供達を襲い始め、網などを行使して拘束をしていった。
逃げ惑う子供達も、大多数が捕まっていた。健一は由美の手を引っ張って開いたままの扉に向かって走った。
「健一君、みんなが……」
「……………!??。危ない!」
伸びてきた紺色のゲジゲジした腕。由美を狙ったものだったが、察知した健一が代わりに首に巻き付くのを許してしまった。
「うわぁっ!!」
「健………」
「……逃げ……るん…逃げ……由美いぃィィ!!」
その言葉に突き動かされ、由美は足を進めた。たった1人、その部屋を抜けれたのである。
だが、どっちへ行けばいいのかわからない。由美はただ走り回るしかなかった。
「……部屋?」
不合格組の収容されている部屋だ。そこにはさっき蜂のような姿をした女性が入っていったが……
「ここから行けば……出口があるかも……」
一歩部屋に入った由美はそこで驚愕した。服だけが部屋の中で落ちていたからである。
しかも、服にばべっちょりとした液体が絡まっていたのである。
「みんなは……いったい……」
下がった由美は声を失った。友達の愛美が、美由紀が、宏治が、修一が、クラスメート達がカプセルの中で液体に包まれていたからである。
まるで死んだ魚のような目をしている。由美は戦慄を覚えた。
「いや……何なのこれ?……あたし……いや……」


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