08/05/12 23:32:08 PQBnbDAs0
亜矢子は、ふり向くと、にっこりほほえんだ。
「いっしょに泳ぎましょうよ、ね。」
同時に、みごとなダイビングで夜の海におどりこんだ。
「ようし。」
光太郎も、着ているものをかなぐり捨てると、亜矢子を追って飛びこんだ。
九月の水は暖かく、体にやわらかな感じがした。
ひとけりして、水面に顔を出すと、五十メートルほど先を、みごとなバックストロークで、
亜矢子が泳いで行くのが見えた。
二人の間には、月光がつくり出した無数の金と銀の光が、ぶつかり合っては、光ったり消えたりした。
光太郎は、自分が太古の神々の時代に身を置いているかのような気がした。
はだかのまま山や海をかけめぐり、狩りをして魚をとる。
(ホラ、見つけたぞ。あそこに泳いでいるのは海のニンフだ。おれは海の神ネプチューンだ。
必ず、あの人をおれのものにしてみせる。)
光太郎は、亜矢子に向かって泳ぎだした。