おにゃのこが改造されるシーン素体9人目at SFX
おにゃのこが改造されるシーン素体9人目 - 暇つぶし2ch468:甦る友情1・覚醒(1/13)
08/04/26 17:22:52 a9Qzvbbo0
 未完成体が降伏を呼びかけている。
「オードネートマリオン!あなたの作戦は失敗したわ!洗脳ブローチは
わたしが破壊した!美術展の観客は無事よ!おとなしく観念して…そして…
…もう悪いことはやめて!ミドリ!」
 未完成体は、休戦を持ちかける言動とは矛盾する行動をとっていた。
その目から激しい動揺を示す涙液を湧出させながら、鋭利な刃である
自らの翅―コードネーム・ビースラッシャー―を左右に大きく
広げ、高速でわたしの肉体を切断すべく接近してきたのだ。わたしは
急旋回してその刃をかわすが、よけきれずにわたし自身の右翅を切断
されてしまう。わたしはなんとかすれ違いざま、腰の後ろから生える
猛禽類のような爪で未完成体、ビーマリオンの両肩を掴み、翅ごと
その動きを封じる。二体の改造人間はきりもみ状の軌道を描き地面に
落下していく。
 落下の衝撃で腰の後ろの爪は損壊し、両足に壊滅的なダメージを
受けたことを感じる。一方の未完成体は、わたしの体が緩衝材となり
ダメージを免れたらしい。体勢を立て直したビーマリオンは至近距離
から生物殺傷用の針―コードネーム・ビースティンガー―の
発射準備に入っている。ビーマリオンが理解不能な表情を浮かべ、
その乳房を激しく揉みしだくにつれ、固く硬直した乳房の先端に発射口が
開き始める。それを目にして、数秒後の自らの死をもはや避けられない
と結論したわたしは、最終手段を選択した。腹部から伸びる触手を
勢いよく伸ばし、ビーマリオンのみぞおちにたたき込み、同時に
自決用カプセルをその先端に移動させる。不意の攻撃に苦悶する
ビーマリオンに対し、わたしはわが組織の勝利宣言もである、
自決用カプセルの解除コードを誇らしく宣言する。

「ヘルマリオン万歳!」

469:甦る友情/1.覚醒(2/13)
08/04/26 17:25:18 a9Qzvbbo0
 わたしが未完成体の腹部にたたき込んだカプセルには、われら
ソルジャードールの強化細胞を強酸性の物質に変性させつつ全身に
広がる、人工プリオンが封入されている。そのカプセルは、通常は
TNT火薬の爆発にも持ちこたえるが、解除キイが発動されると
溶解し、内部のプリオンを体内に放出するのだ。
 解除キイは次のいずれかの条件が満たされるときに発動する。
一つは、ソルジャードールの「糸が切れて」しまう場合だ。つまり、
偉大なるヘルマリオンの支配がソルジャードールに及ばなくなったことが
確認された場合、解除キイが発動され、欠陥品の処分とヘルマリオンの
機密隠蔽を同時に行うのだ。もう一つは、ソルジャードール自身が
自らの肉体の融解を意志する場合である。これは、ソルジャードールが
解除コードを宣言することによって発動する―わたしがたった今
実行したように。
 人工プリオンがわたしの尾の先端の組織の変性を開始し、ずぶずぶと
融け始める。そして融解は導火線のようにわたしの尾を伝っていく。
融解はやがて腹部に達し、わたしの全身に及び、わたしは消えてなくなる
だろう。だが、ビーマリオンの腹部に残された人工プリオンもまた
活動を続けているはずだ。それは腹部を浸食し、やがてこの未完成体の
全身の細胞を強酸性の物質に変え、跡形もなく消し去るはずだ。
わたしの命と引き替えに、この忌まわしい裏切り者もその存在を停止する。
これまで幾多のソルジャードールが試みながら果たせなかった使命を、
わたしは遂に果たすことができる。その名誉にわたしの心は震える。

470:甦る友情/1.覚醒(3/13)
08/04/26 17:28:41 a9Qzvbbo0
 裏切り者は何が起きたかを瞬時に悟り、生身の頭脳を、人工頭脳も
およばぬ速度で駆使し、次の行動を選択した。すなわち、すでに腹部の
融解が始まっていたわたしを抱きかかえると高々と飛翔し、わたしたちの
戦場であった廃ビルの太い鉄骨の一つに突進したのである。
 鉄骨のキザギザした先端がわたしの背中を突き破り、わたしを
抱きかかえていたビーマリオンの腹部をも貫き、その背中にまで貫通した。
ビーマリオンは貫通とほぼ同時に背中で翅を羽ばたかせた。
しゃきんという音と共に、鉄骨の先端が切断され、強酸によって
すでに鉄骨を溶かし始めていた人工プリオンともども落下していった。
 わたし同様苦悶の表情を浮かべたビーマリオンは、二体の改造人間を
串刺しにしている鉄骨を見ながら、しぼりだすように言った。
「…荒療治…だったけど…これで人工プリオンは『摘出』できたはず。
…あなたも、わたしも、もう融けることは…ないわ…」
 ビーマリオンは翅を羽ばたかせ、わたしを抱きかかえたまま二人の
肉体を移動させて、鉄骨から抜き取る。じゃりじゃりと肉をそぎ取り
ながら鉄骨は抜け、二体のソルジャードールは地上へ降下する。
 ビーマリオンの言葉は、わたしの使命の失敗を意味していた。肉体の
苦痛以上に、敗北感がわたしの心を満たした。わたしは裏切り者の抹殺に
失敗し、偉大なるヘルマリオンのソルジャードールとして自決する名誉をも
奪われたのだ。この未完成体め。憎い。憎い。
 ビーマリオンは依然わたしを抱きかかえている。エネルギーを
使い果たしたわたしはもはや敵の捕縛する腕を逃れる術すらない。
屈辱感に苛まれ、せめてもの抵抗にと憎悪の目を向けるわたしを、
ビーマリオンは理解しがたい表情で見つめている。その胸を見ると、
ビースティンガーの発射準備はなぜか解除されている。

471:甦る友情/1.覚醒(4/13)
08/04/26 17:31:57 a9Qzvbbo0
 わたしの心に疑問が芽生える―この子は何がしたいんだろう?
敵であるわたしを至近距離で確保しながら、なんで攻撃しないの?
―その答えは、その不可解な表情にあるように思えた。わたしたち
ソルジャードールにも理解可能な、反射的な喜怒哀楽のいずれでもない表情。
悲しみと、期待と、後悔と、不安と、決意と、そんな色々な「思い」が
複雑に溶け合った表情。…あれ?…何か、大事なことを忘れていた気がする。
そもそも、わたしはなんで他の個体の内部状態に関してこんな複雑な
情報を入手できるの?…いえ、違う!わたし、なんでこんな簡単なことが
今までわからなかったの?…この子は、わたしを憎んでいたんじゃない。
わたしを救えたらいいとずっと願っていたんだ。だけどわたしは
この子の期待に添うことはできなかった。なぜなら…

 ―わたしは操り人形だったからだ― 

その自覚と共に、わたしの心に一挙に様々な思いが吹き出した。
…わたしは誰?ソルジャードール・オードネートマリオン?
…いえ、違う!わたしはずっと、それとは違う名で呼ばれていた。
そして、目の前の女の子は誰?未完成ソルジャードール・ビーマリオン?
憎むべき敵・ディソルバー・サキ?それとも、その擬態形態・帆村みさき?
…違う!この子には別の名があった。もっとずっと前から知っていた、
懐かしい名前。何だっけ?何だっけ?
「…さき…紗希?…野々村…紗希ちゃん?」
「…ミドリ?碧?ひょっとして『糸が切れ』たの?わたしがわかるの?」
 そうだ。わたしの名は堀江碧。わたしは、ごく最近までヘルマリオンの
ことなど何も知らない、普通の人間の女の子だったのだ。ああ、それを
忘れさせられていたんだ…。そして、悪魔の操り人形として、
おぞましい作戦を数知れず実行させられていたんだ…

472:甦る友情/1.覚醒(5/13)
08/04/26 17:35:01 a9Qzvbbo0
 …あの日、わたしがわたしでなくなってしまった運命の日。サマースクールの
合宿所。哀れな第一の犠牲者であり、同時にわたしたちの拉致作戦の
責任者でもある、フィオナ・マクレガン、いや、ジェリーマリオンが、
人に似て人にあらざる戦闘員プペロイドたちを率い、わたしたちを誘拐して、
絶望の手術台へ引きずっていった日。
 わたしの順番は一番最後だった。次はわたしの番?次はわたしの番?
そんな、恐怖と一刻だけの執行猶予が繰り返される中、友達の女子高生たちが
次々に容赦なく様々な異形のものに改造され、あるいは奇怪な人工生命体の
餌食となって消えていった。これから我が身に生じる運命の「前例」と
「仕組み」についての知識のみがひたすら増すだけの、長く辛い時間。
「ユイ!」
 最後から三番目になった結も、男勝りの罵声声を上げながら、巨大な
機械に飲み込まれていった。やがて結は、サソリと人間の合体したような
怪物に変わり果てて機械から排出され、力なく身を崩してしくしくと
泣き始めた。精神的ショックだけではなく、肉体的にも自由がきかない
様子だった。次に親友の春子が、わたしをかばうように身を乗り出し、
わたしの方にうなずきながら、悲痛な面持ちで機械の中に運ばれていった。
だけど春子はそのまま帰ってこなかった。不適合者として、機械内部で
培養されている人工生命体「マリオンラーヴァ」に吸収されてしまったのだ。
 そしてとうとうわたしの番が来る。…ああ、奇跡が起きればいいのに。
そんな身勝手な願いが叶うはずもなく、わたしはプペロイドの持つはさみで
ブラウスとスカート、次いで下着を切り裂かれ、みじめな全裸の姿で
手術台に引きずられていく。
「…やだ…やだ…やだよう…」
繰り返される恐怖に憔悴しきったわたしは、抵抗する気力も尽きかけ、
小声でぶつぶつと拒否の言葉を唱えるのみだった。

473:甦る友情/1.覚醒(6/13)
08/04/26 17:38:22 a9Qzvbbo0
 プペロイドがわたしを手術台に寝かせる。目に見えない電磁的な拘束具が
わたしを台に固定する。プペロイドはそれを確認してから、わたしの
靴と靴下を脱がせる。そして巨大な機械の口が開き、わたしを飲み込んでいく。
機械の内側はマリオンラーヴァの放つ赤黒い光で満ちている。天井に広がる、
脈動する、巨大な心臓か子宮を思わせる物体。わたしは、その光に
照らされた自分の裸体が、すでに人ならざるものに変わってしまったような
錯覚を一瞬おぼえる。やがて人工生命体の触手が伸び、わたしの全身に
貼り付き、鼻や口や耳、さらに肛門や女性器、果ては毛穴の一つ一つにまで
侵入を始めたのが分かる。―やだ、わたしの体に入ってこないで!―
繰り返し見続けた悪夢がとうとう正夢になったような、そんな不条理な
感覚にとらわれながら、わたしの心は無駄な抵抗を続ける。感じたことの
ない奇妙な苦痛が全身を苛む。細胞レベルでわたしの肉体が人間では
なくなりつつあるのだ。いやだ!いっそ春子のように、この世から
わたしを消して!わたしはせめてもの嘆願を発する。だがまがまがしい
人工生命はそれをあざ笑うかのように、わたしに何かを注ぎ込み、
肉体を粘土細工のように作りかえるのをやめない。
 わたしの順番が来るまでの間に、改造に要する時間は徐々に短く
なっていた。マリオンラーヴァの学習能力が所要時間を短縮していく
らしい。なのに、その誰よりも短いはずの改造の時間は、途方もなく
長く感じられた。だが、やがてその長い苦痛の時間も過ぎ去り、
人工生命の触手が収縮を始め、手術台が排出された。そしてわたしは、
夏の日の下にさらされた、自分のおぞましい肉体を直視させられた。

474:甦る友情/1.覚醒(7/13)
08/04/26 17:41:22 a9Qzvbbo0
 ―全身の皮膚は無機質なエメラルド色。幾分原型をとどめている乳房の
真下は、金、黒、緑の、まるで宝石を埋め込んだような楕円形の
プロテクターに変形し、腹部を保護している。腰の後ろには猛禽類を
思わせる、鋭い三本の爪の生えた金色の肢。プロテクターの下部からは
金色、緑、濃紺の、トンボの尾に当たる太い触手が身体の前面に向けて
伸びる。肩口からはイトトンボを思わせる大きな一対の翅が生えて
いる。翅は、金色の翅脈に孔雀の羽のような文様が広がるという
けばけばしいデザイン。手を触れると頭部は硬い外骨格に覆われ、
頭の両側には大きな複眼が形成されている。全体の輪郭を確認した
わたしに、悲しみに加えてみじめな気分が湧きあがってきた。…これじゃ、
アールヌーボーの美術品じゃないか。わたしは生きたまま肉体を装飾品の
ような兵器に変えられてしまったのだ…
「なかなか美しい。トンボの能力をもつ改造人間として、
ソルジャードール・オードネートマリオンと名乗るがよい」
 残忍な幹部、骸教授が冷笑と共にそう宣告した。手術台から解放された
わたしは、自分の肉体を自分で支えることができないまま、プペロイドたちに
抱えられて他の少女たち同様電磁牢へ運ばれ、その中でうずくまるしか
なかった。そうしていると、骸教授の声が聞こえてきた。
「改造後しばらく間は強化細胞の定着を待たねばならない。それが済めば、
順に人工頭脳を埋め込んで完全にわが組織の人形にしてやろう」
 骸教授はそう言ってから、最初に改造された小夜子を指さした。
「そろそろ、おまえは大丈夫だな。人工頭脳の埋め込み手術に耐えられる
程度に強化細胞の定着が進んだはずだ。時間が経ち過ぎると強化細胞が
本格的に定着し、プペロイドでも捕縛しきれなくなって面倒だからな。
さあ、連れて行け」

475:甦る友情/1.覚醒(8/13)
08/04/26 17:44:24 a9Qzvbbo0
 さらなる非情な宣告を受けた小夜子が、涙を浮かべて皆を見送りながら
プペロイドに引きずられ、奥の部屋へ姿を消していった。しばらくすると、
奥から、耳を覆うような恐ろしい絶叫が響いてきた。だが、それは徐々に
弱まっていき、またその声には恐怖や苦しみとは異質のトーンが混じり
始めた。やがて完全な沈黙が訪れ、間もなく奥の部屋から小夜子が、
もはや誰に拘束されるでもなく、しっかりした足どりで姿を現した。
うつむき加減だったその頭を持ち上げたとき、その顔にはもはや一切の
苦しみや恐怖の痕跡はなく、ただ、正体を現したフィオナ同様の、
空虚で記号的な笑みが貼り付いているだけだった。かつての内気な少女の
面影はもはやどこにもなかった。
 小夜子はそのまま骸教授の足下に移動すると、そこにひざまずき、
平板な喜びを込めた口調で言った。
「骸教授、素晴らしい肉体に改造して頂き、ありがとうございます」
それから立ち上がり、二番目に改造された紗耶の方へ近づいて言った。
「さあ、サヤ、次はあなたの番。わたしが連れて行ってあげる」
紗耶は悲しみと絶望の入り混じった悲痛な声で答える。
「小夜子!そんな恐ろしいこと言わないで!もとの小夜子に戻ってよ…さよこぉ…」
 紗耶の心の叫びが届く気配もないまま、小夜子、いや、ソルジャー
ドール・スパイダーマリオンが冷酷にその手を差しだそうとしたそのとき
―奇跡が起きた。海底地震の猛烈な揺れと共に、地下基地が闇に包まれたのだ。

476:甦る友情/1.覚醒(9/13)
08/04/26 17:47:24 a9Qzvbbo0
「停電ダ!復旧ヲ急ゲ!」
 そう叫ぶプペロイドたちが、明らかに右往左往しているのがわかった。
停電によって指令系統が混乱したのだろう。即座に状況をのみこんだ
紗耶が励ますように皆に声をかける。
「紗希、みんな!脱出するわ!出口はあっちだったはずよ!」
 電磁牢は解除されていた。暗闇の中、改造された超感覚を不器用に
働かせ、痺れる手足を引きずりながら、改造された少女たちが出口を
目指す。背後ではプペロイドたちが活動を再開した気配。強化細胞の
定着が一番遅れているわたしは、なんとか置いていかれまいと全力で
皆の後を追う。だが、岸壁の細い道をつたい歩いていたとき、重くなった
自重を支えきれなくなったわたしは、崖下の岩肌に転落してしまった。
そして腕をくじいたまま、這い上がれる見込みのない深い縦穴の中に
取り残されたことがわかった。
 そのままなすすべもなく長い時間が過ぎ、わたしが絶望の底でうずくまって
いたとき、聞き慣れた明るい声が頭の上から響いた。
「碧!助けに来たわ!」
 紗耶の声だった。紗耶はその異形の翅を羽ばたかせながらわたしの
手を取り、わたしを一気に穴の上まで引き上げてくれた。
「ふう。いまいましい翅だけど、役には立つものね」
 そう言ってから紗耶はわたしを抱き寄せた。互いに全裸同士のはず
なので、わたしは少しどきどきした。
「碧!無事でよかった!可哀想なわたしの妹以外、みんな無事なの!
みんなでここを出ていく準備をしているわ。あなたが見つからないので
探しに来たのよ!」

477:甦る友情/1.覚醒(10/13)
08/04/26 17:50:26 a9Qzvbbo0
 それを聞いてわたしの目から涙があふれてきた。あのままだったら
わたしはいずれプペロイドに見つかり、心まで恐ろしい怪物に改造されて
しまっていただろう。こんな極限状況の中で、この勇敢な子は、危険を
かえりみず、わたしを見捨てず助けに来てくれたのだ。
「ごめんね。こんな、足手まといのわたしのために…」
「いいのよ。友達じゃない!」
 そう言いながら紗耶はわたしの手を引き、複雑な通路を進み始めた。
恐らく、緊急用の脱出装置か何かを見つけたのだろう。ことによると、
皆で力を合わせ、戦闘員たちやあの下品な幹部をやっつけたのかもしれない。
 たどり着いたのは頑丈な扉のついた部屋だった。部屋に入ると、たしかに
皆が揃っていた。だが、様子がなんとなくおかしい。そう思うと同時に、
部屋の一番奥から悲鳴のような呼びかけが聞こえてきた。
「碧!来ちゃ駄目!逃げて!みんな、もう、昔のみんなじゃないの!
紗耶もよ!!」
 結の声だった。結の言葉にはっと気づいたわたしは室内の「友達」の
顔を見回した。皆、その異形の肉体にふさわしい無機的で空虚な笑みを
浮かべている。そしてその中には、すでに完全な怪物になったはずの
小夜子も、あのフィオナもいる!真相を悟ったわたしを、紗耶が後ろから
きつく抱き寄せた。わたしの乳房に紗耶の指が食い込む。その力はあまりに
強力で、今のわたしの力ではまったく抗うことができない。わたしは
紗耶を振り返り、その目を見る。紗耶は笑いながら言った。

478:甦る友情/1.覚醒(11/13)
08/04/26 17:53:29 a9Qzvbbo0
「何か言いたそうね。言っておくけど、『仲間』が集まっているのも、
ここを出ていくのも本当よ。行方不明の紗希を確保して脳改造したら、
この基地を破棄して、より大規模な活動拠点へ移動する予定になっているの。
だから、嘘なんかついてないわよ。…あ、やだ!どこかで聞いたような
セリフね!あははははは…」
 …もうこの女の子は紗耶じゃない。そう思ったとき、奥の扉が開き、
かつて似たセリフを紗耶に向けた張本人、骸教授が姿を現し、
紗耶だったモノに声をかける。
「ホーネットマリオンよ。脳改造直後であるにもかかわらず、未洗脳の
素体を欺くその感情擬態力、驚いたぞ。非常に優秀だ。今回一番の収穫と
言ってもよい」
 紗耶がわたしを抱えたままうやうやしく礼を言う。
「有り難きお言葉、光栄でございます」
 それから紗耶はわたしに向き直り、哀れな結を指さしながら、
嬉しそうな声で言う。
「見なさい。もうじき結もわたしたちの仲間、スコーピマリオンとして
完成するわ」
 結は透明なガラスのカプセルの中にいた。両手を上に上げ、足を開いた
姿勢だ。よく見ると立っているのではなく、地面からほんの少し足が
浮いている。天井から無数に伸びる糸のようなもので全身を吊られている
のだ。腕や足の皮膚と癒合しているらしい糸が、吊られた部分の皮膚を
円錐状に引っ張り、見るからに痛々しい。やがて結の頭部に、前頭部に
太いガラスのシリンダーのついたヘルメットのようなものが装着される。
シリンダーには濃緑色の輝く液体のようなものが入っている。

479:甦る友情/1.覚醒(12/13)
08/04/26 17:58:30 a9Qzvbbo0
「ああやって頭蓋の一部に穴を開けて、脳髄液の一部を抜き取り、代わりに
あのマイクロマシンの塊、クレイブレインを注入するの」
 シリンダー内部の「クレイブレイン」が結の脳内に注入されていく。
結は目を見開きながらわけの分からない叫びを上げる。
「大丈夫よ。あれは痛がっているのではなくて気持ちよがっているの。
マイクロマシンと共に、大量の脳内麻薬物質も注入されたから」
 興奮が去り、虚脱状態に陥ってどろんとした結の頭部からヘルメットが
外される。額には丸い傷跡が残っていたが、その傷跡は見る見る消えていく。
「クレイブレインは頭蓋内で、脳を取り囲んでシート状に自己展開し、
各種センサーを備えた超並列コンピュータを構成する。そして…」
 カプセル上部の機械が作動し、同時に結の全身がでたらめな踊りの
ような動作を開始する。やはりその目は大きく開かれ、口からはわけの
分からない叫びが漏れる。
「ああやって全身の感覚神経と運動神経を興奮させてやって、その結果を
クレイブレインに学習させるの。脳では様々なパターンの電気的興奮と、
ありとあらゆる脳内物質の分泌がなされているはず。クレイブレインは
それを逐一記憶し、与えた刺激とその反応を比較して、脳が行っている
肉体の制御法を学習するの。学習を終えると、今度は獲得したパターンを
利用して、ヘルマリオンにとって最適な行動を脳に指令しはじめる。
こうして、いわば脳にヘルマリオンの『糸がつながった』状態になるの」

480:甦る友情/1.覚醒(13/13)
08/04/26 18:03:59 a9Qzvbbo0
 奇妙な踊りの続く間、結が必死で「何か」に抗い、歯を食いしばろうと
しつつも、徐々にその何ものかに押し流され、圧倒されていくのが
わかった。やがて憂いに満ちた表情のまま、ふとわたしと目が合った
結は、その目と唇で「ごめんね、さよなら」とつぶやいた。そして直後に
あらゆる表情を失い、能面のような顔つきになった。同時に全身の糸が外れ、
カプセルが開いた。今やスコーピマリオンとして覚醒した結は、カプセルから
歩み出ると、他の改造少女と同じ記号的な笑みを浮かべ、わたしに
近づき、口を開いた。
「次はあなたの番よ。オードネートマリオン!」

 ―思い出した。何もかも思い出した。わたしはそれからずっと
人間としての意志を奪われ、悪魔の操り人形として活動してきたのだ。
そしてこの目の前の紗希、人類の唯一の希望を、「未完成体」と
ののしり、ひどい目にあわせてきたのだ…。
「紗希ぃ!ごめん!ごめんね!…わたし…わたし…」
「いいのよ、碧。あなたが悪いんじゃない!あなたが悪いんじゃないの!」
 わたしと紗希は抱き合ったままいつまでも泣き続けた。幸い、互いの
お腹に空いた大きな穴は、忌まわしいマリオンラーヴァが与えた生命力の
せいで、すでに修復を始めていた。

481:甦る友情/2.平穏(1/8)
08/04/26 19:15:50 a9Qzvbbo0
 それから五日あまりが経った。わたしは足の再生が完了するまで、
とりあえず紗希のアパートに寝泊まりすることになった。骨が文字通り
粉末にまで砕けた脚部が、戦闘に耐えられる強度にまで再生するには、
それ相応の時間が必要だったのである。
 紗希のベッドを借りて横になっているわたしに、紗希が困惑した顔で
相談してきた。
「最近、世多谷地区で異常な事件が多発しているの。ニコニコ笑っていた人が
突然狂乱して、その辺にあるクワやら何やらを振り回し、あたりの人を
惨殺して本人も自殺する。そんな事件がもう三件も起きてる。やつらの
仕業である可能性は濃厚だと思う。…あまり思い出したくない記憶だと
思うから、なるべく聞くまいと思っていたんだけど、何か心当たりはない?」
「…気にしなくともいいよ。人の命が救えるならば、知っていることは教えるわ。
でも、ヘルマリオンという組織には謎が多いの。残念だけど、わからない。ごめん」
「そう…。こっちこそごめんね」
 別に謝るとこじゃないよ、と言ってから、わたしは別のことに気がつく。
「ねえ、今回、例の『徴表』はないの?」
「『徴表』か。…確認はできてるんだけど、今回ばかりはよくわからないんだ…」
 「徴表」とは、ヘルマリオンが三ヶ月ほど前から導入した、人類征服用の
新たな装備の副産物である。

482:甦る友情/2.日常〔…人が死んでるし、改題します〕(2/8)
08/04/26 19:18:54 a9Qzvbbo0
 ヘルマリオンが開発した「邪念実体化システム」は、拉致した人間の
邪悪な願望を実体化させる装置だ。装置に取り込まれた人間はマリオン
ラーヴァの力で異形の者―邪念獣―に変貌し、ソルジャードールと
共に邪悪な計画を実行する。だが、この装置には思わぬ副産物が伴った。
「邪念実体化システム」に取り込まれる人間は大抵、その犯罪のイメージを
既存の犯罪計画に求める。そして、その犯罪計画の大半は、実在の犯罪
ではなく虚構上の犯罪、つまり推理小悦や犯罪小説の類からヒントを
えている。ところが、そのような計画を「邪念実体化システム」が実体化
するとき、犯罪の着想のもとになった何らかのアイテムが無数に、
雨のように、犯行現場に降り注ぎ、やがて雪のように蒸発して消えて
いくのだ。そして、重度のミステリマニアである紗希は、ほとんどの
事件においてそのアイテムの意味するところをつきとめ、そうやって
悪の計画を何度も阻止してきたのだった。
「ねえ、今回の事件の『徴表』って何なの?」
「これなんだけど…何かわかる?」
 諦めたような顔の紗希が差し出した携帯のカメラには、昔の中国の
貴族風の衣装を着た人形が写っていた。
「わたし、今回ばかりはだめ。何も思いつかないの」
 がっくりとへこんでいる紗希から携帯を受け取り、それをよく見た
わたしは、すぐにその正体がわかった。

483:甦る友情/2.日常(3/8)
08/04/26 19:21:55 a9Qzvbbo0
「…これ、ええと、何だっけ、あの、奥さんを絞め殺して死体の絵を
描いた人じゃない?」
「…え?呉青秀?『ドグラ・マグラ』の?…たしかに、そんな時代の
服だけど…何でわかったの?」
「え?だって…映画でこの人形が奥さんの首を絞めてたよ」
「…映画!?…そうか…映画は見てなかったな…」
「…紗希!…ということは…」
「…ということは…」
「「精神病院だ!!」」
 二人は即座に、敵の本拠地のありかを察した。世多谷には有名な
精神科の病院がいくつかある。そのどれかが本拠地に違いない。
―そして出動したディソルバー・サキの活躍でヘルマリオンの野望は
くじかれたのだった。

 邪念獣を倒し、ついでに探偵事務所のアルバイトを終えて部屋に
帰ってきた紗希はひどく疲労していた。それを見たわたしは
あることに気がつき、紗希に言った。
「紗希、そういえばあなた、一度もアップデートをしていないんだよね?」
「アップデート?」
「パソコンのOSなんかと同じ。強化細胞の遺伝情報のデザインは、
わたしたちが改造された後も何度かバグの修正や改良が施されているの。
…まあ、悪の組織らしい杜撰さよね。で、時々アップデートしないと
調子が悪くなるのよ」

484:甦る友情/2.日常(4/8)
08/04/26 19:25:00 a9Qzvbbo0
 紗希が不安そうに言う。
「…でも、それって『ヘルマリオン印』の再改造を施されるっていう
ことでしょ?何だか怖いわ。実行したとたんに敵に操られたりとか、
しない?」
 それを聞いてわたしは笑った。
「何言ってるの。あなた、脳はまったく無傷なんでしょ?ありえないわ。
それより、命にかかわりかねないバグもあるんだから、絶対にやった方が
いいって。それに、操り人形として単純な動作ばかりしてきたわたしたちと
違って、あなたの強化筋肉は複雑な運動パターンを学習している。これに
アップデートが加われば他のソルジャードールたちより強くなれるわよ」
 紗希は思案している。ソルジャードールたちが日増しに強力になって
いることを思いだし、それでも自分自身が何とか互角に戦えてきたことの
理由を悟ったのだろう。
「ホ…紗耶だって、以前あなたが戦ったとき以上にパワーアップしてるんだよ」
「…『紗耶』なんて言わないで!『ホーネットマリオン』でいいわ!」
 紗希の表情が険しくなった。以前苦い敗北を喫し、あげく、あやうく
ヘルマリオンに連れ去られ脳改造されかけたことを思い出したのだろう。
その言葉をきっかけに、紗希は決心を固めた様子だった。わたしはほっと
しながら、ふと大事なことを言い忘れていたことに気がついた。
「…紗希、ごめん。言い忘れていたけど、アップデートが済むと、
あなたの『変身』後の姿は今よりほんの少し、人間から遠ざかってしまう。
わたしたちはそんなこと気にしないように脳改造されていたけど、
あなたは違う。致命的バグといっても顕在化する確率はすごく低いし、
無理に勧めてはいけなかったかもしれない」

485:甦る友情/2.日常(5/8)
08/04/26 19:28:01 a9Qzvbbo0
 しかし紗希は決然と言った。
「…いえ。いいわ。わたしの強化細胞のアップデート、お願いする」
「いいの?」
「人類の運命がかかっているのよ。見かけのことでわがままなんて
言ってられない」
「わかった。じゃあ、服を脱いで、それから『変身』してそこに横になって」
 それを聞いた紗希は、ちょっとためらいながらも服を脱ぎビーマリオンの
姿になって、ホットカーペットの上に横になる。わたしもパジャマを
脱ぎ捨て、擬態を解除してソルジャードール本来の姿に戻る。だが、
まだ幾分怪しい足でよたよたと紗希の方に近づいたわたしは、この期に
およんで、やはり重要なことを言い忘れていたことに突然気がついた。
…わたしたちにとってあまりに日常的な営みだったので忘れかけていたけど
…これって人間の基準で言うと、かなりイケナイことなんじゃないだろうか?
「…ねえ、紗希。…一つ聞くけど、あなた……処女?」
「…そうだけど。……なんでそんなこと聞くの?」
 紗希も何やら雲行きが怪しいことを察したらしい。
「…そうか。じゃあ、わたしがあなたの『最初の人』になっちゃうね。
女で、しかも改造人間が初体験の相手だなんて、変だよね」
 そう言いながら、わたしは自分の膣の中からアップデート用端子を
伸ばし、紗希に見せた。紗希は絶句している。

486:甦る友情/2.日常(6/8)
08/04/26 19:31:02 a9Qzvbbo0
 わたしはもう一度聞いた。
「…やっぱりやめる?」
「…いえ。やってちょうだい。紗耶に勝つため…いや、人類のためよ。
…でも……やさしくしてね」
「わかった。…ただ、ちゃんと濡れないと痛くなっちゃうから、
入れる前にあちこちいじったりなめたりするよ」
 紗希は泣きそうな顔をしている。そんな紗希の唇に濃厚なキスを
加えたわたしは、粘液でねっとりした舌を首筋から耳に這わせ、やはり
粘液の分泌されている指先で乳房をつまんだ。そうしてしばらく両手で
乳房をもてあそんでから、中指を下腹部に伸ばし、湿潤の度合いを確認した。
「どうかな?まだまだかな」
 紗希は黙ったまま身じろぎもせず、微妙な表情でじっと目をつむって
いる。わたしはそのまま中指を前後に動かし、紗希自身の粘液がある程度
増えたところで指を陰核に移動させた。とうとう声をあげた紗希に、
わたしは容赦なく責めを加え続けた。
「もう大丈夫かな。いくよ」

487:甦る友情/2.日常(7/8)
08/04/26 19:34:13 a9Qzvbbo0
わたしはそろりそろりと端子の挿入を開始した。ふさがった通路に
「道」をつけるのだから滑らかにはいかない。
「痛かったら言ってね」
「…つ…大丈夫…あの鉄骨に比べれば、これぐらい平気…」
 …いや、そんなものと比べられても…などと心の中で突っ込みつつ、
端子の挿入を終えると、わたしは腰を前後に動かし始めた。こうして
レトロウィルスを粘膜経由で「感染」させるのがもっとも効率のよい
アップデート法なのだと骸教授が言っていたのだった…

 ―まてよ。脳改造のせいで気づかなかったけど、よく考えたら
もっとましなやり方はいくらでもあるんじゃないだろうか。いや、
あるに決まっている!…あのエロじじい!!―

 不意に、自分たちが骸教授にだまされていたのではないか、ということに
気づいたわたしは、それでも他のアップデート法を知るわけでもなく、
どうにも形容できない思いのまま腰の運動を続けた。いつのまにか
紗希は、大きな声をあげながら首を左右に振っている。
「あ、何これ!あ・あ・あ・あーっ」


488:甦る友情/2.日常(8/8)
08/04/26 19:39:26 a9Qzvbbo0
 やがてレトロウィルスが大量に放出されたのが確認できた。紗希も
ほぼ同時に「イった」ようだった。わたしは役目を終えた端末が体内に
収納されていくのを感じながら、虚脱した肉体を紗希の上に重ねた。
紗希もまた放心しかけた表情で天井を見ていた。紗希がぽつりと言った。
「…あなたがヘルマリオンを脱走したということは、アップデートは
今回限りなんだよね」
「…まあ、そういうことになるわね」 
「…そうか」
 なんとなくつまらなそうな声でそう言ったのを聞いて、まあ、
悪いことをしたわけではなかったのだろう、とわたしは思った。

489:甦る友情/3.危険因子(1/4)
08/04/26 19:44:44 a9Qzvbbo0
 さらに数日が経ち、わたしはリハビリがてら、紗希と近所の散策に
出かけた。帽子を目深にかぶり、サングラスをかけ、わざとダサダサの
格好をしての出陣だ。穏やかな春の日。いっときとはいえ、平和で
楽しい時間が過ぎる。くつろいだ様子の紗希が話しかけてくる。
「足が治ったら、あのへっぽこ探偵にあなたを紹介するわ。そうして、
二人目の助手にしてもらいましょう」
「いいの?ちゃんと給料出せるのかしら?へっぽこなんでしょ?」
「いいのいいの。ほっておくと競馬やらパチンコに消えるお金なんだから、
気にするだけ損よ」
 紗希の口調からは、きつい言い方とは裏腹の、「へっぽこ探偵」への
好意と信頼があふれていた。きっと「へっぽこ」かもしれないけど、
いい人なんだろうな。わたしもなんだか温かい気持ちになった。
 ぽかぽかした陽気の下を歩く内、わたしは、何度か持ちかけあぐねて
いた相談を今してみようかという気になった。
「あの、一つ相談があるんだけど…」
 わたしがそう言いかけたときだった。紗希に危険因子が接近してきた。
わたしはあわてて危険因子を排除し、紗希を保護した。すると紗希は
目を剥いてわたしを見て、こう叫んだ。
「碧!何てひどいことするの!?」

490:甦る友情/3.危険因子(2/4)
08/04/26 19:47:45 a9Qzvbbo0
 ふと見ると、目の前でひざから血を流して幼稚園児が泣いていた。
我に返ったわたしは、自分が何をしてしまったのかをようやく自覚した
―紗希と顔なじみらしい女の子がタンポポの花を紗希にあげようと
近づいてきた。わたしはそれをどういうわけか「危険因子」だと判断し
「排除」してしまったのだ。はじき飛ばしたタンポポはガードレールの
向こうへ落ちてしまったようだ。わたしは女の子に駆け寄り、女の子に
謝りながら、二人で傷の手当てをしてあげた。そうして歩き出した紗希
にもわたしは謝った。
「紗希、ごめん!何か勘違いしてしまって…血なまぐさい戦闘ばかり
続けてきたからなのかな…」
「…ううん。きつい声出してしまってごめんね。それより、相談って?」
 紗希の声は固い。正直、切り出すタイミングとしては最悪だった。だが
どうせ答えは分かっていた相談なので、わたしは思い切って口に出した。
「あの、わたし、足が治ったら、家族の様子を確認に行きたいんだけど
…だめかな?」
「だめよ!!わかってるでしょ!?」
 案の定、紗希は猛烈に反対した。聞くまでもないことだった。紗希に
思いやりがないのではない。むしろその逆だった。
 ヘルマリオンの度重なる破壊活動で、日本中、いや世界中が混乱状態に
陥っている。家族と音信不通のままだとしたら、その安否が気になるのは
誰しも同じだ。そして紗希自身も例外ではなかった。だが、以前、
その思いに駆られた紗希が自宅の様子を見に行ったばかりに、紗希の
両親はヘルマリオンの恐ろしい作戦に巻き込まれてしまった。しかもそれは、
脳改造されていたわたし自身が、間接的にではあるが関与した作戦だった。

491:甦る友情/3.危険因子(3/4)
08/04/26 19:50:46 a9Qzvbbo0
 紗希が諭すように言う。
「あなたの脱走はすでにヘルマリオンに察知されているはず。だから、
あなたの自宅にはヘルマリオンの監視の目が光っていると思った方がいい。
そんなところにのこのこ出かけて、戦闘にでもなってしまったら、
ご両親や茜ちゃんがどんなことになるか…あなたのためよ。我慢して」
 紗希の声は心底辛そうだった。わたしはせめてもと思い、こう訊いた。
「…なら、紗希、あなたが見に行ってくれる?」
「同じことよ。もっと悪いかもしれない。…でも、いい案があるわ。
敵からまるっきりノーマークのへっぽこ探偵に頼んでみる。浮気調査
より簡単な仕事だから、いくらへっぽこでも失敗はしないわよ。料金は
ツケにしてもらう。あなたが将来バイトでも始めたら払ってあげて」
 「へっぽこ」という形容詞が一切外れないことに一抹の不安を
おぼえつつも、たしかにそれが最善の策だとわたしは納得した。
そうしてまた歩き始めたとき、わたしは紗希に危険因子が接近している
ことを感知した。目標は急速に接近している。わたしはやむをえず
非常措置をとった。なんとか危険因子の排除は成功し…同時に、
紗希の悲鳴が聞こえた。
「いやぁぁ!碧!碧!?あなた、何をやっているの!?」

492:甦る友情/3.危険因子(4/4)
08/04/26 19:53:47 a9Qzvbbo0
 ふと気がつくと、目の前で何か毛むくじゃらの黒い物体がずぶずぶと
融けている。そして紗希に借りた服の胸の部分が融け、そこから
エメラルド色に変色した乳房が覗いている。わたしは自分が何をしたか
すぐに思い出した―紗希になついているらしい飼い犬、しかも小型犬で、
やや長めの鎖につながれた犬が、うれしそうに尻尾を振りながら紗希の方に
向かってきた。わたしはそれをどういうわけか「急速に接近する危険因子」
と認識し、犬に溶解液を放射したのだ。
「碧!わんちゃんには気の毒だけど、人に気づかれる前に、逃げるわよ!」
 そう言いながら、あきらかに犬の死を悲しむ涙を浮かべて、紗希は
わたしの手を取り、わたしの胸を隠しながら大急ぎで下宿に向かった。
運よく誰にも目撃されずに部屋に戻れたわたしたちは、ほっとして
へたり込んだ。そして紗希は、悲しみと、困惑と、幾分かの怯えを
含んだ目でわたしを見た。その感情は、わたしが、わたし自身に
抱いているものと同じだった。
 ―わたしは、紗希とは違う。脳にまったく手をつけられていない紗希と
違って、わたしの脳には人工頭脳が埋め込まれている。そしてそれは、
たとえ「糸が切れ」た後でも活動を止めてはいない。わたしはもう、
散歩一つ平和にできない、狂った戦闘兵器になってしまったんだ…―。
 あの犬と幼稚園児が逆だったらどんなことになっていたか?それを思うと
ぞっとした。わたしは無言で、自分が寝ていたベッドに戻り、布団に
くるまった。無理に明るい声を繕って紗希が声をかけてくる。
「大丈夫よ。あなたは人間よ。もとの優しい碧だよ。あまり落ち込まないで」
 わたしはそれには答えず、布団の中で体を丸めた。

493:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/04/26 19:58:46 a9Qzvbbo0
レス遅れましたが>>463
一応、テレビシリーズの、(季節はズレますが)「終盤近く、
クリスマス商戦に向けて新フォーム登場&パワーアップ」
くらいの時期を想定しています

…って何を売るんだろう?お母さん向けアップデート端子とか?

494:甦る友情/4.帰還(1/5)
08/04/26 21:15:01 a9Qzvbbo0
 そのまま眠り込んでしまったわたしは、真夜中の変な時刻に目を覚ました。
紗希は眠っている。わたしはふと昼間の「へっぽこ探偵」のことを思い出した。
そしてそれを思い出すといても立ってもいられなくなってきた。
 ―あまり行儀のいいことじゃない。でも、ちょっとだけ、
ちょっとだけよ―
 そう自分に言い聞かせながらわたしはそっと紗希のパソコンのスイッチを
入れ、起動するとメーラを開いた。「Holmes」というあまりにあんまりな
ニックネームをつけた新着メールが一件届いていた。件名は「堀江家の
調査について」。午前中の散歩の後に紗希が「依頼」し、バイト先の
探偵氏が夜までに結果を出したようだ。へっぽことはいえ、なかなか
律儀な人ねと思い、いずれ朝になればどうせわたしが見るんだから…と
言い訳にもならない言い訳をしながら、わたしは他人宛のメールを開いた。

495:甦る友情/4.帰還(2/5)
08/04/26 21:17:01 a9Qzvbbo0
-----------------------
みさきちゃんへ

 例の堀江家の調査。早速行ってきました( '-^)b
 詳しい資料とかは明日見せるとして、
 結果をなるべく早く知らせてとのことなので、
 事実関係だけ簡潔に伝えておきます。
 まず、多分ご存じだろうけど、
 お友達のお友達という碧ちゃんは、例のサマースクールの
 集団失踪事件に巻き込まれたらしく、未だに行方不明です。
 ご両親の奈津子さんと昭夫さんは健在です。
 そして妹の、中学生の茜ちゃんですが、
 事件に巻き込まれたわけではないものの、現在入院中だそうです。
 調査によると、進行性の骨肉腫とかで、急遽足を切断したものの、
 転移が見つかり、もってあと数ヶ月から、下手をすれば数週間だと
 いうことです。病室は、美府病院の405号室。
 病院の地図と案内図も添付しておきます。

名探偵より
-----------------------

496:甦る友情/4.帰還(3/5)
08/04/26 21:19:02 a9Qzvbbo0
目の前が真っ暗になった。あの快活で利発な、スポーツガールの
茜が、足を切断し、あと数ヶ月から数週間の命!どうしよう!神様!
 そのとき、いつの間にか馴染みになった、本能の呼び声が脳内に響いた。

 ―現状デ最適ナル行動ヲ選択シ、実行スル―

気がつくとわたしは擬態を解除し、再生した翅を広げ、アパートの窓を
開いていた。そして、一瞬だけ振り向き、紗希の寝顔に無言で別れを
言うと、あとは本能に身を任せ、夜の空へ飛び立っていた。
 メール本文の下にそのまま表示されていた添付画像を頼りに、わたしは
茜のいる病院と病室を一心に目指した。やがて病室が見えると、
窓の一部を溶解させ、鍵を回して病室に入った。
 病室に入ると、すやすやと眠る茜の横に、人間に擬態してはいるが、
もはや人間でない波長を発している看護婦がひっそりたたずんでいた。
看護婦は茜を起こさないための配慮か、超音波で話しかけてきた。
「待っていたわ、オードネートマリオン」
「あなたは…プペロイド?ソルジャードール?」
 相手の正体がもう一つ掴みきれないわたしに、看護婦は答えた。
「改良型プペロイドとも言えるし、廉価版のソルジャードールとも言える。
要するに新型よ。あなたがここに来ることを予期したヘルマリオンが、
茜ちゃんの担当看護士であるわたしを改造して、こうやって網を
張ったということ」

497:甦る友情/4.帰還(4/5)
08/04/26 21:21:10 a9Qzvbbo0
「…そう。わたしのせいで…」
 出かかった「ごめんなさい」という言葉に対し、目の前の操り人形が
どんな寒々しい返答をするのかを予測したわたしは、その言葉は飲み込み、
即座に本題に入った。
「ヘルマリオンの一員なら、話は早いわ。わたしを手近の、改造手術が
可能なアジトに案内してちょうだい。わたし、組織に帰ります。
その代わり、この子の命を救って欲しいの」
 看護婦は軽い驚きを見せ、用心深く聞き返してきた。
「…念のため聞くけど、わかっているわね?わが組織はもちろん、
茜ちゃんの病を完治させ、さらにはその足を再生させる技術力をもっている。
でも、ヘルマリオンは病院じゃない。茜ちゃんをただ治療してお家に
返すというわけにはいかない」
「…わかっているわ」
「…わかっているのね。妹さんがどうなるのかも。…そうよ。それが
あなたにとってもっとも合理的な選択肢。そして多分茜ちゃんにとっても。
…実はあなたがその決断を下してくれて、わたしもうれしいの。わたしも
茜ちゃんの命を救いたかったから。健気な子よ。自分の命が残り少ないことを
知らされても、おびえず、絶望せず、ただあなたと再会できないことを
残念がっていたの。…いいわ。付いてきて」
 看護婦は、ヘルマリオンの使いにしては人間的なセリフを口にしながら、
擬態を解除し、コガネムシか何かのソルジャードールの姿になって、
窓から飛び出してホバリングを始めた。わたしとしても好都合な展開
だった。ヘルマリオンは作戦ごとにそのアジトを変える。わたしの知る
アジトは今頃すべて破棄されているはずだ。この看護婦の案内でもなければ、
それを探し出すだけでも多大な時間を要し、その間に妹は死んでしまう
かもしれない。

498:甦る友情/4.帰還(5/5)
08/04/26 21:24:19 a9Qzvbbo0
 わたしは妹を毛布でくるみ、横抱きにすると、看護婦の後に続いた。
妹は片足が確かになくなっており、足一つ分以上に体が軽くなっていた。
鎮痛剤でも飲んでいるのか眠りはかなり深く、飛び始めてからも、夜の空を
飛んでいることなどまるで気づく様子もない。それでも一度、目を
覚ましかけた妹に、わたしは優しく言った。
「茜。お姉ちゃんが助けてあげる。もう心配いらないよ」
「…あ、お姉ちゃんだ。ありがと…」
寝ぼけながらも、信頼しきった返事を返す茜がたまらなくいとおしく
なったわたしは、改めて妹をしっかり抱きしめながら、看護婦の後を
追った。やがて看護婦は人里離れた山奥にたどり着き、古びた廃屋の
地下室のふたを開け、その奥にある電子機器を操作し、アジトの入り口の
扉を開いた。わたしは妹を抱えたままそれに続いた。

499:甦る友情/5.改造装置(1/16)
08/04/26 21:27:46 a9Qzvbbo0
 骸教授がうれしそうに声をかける。
「それでは、おまえは再び偉大なるヘルマリオンに永遠なる忠誠を誓うと
いうのだな?」
「はい。再び組織に戻り、ヘルマリオンのために尽くしたいと存じます」
「しかも、そこにいるお前の妹をわが組織の一員にいざなおうと?」
「はい。不幸な病に蝕まれてしまいましたが、中学一年にして全国大会で
上位入賞した優秀な陸上選手です。必ずやわが組織の貴重な戦力に
なるものと信じます」
「いいだろう。だが言っておくが、糸の切れたおまえの殊勝な言葉など
わしは信用せん。脳改造はしっかりさせてもらう。わかっておるな」
 ひょっとすると口先の忠誠によって脳改造は免れられるのではないか、
という淡い期待はやはり適わなかった。覚悟はしていたものの、
はっきりと宣告されると胸がざわめく。だが、わたしは平静を装って言う。
「…わかっております。どうか再び、この弱々しく不合理な心を
正しく導いて下さい」
「よし。ただちに堀江茜の改造と、オードネートマリオンの再・脳改造
を開始せよ」
 部屋の中央に鎮座している巨大な改造装置が起動を始め、白い手術台が
せり出してくる。プペロイドどもが寝顔のままの茜をわたしから奪い、
毛布をはぎ、そのパジャマと下着を切り裂き、汗ばんだ白い肉体を手術台に
固定する。足の切断痕が痛々しい。やがて妹はマリオンラーヴァの
腹の中へと吸い込まれていく。
 それを見届けたわたしは、今度はわたしを脳改造カプセルに連行しようと
するプペロイドをにらみ、一喝した。
「無礼者!わたしはソルジャードールだ」

500:甦る友情/5.改造装置(2/16)
08/04/26 21:30:48 a9Qzvbbo0
わたしは自分でゆっくりとカプセルに向かい、中に入って言った。
「始めて!」
 天井の装置が起動し、わたしの皮膚に無数の「糸」付着し、癒合を
開始する。数分の時間をかけて糸の癒合が完了すると、糸がぴんと張り、
わたしを吊り上げ始める。全身の皮膚が三角錐のように伸び、激痛が
走る。同時にヘルメットが装着される。クレイブレインが入っている
はずのシリンダーは空だ。いつの間にか部屋に入ってきた紗耶、いや
ホーネットマリオンが冷たい声をかける。
「あなたの場合、クレイブレインは注入済みだから手間が省けるわ。
でも、せっかく調子よく働いていたのに、リセットしなければならない
なんて、とても残念ね」
 一種の皮肉だろう。わたしはこの忌まわしい人工頭脳のせいで幼稚園児に
怪我をさせ、可愛らしい犬を殺してしまったのだ。だが、ホーネット
マリオンは幾分予想と違う返答をしてきた。
「実のところ、あなたのクレイブレインは完全に組織の支配を逃れて
いるの。そして、あなたと、あなたの愛する者のために、最善の選択を
して、あなたを動かしていたの」
 ホーネットマリオンは、わたしが思ってもみなかったことを告げ始めた。

501:甦る友情/5.改造装置(3/16)
08/04/26 21:42:18 a9Qzvbbo0
「いいこと教えてあげる。昨日、都内全域で、わが組織は小規模な実験的
無差別テロを行ったわ。一見無害なトラップをばらまいて、不注意な
愚民どもの頭数をちょっとだけ減らしてやったのよ。成果はほぼ
申し分ないものだった。だけど、ただ二件だけ、未然に起動が阻止
されたトラップが検知された。場所の特定までは残念ながらできなかった
けどね。…どう?心当たりはない?タンポポ型の濃縮溶解液噴射装置と、
殺人兵器に改造された小型犬。あなたの人工頭脳でもなければ、たとえ
紗希でも、あれの動作を未然に防ぐことはできなかったと思うんだけど…」
 …そうだったのか!わたしが狂った殺人兵器だったわけではない。
ただ、ヘルマリオンのいる世界が、狂った、危険に満ちた世界だった
だけなのだ!そして、わたしはその世界の中で、結局は正しいことを
していたのだ。大好きな紗希の危機を、二度も救うことができたんだ。
わたしは思わず声を出していた。
「…あは…よかった。よかったよ、紗希ぃ!!」
 わたしの目から涙がこぼれた。…だが、すぐに気が付いた。もうじき
わたしの心から、この気持ちは消されてしまうのだった。人工頭脳を
動かした、「紗希を救いたい」というまっすぐな思いも、「紗希を救えて
よかった」という素直な気持ちも、取り戻しかけた友情も、何もかも
消去されてしまう。そしてわたしはまた、紗希の命をつけねらう、意志の
ない操り人形に戻ってしまう。紗希と、そしてこの世界に再び刃を向ける
ことを自ら選択した自分の罪深さを、わたしはひたすら神様に懺悔する。
 …ああ、でも、人工頭脳についての紗耶の説明が本当ならば、わたしの
あの計画も多分うまく行く。わたしのクレイブレインは、多分わたし
一人ではとても無理だった計画を考え出し、実行してくれた。そして
もうじきこのクレイブレインは初期化され、わたし自身も愚かな操り人形に
なる。すべては混沌と忘却の海に沈み、そうして、わたしの計画は完了する…

502:甦る友情/5.改造装置(4/16)
08/04/26 21:44:21 a9Qzvbbo0
 …あのとき、看護婦と共にアジトの入り口を抜けたわたしは、完全に
油断している看護婦を襲って動作を停止させ、掃除用具入れの中に
押し込んだ。明朝、プペロイドか掃除当番のソルジャードールが開ける
まで、まず気づかれることはないだろう。とどめをささなかったのは、
わたしのせいで改造された女性を殺すのが忍びなかったからだ。だが、
相当深い損傷を与えたので、専門の修理斑でも来なければ救援電波すら
発信できないはずだ。「侵入者」として入ったわけではないから
セキュリティには感知されていないはずだ。常駐の巡回要員というのも
通常はいないはずである。
 それからわたしは人間に擬態し、妹の毛布を借りて裸体を隠すと、
妹に軽いカンフル剤を噴霧して、可哀想だがむりやり目を覚まさせた。
そして目覚めた妹の肩を抱き、その目をじっと見つめた。そして、
ここがどこかも分からずに戸惑っている妹に、大急ぎで説明を始めた。
「茜!茜!お姉ちゃんよ。一度だけ説明するから、どうか声を上げないで、
お姉ちゃんの話を聞いて。とても恐ろしい話だけど、目をそらさずに、
最後まで聞いて!」
 姉思いで、基本的に肝が据わっている妹は、すぐに戸惑うのをやめ、
ただならぬ状況を理解し、ごくりと息をのみながらも、決然とした表情で
わたしの話を聞き始めた。
「…最近世界中で恐ろしい事件を起こしている組織があることは知って
いるわね。その組織の正体をお姉ちゃんは知っている。『ヘルマリオン』
ていうの。なぜそれを知っているか。いい?怖がらないで。お姉ちゃんはね、
去年のサマースクールで、ヘルマリオンに囚われて、恐ろしい怪物に
改造されてしまったの。今はあなたを驚かせないように、人間に
擬態しているだけなの」

503:甦る友情/5.改造装置(5/16)
08/04/26 21:47:23 a9Qzvbbo0
 妹は、十代らしい柔軟性で、組織が非常識な超科学を駆使する
悪魔的集団である、という噂を、すでに事実として受け入れているよう
だった。そして、飲み込みの早い彼女らしく、わたしが何をためらって
いるのかをすぐに察して、言った。
「いいよ。今のお姉ちゃんの本当の姿を見せて。わたし怖がらない。
約束する」
 わたしは意を決して擬態を解除し、エメラルド色の皮膚をもつトンボの
改造人間の姿に戻った。そして羽織っていた毛布を再び妹にかけてやった。
妹は驚きの色をみせたものの、それでも目をそらさずにいてくれた。
 わたしは重要な話に入った。
「改造された女子高生たちは、ほぼ例外なく、心まで冷酷な悪魔の操り人形に
変えられてしまった。実は、わたしもそうだった。でも大丈夫。今は
違う。ある勇敢な子、あなたも知っている紗希ちゃんのおかげで、
わたしは人間の心を取り戻したの」
 茜を怖がらせないように話すのは難しい。
「ここからが大事。最後まで黙って聞いてね。言いたいことがあっても、
話が終わってからにして」
 茜はうなずく。
「わたしは、わたしがいない内に、あなたが大変なことになっている
ことを知った。わたしはあなたを助けたい。あなたの命を救いたい。
そう思った。そして…怖がらないでね。実は、ここがそのヘルマリオンの
アジトなの。ここでならあなたを直せる。そう思ってわたしはあなたを
連れてきたの」


504:甦る友情/5.改造装置(6/16)
08/04/26 21:50:29 a9Qzvbbo0
 茜はさすがにおびえ、何か言おうとする。だがわたしはそれを制する。
「わたしを信じて。もうちょっとだけ話を聞いて。まずたしかなのは、
組織の技術を使えば、あなたの体を元通りにできること。だけど、普通
ならば、あなたの命は救われる代わり、あなたは冷酷で意志をもたない
操り人形になってしまう。わたしはそれは絶対に嫌。あなただって
嫌でしょう?だからわたしは考えたの。あなたの病気を治して、ついでに
足も元通りにして、それでもあなたの心が無傷のままでいる方法を。
そのためにはあなた自身に、事態をよく理解し、その中で自分のすべき
ことをちゃんと知ってもらう必要があるの」
 茜は少しほっとした様子を見せたが、やはり何か問いたげだった。
だが、わたしは、もう少し黙って聞いて、というジェスチュアをして、
まずは「計画」の第一段階に取りかかった。
 まず、アジト全体の立体構造を電子的にスキャンする。案の定、
かわり映えのしない、いつも通りの間取りだ。それから、壁にある
配電盤の下の、分厚い強化コンクリートの壁に左手を当て、特殊な
高周波を手から放射し始める。
「約十数分かかるけど、この壁に穴が空く。わたしはその中にこれを
仕掛ける」
 そう言いながらわたしは自分の乳房に右手の爪を立て、肉の中に指を
差し込み、内部の組織をむしりとった。欠けた部分には体液が流れ込む
ので外見上の変化はない。
「強力なプラスチック爆弾みたいなもの。動作すると雷みたいな強烈な
放電によって爆発する。これに信管を埋め込むの。手伝って」

505:sage
08/04/26 21:50:47 i7tDMcFQO
 言いながらわたしはまず、この状態では絶対に爆発しないから、と
言いながら爆弾を妹に渡し、次いで右手で脇腹の収納スペースから信管と
携帯電話を取り出し、信管を妹に渡した。そして携帯のアラームを
四十分後に合わせた。携帯の充電端子に信管を差し、アラームが鳴ると
信管が作動する仕掛けなのだ。わたしは左手で壁に高周波を当て続け
ながら、話を続けた。
「壁に穴が空いたら、中の配電装置に爆弾を仕掛ける。今から四十分後、
爆弾が破裂し、基地全体の電源が破損して、しばらく復旧不可能になる。
結論を言えば、その隙にあなたは脱出できるはずなの。だけど、
そのためにはもう何段階かの説明が必要」
 …あまり時間はない。わたしは必要最低限の説明をして、しかも
そのすべてを茜に同意させねばならない。


506:甦る友情/5.改造装置(8/16) (…うう、マチガエタ)
08/04/26 21:52:22 a9Qzvbbo0
 そして、装置に入ってからだいたい十五分後から二十分後の間の
どこかで爆弾が爆発する。つまりわたしはこれから、今からちょうど
二十分後くらいにあなたが装置に入るように、うまく調整して行動する。
爆弾が爆発し、基地のシステムがダウンしたら、あなたは基地の中を
最短距離で移動し、緊急脱出用の、いわゆる「空飛ぶ円盤」みたいな
乗り物で基地の外へ飛び出せばいい。可視光線でも補足できない、
超ステルス機よ。円盤の発信装置さえ切っておけば、追尾されずに
逃げられるはず。
 ここは超科学の要塞だけど、実は停電でシステムがダウンしたら脱出は
案外簡単なの。装置からは簡単に這い出せるし、約二分間、戦闘員も、
ソルジャードールも、どういうわけか骸教授という幹部も、一時的に
混乱して目標を見失う。脱出路や、隠れやすい場所や、武器のありかも
教えておくし、今はまだ言えないけど、とっておきの仕掛けもいくつか
用意する。あなたの脚力なら円盤にたどり着かない方がおかしいくらい。
人工頭脳でシミュレーションしたんだから、心配しないで」

 当然だが、茜は緊張して聞いている。わたしは話しながら思う。実際、
システムダウンしたヘルマリオン基地は意外にもろい。電磁式の拘束具も、
改造装置の排出口も、武器庫のドアのロックも、電源が停止すると簡単に
解除されてしまう。システムダウン自体が、わたしのような改造人間に
よる内部からの破壊活動か、あんな予測外の天災でも起きない限り、
まずありえないから、そんな設計が可能なのだ。多分設計者のいびつな
美学と傲慢さがそこにはあるのだろう。だから、いったんシステムダウン
してしまえば、復旧するまでの間ならば、機転の利く未洗脳の人間が、
糸のもつれた操り人形たちをすりぬけて逃げおおせる余地は十分にある
はずなのだ。…あのとき、あれだけの数の中で紗希一人しか逃げ出せ
なかったのは、紗耶という悪魔的な天才が、妹を思うあまり、かなり
早い段階で自己犠牲的な降伏を行い、ヘルマリオン側に着いたから。
それが最大の理由だったのだろう。ふとそれに気づいた。

507:甦る友情/5.改造装置(9/16)
08/04/26 21:55:24 a9Qzvbbo0
 わたしは話を続けた。
「二十分の予備調整が済むとただちに本格的な改造が始まる。この作業は
十分もかからずに終わってしまう。さっきも言ったとおり、お姉ちゃんは
ちゃんと爆破時刻を調整して行動するけど、アクシデントによる数分の
誤差がまったくないとはいえない。そして、その誤差を絶対に後ろに
ずらすわけにはいけないの。リフレッシュが終わる前に爆弾が破裂しては
いけないから。だから、場合によっては、あなたは肉体の一部を
改造されてしまうかもしれない。その危険性を完全にゼロにはできない。
でも、万一肉体を改造されてしまっても、脳改造さえ受けなければ望みは
ある。あの勇敢な友達、紗希がもしヘルマリオンを倒してくれたら、
ヘルマリオンの科学力で肉体を元に戻すことは不可能ではないとわたしは
信じてる。それに、肉体改造の終了から脳改造までの間には、わたしたちの
頃よりも短縮されたとはいえ、三十分以上間が空く。やはり強化細胞の
定着に時間がかかるの。そして、停電までの誤差がそこまでずれることは
絶対にない。それは保証するわ」
 そう。要は、数分のリフレッシュが終わり、その後脳改造が始まるまでの、
長い時間のどこかで停電が起きさえすればいいのだ。特に最近は、改造後の
麻痺状態からの回復も以前よりずっと速い。いっそのこと、爆破時刻を
もっと後に設定して、茜が紗希同様完全なソルジャードール化するのを
待ってから動く方が確実かつ有利ではないのか…

508:甦る友情/5.改造装置(10/16)
08/04/26 21:58:29 a9Qzvbbo0
 …そこまで考えたわたしはふと、そんなことを考えている自分が、「肉体の改造」に対してひどく鈍感になってしまっていることに気が付いた。
いざ肉体を改造されても擬態すればいいではないか、などと軽く考えて
いたわたしは、自分自身が改造されてしまったときの、あのどうしようもない
喪失感を忘れかけていたのだ。あんな思いを茜に味あわせてはいけない。
「…でも茜、お姉ちゃん、茜の体を改造させたりしないからね…」
 妹は震えながらもこう言ってくれた。
「いいよ。どうせ残り少ない命だったんだし、ちょっとくらい見かけが
変わっても、大丈夫!それにお姉ちゃん、わたし、その姿、結構
かっこいいと思う。そんなのなら………なってもいいよ」
 「事故」の可能性を納得し、けなげにもそう言ってくれる妹に、
大丈夫、改造はさせないからね、と念を押したわたしは、続いて
本当に大事な話を始める。
「…だけどね、本当の本当を言うと、今の計画はこのままではうまく
いかないの。なぜなら、この計画を実行するためには、お姉ちゃんは
どうしても再び脳改造を受けなければならないから。お姉ちゃん、
もうじき、心まで悪魔の手先に戻ってしまうの。進んで投降して、
やつらの脳改造を改めて受けるつもりでいるの。そしてそうなって
しまうと、計画は今話したように単純には進まなくなるの…」
 茜の顔色が急変した。
「いやだよ!!そんなんだったら、わたし死んでもいい!やめてよ!」
「お願い!お姉ちゃんの最初で最後のわがままなの。わたしは、
それでも、あなたが無事ならいいの」

509:甦る友情/5.改造装置(11/16)
08/04/26 22:01:31 a9Qzvbbo0
 茜はなおも、泣きそうな顔で抗弁する。
「…でも、でも、脳改造されたら、もうお姉ちゃんはお姉ちゃんじゃ
なくなっちゃうんでしょ?『わたしを脱出させたい』という
気持ちも消えちゃうんでしょ?そんなになったら、きっと計画だって
ダメになるよ。意味ないよ!やめて!」
 賢い子だ。…だからこそ説明が簡単だ。
「そう。それは十分わかっている。だから、これから、そのための手を
打つの…いい?今から、ちょっと変な話し方をする。何を言いたいかは
分かりにくくなるけど、注意して聞けば難しくないはず」
 わたしはやっと「計画」の最核心部分に入った。
「『今から話す内容は、数十分後のわたしにはちんぷんかんぷんな話に
なっているはず』と、おばあちゃんが思っている、と天道くんなら思う
と思うの。『まず、操り人形は他人の心を読みとる力に限界があるの』
とおばあちゃんが思っている、と天道くんなら思うと思う。『そして、
わたしはその盲点の中に、わたしの作戦の一番大事な部分を隠そうと
している』とおばあちゃんが思っている、と天道くんなら思っていると思う…」

510:甦る友情/5.改造装置(7.5/16)[…505と506の間に入れて下さい]
08/04/26 22:04:49 a9Qzvbbo0
「まず、最新式の人体改造装置の説明をしておくわ。わたしたちを
改造した頃の装置は、不適合者を『食べ』てしまうという、生産効率の
悪いシステムだった。だけどその後データの蓄積が進み、すべての人間を
意のままに改造できるシステムが完成した。そしてこの改良型の機械には、
改造前に必ず二十分の『予備調整』の作業が加わることになった。
一律二十分をかけて、改造素体の体細胞をリフレッシュさせる。そして
その過程で改造素体の身体の異常はことごとく修復されるの。悪性腫瘍の
治療や、欠損した手足の再生さえしてくれる!これを経ると強化細胞の
性能が飛躍的に向上することがわかったから、もうこの過程を省略する
ことはない。しかも、二十分という時間は短縮できない。リフレッシュ
自体は、たとえ悪性腫瘍の治療や、欠損した手足の修復でさえ、数分とは
かからないの。体も、外面的には元通りになり、かなり激しい運動も
できるはず。だけど、細胞レベルでの改造という異常なストレスに
耐えるほどリフレッシュが『定着』するまでには一定の時間がかかる。
いわば改造までの待機時間、いえ、拘束の時間が必要なの」
 茜は賢い子だ。慎重に話を聞き、うなずいている。
「もうわかるわね。わたしはあなたを一度改造装置の中に運ばせる。
あなたは寝たふりをして改造装置に入る。数分であなたの体は元通りに
なるわ。腫瘍も消えるし、足だって再生する。もちろん、厳密な意味で
『元通り』とは言えない。修復箇所に人間以外の細胞が混じったりして
しまう。だけど、見かけはまったく人間と変わらないし、性細胞が
残っていれば普通に赤ちゃんを産むこともできる。

511:甦る友情/5.改造装置(12/15)
08/04/26 22:08:00 a9Qzvbbo0
 ―ソルジャードールは、「三階以上の志向的態度」を読みとる能力を
奪われている。つまり、「誰かがしかじかと思っている」と思うこと
まではできても、「『誰かがしかじかと思っている』と思っている」と
思うことや、それ以上のもっと複雑な構造の思考は理解できない。
あるいは、あるレベル以上の「メタレベル」に立つことができないのだ。
ソルジャードールは、こうやって深い自己反省や、他人の心に対する
深い理解を妨げられ、それによってヘルマリオンへの疑問や反省を
抑圧されているのである。それゆえに、脳改造後のわたしは、
「誰々は『誰々は…と思う』と思う」という構造で枠づけられた思考の
内容に、たとえそれが自分自身の思考であっても、アクセスすることが
できなくなるのだ。
 「天道くん」とは少々古いネタだったが、ヒロくんの大ファンで、
しかもカブトを見るたびに「あれって本当は天道くんが自分で言ってるん
だよね~」と言っていた妹だから、即座にわたしの真意を察することが
できたようだ。つまり、わたしが茜に伝えている本物の情報は『 』の
中だけで、他は単なる目くらましである、という仕掛けをだ。
 話しながら爆弾をセットし、重要な情報を伝えたわたしは、まだ
柔らかい強化コンクリートの塊を壁にはめ込み、もう少しだけ
特殊高周波を照射した。
「これでまた、壁と一体化して急速に硬化する。同じ穴を開けるためには、
また長い時間をかけなければいけなくなるはず」
 それからわたしは、さっきと同じような回りくどい言い方で、
計画の締めくくりを慎重に伝えた。

512:甦る友情/5.改造装置(13/15)
08/04/26 22:11:05 a9Qzvbbo0
「『スキャンした結果、脱出用の円盤は、南と北の二方向にあることが
わかった』とおばあちゃんが思っていると天童くんは思っていると思う。
『そして、これからわたしはあなたに、南に逃げるように指示を出すけど』
とおばあちゃんが思っていると天童くんは思っていると思う。
『あなたはそれに「はい」と返事をしつつ、でも実際には北に逃げて』
とおばあちゃんが思っていると天童くんは思っていると思う―さあ、
茜!脱出用円盤は南と北の二箇所にあるわ。建物の構造上、
南の方が警備が手薄だから、南に逃げなさい!」
「…わかったわお姉ちゃん。わたし、南に逃げる!」
「いいわ。それから、これだけは忘れないで。お姉ちゃんはもうじき、
あなたを追いかける悪魔の操り人形に生まれ変わる。だから、もしわたしが
あなたを追いかけてきたら、教えたところにある武器で、躊躇なく
わたしを攻撃して。高性能の武器だから、うまく命中すれば、一撃で
仕留めることもできるはず」
「……」
「『はい』と言いなさい!それが、本当のお姉ちゃんの、本当の願いなの!
今のわたしは、自分で自分を殺すことさえうまくできない体なの。
死ぬなら、できればあなたに殺して欲しい。いえ、わたしを殺すとは
思わなくていい。脳改造と共にわたしはいなくなる。あなたが殺すのは
悪魔の操り人形。そして、悪魔の操り人形は滅びねばならない。
お願い!はいと言って!」
「…わかった。お姉ちゃん。わたし、悪魔の操り人形を…やっつけるよ」
「…いい子ね。ありがとう」
 二人は涙を浮かべ、少しの間抱き合って泣いた。

513:甦る友情/5.改造装置(14/15)
08/04/26 22:14:07 a9Qzvbbo0
 …これでいいんだ。わたしは脳改造カプセルの中、もうすっかり慣れた
「天道くん語法」を心の中で使いながら、妹の脱出可能性を再度
見積もった―この糸が癒合する時間で、リフレッシュそのものは
終わっているだろう。あとは爆破を待つだけだ。廊下には発光バクテリアを
利用した常夜灯が設置されている。人間が使いこなせる軽便で強力な
超兵器のありかも教えた。そしてまもなく脳改造が終了し、愚かな
操り人形になったわたしは、わたしの仕組んだとおり、見当違いな方向に
ヘルマリオンの手先を誘導し、妹を逃がしてくれるだろう。操り人形が
嘘をつくなど、誰も予想しない。その単純さが要なのだ。
 …そして、後始末は、申し訳ないが、すべて紗希に委ねるしかない。
茜がわたしを仕留め損ねても、アップデートした紗希ならば、わたしを
一撃で殺してくれるだろう。わたし自身はそうやって姿を消せばいい。
茜には紗希のフリーメールのアドレスを教えた。未改造だが並はずれた
運動能力の持ち主である茜は、わたしと比べてもさほどのお荷物になる
とは思えない。茜にしても、そこは安全な居場所のはずだ。どのみち、
現在の地球上に本当に安全な場所などない。いつか紗希がヘルマリオンを
壊滅させてくれるその日まで、恐怖の支配は続くのだ。…もちろん、
「その日」がいつ来るのか、本当に来るのか、ということは神様しか
知らない。だがいずれにせよ紗希は人類の唯一の希望なのだ。それが
潰えてしまえば、結局妹も両親も、遅かれ早かれヘルマリオンの毒牙に
かかってしまうだろう。残る望みはない。

514:甦る友情/5.改造装置(15/15)
08/04/26 22:14:23 i7tDMcFQO
 紗希のことを思い出したわたしは、ふと自分の「計画」が何かに似て
いることに気が付いた。…ああそうか。これは紗耶と紗希の物語そっくり
なんだ。わたしが紗耶で、茜が紗希。海底地震の代わりに、わたしが
仕掛けたトラップが茜を救出する。いわば神様が書いた紗耶と紗希の物語を、
このわたしが、つたない手でリライト、いやむしろ「二番煎じ」している。
 ―わたしは、その物語を上手に書けているのだろうか?


515:甦る友情/6.脳改造、そして…(1/12)
08/04/26 22:15:58 a9Qzvbbo0
 カプセル上部のスイッチが入り、全身を無秩序な感覚がかけめぐり
始めた。わたしの四肢はわけの分からない踊りを始め、声帯からは
無意味な叫びが洩れる。頭蓋内のクレイブレインがリセットされ、
その上に改めて、現在のわたしの感覚神経と運動神経の興奮パターンが
書き込まれているのだ。めまぐるしく変化する感覚情報にかき回され、
引き裂かれそうになる意識をわたしはなんとかつなぎ止め、せめて
最後の最後まで人間でいようと歯を食いしばる。…ああ、もうじきわたし、
人間の心を無くしちゃうんだ。…いやだよ。紗希ともう一度、春の日和の中、
何も考えずにお散歩をしたかった。いやなこともあったけど、でも
楽しかった。いやだけど楽しい、そんな複雑な気持ちが、もうじき
わからなくされちゃうんだ。…いやだよう。やっぱりいやだ。紗希、
助けて。…茜、さよなら。もうわたしは茜の手の届かない世界に行くよ。
茜は、わたしの分まで、しっかり…。…あれ?何だろ?なんでこんなに
すっきりしたんだろ。そうか。…逆だ。今の今まで、わたしは未改造の、
混沌として錯雑な思考にまみれていたのだ。ようやく「修理」が完了したのだ。
よかった。あのまま、意味のない思考と行動を重ね、生きる意味を
見いださずに消去されてしまっていたら…ヘルマリオンへの忠誠という、
わたしの唯一の存在理由を手放したまま死んでしまっていたら…
 …そんな恐ろしい考えにわたしは思わず身震いし、現在の状態に
深い感謝を覚える。だがその直後、わたしは自分が取り返しのつかない
失策をしかかっていることを思い出し、カプセルを飛び出して骸教授に
報告する。
「骸教授!大変です!わたしは、『糸が切れ』てしまっていたとはいえ、
大変な過ちを犯してしまいました。二階の配電盤付近に電磁爆弾を
仕掛けてしまったのです!まだ間に合います!ただちに爆弾の撤去に
向かいます!」

516:甦る友情/6.脳改造、そして…(2/12)
08/04/26 22:18:05 a9Qzvbbo0
 そう言って配電盤に向かいながら、わたしはまだ何か大事なことを
忘れているような気がした。…だが、脳改造前の記憶は、愚かな人間の
思考らしく、矛盾と意味不明な断片に満ちていて、うまく解読できない。
苛立たしい思いをかみつぶしながら、ともかくあの配電盤を開き、
爆弾を取り除かねば!と階段を駆け上る。
 配電盤の前に到着したわたしは、メンテナンス用のハッチを開くために、
大急ぎでセキュリティコードを入力した。糸が切れたことで、刻々と
更新されるセキュリティコードを受信できなかったさっきまでのわたしは、
ぶざまにも、十数分もの時間をかけて壁を壊し、ようやく配電盤にアクセス
するしかなかった。だが、今のわたしは一瞬でその作業をやってのける
ことができる。爆破予定時刻までまだ余裕はある。楽勝だ。
 だが、セキュリティコードを入力し終えた瞬間、配電盤の奥でブブブ
という音が鳴り、続いて鈍い爆発音がした。さらに数秒後、階下から、
それとは比べものにならない轟音が響いてきた。本能的に身をかがめた
わたしの上で、配電盤から爆風が吹き出し、同時に指揮系統の通信が
遮断され、知覚系の混乱に襲われた。わたしは青ざめた。配電装置どころ
ではない。動力中枢に被害が及んだ可能性がある。この二分間の混乱が
収束しても、プペロイドも、ソルジャードールも、ことによると骸教授もが、
相当長い時間「糸がもつれた」状態に陥り続ける可能性がある。
 …何を?わたしは…脳改造を受ける前のわたしは…いったい何を企んだ
というのか?懸命に思い出そうとするわたしの脳裏に、茜とのやりとりの
一部が甦った…

517:甦る友情/6.脳改造、そして…(3/12)
08/04/26 22:21:06 a9Qzvbbo0
 …わたしは豆腐のように柔らかくなった強化コンクリートを丸く
切り取り、中にプラスチック爆弾をセットしている―このシーンは
よく覚えている。…ところが、そのときのわたしと茜との会話は、
わたしにとって意味不明な暗号でしかなかった。
「『まず、配電盤の裏にあるキーボードに177Enterと打ち込んでから、
わたしのIDを打ち込んで欲しい、わたしの携帯番号がそうよ』と
おばあちゃんが思っていると天童くんは思っていると思う。『それから、
爆弾を二つにわけて』とおばあちゃんは思っていると天道くんは思って
いると思う。『それが終わったら、その信管をそのジョイント部分で
切り離して、もう一つの爆弾につないで』とおばあちゃんが思っていると
天童くんは思っていると思う。『これで、三十分後のわたしが、配電盤を
開けようとしたとたん、携帯が鳴って、爆弾が電源部を破壊するわ』と
おばあちゃんが思っていると天童くんは思っていると思う。『でも実は
それだけじゃ、すぐに復旧されてしまう可能性も大きい』とおばあちゃんが
思っていると天童くんは思っていると思う。『そのために、もう一つの
爆弾が、ワンテンポ遅れて、真下にあるエネルギーチューブを直撃する』
とおばあちゃんが思っていると天童くんは思っていると思う。『本当の
狙いはこちらなの。誘爆が起こり、基地はちょっとやそっとじゃ修復
できないほどのダメージを受けるわ』とおばあちゃんが思っていると
天童くんは思っていると思う…」

518:甦る友情/6.脳改造、そして…(4/12)
08/04/26 22:24:07 a9Qzvbbo0
 よくわからないながら、わたしは自分が失策をさらに重ねてしまった
らしいことを悟った。そして、今わたしにできることを懸命に考えた。
 ―システムダウンによって、基地内の兵員は指令系統を遮断された、
つまり「糸がもつれた」状態に陥っている。それはわたしも同じだ。
だが、今のわたしには、幸いにも、今現在何をなすべきかの情報と、
その具体的な手段の情報が与えられている。すなわち、「未改造体・
茜の脱出阻止」という目的と、その所在に関する情報である。つまり、
わたしには、愚かな脳改造前のわたしが茜に脱出路の指示を出し、茜が
それに同意したという、はっきりした記憶情報が残っている。そして、
茜という個体は、わたしの指示に絶対的に従順に従うという、強固な
反応傾向をその内部に形成している。だから、現在茜がどこへ向かって
いるか、わたしは百パーセントの確率で予測できる立場にあることに
なる。これを皆に伝え、一時的にであれ、わたしが「糸を引く」役割を
演じねば!
 わたしは、壁に確認していた、アジト建設以前の遺物と思われる旧式の
伝声管に口を寄せた。そして、最大音量で基地全体に貴重な情報を伝達した。
「総員に告知します!今頃、未改造体・堀江茜が逃走中のはずです。
しかし、わたしは未改造体の行動についての確実な情報を手にしています。
未改造体は、南の脱出用円盤に最短距離で向かっているはずです。しかも
恐らく武装しているでしょう。警戒をおこたらず、総員を南の円発射場に
集め、何としても未改造体の脱出を食いとめて下さい」
 これでいい。これを聞いたわれら操り人形たちはこの指令に従い、
南の脱出口へ向かうだろう。そしてわたし自身も、今すぐそこへ
向かわねばならない!

519:甦る友情/6.脳改造、そして…(5/12)
08/04/26 22:26:14 a9Qzvbbo0
 わたしは最大速度で移動し、南の円盤発射場へ到着した。だが、
奇妙なことに、わたしの情報を得ているにもかかわらず、円盤の周囲には
一人の兵員もいなかった。代わりに、円盤の発射口を背に、まるでわたしを
待ち受けているかのような姿勢でたたずむ茜がいた。わたしは一瞬強い
違和感を感じ、しかし、なぜ自分がそんな違和感を感じたのか、理解
できずにいた―記憶情報によれば、脳改造前のわたしは茜に南へ行く
ように指示を出している。茜はそれに従ってここにいる。何のおかしな
ところもない。だが、なぜか、何かがおかしいような気がする。茜は
ここではなく、北の発射場にいなければならない。そんな不合理な直感が
湧きあがる。
 さらに、逆光で暗くなったその姿をよく目をこらして見たわたしは、
今度こそありえないものを目にした。茜の姿は、すでに美しい
ソルジャードールの姿に変貌していたのだ。わたし自身と似ているが
それよりも線が細く、尾の先端が二本に分かれているという形態だ。
手術開始時間と爆破時刻の間隔を考えると、この変貌は早すぎる。
なぜ妹の改造が完了しているのか?
 戸惑うわたしに、茜が口を開く。
「はじめまして、お姉ちゃん。カゲロウの能力をもつソルジャードール・
エフェメラマリオンよ。お姉ちゃんのおかげで、足が生えて、病気が
治っただけじゃなく、こんなに素敵な体ももらえたんだよ!」

520:甦る友情/6.脳改造、そして…(6/12)
08/04/26 22:29:25 a9Qzvbbo0
 わたしの心に正体不明の戦慄が走った。その戦慄の正体はすぐに
判明した…ような気がした。つまり、茜はたしかに改造手術を受けたが、
脳改造を受ける時間だけはまったくなかったはずだ。すなわち、今目の前に
いるのは、あの憎むべきビーマリオン同様の未完成体だ!わたしはそれに
気づくと即座に戦闘態勢に入った。強化細胞の定着が不十分な今のうちに、
この哀れな妹を捕獲し、脳改造カプセルへ送らねば、第二の強敵を作り出す
ことになってしまう!
 だが、そんなわたしを見て、茜は笑いながら言った。
「お姉ちゃんはきっと、わたしが『お姉ちゃんは敵だから戦わなきゃ』
って思ってる、って思って、それで戦闘態勢をとったんだよね?」
 わたしには、どういうわけか茜の言葉の意味が読み取れなかった。
「うふ。大丈夫よ、お姉ちゃん。わたしは最新型なの。まったく新しい
テクノロジーの産物。あの短時間で、脳改造まで完了したんだよ。でも、
お姉ちゃんの計画はすごかったと思う。一週間前までのヘルマリオン
だったら、多分今頃わたしは未改造のまま円盤に乗って、どこかに
逃げていたはずだよ!」
 わたしは、自分の思考回路が不合理な反応を呈しているのを自覚し
始めていた。…わたしは、茜が誇るべき、美しいソルジャードールに
生まれ変わった姿を見て、なぜか戦慄を覚えた。その直後、今の茜が
脳改造を受けているはずがないと思ったわたしは、今度は戦慄をこそ
覚えるべき場所で、なぜか安堵の感情を覚えた。そして今、茜の脳改造が
完了している、という喜ぶべき知らせを聞いたわたしの心臓は、なぜか
とてつもなく早く脈打ち、そして「後悔」や「悲しみ」といった、人間の
心にしか生じないはずの、名すら忘れかけていた感情に満たされかけている。

521:甦る友情/6.脳改造、そして…(7/12)
08/04/26 22:31:29 a9Qzvbbo0
 茜は動揺するわたしをよそに、饒舌な舌をさらに回転させていた。
「さっきの反応を見て分かったけど、やっぱりお姉ちゃんは旧式なんだね。
せっかく同じ日に脳改造を受けたのに、旧型として成熟しちゃうと
駄目なのかな…」
 わたしはようやく、先ほどの茜の意味不明な言葉が、なぜ意味不明
だったのかの理由に推察がいった。
「…そうか。三階以上の志向姿勢ね。ヘルマリオンは脳改造と高階の
志向システムを両立させる技術をついに産み出した。そういうこと?」
 そう言いながら、またしてもわたしは、喜びを覚えるべき場面で奇妙な
恐怖を覚える自分に困惑を覚えていた。
「さすがはお姉ちゃん!まだ操り人形のはずなのに、すごく頭がいいんだ。
でも、付け足しておけば、この技術はゼロから得られたものじゃないの。
ここしばらくの内に、お姉ちゃんたちの世代のドールの間で、次々に
『糸が外れ』始めた。それをもとに、ヘルマリオンの技術陣が開発したのが
わたしたち新型。だから、今のわたしがあるのは紗耶さんたちのおかげだし、
今では紗耶さんたちもわたしと同等か、それ以上の柔軟性を身につけて
いるのよ」
 わたしは、またしても見知らぬ単語に困惑した。
「『糸が切れる』ではなく『糸が外れる』?聞いたことがないわ」

522:甦る友情/6.脳改造、そして…(8/12)
08/04/26 22:34:49 a9Qzvbbo0
「新しい現象なの。十分に長い間人工頭脳を埋め込んでいると、やがて
脳と人工頭脳、相互のシステムのカップリングが飛躍的に増大して、
最後にはヘルマリオンの指令をいちいち受けなくとも、心の底から
ヘルマリオンへの愛着が芽生えるようになるのよ。そしてそうなった
ドールには、もう『操り糸』はむしろ邪魔にすらなる。紗希さんを見れば
わかるでしょ?性能は劣るのに、自律判断力が飛躍的に高いからほぼ
連戦連勝だった。それも『操り糸』に縛られていなかったから。でも、
これらは互角以上に戦えるはずよ。お姉ちゃんもあとちょっとだったのに、
リセットしちゃったから、一からやり直しだね。でも、お姉ちゃんは
二度目だから、最初よりもずっと早いはずだよ…あれ?どうしたの?
お姉ちゃん?」
 わたしは茜の話を聞き、混乱と深い恐怖が湧きあがるのを抑えられ
なかった―駄目だ。そんなの駄目だ。そんなことになったら、もう
紗希は、人類は、ヘルマリオンに対して手の打ちようがなくなる―。
そんな思いが渦巻き、がたがた震えているわたしの姿を、茜が目ざとく
捉えた。
「お姉ちゃん!…また『糸が切れ』かけてるのね?しっかりして!!
いいわ。お姉ちゃんのわたしへの愛情を利用して、わたしが糸をしっかり
結んであげる!」
 そう言うと、茜は改造直後の肉体とは思えない腕力でわたしを押し倒した。
そして粘液を分泌し「アップデート端子」を伸ばしてわたしを犯そうとし始めた。
「やだ!やめて茜!やめて!」

523:甦る友情/6.脳改造、そして…(9/12)
08/04/26 22:37:50 a9Qzvbbo0
 叫びながらようやくわたしは自分の中の変化の意味を悟った。同時に、
自分が何をすべきだったか、今何をすべきなのかをようやく理解した。
…この糸を…ヘルマリオンの呪縛を、何としても切らなければ!
人工プリオンが外れている今しかない。わたしはもうちょっとで自分の
意志で人工頭脳を使いこなす、ある意味で紗希以上の戦士に成熟しかけて
いたのだ。わたしこそが人類の希望だったのだ。それを…それを… 
 わたしの肉体をもてあそびながら、茜は奇妙に冷静な声で語りかけてくる。
「わたしはお姉ちゃんと別れるのはいや。お姉ちゃんだってそうじゃない?
なのに、なんでお姉ちゃんはわたしから、わたしたちから逃げ出そうと
するの?」
 世界の中の、乳首に当たる部分が熱を帯びて充血し、そこに当てられた、
まるで世界の外からやってきたような妹の舌から、何か禍々しいものが
しみこんでてくる。舌が動くたびにわたしの抵抗する気力は減退する。
茜はさらにたたみかけて言う。
「…ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは大事なことを忘れているよ。
紗希さんのことだよ。わたしだって、紗希さんと憎み合うのはいや。
紗耶さんだってそのはずだよ。ううん。それは、紗耶さんだけじゃなくて、
死んでしまった人たちも含め、サマースクールの仲間みんなの気持ち
だったはずよ。お姉ちゃん、その大事な気持ちを忘れちゃったの?」

524:甦る友情/6.脳改造、そして…(10/12)
08/04/26 22:42:06 a9Qzvbbo0
 世界の中心部が避け、外側からアップデート端子が押し入り、激しい
動きを始める。強烈な快楽によってうまく思考をつなぐことができない
わたしの意識に、茜の言葉が無抵抗で流れ込んでくる。
「…お姉ちゃん、糸が切れている間、ちょっとだけ紗希さんとまた仲良しに
なれたんだよね。一緒にくつろいでお茶を飲んだり、お散歩したり、
ひなたぼっこしたり、したんだよね」
 …そうだった。忘れかけていたけど、なんだか楽しい思い出だった。
よかった!この思い出を失うことが、わたしはとてもつらかったのだ。
思い出せてよかった。思い出せてよかった…
「しっかりして、お姉ちゃん。思い出は取り戻せるよ。わたしたちと
紗希さんは、また仲良しになれるんだよ。そのことを忘れちゃダメだよ!」
 その言葉と同時に、みだらな妹から禍々しい液体が大量に注ぎ込まれた。
同時にわたしは気がついた。

 ―そうか。そうだった。何の難しいこともなかったんだ。紗希を、
行き場を失ってしまった紗希を、偉大なるヘルマリオンに再び迎え入れる。
それこそがわたしたちの共通の願いだった。ああ、なんでこんな大事な、
そして簡単なことを、今の今まで忘れてしまっていたんだろう―

その思いを自覚すると同時に快楽も絶頂に達した。そしてわたしは、
気が付くと自分が以前の自分ではなくなっているような気がした。人間でも、
操り人形でもない、まったく新しい境地。世界が今まで以上に明瞭に
開け、複雑な世界がその複雑さのまま理解できるようになっている。

525:甦る友情/6.脳改造、そして…(11-1/12)
08/04/26 22:43:18 i7tDMcFQO
「茜!わたし、『糸が外れ』たみたい!なんだかすごく心が軽いの。
心を縛っていた、『ヘルマリオンへの忠誠心』というやつがまるで
なくなった気がする。それなのに、それなのに、ヘルマリオンのことを
大事に思う気持ちがごく自然に湧いてくるの!素敵!素敵よ!」
 茜は涙を流していた。
「お姉ちゃん!すごい、すごいよ!こんな短時間で糸を外せるなんて、
すごい進化だよ!!」


526:甦る友情/6.脳改造、そして…(11-2/12)
08/04/26 22:44:19 a9Qzvbbo0
 そのとき、復旧したらしい警戒警報が全館に響いた。きっと紗希が
ここを突きとめたのだ。
「さあ、戦闘よ。骸教授や、みんなのところへ帰りましょう」
「うん!」
 わたしたちは手を取って作戦室に向かった。ぼろぼろになったその
部屋では、今頃、不安定なわたしの保護を茜に託した骸教授や紗耶が
わたしたちの帰りを待ちつつ、ディソルバー・サキ迎撃の体勢を整えて
いるだろう。動力炉はひどく損壊してしまったようだが、基地全体の
誘爆という最悪の事態は回避されたようだ。まあ、このくらいは許して
もらえるだろう。わが組織は寛大なのだ。組織への忠誠を失いさえ
しない限り、一度の失敗で部下を処刑するような、世に言う悪の組織と
は器が違うのである。

527:甦る友情/6.脳改造、そして…(12/12)
08/04/26 22:46:39 a9Qzvbbo0
 茜が走りながらふと思いついたように言う。
「ねえ、糸が外れているわたしたちは、もう『マリオン』じゃないのかな?」
「いいえ。操りの糸は外れても、わたしたちには別の糸がつながれている。
偉大なるヘルマリオンの勝利へ向かいつつある世界そのものが織りなす糸。
ヘルマリオンの崇高な目的に、世界中の万物がその見えない糸で
結びついている。その糸をはっきり見すえ、それに結びこうという
しっかりした自覚をもつわたしたちこそが、本当のマリオン。
そしてその糸は、わたしやあなたと紗希とを、近い将来、きっとまた
結び合わせてくれるはずよ!」
 言いながらわたしは、そう遠からず来るに違いない、「その日」に
思いをはせる。

 ―ぽかぽかした、やわらかな日射し。その中をもう一度、子供
みたいにお散歩しよう。まっててね、紗希。もうすぐだよ! ―
<了>

528:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/04/26 22:51:25 a9Qzvbbo0
お粗末様でした。

すみませんが、>>510にも書いたとおり、
>>510>>505>>506の間にいれてお読み下さい。

投下中に、明日明後日とパソに触れられないことを思いだし、
無理してしまいました。

なお、さる方から感想を頂いた際「糸が切れたら『マリオン(マリオネット)』
ではないのではないか」と言われ、たしかにそうかな、と思い、
ちょっと直してみました…

それでは…


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