07/05/09 20:42:38 LPssAseO0
「ハイパークロックアップ」
―Hyper Clock Up―
腕と足と胸の装甲が開き、金の輝きが暗闇を照らす。
背中より開いた装甲から、タキオン粒子が羽をかたどるようにエネルギーを形成し、時の流れを凍りつかせる。
羽を精製する前で、時の流れを遅くされたオーディンに、カブトは渾身の拳を叩き込む。
遅々として進むオーディンへ、回し蹴りを側頭部に当て、逆回しに裏拳をかます。
右腕がオーディンに当たる感触を感じながら、左手でハイパーゼクターの角を倒しカブトゼクターのボタンを押す。
―Maximum Rider Power―
―One―
オーディンの金の胸部アーマーに拳の連撃を六度続け、装甲を歪ませた。
無防備の腹に、中段蹴りを当てる。
―Two―
顎にアッパーカット気味の拳を打ち上げ、身体を浮かしたオーディンに身体を独楽のように回して蹴り飛ばす。
壁へ敵がひびを作り、埋め込まれるのが見える。
―Three―
オーディンを掴んで宙へ放り投げる。
811:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 20:43:20 LPssAseO0
凍りつき、流れの遅い時は格好の標的を作り上げた。
「ハイパー……キック!」
カブトゼクターの角を反転させ、戻す。
タキオン粒子のエネルギーが稲妻を模して、カブトゼクターからカブトの角へと流れる。
―Rider Kick―
カブトは地を蹴って天へと身体を躍らせる。
タキオン粒子の羽が更に加速させ、己が身を矢と化し、オーディンの身体を貫かんと唸りを上げる。
足の裏にオーディンの胸部アーマーを砕く感触を感じた。
金の破片が宙にいくつも飛び散り、カブトが時を支配する時間の終わりを告げる電子音が告げられた。
―Hyper Clock Over―
同時に、稲妻が轟いたような轟音を上げ、オーディンが勢いよく吹き飛ぶ。
金の破片が地面に乾いた音を立てて落ち、敵は壁を崩して瓦礫に埋もれる。
破壊の音が響く中、カブトは神崎へと向き直る。
「オーディンは倒した。後はお前だけだ」
だが、神崎は表情を変えない。
むしろ、余裕な態度に見え、怪訝に思う。
―TIMEVENT―
電子音が響き、瓦礫が宙へ浮き、元の壁へと吸い込まれ、ひびを無くしていく。
己の行動も、カブトゼクターの電子音も、逆回しになっていく。
―Hyper Clock Over―
812:名無しより愛をこめて
07/05/09 20:44:32 IqZnS+rHO
しえん
813:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 20:44:33 LPssAseO0
オーディンに当てていた蹴りが離れ、地面へと下り戻る。
―Rider Kick―
カブトゼクターの角が、稲妻を頭からベルトへと走らせながら、元の位置へと戻る。
―Three―
三個目のボタンから指が離れ、宙を舞うオーディンが壁に戻る。
―Two―
二個目のボタンから指が離れ、体が独楽のように逆回転する。
―One―
一個目のボタンから指が離れ、歪んでいたオーディンの装甲が、修復する。
―Maximum Rider Power―
倒れていたハイパーゼクターの角が戻り、回し蹴りが逆回転して、元の位置へと戻る。
―Hyper Clock Up―
最後に、ハイパーゼクターのボタンからカブトの手が離れた。
「ハイパークロッ……」
「ムンッ!」
オーディンが手をかざし、金の羽が襲い掛かって、火花を散らす。
「クッ!」
ハイパーゼクターを叩こうとして中断され、カブトは歯噛みする。
相手が、時間を巻き戻したのを悟ったのだ。
「お前……時間を巻き戻したな」
「これで理解しただろう。お前は私には勝てない」
「そいつはどうかな? 俺は天の道を行き、総てを司る男。時を司ることくらい、造作もない」
「ほざけ。『時空』を渡ることはできても、『時』を操ることはできまい」
オーディンがベルトのカードデッキから、カードを取り出すのが見える。
(おそらく、俺がハイパーフォームになる前まで時を戻すつもりなのだろう)
814:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 20:45:07 LPssAseO0
鳥を模した杖に、カードをセットして電子音を暗闇に響かせた。
―TIMEVENT―
再び、時が巻き戻り、カブトがハイパーゼクターをつける前まで戻ろうと……
「ハイパークロックアップ」
―Hyper Clock Up―
しなかった。
オーディンは目の前でカードを掲げている。
「キサマ! 何をした!!」
「お前が時を三秒戻した時点で、俺が時を戻しなおした。お前が、カードをセットする前にな。
ついでに、近寄らせてもらった」
カブトは拳を固め、腰を落とす。
最大限まで溜め、信念を弾丸に拳の嵐をオーディンに叩き込む。
再び無傷だった金の装甲が、破片を飛び散らせる。
ひびの入った胸部へ、蹴りを放ち吹き飛ばす。
柱を倒して、オーディンは地に伏せた。
「ヌゥ……」
「言ったはずだ。キサマはなす術も無く地に伏せるとな」
悠然と告げる。その姿は、第三者が見れば、まさに孤高を表現した気高き姿だっただろう。
天の道を行き、総てを司る男。彼はオーディンと神崎に、神のごとき己が姿を焼き付けた。
(こいつ……)
815:名無しより愛をこめて
07/05/09 20:46:10 IqZnS+rHO
しえん
816:名無しより愛をこめて
07/05/09 20:47:13 IqZnS+rHO
しえん
817:名無しより愛をこめて
07/05/09 20:48:20 IqZnS+rHO
しえん
818:名無しより愛をこめて
07/05/09 20:52:53 IqZnS+rHO
しえん
819:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:04:46 LPssAseO0
オーディンは、かつてない強敵に身体を震わせた。
もっとも、それは恐怖からではない。
修正を果たせない自分に憤っているのだ。
オーディンは神崎の木偶でしかないと、秋山蓮が言っていた。
しかし、オーディンはもはや神崎そのものである。
優衣を救うために存在し、優衣を救うため戦い、優衣を救うために時を操る。
神崎の理想と執念の詰まった存在。たった一人のための仮面ライダー。
ゆえに今は負けることは許されない。否、今は負ける事を許さない。
ここがいつもの場所なら、負けたところで新たな身体を得ればいいだけだ。
しかし、今は違う。さすがのオーディンも、敗れてすぐ復活することは不可能だ。
ここでの負けは、最愛の人を救うことができなくなってしまう。
(彼女を救うためなら、他に何もいらない。彼女を救うためなら、鬼にでも神にでもなる)
(そうだ、オーディン。俺たちは、優衣のために……)
黄金の仮面ライダーが立ち上がる。
最早、身体はひび割れた装甲に覆われ、杖を持つ手は震えていても、闘志に一片の曇りも無い。
鳥を模した黄金の仮面は、静かな炎を瞳に宿して、カブトを睨みつける。
「私は……私たちは、妹のための、妹のためだけの! ヒーローだ! 仮面ライダーだ!!
こんなところで……負けはせぬ!!」
オーディンと神崎は吠え、ベルトからカードを取り出し、バイザーに収める。
―SWORDVENT―
天より黄金の、二振りの剣が降り、オーディンは両手でそれぞれを掴む。
820:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:05:35 LPssAseO0
カブトに向かって構えるその様は鬼気迫っていた。
「ヌォ!!」
金の羽を残して、カブトの背後から上段に振りかぶり、降ろす。
だがその攻撃は、厚さ一メートルはある鉄の柱を切り裂いただけだった。
「お前の動きは見切っている」
紙一重でかわしたカブトが、オーディンの腹にカウンター気味に拳を叩き込む。
血を吐きながら、オーディンは自分が仮面の下で、ニヤリとした気がした。
錯覚である事を自覚しながら、カブトの腕を掴む。
「知っている。だから、この時を狙ったのだ」
「ッ……!」
右手の金の剣が、伝説のヒヒイロカネの装甲を紙のように切り裂く。
カブトの胸から、血が吹き上がり、オーディンの仮面を赤に染めた。
「クッ……」
敵の空いている左拳が、オーディンの頭に数トンの衝撃を与え、脳を激しく揺さぶった。
二度、三度同じ攻撃を繰り返される。
だが、その場を退くつもりなど、彼には無かった。
拳を顎に、頭にくらいながらも、オーディンは更に間合いを詰めた。
吐息がかかる距離まで近付き、アッパーをカブトの顎へと叩きつける。
敵の体が宙を舞い、鉄の天井を砕いてボトッと落ちる。
同時に、オーディンも膝をつく。さすがに、まともに拳をくらえばただでは済むはずが無かった。
執念だけで足腰に力を入れる。すでにカブトは立ち上がっていた。
「哀れな奴だ。お前の行動は、妹を悲しませるだけにすぎない」
「それでも、やらねばならない。例え悲しませても、救うにはその道しかない」
「それが哀れだというんだ。兄なら、男なら総てを救ってみせろ」
「キサマはどうなのだ? 妹は、私たちの手にある」
821:名無しより愛をこめて
07/05/09 21:07:40 IqZnS+rHO
しえん
822:名無しより愛をこめて
07/05/09 21:09:00 IqZnS+rHO
しえん
823:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:09:23 LPssAseO0
「フッ、愚問だな。俺は天の道を行き、総てを司る男。
妹だけでなく、人間からアメンボまで、そして世界を救う男だ!」
「そのボロボロの身体で、守るだと?」
カブトは無言で天に指を指した。その心の強さに、三枚のカードを引き抜くことで応える。
バイザーにカードをセットにするのと、ハイパーゼクターの角を倒す行動が、同時に行われた。
―Maximum Rider Power―
カシャッと音を立て、バイザーが閉じると、敵がボタンを三つ押す。
―One―
―Two―
―Three―
バイザーがカードを読み込み、電子音を発生させる。
カブトは、カブトゼクターの角を反転後元に戻した。
「ハイパーキック」
―FINALVENT―
―Rider Kick―
炎を纏った黄金の不死鳥が、オーディンの背後へ召還される。身体を浮かし、金の鳥と並ぶ。
カブトは、腰を落として溜めを作っている。
「うぉおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ぬぅぅぅぉぉおぉぉぉぉ!!」
男たちの雄叫びが重なる。
824:名無しより愛をこめて
07/05/09 21:10:50 IqZnS+rHO
しえん
825:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:10:57 LPssAseO0
オーディンは金の光を、破壊をもたらすために放った。
光がダイナマイトの爆発にも耐える鉄の壁を砕きながら、カブトへと迫る。
カブトは、地を駆け、稲妻に似たエネルギーを纏った飛び蹴りを放つ。
金の光と、紅い閃光がぶつかり、お互いを破壊するため迫り続ける。
全力と全力のぶつかり合い。戦いの神の名を持つ男と、天の道を行く名を持つ男の戦いは、まさに互角だった。
その拮抗を破るために、オーディンの背後へ神崎が立った。
彼の手には、日下部ひよりが存在している。
「天道総司。キサマの妹の命が惜しければ、その蹴りを収めろ。
キサマが勝てば、妹は俺たちとともに吹き飛ぶ」
陳腐だが、効果的な手だ。
事実、カブトは動揺を……
「その程度、考えないわけが無いだろう」
していなかった。もっとも、それくらいでなくては参加者として選んだ甲斐も無い。
次に彼がするであろう行動は目星がついている。対策も、先程ヒントをもらった。
「ハイパークロックアップ!」
僅かに焦った声で時を操る言葉を告げ、ハイパーゼクターのボタンを叩く。
妹を人質にとったのは、無駄ではないらしい。オーディンたちはカブトに、少しだけ共感をする。
―Hyper Clock Up―
電子音が、銀色のゼクターから発せられた。
時が遡り、オーディンがカードを収める前に……
―TIMEVENT―
戻らなかった。再び、時は神崎が背後に立つところで止まる。
826:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:11:55 LPssAseO0
「なにっ!」
「三秒の時点で時を巻き戻しなおした。先程の借り、返す!」
―ADVENT―
オーディンの光の中から、金の不死鳥が現れ、カブトを弾き飛ばす。
無防備となったカブトへ、混沌の光が装甲を破壊し、右手を引きちぎっていく。
決着は、オーディンたちの勝利でついた。
(やられてしまったか。お婆ちゃんが、急いては事を仕損じると言っていたが、その通りだな)
失った右腕の切断面に、焼き鏝を当てられたような痛みが、じわじわと広がっていく。
変身の解けた身体には、無数の傷が走っている。
傷は熱を持ち、皮を剥がしているような痛みが続いている。
体温は失血により、どんどん低くなっている。
自分が助からないことを、天道は悟った。
視線を神崎とオーディンに向ける。
意外にも、神崎はひよりを優しく地面へ降ろしている。
それが済むと、二人は天道の前へ立った。
「終わりだ」
「言われなくても分かっている。だが、ただでは終わらん。ハイパーゼクター!!」
天道の呼び声に応え、ハイパーゼクターが時空の彼方へと消える。
その様子に、神崎は怪訝な表情を浮かべた。
「……何をした?」
「このホールから、あの舞台へとワープさせるのだろう? あの世界はお前のような存在を拒んでいるようだからな。
だから、ここからあの世界へとワープする瞬間、いずれかの参加者の荷物にハイパーゼクターが紛れ込むように指示した」
827:名無しより愛をこめて
07/05/09 21:12:53 IqZnS+rHO
しえん
828:名無しより愛をこめて
07/05/09 21:13:48 IqZnS+rHO
しえん
829:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:14:00 LPssAseO0
「キサマ!!」
「お前の失敗は、俺の侵入を許したことと、平行世界の俺を参加者に選んだことだ。
全ての参加者を選び終えたのだろう? どうやら、あの五十二人しか召還できなかったようだな。
時の止まった者を殺しては、キサマの目的、新たな命の精製は行えない。
同じ理由で一定のルール違反を行わなければ、首輪を爆破できない。違うか?」
神崎の歯軋りを、肯定と受け取る。
なにも、天道は神崎の行動を察知してすぐ動いたわけではない。
ある程度、様子を見て動いたのだ。いや、干渉できるタイミングが限られていたため、様子を見るしかできなかった。
その成果が現れたことに、満足する。続けて、ひよりに視線を向ける。
(ひより、すまない。俺は、お前を助けることができなかった。できれば、優しい人間に出会ってくれ。人に絶望しないでくれ。
俺でなくても、お前の傍にいてくれる者は確実にいる)
自愛に満ちた視線を終え、続けて戦友へと視線を移した。
(加賀美。お前は俺が認めた男だ。必ず、ひよりを助け、こいつらに一泡を吹かせてやれ。
それができたら、義弟と認めてやる)
試すような視線を移動し、平行世界の自分へと向ける。
(お前が、天の道を行き、総てを救え。俺が出来なかった事だ。頼む)
最後に、仮面ライダーたちに視線を向ける。
(俺に、力を貸してやってくれ。一人で挑んで、負けた男がここにいるからな。
挫けず、平行世界で俺に見せたように、各々の正義を貫いてくれ)
「遺言は終わったか?」
オーディンが剣を首筋に当てた。
苦しみを短くする結果にしかならないことといい、遺言を待っていることといい、妹に対する扱いといい、意外と人は悪くないのかもしれない。
そんな考えに、馬鹿らしくなり微笑んでしまう。
「なぜ微笑む?」
「お婆ちゃんが言っていた。散り際に微笑まぬものは、生まれ変われないとな」
830:魔王 ◆TJ9qoWuqvA
07/05/09 21:14:42 LPssAseO0
言い終わると同時に、首が刎ねられ頭が天に舞う。しかし、天道の表情は微笑んでいた。
天の道を行く男は、最期まで天の道を行く。
己が道を信じているがゆえに。
回想が演奏と同時に終わり、ガタックゼクターがハイパーゼクターを運ぶ過去の映像が浮かぶ。
神崎は、イレギュラーである銀のゼクターを睨みつける。
ジョーカーたちに指示しに行こうかと思ったが、彼ら自身が役に立つか怪しくなってきた。
相川始はともかく、リュウガまで変化するとは、意外としか言いようがない。
これでは切り札を仕込んだ意味が無い。
だが、反対に殺し合いは順調だ。
たった半日で三分の一が脱落など、今までのライダーバトルではありえなかった。
この調子なら、自分が手を出す必要も無いだろうとも考えられた。
参加者たちの中には、首輪を解除しえる技術を持つものもいる。
当初は、首輪を解除したところで、時空の牢獄から逃れられないゆえ、そのまま参加させていた。
例え首輪の拘束から逃れたとしても、脱出できなければ殺しあう以外道は無いからだ。
研究所を消さなかったのも、そうした考えがあってのこと。
だが、荒廃した世界の天道総司の干渉で、それが致命的なミスになりつつある。
そこまで考え、まあ良いと呟く。
いざという時は、首輪をつけたオーディンを放ち、天道総司をしとめるまでだ。
手には第二回放送の原稿がある。
胸には妹を救うことしかなく、更なる殺し合いを願う。
スマートレディに原稿を渡すため、その場を去った。
実は、神崎士郎も知らないことがある。
彼が殺し合いを促進させるために支給したライダーブレスが、ハイパーゼクターを扱える事を。
それがどういった事態をもたらすのか、誰にも分からなかった。