07/12/23 03:14:01 zUB83bcV
・・とここで終われば良き思い出なのだが、俺はこの後大きな失敗をやらかしてしまった。
美味過ぎたのだ。俺は帰京後もあの味が忘れられず、
3ヶ月後、ワインのラベルに書かれていたのを記録した連絡先に「もう一度飲みたい」といきなり連絡を入れてしまった。
この時、俺は大きな勘違いをしていた。
まず一つ、その連絡先はバーではなく、ワインの生産者のものだったこと。何を勘違いしたのか、馬鹿としか言い様がない。
さらにはコンタクトした相手をバーの関係者と勘違いしてしまったこと。
俺はワインの生産者の女性と話をしていたのだ。
そしてここで思いもしない事実が発覚する。
実は、ワインの生産者である彼女は、自分達が作ったワインが「味付け」されていた事、さらにそのワインが「接待用」に使われていた事実を、全く知らなかったのだ。
相手がうろたえ、声が荒くなるのを感じて俺もその事実を悟る。
若いワインであるが故、まさかそんなことは有り得ないと思っていたので、俺も言葉に詰まってしまう。
そのうちに電話が切られた。もしこのまま「お上」にタレ込まれでもすれば、非常に厄介な話になるのは確実だ。
それまでの人生で左目を潰されかけ、殺されかけたこともある。親の抗争相手が首を吊っているのを発見したこともある。
だがそれよりも、情けない話だがこの時が今までの人生で一番焦った時だった。
慌ててバー店主に連絡。事の次第を話す。当然生産者から店主に自らが預けていたワインの扱いについて問うだろうからだ。
それはまだだった。恐らくワインを調べていたのだろう。
だが勿論当時はそんなことはわからない。お上だけは行かないでくれと祈るような気持ちだった。
幸いだったのは、その店にとって今回のようなケースは初めてではなかったことだ。店主は驚きながらも冷静で、様々なケースを
想定して話し合った。
そしてその中でこちらにも一つの切り札があることを思い出す。
俺はワインと、ワインを飲んでいる様子を「写真」に残しておいたのだ。これは「悪戯」が好きな餓鬼時代からの、俺の趣味だった。
だが、結果的にこれが大きな武器になった。
しばらくして生産者との連絡が入る。その時点でお上に垂れ込んでいなかったら、希望があった。
聞けばワインの生産者は極めて普通の中流階級で、作られていたワインも極めて普通のワインだと、巷では思われていたようだ。
それが実は預け先で勝手に下品に味付けをされ、下世話な接待用に使われていた・・これが世に知られれば世間の評判は当然悪くなる。しかも写真があれば、それは決定的証拠になる。
お上に垂れ込んでいない時点で、それを少しは恐れているはずだ・・と推測された。
それは予想通りだったようだ。実際に話をしたのは俺ではないが、証拠の写真があると話を切り出すと、途端に相手の勢いが無くなったらしい。そこに付け込み、ネガと多少の賠償を渡すことで何とかうまく丸め込むことに成功した。
だが、失敗のツケは大きく、当然そのワインは生産者のもとへ引き上げられ、店主は貴重な接待用の武器を失い、ワインを寵愛する「得意先」からの怒りも買うことになった。
勿論俺は彼に必死に謝罪した。何度も土下座し、金も払おうとしたが、店主は器の大きい方で、この件の処理の際一切俺の名前を出さなかった。
故に俺は信頼も失わず、今も何とか生き永らえている。
彼には感謝しているし、今も頭があがらない。
俺もこれ以降ワインを飲む際は慎重に徹し、余計な欲心を出しすぎないよう、どうしても我慢できない場合も気を逸らせないよう注意している。
何より、映像というのは切り札になることを学んだ。
増してや、このネット社会である。故に俺はワインを飲む際は必ず映像に残すようにしている。
奇特にもこんな長い駄文を読んでしまった輩も、ワインを飲む際は必ず映像を残しておくべきだ。
簡単に撮影することに成功できるような「甘いワイン」の、その隙に付け込め。
なかなか撮影が難しい辛いワインこそ、隠してでも撮影すれば逆に使える。
ちなみにネガは渡したが、13年モノのワインの写真は手元にある。残念だがそれを世に出す気は全く無い。
ただ、俺以外の客で映像を残している奴がいると、ワインに書いてあった。
世に流出する可能性は0ではないだろう。