07/06/12 20:55:56
柳下毅一郎大統領は大人だね。オレも出来れば見習いたいよ。「興行師たちの映画史」は名著でした。
大日本人 (2007)
誤解しないでいただきたい。この映画がつまらないことなど、ぼくは見る前からわかっていた。
だからかけらも怒ったりはしていない。そして「こんなものは映画ではない」などと言うつもりもない。
そんなことを言えば松本氏(あるいはその代弁者)から
「年寄りの頭の固い映画評論家には新しい笑いはわからんのよ。なんせ松本は天才やからね」と言われるのはわかっている。
だからそもそも見に行くのは嫌だったのだ。何言ってもそれに対する反論は最初から用意されているんだからね。
しかし、それでもなお、ぼくは見に行ったよ。
そこにあったのは無だった。無。二時間の無。これはなんだろう? コメディではない。
だって、ギャグはひとつもないし、ひとっかけらも笑えないんだから。でも人情ものでもない。
松本氏がぶつぶつと呟いているのを二時間見せられて、なんの人情を感じろというんだろうか?怪獣映画でもない。
CGのキャラクターが人のいない町で何も壊さないように暴れるもののどこに怪獣映画の快楽があるだろう?まさか、社会批評?
そこには何もない。ただ、ひたすら空虚な時間が過ぎていく。見ているこっちはひたすら無感覚になっていく。
なんせ怒りという唯一の反応さえも最初から封じられているのだ。それがテレビというものなのだろうか?
でも、テレビならいつでも消すとかチャンネルを回すという選択肢がある(ぼくはそもそもテレビなど見ないのだが)。
映画館ではただ、ひたすらこの麻痺に耐えることしかできない。
二時間後、ようやく解放され、ぼくは思わず近場の飲み屋に行った。
そこでビールを飲みながら、たまたま手にしていたアルフレッド・ベスターの『ゴーレム^100』(国書刊行会近刊)の
ゲラをひたすら読み、p.293の最後のセリフで思わずプッと吹きだして、そのときようやく人間の世界に帰ってきた気がしたのだ。