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石原慎太郎 『国家なる幻影』(1999)
1960年代の南ベトナムに関する回想
それにしても素晴らしい人たちだったし、素晴らしい国だったと思う。
(中略)それにそう、デルタ地帯のミトで泊まったシナ宿で伽してくれて、
翌日の別れに彼女が気に入っていた私の男もののブリーフを記念に
やったら抱きついてきた農家の娘も、彼等と食べたフランス以外の
どこで口にした料理よりも美味だった、
シナや台湾やホンコン以外のどこでよりも美味かった、
サイゴンのフランス料理やシナ料理も、そしてその二つを合わせて
ソフィスティケイトされたベトナムの個性豊かなエスニック料理も何もかも―。
(中略)
小さくとも豊かで文化の水準高い国だっただけに、行きずりではあったが、
あの優雅なアオザイに包まれた嫋嫋たる柳腰の娘を腕にするような
せつないほどの一期一会の感慨をあの国には抱いていたものだった。
(中略)
それは初めて自分が受け持った末期の患者を眺める医学生の
心境のようなものだった。
買春したベトナム人女性を、
料理の味と並べて評価する石原