10/02/04 10:37:41 7RaEwZwD0
本社から、もっと利益率の高いプリウスを作れと迫られていた。 思案に暮れていたとき、社長は意外な事を言った。
「エンジン部分で手を抜いてみたらどうだろう」 工場長は戸惑った。 自動車からエンジンの安定性を抜いたら事故車になってしまう。
「無理です。出来ません」工場長は思わず叫んだ。 「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手で作り上げるんだ!」
社長の熱い思いに、工場長は心を打たれた。メカニックの血が騒いだ。 「やらせてください!」
それから、夜を徹しての手抜きエンジン作りが始まった。省ける部品は省きまくる毎日だった。
しかし、トヨタ車のフィーリングが出せなかった。 工場長は、来る日も来る日もコストと戦った。
いっそ、期間工に転職すれば、どんなに楽だろうと思ったこともあった。 追い詰められていた。そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。 「発想を変えるんだ。トヨタのフィーリングはエンジンだけじゃない」
そうだ。ブレーキだ。ブレーキの切り替えを遅くする手があった。暗闇に光が射した気がした。
工場長は試しにエンジンコントロールプログラムに何だかよくわからないバグを入れてみた。
トヨタ車特有のフィーリングが蘇った。 「これだ、これが探してた俺たちのプリウスなんだ!」
手抜きブレーキを積んだハイブリッドカーの誕生だった。
社長と工場長と従業員は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 工場長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、完成した車で日本海に叫びに行ってきてもいいですか」工場長は言った。
「ああ、いいとも。だが車間距離は広めにな。ブレーキはトヨタフィーリングだからな」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。