10/02/01 23:07:02 IVfwXgQ8O
>>289続き
かうして私は自然に、軍事学上の「間接侵略」といふ観念に到達したのである。
間接侵略とは、表面的には外国勢力に操られた国内のイデオロギー戦のことだが、本質的には、(少なくとも
日本にとっては)日本といふ国のIdentify を犯さうとする者と、守らうとする者の戦ひだと解せられる。
しかもそれは複雑微妙な様相を持ち、時にはナショナリズムの仮面をかぶつた人民戦争を惹き起し、
正規軍に対する不正規軍の戦ひになる。
ところで日本では、十九世紀の近代化以来、不正規軍といふ考へが完全に消失し、正規軍思想が軍の主流を占め、
この伝統は戦後の自衛隊にまで及んでゐる。日本人は十九世紀以来、民兵の構想を持つたことがなく、
あの第二次世界大戦に於てすら、国民義勇兵法案が議会を通過したのは降伏わづか二ヶ月前であつた。
日本人は不正規軍といふ二十世紀の新しい戦争形態に対して、ほとんど正規戦の戦術しか持たなかつた。
三島由紀夫「『楯の会』のこと」より