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いやはや語辞典 「圏外」佐伯一麦
《圏外 排除された嫌な気分》
編集者から自宅に電話がかかってきた。何度もPHSに電話をしたけれど圏外のアナウンスだった。
山へでも行ってたの? という。いや、ずっと仕事場に詰めていたよ……、と答えて電話を切ってから、
仕事場へ行ってPHSの待ち受け画面にしてみると、確かに「圏外」となっている!
一週間ほど様子を見ていたが改善されないので、重い腰を上げて通信会社のサポートに電話をした。
窓口をたらい回しされた挙げ句の返事は、「その近くの中継アンテナは、先日撤去いたしました」。
正直の所、私は未(いま)だに携帯電話には慣れない。例えば街中で酒を酌むときに、地下の店に入って、
ここは電波が“圏外”だから店を替えようぜとなると、何だかなあという思いを抱くことが多い。
だが、やむなく必要のために、料金が安く、小中学生の携帯などとも呼ばれているPHSなら、
まだ身の程に合っている、という思いで利用してきた。だから旅先で、携帯では繋(つな)がる場所で
自分だけが圏外となっていても平気だった。
今回、サポートに電話をして、仕方なく「圏外なんです」を連呼しながら、圏外という言葉について
改めて考えさせられた。TVタレントイメージ調査の「キムタクついに“圏外”」という見出し。
「圏外圏外アンテナ1本もたってネーよ!」という論外を意味する若者言葉……。何と排除的で、
嫌な言葉なんだろう。
それにしても、人知れずにアンテナを撤去して人を圏外に追いやるとは、
それをライフラインとしている人にとっては死活に関わることだろう。
総デジタル化で、テレビの電波に対しても“圏外化”する国民が増えることを憂える。(作家)
(2009年8月21日 読売新聞 夕刊)