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時効の廃止 国民巻き込んだ議論を 2009年8月11日
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法務省は殺人などの凶悪犯罪について公訴時効を廃止する方針を打ち出した。廃止になれば刑事司法政策の大転換となるが、クリアすべき課題は少なくない。国民を巻き込んで議論を重ねるべきだ。
犯罪行為が終わってから一定期間過ぎると、裁判で罪に問えなくなるのが公訴時効の制度だ。
一九七八年に東京都足立区の小学校で女性教諭を殺害し、遺体を自宅床下に隠していた男は二〇〇四年に自首したが、公訴時効(当時は十五年)が成立しており、起訴されなかった。
被害者や遺族にとって、犯罪に遭うこと自体が不条理であり、そのうえ、時間の経過により犯人を処罰できなくする制度の存在は理不尽としか思えないだろう。
法務省の勉強会が最終報告書で時効廃止を打ち出した背景の一つには、時効廃止を強く求めてきた犯罪被害者団体の訴えがある。
「時間がたっても処罰感情は薄れない」との遺族の気持ちは尊重すべきだし、犯人が“逃げ得”する事態はだれも望んでいない。
DNA型鑑定など科学捜査の進歩も廃止への追い風といえる。
諸外国をみれば、英国には時効の概念そのものがなく、米国では殺人には時効がない。ドイツやフランスでは計画的殺人といった重罪では時効を廃止したり、停止・中断する措置がとられている。
ただ、日本の時効制度は明治時代から続いており、一定の根拠がある。時間の経過で証拠が散逸し公正な裁判が困難になることや、一定期間、犯人が処罰されなかった事実状態の尊重などだ。
日弁連はアリバイ立証が難しくなり、冤罪(えんざい)を生む危険が高まると時効廃止に反対している。
課題はほかにもある。時効の廃止と延長の区別をどこでつけるのか。東京・八王子のスーパー三人射殺事件など、時効が進行中のケースに廃止は適用できるのか。
廃止になれば捜査に終結がなくなり、人員や証拠保全に財政的負担が増えるとの問題も生じる。