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(>>1のつづき)
必要な資料や書類が手の届くところにない…という状況を考えると,いすのあるオフィスで仕事を
している筆者には非常に面倒に感じる。しかし,立って仕事をしているオフィスでは,オフィス内を
数十歩移動することは,それほど苦になるように見えなかった。
むしろ,立ちっぱなしより少し歩いたほうが楽なのかもしれない。机に必要書類を集めておかなくても
よいため,社員の机まわりは非常にすっきりしていた。机まわりを整頓することは,酒巻社長が
『椅子と~』で推奨していることでもある。
酒巻社長の説明を聞きながら工場内を歩いていくと,突然,警報(のような音)が鳴り回転灯が光った。
足元を見ると,廊下に青く塗られたゾーンがあり,「5m 3.6秒」と書いてある。この5メートルのゾーンの
両端にはセンサーが設置してあり,3.6秒以内で通過しないと警報が鳴るのだ。「広い工場なので,
移動に費やす時間がバカにならない。社員に歩くスピードを体得してもらうための仕掛け」
(酒巻社長)だという。
秩父工場を見学し,本当にいすのないオフィスを目の当たりにして,改めて“改革の達人”と呼ばれる
酒巻社長の実行力に感銘を受けた。いすをなくすことに代表される酒巻社長のさまざまな改革により,
キヤノン電子の業績は,いすをなくした2000年から2007年の8年間で,経常利益率が9.7ポイント
改善した。さすがに2008年以降は世界的な経済危機の影響を受けたが,4月22日に発表した
2009年第1四半期(1~3月)決算を見ると,売上高が前年同期比で39.1%減少したにもかかわらず,
黒字を確保した収益体質は評価に値するだろう。
急激な在庫調整を行った製造業各社にとって,在庫が適正水準に戻ったこれからが正念場。
100年に一度の不況を乗り越えるために企業に求められているのは,「いすをなくしましょう」と
言って本当になくしてしまえるような,実行力のあるリーダーなのだろう。(以上)