10/07/01 06:33:42.71 mkfCHwhf
その日、残業で終電ギリギリに最寄り駅を降りた俺は疲労困憊だったんだ。
アパートまでの10分の道程をトボトボと歩いていると、
いつの間にか前方に白いコートを着た女性が居ることに気づいたんだ。
この蒸し暑い時期にコートを羽織っていることも奇妙だったが、
それ以上に違和感を持ったのは、その女性がジッと俺を見つめている事だった。
コートの上からでもわかるヒョロっとした身体、病的な程青白い顔にボサボサの髪。
その髪の奥から、そこだけ生気を得たようなギラリとした瞳が俺を見ている。
最初、睨まれているのかと思ったが、色味のない口元は確かに微笑んでいた。
そして俺の10m程前を“俺を見つめながら”、俺と同じ歩調で進んでいる。
そう、彼女はずっと後ろ向きで歩いているんだ。 気味が悪い。
しかも彼女は振り向いて確かめることもなく角を曲がり、
いつもの帰宅コースを知っているかのように、俺の前を後ろ向きで“ついて来る”んだ。
立ち止まると彼女も止まり、早足で歩けば彼女もそれに合わす。
決して近づくことも離れることもなく、俺の前方10mを後ろ向きで歩いていた。
「先に歩いているのは彼女の方なのだから、俺が別の道を選べばいい。」
そう気付いた時にはアパートまでの一直線だった。 「しまった!」俺は悔いた。
その先の幹線道路を超えれば、アパートは目と鼻の先だ。