09/08/16 23:30:44.48 vjQfuCdV● BE:25285695-PLT(12001) ポイント特典
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よしもとばななさんの「ある居酒屋での不快なできごと」 『人生の旅をゆく』(よしもとばなな著・幻冬舎文庫)より。
この間東京で居酒屋に行ったとき、もちろんビールやおつまみをたくさん注文したあとで、
友だちがヨーロッパみやげのデザートワインを開けよう、と言い出した。
その子は一時帰国していたが、もう当分の間外国に住むことが決定していて、その日は
彼女の送別会もかねていたのだった。
それで、お店の人にこっそりとグラスをわけてくれる? と相談したら、気のいいバイトの
女の子がビールグラスを余分に出してくれた。コルク用の栓抜きはないということだったので、
近所にある閉店後の友だちの店から借りてきた。
それであまりおおっぴらに飲んではいけないから、こそこそと開けて小さく乾杯をして、一本の
ワインを七人でちょっとずつ味見していたわけだ。
ちなみにお客さんは私たちしかいなかったし、閉店まであと二時間という感じであった。
するとまず、厨房でバイトの女の子が激しく叱られているのが聞こえてきた。
さらに、突然店長というどう考えても年下の若者が出てきて、私たちに説教しはじめた。
こういうことをしてもらったら困る、ここはお店である、などなど。
私たちはいちおう事情を言った。この人は、こういうわけでもう日本にいなくなるのです。
その本人がおみやげとして海外から持ってきた特別なお酒なんです。どうしてもだめでしょうか?
いくらかお金もお支払いしますから……。
店長には言わなかったが、もっと書くと実はそのワインはその子の亡くなったご主人の散骨旅行の
おみやげでもあった。人にはいろいろな事情があるものだ。
しかし、店長は言った。ばかみたいにまじめな顔でだ。
「こういうことを一度許してしまいますと、きりがなくなるのです」
いったい何のきりなのかよくわからないが、店の人がそこまで大ごとと感じるならまあしかたない、
とみな怒るでもなくお会計をして店を出た。そして道ばたで楽しく回し飲みをしてしゃべった。
もしも店長がもうちょっと頭がよかったら、私たちのちょっと異様な年齢層やルックスや話し方を見てすぐに、
みながそれぞれの仕事のうえでかなりの人脈を持っているということがわかるはずだ。
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