10/05/02 08:40:32 Qv+S+Kbv
『ネギ一束』 田山花袋
ぼろぼろの襤褸(つづれ)を着て、青い鼻洟(はな)を垂(た)らして、結う油もない頭髪を手拭
(てぬぐ)いで広く巻いて、叔父の子を背負いながら、村の鎮守で終日田舎唄(いなかうた)を唄
うころは無邪気であった。
筋の多いふかし芋(いも)、麦飯の結塊(むすび)、腹の減(す)いた時には、富家の子を騙(だま)
して、銭を盗み出させて、二十銭の銅貨に駄菓子(だがし)を山ほど買って食った。
根性が悪いといっては、村の家々に憎まれ、若い衆に打たれ、菓物(くだもの)を盗んだといっては、
追いかけて捉(とら)えられて、路傍の門に細引きでくくり付けられ、あるいは長い物干竿(ものほ
しざお)で、走る背なかを撲(う)たれて、路上に倒れて膝頭(ひざがしら)を石に二寸ほど切って
泣いたことなどもあった。
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