09/11/10 22:28:13 Iu7ianB3
それは寒さが骨の髄まで凍みる1日だった。建設現場には寒風が吹き荒び、体は凍えて震えが止まらなかった。
「アニキ、今日は最悪デサァ」
というのも、その日に限ってパウチを運ぶのに、ロングスパンが使えない有り様だったからだ。
アニキは俺の目をジロリと見るなり、なにも言わなかった。アニキはいつも黙々と仕事をこなす男だった。
運ばれてきたパウチはアニキと同じ分量をかつがされた。
背負うパウチで階段をのぼると、俺の腰は悲鳴をあげた。足は鉛を入れたように重たかった。
「馬鹿野郎。ちんたら運んでるんじゃねえよ!」
息はあえぎ、腕はギシギシと鳴り、汗は全身から吹き出す。
怒鳴られた俺は、怒りに感情が支配されてアニキを罵倒したい気持ちでいっぱいだった。しかし、それでもたしかにアニキはすげぇよと認めざるをえなかった。
アニキは汗を拭いながら、小走りで確実に仕事をこなす。たしかにいい仕事をしていた。荷揚げの仕事は、夕方にようやく終わった。
俺は夕日に頬を照らしながら、アニキに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。アニキのおかげで仕事が終わったようなものだったからだ。
俺はアニキに謝るタイミングを見計らっていた。
「お疲れ様」
気がつくと、アニキは熱い缶コーヒーを俺に握らせてくれていた。
「アニキ…オレ、オレ」
「馬鹿。今日はお前は、いい仕事したぜ。また宜しくな」
「オレこそ宜しくお願いするッス」
オレは缶コーヒーを飲んだ。熱いコーヒーが喉を通った。いままで缶コーヒーがこれほど美味いと思ったことは一度としてなかった。
これは真実の物語である。