NG NG.net
>>150
「…IDを、見せてくれますか?」
検査官の冷静な声に、おびえきった子どもは、おずおずとIDを差し出した。
「バカ、差し出したら…それこそ…。」
検査官は、しばしそのIDを見詰めていた。すると何を思ったのか、
彼のIDをポケットにしまうと、代わりのIDを彼の手に握らせた。
「これを持って、今来た道を戻りなさい。」
「…許してくれるの?」
検査官は、穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ。あなたは例外です。今すぐあなたの御主人の元に帰り、こう言うのです。
『80番は空いていました。』と。」
「…それだけ?」
「ええ。それだけで、あなたの送り主は理解されるはずです。それに…。」
検査官は、足元の残骸を見渡しながら呟いた。
「時として…返事の無いことが、返事になる時もあります。」
検査官の言葉が理解できなかったのか、子どもは、まだその場を
立ち去りかねていた。
検査官は俺にした時と同じように、彼の背中を軽く叩いた。
「さあ、行きなさい。あなたの身元は控えておきます。今度来る時は、
もっと人に喜ばれる言葉や、写真などを運んできてくださいね。」
子どもは、コクリとうなずくと。くるりと今来た道を走り出した。
検査官はしばらく、その後ろ姿を見送っていたが、再び身をかがめ、
残骸の中からIDを拾いはじめた。
まるで無縁仏の遺骨を拾い上げるように。