18/07/25 03:52:32.02 VSEJ6TCK0.net
戦国時代の妾達は、帰参した大名から最初の夜伽に選ばれる事を「先陣を賜る」と呼んで喜んだそうだ。なかなか中世期の東洋らしいユーモアな隠喩だね
古来の世、一夫多妻の様相を呈していた国は枚挙に暇が無い。それが君臨者の富を示す体裁でもあり、また蛮性が支配する時代に悉く栄える種の矜持でもあるからだ
私も既に壮年とはいえ君主の身であった。そこに感慨が無いはずはない
でもね、愛する我が子に対して一度とて約束を違えた事はないつもりだ
毎日の様にこれからの事については言って聞かせたし、本心も隠さなかった
彼等から話を持ちかけられた夜は寝ずに聞いてやりもした。辛い事があれば共に泣き、嬉しい時は笑った。不覚にも先に眠ってしまう事もあったがね
私は単にそれで良いと思っていた…
その後の顛末は今更語るほどの物ではないが、私の子等と愛人達は少なくとも屋敷へ来た折から安心はしてくれていた様に思う
とはいえ、「貴にして秀なる者は序列を弁え隣人を愛せ」と教えたばかりに度々彼等同士の想像力が在らぬ方へ発露し衝突していた事はあったのだがね
それでも私は子供達に対し、私だけを愛しろとは言えなかった
それはあの子達が息子であり娘であり、愛人であり家族であり、同時に生甲斐であり宝でもあったから。うむ
…過日庵を訪ねてくれた時、結局は私の貪欲さと未熟さのせいであったと謝ったら、あの頃とさして変わらない白く小さな手で顔を覆い泣いてくれた子がいたな。また別の子は既に私より大きく育ち、本当の父になっていた。くすぐったかったな
今日日はそれをして「生産性の欠如」と歎く俗事家もいるそうだが、決してそんな事はないよ
彼等に注いだこの愛が翳る時は一度とて無かった。これからもな