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新人職人がSSを書いてみる 33ページ目 - 暇つぶし2ch429:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 01:54:47.15 YfSo2Lws0.net
皇女の戦い 第二話 PART2

「マリナ様!絶対に勝って!」「必ず我々に資源を!」「ご武運をお祈りします!」
首都に住む多くの人々が王宮に集まり出発前のマリナを出迎える。幼い子供含め老若男女あらゆる人々が皇女に声援を送り、そして望みを託している。公務やファイトの修行の合間を縫って首都内の孤児院や病院に慰問を重ねてきたマリナには顔なじみの子供も大勢いた。
マリナの傍にいるシーリンは彼らの気持ちはわかるものの先を急いでいるといった面持ちだが邪険にする態度は取らなかった。それはマリナも同じだ。
「皆さんの思いは必ず果たします。離れていても私の戦いを見ていて下さい......
私に力を授けて下さりますから...」
真摯に答えるマリナに5歳ほどの女の子が大切そうに抱えた袋を持って寄ってくる。孤児院で何度も言葉を交わした子なので皇女相手にもそれ程緊張した様子はないが、その瞳は真剣そのものだった。
「あら、こんにちは。」両膝をついて微笑むマリナ。「これを私にくれるの?」
袋を開けると中には白を中心に赤、、黄色といった小さな花が1つに繋がった花飾りが出てきた。
「ありがとう、こんなに素敵なものを私に......」綻びながら少女の髪を優しく撫でる。
「いっぱい探して集めてきたんだよ。」少女はにこやかに、そしてどこか誇らしい笑みを浮かべた。
「マリナ様、この子が院の近くの山から採ってきたのです。土に汚れながら毎日少しずつ集めて......」少女の後ろにいたシスターの言葉にハッとして少女をそっと抱いた。
「そうだったの......貴女の為にも必ず勝つわ。信じて。」

430:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 01:55:45.63 YfSo2Lws0.net
皇女の戦い 第二話 PART3

以下が会場到着までの過程。
アザディスタン軍の基地内にあるガンダム(といっても保護用の巨大な飛行船に収納されているのだが)に乗り込みそのまま会場に向かうというシンプルなものだ。
ガンダムもその飛行船も過去のあらゆる軍事兵器や工業製品よりも頑強に作られているが、最新の注意を払う必要がある......

基地に向かう車内にはドライバーの他にマリナ、シーリン、腕利きのSPが3名。
道路の左右には王宮前よりも更に多くの国民達が皇女の乗った車に声援を送っている。
中には病を押して必死に手を振っている人もいる。マリナは微笑みながら丁寧に手を振り返す。
「マリナ、良かったわね。」「ええ...私、もっと強くなれた気がする......」
少女からもらった花飾りの入った袋をそっと、だが大切に抱きながらシーリンに応える。
「必ず勝つわ、私を信じてくれたみんなの為に......」
ガンダムファイター......本来格闘に身をやつした者が進む道を政の頂点にいる彼女自らが反対を押し切り選んだのだ。
無様な結果を残せば飢えと貧困に苦しむ国民だけでなく、彼女の無理を受け入れてくれたシーリン達にも申し訳が立たない...
(絶対に、敗北は許されない...)
「......」旧知の仲故かその


431:切実な思いを見逃さなかったシーリンは、しかしいつもの冷然とした声で告げた。 「見えたわ、マリナ。」目の前にはアザディスタン軍事基地が質実剛健と聳えていた。



432:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 01:57:02.85 YfSo2Lws0.net
皇女の戦い 第二話 PART4

「今日という日をずっと待っておりました。私が皆様の礎になれるよう務めを果たします。」基地にて彼女達を出迎えた軍のトップに深々と頭を下げるマリナ。
「皇女自ら我らの為に御尽力下さるとは誠に光栄であります。」
トップの言葉と敬礼と同時に軍の上層部のメンバーも敬礼した。
一人一人に皇女が向けた視線は真剣さだけでなく、悲しげでもあった。
争いを好まないマリナも戦時中に命を懸けてきた彼らを尊敬している。だからこそ殊更に切なかった。
今回の闘いで国が豊かになれば少しでも彼らの犠牲も報われる...その感情もファイトでの力になっていたのは紛れもない事実だった。

基地内の格納庫はいつもより張り詰めた空気を孕んでいるように思われるのはファイターの思い過ごしだろうか。
技術者と整備員達とて同じような面持ちで皇女を送り出す準備に励んでいた。
「機体の最終点検は既に終了しました。ユディータの力があれば必ず......」
「はい、期待に必ず応えて見せます。」ずっと彼女のファイトを物理的に支えてきた技師長と握手を交わすマリナ。

「シーリン、先に行ってるわね。また会いましょう。」「ええ、気を付けてね。途中には何があるかわからないから。ここからがすでに戦場よ。」
厳しいながらもずっと見守ってくれた旧友と握手を交わすと慣れた足取りでタラップに乗って眼前の巨人・ユディータへと入っていった。

433:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 01:58:03.01 YfSo2Lws0.net
皇女の戦い 第二話 PART5
ガンダムユディータ......他国の機体とは一線を画す華奢でしなやかなそれは雪のように白い...
脛や前腕は濃紺に塗られており、白さと引き立て合う色使いになっている。
顎の上にスリットはなく、小さく細い顔。
出来得る限り攻撃のダメージを受け流す為全体的にボディのめりはりが強調されているが、胸と肩幅は小さくて狭い。
本来は弓術専用の機体だが、マリナのファイター志願により合気道にも対応すべく尚も柔軟なフレームシステムへと進化を遂げた。
背部にマウントされたケースからは縮小された特殊金属性の矢が収納されている。
(ユディータ、私を導いて...)
サバイバルイレブンを共に駆け抜けてきたこの機体に思いを馳せながら、孤独な戦場ともいえるコクピットに入っていく。

内部には上下に二つのリングがある。
丁寧に脱いだ衣服を折り畳むとそれらは一時的に粒子となって消えていく......
締まりつつもファイターらしからぬ細い肢体は決心を固めながら祈るように胸の前で手を握り、片膝を着く。
上方のリングからスーツが優しい色合いに似つかわしくない圧力を伴いながらマリナの身体に張り付いていく。
身体は強張り現在の態勢を保つのが精一杯。
「......っ!」いつものように苦しみながらも必死で手足を動かしスーツを纏わせていく。
ゆっくりと腰を上げ、立ち上がる。
最初の時に比べれば圧倒的に装着時間を短縮している。
実戦未経験の時は、スーツを着た直後でも体に負担がかかり動きがおぼつかず、フラフラしていたのだ。
それを国によるスーツの調節、柔軟性と(他のファイターには負けるが)最低限の筋力や動きのトレーニング。
これらの甲斐あって時間と負荷を最小限に留めるに成功したのだ。



434:各国共通の肩、手首、足首についたイエローのセンサー 無駄のない細い胴体を包む水色の爽やかなスーツがほんのりした腹筋を浮かび上がらせている。 撫で肩と股を守るのはうっすらとした水色。そしてそれらから伸びる長い手足と小さな臀部はユディータ同様の純白。 一口で言うと、手足に向かうに連れて薄い色になっているスーツだった。 そして胸にはアザディスタンの誇りを象った国の証が描かれている。 ずっとこのスーツと機体で戦い続けてきたのだ。 天井のハッチが開けば中東の真っ青な空がマリナを祝福するように広がっていた。 シーリンや技術者に会釈をするとシンプルな形状の格納型飛行船に乗り込み大空を旅立っていった。 皇女と国民の願いを風と轟音に乗せどこまでも......



435:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 02:00:37.79 YfSo2Lws0.net
今日の投下は以上になります。

改行忘れてすいません。読み辛いですよね...orz
今度から気を付けます。

それではお休みなさい。

436:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 20:47:03.74 YfSo2Lws0.net
>>331さん、読んで下さってありがとうございます。
リロってなくてレス遅くなってしまいすいません。

自分でもちょい奇抜?と思ったのですが、あのマリナが...という感じのギャップを出せたらいいかなと思ってます。
敵ファイター達の設定も考えていますので、皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。

>>355
遅れましたがありがとうございます。

昨日書き込んだ自分が言うのも何なのですが、容量の問題...しばらくはこのスレを使わせて頂いてもよろしいでしょうか?
自分のところでは534KBです。
すいません。リロって事情を把握すべきでした、気を付けます。

437:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/14 22:35:37.40 n0YyhdGF0.net
こんばんは。続きを書いたので投下します。

皇女の戦い 第三話 PART1

 中東の乾いた風が吹きすさぶ大空。
ガンダムによる飛行訓練をしているといつも思う。
自分が住んでいる国に貧困やそれによる犯罪が溢れているなんて嘘のような気がする...と。
そんな思いが今戦いに向かうマリナの気持ちを少しでも和らげていた。
自身のスーツよりも青々とした空に少しずつ晴れた表情になっているのがわかる。

「......っ!?」コクピット内に警報が響き渡る。それだけでなく何かが近づいてくる感覚に息を飲む。
「誰?」しかし辺りを見回しても何もない......ただ青空とそこに浮く白い雲があるだけ。
この気配は決して空腹の猛禽類ではない...もっと強烈な意思......≪人間の殺気≫だ......
幼いころより周囲の貧困を見てきた彼女は人々の金品や食料の取り合いを全く見なかったわけではない。
皇女の座に着いてからは極度に不満の爆発した国民の怒りも目の当たりに、その度に心を痛めてきた。
しかし、この殺気はそれまでのものとは違う。もっと純粋な敵対心。絶対に避けることができないことを彼女は感づいていた。
「どなたです?姿を見せてください。」
できるだけ毅然と落ち着いた声色で呼びかけた次の瞬間……

438:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/14 22:36:46.97 n0YyhdGF0.net
皇女の戦い 第三話 PART2
「はっ!」一瞬捉えられないように思えた太く、龍のように長く紅い光が澄んだ空を駆けていく......
避けたは良いが飛行船は右半分が溶けて白い鋼は形を歪ませ、溶けていく。あくまでそれはガンダム専用、マリナ以外誰も入っていなかったのが幸いだった......
勿論ユディータの巨大な白い痩身は右半分程が露出してはいるものの傷はないのがせめてもの救いだった。
「一体、何なの?」混乱する感情をできるだけ落ち着かせるマリナ。ファイターとして精神を鎮めることも教わってい


439:た。 今朝テレビで見たステルス機能搭載のガンダムを思い出した。尤も、あれは既に会場に到着しているので今の連中は全く別人。偶然類似した技術を用いていたか、はたまた盗用したのか。 それはともかく目先の「空気」に視線を冷静に這わせるよう努めた。



440:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/14 22:37:28.76 n0YyhdGF0.net
皇女の戦い 第三話 PART3
「ふふ、中々いい避け方だったぜ。ちょっと惜しかったが。」「随分綺麗な機体じゃねえか。やっぱ皇女様が乗るものは一味違うな。」
どこか人を喰った、荒くれたような喋り方の男の声が2名聞こえてきた。
「私にはこんなことに付き合っている時間はないのです。どいて下さい。」
すると周囲にあった青空の一部が少しずつ人のような形となり浮かび上がってきた。
......いや、正確にはそれまで空中に擬態して隠れていた。
その姿はモンスターではなく、人の手で作られた歴とした機械...MSだった。
黒く無骨なシルエットと不気味に紅く光るモノアイ。まるで獲物を見つけて喜々とした獣のように見える。まるで狩人のように銃を構えて狙い撃ちするのを楽しんでいるような雰囲気さえある。
(今ここでまともに相手をしている時間はないわ......こうなれば...)
機体内部のパージスイッチを押すと残りの飛行船が外れゆっくりと地上に落ちていく。
こうなればデッドウェイトでしかないそれは、マリナの定めた狙いのままにゆっくりと緑の乏しい山に向かっていく。
誰もいないのは明らかなので一番安全な場所と言える。

441:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/14 22:38:30.40 n0YyhdGF0.net
皇女の戦い 第三話 PART4
背中にマウントしていた弓を携え矢を構える。
精度が高く、硬度と柔軟性を併せ持ったアローは幾度もマリナの窮地を救ってきた。
それに時に迫られている彼女にとって頼みの綱になるのは遠方から相手を狙える弓術しかない。
堂々とした構えで敵機二体のライフルを一気に弾き落とす。
「ぐっ、こいつ!」「やりやがって!」
「......私はガンダムファイターの端くれです。殺し合いなんて望んでいません。
......これ以上は......早く帰ってください。」
ファイトと違い明確な悪意を持った敵、しかしそれでも命を奪わずにいられることに越したことはない、そんなマリナの気持ちを嘲笑うかのように二体は太めのサーベルを取り出し襲い掛かってきた!

「仕方がないわ!残念だけど...」訓練で培った相手の動きを読む技術......マリナは柔らかい動きで回避するとさらに素早く構えた矢で一体の右腕、頭部を狙った。
センサーであるモノアイは外したが、空中でバランスを崩しつつ何とか存在している。
「野郎!」向かってくるもう一体に一切逃げる素振りを見せず弓の準備をするマリナのガンダムユディータ。
あともう少しでサーベルが頭部に届くかという所で瞬時にかわし、相手の懐に飛び込んだ。
「もうこんなことさせないで...」切なそうな声と共に相手の両肩を至近距離の射撃で破壊する。
衝撃で両腕は脆くも地上に落下していく。

「どうする、あいつ中々の腕前だぜ?」パイロットの一人が呼びかけた空間には誰もいない
...いや、いるのだ。マリナは犇々と感じていた。この二人よりさらに強い殺気を持った何者かがその空間にいるのだ。
「......!」ファイターになってからまだ数年も経っていないマリナですら緊迫感でその相手に目を見張らざるを得なかった。
「相当やるみたいだね......皇女さん?」
冷たく挑戦的な声と共に堅牢な装甲の巨人が浮かび上がって......

442:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/14 22:54:28.43 OrGrtmUTh
今日は以上です。
 脱線気味?に思われるかもしれませんが、これからの伏線(というか前置き)のような展開にしました。

それではまた。

443:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/14 22:41:20.60 n0YyhdGF0.net
今日は以上です。
脱線気味?に思われるかもしれませんが、これからの伏線(というか前置き)のような展開にしました。

それではまた。

444:三流(ry
17/07/16 12:08:53.86 pcJWScTn0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十話 掌からこぼれる水のように

「諸君らの階級、所属は以上だ、なにか質問は?」
ソロモンのブリーフィングルームにて、壇上に上がっている指揮官から、部屋に座っている30名ほどの士官に通達がなされる。
ジオンとの最終決戦と目されるア・バオア・クー攻防戦、「星一号作戦」に備えた最終部隊編成、その会議場。
その一角にジャック・フィリップス「少尉」もいた。ほんの5分前から彼はこの階級と、自らの部隊の隊長を任じられた。
付く部下は5名、自分を合わせて6名の中隊クラス。彼に限らず、先のソロモン攻防戦の生き残りはほぼ全員が
先任として隊長クラスの地位に就くことになる。

それは連邦軍の如実な人材不足を示していた。もともとこの戦争は最近までジオン優位に進んでいた、それは
モビルスーツ等の兵器の差が主な原因であった。そこで連邦は兵器、特にモビルスーツの大量生産を重視してきた。
事実それは功を奏し、戦場をわずか数か月で地球から一気にジオン本国手前の月面周辺まで押し返した。
だがいくら兵器がたくさんあっても、それを動かす人間がいなければ意味がない。コロニー落としから初期の劣勢で
兵士の絶対数不足は軍にとって深刻な問題ではあった。そんな中、実戦経験者である彼らは連邦軍にとって
貴重な戦力であったのだ。

「質問がなければ、兵士の振り分けに入る、入ってきたまえ。」
後方のドアが開き、広くとられた部屋後ろのスペースにぞろぞろと人が入ってくる。会議のさ中、廊下で待機していたらしい。
しかし入ってきた彼らを見て、その部屋にいた先任パイロット達は驚きを隠せなかった。
あどけない顔、華奢な体、似合わない軍服、そう、子供だ。明らかに軍に所属し、戦争をする年齢には見えない。
100人以上が入室してきたが、おおよそ軍人らしい人間を探すのが難しいレベルだ。
「司令!こりゃ・・・なんの冗談ですか。」
年長の士官が壇上の人物に問う。無理もない、この士官の息子でももう少し年がいっているだろうから。
「彼らはみな、シュミレーションで上位の成績を収めた優秀者だ、志願兵だから意欲も高い。」
「そんな問題じゃねぇでしょうが!」
別の士官が吐き捨てる。なるほど、確かに若いと対応力も高いだろう。シミュレーションなら頭の固い大人より
彼らのような若者のほうが好成績をあげられるのも無理はない。
しかし戦争で部下として使うということは、彼らに「死んで来い」と言うことすらあるのだ。
まだ20年も生きていないような子供を戦火に放り込むというのか・・・

445:三流(ry
17/07/16 12:09:32.46 pcJWScTn0.net
「彼らには志願した理由がある、ジオンを打倒したいという共通の認識が、な。」
指令の言葉に息をのむ士官たち。なるほど、彼らはジオンに恨みがある、つまり家族や友人、近しい人を
この戦争で亡くしているのだろう。
だが、だからといってやはり前途有望な彼らを前線に出すのは気が引ける。そんな空気を読み取ってか、こう続ける指令。
「決戦での戦力比は10対1と想定されている、とにかく数で圧倒する必要がある以上、人員は必要なのだよ。」
戦力差10対1、それはもう戦闘にもならないほどの圧倒的大差である。この物量作戦をもってすれば
敵の戦意を削ぎ、ろくに戦闘にならずに勝つことも十分ありえるだろう。
ただ、それにはまがいなりにもモビルスーツが動いてなければ意味がない、無人操作で戦闘できるような
機体は今の連邦にはないのだから。
「では、振り分けに入る、名前を呼ばれた士官は起立、そのあと呼ばれた新兵は起立した士官のもとに行くこと。」
「「はいっ!」」
「リチャード・アイン大隊長!所属兵、ニック・ノーマン一等兵、アルフ・リキッド軍曹・・・」
次々と名前が呼ばれ、起立した士官の机に少年たちが集まってくる。
「次、ジャック・フィリップス中隊長!所属兵ビル・ブライアント軍曹、キム・チャン一等兵、サーラ・チーバー一等兵・・・

振り分けが終わり、それぞれの隊が個室に移動してブリーフィングを始める。
「ジャック・フィリップス少尉だ、30分前からな。じゃあ、時計回りに自己紹介を。」
ジャックに促され、順に紹介を始めていく。
「ビル・ブライアント軍曹です、ジム搭乗。隊長もずいぶん若いっすねぇ、俺19ですけど、いくつ?」
5人の中では比較的、軍人に見える長身の青年、とはいえ軍人を基準にすると単なるチンピラにしか見えないが。
「キム・チャン一等兵、ボール搭乗、17歳です。」
眼鏡をかけた、背の低い少年兵、色白で少し小太りな、戦うイメージが全く見えない。
「サーラ・チーバー、ジムのパイロットです。18ですけど、ご不満ですか?」
ブロンドの髪を目の前でかき分け、見下ろす長身の少女。これまた生意気そうな、そして扱いにくそうな娘だ。
「マリオ・サンタナ一等兵、ジム、17!」
それだけ言うと着席する、浅黒い肌の少年。礼儀正しいのか緊張しているのか・・・
「・・・あの、ツバサ・ミナドリ二等兵・・・ボール搭乗、16歳です・・・。」
最後におずおずと挨拶をする内気そうな東洋系の少女、なんとも頼りないこのメンバーの中でも一際頼りない・・・

「ちなみに俺は18だ、同じ世代だが、不満があるか?」
全員の紹介が終わってから、最初のビルの質問に答えるジャック。彼の意図は見え見えだ、かつて俺が最初サメジマの兄貴に感じた
頼りなさを感じ取っているのだろう、あえて挑発を向けてみる。
「年下っすかぁ!ま、いいや。戦場では己の腕ひとつですからね。」
「そうね、自分の身は自分で守らないと、ね。」
ビルとサーラが返す。暗にお前の指揮に従って命を落とすのは御免だ、と言っているのだろう、頼もしい限りだ。
だが2人に勝手をさせれば、他の3人がどうするか困るだろう。彼らを死なせないためにも統率は必要だ。
思えばサメジマの兄貴やエディさんもこんな苦労をしていたんだろうなぁ、彼らなりのやり方で。

446:三流(ry
17/07/16 12:10:04.56 pcJWScTn0.net
ソロモンから艦隊が発進する、いよいよ星一号作戦の開始だ。一列に並べればソロモンからア・バオア・クーまで
繋がるのではと思うほどの大艦隊、搭載されているジムやボールの数もすさまじいものだ。
そんな中、ジャック中隊は突貫訓練を行っていた。艦隊速度が安定した時点で艦を出て、実戦形式の戦いをする。
6名の中隊なら、うち3名を率いる小隊長も必要だし、自分が戦死した時の指揮官代理も決めておく必要がある。
その資質を実戦練習で見極め、また彼らにもシュミレーションではない実機の操作を決戦までに身につけねばならない。

最初はジャックがキム、サーラ、マリオの3人と対戦。
もちろん結果はジャックの圧勝だった。3人とも少しは搭乗経験もあるようだが、まだまだ戦場に出せるレベルではない。
サーラもマリオもまだまだジムの基本ルーチンすら使いこなせていない、特別ルーチンを開発、搭載し、実戦で鍛えてきた
ジャックのジムとは比較のしようもなかった。キムの機体はボールだが、練度はそこそこの線に行っていた、小隊長候補かな。。
彼らが母艦に補給に行くと入れ替わりに、ビルとツバサがやってくる。ジャックは気が付かなかったが、ツバサにはすれ違う時に
ビルとサーラが軽くコンタクトを交わしたように見えた。
「あ、あの二人、もしかして・・・」

「さて、お手並み拝見と行きますよ、中隊長殿。」
ビルは自信満々だ、性格からくるのだろう。ただ戦場という場においてこの性格がうまくハマれば伸びる可能性は十分ある
対戦をこの組み合わせにしたのも、ビルの自信家っぷりの影響を気弱そうなツバサにも受けてほしかったから。
ジャックはいつの間にか、彼らの隊長であることを自覚し始めていた。ルナツーからこっち、周りはみんな先輩で
誰かに何かを教えることなどなかったから。
この訓練が終わったら、サメジマの兄貴に教わった大事なことを5人に教えてやろう。
敵は恨むものじゃなく褒めるものだということ、殺しあう相手だからこそ、それは大切なこと、自分の人生を後悔しないために。

なるほど言うだけのことはある、ビルのジムの練度は5人の中でも飛びぬけていた。基本ルーチンをうまく使いジムをぶん回す、
これでサポートのツバサがうまく動けばジャックも不覚を取りかねないだろう、それを見越して接近戦に持ち込むジャック。
こうなるとさすがに練度の差が出る、ダイナミックなアンバックを駆使してのトリッキーな動きでビルを翻弄、彼の背中に
ペイント弾を打ち込む。
「くっ、くそおっ!」
「自分一人で何とかしようとするからだ、援護砲撃できるボールがいるんだから、たまに距離をとってその機会を作れ。
あとツバサはもっと動け、戦場では静止してると的になるだけだ。」
「は、はいっ・・・」
「じゃあ、もう一回いくぞ、お前らの機体がペイントで真っ赤になる前に一本取って見せろ。」
「イエッサー!」「はいっ!」
たった一回の訓練で、ビルは少し従順になり、ツバサは強い返事ができるほどにはなった。そう、1の実戦は時に
100のシュミレーションを上回る価値がある、ジャックは今まで感じたことのない充実感を覚えていた。

447:三流(ry
17/07/16 12:10:26.75 pcJWScTn0.net
―そしてその時、宇宙が輝いた―


その恐るべき野太い光の筒は、連邦軍艦隊のど真ん中を通過していく、恐るべき破壊と殺戮を伴って。
直径数キロ、長さ100キロにも及ぶ超巨大レーザーが、艦隊のど真ん中を焼き払って行った。
その光景にジャックも、ビルも、ツバサも、言葉を失った。確実なことは一つ、連邦軍艦隊の大部分が
壊滅したということだけだった。

突然、高速でその艦隊に起動するビル。
「うわあぁぁぁーっ!サーラ、サーラあああっ!」
絶叫しながら艦隊に向かうビル、明らかに取り乱している。その態度が逆にジャックを落ち着かせた。
「おい、待てっ!」
消滅した艦はともかく、ダメージを負った艦に不用意に近づくのは危険だ。止めに走るジャック。
「やっぱり・・・あの二人・・・」
ツバサは冷静に、しかし悲しい声で二人を見送る。

「サーラ!どこだ、返事しろおぉぉっ!」
爆風の熱波が残る空間で、サーラの姿を探すビル、しかし当然ながらどこにも見えない。
無理もない、彼らの母艦は艦隊のほぼ中央、つまり巨大レーザーのど真ん中あたりにいたのだ。
「落ち着けビル!この空間は危険だ、避難しろっ!」
すぐ右に半分吹き飛んだサラミスがいる、いつ大爆発してもおかしくない。ビルのジムの腕をとり、その場を離れるジャックのジム。
「離せ、離してくれっ!サーラが!サーラが


448:・・・うわあぁぁぁぁーっ」 爆発するサラミス、その余波で少し前までいた空間が炎に嘗め尽くされる、まさに間一髪だった。 ツバサと合流する二人、ビルは未だに嗚咽を洩らしている。強気な彼にもこんなに脆い一面があったのか。 もっとも彼の態度を見れば、ビルとサーラの関係は容易に想像がつく。恋人同士か、それに近い関係だったのだろう。 それが戦争、愛しい者が簡単に消え去るからこそ・・・ 「あ、あれ・・・?」 ジャックは自分が泣いていることに気づいていなかった。過去に故郷の仲間や兄貴が死んだ時にも涙はあった。 しかし今回は違う、彼らは自分が守るべき、そして大切なコトを伝えるべき部下だったのだ。 サーラ、キム、マリオ、この3人を失った事実、それはまるで掌ですくった大切な水が手の隙間からこぼれていくように 止めようのない悲劇を悲しむ感情だった、覆水を止められない自分の無力さを噛みしめる涙・・・ ジャックはソロモンで聞いた、銀色のモビルスーツ乗りの指揮官の絶叫を思い出していた。 あれほどの軍人でも部下が死ぬのは身を切られるように辛いのだ。 ジャックは声を上げずに、黙祷してさめざめと泣いた。短い間だったが、決して忘れたくない俺の初めての部下。 彼らを失った喪失感、それは「過去」ではなく「未来」の自分の居場所を削り取られたようだった・・・。 第十話でした。 部下から上官へ、最終決戦を前にジャック君の立場も変わりつつあります。 物語も終盤、上手くまとめられるか不安なところですので感想、アドバイス頼みます。



449:三流(ry
17/07/18 22:36:23.75 EXn3Dp580.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十一話 光芒の星々をすり抜けて

―ソーラレイ―

ジオンの最終兵器、コロニーそのものを砲身とした超巨大レーザー。
ジオン公王デギン・ザビを乗せたグレート・デギンもろとも連邦軍艦隊を薙ぎ払ったその一撃は
連邦主力の4割をもぎ取っていくという大戦果を、そして悲劇をもたらした。
圧勝のはずの星一号作戦は一転、どちらに転ぶかわからないほどの戦力の拮抗を招いた、未だ数的には連邦有利とはいえ。
しかし、ギレン・ザビ以下、ジオン首脳は正しく理解していなかった。このソーラレイで数的不利を覆したツケが
連邦軍全体に憎悪となって刻み込まれたことを。
数で圧倒し、降伏したものには寛大な処置をしえた思考から、憎しみに塗りつぶされた復讐戦と化したことを。
上は指揮官から下は前線の兵士まで、ジオン憎しの意識を燃え上がらせたことが、のちの悲劇につながることを。

戦艦マゼランの兵士待機室、その一角に座り込み、俯いて床を見つめる兵士がいた。涙は枯れ果て、その瞳は憎悪に燃える。
「ジオン・・・許さねぇ。皆殺しにしてやる。ぶっ殺してやる、一人残らず・・・」
ビル・ブライアントが最愛の人を亡くしたのはほんの十数時間前、最後に交わした言葉は、ジムの訓練中、隊長ジャックに
こてんぱんにノされたサーラに「カタキはとってやるぜ」と冗談めかして送った通信だった。
返信はなかったが、彼女のジムが親指を立てて合図したそのポーズが、その奥のコックピットにいる彼女の表情を
浮かび上がらせる、がんばって、と。
そのサーラは見ていただろう、彼が結局ジャックに及ばなかったこと、そしてそれを決して残念には思わなかったことを。
無事に帰ったなら、「やるじゃない、ウチの隊長クンも。」などとウインクを投げて言われただろうことを・・・

ジャックはそんなビルの前に立ち、かける言葉を探していた。ジャック自身アイランド・イフィッシュの仲間、
シドニーの家族、尊敬する兄貴、先輩、そしてつい先日には長く世話になった司令官さえ失ってきた。
しかしただひとつ、恋人を亡くした経験はなかった。その悲しみがいかほどか、それを推し量ることはできなかった。
あるいはそっとしておくべきかもしれない。戦場において彼の憎しみがプラスに働くこともまた否定はできない、
赤く燃え盛る憎悪は破滅しか招かないが、青く静かに燃える憎悪の炎は戦果と生還につながる可能性がある。
兄貴は俺をぶん殴って目を覚まさせた。しかし彼を今殴っても憎悪の質を赤い炎にするだけかもしれない。
彼は一言、ビルにこう告げた。
「サーラは、きっと見てるよ、お前を。だから・・・死ぬなよ。生きて彼女をまた思い出してやれ。」

450:通常の名無しさんの3倍
17/07/18 22:41:29.91 bSCCFiwEO.net
規制除け

451:三流(ry
17/07/18 22:41:40.53 EXn3Dp580.net
部屋を出るジャックを追いかけて、ツバサが部屋から出てきた。
「あの・・・ジャック中隊長、その、お願いがあるのですが・・・」
「何だい?」
自分でも信じられないほど優しい声で返すジャック。先のビルとのやりとりの余韻もあっただろうが、最終決戦を前に
ただ二人残った自分の部下、しかも少女となれば自然と語句も柔らかくなる。
「その・・・コックピットで、音楽、かけてもいいですか?」
「んあ?」
「そ、その、同期の人に聞いたんです。彼の所属の隊長が、出撃時に音楽をかけるって。だから、私も・・・ダメですか?」
「・・・どこの隊、それ?」
「えっと、部隊名は忘れましたけど、確かイオ・フレミング隊長とかいう・・・」
有名どころだ。激戦区であるサンダーボルト宙域を戦い抜いてきた猛者、連邦でも数少ないフラッグ・モビルスーツ
「ガンダム」を乗りこなし、数々の戦果を挙げてきた英雄。しかし音楽を聴きながら戦闘してたというのは初耳だった。

「私、音楽を聴くと落ち着くんです、そうすれば戦場でもきっと冷静になれると思うんです、だから・・・」
「・・・通信は聞き逃すなよ。」
「え、いいん、ですか・・・?」
「好きにするといい。」
それだけを言って背中を向けるジャック。正直、彼女の技量では最終決戦を生き延びれる可能性は少ない。
その確率を少しでも上げられるなら、多少のワガママにも目をつぶれる。
背中で「ありがとうございます」の言葉と、深々と首を垂れる彼女を感じながら、ジャックは愛機の待つハンガーに向かった。

ハンガーに格納された彼のジム、その中身は兄貴のスピリットを受け継ぎ、エディさんとの研鑽の結晶が詰まっている。
そしてその盾には、その象徴である精悍なサメの顔が映っていた。
「ねぇサメジマの兄貴、それにエディさん、俺にも部下ができたんだぜ・・・」
シャークペイントに向かって語る。まるでそこに二人がいるように感じられたから。
「これで最後だよ、長いようで短かったけど、今回で最後にする、きっと!だから、見ててくれ。」
獲物をかみ砕く顎(あぎと)、兄貴のお気に入りであり、エディさんが苦笑いで受け入れた勇敢の証。
その牙に誓う。これを最後にすること、彼らから自分につながれた命を、必ず部下の二人に託すことを・・・

452:三流(ry
17/07/18 22:43:01.55 EXn3Dp580.net
―宇宙世紀0079、12/31、星一号作戦、開始―

攻撃目標ア・バオア・クーを上方から見て4つのフィールド、東西南北を示すE、W、S、Nに区切り
うち3方向から一気に制圧を目指す。主力をNフィールド、搦め手をSフィールドに振り分け、Eフィールドには
牽制部隊が送り込まれる。とはいえどの戦場でも、戦力は連邦のほうが圧倒的に優位だ。
しかしソーラレイでの戦力減退が、安易な降伏や停戦を許さないほどには戦力を


453:拮抗させたことは否めない、 つまりどの空間でも剝き出しの殺し合いになることは確実だ。 ジャックの所属する部隊は牽制のEフィールド、しかしその配置は敵索部隊によって敵にも知られている。 本命のSフィールドやNフィールドに比べ、ジオンの戦力の振り分けが少ないのは確実だろう。 となれば最初に敵の防衛線を突破し、ア・バオア・クーに取りつくのがこのEフィールドの部隊であっても なんら不思議ではない。 マゼラン1、サラミス6艦から吐き出された大量のジム・ボール部隊がEフィールドに展開する。迎え撃つは数隻のムサイと そこから発進するザクを中心としたモビルスーツ部隊。双方の戦艦は対に位置し、その間の宇宙でモビルスーツが激突する。 例えるなら艦隊はサッカーの両ゴールで、フィールド内のモビルスーツは選手といったところか。 モビルスーツの勝敗が決すれば、大量のシュートが敗れた方のゴールに打ち込まれるだろう、そしてそこでの勝敗が決する。 モビルスーツという巨人の群れ同士の殺し合いが始まった。 「ビル!ツバサ!絶対に動きを止めるなよ!」 激しく機動しながらジャックが叫ぶ。こうも敵味方が密集していると、狙いをつけるだけでも大きな隙となる 攻撃は適当でいい、味方を誤射さえしなければ。3機で離れすぎないように飛び回り、戦場のフィールドを横切る。 密集地を抜けたところで終結し、わずかな時間を射撃に費やし、そしてまたフィールドに飛び込む。 ジャックにとって意外だったのは、ビルが思ったより冷静だったことだ。突出して身を危険にさらすことを 心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。 爆発の光芒の中を両陣営のモビルスーツが飛び交う。そして優越が徐々に偏っていく。押しているのは連邦だ。 一度優劣がつくと、そこからは早かった。1機のザクに複数のジム、ボールが殺到し仕留めていく。 もともと数で劣勢なジオンにとって、負け始めると崩れていくのは加速を増す。やがてザク部隊はムサイ周囲まで下がり 母艦を逃がすための殿(しんがり)として最後の抵抗をする。そこに殺到するジム・ボール。 その側面に、大量のミサイルが降り注ぐ。正面にしか注意が行ってなかった連邦軍はこの不意打ちに大きなダメージを受けた。 ミサイルの後に来たのはモビルスーツではなかった。円筒形の、ドラム缶を横倒しにしたようなモビルポッドだった。 その数約30機、思わぬ新手に連邦の攻勢が止まる。再び戦場は互角の攻防になるかと思われた。 しかし連邦も押し返されてばかりではない。攻勢に便乗しようとしたサラミスやマゼランの艦砲射撃がザクやその後ろの ムサイに殺到する。次々に撃沈していくムサイ。そしてザクに代わりムサイの前に立ちはだかるジオンのモビルポッド。



454:三流(ry
17/07/18 22:45:06.34 EXn3Dp580.net
「オッゴってやつか!気を付けろ、先日月軌道上でボール2個小隊がこいつに食われているぞ!」
大隊長が叫ぶ。モビルポッドでもボールとは違い、アタッチメントを使用してザクのマシンガンやバズーカを搭載
動きもモビルポッドとは思えないくらい速く、なおかつ3機1組で編隊飛行しているために、今しがたまでの
対モビルスーツ戦闘とは毛色の違う戦いを強いられてしまう、頭の切り替えの遅いジムやボールが仕留められていく。
とはいえ艦砲射撃によりムサイはほぼ轟沈、残った最後の一艦もたまらず退避を始める。これによりオッゴが
補給を受けるべき母艦はなくなった。マゼランやサラミスは健在、数は互角、ボールはともかくジムは性能が上位、
未だに連邦の優位は動かなかった。

ここで連邦は部隊を2つに分ける。居残って戦闘を続ける者と、一度母艦に帰艦して補給を受ける者に。
一時期戦場は不利になるが、その行動自体を罠と思わせるような巧みな全体機動で敵に警戒させる、これが功を奏した。
連邦側は知らなかったが、実はジオンのオッゴ部隊は学徒兵の部隊だった、戦場において攻勢をかけるべきタイミングを
つかむためのカンが働かなかったのだ。
一度両サイドに分かれる連邦とジオン、素早い着艦で補給を済ませ、再出撃するジムやボール。
この判断をした連邦軍の大隊長は自分の判断の成功に思わず舌なめずりをする、彼は勝ちを確信した。

その時、その大隊長のジムを含む補給を終えた数機が、突如飛んできた光に飲み込まれた。
戦場を走るその光線は、そのままサラミス1隻を薙ぎ払い、爆発させる。
敵味方が一斉にその方面に目をやる。そのビームを放ったのは戦艦ほどもある、巨大な赤い影に。

「また新型かっ!」
ジャックが叫ぶ。地球軌道でヅダ、基地攻防戦でザクレロ、ソロモンで銀のゲルググ、そしてこのア・バオア・クーでの
この赤い巨大モビルアーマー、ジオンの開発の速度は一体どこまですさまじいというのか・・・。
「なんだ、アイツは!」
「隊長・・・」
ビルとツバサが動揺を隠せずに発する。彼らはこれが戦場デビュー、次々変化する展開に付いてこられるか不安は尽きない。
だからジャックは機動する、その赤いモビルアーマーに向かって。部下を委縮させないために。
「お前らは離れて他との戦闘に集中しろっ!」
二人にそう言い捨てて、怪物モビルアーマーに突撃する鮫の顎。そのほかにも判断の早い者、つまり戦場の急変に動じない
パイロットたちがそれに突撃する。コイツを仕留めればもうジオンに後はないだろう、と。

455:三流(ry
17/07/18 22:47:34.83 EXn3Dp580.net
十一話でした。
いよいよ書きたかった青葉区の攻防、イグルーのチンピラ連邦軍が
ここで何を考え、どういう意思で行動したのか、それをフォローするのが
このSSのテーマの一つでしたから。

456:三流(ry
17/07/21 00:07:24.63.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十二話 赤の無双

突如現れたその巨大な赤いモビルアーマー、いきなりサラミス1隻を沈めたその巨体に連邦のジムが殺到する、
次々と発射されるビーム・スプレーガンがモビルアーマーの表面に花火を咲かせる。
だがその巨体に致命傷を与えるにはエネルギーが不足していた。おそらくメガ粒子砲クラスでないと
その装甲に穴をあけることは敵わないだろう、だがそれでいい、牽制射撃から近距離まで切り込めば
ビームサーベルで本体を切断することは可能なはずだ、ソロモンでガンダムがビグ・ザムにしたように。
だが、その目論見は外れた。巨体の側面に設置された発射口から無数のランチャーが発射される。
それはジムには向かわず、モビルアーマーの周辺で起爆、爆発は小さく、代わりに粒子がまき散らされる。
切り込んだ1機のジムがビームサーベルを抜くが、刀身部分はゆらぎ、形を成さずに消える。

「ビーム攪乱膜!」
ジャックが叫ぶ。ソロモンで連邦軍が使用したビーム兵器霧散システム、ビーム兵器の効力を著しく
減少する効力がある。この瞬間から火器を持たないジムはこいつに対して無力になった。
すでに戦闘が始まって相当時間がたっている、戦闘開始時にはバズーカやマシンガンを持っている
ジムも多数いたが、すでに皆使い切り、無尽蔵に使えるビーム兵器に頼る情況になっていた。
「みんな、離れろっ!」
そう叫んでモビルアーマーから離れるジャックのジム、しかし遅かった。切り込んだジムたちは、ことごとく
モビルアーマーの大型バルカン、または周囲を飛ぶオッゴの十字砲火によって爆散していく。

後退し、�


457:トび中隊と合流するジャック。ビルとツバサに叫ぶ。 「ビル、あいつに近づくな!ビーム攪乱膜だ、何をやっても効かないぞ!ツバサ、残弾はあるか?」 「すいません!たった今、使い切りました・・・」 無理もない、これが戦場デビューの、しかも気弱なツバサであれば、弾を使い切る前に戦死しなかった だけでも上出来だ。 「母艦で補給してこい!皮肉だがこの戦場ではボールの砲撃が頼りだ!」 「はいっ!」 反転して母艦マゼランに向かうツバサのボール、ジャックとビルは追撃を防ぐべく援護に入り、オッゴを狙い撃つ。 他の隊も同じ判断だった。ビーム攪乱膜を使われた以上、あの化け物の周辺ではボールの砲撃が頼りだ。 いくつもの部隊が合流し、オッゴに対するジムと、モビルアーマーに攻撃を加えるボールの群れに分かれる。 幸いあのデカブツ、さすがに機敏さは無いようだ、ボールの機動力でも十分にとらえられるだろう。 事実、ほどなくボールはモビルアーマーを包囲しつつあった。 が、バルカンの砲門を開いたモビルアーマーは、意外ともいえる細かな弾幕で次々とボールを打ち落とす。 それでも巧みな機動で、一機のボールがモビルアーマーの側面を確保し、砲撃を加えんとコックピットを狙う。



458:通常の名無しさんの3倍
17/07/21 00:09:39.61.net
支援

459:三流(ry
17/07/21 00:09:45.45.net
その瞬間、信じがたい事が起きた。
モビルアーマーはその左腕を動かし、そのボールをわし掴みにする、動いてるボールを、だ。
そして球技の投球のように振りかぶり、そのボールを投げ捨てる。吹き飛んだボールは何と、
側にいた別のボール部隊に次々に激突、まるでビリヤードのように跳ね返り、当たったボールすべてが爆発した。
その信じがたい行動を目の当たりにした誰かが、通信で呟く。
「ニ・・・ニュータイプ、かっ!」
予知能力やテレパシーを有し、目で見ずとも周囲の状況を把握、念動力さえ使うと言われるエスパー、
もしそんなものが存在するなら、今の神業も十分に説明がつく。
そして、そのモビルアーマーは、そんな悪い予感を確信させるように無双を始める。

ボール部隊が苦戦とみるや、そのフォローに入ろうと突っ込んできたのは2隻のサラミス。
モビルスーツと違い、これだけの巨体なら戦艦や巡洋艦の砲撃でも命中は容易だ、艦砲のエネルギーなら
ビーム攪乱膜を貫いて撃沈も可能と判断したのだろう。
だが甘かった、モビルアーマーから先手を打ってミサイルランチャーが発射される。3発放たれたその弾は
曲線を描き、正面から突進するサラミスの横腹に食らいついた、瞬く間に爆発する2隻のサラミス。

遅れて突撃するのは旗艦であるマゼランだった、サラミスが瞬く間に散った以上、もう後戻りはできなかった。
殺られる前に殺る、戦艦の火力で撃たれる前に沈める、メガ粒子砲を赤い悪魔に向けて放つ。当たれ、当たってくれ!
願いむなしく特大ビームはモビルアーマーの頭をかすめる。ビーム攪乱膜の影響もあっただろうが
サラミスが撃つ前に撃たれた焦りが、砲手の照準を狂わせた事実もあった。
その返礼とばかりに、モビルアーマーのクチバシが開く。黄金の光が灯り、瞬時に強力なレーザーが吐き出される。
その咆哮は周囲のビーム攪乱膜を薙ぎ払い、マゼランの甲板から上を嘗め尽くし、吹き飛ばす。
あわや体当たりかというほどの近距離を、炎上したサラミスとモビルアーマーが交錯する。
操縦者も指揮官も焼き尽くされた戦艦はそのまま横を向いて爆発、炎上する。

わずか10分ほどの間に多数のジムやボール、巡洋艦2隻、そして旗艦の戦艦1隻がこの戦場から消滅した。
その恐るべき破壊力、パイロットの技量に、連邦軍の戦士たち全員がほぼ凍り付いていた。
例外のうちの一人が通信に向けて絶叫する。
「ツバサ!ツバサ・ミナドリ二等兵!応答しろーっ!!」
ジャックが叫ぶ。先ほど吹き飛んだマゼランは、その直前にツバサが補給に向かった戦艦だった。
どうか無事でいてくれ、その願いに対する通信は・・・無言。またひとり部下を失ったのか・・・

460:三流(ry
17/07/21 00:12:24.24.net
「ニュータイプ、赤いモビルアーマー・・・まさか、こんな戦場に!?」
誰かが発したその通信に、連邦兵の多くがひとつの事実を認識する。赤い機体を扱うことで有名な
ジオンのエースパイロット、この手薄なEフィールドに、なんという恐るべき配置を敷いたのか!
「一時後退して、部隊を再編するっ!」
戦死した隊長に代わる隊長代理が撤退を命令する。一斉に撤収するジムやボール。艦もすでにサラミス3隻しかない
全員が補給し、部隊を再編するまで多少の時間は要するだろう。
しかしそもそも敵がビーム攪乱膜を使う以上、実弾兵器の装備は不可欠だった。バズーカやマシンガンを持ってこないと
冗談抜きであの赤い悪魔に全滅させられる危険すらあった、撤収の判断は大正解だったのだ。

「ビル、俺の分も頼む!」
「隊長は?」
「奴を見張っている、待っているぞ。」
そう告げると、ジャックは先ほどマゼランが爆発した地点に向かう。戦艦が爆発したなら破片も多く、
身を隠すには最適だろう。しかしビルはもうひとつの目的にも気が付いていた、だから短くこう答える。
「アイ、サー!」
撤収する仲間を追うビルのジム。後ろに赤い悪魔を感じながら、待っていろ、と闘志を燃やして。

手ごろな破片の後ろに隠れたジャックは声をかけ続ける。
「ツバサ、応答しろっ!誰か、生存者はいないかっ!・・・」
返信はない。マゼランは完全に爆発したのだ。そのエネルギーは戦艦全体を包んで余るエネルギーを発して散った。
生存者がいると考えるほうが不自然だろう。ジャックはヘルメットを上げ、ぼやく視界を直すべく目を拭った。
やるべきことはある、敵の行動を注視し、駆けつける仲間に報告する。この短いインターバルに、
敵が罠を仕掛ける可能性は十分にある。
しかしジャックが見たのは、それとは別の意味での敵の脅威となる行動だった。

461:三流(ry
17/07/21 00:14:37.55.net
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
過呼吸にあえぎながら、赤いモビルアーマー、ビグ・ラングのコックピットで、オリバー・マイ技術中尉は
自らの仕事、試作兵器の評価をしていた。
「ビーム攪乱膜は極めて有効、しかし、ジェネレーターの出力にふらつきを認む。これはひとえに
パイロットの技量不足に起因するものと思われる・・・」
初めての実戦、殺すか殺されるかの戦場に、戦力としての参戦。それでも彼の本文は評価試験なのだ。
たとえ最終決戦でも、のちに生かすデータがなくても、彼は実戦の中で得たデータを言葉で記録する。
同時に彼は、このビグ・ラング本来の任務を遂行する。下部の巨大な格納庫にオッゴを収納し、兵装を補給、
負傷した部分を溶接し修理、次々と船内に収納し、補給、修理して船外に出す。
そう、このビグ・ラング本来の目的はオッゴの補助兵器なのだ。ただ完成間近で開発が断念され、
最終決戦用にビグロを連結、牽引させることで一応の兵器の体を取った、まさに急造兵器だった。

それを考えれば、彼のここまでの戦果は大健闘と言えた。母艦ヨーツンヘイムを守るべく3隻の敵艦を
破壊したのを皮切りに、この戦場に到着してからも多数の戦艦やモビルスーツを仕留めてきた。
巨大な格納庫をもつビグ・ラングは、エネルギーや格納空間のキャパシティが非常に高い。それを兵器に転用すれば
超強力なメガ粒子砲を発することも、高性能なランチャーやミサイルを多数搭載することも可能だ。
その火力と攪乱膜に助けられ、戦場初心者の彼がここまで戦い抜くことができた。
しかし幸運は長くは続くまい、とも確信していた。おそらく敵は実弾兵器を補充してくるに違いない。
そうなればこのビグ・ラングは巨大な的でしかない、撃沈されるのは火を見るより明らかだ。
それでも彼に迷いはない、彼の周りにいるのは紙装甲のモビルポッドを操る少年兵なのだ。
彼らに比べて、強力な装甲と兵器を持つ機体に乗る自分は何と幸運なことか。
ならせめて彼らを支援する、それがこのビグ・ラングの役目なのだから。彼らを一人でも多く生還させる、
その為にたとえ自分が散ることになっても・・・幾人ものテストパイロットの死を見てきた彼は、
いま自分がその立場にあり、その覚悟さえも備えつつあった。

補給工場となったモビルアーマーを見て、ジャックが呟く。
「なんてこった、移動補給基地だったのか、あの化け物が!」
この空間にジオンの艦艇はいない、オッゴがもう補給を受けられないだろうという連邦軍の思惑すら、
この赤いモビルアーマーに破壊されてしまった。
だが出来ることはある、こっちはその事実をつかんだ、再決戦の前に仲間にそれを伝えれば、油断や慢心からの
死と敗北を減らすことができる。ジャックは味方を待ちながら、通信の準備をする、言葉を決める、勝つために。

やがて連邦軍の部隊が光の点となり見え始めた。一気に距離を縮める彼らに通信をすべく、言葉を発しようとしたその時
別の回線から通信が飛び込んできた。
「一般回線」に。

―こちらア・バオア・クー司令部、すでに我に指揮能力なし、残存の艦艇は直ちに戦闘を中止し、各個の判断で行動すべし―


12話でした。いやぁマイさんすっかりニュータイプ扱いです。まぁあの戦果じゃぬべなるかな(プロホノウ風)

462:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/21 15:53:07.31 1rpQ3SPnf
お待たせしました。続きを投下しますね。

皇女の戦い 第四話

 それは全身がダークグレーの装甲に包まれたMSだった。
僚機同様にステルス機能を宿していたその正体は強靭としか言いようのない姿をしていた。
全身に緑色の小型・板状スラスターが埋め込まれているのも相俟ってどこか冷ややかな印象を与える。
肩と太腿には太めのマッシブな装甲、身の丈程もあるバスターを軽々と持つ腕と脛は程良い太さなのが体型的なアクセントになっている。
兜のような頭部は簡単に貫かせてはくれないような硬さを持っていた。
「流石ガンダムファイターの端くれだな。皇女が参戦するというからお飾りと思っていたら......国を背負って立つだけのことはあるか...」
どこか中性的な声はまるで獲物を狙うかのような響き......
MF内のマリナには音声通信だけで相手の姿こそ見えないが...
冷たく蒼いバイザー状の頭部メインカメラ、中東の太陽に照らされて艶を見せる装甲はパイロットの威圧感を伝えるには十分な外観だ。
「引いて下さい...あなた達との戦いは決して望むものではありません...
私が行くべき場所は知っているのでしょう?」
マリナが感情を訴えるように下げたままの両腕を広げれば、華奢な機体も同じ動作をする。しかし...

「ふふふ、そんな温いことを言っても無駄さ。......お前達、絶対に手出しはするんじゃないよ。」
釘を刺すような声に僚機二体はじっとして動く気配を見せない。
荒くれ者達を従わせる辺りかなりの手練れだと悟ったマリナは口をきっと結ぶ。

463:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/21 15:56:16.83 1rpQ3SPnf
機体は猛スピードで接近、間一髪のところを避けたマリナのユディータ。
しかし、見た目から想像できない程の滑らかなモーションで方向を変えると構えた巨砲を打ち出していく。
「ぐっ!」意外な動きに戸惑ったか反応が遅れたマリナは胴体に


464:その一撃を喰らってしまった。態勢を崩し後方に押しやられそうになるのを何とか踏み留まるマリナ。MFに守られていても、大きな熱が体を襲ったことには変わりない。だがいくつものファイトを経験した彼女は耐えることに徐々に慣れていたためしっかり敵を見据えて集中力を即座に取り戻し、背中の弓に手をかける。(こんなことに戸惑っていたらファイトには勝てない...)爆発性の実弾によって機体の胸部と腹部から灰色の煙が立ち上っていく。ビームではないとはいえ威力は侮れない。ガンダムの装甲が比較的頑強だったため少し焦げた跡がついたのみに留まる。それを見るや敵の声は少し面白くなさそうに「見た目によらず結構な装甲だね。まあすぐに潰すさ!」(今しかない!)瞬時に次の射撃に入ると同時にマリナの矢が迎え撃つ。一気に三本程放つことで互いの武器は相殺され、煙が立ち上る。ユディータはその直前敵の僚機の肩を蹴る。しかし......「......っ!」自身の足に強い力を感じて唇を噛む。爆炎と煙の中から濃いグレーの腕がユディータの脚を掴んでいたのだ。「逃がさないよ!アザディスタンの皇女様。」「あなたは何故こんな真似を...」「なぜって?勝つ為さ、それしかないだろう?」「きゃ、きゃあああああ......!!」ユディータを逆さづりにすると強いパワーで脚を締めていく。このままでは機体だけでなく、マリナの脚も折れてしまうだろう...「いやぁぁぁ......」蹂躙する力に比例して段々か細くなっていく声...意識は痛みと痛覚だけに支配されそうになる......「もう無駄な足掻きをする必要はないよ!楽にしてやるよ、皇女様!」暗灰色の敵は新たにバスターを向けて...



465:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/21 15:57:55.71 1rpQ3SPnf
「いっぱい探して集めてきたんだよ。」

...あどけない少女の声......赤や白、様々な色で繋がれた花飾り...
色濃くマリナの心に浮かぶ...
(だめ......あの子と...シーリンと、国のみんなに誓ったから......
こんなところで裏切ったらみんなに......恥ずかしい......)


力を振り絞り矢を強く握ると、逆さに見える敵機の不遜なメインカメラ目がけ三つの矢が連続で風を破るように躍りかかった......
「がはっ!」敵は火花を頭部から出しながらグラりとよろめきユディータを離した。
「おのれっ、」

何とか体勢を立て直したユディータ。
「はあ、はぁ......」まだ足に敵に圧迫されているような感覚が残るも長い脚をすっと開き、凛として新たな矢を構えるマリナ。
「絶対に......勝つ......」
皇女の碧い瞳は敵を射抜くように見据えていた。

466:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/21 16:01:04.42 1rpQ3SPnf
「こっちもまだ終わらないよ!」
モニターをやられてもまだ一定レベルの視界が確保できる程強固に作られているカメラ。
そして、かなり戦い慣れているのか咄嗟の事態にもすぐに元の調子を取り戻した敵のパイロット。
弾丸を打ち出すも、動きを見切り瞬時に避けながら矢を放ち接近するユディータ。
「ぐっ!」グリップを握っていた指を射られたショックでバスターを落としてしまう...
拳を突き出し先程攻撃した胸部を狙おうとする敵機。しかし...
すっと掴んだ敵の腕部を柔軟なモーションで捩じって落としていくユディータ。
落ちていく敵の機体...しかし何とか機体を上下回転させ元の態勢に戻ったその時、無数の矢が堅牢な胸部の装甲に舞い降りて鋭角な傷を与えていく。
相手が思わぬ猛攻にじっと動作を止めたのを見計らったマリナはそのまま飛んで行った......
「いいんですか?あいつを追わなくて?」僚機のパイロットの問いかけに対し
「いいさ。私は他のルートでいくよ。決戦の地にね。」
「パージ、忘れないで下さいよ。」「あ、わかってるさ。」
灰色の巨人の主はじっと華奢な機体を見つめていた。
「あれだけの力があるとはね......負けられないね。」


今日は以上です。
日にちが空いてしまってすいません。

今更ですが、マリナの描写はファイター設定にしたのでアニメとイメージが違ってしまうと思いますが皆さんのイメージを裏切ることのないように彼女らしくしていきたいなと思ってます。

それではまた。

467:三流(ry
17/07/22 01:07:06.08 lmBsZLjX0.net
なんか私だけになってしまった・・・みんなどこ行ったんだよー




MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十三話 叫ぶ宇宙


―繰り返す。こちらア・バオア・クー司令部、すでに我に指揮能力なし、
 残存の艦艇は直ちに戦闘を中止し、各個の判断で行動すべし―

敵も味方も固まっていた。通常回線から聞こえるその通信が意味するところを、信じられないがゆえに。

停戦命令。このア・バオア・クーでの戦争終結を示唆する、そしてこのジオン独立戦争そのものの
終結を意味する宣言。この戦場はジオンにとって、総力を結集した最終防衛線であったことは
連邦、ジオン共によく理解している。そこが墜ちた、つまり向かう先は、終戦―

このEフィールドにおいて、その事実に対する受け止め方は、連邦、ジオンで全く違っていた。
ジオン兵にとって、敗戦の足音はここ最近、日々大きくなっていた。その時がついに
来てしまったのか。覚悟はしていたが、やはり無念ではある。
が、これで戦争は終わる。どうにかこうにか自分たちは生き延びたのだ、との安堵感もある。

対する連邦軍は違っていた。自分たちは戦争に勝っていない、このEフィールドにおいて。
戦闘艦4隻を含む多数の仲間が散っていった、その敵を討つために武器弾薬を補充してきたのに
自分たちの知らないところで勝手に戦争が終わってしまっていたのだ。
ましてやこのEフィールドに投入された新兵たちは、その誰もがこの戦争で肉親や友人を亡くしてきた。
全てジオンの都合だ。コロニーを落としたのも、地球に侵略して略奪されたのも、今さっきまでこの戦場で
多くの仲間を焼き尽くされたのも、すべてジオンの独立したいというワガママのもとに実行された非道、
この上戦争終結までジオンによって決めつけられてしまうのか・・・誰もがやるせない思いにとらわれていた。

それはジャックも同じだった。故郷を滅ぼされ、居場所を消され、兄貴を、エディさんを、指令を殺され
はじめての部下3人をソーラレイで焼かれ、ついさっき、もう一人の部下もいなくなった。
それで都合が悪くなったら降伏か!どこまでジオンのワガママで俺たちを踏みにじれば気が済むんだ!
合流したビルからマシンガンを受け取ると、ジャックは憎しみに満ちた目で、赤いモビルアーマーを睨む。

468:通常の名無しさんの3倍
17/07/22 01:09:13.52 4IkYhA59O.net
規制回避

469:三流(ry
17/07/22 01:09:20.64 lmBsZLjX0.net
―敵を褒めるんだよ―
はっと我に返る、尊敬している兄貴からの言葉を思い出し、その言葉を心に染み渡らせるジャック。

ヅダは実弾を携行していない状態で、ボール部隊に果敢に向かってきた。
基地攻略でのザクレロは勇敢だった、艦隊に身ひとつで特攻し戦果を挙げた。
ソロモンの銀のゲルググは、己の部隊を鍛え上げ、それが全滅した時に悲痛な叫びをあげた。
そして目の前の赤いモビルアーマー。火力はすさまじく、ビーム攪乱膜もある。
しかし冷静に考えれば、一度連邦部隊が撤収した時点で、実弾兵器にさらされることくらい理解しているはずだ。
それでもアイツは逃げない、オッゴを修理し、彼らをかばうべくこの戦場に中心に居座っている。

彼の心から、敵愾心がすっと消えるのが理解できた。停戦命令が出た以上、戦いは終わったのだ。

「くっくっく・・・」
「へへへへへ


470:、へっ、へへへっ!」 通信から聞こえる笑い声にジャックはそのとき気付いた、下卑た、憎しみに満ちた笑い声。 それは連邦軍兵士の憎悪を音にした、つい先ほどまでジャック自身も心に湧き上がっていた感情の音。 それは一人や二人ではなかった、対峙する連邦軍のジムから、ボールから、その全てから敵に向かって 刺すような殺気が向けられていた。 「おい、ビル・・・」 部下を制しようとしたその瞬間、ビルのジムは機動をかけ、飛ぶ。敵の鼻先にいるオッゴの目前に。 ジャックは理解した、彼は赤く燃えさかる憎悪にとらわれている、恋人を殺された悲しみが 行き場を失ったことが、彼を狂気に駆り立てる。ビームガンを抜き、目の前のオッゴに向ける。 「ノーサイド、ってか!?」 ラグビーの試合終了を意味する用語。ホイッスルが鳴ったら、その時点でサイド(陣営)は無くなる。 共に同じフィールドで戦った相手をたたえる時を迎える。 しかしこれはスポーツではない、戦争だ、ましてや連邦兵にとって、これは復讐戦、敵討ちなのだ。 「レフェリーは、ここにゃいねぇよおぉっ!!!」 口上を述べたのは、ビルの最後の良心だったのかも知れない。最初に銃を向けたのだからさっさと逃げるか 反撃でもすれば、自分が無抵抗の相手を殺すことは無い、だが彼の希望は叶わなかった。 無抵抗の相手に引き金を引き、それがオッゴに直撃し爆発、ひとりの少年兵が終戦後に命を落とした。



471:三流(ry
17/07/22 01:11:01.79 lmBsZLjX0.net
それを合図に、連邦軍が一斉に攻撃を開始する。ボールがオッゴを打ち抜き、ビグ・ラングに弾丸が集中する。
「ああっ!待ってくれ、停船命令だ、撃つなーっ!」
敵兵の声が通常回線から響く、その発信源はすぐに分かった。目の前の赤いモビルアーマー。
「何が停戦だ!さんざん俺たちの仲間を、焼き殺しておいてーーっ!!」
憎しみと悲しみに満ちた返信が返ってくる、もう理性は働かなかった。ただ殺戮の意思だけが連邦軍を支配する。

ジャックは皆を止められなかった、元々そんな権限もない、しかも戦端を開いたのは自分の部下、言い訳は効かない
開始された戦闘の責任をとる必要ができてしまった。機動をかけ、悲しい戦闘に突入する。
「どうしてだーーーーっ!」
モビルアーマーのパイロット、オリバー・マイの絶叫が通信に響く。ビグ・ラングは再び砲門を開き、
ランチャーを連射する、そのひとつがまっすぐビルのジムに向かっていく。
ビルは動けなかった。自分がしでかしてしまった事への後悔と、自分が打ち抜いたオッゴのパイロットの悲鳴が
通常回線からはっきりと聞こえていたから。あれは・・・子供の声だった。その行為に対する罰が、
ランチャーの弾丸に姿を変え、ビルのジムを爆発に包んだ。

「バカ野郎・・・っ!」
ビルの無抵抗な死を見てジャックは悟った、彼が似合わないことをして後悔していたことを。
それが恋人サーラが望んだ復讐ではなかったことを。
「あの世で、幸せに・・・なりやがれっ!」
涙を振り払いジャックのジムが飛ぶ。初めてできた5人の部下はすべていなくなってしまった。
もう何もない、あるのは後始末だけ。この戦場を支配してきたあのモビルアーマー、あれさえ破壊すれば
連邦兵の復讐心も和らぐかもしれない、もう他に方法は考えられなかった。

戦場は、地獄と化していた。

停船命令が出た時点から、すべての機体の通信はすべて開かれる。敵味方の報告や指示を聞き逃さないために。
だが戦闘継続中に開かれた通常回線からは、敵味方の絶叫が、悲鳴が、断末魔が、泣き叫ぶ声が
否応なしに飛び込んでくる、ほぼ全て少年の声で。

472:三流(ry
17/07/22 01:12:25.54 lmBsZLjX0.net
「助けて、死にたくないー・・・」ブッ
「お母さん、お父さーーーんっ!」
「墜ちろ、墜ちろ、おちろおぉぉぉっ!」
「嫌あぁぁぁぁぁっ!いやあぁぁぁぁぁぁぁぁー」ブツン
「ははは・・・あははははははは」ザッ、ザー・・・
「なんでだよ、もう終わったじゃないか、もう嫌だ、いやだイヤダ嫌だいやだ・・・」
「死ね!死ね死ね死ねえーーっ!」ブツン!

幼い少年たちの、狂気に満ちた声が響く戦場、それが尚更狂気を呼ぶ。彼らは死を目と耳で感じながら
泣き叫び、生存のための戦いに身を投じていた。理性も戦術もフォーメーションもない、
味方同士激突して四散する機体すらあったのだ。

ジャックはそんな中、赤いモビルアーマーに狙いを定めていた。向かってくるオッゴをいなし、銃撃をかわし
下を取るべく機動をかけていた。あの機体は下部がオッゴの収納庫であることを知っている、
そこがおそらく奴の弱点だろう。簡単にはいかないが、そこに辿り着ければ・・・
だが、それは彼以外のジムが先に実行する。バズーカを構え、モビルアーマーの腹を狙う。

「スカートの下!」
他とは違う、平静さを保った女性の声が通信に入る。その瞬間、ジムは銃撃を食らい爆発する。
「大尉、大佐!」
戦場外から2機のモビルスーツが突入してくる、青い機体ヅダと銀色のゲルググ!
「世話を焼くのは慣れていても、焼かれるのは慣れていないか。」
女性の声を発するヅダはモビルアーマーの横で止まり、ゲルググはそのままオッゴの前まで飛び出す。
「待たせたな、ヒヨッコ共!」
そう言うとビームライフルを2連発する、その先にいた2機のボールが爆散する。
「友軍の脱出まで、このEフィールドを維持する!」

473:三流(ry
17/07/22 01:13:22.00 lmBsZLjX0.net
ジャックは反射的にゲルググに突進していた。あの声、間違いない。ソロモンで戦ったあの指揮官!
速度を止めずにゲルググに向かい、シャークペイントの盾を叩きつける。
「貴様!この盾はソロモンの・・・」
「連邦軍、ジャック・フィリップス少尉だ!」
「ヘルベルト・フォン・カスペン大佐である!」
戦場では珍しい口上を述べ、2機のモビルスーツの戦いが始まった。盾を起点としたアンバックから
縦横無尽に動くジャックのジムと、ビーム長刀を自在に振り回し応戦するカスペンのゲルググ。
何度も打ち合い、離れ、そしてまた接近。モビルスーツ戦の集大成のような激しい機動戦と
その前の二人の名乗りは、戦場での決闘をイメージさせた。

戦場から悲鳴が消えていた。二人の堂々とした戦いぶりに感化され、冷静さを取り戻し
少年から戦士に戻っていく両陣営のパイロット達。

それと入れ替わるように、戦場に似つかわしくない「歌」が、通常回線から流れ始めていた。

―夢放つ遠き空に、君の春は散った。最果てのこの地に、響き渡った―




13話でした。少年兵の悲鳴を書いていて自分で鬱になってしまった・・・
で、また夢轍です。この戦闘にこの曲は絶対外せません。

474:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/22 12:09:57.83 y1Nfo/Co0.net
すいません、専ブラ?の方に四話目は書いたのですが、非専ブラには反映されてなかったので念のためここでも書かせてください。

皇女の戦い 第四話

 それは全身がダークグレーの装甲に包まれたMSだった。
僚機同様にステルス機能を宿していたその正体は強靭としか言いようのない姿をしていた。
全身に緑色の小型・板状スラスターが埋め込まれているのも相俟ってどこか冷ややかな印象を与える。
肩と太腿には太めのマッシブな装甲、身の丈程もあるバスターを軽々と持つ腕と脛は程良い太さなのが体型的なアクセントになっている。
兜のような頭部は簡単に貫かせてはくれないような硬さを持っていた。
「流石ガンダムファイターの端くれだな。皇女が参戦するというからお飾りと思っていたら......国を背負って立つだけのことはあるか...」
どこか中性的な声はまるで獲物を狙うかのような響き......
MF内のマリナには音声通信だけで相手の姿こそ見えないが...
冷たく蒼いバイザー状の頭部メインカメラ、中東の太陽に照らされて艶を見せる装甲はパイロットの威圧感を伝えるには十分な外観だ。
「引いて下さい...あなた達との戦いは決して望むものではありません...
私が行くべき場所は知っているのでしょう?」
マリナが感情を訴えるように下げたままの両腕を広げれば、華奢な機体も同じ動作をする。しかし...

「ふふふ、そんな温いことを言っても無駄さ。......お前達、絶対に手出しはするんじゃないよ。」
釘を刺すような声に僚機二体はじっとして動く気配を見せない。
荒くれ者達を従わせる辺りかなりの手練れだと悟ったマリナは口をきっと結ぶ。

475:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/22 12:13:32.75 y1Nfo/Co0.net
埋め立てですか、という表記のエラーが出たのでここでのレス(専ブラではない場所の)は一旦中断します。

スレ汚し失礼しました。

476:三流(ry
17/07/22 18:37:19.26 4IkYhA59O.net
>>405さん あ、それ連投規制です。 他の誰かが書き込むと続きが投稿できますよ。 私は1レス投稿したあと自分のガラケーで割り込ませていますw



478:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/22 20:31:43.80 IShocrp/b
教えて頂いてありがとうございます。
 規制だったのですね。

 不勉強なものでw
 自分でももっと色々2chのこと調べてみます

裏技もメモさせて頂きましたw

僕の場合、ここに書くと専ブラの方のスレで僕の文がダブってしまうので、
このレスを最後こ非専ブラに書くのは止めようと思います。
重ね重ね失礼しました。

479:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/22 20:23:43.85 y1Nfo/Co0.net
教えて頂いてありがとうございます。
規制だったのですね。

不勉強なものでw
自分でももっと色々2chのこと調べてみます

裏技もメモさせて頂きましたw

僕の場合、ここに書くと専ブラの方のスレで僕の文がダブってしまうのでここに書くのは止めようと思います。
重ね重ね失礼しました。

480:通常の名無しさんの3倍
17/07/22 22:05:42.71 5CPOJyZN0.net
専ブラではない場所とか専ブラの方とか一体どこの話なんだ…

481:通常の名無しさんの3倍
17/07/22 23:24:44.77 7OBY2cGa0.net
ちょっとわからんな
ひょっとしたらなんだったっけ、一昔前にできた2chのそっくりさんサイトと二重投稿になってるってことなんだろうか?
だとしたらだけど普通に専ブラ1本で投稿すりゃいいだけではないのか
違ってたらすまん、そして職人氏方投稿乙

482:三流(ry
17/07/23 11:16:09.74 NO7CT/iv0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第十四話 心の青山


戦場は整然とした機動戦へと変貌しつつあった。オッゴが小隊単位で編隊を組み、
ジムはボールと連携して狙撃と格闘戦を入れ替える。他の戦場から駆けつけたザクやリックドムは
オッゴの隙間から彼らを支援し、巨大なモビルアーマー、ビグ・ラングを守る。
その戦場の最中心で、激しく機動し、戦う2機のモビルスーツ。
鮫の顔が描かれた盾を持つジャックのジムと、ジオン軍カスペン大佐の銀のゲルググ。
その激しい戦いに、誰もが横槍を入れることはできなかった。誤射して味方を討つ危険もあるし
なにより見惚れるほどの見事な機動戦、彼らはちょっかいを出すのではなく、二人に負けない
戦いをしたいと思い、他の敵と対峙する。

「やるな小僧!、だがそれだけの研鑽を経ていながら、何故だ!」
寡黙なカスペンが珍しく敵に問う。通常回線が開いている現在、間近で戦うジャックの存在は
息遣いまで感じられる。
「何がだ!」
ビームサーベルとビーム長刀で鍔迫り合いをしながらジャックが返す。
「停戦命令は聞いているはずだ、貴様ほどの技量を身につけていながら何故戦う、道理はわきまえぬか!」
それは説教のようでもあり、現在の状況にいたる経緯を説明させる質問でもあった。それを察してジャックが返す。
「道理?俺たちの居場所を、大切な人を奪い続けたお前たちがそれを言うか!」
自分の意見より、むしろ戦場の味方の本音を代弁するつもりで返し、続ける。
「コロニー落とし、地球侵略、各所の戦争、お前らの独立のためにどれだけの人が居場所を失ったと思ってやがる!」
鍔迫り合いを打ち払い、ゲルググの盾を蹴って距離を取る。しばし対峙し、カスペンが返す。

483:三流(ry
17/07/23 11:17:28.52 NO7CT/iv0.net
「青臭いな、小僧。」
思わぬ返答に顔がこわばる。反省や謝罪など期待してはいなかったが、その言葉には黙っていられない。
「なんだと!?」
「居場所とは作るものだ・・・我らスペースノイドが、常にそうしてきたようにな。」
「作る・・・?」
その言葉を咀嚼するのには、ジャックにはしばらくの時間を要した。
「人生至る所に青山あり、我々スペースノイドの指針となる、東洋の言葉のひとつだ。」
骨を埋める場所はどこにでもある、生まれ故郷にこだわらず、どこにでも行って活躍しなさい、という意味の諺。
「宇宙という過酷な環境、真空の恐怖、衣食住の確保、そんな敵と戦い続けて、我々はジオンという
『居場所』を築きあげてきたのだ、先祖から与えられたのではない、自分たちで作り上げたな。
その居場所の独立を願って、なにが悪いというのだ?」
カスペンの口調は、いつのまにか年少者を諭すものに代わっていた。素晴らしい技量を持つ若者なればこそ。

「我々が殺戮をしていないとは言わん、恨まれるのもぬべなきこと。だが、それに溺れて未来を見ぬなら
貴様もそれまでの男でしかないぞ。」
言葉を聞くジャックは、それが憎むべき敵の建前でないことを感じ取っていた。それは目上の人の言葉、
かつての兄貴に教えられた言葉を聞く感情と、すごく似ていた。
「居場所がなくなったのなら探せばよい、作ればよい。失ったことを嘆くばかりでは何も変わらぬ!」
「・・・余計なお世話だ!」
盾を振って機動、スラスターを噴射し、ゲルググの右下を取り、サーベルを振る。
憎しみはもともと消えている。ただ、彼の言葉を連邦の兵士はどう取っただろうか、聞く余裕はあっただろうか。
そのサーベルを盾で止めるゲルググ。

「今は戦っても構わぬ、だがそうするならその恨み、決して未来に持ち込むな、貴様は貴様の先を見ろ!」
ビーム長刀を回転させ、ジムに切りかかる、ジムは盾で受ける、シャークペイントの横面が焼け、傷つく鮫。
もう言葉はいらない、言いたいこと、言うべきことは言った。あとは戦いが未来を決めるだろう。

―果て無き夢轍、照らす我が運命、燃え尽きること知らず、どこへ向かうのか―

回線から流れる歌が、少年戦士たちの心に染みる。生きたい、自分たちの向かうところを知るために。
それでも戦闘を止めることはできない、ここは戦場であり、彼らは未熟なれども職業軍人なのだ。
停戦命令の後でも、味方が危険なら身を呈して戦う、それが兵装を持つ国家軍人の業。

484:三流(ry
17/07/23 11:19:04.68 NO7CT/iv0.net
「ぬぅっ!」
カスペンが左腕を操縦桿からすべらせ、離す。彼は左手が義手であり、激しい操縦を繰り返す実戦において
それが操作ミスを引き起こす可能性は常にあった。普段はともかく、目の前の若者はこのスキを
逃しはしないだろう。
「もらった!」
ジャックがマシンガンを向ける。その時1機のオッゴが、スキを見せたカスペンのゲルググを庇う様に立ちはだかる。
「大隊長殿ーっ!」
芯の通った少年の声を聴き、一瞬ジャックは引き金を引くことをためらった。
2機を仕留める絶好のチャンスだというのに・・・。刹那を置いて意を決し、引き金に手をかけるジャック。
「馬鹿者おっ!」
その時、カスペンのゲルググがオッゴを掴み、反転して自分の後ろに回す。その勢いでさらに反転し、
両手を広げてオッゴを庇うゲルググ、そこに殺到するジムのマシンガン。

「ジーク・ジオ・・・」
マシンガンを全身に受け、最後に主の絶叫を放ち、爆発する銀のゲルググ。
ジャックは常から狂信的に聞いてきたその言葉が、今回だけは全く違った意味に聞こえていた。
ジオン、彼らにとってそれは『無から懸命に築いてきた彼らの居場所』だったのだ。だからジーク(万歳)と唱える。

―悲しみの地図なら、あまた風に散って、故なき日々の地図も、瞬く彼方よ―

彼を悼むようなフレーズの歌が、回線から流れる。ジャックは心に染みる感情を押し殺して、ビグ・ラングに向かう。



1


485:4話・・・あああ寡黙なカスペン大佐をおしゃべりなキャラにしてしまった。 たぶんあと2話、最終話とエピローグを残すのみとなってしまいました。彼らの戦争の結末がどうなるか 見てる人がいたらお楽しみに・・・いるのかなぁw



486:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:24:36.15 dhSrnXZb0.net
お二方乙です。
久しぶりに覗いたらえらく更新してて驚きです。
自分も投下します。

―艦これSEED 響応の星海―


夢。
夢を見た。
それは紅く、鮮やかな夢。真っ赤に染まった視界の中で、燃えるソラに囚われている自分が、誰かの夢と誰かの命が終わることを知った。それはきっと抗えないことだったのだと諦めて瞳を閉じる、そんな夢。
そんな夢を見たと思い出し、これは記憶なのだと感覚的に理解して、それでも今はそんなことにかまけている暇はないと、キラは考えないことにした。
行かなければ。
それは自発的な欲求、決意。思い耽り、考える時間はいくらでもあって、たくさん迷って、これで良いのかと何度も問うた。
相変わらず成すべきことは判らないけど、やりたいこととできることがあるから、その心のままに戦う道を選んだ。
眼を開く。
確固とした意識に、確固とした意志を入力する。
変わっていく明日を生きる覚悟を、変わらず示し続ける為にも。


夢で見た情景に畏れを抱きつつ、しっかり心に留めて道を征く。そうできるだけの支えが、今の彼にはあった。


「あたれぇ!!」

立て続けに3発、キラの右手に握り込まれたライフルから荷電粒子ビームが射出された。
ストライク用57mm高エネルギービームライフル。モビルスーツ用携帯式荷電粒子砲塔としては最初期のモデルにあたり、
後に【GAT-X102 デュエル】のものと並び地球圏全勢力の火器事情に多大なる影響を与えた名銃であるそれは、今や人間用サイズにまでミニチュア化していた。
ただし吐き出されるビームそのものは本物で、ザフトのローラシア級航宙フリゲート艦の外装をも一撃で貫く威力は健在だ。直撃すれば 深海棲艦にだって通用するだろう。
原理原則など知ったことではない。

「―チッ!」

もっとも、万全であればの話だが。
背部に装備したエールストライカーパック―大型可変翼と4基の高出力スラスター、大型バッテリーパックで構成された高機動戦闘用装備―で最大加速をかけながら敢行した超長距離狙撃は、
ひとまず成功したと言ってもいい。しかし、予想に反してその戦果は芳しいものではなかった。

487:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:26:12.94 dhSrnXZb0.net
高度500mの上空から放たれた三条のビームは、そのどれもが約3km先にまで迫ったターゲット、第二艦隊を襲っていた巨人【Titan】に吸い込まれるようにして命中。
一発は今にも発射されそうであった敵のライフルに、遅れて残り二発は頭部に当たり小爆発を引き起こす。
だがどれも、敵の表面をわずかに削っただけで終わった。
威力不足。
ビームの減衰の激しい大気圏内といえどギリギリ射程内である筈なのに、期待された破壊力は発揮されなかった。

(思った以上に硬い。でもそれよりこっちのパワー不足が深刻だ)

動力系にエラーを抱える今のストライクでは、この距離で戦え


488:ない。 出力が低く、パワーが上がらない。エンジンを始めとした主要パーツは最新式のものに換装されて近代化改修が施されているが、それでも今のストライクの性能は初期型のものにすら劣っている。 ライフルに供給できるエネルギーも通常時の半分を割っており、その威力は泣きたくなるほど低下しているようだ。 接近するしかない。 そう見切りをつけたキラは高度を落としつつ、注意を引く為に更にビームを射かけながらホロキーボードを展開する。 (ぶっつけ本番でと思ってたけど・・・・・・思ったよりあちこちガタがきてる。下手したらフレームも死ぬ) 暗視モードの視界の中で、ようやく此方を敵性存在と認識した【Titan】は、醜くおぞましい巨体の表面で幾つもの火花を散らせながら対抗するようにビームを連射。 五条の閃光が瞬く。 サイドスラスターを噴かして避けようとした。だが瞬時に思い直し、まっすぐ飛行しながら左腕大型シールドで受け止める。まだまだ機体が重い。シールド耐久値も危険域にあるが、避けきれるものではなかった。 外見では判らなかったが『前任者』がよっぽど無理させたらしいストライクの内装はボロボロだ。修理どころかシステムチェックする間も惜しんで戦場にやってきたキラは、中断していたOSの調整を急ぐ。 やっと傷が癒えたのだ。遅れた分は結果で取り戻す。 非我の距離はもう1kmまでに縮まっている。のんびりやってられないなと、衝撃に呻きながら虚空に顕れたキーボードを荒々しくも正確に叩いた。 (ライフルの出力は短射程設定で補う。長時間戦闘ならスラスターは――持続と瞬間加速力を優先、他は軒並み低出力でバランスを取ればいい。駆動系はレスポンス落として延命するしかない) ベストには程遠いが、現状では限りなくベターな修正案。 後は自分の操縦技術でフォローすると割り切った青年は、新たにやってきたビームの雨をバレルロールでかいくぐり急降下、ついで真っ黒な海面を蹴ってミサイルを飛び越える。 海面に激突して自爆するミサイルの爆風に乗って、更に加速した。 次々と機体のパラメータを書き換えて最適化し、一部スペックを落としながらも動きのキレを増していくストライクと同様に、キラもどんどん己の身体が軽くなっていくように思えた。 接触まであと500m、300m。



489:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:32:05.20 dhSrnXZb0.net
またNGワード?
一体なんで・・・・・・なにが引っかかるんだろう

490:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:40:37.66 dhSrnXZb0.net
ちょっと細かく分割して投稿してみます

「これなら!」

ビームライフルを一射。
ザフトの白服を纏い、【GAT-X105 ストライク】を取り込み同化したキラは、生身のまま57mm高エネルギービームライフルのトリガーを引き絞る。
人間の銃撃戦のレンジまで接近してからようやく放たれた光の矢は、先までのものよりずっと細く、速く、漆黒の空を駆け抜けて。
庇うように突き出された【Titan】のボロボロの左腕を貫通して、その奥のライフルのセンサーサイトを破壊した。



《第4話:旧き翼》

491:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:43:06.13 dhSrnXZb0.net
「やった!?」
「まだよ! まだアイツは!」

思わぬ援軍の出現とその戦果に、つい瑞鳳は歓喜の声を上げかけるが、それを榛名が制する。
援軍の最初の一射で【Titan】の狙いが逸れた結果、水蒸気爆発に吹き飛ばされるだけの被害に留まって窮地を脱した榛名は、木曾に肩を貸してもらいながら指摘する。
衝撃で口内を切ったのか、鉄の味がひどい。
まだ照準装置を破壊しただけ、無力化できたとは言いがたい。それに飛んでくるビームも派手な割には威力不足みたいだ。有効打であることには違いないが致命傷には遠い。
状況は巨人と援軍の一対一。
危機的状況から脱し、さっきまでの騒々しさが嘘のように状況に取り残された第二艦隊。しかしだからといって、ここで黙って戦局を見守っていられるほど脳天気の集まりではない。

492:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:45:04.56 dhSrnXZb0.net
「此方も仕掛けます! 響さん!」
「Всё ништяк!!」
「てぇッ!!」

愚かにも此方に背を向けた【Titan】に向けての全力攻撃。
今こそが勝機。
残り僅かな弾ぜんぶ持ってけと、無駄にデカい背中に主砲をしこたま撃ち込んだ。

「ゴォヲヲォァァァァアアアーーーー!!!!??」

前後からの執拗な砲火にたまらず、巨人が耳を覆いたくなる程の甲高い雄叫びをあげる。
戦艦よりも硬い装甲を持つといってもこれは効くだろう。だが、それでも火力が足りなかったのか、全身を穴だらけにされようとも巨人の活動は止まらない。驚異的な耐久性だ。
怒り狂ったかのように巨人が、デタラメにライフルを乱射した。目眩ましにでもするかのように周囲に幾つもの水柱が上がり、榛名達は後退を余儀なくされる。
すると、ゴキャリと嫌な音が響き、巨人の腰部から一対の大型ガトリング砲が跳ね上がった。

493:通常の名無しさんの3倍
17/07/23 11:46:02.36 sw/VWVOY0.net
連投回避

494:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:46:14.29 dhSrnXZb0.net
そんなものまで隠し持っていたのかと驚く間もなく吐き出された弾丸の嵐は、天空からやってきたたった一人の援軍―いや、第二艦隊に合流しようと駆けつけてきたキラを飲み込まんと殺到した。

「危ない!」
「そんなもので!」

青年は空中で両足を忙しなく動かしつつ、ただのブーツにしか見えない黒い軍靴のいたる所からスラスター炎を吐き出した。
重心移動とスラスターを併用した姿勢制御で、必要最低限のエネルギー消費でガトリング砲の掃射をやり過ごす。
鮮やかに弾幕から躍り出た青年は、素早くビームを一射。左腰のガトリング砲を射貫く。
「本体」に比べて柔かったのだろう砲身がグシャリと溶けて、機関部が爆発。左半身がごっそり抉れた。

「オ゛ォォォォ・・・・・・!!??」

ついに、巨人の動きが止まる。
だが次の瞬間、背部推進機関からは爆発でもしたかのように盛大に、青白い炎が轟々と噴き出された。
逃げるつもりか!

「やらせない!」

榛名と瑞鳳にガッチリ固定された響が、すかさず錨を投擲した。
弧を描いて飛翔するそれは【Titan】の右足に巻きつき、その逃走を妨害する。更にサーベルを抜き放った木曾が鎖の上を猛スピードで駆け上がり、跳躍。
同時に目と鼻の先までに肉薄していたキラが、その意図を察してビームサーベルを抜刀。腰だめに構えて最後の加速をかけた。

「これで!!」
「仕舞いだぁ!!」

洋風の実体剣と、荷電粒子を収束させた光刃による斬撃。


前後から振り抜かれた二つの刃が、鎖を振り解かんと藻掻いていた巨人の首を見事に切り裂いた。


断末魔もなにもなく、身体と頭を切断された巨人はゆっくりと崩れ折れる。
【Titan】、討滅完了。
佐世保にとって通算四度


495:目となる巨人との戦闘は、第二艦隊フルメンバーの即興連携攻撃によって、ただの一人の犠牲者を出すことなくその幕を閉じたのだった。 だが、状況はまだ終わらない。



496:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:48:10.30 dhSrnXZb0.net
「・・・・・・なんだ、あれ―戦闘機? まだ来る!!」
「え、あ、ちょっと!?」

キラが上空で何事かを呟き、背中のスラスターを噴かす。そのまま加速していずこかへと飛び去っていった。
響は手を伸ばし呼び止めようとしたが、背後から上がった瑞鳳の悲鳴のような声に、思わず振り返る。

「ッ! 南西から接近する機影! ―なにこれ、さっきの【Titan】より速い!?」
「新手ですか!?」
「反応と形状は航空機タイプだけど・・・・・・数は1、高度200、速度600! サイズ・・・・・・約13m!?」
「なんだ、次から次へと!」

強敵を倒した喜びさえも凍りつかせる、絶望的な報告。
速度600マイル、つまり約1100km/hで迫る影。まだまだ夜は明けずレーダーも使えない状況下、それだけの速度で低空飛行できるのはまず深海棲艦の艦載機しかあり得ない。

(敵の航空戦力が単機で突っ込んできた? それにしたって)

でかすぎるし、速すぎる。
今までに確認されてきた敵の航空機は、大きくて2m前後、速度も大体350マイル程度だ。まったくもって規格外だ。あの巨人のように異常進化した個体なのか。
なんの冗談だ、それは。
弾薬も今度こそみんなスッカラカンで、逃げるにしたってあと1分足らずで追いつかれてしまうだろう。こうなってしまっては自分達にできることはない。
響達は、先程キラが飛んでいった方角を見つめた。
それは、新たな敵が飛来してくる方角でもあった。
いち早く危機を察知して、単身戦いに赴いた彼に任せるしかなかった。

「アイツ一人でやろうっていうのか」

サーベルを抜いたままの木曾が、呆然と言う。
遠くの空で、数条のビーム同士が交錯し、幾つかが衝突しては爆発した。
自分達のあずかり知らぬ場所で、また自分達が置いてきぼりにされて戦闘が始まったのだ。

「くそ、なんてザマだ」
「木曾・・・・・・」

提督から説明は受けたものの、まだ自己紹介どころかまともに会話すらもしていない男に間一髪救ってもらったばかりか、あの敵の対応までも任せっきりにしなくてはいけない事に不甲斐なさを感じているのか、
ギリっと握り拳を固めた。
そう、あの男と会話したことあるのは、このメンツではまだ響だけ。その実力は確かだとしても、プロフィールを知るだけで他人を全面的に信じることは難しいだろう。
ましてや、【Titan】と同一の力を使役する男のことなど。

497:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:50:10.26 dhSrnXZb0.net
そんな彼女に榛名は労るように声をかけ、静かに首を振った。

「仕方ありません、今は彼に任せましょう。・・・・・・榛名達も今は、できることをしなくては。瑞鳳?」
「うん。他に敵は見当たらないよ。動くなら今しかないと思う」
「・・・・・・わかった。借りを返すにしても、まずは生き残らないとな」

パッと、いろとりどりの光が空に瞬いた。
木曾が打ち上げた信号弾と照明弾だ。また無事に合流できることを信じて、キラへと発信したメッセージ。今は自分にできることをしなくては。
そうして第二艦隊は粛々と移動を始める。
目指すは補給コンテナ。今度こそたどり着かなければ、自分達が何のためにここにいるのか分らなくなる。
まだこの海は戦場なのだ。
ならば一瞬たりとも呆けている時間はない。

「単縦陣、面舵40! 第四戦速でこの戦域から離脱します!」

榛名の号令に従い、一同は縦一列になって進行する。先頭が榛名、次に瑞鳳、木曾と続く。
艦隊最後尾についた響は無言で、自然と戦闘が始まった空域を注目していた。
目を見開いて、男の一挙手一投足を観測する。
同時に思い出すのは、二日前の彼の言葉と、先の戦闘行為だった。
知っているのが当然といったニュアンスで発せられた、どこぞのアニメ漫画でしか出てこないであろうキーワードの羅列がまったく嘘偽りでなかったことを、確信する。

(あれが、宇宙軍第一機動部隊の隊長の戦い。宇宙に上がった人類が得た力)

僅かに白みはじめた空で、木曾の照明弾に照らされた敵の姿が、ぼんやり浮かび上がる。
それはT字型の戦闘機だった。
勿論、ただの戦闘機ではない。深海棲艦のように真っ黒でどこか有機的、よくは見えないがコクピットには真っ白な肌の人―これもまた勿論、深海棲艦だ―が乗っている・・・・・・というより一体化しているようだ。
いずれにせよ、やはり初めて目にする敵だ。あれもまた一種の【Titan】なのか。
戦闘機型深海棲艦は、空戦の教本に則ったような単調な機動で旋回し、上面部に搭載された旋回砲塔から荷電粒子の光を迸らせた。
対するキラは鮮やかな宙返りをうってそれを回避。お返しとばかりに頭部の機銃で敵の垂直尾翼を射貫く。
バランスを崩した戦闘機とすれ違った―直後にキラはすぐさま両足を前に向けて逆噴射、一気に減速しつつ振り向いて、すかさず両手でグリップしたライフルで追撃した。
あの【Titan】と同じように空を飛んで、ビームを撃つ。スパイなんてイカしたものじゃないと判っているからこそ思うが、味方になればなんて頼もしいことだろう。


人間と戦闘機による高機動空中戦。目まぐるしく空を駆ける両者にしばし、少女は目を奪われた。

498:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:52:04.88 dhSrnXZb0.net
(人が空を飛べば、あんなことができるんだ)

人型が単身空を飛ぶ。揚力に頼らず、自由に「浮遊」して「飛行」する。
その様はまさに異質としか言いようのないものだった。
水上を駆ける艦娘達も初めて目にする、史上類を見ないもの。
背部、胸部、脚部、肩部。全身いたる所に搭載された高出力スラスターを操って実現するソレは、飛行機ともヘリコプターとも異なる人型のモビルスーツ特有のものとして、
また機動兵器たるモビルスーツが人型である理由の一つとしてC.E. 世界に浸透した飛行様式だ。
実際、C.E.の宇宙では【ZGMF-1017 ジン】が、大気圏内では【AMF-101 ディン】が旧来の戦闘機相手にその運動性で圧倒的優位に立ち、
以降モビルスーツ開発はスラスターの性能と配置が最重要視されるようになったという経緯もある。
特に脚部の複合推進器は、モビルスーツの総合運動性能の4割から5割を占めるとまで言われており、背部のものと並びメインスラスターとして扱われる。
18mの人型ロボットの重量と空気抵抗すらも問題としない高性能小型スラスターの登場が、C.E.の未来を決定付けたと言ってもいい。
そんな背景を持つ「人型の浮遊」を生身の人間が、それも男がやっているのだから、誰にとっても驚くべきことであった。
艦娘と同じように、兵器と同化してその力を振るう、ヒトデナシ。
それが彼だ。

「よし!」
「わぁ!」

小さな主翼に懸架されたミサイルポッドが吹き飛ばされて、響と瑞鳳は揃って小さく喝采を上げた。
2分も待たずして、早くも雌雄が決しようとしている。
圧倒的


499:な旋回能力と、機首方向に依存しない広々とした射界を備えるキラがほぼ一方的に、戦闘機にダメージを与えていた。 敵の速度はなんのアドバンテージにもなっておらず、浮遊と回避機動をうまく使い分けるキラにいいようにいなされていた。 ストライクを駆るキラは今にも止まってしまいそうな程ゆったりと空を舞い、時には倒れ込むようにして撃ちかけられた機銃を躱す。 と思いきや急加速して敵の死角に飛び込み、矢のようにすっ飛んでいく戦闘機めがけて射撃する。 いうなれば通常艦艇と艦娘の戦い、その空戦バージョンといったところか。普段意識しないので忘れがちだが、自分達艦娘も人の形の利点を最大限発揮させて戦っているのだ。 縦長の生き物である人間が、他の横長の生き物・乗り物よりずっと優れている運動性能は、もう無くてはならない大事なパラメーターだ。 人間はもともと水上に立てないし、空だって飛べない。だが、そんなステージで発揮される人型の汎用性は、人間が思っている以上の力を秘めているのだろう。 (しかし・・・・・・それにしたってこれは一方的過ぎないか?)



500:通常の名無しさんの3倍
17/07/23 11:54:16.40 sw/VWVOY0.net
連投回避

501:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:55:06.11 dhSrnXZb0.net
キラの高い実力と相性の問題もあるが、些か戦闘機が弱すぎるような気がした。でかい図体して、戦い方は素人のそれだ。
こと船の化身である艦娘であるからして飛行機のことはよく分らないが、あれではレシプロ機とだって良い勝負をするんじゃないか。あり得ないスピードだとビビってたのがバカみたいだ。
そこに響は強い違和感を覚えた。
敵は弱いに越したことはないが、しかし深海棲艦というのは総じて戦闘のスペシャリストみたいなものだ。おそらく、生まれながらにして戦い方を熟知・習得している艦娘と同じように。
では、あの戦闘機は一体なんなのだ?

「はぁ!」

戦闘している内に随分と、こちらに接近していたらしい。潮風に乗って微かにキラの声が響き、みな一様に空を仰いだ。
ここで勝負を決めるつもりか、右肩からビームサーベルを抜き放って、急激な旋回行動で失速しかけていた戦闘機に真っ正面から肉薄した。
ライフルの直撃には耐えるようだがサーベルは防げまい。その切れ味は対【Titan】戦で証明済み、あの凄まじいエネルギーの塊はどんな敵だって真っ二つにできるだろう。
戦闘機はなんとか殺傷圏から逃れようと、体勢を立て直そうとする。
だがそれよりもずっと早く、キラは大きく振りかぶったサーベルを、ついに振り下ろした。光の刃は寸分の狂いもなく機首を断ち切らんとして―


―寸前、キラの身体が不自然に一瞬、ギクリと止まった。


「え?」

次の瞬間、二つのことが同時に起こった。
まずキラのサーベルが、タイミングを逸脱した為に狙いが逸れて、戦闘機の翼端を斬り飛ばした。
その時、意図しないカウンターのように、キラの身体と戦闘機の機首とがまともに衝突したのだ。

「な!?」
「ちょ、マジか!?」

体格差もあってか青年が弾かれ、重力に引かれてくるくる回りながら落下した。
気を失ったのか身動き一つしないままどんどん高度を落としていく。その隙に、完全に戦闘能力を奪われた戦闘機は、黒煙の尾を引きながらフラフラと逃げていった。
だが今はそんなことはどうでもいい。
あの高さから落ちればただではすまない。
思いもよらないアクシデントに呆気にとられた第二艦隊の面々は、しかし流石の反応で駆け出す。受け止めなければマズいと悟ったのだ。
―けど、この距離じゃ!

502:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:57:08.30 dhSrnXZb0.net
「キラ!!」
「っ!」

咄嗟に、響がその名を叫んだ。
少女に似つかわしくない大声で、精一杯の力を込めて。



503:その声に反応したのか、キラはすんでのところでスラスターを噴かし、なんとか海面との激突を回避しようとした。 それでも勢いは完全には殺せず、キラな半ば尻餅をつくような格好で着水した。 高く水しぶきが舞って、青年が海に没する。 けど、それだけだ。 すぐに彼の頭が海面に出てきた。 大きく咳き込んでいるが、溺れているわけでもなくて存外平気そうだった。 「・・・・・・ふぅ」 最悪の事態を回避できて、みんな一斉に安堵の溜息をつく。 ピンチに次ぐピンチの連続、それを切り抜けた矢先に仲間を喪うなんて事態は御免だ。ある意味、戦艦級の大軍と戦うより心臓に悪い。同一のものではないのだ、戦闘とドッキリに対する覚悟は。 まぁなんにせよ早く救助しなければ。 波は穏やかでも、いつ高波が来るかは分らない。いつまでも立ち泳ぎは危険だ。 (そういえば、初めて名前を呼んだな) 咄嗟のこととはいえ、それも大声で。普段はそんなこと気にもとめないが、何故か今回に限っては気恥ずかしい気がした。なんでだろう? そんなことをぼんやり考えながら、少女は速度を徐々に落としていく。戦闘機が去った方向をいつまでも見つめ続けるキラの頭は、もうすぐそこだ。 このメンツでは一番速い響が、やはり一番に彼のもとに辿り着いた、その時。 立ち泳ぎをしていたキラが、ぽつりと。呆然と呟いた。 自分が目にしたものが信じられないといった面持ちで。 「――スカイグラスパー・・・・・・トール? いや、まさかそんなわけ――」 「・・・・・・え?」 その声は波音にかき消され、ついぞ響の耳に届きはしなかった。 キラが戦った戦闘機は、そのパイロットは。 かつてキラを救わんと空を駆け、そしていなくなったモノと、どこか似通っていたのだった。 キラはただ、その直感を否定することに精一杯になった。



504:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 11:59:03.51 dhSrnXZb0.net




「じゃあ、かなりギリギリだったんだ。よかった、間に合って」
「うん。本当に助かった・・・・・・Спасибо。おかげでみんな元気だ」
「そっか・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

通算四度目、榛名達にとっては三度目となる対【Titan】戦を乗り越え、さらにその後の【謎の戦闘機】を追っ払った第二艦隊。
へろへろになりながらも遅れに遅れた自己紹介を済ませて、海上に浮かぶ補給コンテナに辿り着いた彼女達は、ようやっと弾薬と燃料の補充にありついていた。
念願の補給だ。照明に満たされた室内に入ってホッと一息つく。
更に良いことに、虎の子の【Titan】が倒されたからか侵攻の手が緩まっていた。敵も戦力を再編する必要がでたのか、それとも単に品切れなのか、他の海域でも戦闘が止まっているという。
できることならこのまま深海棲艦が諦めてくれれば良いのだが、まぁ、そう都合良くいくはずもないだろう。
兎にも角にも、落ち着いて休憩できる時間も勝ち取れたのは僥倖だった。

「うーん。こんなことならお弁当とっとくべきだったかなぁ」
「急いで食べちゃったのは勿体なかったですね」
「食える時に食っとかなきゃな、仕方ないさ。・・・・・・お、間宮印の羊羹があるぞ」
「ほんと!? 食べるー!」
「折角ですし頂きましょうか」

コンテナ内のチェストを漁ってきゃいきゃい姦しくはしゃぐ三人を背に、すっかり濡れねずみになったキラは、いち早く補給を終えた響と会話する機会を得ていた。
こうしてちゃんと顔を合わせるのはこれで二度目。最初に目覚めた時以来だった。
あの時からまだ二日しか経っていないが、随分と昔


505:のように思える。なにせ、あの時はまだ何も知らなかったのだ。 あれから天地がひっくり返るような事実に何度も打ちのめされて、一日が何千時間とあるような気さえしたのだ。 あの時間濃度は、かつてアークエンジェルがクルーゼ隊から逃げまわっていた時のものに匹敵する。 あんな思いはもう、金輪際御免蒙りたい。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 何はともあれ、こうして再会できたのは嬉しくて、ちょっとこそばゆい感じだった。なにか色々と話したいことがあったのだが、こうしてみるとなかなか言葉がでない。 キラと第二艦隊が合流するまでのアレコレについて、特に対【Titan】についてのことを話し終わったら、なんとなく会話が途切れる。



506:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 12:01:06.59 dhSrnXZb0.net
お互いのお互いに対する認識が、出会った当初よりずっと異なってしまったからだろうか。まさか、この白い少女と轡を並べて戦うことになるとは思いもよらなかったキラであった。
だが、いつかの親友との再会とは違って、悪い気はしなかった。

「・・・・・・怪我はもう大丈夫なのかい?」

ふと、響が深呼吸して、こちらを伺うように切り出してきた。
そういえば自分は病み上がりで、しかもさっき戦闘機とぶつかったのだ。そりゃ心配もするだろう。
もっともフェイズシフト装甲のおかげでなんともないが。

「あ、うん。僕はもう平気。・・・・・・君こそ無理してない? ずっと戦いっぱなしだって聞いたから・・・・・・」
「・・・・・・ごめんなさい」
「え?」
「あなたを護ると、ちゃんと司令官を紹介すると約束したのに・・・・・・結局守れなかった」

俯いた少女の右手が頭の付近で彷徨い、所在なげに揺れる。
帽子の鍔をつまもうとしたのだろう、いつの間にか無くしていたことを気づいた小さな手は、誤魔化すように長いもみあげをくるくる弄ぶ。
突然の謝罪に面食らったキラは、そういえばそんな約束もあったなと、懐かしい気分になって思い出した。
響が出撃する際に交わした約束だ。
思えばあれは、ただ焦り恐怖するばかりで混乱していた自分を落ち着かせる為の言葉だったのだろう。しかしその響きは真摯的で、決して口から出任せの、その場凌ぎの言葉ではないということはちゃんと伝わってきた。
たとえ絶望的な状況であっても、彼女はちゃんと約束を果たすつもりでいた。
でも結果的に、仕方ないこととはいえキラは大怪我を負った。それどころか、討ち漏らした敵を撃退するといった尻ぬぐいまでさせてしまった。
それが彼女の負い目になっていたのだろうか。
俯いて、こうして謝って、そんなの、彼女達は全然悪くないのに。
みんなはもう一杯一杯だというのに、どうしてそれを責められるだろうか。

(そんなこと、気にしなくていいのに。君達が最善を尽くしてくれたことは、よくわかっているから)

律儀だなと思った。
その在りようはとても眩しく感じられた。
とある赤毛の少女が脳裏に蘇り、胸がチクリと痛む。口から出任せの、その場凌ぎの言葉で少女を傷つけた自分には、とても眩しい。
これは曇らせてはいけないものだ。

「大丈夫だよ。君はちゃんと約束、果たしてくれたよ」
「そう、かな?」
「そうだよ。だからこうして、ここにいられる。君にまた会えて嬉しいから」
「・・・・・・うん」

507:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 12:03:05.42 dhSrnXZb0.net
気づけば、くしゃりとその無防備な頭を撫でていた。
一瞬「しまった」と後悔したが、ええいままよと、そのままゆっくり労るように撫でてやることにする。
無事にまた会えた。それだけで充分。
それ以上はいらないと想いを込める。
すると強張っていた少女の肩から力が抜けて、くすぐったそうにしながらもされるがままになった。
そうして汗と潮風でぱさついた髪の毛を梳いていると、瑞鳳から声をかけられる。

「響ー、キラさーん。羊羹あるよ。今のうちに食べちゃお?」
「Спасибо。頂こう」
「ヨーカン?」
「日本のお菓子よ。小豆は平気?」
「えと、大丈夫。甘いのは好きなんだ・・・・・・ありがとう」

ついで三切れの黒々とした長方形を盛った小皿が手渡された。
初めて見るそれは、小豆を主原料とした餡を寒天で固めた伝統菓子だそうな。
昔カガリがお土産として持ってきたお饅頭の中身みたいなものかなと思い、フォークもないのにどう食べたものかとキラはうっすら透明感のある艶やかなブツを眺めた。
すると響が、セットで渡された小さな木ベラみたいなものの使い方を教えてくれて、それを真似て一口大に。
・・・・・・うむ、美味しい。この羊羹とやら、なかなかデキるやつのようだ。
控えめで上品な甘さ、滑らかで上質な舌触り。これは個人的甘味ランキングのベスト5に食い込むかもしれない。
見てみれば榛名達も美味しそうに食べ進めていて、それはまさに平和そのものといった雰囲気だった。

(こうしているとホント、普通の女の子だよね)

二人並んで羊羹を食しつつキラはつい、さっきまで響の頭を撫でていた掌を見つめる。
さて、まったくファンタジー極まりない話だが、彼女達は艦艇の生まれ変わりで、艦艇だった時の記憶があるらしい。つまりは人間ではない、人在らざるモノ。霊的存在。
コーディネイターとナチュラルの違いなんて些細なものに思えるほど、根本的に異なる生命体。
自己紹介も『特三型駆逐艦二番艦の響』とか『金剛型戦艦三番艦の榛名』とか変な言い方だと思ったけど、船そのものなのだとしたら納得できる話だ。
それが本当なら彼女達は、自分よりずっとずっと長く戦い続けた戦士ということになる。
あまりに認めがたいことだが、今のキラにそれを否定する材料はなかった。むしろ、今の自分の存在そのものがエヴィデンスになっている。

(兵器として生まれ、一度は死に・・・・・・そして再び戦うために産まれた彼女達は、一体どんな気持ちでこの海を眺めているのだろう。既に決定付けられた自分の『運命』に、なんて思っているんだろう)

そう考えるとなんだか複雑な気分になってしまうが、微笑を浮かべて羊羹に齧りつく響の姿を見ると、それもまた些細な事のように思えた。彼女らも血の通った一人の人間であることに変わりはないらしい。
少なくとも我が姉よりもずっと女の子女の子してるし。
ありのままを受け入れようと思う。

508:通常の名無しさんの3倍
17/07/23 12:03:18.04 sw/VWVOY0.net
連投回避

509:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 12:04:27.80 dhSrnXZb0.net
「そういえば、その服はどうしたんだい? 見たところ軍服のようだけど」
「・・・・・・え、ああ。これ? これは借り物で・・・・・・ストライクの中にあったんだ。軍服だよ」
「へぇ。―なかなかいいデザインだね。白と黒で、私好みだな」

すっかり上機嫌になって早くも完食した響の興味が、キラの纏うザフト白服に移ったようだ。
クールな蒼い瞳をキラリと煌めかせ、まじまじと観察してきた。どこか大人っぽい立ち振る舞いの少女だが、こうしていると見た目の歳相応に子どもっぽい。それが何故か嬉しく思えて、キラは微笑んだ。
差し色の金もいいねと呟く少女に、結構バリエーションあるんだよと教える。
今となっては笑い話にできることだが、様々な陣営の軍服に袖を通してきたキラとしては、この白服が一番お気に入りだったりする。一番長く使用したということもあるし、なにより色使いがいい。
好みが一緒というのは何気に気分が高揚する。

「こういうの好きなの?」
「Да


510:」 しかし実際のところ、今着ているこの白服を入手した経過は、決して笑い話にできるものではなかった。 この服は出撃の間際にストライクのコクピット、そのストレージボックスから回収・拝借したものだ。それ自体に問題はない。未使用であることを示す、しっかりパッケージされた予備用を貰ったのだ。 問題は、コクピットシートにべったりと、大量の血糊が付着していたことだ。 コクピットは文字通り血の海になっていて、驚きのあまりにコクピットハッチから転げ落ちそうになったものだ。 あれが大人一人分のものだとしたら、間違いなく致死量。 つまり誰かが、ストライクの中で死んだのかもしれないのだ。この白服は、その人の遺品なのかもしれない。 (ホント、謎ばかり増えてくな・・・・・・。はやく記憶戻らないかな) 今の自分は曲がりなりにでも生きているのだから、あの血はきっとこのストライクに乗ってた『前任者』のものだろう。 その『前任者』といい、酷使された機体といい、それに乗ってた自分といい、ストライク一つだけでも不明なことばかり。 もはやこの世界は謎しかないというのは過言だろうか。いや、過言ではない。 早急に謎が解明されることを祈って、キラは最後の一口を飲み込む。 それを見計らったようなタイミングで、榛名がポンと手を打った。 「さぁ、そろそろ休憩は終わりです。出撃しましょう」 「あと一踏ん張り! やっちゃうよー!」 けど、少しだけ。 戦場に出てみて、【Titan】と戦ってみて幾つかわかったこともあった。 少しずつだけど確実に、今この海域で起こっているという異変、その謎は解明されつつある。



511:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/23 12:08:07.54 dhSrnXZb0.net
「・・・・・・すいません、みなさん。少しいいですか?」
「キラ?」
「移動しながらでもいい。でも戦う前に。・・・・・・僕は、みなさんに話さなきゃいけないことがあります」

それは自分とストライクがここに転移した理由というか、その原因を内包する謎でもある。
なにもかも不明なことばかりで殆どが憶測の域を出ないものだが、それでもだいたいの当たりがついているのも事実。
キラは、自分は気づいたこと、もしかしたらということを第二艦隊の面々に説明すべく、その口を開いたのだった。



以上です。
自分のこそ見てくれる人がいるかどうか・・・・・・でも続けますが。
種世界出身のキャラはあと一人ぐらい出る予定です。

512:通常の名無しさんの3倍
17/07/23 15:02:46.51 bFvkam6I0.net
次スレのURLが見落とされないよう、貼っておきます。

新人職人がSSを書いてみる 34ページ目
スレリンク(shar板)

私の環境では、現在652KBです。

513:三流(ry
17/07/24 00:37:33.40 g7IrCHHN0.net
いけるトコまで、このスレでいきますか。

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
最終話 顎(あぎと)朽ちるとき


「ヨーツンヘイム!聞こえるか、これより、我々の最後の映像を送ります。
 記録願います・・・願います!」
巨大なモビルアーマー、ビグ・ラングは今や連邦軍の的と化していた。全身に砲火を浴びながらも
それでも装甲の厚さと、懸命の操縦と、オッゴやモビルスーツの援護により未だ健在だった。
その必死の抵抗を、周囲に漂う観測ポッドが記録し、母艦ヨーツンヘイムに通信する。
603技術試験隊、その最後の映像が今、記録されようとしていた。

カスペンを下したジャックのジムがそこに到着した時、出迎えたのは青いモビルスーツ・ヅダだった。
「させないっ!」
そのパイロット、モニク・キャデラック特務大尉の張り詰めた叫びが通信に響く。
盾のピックを立て、ジムを突き刺しにかかるヅダ。それを盾で受け止めるジム、盾と盾の激突。
ピックがシャークペイントの目の部分を刺し貫く。ジムはそのまま左腕を回転させ、相手を左腕ごとひねりにかかる。
「ふんっ!」
ビームサーベル一閃、ヅダの左手を肩口から切り落とす。ジャックは盾を振り、刺さっていたヅダの腕を
宇宙空間に捨て飛ばす。
「くっ・・・さすがだな、あの大佐を倒しただけのことはある。」
彼女はカスペンの最後を見ていた。彼を仕留めたジムがこちらに機動してきたのを見たとき、彼女は
真っ先にそのジムに向かっていった。アイツは強い、危険だと。

ジャックは機動をかけ、ヅダを振り切りにかかる。目標はヅダではない、巨大なモビルアーマーだ。
この戦場を支配してきたこいつを沈めることが、この戦闘の終わりを告げるきっかけになるだろうから。
思えばこのヅダこそがジャックの戦場での最初の相手、そして兄貴が死に至る因縁の相手でもあった。
だが、もうそれもどうでもいい。今はこの戦闘を終わらせること、それだけだ。
ビグ・ラングを狙撃する位置に回り込み、マシンガンを構える。が、追撃してきたヅダはヒートホークを
打ち下ろす。盾で受けるジム、シャークペイントの頭の部分が焼け付き、絵の一部が消える。
「くそっ!さすがに速い、しつこい奴だ!」
ヅダに向き直るジム、ヅダの向こうには赤い巨体が見える。その片腕のヅダはビグ・ラングを庇い
守ろうとしているようにも見えた。あのゲルググがオッゴを守ったように・・・

514:三流(ry
17/07/24 00:38:35.10 g7IrCHHN0.net
「どけ!」
「どくものか!」
ヒートホークを振るうヅダ、一歩後退し、盾を振ってアンバックからの動きを作り、
曲線軌道でヅダをすり抜けるジャックのジム。ビグ・ラングはもう目の前だ。
が、上から機動してきたオッゴの砲撃がジムの行く手を阻む、やむなく減速したジャックのジムに
特攻してきたヅダがタックルを食らわし、そのまま片腕でヅダに抱き着いてビグ・ラングから引き離す。
自分がこのビグ・ラングを何が何でも沈めたいように、このヅダの女パイロットは
何としてもこのビグ・ラングを守りたいようだ。

戦闘しているのは彼らだけではない、ビグ・ラングの周辺ではジムが機動し、ザクが戦い、ボールが舞い、
オッゴが飛ぶ。砲火の応酬は熾烈を極めるが、犠牲を示す光芒はほぼ見えなくなっていた。
戦闘自体がビグ・ラングを沈めにかかる連邦軍と、守ろうとするジオン軍の動きへと偏っていたから。
その肩代わりのように、ひとつ、また一つ、ビグ・ラングは被弾し巨体を揺らす。
きしみ、ゆらぎ、塗料を剥離させながらもビグ・ラングは吠える。さすがにもう弾丸もビームも弱弱しいが
最後まで戦い抜く意思だけは失っていない。

ヅダによって遠方まで運ばれたジャックのジム。しかし遠目から見ても、ビグ・ラング陥落は
もう時間の問題だった。
「行かせるか・・・やらせは、しない!」
ジムから離れ、立ちはだかるヅダ。
「やめろ、もう・・・終わるぞ。」
ジャックは相手に伝える。背中を向けている彼女からは見えないだろう、ビグ・ラングの下側に
連邦軍のジムが位置し、バズーカを構えている様子が・・・チェックメイトは目の前だ。
「はっ!」
ヅダが振り向く。その瞬間にバズーカが放たれ、ビグ・ラングの急所であるモビルポッド格納庫に
吸い込まれる。爆発が上がり、内部からの火炎が巨体を嘗め包んでいく。
「ああっ・・・!」
ヅダは戦闘を忘れ、一瞬固まる。ジャックもまたこれ以上の戦闘をする意思はない、これで・・・

「マイーーーーーっ!!!」
悲痛な叫びと共にヅダが機動する、爆散しつつあるビグ・ラングに向けて。
その声、どこかで聞いた。音声の質ではない、愛しい


515:人を無くす瞬間の悲鳴。 反射的にヅダを追うジャックのジム。そう、この戦闘の少し前、自分の部下であるビルが サーラを失った時の悲痛な声、それが目の前で再現されていた。



516:三流(ry
17/07/24 00:39:28.71 g7IrCHHN0.net
ヅダは間に合わなかった。あと少しのところでビグ・ラングは炎に包まれ、大爆発を起こす。
至近距離の爆風に晒されながら、呆然と立ち尽くす片腕の青い機体。
しかし、それを追いかけていたジャックには見えていた、より遠方からの視点ゆえに。
爆発したビグ・ラングは後部から崩壊していき、前部にあるビグロ部分が弾かれる様に連結を外され
爆発する直前にそのコックピットからパイロットが弾き出されるのを。
ジャックはその先に飛ぶ。ああ、そうか。彼女には帰るところがあったのか、このパイロットと共に。

戦闘は止んでいた。この戦場の支配者であった赤い巨体の爆発は、連邦、ジオン共に決着の花火に写ったから。
全ての機体が起動を止め、銃を下す。
その爆発の鼻先で、ジャックのジムが止まっていた。両手で小さな何かを大事そうに抱えて。
その手の中には、ノーマルスーツを着た一人の人物。ビグ・ラングのパイロット、オリバー・マイ技術中尉。

―あてどなくさまよえる愛しさよ、この胸を射抜く光となれ―

通信の歌を聴きながらジャックは待つ。その人の迎えを。
通信の歌に導かれキャデラックは向かう、その人を迎えに。

ジムの目の前まで近づき、停止するヅダ。向かい合う敵機同士だが、そこには殺気も殺意も無い。
穏やかな声で、表情で、手の中の人物をヅダに差し出すジャック。
「ほら。」
ヅダが右手を出し、パイロットを受け取る。それを愛おしそうに胸に包む青い機体。
「行けよ・・・お前たちには、帰るところがあるんだろ。」
「・・・礼を言う。」
ゆるやかに距離を取るヅダ、そして反転すると、ジオンの脱出部隊が連なる艦隊に向けて機動する。
それにオッゴやザク、ゲルググが続く。彼らは戦闘を終え、独立の夢から覚め、帰るべき場所に帰っていく。

彼らにとっての一年戦争が、他より一時間ほど遅れて、終わった。

―終わらぬ夢轍に、君の影揺れた―

通信の歌が静かに終わる。残された連邦軍兵士たちはそれを聞き届け、終わりの虚無感を感じていた。


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