17/06/27 17:17:05.41 ctIH441u0.net
「さて、では事情聴取と情報交換を始めよう。君のことは響からも報告を受けているが、直接一から説明してくれるとありがたい」
「響……そうだ。あの娘
340:は? どこにいるんですか?」 ゴホン、と咳払いして続けられた提督の台詞に、キラは「彼女は無事なのか」と今更ながらに心細くなった。 あんな化物相手に立ち向かって、無事でいられる筈がない。改めてキラは彼女の言葉と選択の重さを悟る。彼女を信じると決めたからって、敵を知ってしまえばもうその気持ちは揺らいでしまっていた。 今起きたのだから仕方がないとはいえ、まだ顔を見ていない。気になって仕方がなかった。 早く会いたいと、切に思う。 「それも含めて、だ」 提督は、思わず前のめりになっていたキラを制する。 「彼女が今どうしているか。それは未来人、若しくは異世界人かもしれない君が、此方の常識を知らんことには 説明できないものだ。同様に我々が、君がなにをどこまで知っているのかも知らなければ。これはそういう問題だ」 二人はほぼ同一の結論に辿り着いていたようだった。 つまり、キラは18m級の巨大ロボット兵器とこの世界にやってきた、異邦人であるのだと。そう判断するには充分すぎるほどのヒントはそこかしこにあったのだ。 キラにとってのそれは星空と化物であったし、提督にとってのそれはキラと一緒に発見されたロボットと彼の発言そのもの。 この目で見たモノしか信じないと豪語する主義者も納得の物的証拠だった。 同じ日本語で会話できているとしても、同じ日本という国家が存在しているとも限らない。二人を取り巻くそれぞれの世界は全く異なり、共通する常識なんてものは多くないと考えるのは極当然のこと。 提督は、響はお互いに共通する常識では語れない存在であるのだと告げていた。 物事には順序がある。彼女は後ろの方だと。 この世界の男がそう言うなら、異邦人であるところのキラは従うほかなかった。 「知りたいこと、訊きたいことは互いにある。私としても君のロボットに興味津々なのでね。……だが、そうだな。まず一つ言うが……とりあえず彼女は無事だ。だから安心なさい」 常識を知る為に、世界を知ろう。 ◇ 「ッくしゅん!」 「ん? 風邪か?」
341:通常の名無しさんの3倍
17/06/27 17:20:05.71 OwAeB4lz0.net
エラー回避
342:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:20:33.03 ctIH441u0.net
「いや……」
提督とキラが情報交換を始めたのと同じ頃。
響は木曾と共に哨戒任務につき、海上の人となっていた。
艤装を装着した彼女達は、まるでスケートでもしているかのように、すいすいと生身のまま海上を滑走する。
荒れ狂う灰色の海もなんのその、慣れた体裁きで当然のように支配下に置き、サーフボードも使わず二本の脚のみで成す様はまさに魔法のよう。
この水上を沈むことなく進める超常的能力は、艦娘が生まれつき備える基本能力の一つだった。
セーラー服と黒マントは20ノットの巡航速度で周囲の警戒にあたる。
「とりあえず、もうこの辺りは大丈夫そうだね。やっぱり昨日のアレが敵主力だったみたいだ」
「なら少なくとも半日は凌げるか。しかし―チッ、こうも電波障害が酷いとな。この海域はもう解放したろうが」
「だから私達が出てるのさ」
「九州一帯を覆う新たな磁気異常。明石が言うことが本当なら、オレ達の敵は深海棲艦だけじゃねぇのかもしれないな」
磁場が乱れている海域には【敵】がいる。
それが今や子どもでさえ知っている、この世界の常識である。
そう。
ことの始まりは六年前。世界中の海が突然に、原因不明の凄まじい電波障害に襲われた。
海上においてあらゆる長距離レーダー・センサーが妨害され、人類の発�
343:Wに大きく関与してきた電波通信や電波航法といったものが悉く使用不可になった。 あまりにも唐突な出来事であり、当時海上に在った船や飛行機のほぼ全てが消息不明になったという。 海を越えるには昔ながらの海図と星を用いた航法が必要不可欠となり、通信と貿易と移動は陸上のモノのみに制限、人類の文明は大きく後退することになる。世界は海によって分割され、有線通信で辛うじて繋がりながら安 全地帯となった陸だけの生活を余儀なくされたのだ。 そしてその一年後、つまりは五年前。 海よりいずる異形の化物――後に【深海棲艦】と呼称される『人類の天敵』の存在が確認されたのは、戦争が始まったのはその時だった。 「Что это значит?」 「……すまない、ロシア語はさっぱりなんだ」 「長い付き合いじゃないか。そろそろ覚えてくれても。……どういうことだいって意味だよ」 「あー……。……ヤツらに制圧されていないのに電波障害が――しかも陸にまで出てるってことは、原因は別にあるんじゃないかって」 「例の隕石?」 「タイミング的にはな」 「新しい敵なんて、お腹いっぱいだよ」 「違いない」 UFOみたいな形のモノから人間に近い形のモノまで。
344:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:23:15.21 ctIH441u0.net
世界中の海に現れた深海棲艦は、そのそれぞれが現代の最新鋭軍艦にも引けを取らない火力・防御力・機動性を
備えており、群れをなして手当たり次第に人類に襲い掛かる習性を持つ。そんな化物に、世界の海軍は瞬く間に粉砕された。
文字通りに、歯が立たなかった。
レーダーとミサイルを封印された従来の艦艇は、同等以上の戦闘能力を持ちながらより小型なヤツらにとってはただのデカい的でしかなかったのだ。海を制圧し、陸にもその侵略の魔手を伸ばしてくる化物を相手に、沿岸に
展開した戦車部隊で防衛ラインを形成するのが人類の精一杯だった。
そういった具合に暴れ回る詳細不明の深海棲艦だが、解っていることも確かにあり、そのうちの一つが電波障害との関連性である。
深海棲艦はその個々が特殊な電磁波を放出している。特に群れを統括するボスの放つ電磁波は強烈であり、近年の研究ではこの電磁波によって意思疎通をしていることが判明している。また、アメリカ海軍の決死の奮闘によ
り、ボスを失い解放された海域は電波障害からも解放されることも実証された。
磁場が乱れている海域には【敵】がいる。【深海棲艦】がいない海域の磁場は正常である。そして陸は人類の絶対生存圏なのだ。
存在する理由も侵略する理由も謎に包まれているが、その因果関係だけは確実なものであり、世界の常識となった。
「敵の特性が強化された線はどうだい?」
「どうも波長というか、性質というか、まぁいろいろ異なるらしい。そいつが新たな磁気異常を引き起こし、かつ敵を強化しているんじゃないかと。迷惑極まりないな」
そうして未知の脅威に晒され続けてきた人類が、敗北せず五年も生きながらえてきたことには理由がある。
【艦娘】という名の奇跡が、人類の味方をしたのだ。
かつて、第二次世界大戦の折りに活躍した軍艦の名と魂を受け継いだ、生まれながらにして戦う力を備えた超常の少女達。厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
深海棲艦と同時期に世に生まれた彼女達こそが、現人類の最大戦力であり最後の希望だった。
彼女達は人間のような見た目でありながら、その元となった軍艦の能力をそのまま人間サイ�
345:Yに凝縮したような 性能を備えている。その点は深海棲艦と同様――水上を滑走し、特殊な電磁波を発し、圧倒的な火力・防御力・機動性を備える――だが、彼女達は人語を解し、人類に深い思い入れを持つ存在だった。故に彼女達は己の意思 で人類に味方し、深海棲艦と戦う道を選んだ。 何故生まれたのか、どのような生命体なのか、どこから来てどこに征くのか。その全てが不明であるヒトデナシ同士の戦争が始まった。 そうして五年、人類は艦娘を主力とした防衛戦や反攻作戦を決行、いくつかの海域を開放しながら戦争を継続して、今日に至る。 戦況は人類側の優勢に傾きつつあった。 「私達で対処できることかな」 「わからねぇ。わからねぇが、電波障害の影響を受けずにいられるオレ達でダメなら、人類は今度こそお終いだろう。ならやるしかない」 「うん……」 「なんだ、突撃隊長様が随分と弱気じゃないか。……まぁ、気持ちはわかるがな。あの隕石が原因だってんならオレだって正直お手上げさ」
346:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:25:18.27 ctIH441u0.net
優勢な筈だった。全世界的に。少なくとも、佐世保にとっては一週間前まで。
一週間前の『あの日』、台湾に突如謎の隕石群が落ちた。
大きいもので半径50mもある超巨大サイズの代物を中心に多数、どこの天文台にも観測されずにやってきたそれは、偶然目撃した者曰く「なにもない虚空からいきなり現れた」のだという。
まるで魔法、ワープのようであったと。
驚異的なサイズと数ではあったが、幸い出現位置が低空だったので落下エネルギーもたいしたものではなかったこと、台湾という土地自体がとうの昔に避難を終えて無人であったことから、隕石落下そのものによる被害は少
なかった。それでも高波は発生し、佐世保鎮守府を含む九州西部はまともに被害を受け、施設の大半がお釈迦になってしまったが。しかしそれもすぐに復旧できるレベルに収まっていた。
問題はその後だった。
隕石落下の二日後の、五日前から。
深海棲艦が隕石被害によって弱体化するどころか、むしろ強化されて佐世保を襲うようになったのだ。
今まででは考えられない程の頻度と戦力で繰り返される強襲爆撃を、もとより疲弊していた佐世保に止められる
はずもなかった。艤装の修理や艦娘の治療を行う施設をはじめ、宿舎や資源、補給路までを高波と爆撃で失っていた
同時に陸にまで発生した、従来の常識をひっくり返す広域磁気異常により応援を呼べず、航空機を使った輸送すらもできなくなっていた。体勢を立て直す暇もなく圧倒的攻勢に晒される佐世保は、近所の呉鎮守府と鹿屋基地
に傷ついた艦娘を避難させることを決意。死者こそ出ていないものの、総勢38人いた艦娘もいまや13人までに減っていた。
損耗率は既に50%を割っており、当然そのペースは加速度的に早くなっている。
救援が到着する予定の、明日の夜まではなんとか凌げる自信はある。
しかし、もし、来なければ。佐世保は陥落し、九州の地は深海棲艦に蹂躙されることになるだろう。
(それは……嫌だ)
確かにこの劣勢は、例の隕石が発端のように思える。
しかし、そんなことがありえるのか。ただの隕石でないことは確かだろうが、深海棲艦が強化された因果関係な
んてあるのだろうか。前までは後方支援がなくともやりあえていた相手に、こうも一方的に戦闘力で押し負け、追い込まれるなんてことが。
それこそ悪い宇宙人からの贈り物でもなければ。
「―時間だ、帰投するぞ。帰って飯だ」
「Да。……一つ、いい
347:かな」 「あん?」 彼女達は敵の電磁波を中和して、限定的ながらレーダーの使用を可能とする能力を持つ。故に、彼女達の電探と目視がそのまま人類の目となる。こうした哨戒任務は、艦娘の大事な仕事の一つだ。 そのお務めを無事に果たした時、響はキラの言葉を思い出した。
348:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:27:15.46 ctIH441u0.net
昨日、第二艦隊として迎撃作戦に参加し、その途中行方知れずだった第一艦隊と合流して敵の主力を撃退できた
あの戦い。その時の討ち漏らしだったのであろう重巡リ級に襲われ大怪我を負ってしまった、護ると約束したあの男の言葉。
(……約束、守れなかったな)
彼は宇宙軍所属と言っていた。そして隕石とは言うまでもなく宇宙出身である。
昨夜ようやく帰ってきた二階堂少将は苦笑いしながら「未来人なのかもしれないなぁ」と言っていた。
ただの偶然なのか、それともなにか知っていることはあるのか。
なんとなく響は、なんの根拠もないが彼はこの騒動に関係あると感じていた。
本当に根拠がないのだが。
もしかして、彼が。
(いや、まさかな)
響は頭を振る。
疲れているんだ。馬鹿なこと考えてないでさっさと帰ろう。今帰れば、多分5時間は休めるはずだ。
不安だから、なにかを「分かりやすい何か」に仕立て上げたいだけなのだと自己分析する。そういう心理はよくない。むしろ自分は謝らなければならない立場なのだと、一瞬でも失礼なことを考えてしまった己を恥じる。
気持ちを切り替えなければ。
「……すまない、なんでもない」
「……なんなんだよ?」
もし、あのロボットと一緒にやってきた彼が、あの隕石の関係者だとしたら。みんなはどう思う?
そんな疑問を胸の内に隠した響は、深海棲艦が主力を失い攻撃再開に手間取っていることを確認。木曾と共に、交代要員の暁と多摩が待つポイントへ転進したのだった。
◇
(コーディネイターとナチュラル。宇宙に上がってまで人間同士の戦争か)
おおよそ二時間かけて、二階堂提督とキラ・ヒビキの事情聴取及び情報交換が終わった。
提督は一人、慣れない松葉杖を使ってえっちらおっちら廊下を進みながら、説明された彼の常識を思い返す。
その内容は思っていた以上に波瀾万丈なものだった。
コズミック・イラという、大三次世界大戦を経て制定された統一暦での出来事。なるだけ客観的になるよう四苦
八苦しながらと、どうにも説明が得意ではないようだが、それでも自分の世界を解ってもらう為に言葉を尽くしてくれた彼がいた世界。
349:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:29:13.02 ctIH441u0.net
そこでは。
人は宇宙に上がり、宇宙開拓時代を迎えたこと。
遺伝子操作技術が確立し、それが大きな人種間戦争に繋がってしまったこと。
モビルスーツという対艦用巨大人型機動兵器が台頭し、そのパイロットになったこと。
人類を地球側と宇宙側に二分した戦争が、二度も起きてしまったこと。多くの国が滅び、多くの人が死んだこと。
人類救済の為に、遺伝子によって全ての運命を支配しようとした指導者と、互いに互いの行動原理を認められぬからと戦わなければならなかったこと。
結果として殺してしまった彼の意思を継ぎ、崩壊し続けていく世界を維持する為の新地球統合政府の設立に尽力したこと。
そういった人間同士の戦争の歴史があったことを、その中で自分がやらかしてしまったことを、一時間かけて説明してくれた。
果たしてこの今の世界と、人間同士で第五次世界大戦までやってしまう世界と、どっちがマシなのかはひとまず考えないでおこう。
とにかく、ようやくこれで互いの知りたいことが知れたというわけだが、しかし謎は深まるばかりであった。
(異世界の地球からの来訪者。しかし、部分的とはいえ記憶喪失とは)
第二次世界大戦以降の歴史が少しずつ違っている彼の世界で、艦娘や深海棲艦といった特異的存在は確認されて
いないらしい。ならば彼が未来人という線は消えた。既にファンタジーに侵略されている我が世界とは、異なる地球から来たのだ。
想定の範囲内ではあったが、でも直接そうなのだと答えを示されてしまうとやはりショックは隠せない。提督は俯き思考に耽る。
これは大変なことになってしまったなと。
(ストライクという名のロボット兵器―モビルスーツといったか。彼は間違いなく、アレは人が搭乗して動かすものだと言っていた)
時間が差し迫りキラと別れた提督は、彼が発見された時を思い出す。
あれは例の隕石が落ちてから二日後のことだった。アレは浜辺で倒れており、あの青年はその内部から救出された。つまり、ストライクに乗ってこの世界にやって来たのだろう。
しかしキラは「それはおかしい」と疑問を投げかけた。
【GAT-X105 ストライク】は彼の世界での七年前に建造された試作機であり、キラの最初の機体であったらしい。
だが、新地球統合政府直属の設計局が開発した新たなMS群、ZGMFシリーズとGATシリーズに代わるGRMFシリーズの新型を受領した今、わざわざ今更乗るような機体ではないという。
なにか緊急の出撃があったのだとしても、納得できる要素がない。
だが、彼はその前後の記憶をどうしても思い出せないでいた。
彼は説明を続けている内に、己の記憶のところどころに穴が開いていることに気づいた。特に、直近の一週間か二週間ぐらいの記憶が、すっぽり抜け落ちていると。一ヶ月前のことはちゃんと憶えているのに、何か大変なこ
とがあったような気がするのに、おかしな話だと語っていた。結局、何故ストライクに乗っていたのかは分からずじまいだ。
350:通常の名無しさんの3倍
17/06/27 17:31:42.36 OwAeB4lz0.net
エラー回避
351:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:32:13.49 ctIH441u0.net
この記憶喪失は、転移によるショックによるものではないかと提督は考えていた。幼き日々に読みふけった漫画小説では、それが定番だったこともある。事実は小説よりも奇なり。なにより現代はヒトデナシ同士の戦争をや
ってるファンタジー時空なので、異世界というトンデモがあるのなら、きっと定番だってあるのだろう。
記憶なんてものは酷くあやふやで儚いものだ。どんな大切なことも忘れるときは忘れるし、思い出すときはいつだって唐突だ。
いずれ時間が解決してくれるだろう。
(断じてモビルスーツとは、己が身に纏って戦うための鎧ではないのだと)
だが、正確な記憶が有ったとしても説明つかないことも、時間が解決してくれない問題も、世の中にはままあるものだ。
たとえ彼の記憶が戻り、関連があるのかもわからない例の隕石の真相が少しでも解明されたとしても。
彼の体質の謎が、誰かに解明されることはあるのだろうか。
キラ・ヒビキ。
彼の身体は、体質は。艦娘や深海棲艦のものと同様の、特殊なものに変貌していた。
厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
人間のような見た目でありながら、人間よりもずっと優れた超常の身体と能力を備えるヒトデナシ。
特殊な電磁波を発し、ミニチュアのような砲塔から艦砲のものと同等の弾丸を放ち、人間用の鉄砲では傷一つ付かない、戦車と綱引きしたって勝てる、そんな化物。
キラ・ヒビキは、普通―と言っては語弊があるが―の人間だったはずなのに、いつの間にかそういう体質になっていた。少なくとも、この佐世保で発見された時点でそうなっていた。
昨夜に深海棲艦の重巡リ級に襲われても尚生き抜き、逆に艤装となったストライクのライフルで撃退したことが、なによりの証拠だった。おそらく、彼の怪我もあと数時間もすれば完治するだろう。
(普通の人間がそのような事になるとは、一体全体どういうことなのか)
そのような事例は、この世界でだって確認されていない。
これで彼が未来人で、その時代ではロボットが艤装になっているんだと言ってくれたら、こんな悩みを持つことはなかった。正直なところ提督は、キラは未来から来たものだと思い込んでいたのだ。
何故なら、異世界から来たというのに最初から「そういう体質」であったのならば、それでは地球はあまりにも
救われないじゃないかと。異世界の地球でまで艦娘と深海棲艦の戦争があるのだとしたら、それは悲しいことだった。地続きの未来なら、彼の体質にもある程度納得できるというものである。
たった一人の、あらゆる意味で例外の人物を保護するということは、誰にとってもストレスだ。
そもそも、彼はどのようなカテゴリーになるのだろうか。
(世界初の、男性の艦娘か……。まったくなんて日だ。なんて呼べばいいのか)
艦娘。艦の娘と書いて「かんむす」。
352:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:34:16.37 ctIH441u0.net
現人類最大の戦力でありながらも、軍にはとても似つかわしくない可愛らしい名称で呼ばれている彼女達。
軍の会議室で大の大人達が渋い顔で「うちの艦娘が云々」と、人類の今後に関わる大事な案件なのにまるで思春期の娘をどう扱うか困った父親のような格好で議論を交わす光景は、当初こそ滑稽なものであったとな思い出す。
今ではすっかり定着しているその名称は、彼女達を単なる兵器として扱いたくない派閥の努力が実を結んだ結果だった。今やその名は世界中に広まり、彼女達は一人の愛すべき存在として民衆に親しまれている。
しかしこれが男性となると、なかなか良い呼び名が見つからないのであった。報告書の作成には難儀することだろう。
それは追々考えていこうと思う。
(とにかく。普通から外れてしまった彼には、時間が必要だ)
この世界と己の身体の真実を知った彼は、しばらく一人にしてやらなければならないだろう。自分自身も考えを纏めなければならない。お互いに冷却期間が必要だった。
(だが、こちらはそう悠長なことは言ってられないな)
そう思い、一人医務室から撤退して執務室に向かった提督は、その思考を冷徹な軍人のものに切り替える。
実際問題、時間がほしいのはこちらの方だった。
佐世保鎮守府存続の為に、非情に徹して持てる戦力と技能をフル回転しなければならない局面であった。こちら
の採れる選択肢は多くない。人事を尽くして天命を待つしかない現状に陥ったことは、一将官として恥ずかしいものだったが。
「……二階堂だ。そちらに白露はいるか?」
<提督! お久しぶりデース! ご注文は白露ですカー?」
「ああ久しぶり。無事でなによりだ」
<えーっと……あ、Good timing! 今代わるからちょっと待っててネ。……HEY、白露ぅー。提督からのご指名ダヨっ!!>
執務室に到着するなり提督は、長らく使用していなかった有線通信機で格納庫と連絡を取る。
無線さえ使えればいいのだが、陸にまでやってきた磁気異常のせいで使い物にならない。煩わしいが背に腹はかえられないので、埃を被っていた固定電話を引っ張り出し酷使するしかなかった。
そんな通信事情と、宿舎や休憩室が更地になってしまった施設事情もあって、今や油臭い格納庫が艦娘達のたまり場となっていた。誰かしら通信機の近くにいるよう待機してもらっているのだ。
<―はい、代わりました白露です! どうなさいましたか?>
「今後の方針が決まったから、皆を執務室に集めてほしい。今どうしている?」
<んと、みんなでご飯食べてるの。10分もしたら行けると思うよ>
「わかった。よろしく頼む」
<うん! いっちばんお役立ちなあたしにお任せあれ!>
四年の付き合いになる秘書と短く連絡を取り合い、提督は愛用ソファーに深く沈み込む。
打てる手は全て打った。
353:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:36:26.93 ctIH441u0.net
救援が到着する予定は明日の20時頃……約30時間後のその時までに、いかに防衛ラインを維持し続けるかが鍵になる。いつもの半分にも満たない戦力で、いつもより手強い敵をどういなすか、ここが正念場だった。
現状の戦力を再確認する。
主力の第一艦隊所属の5隻と、遊撃の第二艦隊所属の4隻、哨戒兼補給隊の第三艦隊所属4隻。敵の攻撃再開と救援到着時刻がいつになるかは不明だが、24時間程度の戦闘行動なら全戦力を全力投入したうえで休憩なしで
いける。むしろ、下手に戦力の逐次投入などしては防衛ラインを割られる可能性が高い。問題は配置と補給タイミングか。
戦況を読み違えれば、そこからドミノ倒しのように全てが終わってしまう。だからこうして戦術を練る。
「……ギリギリ、いや少し足りないな、やはり」
せめてあと一人、戦力が欲しい。
時雨が戦力外になったのは痛かった。彼女さえ健在ならまだやりようがあったのだが。必要なのは火力よりも、
敵を攪乱できる機動性だった。無い物ねだりしても仕方がないとはいえ、ベストの陣形を組めないのは非常に痛い。
今から決行しようとするプランは所詮ベターなもので、しかも艦娘一人一人の負担がより大きくなるものだ。
作戦失敗の確率も大きくなる。けれどやり遂げてもらわなければならない、そんな苦痛がある。
彼女達をいかに安全に、楽に、確実に勝利に導くかを考えるのが提督の存在理由なのだ。
この時代の戦場で「人間」ができる数少ないことのうちの一つだ。
一端戦闘が始まれば、あとは少女達の頑張りと判断を信じて祈るしかないのだから。
だからこそ、せめてあと一人、戦力が在ればと。
「……、……本当のヒトデナシは我々人間なのかもしれない、か。確かにそうだな」
かつて、友人である呉鎮守府の提督が呟いた言葉が脳裏を掠める。
戦闘の現場に立てない「人間」である提督にできることは、こうしたバックアップまで。あとは圧倒的超常的能
力を持つとはいえ、年若い娘達に「化物と戦ってこい」と命令するしかない自分達こそが外道だと。結局人間とはなんなのだろうなと。
二階堂提督は、今自分が考えついたことに、これから自分がやろうとしていることに、若干の嫌悪感を覚えた。
だが手段は選んではいられない。そもそも採れる選択肢は多くない現状で、これは千載一遇の好機なのかもしれないのだ。故に開き直り、ヒトデナシの誹りも喜んで受け入れよう。
冷徹な軍人として、佐世保鎮守府存続の為に打てる手は全て打たなければ。
提督は再び有線通信機を手に取る。
「見せて貰おうか、異世界の機動兵器の性能とやらを」
しばらく一人にしてやらなければならないと思った直後に、申し訳ないことだが。
連絡先は、医務室だ。
354:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:39:48.76 ctIH441u0.net
以上です
キラには徹底的にボコボコになってもらいます
艦これは公式の世界観が公開されてないので、好き勝手に俺設定をでっち上げられるのが好きです
355:通常の名無しさんの3倍
17/06/28 12:06:30.86 vphXjS4s0.net
乙
356:通常の名無しさんの3倍
17/06/28 12:32:56.34 6n0FukBK0.net
乙
ストライクも大概不死鳥だな
357:三流(ry
17/07/01 00:39:07.23 czl7hMFV0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第六話 裏ジャブロー
-ウゥゥゥゥゥーーーッ!ウゥゥゥゥゥーーーッ!-
-全戦闘員戦闘配置、各部署の隊長、艦長、および指揮官はブリーフィングルームへ至急集合のこと-
ルナツーに鳴り響く警報、全員が慌ただ�
358:オく動く。特にメカニックは至急の出動に各兵装の準備に追われる。 エディは小隊長として会議室に行き、ジャックはメカニックの手伝いで自分のジムの最終チェックをする。 初出撃を迎える彼らのジム、しかし不安は無かった。 オハイオ小隊スペシャルのジム、見た目は普通のジムではあるが、その中身はCPUルーチンを徹底して組み直した 彼らだけの専用プログラム、幾多のテストを経てその動作性能を向上させ続けたジム。 そのシールドには、かつての雪辱を晴らすべくシャークペイントが施されていた。 願わくば、この戦闘であの青いやつと戦って勝ちたい、俺たちの顎であの高速のカジキをかみ砕いてやる! やがてブリーフィングが終了し、各隊の長が部署に走る。ジャックの元にもエディが走ってくる。 「準備は!?」 「オールグリーンです、即行けますよ!」 「よし!」 それだけを話してサラミスに搭載されているジムのコックピットに乗り込む、詳しい話は乗ってからでも出来る。 「ジオンがジャブローを総攻撃?」 「ああ、ほんの少し前に掴んだ確かな情報だそうだ。本日15:00、ジオンの総攻撃があるってな。」 「それで、なんでこっち(宇宙)で出撃なんすか?しかもこんな突貫で総員出撃とか・・・」 確かに、今から出撃して地球降下しても戦闘には間に合わないだろう、そもそも全軍出撃しても 地上降下ができる舞台はほんの一握りのはずだが・・・ 「ジオンにしてみりゃこれは天王山の一戦だ、地上に踏みとどまれるかどうかのな。これを阻止したら 奴等はもう地球から撤退せざるをえない。」 ひと呼吸おいてエディが続ける 「奴等にしたらまだ、負けても宇宙に撤退すればいい、って考えてるだろう。そんな奴等に、宇宙での連邦の 攻勢が始まった、つったらジオン兵はどう思う?」 「ケツに火が付きますね、ジャブロー攻撃どころじゃなくなるかも・・・」 「ご名答、つまりこれから地上にいるジオンに『嫌がらせ』の攻撃をするってことだ。」 理にかなっている、敵の後方を扼すのは戦術の基本だ、ということは・・・ 「標的はジオンの小惑星基地、各隊がいくつかの敵基地を突いて敵を混乱させるのが目的だ、深入りするなよ。」 やはり、この戦闘はポーズでいいんだ。どうりで突貫の出撃になるわけだ。
359:三流(ry
17/07/01 00:40:01.00 czl7hMFV0.net
「第6艦隊、サラミス級シルバー・シンプソン、出撃する!」
艦長の号令一下、二人を乗せたサラミスが発艦する。第6艦隊は彼らを含むマゼラン級1、サラミス級3、
ジム小隊6、ボール小隊4の中規模編成、目指すはソロモンの手前にあるジオンの小惑星基地、
敵要塞ソロモンの近場のため、長引けば援軍にこられて袋だたきに合う、かといって早期撤退すれば
地上のジオンへの牽制にならない、引き際の判断が作戦の成否を決める。
「ハロウィンのパーティでも始めるつもり、なのか?」
ひときわ不機嫌な表情で毒を吐くモニク・キャデラック特務大尉。後ろにいる士官、オリバー・マイ技術中尉は
言われると思った、という表情で首を振り、手持ちのタブレットを操作、詳細を表示する。
「MA-04X、モビルアーマー、ザクレロ。強力なスラスターと大出力の拡散レーザーを備えた機動型兵器です。」
ジオンの小惑星基地マドック、そこに603技術試験隊は停泊していた。試作兵器であるこのザクレロのテストの為に。
しかしそもそもこのザクレロという機体はすでに評価試験を終了している、不採用機体として。
同時期に開発されたモビルアーマー、ビグロとの正式化競争に破れ、テスト機のこれが残るのみだ、
ただ戦局逼迫のため、不採用であっても使える機体は使う、それは603が今まで何度も経験済みのことだった。
それだけにキャデラックはなおさら腹が立つ、603は兵器の乳母捨て山か、リサイクルセンターとでも思われているのか。
同時に試作兵器を受領した604技術試験隊は地球降下用の兵器を受領したらしい、それが何かは知らないが
少なくともこんな面白機体ではあるまい。
彼女のセリフ「ハロウィン」は言い得て妙だった。その機体の前面は、そのまんまハロウィンに登場する
カボチャのお化け「ジャックオーランタン」の顔にそっくりだった。
外見が戦争における心理を動かすこともあるとはいえ、あまりにチープなデザイン、これを見て
連邦軍兵士は笑うことはあっても戦意喪失して逃げ出すことはあるまい。
360:三流(ry
17/07/01 00:40:54.38 czl7hMFV0.net
「トリック・オア・トリートってか?そりゃいいや。」
当のパイロット、デミトリー曹長は全く気にしていないようだ、若く、ハンサムではないが気骨ありそうな面構えの青年。
彼自身、ずっとこの機体のテストパイロットを続けてきて、この機体がビグロに及ばないことは痛感している
しかし彼は気にせず、淡々とこのザクレロと付き合ってきた。それは彼が生粋の軍人であるように思わせたが
実際に深いところでは別の理由があった。
士官学校からずっと世話になった先輩士官、トクワンがそのビグロのテストパイロットを担当していたからだ。
ジャックにサメジマがいるように、デミトリーにはトクワンがいる、尊敬し、手本にするべき先輩が。
だからザクレロがビグロに敗れたのは不満ではあったが、仕方ないとも感じていたし、何よりここに至っては
ザクレロも実戦配備されるのだからそれも論外だ、自分の部署で、自分の兵器で、ベストを尽くすのみ。
マドックの基地内の電源が全て赤に切り替わる、そしてけたたましく鳴り響くサイレン!
「敵襲!敵襲ーーーーっ!」
反射的に動き出す全要員、全ての艦艇が、モビルスーツが、発進に向けて動き出す、
モビルアーマー・ザクレロもその例外ではなかった。
「各艦は敵基地に向け一斉射撃後、モビルスーツを展開して反時計回りに後退、待機宙域にて援護射撃!
モビルスーツは一気に敵基地に肉薄せよ!」
連邦軍艦隊が一列になって突進、敵基地の前で弧を描きつつ砲撃、ジムやボールを展開し離脱していく。
完全に先手を取れたようだ、うまくいけば陥落までもっていける。
「こちらジョージ大隊長、敵の反応が遅い、一気に仕留めるぞ!」
ジム・ボールの全体指揮を執るジョージ中佐の激が飛ぶ、このまま敵モビルスーツが発進する前にたたければ理想だ。
基地に設置された主砲が反撃の雨を降らす、基地に詰めていた艦艇がゆっくりと動き出す、間に合うか・・・?
残念ながら一歩遅かった、直前でザク、そしてより重厚な体を持った紫色のモビルスーツが基地から次々と発進
玄関先でジム・ボールとの乱戦に突入する。
「ドムってやつか!」
「気をつけろ、火器や装甲はザク以上だ!」
「上等っすよ!」
エディとジャックのジムも乱戦に身を投じる、まずは動きを止めないこと、乱戦の鉄則。
無理に小隊編成の隊列を保つことは、相手にとっても狙いを定めやすくなる。バラバラに動く時は
いっそ徹底的にバラバラに動くべきだ、これもサメジマが残した戦法の一つ。
「エディさん、グッド・ラック!」
「生きて帰れよ、ジャック!」
361:三流(ry
17/07/01 00:41:38.85 czl7hMFV0.net
声をかけると同時に2匹の鮫は逆方向に機動、エディはドムの小隊に突進、ジャックは基地とは逆方向から包囲
しようとするザク3機に向かって突撃、ビームサーベルを抜くと、すれ違いざまに一機のザクをなぎ払った。
連邦の部隊を包囲しようとしたザク3機には油断があった、また視界を広く持つ必要があったため、
自分たちに向かって単機で突進する相手にあまり気が向かない、誰かが倒すだろうという油断が仇となった。
すれ違ったジャックはサーベルを仕舞い、ビームガンを抜く。機動を止めずに弧を描いて残りのザク2機に迫る、
「くそったれえぇぇ!」
マシンガンとバズーカで反撃するザク、しかし二人とも遠距離兵器のため照準合わせに気がいって動けてない
足を止めることの愚かさを失念しているのだ。
ジャックはここでザクの頭部に向け起動する、兄貴によく聞かされていたザクの死角、それは上方向。
特に上方斜め後ろを取れば、ザクは方向転換に2アクションを必要とする、振り向いてる間に仕留める!
ジャックのジムが放ったスプレーガンは見事、1機のザクに命中。しかしもう1機は思い切った機動でビームを回避
そのまま弧を描いてジャックのジムに向かい、銃弾を浴びせる、ジムも懸命に起動してかわし、撃ち返す。
ザクのマシンガンはジムの大きな盾に阻まれる、シャークペイントが施されたその盾にすっぽり身を隠されてしまえば
ザクマシンガンではルナチタニウムの盾に穴をうがつのは困難だ、それがザクに腹を決めさせた。
弧を描く機動を止め、真っ直ぐジムに突進するザク、マシンガンを捨て、ヒートホークを抜く。
ジムは未だビームガンを持っている、サーベルを抜く前に接近して一撃を加えんと突撃!
しかし彼が相手にしているのは普通のジムではない、戦場での可能性を徹底的に検証し、新たな動作ルーチンを
書き加えたオハイオ小隊スペシャル・ジムなのだ。
ビームガンを持っていないと遠距離では戦えない、持っているとビームサーベルは使えない、ではガンを
持ってるときに敵に接近されたら?答えは明白。ビームサーベルだけが武器じゃない、左手には超硬度の鈍器。
突進してくるザクに真っ直ぐ盾を突き刺すジム、ルナチタニウムの板先を顔面に受けたザクは
そのまま頭部を胸まで埋め込まれ動きを止める、すかさずスプレーガンを至近距離から打ち込む!
362:三流(ry
17/07/01 00:44:30.13 czl7hMFV0.net
「ぶはぁあっ!」
爆発するザクから離れ、大きく息をはき出すジャック。初の戦闘の緊張感から一瞬解放され、忘れてた息をつく。
いける、このジムなら俺でもジオンと互角の勝負が出来る、兄貴が残したスピリットで俺たちが育てたこのジムなら!
余勢を駆って次の標的を探す、彼がまず捕らえたのは基地から離脱しつつある大型輸送船、戦艦で無いなら
狙う勝ちは無い、と思った瞬間彼の目に入ったのは、その艦のハッチ付近に浮いているモビルス-ツ。
「青い・・・ヅダかっ!」
全身が熱くなる、何故輸送船にいたのかは分からない、はっきりしているのはアレが連邦軍にとって
脅威だと言うこと、そしてサメジマの兄貴を間接的とはいえ倒した機体であること。
-そん時は敵を褒めるんだよ、あのサメジマを倒すとはたいした敵だ、ってな-
兄貴の言葉が頭をよぎる、やってやる!アンタを褒めて、そして倒す!ヅダに向けて起動するジャックのジム。
その時だった、ヅダに引っ張り出されるようにして、黄色い機体が格納庫から引き出されてきたのは、
その異形の「顔」にジャックの背筋が凍り付く。
「なんだ・・・ありゃあ。」
第六話でした。そう、今回の主役機はジムです(今更
603の面々もようやく登場、今後の活躍にこうご期待・・・活躍できるのかなぁw
363:通常の名無しさんの3倍
17/07/01 19:30:48.09 T1r09Erh0.net
乙
364:通常の名無しさんの3倍
17/07/01 20:37:17.46 Eug48m790.net
乙です
大きな口をもつ化物同士の戦いとなるといよいよハロウィンじみてますな
裏方の意地同士のぶつかり合いも見れていいと思います
365:三流(ry
17/07/02 23:15:20.70 c4SS+G9s0.net
感想があると速筆になりますね、調子にぼるともいいますがw
続き投下します。
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第七話 鮫と怪物
「ありえないんじゃないっすかねぇ、こんな発艦って!」
試験支援艦ヨーツンヘイムのハッチ前、ヅダの操縦席でワシヤ中尉はひとりごちる。
彼は今、ハッチから巨大なモビルアーマーを引っ張り出す作業にかかっている。
「ぐちぐち言うな、戦闘中だぞ、急げ!」
後方からモビルアーマーを押し出しているヅダのコックピットから、キャデラック特務大尉の激が飛ぶ。
「へへっ!すいませんねぇ大尉、中尉。上官のお二方に手間かけさせちまって。」
特徴的な前歯を見せながら、ザクレロのコックピットでデミトリー曹長は苦笑いを浮かべる。
モビルアーマー・ザクレロ。タテ、ヨコ、高さ共に大型のそれは艦艇の中に収まるのには向いていない
だが、この手の機動兵器は、戦場の移動には燃料消費の観点から、どうしても艦に頼る必要があった。
牽引という手もあったが、試作兵器でありメンテやデータ収集が必要な都合上、無理矢理ヨーツンヘイムの
艦内に押し込められていたのが、急な戦闘では災いしてしまった。
モビルスーツなら架台の上に立ち、スラスターを受熱板に当てて反動で飛び出すのも可能だが
このザクレロを支える架台は無いし、スラスターの位置が低いので受熱板も当てられない、
結局、至急の発艦なら何らかの方法で引きずり出すしか無かった。
「そう思うなら戦果で示せ!」
キャデラックの注文に、デミトリーは目を光らせて答える。
「もちろんでさぁ、ここはまさに俺が、そしてコイツが望んだ戦場だ。」
艦から引きずり出されるザクレロ、その複眼のような切れ目が妖しく光り、スラスターが青い光を灯す。
そのコックピットのモニターには戦場の隅、連邦軍の艦隊が陣取る方向を捕らえている。
「ザクレロ発進!目標、敵機動艦隊!!」
そのスラスターが火を吹き上げ、巨大なモビルアーマーは急速発進する。初の、そして理想の戦場に。
「ま、待てっ!」
ジャックは反射的にその黄色い巨体を追跡に入った。何故ヅダを差し置いてそいつを追ったのかは分からない
ただ、アレが見た目以上に危険な機体であること、そんな予感が彼を動かしていた。
しかし、ジムの速力ではとうてい敵わなかった、黄色い化け物にみるみる置いて行かれるジム。
その進む先を見て、ジャックの嫌な予感は確信に変わった、あいつは・・・ヤバい!
「拡散ビーム砲クーベルメ、発射準備!」
膨大なGに耐えながらスイッチ操作するデミトリー、4隻の連邦軍艦隊との距離がみるみる詰まっていく。
「みんな、逃げろーっ!!」
通信に向かって叫ぶジャック、もう止められない、惨劇が目の前にあった。
366:三流(ry
17/07/02 23:16:11.67 c4SS+G9s0.net
「敵、単機で急速に接近してきます!」
サラミス級シルバー・シンプソンの艦橋に報告が飛ぶ、その言葉の意味を租借する前にコトは起こった。
「発射あーっ!」
ザクレロの口から前面に拡散ビームの花が咲く、それを照射したままザクレロは連邦軍艦隊のど真ん中を通り過ぎた。
5本のビーム杖は連邦軍艦隊の中を踊り、通過する。あっという間に離れていくモビルアーマー。
後に残ったのは、爆発するマゼラン級戦艦の艦橋、そして推進部、砲撃部・・・致命傷であった。
一瞬の閃光と共に、艦隊の中心で爆発する旗艦マゼラン、多くの兵士は何が起こったのか理解出来ないまま逝った。
それを最も理解したのは、ザクレロを追ってきたジムのパイロット、ジャックだったのかも知れない。
「全速で突っ切って・・・すれ違いざまに広範囲ビームで薙いでいきやがった、通り魔かアイツは!」
「うまく行ったぜ、減速、反転!」
ニヤリと笑うデミトリー、このザクレロの初の戦果がマゼラン一隻、上等だがまだまだ!
最高速と広範囲攻撃に特化したこのザクレロにとって、小回りがきくモビルスーツ戦は不向きだ。
しかし艦隊に対する突撃突破式のヒット・アンド・アウェイならこの機体は最適だ。
高速で機動中は照準もままならないが、戦艦なら的が大きいから照射しながら通過すれば運次第で命中する可能性大だ、
しかも今、連邦軍モビルスーツはこちらの基地に詰め寄ってきている。後方に控える艦隊がダメージを受けたとなれば
奴等も悠長に基地攻略に当たっているわけにもいかない、帰る船が無くなればいくら基地を陥落しても
ソロモンからの援軍に叩きつぶされるのみだ。事実、効果は絶大だった。
「マゼランが撃沈!?マジかよ」
「艦の防衛はどうなっていたんだ!」
「サラミスは無事なのか?」
「好機だ、連邦の犬どもを押し返せ!」
「603の試作兵器か?さすがオデッサの英雄!」
敵味方に飛びかう通信、戦場は攻勢が連邦からジオンに移りつつあった。
「いけぇっ!」
再度艦隊に突っ込むザクレロ、艦隊も応戦するが、戦艦に対して小さく、高速で起動するその的に命中弾は出ない
再び5本のビームが艦隊内を踊り、通過する。その姿を艦隊の真上で捉えるジャック。
通過したとき、1機のサラミスが爆発する、それは・・・ジャックの乗艦であるシルバー・シンプソン!
「野郎おおおおっ!」
すでに遙か向こうで光点になった黄色い悪魔を睨む、同じ艦の仲間が一瞬で消えた、またひとつ帰る場所を失った。
喪失感と怒りに満たされながら、しかしジャックは心の芯でひとつの言葉を思い出していた。
-相手を褒めるんだよ-
分かってる兄貴、やつだって単機で艦隊のど真ん中に特攻してるんだ、ひとつ間違えば認識もできない死だ。
勇敢さがあって初めて出来る戦法、なら俺は・・・
367:三流(ry
17/07/02 23:17:04.26 c4SS+G9s0.net
「敵機、再接近!うわあぁぁっ!」
残りのサラミスの艦内に悲鳴がこだまする、悪魔のようなモビルアーマーが三度、この艦に突っ込んでくる
すれ違いざまに放たれたビームは、今回は虚空を薙いだだけだった。もともと照準も付けずに撃っている、
残艦が少なくなれば命中率が下がるのも仕方ない、そんなことは折り込み済みだ。
機体を減速させて次の攻撃をアタマに描いた瞬間、デミトリーは妙なモノを見た、
自分の前を、同じ方向に飛んでいく機体、603の観測ポッドか?いや違う、こいつは・・・
相対的にまだそいつより速かったザクレロが「ソレ」を追い抜く、それは・・・
「連邦軍のモビルスーツ!なんでこんな所にっ!」
「いらっしゃい、待ってたぜ悪魔
368:!」 相対速度がほぼ同じである以上、両者は併走状態になる、この間合いはモビルスーツの間合いだ! 「くたばりやがれっ!」 ザクレロの真上からビーム・スプレーガンを乱射するジム、全弾直撃し反射の火花が咲く、やったか!? 「何っ!?」 ザクレロの頭部は黒くすすけてはいたが、穴は開いていなかった。 「対ビームコーティングかっ!」 「マシンガンなら良かったんだがな、惜しかったなモビルスーツ!」 ジムに向き直り、右手のヒートナタを振りかざすザクレロ。 「くっ!」 盾でそれを受けるジム。通常の受け方では無く、下面から縦方向に受け止める、先のザクにも決めた打ち込み方、 エディとジャックがジムの操縦方法を研究する課程で、ルナチタニウムの盾の使い方は大きな研究材料だった。 これのみがガンダムと同じ強度を持つなら、その使い方次第で防御力も接近戦での戦力も非常に重要だ。 普通の盾の受け方をして早々に使用不能にならないようにする動きがオハイオ・ジムには組まれていたのだ。 しかしヒート・ナタも並みの武器では無い、刃の先端が盾に食い込んだ状態からナタを加熱し、ジムの盾を 溶かしながら斬り進んでいく。 ここでジャックは思い切った行動に出る。盾ごと左腕を回転させ、テコの原理でヒート・ナタを巻き込み、ひん曲げる。 薄刃な上に熱を通しているその刃は、横方向の力を受け折れ曲がり、熱を失う。内部で断線したのだろう。 宇宙の低温で急激に冷やされる両金属、特にルナチタニウムは加熱から冷却による固着が速い。 そのままヒート・ナタを取り込み、盾と鎌は溶接されたようにくっついてしまった。 刃がちょうど盾のシャークペイントの顎の根元で止まっているその姿は、まるで鮫がザクレロの腕に 食らいついているようだった。 「もらった!」 もう逃がさない、ビームサーベルを抜き、ザクレロに突き刺そうと振りかぶるジム。しかし次の瞬間大きく揺さぶられ、 木の葉のように振り回される。ザクレロがジムを振りほどくべく急激に方向転換したためだ。それでも両者は離れない。 「くそっ!ひっついてんじゃねぇ!!」 デミトリーも必死だ。ザクレロの機動力を持ってすればモビルスーツに取り付かれる心配などない。 しかしこういう形で食らいつかれてはやばい、あのサーベルで突き刺されたらコーティングも持たないだろう。 死にものぐるいで振りほどきにかかるザクレロ、必死に姿勢を直し、サーベルを刺そうともがくジム。 黄色い化け物とそれに食らいついた鮫、2匹はそのまま戦場を不格好なダンスで横断していく。
369:三流(ry
17/07/02 23:17:41.86 c4SS+G9s0.net
「曹長!」
ヨーツンヘイム付近からワシヤ中尉のジムが飛ぶ。
「あの、バカ!」
基地周辺からエディのジムが機動する。
幾度かのダンスの後、振り回されながらもついにサーベルを刺さんと姿勢を取るジム、しかしそれはザクレロの
真っ正面での体制だった。ザクレロも口内ビームをジムに向ける、外しっこない距離、どっちが速い!?
ジムのサーベルだ!しかしそれは命中直前で突っ込んできたヅダのシールドが受け止める、返す刀で発射される
ザクレローのビーム、直撃かと思われたが、別方向から高速機動してきた別のジムによって的をかっさらわれる
溶接された部分がちぎれ飛び、ジャックのジムを抱えて飛び去るエディのジム。
「ぐは、っ・・・エ、エディさん?」
「もう十分だ、撤退するぞ!」
「・・・え?」
分からない、もう少しであの悪魔を仕留められた。逃がせばまた脅威になる。しかも艦を半分失い形勢不利な
この状況で撤退は・・・
「あれを見ろ!」
ジオンの基地に目をやる、そこには小さな爆発の光芒が連鎖的に起こっていた。
「な・・・マドックが、沈む!?」
呆然と見やるデミトリーに、ワシヤが説明する。
「多分、内部に侵入されていたんだ、戦闘開始してすぐだろう、内側からやられたら手の打ちようが無い、
ここは引くぞ!」
「ぐっ・・・」
歯がみしながらもザクレロをヨーツンヘイムに向けるデミトリー。見ると基地に詰めていたムサイやパプアも数隻
離脱を開始している、残存するモビルスーツもそれに向かう、基地が無くなればそこを死守する意味は無い。
連邦軍もまた残った2艦のサラミスに撤収しつつあった。もともとポーズだけの小競り合いの予定だっただけに
基地を沈めたらそれ以上は望まないし、旗艦マゼランを沈められた以上、長期戦も出来ない、いい潮時だろう。
サラミスに取り付いて帰還の途に入る連邦軍、全員が戦死者に敬礼を送りつつ宙域を後にする。
ジャックはふと、自分のジムの盾に刺さったままの敵の刃を見やる。
同胞はこいつに殺された、憎むべき敵の刃。・・・いや、違うな。敬すべき勇者の牙の痕。
それを盾からもぎとり、その空間にそっと投げ落とす、その刃を見送って敬礼をし直す。
数時間後、ジャブロー攻防戦が連邦軍の勝利に終わった一報が入る、
ジャックもエディも、これから苛烈になる戦争の予感を感じていた。
第七話でした。ザクレロは前作でも出しましたが本当に好きな機体です。
しかし唯一の華がトゲだらけのバラというべきキャデラックさんとは、色気の無いSSだ。
そのへんは艦これの人に任せるか(失礼w
370:三流(ry
17/07/02 23:23:25.01 c4SS+G9s0.net
あ、致命的な誤字・・・
>>316
×ワシヤ中尉のジム
○ワシヤ中尉のヅダ
・・・何やってんの俺orz
371:三流(ry
17/07/06 23:41:30.39 vRohA6le0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第八話 ソロモンの時間、前編
「大隊長就任、おめでとうございます。」
ジャックがグラスを掲げそう言うと、周囲の30人ほどから拍手が起こる。まぁグラスの中身は全員ただの水ではあるが。
「ありがとう、みんな。隊長としての責任を痛感するよ。」
薄く笑いながらエディ・スコット大尉がグラスを上げ、言う。
ソロモン決戦の直前、部隊編成に際しエディは前回の戦闘の功績が認められ、ジム・ボール大部隊の
指揮官に抜擢されることとなった、その記念顔合わせパーティ。
「まぁ特進、抜擢も当然ですよ、ドム5機にザク3機撃破ですからね。今やルナツーのエースだし。」
「しかしお前は曹長のままか、貧乏くじだったな。」
エディ大隊、その末席にはジャックも加わることになる。しかしエディは功績と抜擢の都合上
一気に大尉まで抜擢されたのに比べ、ジャックは元々雇われ軍属であり、正式な軍教育を受けていないことから
階級、立場共に変化無しだった。
「別にいいですよ、出世したくて軍に入ったわけじゃなし。」
かつては復讐のため、しかし今は自分の居場所と、無き兄貴の意思を継ぐため、自分はここにいる。
「そういや聞いたか?お前がやり合ったあのモビルアーマー・・・」
「ええ、先日の戦闘であっけなく倒されたそうですね、あの「ガンダム」に。」
ジオン軍モビルアーマー、ザクレロ。先日の基地攻防戦において、ジャックと死闘を演じた悪魔。
その最後はあっけなかったものらしい、連邦軍のフラッグ・モビルスーツともいえるRX-78/2・ガンダムとの
遭遇戦で最後を迎えたそうだ、ものの30分もかからない戦闘で。
憎き敵ではあるが、�
372:h意を払うべき強敵でもあった。それがいともあっさりと散ったことにジャックは 切なさを感じずにはいられない、そんなにも差があるのか、ジムとあの「ガンダム」には・・・ 「そういやあのガンダムを乗せた戦艦も合流するらしいな、ホワイトベース、だったっけ?」 「ああ、指令も話してたよ。少年兵がほとんどのの部隊らしいが、各地で大活躍したらしいぞ。」 グラスの水をあおり、ひと呼吸置いてみんなを見回して言う。 「さぁ、俺たちも負けてられないぞ!そろそろ任務に戻ろう!」 「はいっ!」 全員が一斉に敬礼、散開する。ここは旗艦マゼランの中、本来は彼らも任務中だが、艦の指揮を執る ワッケイン指令の計らいで設けた小休止の席、いつまでも浮かれてはいられない。
373:三流(ry
17/07/06 23:42:09.70 vRohA6le0.net
ルナツーおよび地球から出動した大艦隊、その中心に彼らはいた。いよいよ敵要塞ソロモン攻略「チェンバロ作戦」、
この決戦に際し、ルナツーをほぼカラにして出てきた。理由は一つ、ソロモンの陥落後、そこを前進基地にするため。
捕らぬ狸の何とかという者もいるが、連邦軍には確固たる勝算があった。
ソロモンの防壁は強固を極めている、中でも脅威なのが「ネズミ取り」と言われる自動選別攻撃装置。
無人のビーム砲台なのだが、基地表面や通路の各所に無数に配置されていて、しかも見えないように
カモフラージュされている。
識別信号を発していない機械が近づくと無条件で攻撃、撃滅されてしまう。戦闘がモビルスーツ戦に特化しつつあり
要塞攻略がモビルスーツによるアタックに準じるならば、このシステムは攻める側にとってまさに脅威だ、
基地に取り付いたジムは、敵モビルスーツと戦いながら、いつ別方向から狙撃されるか分からない恐怖にさらされる。
逆に敵はその場所を熟知している、誘い込んで十字砲火を浴びせるなど戦術はいくらでもある。
ジオンに潜入しているスパイから得たこの防壁を突破する方法、それに連邦軍はチェス盤を
ひっくり返すような方法を採用した。
-新兵器ソーラーシステム-
無数の集積ミラーを使い、ソロモンの外壁をネズミ取りごと焼き尽くし、そこから内部に突入しようというのだ。
敵がネズミ取りをあてにしているなら、敵部隊はソロモン表面からそうは出てこないだろう、それを逆手に取り
この新兵器で一気になぎ払ってソロモンを陥落させる腹だ。
「俺たち第三艦隊は時間稼ぎが目的だ、ただ手を抜いて敵さんにバレたら最悪、ソーラーシステムの展開前に
鏡を全部割られるってこともある、引っ越しの荷物を全部ルナツーに持って帰るハメになるぞ。」
エディ大隊のジム・ボールにエディの通信が飛ぶ、最終ミーティングは出撃前のコックピットでするのが恒例だ。
だが、エディの軽口にも笑う余裕のある者は少ない、各機体のモニターには、不気味な十字の要塞が映し出されている
猛将ドズル・ザビの守護する軍事要塞、さらに決戦ともなればジオンの名のあるエース達も出てくるだろう。
赤い彗星シャア、白狼マツナガ、深紅の稲妻ジョニー・ライデン、アナベル・ガトー・・・
現場の兵士にとって、この戦闘が上層部の思い描くような楽観的な戦闘では決してないのである
374:三流(ry
17/07/06 23:44:19.10 vRohA6le0.net
宇宙世紀0079:12月24日、ソロモン会戦が開始される。
連邦の先行部隊によりビーム攪乱幕を展開、要塞設置の主砲が無力化されたことにより、ジオンは艦隊を発進、
水際の戦力を分散させることに成功する。
第三艦隊のモビルスーツ部隊はいくつかに別れ要塞を襲撃、別働隊の第二艦隊がソーラシステムを展開するまで
時間を稼ぐのが任務だ。
「各人、時計合わせ。3・2・1・・・スタート!」
全員がシステムの、そして手持ちの時計のアラームを合わせる。今からきっかり一時間後、
ソーラーシステムが照射される。
それまで敵を要塞に釘付けし、時間直前に離脱する、時計を見ながらの戦いに緊張が走る。
その時に逃げ遅れると味方の武器で焼かれる羽目になる、かといって時間が来たからといって撤退する敵を
ジオンが放っておくはずも無い、敵との押し引きの間合いが鍵となる。
「エディ大隊、全機発進!」
大隊長の号令と共に、マゼラン1隻、サラミス5隻の艦隊からモビルスーツ・ジムとモビルポッド・ボールが
次々と発進、合計30機が隊列を組み、敵要塞の右上部分にむけて突進する。
他の艦からも次々にモビルスーツ等が発進している、遠目には特徴的な形状のペガサス級戦艦ホワイトベースの
姿も見える。彼らは別働隊、例のガンダムの活躍は見えないか、とジャックは思う。
「まぁいい、俺は俺の戦いをするまでだ!」
エディ大隊の先頭を切ってシャークシールドのジムが進む、その目標点の要塞部から、次々に光点が発進していく。
来た、敵モビルスーツ部隊、かなりの数、相手も大隊クラスか。
「フォーメーションα!攻撃開始!!」
ジャック含む前列の6機のジムが一斉にバズーカを放つ、クモの子を散らすように散開する敵モビルスーツ。
先行のジムはそこで分散、自分たちの隊列の中央に穴を開けると、二陣に控えていたボール6機が一斉に砲撃を開始する。
密集した状態での連続砲撃が次々とソロモン表面に着弾、そこでボールはブレーキをかけ停止、固定砲台としての
位置を確保する。
先行していたジムに続き、第三陣のジム・ボール部隊18機が突撃。ジムはマシンガン、ボールは近接戦闘型、
相手の懐に飛び込んで飽和攻撃そ仕掛ける算段だ。
375:三流(ry
17/07/06 23:45:09.31 vRohA6le0.net
だがジオンもしたたかだ、ボールの砲撃に動揺せず、散開したザク・リックドム部隊が小隊ごとに連携、
手近なモビルスーツを包囲して叩きにかかる。連邦の機動&飽和攻撃vsジオンの連携攻撃、戦闘の空間に
ひとつ、またひとつ、爆発の光芒が咲く。
ジャックはすでに要塞表面近くまで来ていた。ビーム攪乱幕が充満しているため、スプレーガンや
ビームサーベルは使えない。残弾の尽きたバズーカを捨て、モビルスーツ用のマシンガンを装着
敵モビルスーツに銃撃を浴びせる。だが敵も動きを止めず、直撃を盾で巧みに防ぐ、こいつら・・・強い!
先日の攻防戦とは明らかに敵の練度が違っていた。操縦するのが困難なジオン製モビルスーツを
まるで手足のように使い、小隊規模で囲んで倒しにくる。
ドムがバズーカを放ち、ザクがマシンガンの死角からヒートホークをかざして接近、彼らはここで
目標の破壊を確信しただろう、しかしそれはジャックが仕掛けた罠!
突っ込んでくるザクに盾を打ち込む、モノアイスリットを丸ごと破壊するジムの盾。次の瞬間には
ザクはマシンガンの銃撃を浴び、爆発する。その刹那、機動したジムを別のドムのヒートサーベルがかすめる。
油断も隙も無い、一瞬の油断も即、死につながる。考える暇すら惜しんで起動し、戦闘のワルツを踊るジム。
後詰めの部隊の援護砲撃によりなんとかドム2機の追撃を振り切るジャック、そこで振り返り、戦場を見る。
明らかに押されている、砲台の役目を担うボール部隊は敵に接近されると危険度が増す、それを逆手に取り
ボールを狙うと見せて、フォローに入るジムを囲んで倒す。遠距離射撃を防ぐべく閃光弾で有視照準を狂わせ
ボール部隊に切り込むドム。やはり要所で機動力に劣るボールがアキレス腱となり、的確にそこを突いてくる。
「要塞表面に集結
376:しろ!」 エディ大隊長の檄が飛ぶ、広範囲空間の戦闘は敵に一日の長がある、だが要塞周辺に迫られれば敵も 戦闘のみでなく防衛も意識せざるをえない、時計を確認、あと25分!持つか・・・? 足の遅いボールを先行させ、敵の攻勢を食い止めるジム達、その動きにさすがに敵も焦りを見せる。 一斉にソロモン表面に殺到する敵味方モビルスーツ。
377:三流(ry
17/07/06 23:45:53.21 vRohA6le0.net
要塞表面で味方を待つジャック。しかしその時、彼は背中に冷たい気配を感じ、振り返る。
要塞のハッチから、一機のモビルスーツが姿を現す。銀色に輝く、見たことの無い機体、新型か!
嫌な予感を感じ、即そのモビルスーツに特攻するジム、マシンガンを放つが、レモンのような形の盾に蹴散らされる。
次の瞬間、猛烈な勢いで機動する銀のモビルスーツ。あっという間にジャックとの距離を潰し、体当たりを食らう。
「ぐわあっ!」
ぶちかましを受け、吹き飛ばされるジャック機、次の瞬間にはそのモビルスーツが抜いた両刃のビーム長刀が
ジムを胴薙ぎにしていた。
「ぬ、ビーム攪乱幕か、なるほど・・・」
銀色のモビルスーツ、ゲルググのコックピットで男が呟く。薙いだはずのジムの胴はまだつながっていた。
新型の機体、その性能に気がいって戦場の状況を把握しきれていなかった、攪乱幕がビーム長刀の
威力を弱めていたのだ。
しかし彼の目的はジム1機の破壊ではない、戦場が膠着しつつあるのを見て、彼は指揮から戦闘に仕事を変えた。
大隊長である自分が自ら敵をなぎ倒し、味方を鼓舞し、敵の戦意を潰すために。
ジャックのジムを無視し、連邦軍部隊のまっただ中に突き進むゲルググ、マシンガンを猛射し、
ボールを、ジムを討ち取る。
「カスペン大隊長!」
「俺たちがやります、無理をせずに指揮を!」
ジオン部隊に合流したモビルスーツが声をかける、カスペンがそれに返す。
「私に気を遣ってる暇など無いはずだ、攻勢をかける機会を見逃すな!」
突如現れた強力な新型モビルスーツ、その存在に連邦部隊は明らかに動揺していた。もしあの銀色の機体が
次々と要塞から出てきたら・・・
「させるかあっ!」
銀色の機体が脅威と感じ取り、すかさず突撃するエディ大隊長のジム。こいつが戦場にいるだけで味方は萎縮する
しかし今こいつを倒せば状況は変えられる、敵のモビルスーツとのわずかなやり取りから、この機体の主が
この大隊の指揮官であることをエディは読み取っていたのだ。
マシンガンを撃ち、敵に突進するジム、ゲルググも受けて立つとばかりに機動、盾を前面に構えマシンガンを蹴散らし
ヒートホークを打ち込む、盾で受け止めるエディのジム。、しかし出力の差がありすぎる、そのまま押し込まれる。
その接触を合図に周囲でも激しい軌道戦となる、しかし士気の差は歴然。一機、また一機と落とされていくジムとボール、
もともと撤退する予定だっただけに、不利になると逃げたい衝動がどうしても沸く。それは練達の部隊相手の戦闘で
致命傷になる隙だった。
378:通常の名無しさんの3倍
17/07/06 23:53:49.08 YdysfcqhO.net
①①①①
379:三流(ry
17/07/06 23:54:06.42 vRohA6le0.net
ゲルググに押し込まれ、どんどん要塞から遠ざかるジム、目の前で自分の部下が次々に戦死していく。
「くっそおぉっ!」
食い込んだヒートホークごと盾を捨て、ゲルググをいなして戦場へ向かう、それは大隊長としての責任感、
しかし機動力で勝る敵に背中を向けることは自殺行為に等しかった。
追撃するゲルググはあっという間にジムに追いつき、とどめの一撃を加えんとす。
その時、カスペンは目の前のジムの陰から、勢いよく特攻してくるジムを発見した。
「野郎おぉぉぉっ!!」
ジャックがゲルググに吠える、エディを救うため、コイツにさっきの借りを返すため、戦場のど真ん中を突っ切ってきた。
ゲルググに体当たりを食らわすジャック・ジム。間に盾を挟み、サメの顔のペイントをゲルググのモノアイにたたきつける。
「すまん、ジャック!頼むぞっ!」
ゲルググをジャックに任せ、主戦場へと飛ぶエディ機。時計を確認、ソーラーシステム照射まであと3分!
間に合うか・・・?
第八話でした。
戦闘シーンは正直文章にするのが難しいです、頭の中で描いた戦闘を文章にしても
読んでる人がその光景を思い浮かべられるかというと・・・正直自信が無いです。
感想待ってます。
380:彰悟 ◆/kMkUoNu4nM8
17/07/07 20:23:15.14 QQcobQdK0.net
マリナがガンダムファイターだったら...という仮定のストーリーを今日書いた分だけですが投下します。
至らないところもあるかと思いますがよろしくお願いします。
簡単に言うと00にGガン的な要素を加えた感じです。また、マリナの設定が原作と違っている箇所もあります。
実を言いますと、ちょびっとだけHなシーンと、決してグロではないですが肉体的な痛みに関するシーンがありますので、もし行き過ぎと言うご意見がありましたら改善しますので教えて下さい。
381:彰悟 ◆WGq.sh.Da.
17/07/07 20:25:25.69 QQcobQdK0.net
皇女の戦い 第一話
西暦2307年......太古より続く戦争に終止符を打つ為人類は代理戦争を開始した。
兵器ではなく、MF(モビルファイター)による格闘...「ガンダムファイト」。
勝利した国は四年間地球における覇権を握ることができる。
ユニオン、AEU、人類革新連盟...これら強大な組織を構成している国々もこぞって参加している。
...そしてそれは中東の国家アザディスタンも例外ではなかった...
ここはアザディスタンの王宮にあるシャワールーム。
白い大理石でできたそこはある女性を中心に仄かな花の香りが漂う。
シャンプーでその細い肢体を洗うのは当国の皇女マリナ・イスマイール。
艶と深みを持った長い黒髪はシャンプーの香りを纏わせながらお湯に濡れ静かに揺れている。
清廉かつ雅な顔立ちは穏やかな時に浸りながらもどこか物憂げだ。
無理もない。彼女は皇女でありながらこの国を代表するガンダムファイターとなり、公務と同時にその訓練にも身をやつしているのだから...
382:彰悟 ◆/kMkUoNu4nM8
17/07/07 20:26:52.66 QQcobQdK0.net
「もうじき決勝...」訓練のみならずサバイバルイレブンという時期に挑戦してくる複数の国のファイター達を何とか倒し経験を積み、自信を持ち始めたとは言え不安が残る
やはり強豪達の戦力を全て把握することは当国の情報網をもってしても難しい。
音楽の道を自ら諦めてでも国を守りたくて正式に皇女となったマリナ。一見闘いなどとは無縁そうな彼女はいくら戦争ではないとはいえ身を以てしてでも国の為に尽くす為周囲の反対を強く押し切りガンダムファイターとなった。
まだファイトの制度が影も形もなかった時、命がけで戦っている軍人達や難民達のいる場所に直接慰問に行こうとしても大臣達から止められた。その歯痒さがあっての決心だった。
確かに国内での争いは終わったが、今度こそ、豊かな資源と高度な医療を手に入れて国を豊かにしたいと願っている。
(もっと強くならなければ......誰も守れない...)
小振りな胸に細い手をぎゅっと押し当てる。
彼女の身体は普段王宮にいる時や外交時の服からは少し想像できないかもしれないが、生来の華奢で�
383:Y麗な体型はそのままに訓練の成果もありほんのりとだが引き締まっている。 ファイターとしての最低限の動きをする為のトレーニングと、非力さを補う為の合気道と弓の訓練。 鉄球や斧と言った重い装備を扱う機体はやはり彼女には荷が重い。 ファイターの動きが機体に反映されるモビルトレースシステムにはそういう側面もあるが国を立て直す以上耐えなければならない。 非力な彼女には軽量の武器と相手の力を活かす合気道が必要不可欠だった。
384:彰悟 ◆/kMkUoNu4nM8
17/07/07 20:28:25.44 QQcobQdK0.net
「マリナ、また物思いに耽っているの?」
低く怜悧な馴染みのある声に振り替える皇女。
「シーリン?待って今上がるわ。」
今まで自分が考えていたことを悟られたかのような気がして気恥ずかしくなり、慌てて身体を拭くと就寝用の服に着替えて廊下に出ればそこには声の主が立っていた。
「あまり考えすぎると戦いに影響するわ。今のあなたは普通の皇女ではないのだから...」
そこに長年の関係故の優しさを感じて微笑を浮かべるマリナ。
「ありがとう。でも大丈夫よ。貴女やみんなの力があったからここまで来れたし...最初の時の私ではないわ...」
「だと良いのだけれど...」一瞬穏やかな笑みを浮かべたがどこか思案の色が残るシーリン。
彼女は知っていた、マリナには生まれ持っての甘さが多少残っていることを。
「お休みなさい、私達のガンダムファイター...」
ゆったりと、だが凛とした足取りで寝室に戻るマリナを淡々とした声で見送った。
385:通常の名無しさんの3倍
17/07/07 20:29:48.34 QQcobQdK0.net
今日書いた分はここまでです。
また時間のある時になるべくコンスタントに書けたら良いなと思います。
それでは。
386:彰悟 ◆uY9yPxz22U
17/07/07 20:33:22.47 QQcobQdK0.net
すいません、トリップミスなので変えました。
失礼しました。
おやすみなさい。
387:通常の名無しさんの3倍
17/07/09 19:50:47.04 S/4jpYTJ0.net
お二方乙です。
三流(ry氏さん
個人的にですけれど、視点移動が目まぐるしくてちょっと混乱してしまうことがあります。
けれど、それが文章のスピード感に繋がっているとも思うので、上手い落としどころを見つけられればなと。
僭越ですが。
彰悟氏さん
まさかのマリナ様ファイター化に戸惑いが隠せませんでしたw
オービタルリングがプロレスリングになるんですかね
続きを待ってます。
ところで、自分の環境ではスレ容量が466KBになってます。
これはこのスレの頭の方で議論されていた通り、ワッチョイ導入で次スレを立てたほうが良いですか?
いかんせんこのスレを覗き始めたのは最近なので勝手がよく分かっていません。
誰かレスポンスお願いします。
388:通常の名無しさんの3倍
17/07/09 20:16:58.27 J24v2/9a0.net
俺の環境だと328KBだよ
389:通常の名無しさんの3倍
17/07/09 23:49:37.03 6aZ7LO6W0.net
こっちは432kb
ちょうど次のssが来たら十分な感じになるってかんじ
次投下する人が立てればいいんじゃないかね
ワッチョイいる?
390:通常の名無しさんの3倍
17/07/10 00:16:12.23 fsuPpCt90.net
ワッチョイは自分は特に要らないかなあ
読者の立場だけど、荒らしは内容ですぐ分るし、投下してくれる職人さんがワッチョイで基地外に他スレまで粘着されても申し訳ない
391:通常の名無しさんの3倍
17/07/10 03:28:08.49 9X3TggiZ0.net
今のところ荒らしも現れてないし、要らないんじゃね
次で前みたいにあらしが酷くなったら再度検討ってことで
392:ylCNb/NVSE
17/07/10 18:29:56.60 fA1jv6E30.net
―艦これSEED 響応の星海―
「敵影発見! 攪乱酷くて数補足できないけど・・・・・・13時方向、距離15に敵の増援だよ!!」
「10時方向から魚雷接近、数9!」
「ト級砲撃! 直撃コース来るぞ!」
三日月陰る深夜3時。
曇天で光源に乏しい大海原。一寸先だってまともに視認できない暗闇で、佐世保の命運を賭けた防衛戦が開始されて早6時間、榛名率いる第二艦隊は敵侵攻部隊の第4波襲来を感知した。
現在、単縦陣にて同航戦。左舷は敵雷巡隊に、右舷は敵軽巡隊にと阻まれている格好にあり、このまま前進すれば敵増援に頭を抑えられる状況下にあった。早い話が、包囲寸前の絶体絶命である。
しかし、榛名の顔にはまだ余裕があった。
「取舵30、第一戦速で回避。木曾と瑞鳳はそのまま右舷ハ級群に火力を集中。響さん!」
「了解。響、突撃する」
状況だけを見れば確かに劣勢。だが、この程度ならまだまだ余裕で切り抜けられると確信していた。
敵第3波の生き残りも残り僅か、第4波到着前のこの攻防で片付けられるだろう。
「Урааааа!!!!」
響が吠え、単身最大戦速で左舷側、雷撃戦を仕掛けてきた深海棲艦の群れに突っ込んだ。
苦し紛れに魚雷を撃ってきた化物3体がターゲット。前衛に軽巡ホ級が2、後衛に雷巡チ級が1、そのどれもが手負いだ。
左腕に装備した12.7cm連装砲B型改二でホ級に牽制しながら、扇状に放たれた魚雷の隙間を勘と経験頼りにスルリと滑り抜けた響は、あっという間に中央のチ級に肉薄する。
「ギ、ギッ!?」
「無駄だね」
白い仮面で覆われた頭部と、右腕に装備した盾のようなパーツが特徴的な深海棲艦は甲高い呻き声を発し、後退して更に魚雷をバラまこうとした。
しかし、もう遅い。
艤装に備えられた超重量の錨(いかり)を投擲し、チ級を弾き飛ばし絶命させた響はそのまま速度を落とさず、
一息で防御態勢に入っていたホ級の間を抜ける。同時に反転、両脇に備えた61cm四連装酸素魚雷発射管から一発ずつ、無防備な背中めがけて魚雷を射出した。
直後、爆発。
「ガ、ア゛ァァァァッーー―・・・・・・・・・・・・」
393:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 18:32:06.02 fA1jv6E30.net
まともに喰らえば戦艦だってただでは済まない一撃に、深海棲艦達は赤々とした爆炎に包まれる。更に、その光を頼りに標準を定めた榛名の35.6cm連装砲が火を噴き、左舷敵雷巡隊は完全に沈黙した。
その間わずか十秒。
速さだけが取り柄の駆逐艦の身でありながら、熟練の早業で格上の巡洋艦クラス3隻を手玉にとった響は、涼しい顔で錨を回収しながら木曾達に合流する。右舷ト級群はとっくに全滅していた。
どうやら全員が無傷のまま、第3波の撃退に成功したようだった。
「おつかれさま―。大丈夫? 怪我ない?」
「大丈夫だよ。全然」
「瑞鳳、敵増援はどうなっている?」
「あ、ええと・・・・・・うん視えた。こっちに向かってるのは・・・・・・戦艦ル級3、重巡リ級4、軽巡ヘ級6、駆逐ロ級6、駆逐ニ級10―かな、多いなぁ。方位0-3-5に向けて20ノットで進行中」
「松島方面か・・・・・・使えるな。榛名」
「十字砲火でいきましょう。榛名達はこのまま敵陣右翼後方につきます。木曾は信号弾を」
「応」
状況はそう悪いものではなかった。
長崎半島周辺を守備する第二艦隊は、開戦当初こそ敵侵攻部隊のあまりの数に泡食ったものの、後方火力支援隊の尽力もあって、迅速かつ安全に殲滅することができたのだ。
その後も第2波、第3波と大部隊が押し寄せてきたものの、長年のチームメイトでもある彼女達は今まで迎撃戦を主体にしてきたという経験もあって、苦もなく戦い続けることができていた。防衛ライン構築にあたり構成員
をシャッフルされた第一艦隊と第三艦隊と異なり、人数こそ減ってしまったものの「いつものメンバー」のまま据え置きで運用されることになったのも大きい。
阿吽の呼吸によるコンビネーション攻撃は、彼女らの一番の武器だ。
「しかし大盤振る舞いだね今夜は。なにか良いことあったのかな」
速力と防御力を活かした近接格闘戦を得意とする、特三型駆逐艦二番艦の響。
「借金取りにでも追われてるんじゃないか。なんにせよ、オレに勝負を挑む馬鹿は三枚おろしだ」
長距離雷撃戦と対空戦を本領とする参謀役の、球磨型重雷装巡洋艦五番艦の木曾。
「そうだ。今のうちにお弁当食べる? 私も大盤振る舞いして特製卵焼き、たくさん持ってきたんだから」
艦載機を使役して艦隊の「目」となる攻防の要、祥鳳型軽空母二番艦の瑞鳳。
「あら、いいですね。榛名はこの前のダシ巻きが気に入ったのですけど、ありますか?」
そして圧倒的な砲撃能力と継戦能力を備える、リーダーの金剛型戦艦三番艦の榛名。
佐世保の遊撃担当であった面々は、この現状では最も安定した戦力となっていた。
394:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 18:41:41.52 fA1jv6E30.net
すいません。
本文中にNGワードがあるみたいなので、調べる為に投下を中断します
395:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:10:48.05 fA1jv6E30.net
当然だ。この状況で不安にならない方がおかしい。明るく気丈に振る舞っていても、なにより瑞鳳は航空母艦で
ある身、艦載機を発艦できない闇夜では自衛すらままならない艦なのだ。辛うじて水上夜間偵察機は飛ばせるので「なにもできない」というわけではないが、その不安も一入だろう。
加えて、第二艦隊はここまでは思った以上に順調にきているのだ。その事実は他の艦隊を気にする余裕と、逆に「こんなに順調でいいのか」という焦燥感を醸しており、それを感じているのはなにも瑞鳳だけではない。
夜の海は気分を滅入らせるものだ。・・・・・・舞鶴には夜になるとテンションが上がる艦娘がいるらしいが。
「大丈夫ですよ」
榛名はしいて明るく前向きに応えた。
「まだ【Titan】が現れたという報告は来てないわ。大丈夫です。金剛お姉様達も、山城さん達も絶対に」
五島列島周辺を守備する第一艦隊―金剛、翔鶴、多摩、雷、電―からも、佐世保湾正面を守備する第三艦隊―山城、鳥海、暁、白露―からも、まだ誰かがやられたという報告も、強敵が現れたという報告もない。
軽傷者は何人か出ているが、皆健在の筈だ。
西に機動性に優れた第一を、東に同じく高機動な第二を前衛として展開し、北に火力に優れた第三を後衛として鎮座させるこの鶴翼の陣は、まだ崩れていない。これを維持できている限り自分達は大丈夫。
それに、と榛名は言う。今までは手ひどくやられっぱなしだったが、今回はしっかりバックアップを整えた陸を背にした防衛戦。いつもの孤立無援な沖とは違うのだと。
残りもたかが17時間。遠くインド洋で戦った時のことを思えば、これくらい。
「仮に現れたとしても、勝手は榛名が赦しません! 【Elite】だろうと【Flagship】だろうと【Titan】だろうと、要は先に叩けばいいんです。そして榛名達ならそれが可能です」
「流石は榛名。そうこなくっちゃな」
「現れないに越したことないけどね」
みんなが内心の恐怖とも戦っていることは重々承知。それが少し溢れたからって的外れな叱責なんてするわけないし、ここは率先して気持ちを共有して元気づける場面だ。
―たとえ空元気であろうと、Titan相手なら苦戦は免れないことを知っていても、皆を励ましてこそのリーダーである。
世話焼きたがりのお姉さん気質であるからこそリーダーに選ばれた榛名は、持ち前の明るさを発揮して叫ぶ。
「そしてなにより! 金剛お姉様は!! 無敵です!!!!」
「・・・・・・えぇー」
「そこで個人、なのかい・・・・・・」
盛大に滑った。
396:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:12:13.96 fA1jv6E30.net
「え、ダメですか?」
「駄目だろ。お前達姉妹じゃなきゃ通じないだろ、そのまじないは」
「そうですか・・・・・・」
「そうだよ。・・・・・あぁしょげるなしょげるな頼むから」
金剛四姉妹はこれだから、と木曾は思わず頭を抱える。
基本的にみんな優秀でイイヤツなのだが、長女である英国生まれの帰国子女・金剛に心酔―もとい絶対の信頼を寄せていて、それはいいのだが「他者もきっとそうだろう」とナチュラルに思っちゃうところが玉に瑕。
金剛自身は紛れもなく人格者で凄いヤツなのは認めるが、台無しだよと叫びたい気分の木曾だった。
「―ふふ、ありがとみんな。元気でちゃった」
ただまぁ、それでも一定以上の効果はあったようで、瑞鳳の口元には若干の笑みが戻っていた。
響も木曾もつられて、苦笑じみた微笑みを浮かべる。
どうやらリーダー渾身の自爆によって、少女達の不安も道連れにシリアスな空気は轟沈したようだった。「不本意です。あそこはバッチリ決めたかったです」とは後の榛名の談。
「士気を落とすようなことを言って、ごめんなさい。もう大丈夫よ」
「そ、そう・・・・・・。それならよかったです。・・・・・・さて―」
響によしよしと頭を撫でられていた榛名も立ち直り、いつもの和気藹々とした雰囲気が復活した。
もう怖い物はなにもない気分だった。
「―所定の位置についたわ。面舵60、微速前進。総員砲雷撃戦用意。」
そうしてタイミング良く、第二艦隊は次の戦場に到着する。
おしゃべりの時間は終わり。
榛名の号令に従い、速やかに戦闘モードに切り替えた面々は深海棲艦の連中に鉛玉をブチ込むべく、主砲の照準を合わせていく。その瞳にはギラリと戦意が煌めく。
気分は上々。不安や恐怖に囚われることなく戦いに赴ける心持ちは、戦士にとっては一番に大事にしたいものだ。精神状態が生死に直結していることを身に持って理解している少女達は、先のやりとりに密かに感謝した。
「戦車隊発砲まで、残り10秒。同時に突っ込むぞ」
「了解」
目の前に広がる暗黒の海。
このわずか2マイル先に計29隻もの深海棲艦が、自分達に背を向け北進している筈だが、ここからでは視認できない。後ろに回り込むべく隠密行動で航行していたのだから、当然偵察機や探照灯は使用できず、
事前に計測した結果が正しいことを信じる他ない。
向こうも此方には気づいていないことと、進路と速度に変わりがないことを祈りつつ、戦闘開始の合図を待つ。
艦娘も深海棲艦も、暗視能力までは持ち合わせていない。これは賭けだった。
そして―
397:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:14:10.92 fA1jv6E30.net
水平線の向こう、8マイル離れた東の地から、遠雷のように重い砲撃音が轟いた。
一拍置いて、2マイル先の海が文字通り火の海となる。
何十何百と打ち出された徹甲弾と焼夷弾が、木曾の信号弾によって指定されたポイントに雨霰と降り注ぐ。続けて照明弾。暗闇に閉ざされた海上に、辺り一帯を照らす小型の太陽が生まれた。
「ビンゴ!!」
「報告!」
「戦艦ル級―1隻小破。重巡リ級―1隻中破、3隻小破。軽巡ヘ級―全滅、駆逐ロ級―2隻撃沈。駆逐ニ級―全滅!!」
沿岸部にずらりと整列した対深海棲艦用の最新国産主力戦車、その主砲である40口径145mm滑腔砲から吐き出された弾丸の数々が、敵戦力を次々と削り取っていく様が浮かび上がる。
戦果も上々。先んじて偵察機を飛ばした瑞鳳からの報告に、賭けには勝ったと榛名は膝を打つ。
「全艦斉射後、分隊。一気に制圧します!」
「測敵良し!」
「照準良し!」
「―てぇーッ!!!!」
畳みかけるように、榛名達もそれぞれの主砲と魚雷を打ち込んだ。
東の八朗岳麓に待機していた戦車隊と、南の榛名達との十字砲火。奇襲を受けた深海棲艦は状況を正確に認識することもできないまま、あっという間にその頭数を半数以下にさせられる。残り、12隻。
ここまで減らせれば充分、むしろ予想以上の戦果だと、木曾は再び信号弾を撃つ。
撃ち方止め。
その要請に従って焼夷弾を最後に戦車砲は途切れ、木曾と響は更に魚雷を射出しながら接近する。この一連の連携こそが、佐世保の防衛がここまで上手くいっている要因であった。
国土防衛の要である戦車隊の後方火力支援によるバックアップ。
入院中の二階堂提督が、持てるコネクションと権力をフル活用して九州北西部に揃えた決戦用の布陣。いつもの孤立無援な沖での戦いとは異なり、陸を背にした防衛戦だからこそ採択できたもの。
これにより戦局を有利に進められるからこそ、佐世保守備軍は戦力の差をものともせず敵を撃退できるのだ。
誘い込んで一網打尽。古来より防衛側のほうが有利なものだ。
因みに、最新鋭の40口径145mm滑腔砲といっても深海棲艦を撃滅できる程の威力はない。
量産できる陸上戦車の主砲としては破格の威力だが、所詮は艦艇でいうところの軽巡の主砲に毛が生えたようなもので、敵の主力である重巡級、空母級、戦艦級を墜とすには少々心許ない。
その分多種多様な弾頭を速射することが可能で、これにより人類の主力である艦娘を援護することこそがコンセプトである。
「響、お前は右から回り込め。追い込むぞ!」
「Всё ништяк!!」
398:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:17:03.30 fA1jv6E30.net
そうして打ち込まれた焼夷弾と照明弾によって轟々と照らされた目標に向かって、木曾と響は左右に散開。敵の混乱に乗じて挟撃し、釘付けにする算段だ。
しかし敵もさるもの、接近に気づいた個体が素早
399:く戦闘態勢を整え、おぞましい奇声を上げながら反撃してきた。 「おおっと!」 「当たらないね」 山なりの軌道で降りかかってくる敵砲弾を、タイミングを計って小刻みに機動することで器用に回避。とにかく狙いを絞らせないように動きまわり、時には急制動・急加速して着弾位置をずらしていく。 二人は敵を中心に円を描くようにして対角線上から砲撃。 響は右肩の10cm連装高角砲を、木曾は左肩の25mm三連装機銃を速射しながら、徐々に距離を詰めていく。更には遠方の榛名が二門の41cm連装砲で追撃し、一隻一隻確実に撃破していった。 これで敵残存戦力は、戦艦ル級2、重巡リ級2、駆逐ロ級1、駆逐ニ級4。いずれも小破以上の損傷を負っている。 機動戦に持ち込まれて長引いては厄介だ。一気呵成に、一歩も動かさないまま決める。 だが物事はそう狙ったようにはいかない。 「――ッ!」 「!! おい!?」 ここでル級が動く。 両手に一つずつ携えた、巨大な甲羅のようなシールドから四門ずつ突き出された砲口が火を噴き、後衛の榛名と瑞鳳の至近距離に水柱が立ちのぼる。ちょこまかした響達前衛を無視して、鬱陶しい後衛から潰すつもりか。 他の深海棲艦達もそれに習い、火砲を榛名達に集中させる。 そうはさせじと、響が加速。 鋭角なターンで接近し、焼夷弾の影響で未だ燃え上がる海も、木曾の制止の声すらも無視して突撃。こっちを見ろとばかりに乱射する。 響が得意とする、超至近距離での機動戦で囮となり注意を引きつけるつもりだ。仕方なく、木曾もそれに乗じた。 二人で急接近と急離脱を繰り返し、後衛に対する砲撃を中断させる。 ここまでは少女の計算通りだ。 だが、そう、物事はそう狙ったようにはいかない。 「響!!??」 「・・・・・・この!!」 全ての砲がたった一人、響のみに集中する。 耳鳴りがする程に重なった砲撃音。幾十もの砲弾が、幼い少女を粉々にせんと降り注ぐ。対する響は艤装への負担を度外視して一気にトップスピードへ。防盾を構えながら45ノットで疾走しつつ弾幕を張り、魚雷で敵集団 をばらけさせようとする。はずみで幾つかの敵を撃墜しながらも、粘り強く砲撃圏内から逃れようとした。 しかし、ル級の砲弾が一つ、響の足下に着弾する。 最高の火力と最高の装甲、人類で言うところの戦艦の特徴に見事に合致するル級の一撃は、深海棲艦の中でもトップクラスの破壊力を秘めている。直撃こそ避けられたものの、あまりの衝撃により響の小さく軽い身体は、 大きな水柱を伴って空高く吹き飛ばされた。ふわりと、上空30mの高度で滞空する。
400:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:20:02.04 fA1jv6E30.net
ル級が、無造作に無防備の響を狙う。当たれば駆逐艦の響はひとたまりもない。
「チィ!」
響は咄嗟に、錨を前方下側に投擲、左腕と右肩の砲を後方上側に向けて撃った。
直後にル級の砲撃。
「ぐぅうううう!!!!」
呻きながら、響は必死に錨と艤装を繋げる鎖を握る。
掌の皮をまるごと持って行かれそうになりながらも鎖をピンと張り詰めさせた、空中で踏ん張りのきかない少女の身体は、錨の重量と運動エネルギーに引っ張られてガクンと降下。
同時に放った砲の反動と、木曾の牽制射撃も手伝って、ル級の砲弾は響の黒帽子を道連れに虚空へと消えていった。
続けて、錨を再度投擲。
「―Урааааааа!!!!!!」
「!? 無茶だ、退け!! ・・・・・・クソッ!」
九死に一生を得た少女は、榛名と木曾の猛攻を受ける敵群に再度突撃する。
衝撃で軋む骨格を無視して投擲した錨はリ級に絡みつき、響は渾身の力で鎖をリリースして落下速度そのまま、『着地』がてらドロップキックをかました。
甲高い悲鳴と水しぶき。更に12.7cm連装砲と10cm連装高角砲を接射、此方に背を向けていたロ級もろとも蜂の巣にし、少女はようやく着水する。
残存、戦艦ル級2隻のみ。
しかしそこまで。
着水し、身を屈めたままの響の頭部にゴリッと、ル級の砲口が押しつけられる。
回避も防御も絶対不可能。誰が見ても「これは死んだな」と確信する状況。直後の未来を予測して、響は俯いた。
いや、正確には全体重を両手の指先に集めるようわずかに重心をずらした。
その様はまるで、クラウチングスタートでもするかのような。
「―おォッ、ラァ!!」
「・・・・・・ギィ!?」
スパリと湿った音を立てて、ル級の腕が切り落とされた。
振り抜かれた刀身が、炎を映してキラリと瞬く。それは、木曾の軍刀。背後から稲妻のように接近した、彼女の最後の切り札であった。青とも黒ともつかない液体をまき散らし、巨大な盾が海に没する。
洋風のサーベルで隻腕にされたル級は思わず後退、もう一方の盾を掲げて追撃の横一閃を防御する。
「・・・・・・?」
しかし、手応えがあまりにも軽い。更なる斬撃も来ず、一瞬、不自然なまでの静寂が海を支配した。
401:通常の名無しさんの3倍
17/07/10 20:21:15.20 fA1jv6E30.net
連投回避
402:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:22:12.48 fA1jv6E30.net
何か来るとル級達が身構えた、その時。
榛名の41cm連装砲と35.6cm連装砲が、背後からその胴体を真っ二つにした。
敵第4波、全滅。
榛名の砲撃を予期して一目散に離脱した響と木曾は、揃って安堵の溜息をつく。ギリギリではあったが、辛くも綱渡りは成功したのだ。
今回も全員無事である。
「Спасибо。助かったよ」
「こんの、馬鹿野郎が!! たまたま間に合ったから良かったものを!!」
安心するにはまだ早かった。
余韻もなにもなく、お折檻の時間が始まる。
「信じていたからさ。おかげでさっさと終わらせることができた」
「そういう問題じゃねぇ。いくら突撃癖があるっつってもな、それがいくら有効的だろうとな、此方は心臓が止まるかって思いなんだぞ、毎回」
響の反論をピシャリとシャットアウトして、木曾は正しく怒る。
今回ばかりは、怒鳴らざるをえなかった。
そう。別に響が囮になって危険な橋を渡らなくたって、この戦闘は無事に勝利することはできたのだ。
榛名も瑞鳳も、あんな砲撃に当たるほどノロマではなく、当初の予定通りに付かず離れずの砲撃戦をしていればそのまま終わらせられた戦いだった。
それを仲間が攻撃されたからってムキになって自らを危険に晒すなど、言語道断。確かに予定よりも早く戦い終わったが、それより安全な戦法を採択するほうが何百何千倍と重要だ。最近はなりを潜めていた後先考えない
無茶無謀な突撃戦法を目の当たりにして、それをなんとも思っていなさげな少女の態度を目の当たりにして、木曾はなんとも言えない気分になる。
木曾はこの目前の、しゅんとしていつもより小さく見える駆逐艦のコイツは、なんで突撃癖があるのだろうと思う。通常の砲雷撃戦でも並の駆逐艦よりずっと強いのに、どうも接近戦に拘っている節があるように感じるのだ。
それはいい。冷静であり、かつ軽巡級程度が相手ならまったく危なげなく処理できる�
403:アとは知っている。 だが、特に仲間が危機に陥ると暴走しがちだ。それはまるで特攻のようで、戦い方が乱暴になる。それでいて敵は確実に仕留めて、なにがなんでも生還するのだから、生きたいのか死にたいのかも判らない。 時たま「突撃隊長様」と揶揄することはあるが、なにも特攻しろとは言ってない。今後も絶対言わない。 実際、響が空に投げ出された時は心臓が凍るような思いだったのだ。もうあんなのはゴメンだと木曾は頭を振る。 「とにかく。あんま心配させてくれるな。突撃も結構だが、誰かに頼まれた時だけにしろ。もっと仲間を信じろ」 「っあぅ・・・・・・、ごめん」 木曾はデコピンして、この話はここまでだと少し焦げたマントを翻し水上を滑る。もっと何か言いたげなようだったが、榛名と瑞鳳と合流しなければならない。遠くで二人が手を振っているのが見えた。 響はあんまり痛くないおでこを抑えながら、その後に続く。 (・・・・・・そういえば、なんで私は接近戦に拘るんだろう)
404:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:28:42.13 fA1jv6E30.net
そして密かに自問する。
自分で自分のことが解らないのはいつものことだが、木曾からのお叱りを受けてふと、響は自分の根源に疑問を持った。
接近戦には自信がある。
艦娘の戦法は独自の艤装と素質により決定づけられるもので、艤装は人それぞれの特徴があり形も装備もバラエ
ティ豊かだ。その点、特三型駆逐艦は艤装に防盾と錨が標準搭載されていて、持ち前の身軽さとスピードも相まって接近戦向けと言える。
自分には素養と適正がある。
姉妹の暁・雷・電も同様で、今は呉鎮守府にいる師匠からは格闘戦の手ほどきも受けたこともある。
だが師匠は、接近戦は護身用、最後の手段だと言っていた気がする。姉妹も師匠も、サーベルを持つ木曾だって、積極的に仕掛けることはしないのだ。
思い返せば、自分だけなのだ。日常的に積極的に接近戦を仕掛ける艦娘は。
(あいでんてぃてぃーってヤツなのかな、これは)
それは困った性質だなと、響は他人事のように分析した。
『本当の理由』を知っていながら、それを知らん振りをして。
確かに今回は無茶無謀だった。それは認めよう。自分自身、もうあんなのはゴメンだ。でも身体が勝手に動いてしまうのだ。これを制御するのはなかなか骨だなと思う。
もっともこの突撃癖はもう周知のもので、提督も榛名もそれを前提とした戦術を組むことは多々ある。敵が少数で駆逐級、軽巡級であれば殲滅してこいと送り出されるのが主だ。
そういえば戦艦級相手に立ち回ったのは久しぶりだっなと、今になって身震いがした。
本当にアレは、死ぬ一歩手前だ。それが二回連続で。
とりあえず当面は、木曾の言うとおり控えようと思った響だった。
「―なんですって!?」
「わっ! なに、どうしたんだい」
考え込んでいるうちに合流していたのだろう、気づけば目前にいた榛名が、珍しく大きな声で瑞鳳に食い掛かっていた。
全員無事に敵第4波を撃退したというのに、榛名は誰の目でみても明らかに焦っていた。信じられないという一心で、沈鬱な面持ちの瑞鳳の肩を掴む。
まさか、もう第5波が来たのか。だが、それにしては様子がおかしかった。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔の木曾と響は、なにごとだと戸惑うばかりだ。
「・・・・・・うん、間違いない。このスピード―どうしよう榛名。このままじゃ・・・・・・」
「なんだ。なにがあった」
「それは―」
405:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:31:15.93 fA1jv6E30.net
瞬間。
一条の閃光が、煌々とまっすぐに。榛名達の頭上の空気を灼いた。
遅れて、ヴァシュウッ! と、特徴的な擦過音が耳を打つ。
それは、聞き慣れた実体弾とは異なる音。それは、最近になって聞くようになった音。
それが意味するものは。
「・・・・・・【Titan】」
「おいでなすったか・・・・・・!」
深海棲艦にはランクがある。
通常のものよりも強い個体を【Elite】、群を統括する個体を【Flagship】と呼称する。
更に上位種に【姫】や【鬼】が存在するが、長らくこの【Elite】と【Flagship】の二種が、全ての海域に複数生息する、あまりにも強い敵として提督達を悩ませたものだ。
そして。
例の隕石が落ちてから出没するようになった、佐世保がここまで追い込まれることになった一番の原因。
10mまで膨れ上がった巨体で、荷電粒子砲や高誘導高速ミサイルを自在に操る、新たなる強敵。未知の機械を取り込んで異常進化を遂げたコイツこそが、二階堂提督が暫定的に【Titan】と名付けた新種の深海棲艦だった。
コイツの為にいったいどれほどの犠牲があったか、考えるだけで腸が煮えくりかえるようだった。
「6時方向、距離10。・・・・・・すごいスピードでこっちに来てるよ」
「弾が足りないよ」
「速度も射程もヤツのほうが上だ。コンテナに戻る前に追いつかれる」
「でも、ここで待ち受けることもできないわ。第五戦速で後退します。木曾は信号弾を」
今のままでは到底勝ち目がない。
弾薬がない砲塔はただの鉄屑だ。
続けざまの戦闘、予想よりもずっと速い敵の襲撃、このまま戦艦よりも硬い巨人などできるはずもない。
そう即座に判断した榛名は東に舵をとる。目指すは8マイル離れた八朗岳麓だ。
「囮もなにも使わず皆でただ逃げる。そうだな」
「ええ。逆襲はその後です」
先ほど火力支援をしてくれた隊を頼るほかなかった。途中で追いつかれるだろうが、そこからは戦車隊の善戦に期待するしかない。まずは補給しなければ。
「行きます!」
榛名達にとっては二日ぶりの、三度目となる【Titan】との戦いは、撤退戦から始まった。
406:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:33:22.65 fA1jv6E30.net
「くそ。なんて射程だよ」
「10mあるんだもん、私達よりずっと遠くまで視れるはずよ。・・・・・・羨ましいなぁ」
「ただでさえお前は小柄だもんな」
「ほ、ほっといてよぅ」
小柄な軽空母こと瑞鳳の最大速度である33ノットに準じた第五戦速(30ノット=約55km/h)で蛇行して、荷電粒子ビームを避けつつ愚痴を言い合う。
艦艇に準じた能力を持つ艦娘や深海棲艦といえども、通常の艦艇に明確に劣っているものがある。それは全高の低さに起因する、索敵能力の低さだ。
艦娘も深海棲艦も大体人間サイズ、つまり視認できる水平線は3マイル未満だし、電探も4~5マイル程度に制限される。必然的に交戦距離は3マイル前後となり、これにもう慣れきっていたのだが、10mの巨人が相手とな
ると話は違ってくる。Titanなら目視で6マイルは見通せるだろう。
文字通りスケールが違う。索敵とは、高いところになければ性能を発揮できないものなのだ。
こちらからは見えないが、敵はもう自分達を完全に射程内に収めている。
夜目が利かない筈なのに、驚くべき精度だ。
今が夜でなければと、瑞鳳は歯がみした。
アウトレンジ攻撃は空母の華にして専売特許。それを踏みにじられた気分だった。
「追っかけてくるのは、あの一体だけみたい。やっぱり【Titan】は単独行動なんだわ」
「ならば打つ手はありますね。複数体ならどうしたものかと思ったのですが・・・・・・火力の限りフルボッコです。お姉様直伝のフルバースト、今こそ
407:お披露目です!」 「・・・・・・時々金剛さんが提督に怒られてたのって、まさかそういう?」 だが、今は自分のできることをできる限りやらなければ。 恐怖に押しつぶされそうな心を雑談で誤魔化しながら、瑞鳳は索敵と警戒に専念する。さっき泣き言を漏らしてしまったからこそ、全力で突破口を見出そうとよくよく目を凝らす。 偵察機のキャノピーを通じて飛び込んでくる視界には、鎧のような装甲やパイプ、謎のシリンダーを取り込んだ巨人の姿が確認できた。右手には大型のライフルが握られており、そこからビームが次々と射出される。 差し詰め、ビームライフルといったところか。 左肩にはミサイルポッド、背部には青白い炎を吐き出す推進ユニットを背負っていて、一目で今までの深海棲艦の装備とは趣が違うことがわかる。まるで、人類が造った機械をそのまま身につけているようだ。 「砲撃、来ます! カウント5。・・・・・・3、2、1、今!!」 「くぉ・・・・・・!」 「心臓に悪いね、これは・・・・・・」 瑞鳳が叫び、艦娘達は大きく進路を変えてビームを回避する。 超高熱のビームは海面に着弾すると同時に、小規模の水蒸気爆発を引き起こす。必要最低限の機動で回避、とはいかなかった。 急制動・急加速によって着弾位置をずらす常套手段も使えない。実弾相手なら、この遠距離なら、山なりに頭上 から落ちてくる砲弾の座標さえ避ければよかった。しかし、縦軸さえ合っていれば直進する光の矢は容赦なく背中から貫くだろう。どんなに遠距離であろうと、なにがなんでも横軸をずらさなければ回避できないのだ。
408:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:36:32.11 fA1jv6E30.net
砲撃音を聞いてからでは間に合わない、いつもよりずっと体力を使う回避動作。
特徴的な擦過音がただ通り過ぎるのを祈るしかない。御札が欲しいと切実に思う。
「ミサイルも来るよ! 数は10!」
「対空用意!!」
そうして逃走劇を始めて、5分が経った。
実弾砲と魚雷による戦闘とはまるで勝手も次元も違う、ビームとミサイルによる猛攻に追い立てられた第二艦隊は、当初の予定からは相当外れた航路を進み、ついに追いつかれてしまった。
最大にして唯一の誤算は、巨人達の速度が予想よりもずっと速かったことに尽きる。
背部推進機関によって戦車砲さえも機敏に避ける巨体は、孤立無援となった第二艦隊の前に壁となって立ちはだかる。
「この・・・・・・!」
木曾が毒づいて、左肩の25mm三連装機銃を向けた。しかし、ミサイル迎撃に酷使されたそれは既にすっからかんの鉄屑である。
それでも、構えずにはいられなかった。まともに戦うことも許されずに敗北するなど、認められるものではなかった。
「ッ、みんなは! 榛名が!! 護ります!!!!」
「・・・・・・諦めるにはまだ早いさ!」
まだ弾薬に余裕があった榛名と響が腹をくくり、火力の有りっ丈を巨人の右腕に向けて放つ。ビームライフルさえ封じればまだ活路はある。今までもそうやって倒してきたのだ。
しかし。
「学習しているとでも言うの・・・・・・!?」
「まだだ!!」
【Titan】は左腕を突き出し、ライフルを庇った。
代わりに左腕はズタズタに引き裂かれ使い物にならなくなったがそんなもの、こちらにとっては何も嬉しくない。弾を無駄に使ってしまったショックのほうが断然大きかった。
当然そんなことで挫けちゃいられない。今度こそと二人は散開し狙いを定めるが、今度は【Titan】が背部推進機関を噴かして跳躍、巨体に見合わない俊敏さで上空へ回避するとともにライフルを榛名に向ける。
「―!!」
―避けられない!
榛名は直感する。いつも当たって欲しくない事ばかり当てる戦士としての直感は、お前はここで死ぬと耳元で囁いてきた。上空の
409:巨大な砲口を見上げ、一拍思考が停止する。 音が遠くなる。後悔の念だけが押し寄せる。
410:通常の名無しさんの3倍
17/07/10 20:38:25.22 fA1jv6E30.net
連投回避
411:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:40:08.25 fA1jv6E30.net
瑞鳳が、夜であるにも関わらす弓に矢を番え、艦載機を出そうとした。
木曾が、思わず足を止めてしまった榛名を庇うべく走り出した。
響が、なんとかして狙いを逸らそうと錨を投擲した。
榛名は、そんなみんなを見て自失から醒め、最期まで抗おうと砲撃しようとした。
そして。
そのとき―
一筋の光条が天から降り注ぎ―
今にも発射されそうだった【Titan】のビームライフルに直撃し、小爆発を起こした。
412:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 20:48:13.19 fA1jv6E30.net
今回は以上です
どうもNGワードを含んでいた箇所があるようですが、どうにも特定できなかったので
そのあたりをバッサリカットしてしまいました・・・こういう時ってどうすればいいんでしょう?
とりあえず今回の題は、第3話:闇夜の防衛戦になります。
まとめに載っけて頂く際にカットした部分を挿入してもらおうと思います。
自分も超感想欲しいです。
次スレですが、ちょっと外出しなくてはならなくなったので30分後ぐらいに
自分が建てようと思います。お待ちください。
テンプレ変更なし、ワッチョイなしでOKですよね?
413:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/07/10 21:23:14.96 fA1jv6E30.net
・・・・・・すいません。
テンプレに「NGワード書きすぎです。」と出ちゃってスレ建てできませんでした
どなたか代わりにお願いしますorz
414:通常の名無しさんの3倍
17/07/11 23:02:32.83 C4aD9ySj0.net
立ってるみたいよ
テンプレまだみたいだから案内出さないけど
415:通常の名無しさんの3倍
17/07/11 23:11:58.32 2NKWfveH0.net
無断でやっちゃったけど次スレ建てたんだぜ
新人職人がSSを書いてみる 34ページ目
スレリンク(shar板)
こんなんでOK?
416:通常の名無しさんの3倍
17/07/11 23:52:46.76 rjOSWUW20.net
前スレ378KB、このスレ357KBなのにもう次スレ立てるのか
417:通常の名無しさんの3倍
17/07/12 01:52:54.10 pNgwjlKD0.net
私のPCじゃもう510KBなんですが・・・どっちに投稿すればいいのか。
418:通常の名無しさんの3倍
17/07/12 01:54:40.76 WB+++HnB0.net
ここか前スレに投稿すれば容量が十分に残ってることが分かるぜよ
419:通常の名無しさんの3倍
17/07/12 02:23:55.62 76Nw/+jJ0.net
こういう時は容量高い人に合わせた方がいいの? それとも低い人?
個々人の環境によって容量が変化するにしても、個人的には高い方に合わせたほうが安全だと思うけれど
420:通常の名無しさんの3倍
17/07/12 03:07:00.93 WB+++HnB0.net
↓スレはIEだと699KBだが専ブラだと488KBだ
低い方に合わせるべき
スレリンク(shar板)
421:三流(ry
17/07/12 22:58:33.72 pNgwjlKD0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第九話 ソロモンの時間、後編
「てえぇぇぇいっ!」
盾を内から外に薙ぐジャックのジム、カスペンのゲルググの胸元を盾先がかすめる。
その反動をアンバックに振り分けて宙返り、スラスターの噴射を合わせて
一気にゲルググの背面に回り込む。
「ぬん!」
腕の振りで後ろに向き直り、ヒートホークを打ち下ろして反撃するゲルググ、
しかしそれもジャックに、いやオハイオ・ジムには織り込み済みだ。
サメ顔の盾で受け止めると、それをいなし捌きつつ反転して蹴りを入れる、かろうじて盾で受けるゲルググ。
「くっ!」
カスペン大佐にとっての誤算は3つあった。ひとつは最新型モビルスーツ、ゲルググの操縦にまだ馴染みが薄いこと。
操作自体はザクと同じだが、反応速度や操縦桿の遊び、取り回しはまるで別物であり、違和感はぬぐえない。
2つにはこの宙域にまき散らされたビーム攪乱膜、ゲルググの特徴であるビームライフルやビーム長刀などのビーム兵器が
軒並み使えなくなっていること、やむなくザクの武器を携帯して出てきたが、照準も握りの感覚も合わない。
しかし彼にとって、そんな戦場での不都合など論じるに足りないことだった。
3つめ、この目の前の連邦軍モビルスーツ・ジムの、そして操縦者の恐るべき技量、これこそが脅威だった。
先読みをし後の先を取る、いわゆるニュータイプとは違う。とにかく先に動いてこちらに何もさせずに制圧を狙ってくる
その為の動きのバリエーション、行動ルーチン、普段からの練度がうかがえるというものだ。
防戦一方になりながらも、カスペンは冷静に反撃の機会をうかがっていた。
「あの盾を振り回すのが行動の起点になっておるな・・・そこから次の行動を読み違えなければ!」
何度目かの盾の大振りから機動をかけるジム、その瞬間にゲルググも動く。読み違えなければ性能はこちらが上なのだ!
ゲルググをジャックに任せ、ソロモン表面で戦闘する仲間のもとに向かうエディのジム、もうソーラーシステム照射まで時間がない。
すでに味方は片手で数えるほどに撃ち減らされていた、敵のモビルスーツ部隊はいまだに20機ほど健在、このままでは全滅も
時間の問題だ。部下たちを助けなければ!ここでエディは思い切った行動に出る。
「全員退避!ソーラーシステムが来るぞーっ!」
通信に絶叫するエディ、「通常回線」を「開いた」状態で、つまり味方のみならず敵にも聞こえるように。
敵味方が一斉に反応する。しかし連邦とジオンでその解釈は全く違っていた。
かろうじて生き残っている連邦兵、つまりエディの部下たちは、このままここに留まって戦闘を続けることが
確実な死を意味することを知っている、味方の攻撃によって。
ジオン兵にとっては違っていた。彼らはソーラーシステムの詳細を知らない。聞きようによってはここに連邦の新手が
来るようにも取れる。何より彼らの任務はこの地点の防衛、何が来ようと迎え撃ち、阻止するのが任務。
422:三流(ry
17/07/12 22:59:04.34 pNgwjlKD0.net
一斉に離脱するジム3機とボール2機、ザクやリックドムの多くはその場にとどまり、周囲を警戒する。
しかし反射的に逃げる敵兵を追おうとする者もいる、ザク3機とドム1機、その真っただ中に特攻するエディのジム。
追撃をしようとしていた所に、カウンターの体当たりを食らい激しく弾けるジムとザク、その自殺行為にも見える体当たりに
異常な空気を感じ、動きを止めるほかの追跡者たち。
システムのいくつかに異常を感じながらも、盾を振り回して白兵戦の機動を始めようとするエディ・ジム
しかし思うようには動けなかった、肝心の盾をさっきのゲルググの戦闘で捨ててきていたために。
次の瞬間、ドムのヒートサーベルがジムの
423:腹を貫く、それを引き抜いた瞬間、別のザクのマシンガンがジムに集中する。 爆発までの数舜の間、エディは部下を少しでも逃がせたことに、ささやかな満足感を感じていた。 「ここまでか・・・ジャック、生き延びろよ・・・」 ソロモンに小さな爆発の光芒が咲く。そしてそれがまるでマッチを擦ったように、ソロモンの一角が明るく照らされていく。 カスペン大隊の精鋭たちは、何が起こったのかも分からぬまま、発生した太陽に焼かれ、溶けていった。 ジャックが何度目かの機動を開始した瞬間、ゲルググは腰からあるモノを取り出し、背後に放り投げる。 激しく機動してきたジムが、ゲルググの背後を取った時、それと接触する。 ザク用の兵器、クラッカー。モビルスーツサイズの手榴弾。 「しまっ・・!」 言葉を紡ぐ暇もなく、至近距離で爆発するクラッカー、吹き飛ぶジムに追撃の斧を振り下ろすゲルググ、勝負あった。 システムに甚大な被害を受け、パイロットも衝撃のGで激しく揺さぶられ、意識を飛ばす。 「手ごわかったな、褒めてやろう。」 とどめの一撃を加えんと構えるゲルググ、しかしその時、妙な光が視界に入る。 思わずふりむくカスペンは、信じがたいものを見た。 「な・・・」 ソロモンが輝いている、要塞の一角が、まるで太陽のように。わが精鋭たちが死守している区域が。 その光にあてられるように、失神したジャックが一瞬、意識をともす。 「ソーラーシステム・・・」 その光が消え、宇宙が再び闇に包まれるのに引き込まれるように、再び意識を閉じるジャック。 彼が最後に聞いたのは、一般回線から聞こえる、野太い声の軍人が絶叫しながら部下の名を呼ぶ悲鳴だった・・・ 「リック小隊長!フレーゲル中隊長!応答しろ!ザガート軍曹っ!どこだあぁぁぁっ・・・」
424:三流(ry
17/07/12 22:59:33.00 pNgwjlKD0.net
懐かしい顔を見た。
叔父や叔母、その周囲の面々。故郷シドニーでの気の合う仲間、旧友たち。
働きに出てたサイド2、アイランド・イフィッシュの工場の仲間、口うるさい上司、同い年の片思いの女学生、
そしてサメジマの兄貴、サラミス級シルバー・シンプソンの乗員たち、その傍らにはエディ・スコット。
そんな大勢の集団が無表情でこちらを見ている。
ふと、一人の男がジャックの横を通り過ぎ、その集団に向かって歩いていく。
背筋の伸びた、少しやせた金髪の軍人。堅苦しい面もあったが、深い情を持つ司令官。
「・・・ワッケイン指令、エディさん、どうして、そっちに・・・」
彼らは遠ざかり、光とも闇ともわからぬモヤに包まれ、そして、消えた。
ジャックは目を覚ます。涙はなかった、ただ深い深い喪失感だけが彼を包んでいた。
上半身を起こし、辺りを目にする。、周囲には無数のベッドとその上に寝る患者。
「おっ、目が覚めたか。」
医師が声をかける、枕もとのカルテを手に取り、言う。
「お前さんは外傷は無かったよ、意識さえはっきりしてればもう大丈夫だ。」
「・・・ここは?」
「ソロモン、改めコンペイトウ、つまり連邦軍の占領基地だよ、その医務室だ。
ああ、戦闘は連邦が勝ったのか、と思うジャック。しかし自分の部隊は・・・聞こうと思ったが、この医師が知るはずも無いだろう。
そのままベッドから起きだし、医務室を出るジャック。
医務室の外は各人が慌ただしく動いている。占領したばかりの敵基地、彼らにもやることはいくらでもある。
彷徨った末、コンソールルームを見つけ、個人情報を画面に出す。
『エディ大隊長、エディ・スコット:戦死』
『第三艦隊司令官 ワッケイン:任務中、テキサス・コロニー方面』
425:三流(ry
17/07/12 22:59:57.91 pNgwjlKD0.net
・・・え?
一瞬の驚きの後、悲しみと安堵の両方の感情が押し寄せる。
サメジマの兄貴の意思を共に継いできたエディさんの死、それはソロモンがソーラーシステムで焼かれたのを見た時から
覚悟はしていた。実直で責任感の強い彼なら、あの場に部下を残して生き残ったりはしないだろう。
きっと部下をかばって逝ったろう、その姿を想像して目頭が熱くなる、兄貴とは違った意味で立派な人だった・・・。
ただ、嫌な夢を見た後だけに、ワッケイン指令が健在なことに安堵していた。
思えばルナツーで自分がかかわってきた人物では、もう彼くらいしか印象に残る人物はいなかった。
戦場の後方でふんぞり返っている偉いさんなど知ったことではない、ただ彼だけには生き残ってほしい。
戦争が終わって後、上層部として活躍するのは、ああいう人であってほしかった。
そのまま部屋を出て、自分の部隊の待機室を探しに歩いていく。
後に残ったコンソールの画面が、自動更新され、表示が切り替わる。
『ー第三艦隊司令官 ワッケイン、戦死ー』
第九話でした。実はPCがぶっ壊れて、書いてた分全部トビました orz
>>331さん
感想ありがとうございます。なるほど、場面転換や視点切り替えにも気を使ったほうがよさそうですね・・・
426:彰悟 ◆CEip2yjO.6
17/07/13 01:48:08.71 YfSo2Lws0.net
お久しぶりです。
皇女の戦いの続きを書いたので投下しますね。
427:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 01:53:50.67 YfSo2Lws0.net
皇女の戦い 第二話 PART1
「みなさん、お待ちかね!ガンダムファイトに備えて各国の選手達が集まってきております!」
ここは今回のガンダムファイトの開催地イギリス・ロンドン。
荘厳かつ新しいコロシアムには幾多の観客達に見守られながら多くのガンダム達が姿を現している。
空気を裂くようにして突如姿を見せるステルス機能搭載機。
大地を強引に割ってくる一際巨大な機体。
時計塔を天高く飛び越えるジャンプ力重視の機体。皆各国の最新技術をアピールする登場を見せている。
アザディスタンの王宮のテレビにもその雄姿が映し出されている。
「これが今回の代表の機体......」青紫の正装をしたマリナは下ろしていた拳を握る。
以前戦ってドローになった機体、テレビや合法的なネットワークで知っていた機体もあるが、やはり繊細な顔立ちは緊張りつめた心を隠せない。
「......?」突然消えた画面に驚いて振り向けば、リモコンの主はシーリンだった。
「今から自分を緊張させてどうするの?」
首を横に振ると微笑んで「他国の機体を少しでも知っておいた方がむしろ緊張を解せると思って。」
「肩、強張ってるわよ?」言われると恥ずかしそうに苦笑いするマリナ。
「だめね、どうしても下調べみたいなことをしなきゃ気が済まないところ�
428:ェあって。」 一度はすくめた肩をゆっくり張る。 「ふう......それだけの自覚があるのは良いけど逆効果な時もあるわ。責任感に押し潰されたら戦う前に負けるわ。そうなれば傷つくのはあなただけじゃないでしょう?」 口をキュッと結びながら頷くマリナ。「そうね。国のみんなの将来がかかっているものね......」 「そろそろ時間ね。行きましょう、シーリン。」その表情は紛れもなく皇女にしてガンダムファイターのものだった。
429:彰悟 ◆9uHsbl4eHU
17/07/13 01:54:47.15 YfSo2Lws0.net
皇女の戦い 第二話 PART2
「マリナ様!絶対に勝って!」「必ず我々に資源を!」「ご武運をお祈りします!」
首都に住む多くの人々が王宮に集まり出発前のマリナを出迎える。幼い子供含め老若男女あらゆる人々が皇女に声援を送り、そして望みを託している。公務やファイトの修行の合間を縫って首都内の孤児院や病院に慰問を重ねてきたマリナには顔なじみの子供も大勢いた。
マリナの傍にいるシーリンは彼らの気持ちはわかるものの先を急いでいるといった面持ちだが邪険にする態度は取らなかった。それはマリナも同じだ。
「皆さんの思いは必ず果たします。離れていても私の戦いを見ていて下さい......
私に力を授けて下さりますから...」
真摯に答えるマリナに5歳ほどの女の子が大切そうに抱えた袋を持って寄ってくる。孤児院で何度も言葉を交わした子なので皇女相手にもそれ程緊張した様子はないが、その瞳は真剣そのものだった。
「あら、こんにちは。」両膝をついて微笑むマリナ。「これを私にくれるの?」
袋を開けると中には白を中心に赤、、黄色といった小さな花が1つに繋がった花飾りが出てきた。
「ありがとう、こんなに素敵なものを私に......」綻びながら少女の髪を優しく撫でる。
「いっぱい探して集めてきたんだよ。」少女はにこやかに、そしてどこか誇らしい笑みを浮かべた。
「マリナ様、この子が院の近くの山から採ってきたのです。土に汚れながら毎日少しずつ集めて......」少女の後ろにいたシスターの言葉にハッとして少女をそっと抱いた。
「そうだったの......貴女の為にも必ず勝つわ。信じて。」