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新人職人がSSを書いてみる 33ページ目 - 暇つぶし2ch300:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:42:58.97 Glt//LAx0.net
この目の前の、無表情でいようとしても尚恐怖感を滲ませてしまっている少女だけでも、安全な場所に逃がさなければ。
そうでなければ、ならないのに。
「くそ……! なんでっ!?」
身体は依然として動かない。
たとえ戦えなくても、なにかしなくてはと思うのに。
いくら気合いを入れて起きようとしても、重過ぎる肉体からどんどん力が抜けていくようだ。
ここに至って青年は、自分の身体に大変な異常が起こっていると認識することができた。たかが四日寝込んだだけでこうなるものか。モビルスーツの爆発に二度巻き込まれようと、こんなことになることはなかった。
全身不随。
そんな単語が、ぞわりと脳裏を掠める。
「Не беспокойся」
青年の思考を読んだかのようなタイミングで、少女。
「身体に異常はないらしいよ。今動けないのは【マッチング】が上手くいってないからかもと、先生は言っていた。いずれ元に戻るとも」
「何を……」
「あなたは、私たちが護る」
だから、安心してと。
何かを決意したかのような、何かを押し込めたような表情でそう言い切り、少女はクルリと振り返った。銀髪が緩やかに宙を舞い、少女を隠す。
「しばらく眠ったほうがいい。そうすればきっと、身体が動くようになると思う」
「ま、まって! ちょっとまって!!」
何もかも解らない、置いてきぼりなキラは、早足で部屋を出て行こうとする少女を必死に呼び止めた。体中を汗塗れにして混乱するしかなく、そうすることしかできなかった。
訊きたいことは増えてく一方で、解らないことはその倍のペースで増えていっている。彼女が何を言っているのか、何を知っているのか、何をしようとしているのか、理解も想像もできない。
身体が動かないという恐怖感も相まって、もはや容量一杯まで追い込まれていた。
「護るって……そんなのアベコベだ! 逃げなきゃダメだ、君は!」
それでも彼が一番に案じたのは、少女の身の安全だった。
護るだなんて、まるで君が、何かと戦いに行くかのようじゃないか。なんで身体は回復すると言い切れるのか、そんなことは置いといて。ただただ、その単語はひどく不穏だった。
キラはヒビキとして、曲がりなりにも軍隊の将官として、これまで沢山の兵士を見てきた。中には無表情な者もいた。そんな彼らの内面を伺う術を、必要に迫られて身につけた。だから感じ取れてしまうのだ。
顔が見えなくたって、解るのだ。

301:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:43:59.17 Glt//LAx0.net
君みたいな子が、そんな顔をして何かに立ち向かうなんて、あってはならないのだと。
「だからっ、僕が戦わなくちゃダメなんだ。君は―」
「響だよ」
「―、え……?」
少女は再び振り返る。
「特三型駆逐艦二番艦の、響。それが名前」
「……響?」
「名前が同じというのは少し、恥ずかしいな?」
少女は、響と名乗った女の子は、不敵な笑みを浮かべていた。
「沈まんさ、私は。あんな奴らにやられる程ヤワじゃないし、やられるつもりもない。……あなたは私たちを信じていればいい」
「……」
「帰ったら司令官を紹介しよう。私はもう行かないといけないから、指切りはできないけど。約束しよう」
なにかが吹っ切れたような、それは戦士の顔だった。
全身に力を漲らせ、集中力を研ぎ澄ませた、青年が見慣れた種類の人間の姿。嘘偽りなく、上っ面ではなく、どこまでも説得力と自負に溢れた、それは兵士のモノだった。
こうなればもうキラに響を止めることはできない。彼女を信じる以外の選択肢がなくなった。彼女の選択を侮辱したくはなかった。
なれば、青年は選択する。消去法ではなく己の意思で、なにがなんだかわからないけど、とにかく、彼女を信頼するという道を。自ら進んで無理矢


302:理にでも全面的に信じると決めた。 「……わかった。響、君を信じるよ。――気をつけて」 「Спасибо。行ってくるよ」 そうして響は、今度こそ部屋を出て行った。 ◇ (氷のお姫様、か) 響は、ギシギシ軋む身体に鞭打ちながら、走る。



303:通常の名無しさんの3倍
17/06/21 16:54:22.20 VbWd2Rem0.net
支援

304:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:55:06.64 Glt//LAx0.net
『あの日』から今日で丁度一週間、それからずっと続くヤツらの攻勢に、身体はもうボロボロだった。
いや、少女だけではない。みんな限界なのだ。堅牢を誇ったこの佐世保鎮守府が陥落するのも、時間の問題だ。
それでも、少女は走る。
(なかなか可愛らしいな。寝ぼけていたのだろうけど)
先ほど会話を交わした青年の言葉を、思い出す。
つかの間の休息だった。敵の攻撃の手が緩み、今のうちに休んでこい寧ろ休めと、無理矢理に医務室に放り込まれたのが約4時間前のこと。
交代休憩なのだからせめて2時間後には起きなくてはとセットした目覚まし時計は、「コイツは没収だ」と書かれたメモを残して行方不明になっていた。
そうしてうっかり4時間も寝てしまった少女は、ふと、そういえばあの遭難者はどうなったのだろうと思い立ち、出動する前に顔を見ておこうとしたのだ。
見ておこうとして、足を縺れさせ転んだ。
痛かった。こういうのは電の役割だろうと思った。
何処かから「失礼なのです!」と聞こえてきそうだとも思い、しばらく突っ伏して床の冷たさを堪能してから立ち上がろうとすると―きっと転んだ音で目覚めたのだろう、青年がここはどこだと呟いたのだった。
(新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊の、キラ・ヒビキ……ね)
少女にとっては、いや、現地球人類にはまったく馴染みのない名前だった。知っているのが当然といったニュアンスで発せられた、どこぞのアニメ漫画でしか出てこないであろうキーワードの羅列。
それを言ってしまったら自分たちも似たようなものだったが、兎も角、新地球統合政府や宇宙軍なんてものはこの世界に存在しないのは確実なのだ。
いや、もしかしたら【深海棲艦】みたいな侵略者が宇宙にも実はいて。彼はそれと密かに戦う戦士なのかもしれないとも思ったが、そもそも密かに戦う意味がわからないのでその線はないだろう。
ないのだが。
響は漠然と、その言葉に嘘はないのだろうと思っていた。
あの青年は、ただの遭難者ではない。彼と一緒に発見されたモノについても、彼の特殊な体質についても、全てが謎に包まれていて、その事実が彼の言葉に真実味を持たせていた。
少なくとも現代科学ではとても解明できない謎の塊だ。まず間違いなくこの世界の常識から外れている。
(いったい、どんな人なんだろう)
なにはともあれ、響は彼を信頼できる人だと評した。
一見して、のんびりしてそうで、微笑んだ顔は一瞬女性のようにも見える優しそうな風貌。でも自分に正直で、少し強引そう。たぶんそういう人なのだろうと、直接会話してみて感じた。
素性はわからないが、嘘をつける器用さまでは持ってなさそうだった。

305:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:56:35.20 Glt//LAx0.net
だからこそ思う。

彼もまた、こちらのことは何も知らないのだろうと。

今時、鎮守府にいる女性がどういうモノであるかなんて、世界中の常識なのだ。そんな女性であるところの少女に「逃げろ、自分が戦うから」と言える人間なんて、とっくに絶滅している筈なのだ。
てんでわかってない常識知らず。
しかし彼は、再び戦うために産まれたこの身を、本気で案じているようだった。そりゃ、少女は武装さえしなければ見た目はただの非力そうな女の子に過ぎないのだから、知らなければ無理もないのだが。
(私は響。特三型駆逐艦二番艦の響、艦娘だ)
再び戦うために産まれた、超常の力を持つ存在。
少女は【艦娘】と称される、現人類の最大戦力の一人だった。
だからこうして、少女は戦うために走っている。
でも。
でも、そんな自分をただの子ども扱いして「逃げろ」と叫んだその気遣いは、存外心地よいものだった。
「自分が戦うんだ」と、動けない身体なんか問題じゃないとばかりに放たれた言葉は、はじめてのものだった。
戦えと言われるより、ずっと勇気が湧いた。
この本当にどうしようもない絶望に立ち向かう覚悟が、痩せ我慢から約束になった。
(本当にアベコベだよ。同じ名をもつ君)
なればこそ、走る。
その想いには、応えなくてはならない。
「Извините。すまない、遅れた」
「な、ちょっ、響!? なんで!?」
「瑞鳳。こんな状況で一人だけおちおち寝てはいられないさ」
そうして響がたどり着いた先は、すっかり寂れてしまった軍港だった。
かつて多くの人で賑わっていた面影もなく、機械や建物の残骸が手つかずのまま放置されている、物悲しい場所。
そこには既に三人の少女が集っていて、今まさに出撃準備を終えようとしていたところであった。
なんとか間に合ったようだと、響は内心安堵する。
「そうだけどっ。でもまだ完治してないのに……ねぇ木曾、時雨が代わりに来るんじゃ?」
「いや。時雨は、だめだそうだ。艤装のダメージが思っていた以上にヤバいと連絡が来た。当分出られねぇだろうってな」
彼女らは誰も彼もがみな、まるで統一感のない奇妙な格好をしていた。たった今響が話しかけた少女は、袴をショートにした松葉色の弓道着で、その隣には黒い眼帯とマントを装備した白と浅葱色のセーラー服。

306:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:00:03.26 Glt//LAx0.net
そして極めつけに、大胆なミニにカスタマイズした紅白の巫女服がいた。
名をそれぞれ、瑞鳳、木曾、榛名という。
まるで場末のコスプレ大会決勝戦のような現実離れした格好の集団だったが、奇妙なのはなにもその個性大爆発な服装だけではない。
彼女らのシルエットは、通常の人間のソレとは大きく逸脱していた。
彼女らは全員、艦艇の砲塔や艦首等を模した、見るからに重そうで大きい金属製のパーツを背負っているのだ。
個々の服装なんか全く問題にしない、まるで我輩こそが船であるとアピールするようなその奇妙で巨大な装備は、華奢そうな少女達に軽々しく背負われているくせにその実、筋肉もりもりマッチョマンの集団ですら数cm持ち上げるのがやっとという恐ろしい重量を持つ。
勿論、これは伊達や酔狂で作られた筋トレ兼コスプレ用セットなどではなく、備え付けられた大ぶりな砲塔や魚雷はちゃんとモノを破壊できる、歴とした【本物】である。
これこそが【艤装】。
人間よりもずっと優れた、化物じみた能力を持つ【艦娘】専用の、海よりいずる人類の敵たる【深海棲艦】を討つことができる武器だった。
「そんな……じゃあ動ける駆逐艦は響だけってこと……?」
「……相手には例の新型もいる。なら駆逐艦の速力は不可欠だ。悔しいが、オレ達だけではな……確かに、手負いだろうとお前の力は必要だ」
一見して奇妙にも思える彼女達は、まぎれもなく艦娘と称される存在であった。
いつの間にかその背に大きな艤装を装着していた響は、未だ痛む節々をおくびにも出さずに無表情を貫き、言う。
「私も戦う。許可を」
その言葉は、ミニ巫女服を纏い黒の長髪を潮風にたなびかせる、長身流麗な女性―�


307:アれまで沈黙を保ち、水平線の彼方を見つめていた榛名に向かって放たれた。瑞鳳と木曾もつられて、彼女を注目する。 響を含めてもたった四人だけになってしまった【第二艦隊】のリーダー、金剛型戦艦三番艦の榛名。 わけあって鎮守府の最高責任者が不在なこの現状、主力の【第一艦隊】すら未帰還な今では、彼女が一番の責任者だった。一つの判断が、戦局全てを左右する、そんな立場だ。 活発でお転婆な大和撫子と評されることもある彼女は、その面影もなく沈鬱な顔を伏し、考えを纏める。 現場指揮官としての、思考を流す。 これからの戦闘に駆逐艦はいてほしい。しかし響は相当の実力者とはいえ万全ではない。瑞鳳の言うとおり無理はさせられない。だが木曾の言うとおり代わりになる人材はもはやいない。当然敵は待ってはくれない。 正直、答えは一つしかない。 一つだから、決めるのが怖かった。



308:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:01:59.55 Glt//LAx0.net
榛名は、非常時であるとはいえソレを決断するのが己であるという事実と、その恐怖と戦わねばならなかった。
しかして、彼女もまた歴戦の戦士であった。
「……そう、ですね。それしかないですね」
やがて榛名は深く深呼吸をして、凜と。響の瞳をまっすぐ見つめ返し最後の確認をとる。
静かに、けれどその一語一語に大きな力を込めてその覚悟の程を、この中で最も小さな少女に問う。
「響さん……本当に、大丈夫なのね?」
それに対して響は間を置かず、簡潔に「もちろん」と応えたのだった。
「不死鳥の名は伊達じゃないさ」
必ず生きて帰る。約束を守る。
そう心に決めて迷いなく。
そして、できればもう一度話をしてみたい。その時は「氷のお姫様」発言をネタにしてからかってやろうと、響は思っていた。



キラが再び目を覚ました頃には、すっかり夜の帳が下りていた。
少女の言うとおりに一回寝たら、何故か本当にすこぶる快調になっていて、そんな彼は辿り着いた無人の軍港にポツネンと座り込んでいた。律儀にも体育座りで、満点の星空を見上げる。
「……はぁ」
ため息。
吐き出された二酸化炭素は白く煙って、消えた。
日本は冬だった。
身を引き裂くような寒気の中で独り、防寒性能など欠片もない検査衣のまま、じっと座る。
彼は、何かに驚くのも疑問に思うのも、嫌になって疲れ果てていた。これが夢なら楽でいいのにと恨み言をいう気力もなく、胡乱な瞳で星見をする。
そもそも「これが夢なら」なんてのは絶対にあり得ないのだとキラはその経験から熟知しているのだ。なにがあっても現実は現実でしかない。
もういい加減、認めねばならないのだろうと、キラは瞳を閉じる。これ以上何かに驚くのも疑問に思うのも、時間と体力の無駄なのだ。認めて、これからを考えなくてはならない。

309:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:03:33.02 Glt//LAx0.net
「もしかしたら、過去の地球、なのかな。ここは」
結論を言葉にしてみる。
そう。
夜になって歩けるようになり、星降る空を目にしてみたら。
その空は己の知るものではないのだと思い知らされた。
そこには、綺麗な月と星しかなかったのだ。

軌道間全方位戦略砲『レクイエム』によって深く傷つけられた筈の月表面に、その疵痕はなかった。
L5宙域にある筈の砂時計型コロニー群『プラント』が影もなく消えていた。
ユグドラシル・プランのもとに建造された、オービタルリング型自律型惑星防衛機構『ノルン』すらどこにもなかった。
南の空に輝くオリオン座には、超新星爆発を経て消滅した筈のベテルギウスが元気に光っていた。

全てがキラの常識を否定するもので、キラが異端であると宣告するファクターだ。
誰かに説明されるよりずっと鮮明に、この世界を表現する光景だ。
ここはきっと過去の地球。タイムスリップしたと考えれば、辻褄は合うような気がした。
「なんだかな」
無性に誰かと話をしたい気分になる。
現実逃避がしたいわけじゃない。この突拍子のないことを、言葉という形で誰かと共有したかった。いや、誰かなんて遠回りな言い方はやめよう。
キラはやはり、あの響という少女に会いたかった。
ここで初めて会ったのが彼女だから、なんてのは理由になるだろうか。あんな10才前後の幼い少女を心の拠所にしている恥ずかしさは、この際現実と一緒に受け入れてやろうと開き直るには少々大きすぎるが。
あの打てば響くように応えてくれていた声が、とにかく恋しい。
一人でいるには『ここ』は少し寒すぎる。
「大丈夫かな」
そんな彼女がいなくなってから、どれくらいの時間が経ったろうか。
この近海に、シンカイセイカンなる敵が来て、彼女はそれと戦いにいった。どうやって戦うのかは知らない。オペレーターなのかもしれないし、技師なのかもしれない。パイロットはあり得ないだろう。
なんにせよ命をかけた戦いをしている、そう雰囲気で察せた。彼女はまだ戦っているのだろうか。
それが心配なこともあって、キラはこの港を訪れ、今の今まで座り続けているのだ。
遠くから潮風にのって、僅かだが砲撃音と爆発音が聞こえる。音からして火薬式実体弾とミサイルか、彼の戦場の主役は。ビーム兵器の独特な音は聞こえない。

310:通常の名無しさんの3倍
17/06/21 17:07:18.86 VbWd2Rem0.net
支援

311:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:07:55.78 Glt//LAx0.net
港に来てから二時間。
キラが再び眠った頃からだとしたら、延べ六時間程か。
砲撃音は途切れない。戦争は終わらない。
いつまで続くのか―
「……? ……誰だ?」
ふと、視線を感じた。
感傷に耽っていた思考が、瞬く間に現実に呼び戻される。
ハっとして辺りを見渡すと―いつのまにか、キラの前方50mほどあたりに人影があった。
人がいた。
一目見て、響ではないことは解った。その体格は大人のものだ。
ぽつんと、此方をむいてダラリと立っている。
見落としていたのか、突然現れたのか、さっきまで誰もいなかったのにとキラは呆気にとられる。なんだろう、過去の人はテレポーテーションが使えるのだろうか。
(? なん、だ。あの人)
突拍子のないこと続きで、遂に思考回路までナチュラルに吹っ飛んだかと自虐し、いやそもそも人はどこにいたって不思議でもなんでもないと思いながら立ち上がりろうとして―その人と目が合った。

そして、そして。決定的に、その人は何かが間違っていると感じた。

音が消える。
世界が切り取られたように思えた。知らず、ドッと嫌な汗が噴き出す。
目を凝らす。
雲一つない満点の星空、月明かりに照らされて、細部までよく見える。
その人は女性のようだった。
その人の肌は嫌に白かった。
その人はずぶ濡れでボロボロだった。
左腕が、肘から先が千切れてなくなっている。青とも黒ともつかない液体が、全身の切り傷から溢れている。右目が虚空であった。
右腕になにか、巨大な黒い金属のパーツをつけている。

312:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:10:01.21 Glt//LAx0.net
その人は、遠く、ただ突っ立っている―
「……え―」

―否。ソイツは、既に目の前までに迫っていた。

「―ガ、バッ!!??」
衝撃。
瞬間。キラの身体はいとも簡単に、紙切れの如く吹き飛ばされ、遙か後方30mにあった建物に突っ込んでいた。
「…………ぁ!!!!!!」
赤レンガの建物に背中から叩きつけられ、呼吸困難�


313:ノ陥る。 肺から全ての空気が押し出されたのだ。 遅れて、激痛。 もうそれは激痛としか表現できなかった。 ごぽりと粘着質な音がして、血塊が口から溢れる。後頭部が鈍い痛みを訴える。殴られた瞬間にメキャリと嫌な音を立てた腹部がどうなったかは、考えたくなかった。つまり、それらをひっくるめて。 殴り飛ばされたということだけが、今キラに把握できる全てだった。 「ぅ、ぐぁ……げほっ、げふ!?」 全身が燃えるように熱い。 死ぬ。これは死ぬ。 どんな人間だろうと死ぬ、間違いなくそんな一撃だった。 (……生き、てる……? まだ僕は) それでもキラは、思考を硬直させずにただただ回転させた。 キラ・ヒビキは二度の戦争を戦い抜いた英雄、世界を救ったフリーダムのパイロット。かなり偏向・誇張されたものであるものの、それはなにも空虚な作り物ではない。 鍛え抜かれた戦士としての思考が、彼に空白を赦さなかった。 (コイツは敵だ) 誰が敵で味方か、とか。どんな思想の陣営か、とか。そういうのではなく。 コイツは人類の天敵だ。 この化物はそういう存在であるということが、感覚的に本能的に、理解できて受け入れることができた。何故だろう。 それはきっと、殴りつけた姿勢のまま停止しているアイツから、邪気のない敵意までもぶつけられたからだ。 このままでは悪意なく殺される。当然のように踏みつぶされる。そう確信をもって言える。



314:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:12:04.56 Glt//LAx0.net
そんなのは。
(認められるか……!)
抵抗しなければならない。今を生きるモノとして。
キラはその『敵』を睨み付ける。
まだ、何故か、運が良かったのか、一発喰らったら普通死ぬような一撃を受けて生きている。
ノーバウンドで壁にたたきつけられても尚、生きている。
死ぬほど痛いけど、まったく身動きができないけど。
もう一回殴られたら今度こそ死ぬかもしれないけど。
だから抵抗するのだと、キラは睨んだ。
「こんなので、死ねるか……!!」
息も荒く叫ぶ。
それに反応したのか、ソイツはぐるりと体勢を立て直した。
そして、
ソイツは、その敵は、【深海棲艦】と称されるその存在は。
手負いの獲物に対して、容赦なく再び飛びかかった。

命が終わるまで、あと一秒。

315:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:14:54.88 Glt//LAx0.net
以上です。
とりあえずこんなノリと分量で続いていくと思います。
もうちょっと減らした方が良いのでしょうか?

316:三流F(ry
17/06/22 00:36:04.23 QHr9rYhw0.net
乙ですー。クロスオーバー作品の最初の見せ場、世界観のすり合わせいいですねー。
文章は十分読みやすいし適量だと思いますよ。
盛り上げていきましょう。

317:三流F(ry
17/06/22 00:37:42.93 QHr9rYhw0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第三話 青い閃光
「そんじゃ6時間後に出発だ、準備が出来たらよく休んでおけよ。」
サメジマにそう言われ、自室に引っ込む彼を見送って、ジャックは思う。
休めと言われても気分が高揚して寝られそうに無い、それでなんとか寝付いて
寝過ごしたら大事だ。
とはいえ準備は全て済んでいる、それは小隊はもとより母艦のサラミスの搭乗員全員がそうだった。
地球軌道周辺のパトロール任務、定期的な任務のため支度はルーチンワーク的に行われる。
今更特別なことがあるわけでもない。
つまりヒマだ。
母艦に搭載されている愛機ボールを見上げる、サラミスの主砲部を取っ払ってボールの架台を装着した艦、
まさか兄貴のあの案が採用されるとは、何事も常識にとらわれずに言ってみるもんだ。
しかし異形ともいえる主砲無しの巡洋艦に比べて、何かが物足りない、
そう、ボールがあまりにも普通すぎるのだ。もちろん開発当初に比べれば十分なバージョンアップは果たしているし
兄貴の注文に応じてガン・カメラやアクティブスラスター、内部のCPUには敵戦艦やモビルスーツのデータと
それに対応した照準システムを備えた、この「オハイオ小隊」スペシャルのボール。
しかしそれにしては外見があまりにも寂しい、このボールなら何か特別を感じさせる外観があってもいいはずだ。
・・・待てよ、兄貴の「サメジマ」って名前、確か日本語で「shark islaid」っていう意味だったな。
海洋生物の中で最も危険な魚、古来の戦闘機にはエンブレムやペイントにも使われた生物・・・
彼の中であるアイデアがひらめいた、メカニックの彼が最も得意としていた仕事のひとつ。
「あと6時間・・・間に合うか?」
疑問を口にしながらも行動に出るジャック、生き死にを賭ける戦場への初出撃前、
思い立ったことはなんでもやっておいて損は無い、後悔という損は。
艦周辺のドックにサイレンが鳴る、発進30分前、各人員が慌ただしく行動を開始する。
サメジマやエディも自室から起き出して、ノーマルスーツとヘルメットを小脇に抱え、愛機に乗り込・・・
「なんじゃこりゃあぁぁぁっ!」
思わず絶叫するサメジマ、事情を知っている周囲の人員がくすくす笑う。さすが兄貴、いいリアクションだ。
彼らが乗る3機のボールには、その正面にデカデカとサメの顔がペイントしてあった。
一見凶悪そうな、しかしよく見ると愛嬌もあるその面構えにサメジマは大笑いし、エディは頭を抱える。
「お前の仕業・・・以外にありえんか、ジャック。」
未だ作業着で、全身にスプレーの吹き返しでカラフルに染まったジャックを見て言う。
「気に入らなければ剥がせますよ、ものの3分で。」
正確にはペイントシール、極薄のフイルムをボールに貼り付け、その上にペイントする。
ボールの形状に合わせた修正プログラムを組み、元絵をインストールしてペイント構成を決める
かつてサイド2でメカニックの師匠に教えて貰ったペイント方法、普通は自家用車に使うモノだが
兵器に使うのは多分初めてだろう。
「ダメだダメだ、はがすなよ絶対!これ俺たちの専用ペイントに採用決定だ!」
絶賛するサメジマ、最初の「ダメだ」が不採用で無いことにため息をつくエディ、周囲に拍手と口笛が鳴り響く。

318:三流F(ry
17/06/22 00:38:52.16 QHr9rYhw0.net
「サラミス級シルバー・シンプソン、発艦!」
艦長の号令一下、1隻のパトロール艦がルナツーを起つ、所属のオハイオ小隊と共に。
ジャックにとっては最初の、サメジマにとっては最後の出撃に・・・。
会敵は意外に早く訪れた。地球軌道を周回しはじめてまもなく、ジオン軍の補給艦を捕らえるサラミス。
おそらく連邦軍の裏をかくためにあえてルナツーに近い宙域を航路に選んだのだろう、だが
狙いは良かったが運は無かった。本来ならミノフスキー粒子によって隠密行動がかなったのかもしれないが
丁度その航路


319:上でパトロール艦と鉢合わせては意味が無い。 「敵艦捕捉!オハイオ小隊はすみやかに配置に付け!」 艦内にサイレンとアナウンスが鳴り響く、その中をノーマルスーツを装着しヘルメットを抱えた3名が 愛機に向かう、サメジマ以下2名。 ボールのハッチは宇宙船外にある。本来は主砲のメンテナンスのためのハッチから外に出る3人 ボールにつながるワイヤーを取り、自分の体を愛機に引き寄せる。ただ今日はいつもと違い その愛機には勇ましい、そしてちょっと愛嬌のあるペイントがある。思わずニヤけるサメジマ。 古来よりこういうペイントは決して遊び心だけではない、搭乗者の士気を上げ、敵の戦意を削ぐ その効果に一番便乗しているのがほかならぬサメジマ隊長だった。 「敵補給艦、定期急行便、エスコート無し・・・カモだ!」 ボールに乗り込み、敵輸送船をレーダーに捕らえながらそううそぶくサメジマ。 シャークマスクに当てられたか、ワルっぽい口調で状況を復唱する。そんないつもと違う隊長の口ぶりに ジャックはノリがいいなぁ、と苦笑い。 しかしサメジマには別の真意があリ、エディもそれを理解していた。おそらくこの戦闘はほぼ 一方的な虐殺になる。そんな殺戮に初陣のジャックが付いてこられるか一抹の不安があった。 目前の補給艦は地球に進行したジオン軍が、占領下から略奪した物資や鉱物等をジオン本国に持ち帰るための部隊、 当然逃がすわけにはいかない、連邦にとって彼らは地球という家に押し入った強盗であり、持ち去られた物資は やがて自分たちを攻撃する兵器や兵士の腹の足しになるのだ。 少し前なら威嚇攻撃で投降させ、拿捕するという戦法もとれただろう、輸送船の武装などたかが知れている しかし今はモビルスーツがある、もしあの輸送船にザクが多数搭載されていたなら、たちまち立場は逆転する、 非情なようだが、初弾で致命傷を与え、モビルスーツを使う前に撃沈せしめる、それが自分たちを殺さない最良の作戦。 しかしボール1機に人員は1人、敵補給艦には100人前後もの人員が詰めている、だからこの戦闘は少数による大量虐殺になる もし自分がそんな躊躇を見せれば、部下の士気にも影響する。特に初陣のジャックには。



320:三流F(ry
17/06/22 00:39:38.68 QHr9rYhw0.net
「オハイオ小隊、出撃する!ブリッジ、舫いを解け!!」
その声を合図にサラミスから打ち出される3機のサメ顔ボール、顎は放たれた。
敵モビルスーツが発艦する前に初弾を打ち込めるかが勝負だ、迷わず一直線に輸送船に突入する。
それを知った輸送船は散開行動を取る、すなわちモビルスーツを搭載していないか、もしくは発進準備が出来ていない証拠、
サメジマは、そしてエディはこの戦闘の勝利を確信した、あとはあの坊やに引き金を引けるかだ。
彼を誘導するべく、サメジマはさらに芝居がかった口調で続ける。
「ふっ!散ったか、手遅れだ、ルナツーに近づきすぎた罪は重い!!」
照準器が輸送船を捕らえる、初段命中疑いなし!
その瞬間、サメジマのモニターに光の線が走った、エディやジャックのモニターにも同様に。
高速で、とてつもない高速で何かが機動している。ミサイル?いや違う。それは意思を持って
縦横無尽に動き回っていた、サメジマの背中に冷や汗が走る、ザクか?
すでに発艦してこちらを引き込んで迎撃するつもりか!・・・それも違う、それにしては輸送船を危険にさらしすぎる。
そこで思考を中断し、ザク用に開発した照準システムを起動する、詮索は後だ、とにかくザクを倒すことが最優先だ。
ザクの速力、姿勢により移動しようとする方向を追尾するようにプログラムされた照準が敵モビルスーツを捕らえる
が、ロックオンしたその瞬間、敵はすさまじい加速でその照準をぶっちぎる。こいつは・・・ザクじゃない!
「な、なんだ!?」
「まさか・・・ジオンの新型モビルスーツか!」
その青い閃光はすさまじい速力で機動し、ボールを翻弄する。相手も3機、しかし速力は完全にウサギとカメだった
勝ち目は無い、サメジマとエディはすぐさま悟った、この戦の敗北と、次に成すべきコトを。
「隊長!母艦を狙われる恐れが!」
「分かっている、撤退するぞ!!」
エディの声にサメジマが応える、そして合流、幸い初陣のジャックもこの状況に恐れずに集結できた。
3機は一目散にサラミスに向かう。敗走では無い、戦略的撤退。敵と味方の戦力差を見れば当然のことだし
母艦のサラミスを落とされるわけにはいかない、オハイオ小隊は3人だが、サラミスには120人から乗っているのだ。
加えてあれが敵の新型モビルスーツなら、この映像は貴重な資料となる。解析し、新たな対抗兵器やシステムを確立する
その為にも彼らはなんとしても生きて帰還する必要があったのだ。
「ようお疲れ。どうだった?戦場は。」
サラミス艦内の休憩室、サメジマの声に応える余裕も無く、青い顔で震えているジャック。
無理も無い、戦場は楽勝から絶対絶命へと急転直下した舞台、新型モビルスーツに殺される恐怖心に襲われ
仲間の足を引っ張らないようにするのが精一杯だっただろう。
「さぁて、帰ったら忙しくなるぞ。あの機体の分析して対応策を練らなきゃな。」
そう声をかけ、彼にドリンクを手渡す。自室に引っ込むサメジマはしかし、ひとつの疑問を振り払えないでいた。
-なぜだ、なぜあの速力の差で、俺たちは逃げおおせたー

321:三流F(ry
17/06/22 00:47:16.15 QHr9rYhw0.net
第三話でした、ようやくイグルー本編と合流です。
まぁ隊長の名前でバレバレだったとは思いますがW

322:通常の名無しさんの3倍
17/06/22 23:18:01.54 Klu/4s9i0.net


323:三流F(ry
17/06/23 00:09:32.21 4BZYqPon0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第四話 英雄退場
その後は特に会敵も無く、順調に2日間のパトロール任務を終ようとしていた。、
しかし悲劇はここから始まる・・・
ルナツーのドックに入港し、下船のための準備を整えるオハイオ小隊の3名、
しかしすぐに3人が違和感に気づく、どこかルナツーの空気が違う。物質的な話ではもちろんない、
船の中からでも、ドック内で働く作業員の視線や表情が明らかに固い、一体何があったのか?
「・・・あ、ワッケイン指令、珍しいな。」
ジャックが言う、この基地の指令であるワッケインがドック内にいるのは珍しい。
しかも下船の通路デッキの先にいる、まるで誰かが下船してくるのを待ち構えているように・・・
サメジマは違和感を感じながらも、先頭を切って船を下り、デッキをまっすぐ歩いて行く
顔を見合わせながらエディとジャックがそれに続く。
「指令自らのお迎えとは光栄ですな、シルバー・シンプソン所属オハイオ小隊、只今帰還しました。
やや固い笑顔を見せ敬礼をする、しかしワッケインは手を後ろに回したまま返礼をしなかった、
顔を伏せ、目線すら合わせようとしない。
「ヒデキ・サメジマ中尉、ならびに小隊所属の二名、このまま司令室に出頭のこと。」
そう言って背中を向けて歩き出す、要するに付いてこいという意味だろう。しかし一体何事か・・・
司令室で見た物、それは彼ら3人にとって血の気が引く映像であった。
-おめでとう連邦軍の諸君!我々はついに諸君も


324:モビルスーツの開発に成功したという情報を入手した- -しかし、喜びに沸く諸君らに、我々は悲しむべき事実を伝えねばならない!- -兵器局発表!我々は主力モビルスーツ「ザク」を遙かに上回る新型機の開発に成功した!- -EMS-10「ヅダ」である- それはジオンのプロパガンダであった、そしてそこにある機体を3人は知っている。 今回の出撃で遭遇した、恐るべき機動力を誇る青い新型機! -現在このヅダは、ジャン・リュック・デュバル少佐指揮のもと、最終試験を実施中である!- -さぁ、この新型機の量産も間近だ!- そこまで見て、一度映像を止めるワッケイン。 「・・・どう思う?」 「我々はこれと遭遇しました。敵のプロパガンダを認めたくはありませんが、これは事実です。」 サメジマが答える、今後はザクではなく、このヅダを相手にせねばならぬことを伝える。 「そうか。」 それ以上何も言わない、そしてワッケインは録画の続きを再生させる。 その後の映像を見たとき、彼らはこのルナツーに漂う空気の正体を知った。



325:三流F(ry
17/06/23 00:11:27.62 4BZYqPon0.net
-これは、先日の遭遇線の際、わが軍の「ヅダ」が行った戦闘映像である-
それ以上の解説は無かった、また必要なかったとも言える。それはヅダとジオンの使用する観測ポッドの映像。
3機のヅダと、オハイオ小隊の戦闘、それは捕捉修正の無い、客観的な映像だった。それがさらに事態を悪化させる。
縦横無尽に飛び回るヅダに手も足も出ないボール、しかもそのボールはまるで3流アニメの悪役のような
サメの顔が描かれている、無力な輸送船を襲おうとした凶悪なサメと、それを蹴散らす青い騎士。
そして手も足も出ずに、すごすごと逃げ出す3匹のサメ、
誰がどう見てもこの映像における英雄はヅダであり、チープな悪役はオハイオ小隊であった。
ボールが逃走したあと、ヅダは虚空に向けてシュツルムファウストを発射する、それは信号弾。
つまりこの時ヅダは、実弾を持っていなかったのだ、それがオハイオが逃げたとき追撃がなかった理由。
「この映像が配信されたのは昨日のことだ、そして今日の朝一番に連邦政府から通達が来た、
この映像の事実確認をし、しかるべき処置をせよと。」
その言葉の意味をサメジマは、そしてエディは噛み締めていた。
-軍法会議-
今年初頭に始まったこの戦争、それは連邦にとって「悪のジオンを打ち倒す為の正義の聖戦」に他ならなかった。
コロニー落としによる大量殺戮、進行作戦による占領、略奪、治安の悪化、物資の欠如、インフラの低下
全てはジオンによって仕掛けられ、もたらされた悲劇であると。
「正義を持って悪のジオンを打倒せよ!」これは連邦全体のスローガンとして軍民問わず叫ばれていた。
だが、このプロパガンダはそんな風刺を一蹴しかねない、連邦はまだしもジオン国民がこれを見て
自らの戦意を高揚させるのは誰にでも想像が付く。
「敵前逃亡、利敵行為、それが罪状だ。ヒデキ・サメジマ中尉。」
あえてサメジマにだけそう伝える。それは処刑する人員を最小限に抑えようとするワッケインの配慮だった。
「承知、いたしました。」
敬礼を返すサメジマ。エディは唇を噛み、ジャックは思わず身を乗り出し、叫ぼうとする。
「そんな!あれは逃亡なん・・・」
「黙れ!」
サメジマがそれを一喝する、せっかくのワッケインの配慮を無駄にはさせられない。
それにこの映像は決定的だ、少なくとも安全なジャブローあたりであぐらをかいている政治屋どもにとって
自らの主張宣伝の妨げになると、綱紀粛正をヒステリックにわめきちらすのは容易に想像できる、
サメジマは、自分の命運が尽きたことを悟った。

-こうしてルナツーの英雄は、1本のプロバガンダによって命を落とした-

326:三流F(ry
17/06/23 00:15:35.52 4BZYqPon0.net
『そん時は敵を褒めるんだよ、あのサメジマを倒すとはたいした敵だ、ってな。』

軍人である以上、死は受け入れるべきもの、殺し合いが軍人の仕事なのだから。
しかし彼は強敵に殺されたわけではない、画期的な新兵器の餌食になったわけでもない、
政治家の都合と、敵の政治宣伝によって味方に殺されたのだ。
それでも、その死に顔に無念さは伺えなかった。
「ねぇ兄貴、俺は一体・・・誰を、褒めればいいんですか・・・」

第四話でした。
イグルーの小説で603のプロホノウ艦長が「誰も傷付けず、誰も傷つかず勝つ」
と言っていたのが印象的だったので思いついたエピソードです。

327:通常の名無しさんの3倍
17/06/26 03:10:53.63 8ndbwpUL0.net


328:三流F(ry
17/06/26 11:10:09.96 VSUjlWZh0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第五話 新たな顎

サメジマを葬った後、エディとジャックは同じ部屋に軟禁された。
エディはサメジマを悼み、ジャックは呆然と運命の非常さを噛み締めている、
何故、こんなにも俺にばかり理不尽が起こる。いや、俺の周りの人間が、か。
自分はひょっとして死神の類じゃないのか、そんな妄想までよぎる。
ふと、軟禁部屋に設置されている連絡用のモニターが写る、何事かと振り返るエディ
呆然とモニターの明かりで顔を照らすジャック。
-ジオンの皆さん、いつも素敵な放送をありがとう、さて、今回のお話は・・・-
連邦軍のプロパガンダだった。その内容はチープで馬鹿馬鹿しく、彼ら二人にとっては
子供だましにも見えない低レベルな「言い訳」だった。
-かつてこのヅダはザクⅠとの正式化競争に敗北してるというのです-
-しかし改良とは名ばかり、実は中身は全然変わってないというのです、ヤレヤレ、こんな機体が新型とは-
ジオンが流したヅダの優位性を見せる放送、それを否定するためにわざわざ作ったのか、このチープな放送。
呆れるばかりだ、ヅダがザクⅠより劣る?そんなことはありえない、実際に戦ってその強さを見てきた二人にとって
その放送があまりに間違ってることは疑いなかった。いくら自分たちの正義や優位をイメージさせるとはいえ
この子供の言い訳のような説得力の無い、しかも先日のジオン放送に即反応してこのお粗末さ、
そうまでして前の自分たちの戦いを無かったことにしたいのか!

329:三流F(ry
17/06/26 11:10:47.90 VSUjlWZh0.net
-まぁオデッサの戦いが連邦の勝利に決した今-
その一言が二人を覚醒させた。オデッサといえばジオンの地球最大の拠点、そこに詰めている人員は
数万じゃきかない、そこがもし本当に落ちたのなら・・・
ドア前に詰め寄るエディとジャック。
「おい、見張り!本当か、オデッサを陥落させたってのは。」
ドアの向こうにいる見張りに声をかける。
「ああ、この基地静かだろ。さっきみんな出撃したよ。脱出した敵も相当数いるようだしな、七面鳥狩りさ。」
宇宙へ緊急脱出するならHLVと呼ばれるカプセルで打ち上げられるのが基本だ、詰めれば百人以上が乗れるそれは
悲しいかな地球軌道への脱出しか出来ない。
無抵抗の彼らの元に、ジオン印のタクシーが迎えに来るか、連邦印の狼の群れが来るか、全ては時間との闘いだ。
ジャックは思う。ジオンの将兵は確かに憎い、しかし抵抗も出来ないカプセルに乗った彼らを撃つことは
戦闘ではなく虐殺ではないのか?兄貴と同様、自分の死に誇りさえ持てない、恐怖と阿�


330:@叫喚に包まれた死。 むろん彼も分かっている、もし数万の将兵を見逃せば、彼らは再びジオン兵として自分たちを殺しに来る、 ただでさえ兵力数で優位な連邦がここで数万のジオン兵を叩けば、今後の戦争は一気に連邦側に有利になるだろう。 それでも・・・コロニー落とし、プロパガンダによる兄貴の死、そしてこの七面鳥撃ち、ジャックは改めて 戦争の非常さに身震いした。 思えば兄貴があれだけ精力的に動いてたのは、そんな戦争の非常さをよく分かっていたからじゃなかったのか・・・ 3日後、軟禁を解かれ司令室に連行される二人。そこで受けた命令はやや意外なものだった。 「エディ・スコット、並びにジャック・フィリップス、両名は本日付をもって任務に復帰、 モビルスーツ、ジムのパイロットとして訓練を受けた後、しかるべき所属に当てる。」 ワッケインから言い渡されたのは罰則ではなく厚遇だった。なぜ、と聞く前に指令が続ける。 「あの青い奴、ヅダとか言ったな。オデッサに急行した4個小隊が、わずか3機のヅダに全滅させられた。 その中にはジム2個小隊も含まれている。」 ああ、そういうことか、と思う二人。あんなプロバガンダを打った連邦の愚かさは、当然の報いを受けたわけだ。 あれを見てヅダを舐めてかかった者もいるだろう、そうでなくてもザク相手のマニュアルでの戦闘じゃ とても歯が立つ相手じゃない、火消しに慌てた宣伝は逆に火の粉をあおっただけだった。 「オデッサの脱出兵は9割ジオンに持って行かれた、千載一遇のチャンスを逃したわけだ。 当然、こちらとしてもモビルスーツを操る精鋭は一人でも多く欲しい、そういうことだ。」 ワッケインは最後にこう言い添える、それは二人にとって救いだった。 「サメジマがいたら・・・良かったんだがな。俺が言うことじゃないがな。」 それは故人に対する悼みでもあり、彼らに対する期待の表れでもあった、サメジマの意思を継ぐ者として。



331:三流F(ry
17/06/26 11:11:39.50 VSUjlWZh0.net
翌日から彼らのジムパイロットとしての訓練が始まった。基本動作の習得、武器の使い方、加減速、方向転換など
しかしそれは思っていたより遙かに簡単な操縦だった、下手をするとボールより扱いやすいのではないか・・・
その理由は3日目からの実践練習で明らかになった。2対2のジム同士での実践形式、成績は10戦全敗だった。
とにかく思うように動いてくれない、操作が簡単な反面、出来ることが異様に少ないのだ。
モビルスーツを巨人のイメージで操作していたらジムはまともに言うことを聞かない、内部にプログラムされた
動作をルーチンワークのように組み合わせることによって初めてまともに戦闘できる。
整備員やパイロットを問い詰めて、二人はその原因を突き止めた。
このジム内に入っている動きのルーチンは、「RX-78ガンダム」というジムの上位互換機が実践の中で
学習してきたプログラムだったのだ。
ザクの脅威に合わせて開発されたモビルスーツは、何より「操作の簡単さ」がまず求められた。
事実、鹵獲したザクは調べてみると、その操縦の難しさに誰もが驚いた。
逆にそこに連邦軍の開発部は活路を見いだした、性能は互角でも、より操縦しやすい機体を作れば
短期間で実践に耐えうるモビルスーツとなる、その為にまずザクに圧勝できる強力なモビルスーツ
すなわち「ガンダム」を作り、その実践データを流用、量産期に使えるデータのみを抜き出し搭載する
これが連邦軍のモビルスーツ量産作戦「V作戦」の骨子だったのだ。
しかし現実にはそううまくいくものではない。ガンダムとジムでは出力が数倍違う、同じように重力下を走っても
ガンダムではスムーズ


332:に走ってもジムではぎこちない走りになる。 全身強靱なルナチタニウム合金のガンダムと、盾だけルナチタニウム合金のジムでは防御の姿勢も違ってくる ガンダムなら盾で半身を隠していればいい状況でも、ジムなら全身を縮めてすっぽり盾に隠さねばならない。 「どうやら、俺たちのやることは決まったようだな。」 「ええ、何しろ俺たちはオハイオ小隊、あの兄貴の部下なのですから。」 エディの提案にジャックが答える、やるべきコト、兄貴が生きていたならこうしたであろうコト。 翌日から、ルナツーのメカニックは二人の無理難題に悩まされる日々が始まった・・・



333:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:07:00.81 ctIH441u0.net
乙です
ヅダはいい機体ですから仕方ない面もあるでしょう
ジオニックの陰謀さえなければ…
投下します

334:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:09:14.89 ctIH441u0.net
―艦これSEED 響応の星海―

左肩脱臼。
死を覚悟した追撃が、たったそれだけで済んだのは一重に、運が良かったからに他ならない。
不気味なまでに肌が白いその女―文字通り「血の気がない」その化物―は、それこそ人間のものとは思えないスピードで獲物にとどめをささんと飛び掛かり、対するキラは咄嗟に左手で掴んだ石を盾にした。
化物が隻腕で、バランスを崩していたのも幸いだったのだろう。化物のパンチをまともに受け止めた、子どもの頭部ほどの大きさだった石は粉々に砕かれ、衝撃で左肩が脱臼した上に背にしていた赤レンガの壁が崩壊、
キラは化物もろとも建物内にゴロゴロ転がり込んでいった。
だが、なんとか直撃だけは免れることができた。
「ぐ……、くっそ……!」
死ぬかと思ったが、まだ生きている。
ならまだやれることがある。
立ち上がれ。
「げ、ぅッ!?」
だが、幸運はそれで使い果たしてしまったようだ。むしろ負債を抱えてしまったとも言える。
甘かった。
いち早く戦闘態勢に復帰した化物が、今度はキラの腹部を思いっきり蹴っ飛ばした。
キラはサッカーボールのように、大型トラックに跳ね飛ばされたマネキンのように一直線にぶっ飛び、厚い壁を突き破って建物外に追い出される。まるでアニメ漫画のような、冗談みたいな一幕。
何度も何度もコンクリート製の大地に身体を打ち付けながら跳ね飛び、回転し、とある【何か】にぶつかってようやく止まった頃には、キラは全身血塗れになっていた。
鮮血の赤が、月明かりに照らされた無機質なコンクリートを点々と彩る。
「……が……ぁ、っうぁ……」
虫の息。
理不尽な暴力に晒され、これといった抵抗もできないまま大の字でくたばった青年は、まさに死に体だ。かつて最強のパイロットと謳われた人間は一瞬で、完全に敗北した。
なにもできない。なにも考えられない。もうなにも動かせない。逃げるという生命の根本的な気力さえ、潰されていた。生命体としてのスペックが桁違い―いや、別次元だった。
ミジンコは人間に勝てない。勝負を挑もうとも考えられない。そういう次元。
腹部から大量の血が流れ出し、あっという間に血だまりが出来上がる。
あとは息の根を止められるのを待つだけだ。
攻撃に反応し、今の今まで意識を保ち続けていたことこそが奇跡だったのだ。

335:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:11:05.38 ctIH441u0.net
(……いや、これは、おかしい)
そう、まだキラは意識を保っている。

保ててしまっている。

(もうとっくに、死んでなきゃおかしい)
奴の襲撃から既に十秒が経っていた。
そもそも普通の人間なら初撃で、少なくとも蹴り飛ばされた時点で意識を失い、順当に死んでなきゃおかしい。戦士としての勘がそう告げている。状況がひどく矛盾している。
人工子宮生まれの最高のコーディネイターだからとか、ここ最近はまじめに鍛えているとか関係ない。人間、何十メートルもぶっ飛ばされるような打撃を喰らって生きていられるほど頑丈には出来ていないのだ。
眼差しの先に広がる、美しい星の海を見上げて、空恐ろしいまでの冷静さで自問する。
であれば、今生きている「自分」はなんだ?
もう絶対に動けないと思っていたのに、なのに膝を震えさせながらも立ち上がることができている「自分」はなんだ?
人間ではないのかもしれないなと、自答した。
(まだ死なない。まだ死ねない……!)
だからどうしたと、再び自問。
今を生きている、それ以上になにかが必要あるのか。
なにかにつけて誰もが納得する正当な理由がなければならない必要があるのか。
生きているのなら、生きなければならない。
生きのびると言うこと。どこかチクリと痛むその単語は、たとえミジンコであろうと追求し続けなければならないものだから。
だから人は、戦う力を捨てられないのだ。
「……【おまえ】がなんでこんな所にいるのか、僕は知らない。でも、ここにあるのなら」
戦う為の力。
キラにとっての【ソレ】は、今や彼の背にあった。
空を見上げて偶然発見した【ソレ】は、この現実を打開できる唯一のもの。知り尽くしていて、絶対的な信頼を寄せるもの。
こいつがあれば戦えると、一目見た瞬間に確信した。あの化物に、あの人類の天敵に抵抗できると。
咳き込みながら、自力で立つこともままならない身体を支えるために背中を預けていた【ソレ】は、港に鎮座していた巨大な鉄灰色の巨人だった。あまりにも見慣れた、ここに在ることがどこまでも不自然なその機体。
過去かもしれないこの世界に在ってはならないもの。

336:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:13:07.63 ctIH441u0.net
構うもんかと呟く。
そして。
遠く、化物がのそのそと建物から這い出てくる様を、霞む瞳で見つめながらキラは物言わぬ機体に語りかけた。
血反吐を吐きながら、願う。
かつて戦うことを恐れ否定し、それを乗り越え世界の為に戦い続けていく覚悟を誓った青年は、生きたいと願う。
「僕に力を貸してくれ」
それに応えるように。
一対の角のようなアンテナと人間のようなデュアルアイ、意図的にヒロイックな形状にデザインされた装甲を纏い大ぶりなライフルとシールドを懸架した18mの機械人形―【GAT-X105 ストライク】が、微かな光を放っ
たように思えた。
偶然にしては出来すぎている。
わからないことは後回しに。
できること、やれることをするだけだ。
その為には。
「僕は、生きる」
どこまでも膨れ上がる『生』への強い渇望。
それだけを支えにキラは、「右手に握った大型ライフル」を化物に向け、トリガーを引いた。

《第2話:ヒトデナシ達の三重奏》

「まずは、礼を言わせて頂きたい。昨日は、深海棲艦を撃退してくれて、ありがとう。おかげで命拾いしたよ我々は」
「いやそんな……僕はただ死にたくなくて、無我夢中で……」
一晩明けて、翌日のお昼。
全身を包帯でグルグル巻きにされた青年キラ・ヒビキは、同じく包帯グルグル巻きの壮齢の男性と面会していた。
昨夜の修羅場を辛くも生き延び、つい今し方に昨日と同じベッドで目覚めたキラは、昨日見たものと同じ天井と熱っぽい身体を認識して溜息をついた。今回もなんとか生きてるけど、こんなズタボロ状態


337:で目覚めるのは三度 目だしもう勘弁してほしいと思う。イージスが自爆したりインパルスに貫かれたり、そして化物にボコられたり、むしろこれでよく五体満足でいられるものだ。 そう他人事のように感心して頷いていた時にその男はやってきて、こう言った。 「私は二階堂大河少将だ。この佐世保鎮守府を取りまとめる提督――つまり最高責任者だな、ここの」



338:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:15:06.75 ctIH441u0.net
短く切り揃え逆立てた黒髪に、日焼けした精悍な顔つきが凜々しい筋肉質の男。いかにも歴戦の軍人といった頼
もしい様子で、渋いバリトンボイスで深々と礼を述べるこの人物が、キラが会いたがっていた責任者のようだった。
そう、軍属のキラが自分の「今」を手早く知る為にコンタクトを取りたがっていた、響が紹介してくれると約束した軍のお偉いさんである。
しかし、その目的は既に半分以上瓦解していることは理解しており、いまここで「僕キラ・ヒビキなんですけど、ちょっと近況教えてくれますか」と言ってもむしろ混乱を招くだけだろう。ここは正真正銘本当の意味で「ここ
はどこなんですか」と訊かなければならない場面だった。
ここは己の知る地球ではなく、己は異邦人であると嫌でも実感したからだ。
「傷はまだ痛むかね?」
「……あ。えぇ、はい。……まぁなんとか」
「そうか。……しかし、護衛の一人もつけずにいたのは此方の落ち度だ。すまなかった」
「そんなの。僕が勝手に出歩いたのがいけないんですから……。……其方も、大丈夫なんですか?」
提督を名乗る二階堂少将も、キラに負けず劣らず傷だらけであった。
ぱっと見、右腕と左脚を骨折しているらしい。真っ白のギブスと松葉杖が痛々しく、検査服から覗く胸板にも包帯が巻かれていた。出歩くのも辛そうな重体だ。
それでも男は嫌な顔ひとつも見せず、頭を振って応える。
「いやなに、見た目は派手だがそう大したものではない。ただまぁ強引に病院に担ぎ込まれてな。……そのタイミングで攻めてくるのだから、敵もなかなかにやるものだ」
「……なにが、あったんですか」
「空爆だよ。深海棲艦のな」
ズタボロになるのは男の勲章とは思わないかねと冗談めかして笑ったのち、傷に障ったのか顔を引き攣らせたその男は、損壊し倒壊した建物の下敷きになったのだという。昨夜ようやく退院(後に聞いたことだが、強引に抜
け出してきたらしい)できたとのことだ。
「……」
「……」
沈鬱な沈黙が場を支配する。
男の発言と状況からして、この佐世保鎮守府という基地は相当に劣勢な立場にいるのだろうなと、キラは推測した。軍事施設だというのに妙に人がいないのも、全体的にボロボロなのも、その深海棲艦とかいう敵に押されて
いるからだと、言外に匂わせていた。
深海棲艦。
昨夜戦った―いや、一方的にボコボコにしてくれたあの化物が、そうなのだろうか。
個なのか組織なのかは不明だが、あのとんでもない化物を、とても人の手によるものとは思えないアレを、この提督は認知している。そして昨日のアナウンスの内容からしても、この基地があの化物相手に戦っていることは
明白だ。
アレはいったい、なんだ?

339:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:17:05.41 ctIH441u0.net
「さて、では事情聴取と情報交換を始めよう。君のことは響からも報告を受けているが、直接一から説明してくれるとありがたい」
「響……そうだ。あの娘


340:は? どこにいるんですか?」 ゴホン、と咳払いして続けられた提督の台詞に、キラは「彼女は無事なのか」と今更ながらに心細くなった。 あんな化物相手に立ち向かって、無事でいられる筈がない。改めてキラは彼女の言葉と選択の重さを悟る。彼女を信じると決めたからって、敵を知ってしまえばもうその気持ちは揺らいでしまっていた。 今起きたのだから仕方がないとはいえ、まだ顔を見ていない。気になって仕方がなかった。 早く会いたいと、切に思う。 「それも含めて、だ」 提督は、思わず前のめりになっていたキラを制する。 「彼女が今どうしているか。それは未来人、若しくは異世界人かもしれない君が、此方の常識を知らんことには 説明できないものだ。同様に我々が、君がなにをどこまで知っているのかも知らなければ。これはそういう問題だ」 二人はほぼ同一の結論に辿り着いていたようだった。 つまり、キラは18m級の巨大ロボット兵器とこの世界にやってきた、異邦人であるのだと。そう判断するには充分すぎるほどのヒントはそこかしこにあったのだ。 キラにとってのそれは星空と化物であったし、提督にとってのそれはキラと一緒に発見されたロボットと彼の発言そのもの。 この目で見たモノしか信じないと豪語する主義者も納得の物的証拠だった。 同じ日本語で会話できているとしても、同じ日本という国家が存在しているとも限らない。二人を取り巻くそれぞれの世界は全く異なり、共通する常識なんてものは多くないと考えるのは極当然のこと。 提督は、響はお互いに共通する常識では語れない存在であるのだと告げていた。 物事には順序がある。彼女は後ろの方だと。 この世界の男がそう言うなら、異邦人であるところのキラは従うほかなかった。 「知りたいこと、訊きたいことは互いにある。私としても君のロボットに興味津々なのでね。……だが、そうだな。まず一つ言うが……とりあえず彼女は無事だ。だから安心なさい」 常識を知る為に、世界を知ろう。 ◇ 「ッくしゅん!」 「ん? 風邪か?」



341:通常の名無しさんの3倍
17/06/27 17:20:05.71 OwAeB4lz0.net
エラー回避

342:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:20:33.03 ctIH441u0.net
「いや……」
提督とキラが情報交換を始めたのと同じ頃。
響は木曾と共に哨戒任務につき、海上の人となっていた。
艤装を装着した彼女達は、まるでスケートでもしているかのように、すいすいと生身のまま海上を滑走する。
荒れ狂う灰色の海もなんのその、慣れた体裁きで当然のように支配下に置き、サーフボードも使わず二本の脚のみで成す様はまさに魔法のよう。
この水上を沈むことなく進める超常的能力は、艦娘が生まれつき備える基本能力の一つだった。
セーラー服と黒マントは20ノットの巡航速度で周囲の警戒にあたる。
「とりあえず、もうこの辺りは大丈夫そうだね。やっぱり昨日のアレが敵主力だったみたいだ」
「なら少なくとも半日は凌げるか。しかし―チッ、こうも電波障害が酷いとな。この海域はもう解放したろうが」
「だから私達が出てるのさ」
「九州一帯を覆う新たな磁気異常。明石が言うことが本当なら、オレ達の敵は深海棲艦だけじゃねぇのかもしれないな」
磁場が乱れている海域には【敵】がいる。
それが今や子どもでさえ知っている、この世界の常識である。
そう。
ことの始まりは六年前。世界中の海が突然に、原因不明の凄まじい電波障害に襲われた。
海上においてあらゆる長距離レーダー・センサーが妨害され、人類の発�


343:Wに大きく関与してきた電波通信や電波航法といったものが悉く使用不可になった。 あまりにも唐突な出来事であり、当時海上に在った船や飛行機のほぼ全てが消息不明になったという。 海を越えるには昔ながらの海図と星を用いた航法が必要不可欠となり、通信と貿易と移動は陸上のモノのみに制限、人類の文明は大きく後退することになる。世界は海によって分割され、有線通信で辛うじて繋がりながら安 全地帯となった陸だけの生活を余儀なくされたのだ。 そしてその一年後、つまりは五年前。 海よりいずる異形の化物――後に【深海棲艦】と呼称される『人類の天敵』の存在が確認されたのは、戦争が始まったのはその時だった。 「Что это значит?」 「……すまない、ロシア語はさっぱりなんだ」 「長い付き合いじゃないか。そろそろ覚えてくれても。……どういうことだいって意味だよ」 「あー……。……ヤツらに制圧されていないのに電波障害が――しかも陸にまで出てるってことは、原因は別にあるんじゃないかって」 「例の隕石?」 「タイミング的にはな」 「新しい敵なんて、お腹いっぱいだよ」 「違いない」 UFOみたいな形のモノから人間に近い形のモノまで。



344:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:23:15.21 ctIH441u0.net
世界中の海に現れた深海棲艦は、そのそれぞれが現代の最新鋭軍艦にも引けを取らない火力・防御力・機動性を
備えており、群れをなして手当たり次第に人類に襲い掛かる習性を持つ。そんな化物に、世界の海軍は瞬く間に粉砕された。
文字通りに、歯が立たなかった。
レーダーとミサイルを封印された従来の艦艇は、同等以上の戦闘能力を持ちながらより小型なヤツらにとってはただのデカい的でしかなかったのだ。海を制圧し、陸にもその侵略の魔手を伸ばしてくる化物を相手に、沿岸に
展開した戦車部隊で防衛ラインを形成するのが人類の精一杯だった。
そういった具合に暴れ回る詳細不明の深海棲艦だが、解っていることも確かにあり、そのうちの一つが電波障害との関連性である。
深海棲艦はその個々が特殊な電磁波を放出している。特に群れを統括するボスの放つ電磁波は強烈であり、近年の研究ではこの電磁波によって意思疎通をしていることが判明している。また、アメリカ海軍の決死の奮闘によ
り、ボスを失い解放された海域は電波障害からも解放されることも実証された。
磁場が乱れている海域には【敵】がいる。【深海棲艦】がいない海域の磁場は正常である。そして陸は人類の絶対生存圏なのだ。
存在する理由も侵略する理由も謎に包まれているが、その因果関係だけは確実なものであり、世界の常識となった。
「敵の特性が強化された線はどうだい?」
「どうも波長というか、性質というか、まぁいろいろ異なるらしい。そいつが新たな磁気異常を引き起こし、かつ敵を強化しているんじゃないかと。迷惑極まりないな」
そうして未知の脅威に晒され続けてきた人類が、敗北せず五年も生きながらえてきたことには理由がある。
【艦娘】という名の奇跡が、人類の味方をしたのだ。
かつて、第二次世界大戦の折りに活躍した軍艦の名と魂を受け継いだ、生まれながらにして戦う力を備えた超常の少女達。厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
深海棲艦と同時期に世に生まれた彼女達こそが、現人類の最大戦力であり最後の希望だった。
彼女達は人間のような見た目でありながら、その元となった軍艦の能力をそのまま人間サイ�


345:Yに凝縮したような 性能を備えている。その点は深海棲艦と同様――水上を滑走し、特殊な電磁波を発し、圧倒的な火力・防御力・機動性を備える――だが、彼女達は人語を解し、人類に深い思い入れを持つ存在だった。故に彼女達は己の意思 で人類に味方し、深海棲艦と戦う道を選んだ。 何故生まれたのか、どのような生命体なのか、どこから来てどこに征くのか。その全てが不明であるヒトデナシ同士の戦争が始まった。 そうして五年、人類は艦娘を主力とした防衛戦や反攻作戦を決行、いくつかの海域を開放しながら戦争を継続して、今日に至る。 戦況は人類側の優勢に傾きつつあった。 「私達で対処できることかな」 「わからねぇ。わからねぇが、電波障害の影響を受けずにいられるオレ達でダメなら、人類は今度こそお終いだろう。ならやるしかない」 「うん……」 「なんだ、突撃隊長様が随分と弱気じゃないか。……まぁ、気持ちはわかるがな。あの隕石が原因だってんならオレだって正直お手上げさ」



346:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:25:18.27 ctIH441u0.net
優勢な筈だった。全世界的に。少なくとも、佐世保にとっては一週間前まで。

一週間前の『あの日』、台湾に突如謎の隕石群が落ちた。

大きいもので半径50mもある超巨大サイズの代物を中心に多数、どこの天文台にも観測されずにやってきたそれは、偶然目撃した者曰く「なにもない虚空からいきなり現れた」のだという。
まるで魔法、ワープのようであったと。
驚異的なサイズと数ではあったが、幸い出現位置が低空だったので落下エネルギーもたいしたものではなかったこと、台湾という土地自体がとうの昔に避難を終えて無人であったことから、隕石落下そのものによる被害は少
なかった。それでも高波は発生し、佐世保鎮守府を含む九州西部はまともに被害を受け、施設の大半がお釈迦になってしまったが。しかしそれもすぐに復旧できるレベルに収まっていた。
問題はその後だった。
隕石落下の二日後の、五日前から。
深海棲艦が隕石被害によって弱体化するどころか、むしろ強化されて佐世保を襲うようになったのだ。
今まででは考えられない程の頻度と戦力で繰り返される強襲爆撃を、もとより疲弊していた佐世保に止められる
はずもなかった。艤装の修理や艦娘の治療を行う施設をはじめ、宿舎や資源、補給路までを高波と爆撃で失っていた
同時に陸にまで発生した、従来の常識をひっくり返す広域磁気異常により応援を呼べず、航空機を使った輸送すらもできなくなっていた。体勢を立て直す暇もなく圧倒的攻勢に晒される佐世保は、近所の呉鎮守府と鹿屋基地
に傷ついた艦娘を避難させることを決意。死者こそ出ていないものの、総勢38人いた艦娘もいまや13人までに減っていた。
損耗率は既に50%を割っており、当然そのペースは加速度的に早くなっている。
救援が到着する予定の、明日の夜まではなんとか凌げる自信はある。
しかし、もし、来なければ。佐世保は陥落し、九州の地は深海棲艦に蹂躙されることになるだろう。
(それは……嫌だ)
確かにこの劣勢は、例の隕石が発端のように思える。
しかし、そんなことがありえるのか。ただの隕石でないことは確かだろうが、深海棲艦が強化された因果関係な
んてあるのだろうか。前までは後方支援がなくともやりあえていた相手に、こうも一方的に戦闘力で押し負け、追い込まれるなんてことが。
それこそ悪い宇宙人からの贈り物でもなければ。
「―時間だ、帰投するぞ。帰って飯だ」
「Да。……一つ、いい


347:かな」 「あん?」 彼女達は敵の電磁波を中和して、限定的ながらレーダーの使用を可能とする能力を持つ。故に、彼女達の電探と目視がそのまま人類の目となる。こうした哨戒任務は、艦娘の大事な仕事の一つだ。 そのお務めを無事に果たした時、響はキラの言葉を思い出した。



348:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:27:15.46 ctIH441u0.net
昨日、第二艦隊として迎撃作戦に参加し、その途中行方知れずだった第一艦隊と合流して敵の主力を撃退できた
あの戦い。その時の討ち漏らしだったのであろう重巡リ級に襲われ大怪我を負ってしまった、護ると約束したあの男の言葉。

(……約束、守れなかったな)

彼は宇宙軍所属と言っていた。そして隕石とは言うまでもなく宇宙出身である。
昨夜ようやく帰ってきた二階堂少将は苦笑いしながら「未来人なのかもしれないなぁ」と言っていた。
ただの偶然なのか、それともなにか知っていることはあるのか。
なんとなく響は、なんの根拠もないが彼はこの騒動に関係あると感じていた。
本当に根拠がないのだが。
もしかして、彼が。

(いや、まさかな)

響は頭を振る。
疲れているんだ。馬鹿なこと考えてないでさっさと帰ろう。今帰れば、多分5時間は休めるはずだ。
不安だから、なにかを「分かりやすい何か」に仕立て上げたいだけなのだと自己分析する。そういう心理はよくない。むしろ自分は謝らなければならない立場なのだと、一瞬でも失礼なことを考えてしまった己を恥じる。
気持ちを切り替えなければ。

「……すまない、なんでもない」
「……なんなんだよ?」

もし、あのロボットと一緒にやってきた彼が、あの隕石の関係者だとしたら。みんなはどう思う?
そんな疑問を胸の内に隠した響は、深海棲艦が主力を失い攻撃再開に手間取っていることを確認。木曾と共に、交代要員の暁と多摩が待つポイントへ転進したのだった。







(コーディネイターとナチュラル。宇宙に上がってまで人間同士の戦争か)

おおよそ二時間かけて、二階堂提督とキラ・ヒビキの事情聴取及び情報交換が終わった。
提督は一人、慣れない松葉杖を使ってえっちらおっちら廊下を進みながら、説明された彼の常識を思い返す。
その内容は思っていた以上に波瀾万丈なものだった。
コズミック・イラという、大三次世界大戦を経て制定された統一暦での出来事。なるだけ客観的になるよう四苦
八苦しながらと、どうにも説明が得意ではないようだが、それでも自分の世界を解ってもらう為に言葉を尽くしてくれた彼がいた世界。

349:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:29:13.02 ctIH441u0.net
そこでは。
人は宇宙に上がり、宇宙開拓時代を迎えたこと。
遺伝子操作技術が確立し、それが大きな人種間戦争に繋がってしまったこと。
モビルスーツという対艦用巨大人型機動兵器が台頭し、そのパイロットになったこと。
人類を地球側と宇宙側に二分した戦争が、二度も起きてしまったこと。多くの国が滅び、多くの人が死んだこと。
人類救済の為に、遺伝子によって全ての運命を支配しようとした指導者と、互いに互いの行動原理を認められぬからと戦わなければならなかったこと。
結果として殺してしまった彼の意思を継ぎ、崩壊し続けていく世界を維持する為の新地球統合政府の設立に尽力したこと。
そういった人間同士の戦争の歴史があったことを、その中で自分がやらかしてしまったことを、一時間かけて説明してくれた。
果たしてこの今の世界と、人間同士で第五次世界大戦までやってしまう世界と、どっちがマシなのかはひとまず考えないでおこう。
とにかく、ようやくこれで互いの知りたいことが知れたというわけだが、しかし謎は深まるばかりであった。
(異世界の地球からの来訪者。しかし、部分的とはいえ記憶喪失とは)
第二次世界大戦以降の歴史が少しずつ違っている彼の世界で、艦娘や深海棲艦といった特異的存在は確認されて
いないらしい。ならば彼が未来人という線は消えた。既にファンタジーに侵略されている我が世界とは、異なる地球から来たのだ。
想定の範囲内ではあったが、でも直接そうなのだと答えを示されてしまうとやはりショックは隠せない。提督は俯き思考に耽る。
これは大変なことになってしまったなと。
(ストライクという名のロボット兵器―モビルスーツといったか。彼は間違いなく、アレは人が搭乗して動かすものだと言っていた)
時間が差し迫りキラと別れた提督は、彼が発見された時を思い出す。
あれは例の隕石が落ちてから二日後のことだった。アレは浜辺で倒れており、あの青年はその内部から救出された。つまり、ストライクに乗ってこの世界にやって来たのだろう。
しかしキラは「それはおかしい」と疑問を投げかけた。
【GAT-X105 ストライク】は彼の世界での七年前に建造された試作機であり、キラの最初の機体であったらしい。
だが、新地球統合政府直属の設計局が開発した新たなMS群、ZGMFシリーズとGATシリーズに代わるGRMFシリーズの新型を受領した今、わざわざ今更乗るような機体ではないという。
なにか緊急の出撃があったのだとしても、納得できる要素がない。
だが、彼はその前後の記憶をどうしても思い出せないでいた。
彼は説明を続けている内に、己の記憶のところどころに穴が開いていることに気づいた。特に、直近の一週間か二週間ぐらいの記憶が、すっぽり抜け落ちていると。一ヶ月前のことはちゃんと憶えているのに、何か大変なこ
とがあったような気がするのに、おかしな話だと語っていた。結局、何故ストライクに乗っていたのかは分からずじまいだ。

350:通常の名無しさんの3倍
17/06/27 17:31:42.36 OwAeB4lz0.net
エラー回避

351:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:32:13.49 ctIH441u0.net
この記憶喪失は、転移によるショックによるものではないかと提督は考えていた。幼き日々に読みふけった漫画小説では、それが定番だったこともある。事実は小説よりも奇なり。なにより現代はヒトデナシ同士の戦争をや
ってるファンタジー時空なので、異世界というトンデモがあるのなら、きっと定番だってあるのだろう。
記憶なんてものは酷くあやふやで儚いものだ。どんな大切なことも忘れるときは忘れるし、思い出すときはいつだって唐突だ。
いずれ時間が解決してくれるだろう。

(断じてモビルスーツとは、己が身に纏って戦うための鎧ではないのだと)

だが、正確な記憶が有ったとしても説明つかないことも、時間が解決してくれない問題も、世の中にはままあるものだ。
たとえ彼の記憶が戻り、関連があるのかもわからない例の隕石の真相が少しでも解明されたとしても。
彼の体質の謎が、誰かに解明されることはあるのだろうか。


キラ・ヒビキ。
彼の身体は、体質は。艦娘や深海棲艦のものと同様の、特殊なものに変貌していた。


厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
人間のような見た目でありながら、人間よりもずっと優れた超常の身体と能力を備えるヒトデナシ。
特殊な電磁波を発し、ミニチュアのような砲塔から艦砲のものと同等の弾丸を放ち、人間用の鉄砲では傷一つ付かない、戦車と綱引きしたって勝てる、そんな化物。
キラ・ヒビキは、普通―と言っては語弊があるが―の人間だったはずなのに、いつの間にかそういう体質になっていた。少なくとも、この佐世保で発見された時点でそうなっていた。
昨夜に深海棲艦の重巡リ級に襲われても尚生き抜き、逆に艤装となったストライクのライフルで撃退したことが、なによりの証拠だった。おそらく、彼の怪我もあと数時間もすれば完治するだろう。

(普通の人間がそのような事になるとは、一体全体どういうことなのか)

そのような事例は、この世界でだって確認されていない。
これで彼が未来人で、その時代ではロボットが艤装になっているんだと言ってくれたら、こんな悩みを持つことはなかった。正直なところ提督は、キラは未来から来たものだと思い込んでいたのだ。
何故なら、異世界から来たというのに最初から「そういう体質」であったのならば、それでは地球はあまりにも
救われないじゃないかと。異世界の地球でまで艦娘と深海棲艦の戦争があるのだとしたら、それは悲しいことだった。地続きの未来なら、彼の体質にもある程度納得できるというものである。
たった一人の、あらゆる意味で例外の人物を保護するということは、誰にとってもストレスだ。
そもそも、彼はどのようなカテゴリーになるのだろうか。

(世界初の、男性の艦娘か……。まったくなんて日だ。なんて呼べばいいのか)

艦娘。艦の娘と書いて「かんむす」。

352:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:34:16.37 ctIH441u0.net
現人類最大の戦力でありながらも、軍にはとても似つかわしくない可愛らしい名称で呼ばれている彼女達。
軍の会議室で大の大人達が渋い顔で「うちの艦娘が云々」と、人類の今後に関わる大事な案件なのにまるで思春期の娘をどう扱うか困った父親のような格好で議論を交わす光景は、当初こそ滑稽なものであったとな思い出す。
今ではすっかり定着しているその名称は、彼女達を単なる兵器として扱いたくない派閥の努力が実を結んだ結果だった。今やその名は世界中に広まり、彼女達は一人の愛すべき存在として民衆に親しまれている。
しかしこれが男性となると、なかなか良い呼び名が見つからないのであった。報告書の作成には難儀することだろう。
それは追々考えていこうと思う。
(とにかく。普通から外れてしまった彼には、時間が必要だ)
この世界と己の身体の真実を知った彼は、しばらく一人にしてやらなければならないだろう。自分自身も考えを纏めなければならない。お互いに冷却期間が必要だった。
(だが、こちらはそう悠長なことは言ってられないな)
そう思い、一人医務室から撤退して執務室に向かった提督は、その思考を冷徹な軍人のものに切り替える。
実際問題、時間がほしいのはこちらの方だった。
佐世保鎮守府存続の為に、非情に徹して持てる戦力と技能をフル回転しなければならない局面であった。こちら
の採れる選択肢は多くない。人事を尽くして天命を待つしかない現状に陥ったことは、一将官として恥ずかしいものだったが。
「……二階堂だ。そちらに白露はいるか?」
<提督! お久しぶりデース! ご注文は白露ですカー?」
「ああ久しぶり。無事でなによりだ」
<えーっと……あ、Good timing! 今代わるからちょっと待っててネ。……HEY、白露ぅー。提督からのご指名ダヨっ!!>
執務室に到着するなり提督は、長らく使用していなかった有線通信機で格納庫と連絡を取る。
無線さえ使えればいいのだが、陸にまでやってきた磁気異常のせいで使い物にならない。煩わしいが背に腹はかえられないので、埃を被っていた固定電話を引っ張り出し酷使するしかなかった。
そんな通信事情と、宿舎や休憩室が更地になってしまった施設事情もあって、今や油臭い格納庫が艦娘達のたまり場となっていた。誰かしら通信機の近くにいるよう待機してもらっているのだ。
<―はい、代わりました白露です! どうなさいましたか?>
「今後の方針が決まったから、皆を執務室に集めてほしい。今どうしている?」
<んと、みんなでご飯食べてるの。10分もしたら行けると思うよ>
「わかった。よろしく頼む」
<うん! いっちばんお役立ちなあたしにお任せあれ!>
四年の付き合いになる秘書と短く連絡を取り合い、提督は愛用ソファーに深く沈み込む。
打てる手は全て打った。

353:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:36:26.93 ctIH441u0.net
救援が到着する予定は明日の20時頃……約30時間後のその時までに、いかに防衛ラインを維持し続けるかが鍵になる。いつもの半分にも満たない戦力で、いつもより手強い敵をどういなすか、ここが正念場だった。
現状の戦力を再確認する。
主力の第一艦隊所属の5隻と、遊撃の第二艦隊所属の4隻、哨戒兼補給隊の第三艦隊所属4隻。敵の攻撃再開と救援到着時刻がいつになるかは不明だが、24時間程度の戦闘行動なら全戦力を全力投入したうえで休憩なしで
いける。むしろ、下手に戦力の逐次投入などしては防衛ラインを割られる可能性が高い。問題は配置と補給タイミングか。
戦況を読み違えれば、そこからドミノ倒しのように全てが終わってしまう。だからこうして戦術を練る。

「……ギリギリ、いや少し足りないな、やはり」

せめてあと一人、戦力が欲しい。
時雨が戦力外になったのは痛かった。彼女さえ健在ならまだやりようがあったのだが。必要なのは火力よりも、
敵を攪乱できる機動性だった。無い物ねだりしても仕方がないとはいえ、ベストの陣形を組めないのは非常に痛い。
今から決行しようとするプランは所詮ベターなもので、しかも艦娘一人一人の負担がより大きくなるものだ。
作戦失敗の確率も大きくなる。けれどやり遂げてもらわなければならない、そんな苦痛がある。
彼女達をいかに安全に、楽に、確実に勝利に導くかを考えるのが提督の存在理由なのだ。
この時代の戦場で「人間」ができる数少ないことのうちの一つだ。
一端戦闘が始まれば、あとは少女達の頑張りと判断を信じて祈るしかないのだから。
だからこそ、せめてあと一人、戦力が在ればと。

「……、……本当のヒトデナシは我々人間なのかもしれない、か。確かにそうだな」

かつて、友人である呉鎮守府の提督が呟いた言葉が脳裏を掠める。
戦闘の現場に立てない「人間」である提督にできることは、こうしたバックアップまで。あとは圧倒的超常的能
力を持つとはいえ、年若い娘達に「化物と戦ってこい」と命令するしかない自分達こそが外道だと。結局人間とはなんなのだろうなと。
二階堂提督は、今自分が考えついたことに、これから自分がやろうとしていることに、若干の嫌悪感を覚えた。
だが手段は選んではいられない。そもそも採れる選択肢は多くない現状で、これは千載一遇の好機なのかもしれないのだ。故に開き直り、ヒトデナシの誹りも喜んで受け入れよう。
冷徹な軍人として、佐世保鎮守府存続の為に打てる手は全て打たなければ。
提督は再び有線通信機を手に取る。

「見せて貰おうか、異世界の機動兵器の性能とやらを」

しばらく一人にしてやらなければならないと思った直後に、申し訳ないことだが。
連絡先は、医務室だ。

354:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:39:48.76 ctIH441u0.net
以上です
キラには徹底的にボコボコになってもらいます
艦これは公式の世界観が公開されてないので、好き勝手に俺設定をでっち上げられるのが好きです

355:通常の名無しさんの3倍
17/06/28 12:06:30.86 vphXjS4s0.net


356:通常の名無しさんの3倍
17/06/28 12:32:56.34 6n0FukBK0.net

ストライクも大概不死鳥だな

357:三流(ry
17/07/01 00:39:07.23 czl7hMFV0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第六話 裏ジャブロー


-ウゥゥゥゥゥーーーッ!ウゥゥゥゥゥーーーッ!-
-全戦闘員戦闘配置、各部署の隊長、艦長、および指揮官はブリーフィングルームへ至急集合のこと-

ルナツーに鳴り響く警報、全員が慌ただ�


358:オく動く。特にメカニックは至急の出動に各兵装の準備に追われる。 エディは小隊長として会議室に行き、ジャックはメカニックの手伝いで自分のジムの最終チェックをする。 初出撃を迎える彼らのジム、しかし不安は無かった。 オハイオ小隊スペシャルのジム、見た目は普通のジムではあるが、その中身はCPUルーチンを徹底して組み直した 彼らだけの専用プログラム、幾多のテストを経てその動作性能を向上させ続けたジム。 そのシールドには、かつての雪辱を晴らすべくシャークペイントが施されていた。 願わくば、この戦闘であの青いやつと戦って勝ちたい、俺たちの顎であの高速のカジキをかみ砕いてやる! やがてブリーフィングが終了し、各隊の長が部署に走る。ジャックの元にもエディが走ってくる。 「準備は!?」 「オールグリーンです、即行けますよ!」 「よし!」 それだけを話してサラミスに搭載されているジムのコックピットに乗り込む、詳しい話は乗ってからでも出来る。 「ジオンがジャブローを総攻撃?」 「ああ、ほんの少し前に掴んだ確かな情報だそうだ。本日15:00、ジオンの総攻撃があるってな。」 「それで、なんでこっち(宇宙)で出撃なんすか?しかもこんな突貫で総員出撃とか・・・」 確かに、今から出撃して地球降下しても戦闘には間に合わないだろう、そもそも全軍出撃しても 地上降下ができる舞台はほんの一握りのはずだが・・・ 「ジオンにしてみりゃこれは天王山の一戦だ、地上に踏みとどまれるかどうかのな。これを阻止したら 奴等はもう地球から撤退せざるをえない。」 ひと呼吸おいてエディが続ける 「奴等にしたらまだ、負けても宇宙に撤退すればいい、って考えてるだろう。そんな奴等に、宇宙での連邦の 攻勢が始まった、つったらジオン兵はどう思う?」 「ケツに火が付きますね、ジャブロー攻撃どころじゃなくなるかも・・・」 「ご名答、つまりこれから地上にいるジオンに『嫌がらせ』の攻撃をするってことだ。」 理にかなっている、敵の後方を扼すのは戦術の基本だ、ということは・・・ 「標的はジオンの小惑星基地、各隊がいくつかの敵基地を突いて敵を混乱させるのが目的だ、深入りするなよ。」 やはり、この戦闘はポーズでいいんだ。どうりで突貫の出撃になるわけだ。



359:三流(ry
17/07/01 00:40:01.00 czl7hMFV0.net
「第6艦隊、サラミス級シルバー・シンプソン、出撃する!」
艦長の号令一下、二人を乗せたサラミスが発艦する。第6艦隊は彼らを含むマゼラン級1、サラミス級3、
ジム小隊6、ボール小隊4の中規模編成、目指すはソロモンの手前にあるジオンの小惑星基地、
敵要塞ソロモンの近場のため、長引けば援軍にこられて袋だたきに合う、かといって早期撤退すれば
地上のジオンへの牽制にならない、引き際の判断が作戦の成否を決める。


「ハロウィンのパーティでも始めるつもり、なのか?」
ひときわ不機嫌な表情で毒を吐くモニク・キャデラック特務大尉。後ろにいる士官、オリバー・マイ技術中尉は
言われると思った、という表情で首を振り、手持ちのタブレットを操作、詳細を表示する。
「MA-04X、モビルアーマー、ザクレロ。強力なスラスターと大出力の拡散レーザーを備えた機動型兵器です。」
ジオンの小惑星基地マドック、そこに603技術試験隊は停泊していた。試作兵器であるこのザクレロのテストの為に。
しかしそもそもこのザクレロという機体はすでに評価試験を終了している、不採用機体として。
同時期に開発されたモビルアーマー、ビグロとの正式化競争に破れ、テスト機のこれが残るのみだ、
ただ戦局逼迫のため、不採用であっても使える機体は使う、それは603が今まで何度も経験済みのことだった。

それだけにキャデラックはなおさら腹が立つ、603は兵器の乳母捨て山か、リサイクルセンターとでも思われているのか。
同時に試作兵器を受領した604技術試験隊は地球降下用の兵器を受領したらしい、それが何かは知らないが
少なくともこんな面白機体ではあるまい。
彼女のセリフ「ハロウィン」は言い得て妙だった。その機体の前面は、そのまんまハロウィンに登場する
カボチャのお化け「ジャックオーランタン」の顔にそっくりだった。
外見が戦争における心理を動かすこともあるとはいえ、あまりにチープなデザイン、これを見て
連邦軍兵士は笑うことはあっても戦意喪失して逃げ出すことはあるまい。

360:三流(ry
17/07/01 00:40:54.38 czl7hMFV0.net
「トリック・オア・トリートってか?そりゃいいや。」
当のパイロット、デミトリー曹長は全く気にしていないようだ、若く、ハンサムではないが気骨ありそうな面構えの青年。
彼自身、ずっとこの機体のテストパイロットを続けてきて、この機体がビグロに及ばないことは痛感している
しかし彼は気にせず、淡々とこのザクレロと付き合ってきた。それは彼が生粋の軍人であるように思わせたが
実際に深いところでは別の理由があった。
士官学校からずっと世話になった先輩士官、トクワンがそのビグロのテストパイロットを担当していたからだ。
ジャックにサメジマがいるように、デミトリーにはトクワンがいる、尊敬し、手本にするべき先輩が。
だからザクレロがビグロに敗れたのは不満ではあったが、仕方ないとも感じていたし、何よりここに至っては
ザクレロも実戦配備されるのだからそれも論外だ、自分の部署で、自分の兵器で、ベストを尽くすのみ。

マドックの基地内の電源が全て赤に切り替わる、そしてけたたましく鳴り響くサイレン!
「敵襲!敵襲ーーーーっ!」
反射的に動き出す全要員、全ての艦艇が、モビルスーツが、発進に向けて動き出す、
モビルアーマー・ザクレロもその例外ではなかった。

「各艦は敵基地に向け一斉射撃後、モビルスーツを展開して反時計回りに後退、待機宙域にて援護射撃!
モビルスーツは一気に敵基地に肉薄せよ!」
連邦軍艦隊が一列になって突進、敵基地の前で弧を描きつつ砲撃、ジムやボールを展開し離脱していく。
完全に先手を取れたようだ、うまくいけば陥落までもっていける。
「こちらジョージ大隊長、敵の反応が遅い、一気に仕留めるぞ!」
ジム・ボールの全体指揮を執るジョージ中佐の激が飛ぶ、このまま敵モビルスーツが発進する前にたたければ理想だ。
基地に設置された主砲が反撃の雨を降らす、基地に詰めていた艦艇がゆっくりと動き出す、間に合うか・・・?

残念ながら一歩遅かった、直前でザク、そしてより重厚な体を持った紫色のモビルスーツが基地から次々と発進
玄関先でジム・ボールとの乱戦に突入する。
「ドムってやつか!」
「気をつけろ、火器や装甲はザク以上だ!」
「上等っすよ!」
エディとジャックのジムも乱戦に身を投じる、まずは動きを止めないこと、乱戦の鉄則。
無理に小隊編成の隊列を保つことは、相手にとっても狙いを定めやすくなる。バラバラに動く時は
いっそ徹底的にバラバラに動くべきだ、これもサメジマが残した戦法の一つ。
「エディさん、グッド・ラック!」
「生きて帰れよ、ジャック!」

361:三流(ry
17/07/01 00:41:38.85 czl7hMFV0.net
声をかけると同時に2匹の鮫は逆方向に機動、エディはドムの小隊に突進、ジャックは基地とは逆方向から包囲
しようとするザク3機に向かって突撃、ビームサーベルを抜くと、すれ違いざまに一機のザクをなぎ払った。
連邦の部隊を包囲しようとしたザク3機には油断があった、また視界を広く持つ必要があったため、
自分たちに向かって単機で突進する相手にあまり気が向かない、誰かが倒すだろうという油断が仇となった。
すれ違ったジャックはサーベルを仕舞い、ビームガンを抜く。機動を止めずに弧を描いて残りのザク2機に迫る、
「くそったれえぇぇ!」
マシンガンとバズーカで反撃するザク、しかし二人とも遠距離兵器のため照準合わせに気がいって動けてない
足を止めることの愚かさを失念しているのだ。
ジャックはここでザクの頭部に向け起動する、兄貴によく聞かされていたザクの死角、それは上方向。
特に上方斜め後ろを取れば、ザクは方向転換に2アクションを必要とする、振り向いてる間に仕留める!

ジャックのジムが放ったスプレーガンは見事、1機のザクに命中。しかしもう1機は思い切った機動でビームを回避
そのまま弧を描いてジャックのジムに向かい、銃弾を浴びせる、ジムも懸命に起動してかわし、撃ち返す。
ザクのマシンガンはジムの大きな盾に阻まれる、シャークペイントが施されたその盾にすっぽり身を隠されてしまえば
ザクマシンガンではルナチタニウムの盾に穴をうがつのは困難だ、それがザクに腹を決めさせた。
弧を描く機動を止め、真っ直ぐジムに突進するザク、マシンガンを捨て、ヒートホークを抜く。
ジムは未だビームガンを持っている、サーベルを抜く前に接近して一撃を加えんと突撃!

しかし彼が相手にしているのは普通のジムではない、戦場での可能性を徹底的に検証し、新たな動作ルーチンを
書き加えたオハイオ小隊スペシャル・ジムなのだ。
ビームガンを持っていないと遠距離では戦えない、持っているとビームサーベルは使えない、ではガンを
持ってるときに敵に接近されたら?答えは明白。ビームサーベルだけが武器じゃない、左手には超硬度の鈍器。
突進してくるザクに真っ直ぐ盾を突き刺すジム、ルナチタニウムの板先を顔面に受けたザクは
そのまま頭部を胸まで埋め込まれ動きを止める、すかさずスプレーガンを至近距離から打ち込む!

362:三流(ry
17/07/01 00:44:30.13 czl7hMFV0.net
「ぶはぁあっ!」
爆発するザクから離れ、大きく息をはき出すジャック。初の戦闘の緊張感から一瞬解放され、忘れてた息をつく。
いける、このジムなら俺でもジオンと互角の勝負が出来る、兄貴が残したスピリットで俺たちが育てたこのジムなら!
余勢を駆って次の標的を探す、彼がまず捕らえたのは基地から離脱しつつある大型輸送船、戦艦で無いなら
狙う勝ちは無い、と思った瞬間彼の目に入ったのは、その艦のハッチ付近に浮いているモビルス-ツ。
「青い・・・ヅダかっ!」
全身が熱くなる、何故輸送船にいたのかは分からない、はっきりしているのはアレが連邦軍にとって
脅威だと言うこと、そしてサメジマの兄貴を間接的とはいえ倒した機体であること。
-そん時は敵を褒めるんだよ、あのサメジマを倒すとはたいした敵だ、ってな-
兄貴の言葉が頭をよぎる、やってやる!アンタを褒めて、そして倒す!ヅダに向けて起動するジャックのジム。

その時だった、ヅダに引っ張り出されるようにして、黄色い機体が格納庫から引き出されてきたのは、
その異形の「顔」にジャックの背筋が凍り付く。
「なんだ・・・ありゃあ。」

第六話でした。そう、今回の主役機はジムです(今更
603の面々もようやく登場、今後の活躍にこうご期待・・・活躍できるのかなぁw

363:通常の名無しさんの3倍
17/07/01 19:30:48.09 T1r09Erh0.net


364:通常の名無しさんの3倍
17/07/01 20:37:17.46 Eug48m790.net
乙です
大きな口をもつ化物同士の戦いとなるといよいよハロウィンじみてますな
裏方の意地同士のぶつかり合いも見れていいと思います

365:三流(ry
17/07/02 23:15:20.70 c4SS+G9s0.net
感想があると速筆になりますね、調子にぼるともいいますがw
続き投下します。

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第七話 鮫と怪物

「ありえないんじゃないっすかねぇ、こんな発艦って!」
試験支援艦ヨーツンヘイムのハッチ前、ヅダの操縦席でワシヤ中尉はひとりごちる。
彼は今、ハッチから巨大なモビルアーマーを引っ張り出す作業にかかっている。
「ぐちぐち言うな、戦闘中だぞ、急げ!」
後方からモビルアーマーを押し出しているヅダのコックピットから、キャデラック特務大尉の激が飛ぶ。
「へへっ!すいませんねぇ大尉、中尉。上官のお二方に手間かけさせちまって。」
特徴的な前歯を見せながら、ザクレロのコックピットでデミトリー曹長は苦笑いを浮かべる。

モビルアーマー・ザクレロ。タテ、ヨコ、高さ共に大型のそれは艦艇の中に収まるのには向いていない
だが、この手の機動兵器は、戦場の移動には燃料消費の観点から、どうしても艦に頼る必要があった。
牽引という手もあったが、試作兵器でありメンテやデータ収集が必要な都合上、無理矢理ヨーツンヘイムの
艦内に押し込められていたのが、急な戦闘では災いしてしまった。
モビルスーツなら架台の上に立ち、スラスターを受熱板に当てて反動で飛び出すのも可能だが
このザクレロを支える架台は無いし、スラスターの位置が低いので受熱板も当てられない、
結局、至急の発艦なら何らかの方法で引きずり出すしか無かった。

「そう思うなら戦果で示せ!」
キャデラックの注文に、デミトリーは目を光らせて答える。
「もちろんでさぁ、ここはまさに俺が、そしてコイツが望んだ戦場だ。」
艦から引きずり出されるザクレロ、その複眼のような切れ目が妖しく光り、スラスターが青い光を灯す。
そのコックピットのモニターには戦場の隅、連邦軍の艦隊が陣取る方向を捕らえている。
「ザクレロ発進!目標、敵機動艦隊!!」
そのスラスターが火を吹き上げ、巨大なモビルアーマーは急速発進する。初の、そして理想の戦場に。

「ま、待てっ!」
ジャックは反射的にその黄色い巨体を追跡に入った。何故ヅダを差し置いてそいつを追ったのかは分からない
ただ、アレが見た目以上に危険な機体であること、そんな予感が彼を動かしていた。
しかし、ジムの速力ではとうてい敵わなかった、黄色い化け物にみるみる置いて行かれるジム。
その進む先を見て、ジャックの嫌な予感は確信に変わった、あいつは・・・ヤバい!
「拡散ビーム砲クーベルメ、発射準備!」
膨大なGに耐えながらスイッチ操作するデミトリー、4隻の連邦軍艦隊との距離がみるみる詰まっていく。
「みんな、逃げろーっ!!」
通信に向かって叫ぶジャック、もう止められない、惨劇が目の前にあった。

366:三流(ry
17/07/02 23:16:11.67 c4SS+G9s0.net
「敵、単機で急速に接近してきます!」
サラミス級シルバー・シンプソンの艦橋に報告が飛ぶ、その言葉の意味を租借する前にコトは起こった。
「発射あーっ!」
ザクレロの口から前面に拡散ビームの花が咲く、それを照射したままザクレロは連邦軍艦隊のど真ん中を通り過ぎた。
5本のビーム杖は連邦軍艦隊の中を踊り、通過する。あっという間に離れていくモビルアーマー。
後に残ったのは、爆発するマゼラン級戦艦の艦橋、そして推進部、砲撃部・・・致命傷であった。
一瞬の閃光と共に、艦隊の中心で爆発する旗艦マゼラン、多くの兵士は何が起こったのか理解出来ないまま逝った。
それを最も理解したのは、ザクレロを追ってきたジムのパイロット、ジャックだったのかも知れない。
「全速で突っ切って・・・すれ違いざまに広範囲ビームで薙いでいきやがった、通り魔かアイツは!」

「うまく行ったぜ、減速、反転!」
ニヤリと笑うデミトリー、このザクレロの初の戦果がマゼラン一隻、上等だがまだまだ!
最高速と広範囲攻撃に特化したこのザクレロにとって、小回りがきくモビルスーツ戦は不向きだ。
しかし艦隊に対する突撃突破式のヒット・アンド・アウェイならこの機体は最適だ。
高速で機動中は照準もままならないが、戦艦なら的が大きいから照射しながら通過すれば運次第で命中する可能性大だ、
しかも今、連邦軍モビルスーツはこちらの基地に詰め寄ってきている。後方に控える艦隊がダメージを受けたとなれば
奴等も悠長に基地攻略に当たっているわけにもいかない、帰る船が無くなればいくら基地を陥落しても
ソロモンからの援軍に叩きつぶされるのみだ。事実、効果は絶大だった。

「マゼランが撃沈!?マジかよ」
「艦の防衛はどうなっていたんだ!」
「サラミスは無事なのか?」
「好機だ、連邦の犬どもを押し返せ!」
「603の試作兵器か?さすがオデッサの英雄!」
敵味方に飛びかう通信、戦場は攻勢が連邦からジオンに移りつつあった。

「いけぇっ!」
再度艦隊に突っ込むザクレロ、艦隊も応戦するが、戦艦に対して小さく、高速で起動するその的に命中弾は出ない
再び5本のビームが艦隊内を踊り、通過する。その姿を艦隊の真上で捉えるジャック。
通過したとき、1機のサラミスが爆発する、それは・・・ジャックの乗艦であるシルバー・シンプソン!
「野郎おおおおっ!」
すでに遙か向こうで光点になった黄色い悪魔を睨む、同じ艦の仲間が一瞬で消えた、またひとつ帰る場所を失った。
喪失感と怒りに満たされながら、しかしジャックは心の芯でひとつの言葉を思い出していた。
-相手を褒めるんだよ-
分かってる兄貴、やつだって単機で艦隊のど真ん中に特攻してるんだ、ひとつ間違えば認識もできない死だ。
勇敢さがあって初めて出来る戦法、なら俺は・・・

367:三流(ry
17/07/02 23:17:04.26 c4SS+G9s0.net
「敵機、再接近!うわあぁぁっ!」
残りのサラミスの艦内に悲鳴がこだまする、悪魔のようなモビルアーマーが三度、この艦に突っ込んでくる
すれ違いざまに放たれたビームは、今回は虚空を薙いだだけだった。もともと照準も付けずに撃っている、
残艦が少なくなれば命中率が下がるのも仕方ない、そんなことは折り込み済みだ。
機体を減速させて次の攻撃をアタマに描いた瞬間、デミトリーは妙なモノを見た、
自分の前を、同じ方向に飛んでいく機体、603の観測ポッドか?いや違う、こいつは・・・
相対的にまだそいつより速かったザクレロが「ソレ」を追い抜く、それは・・・
「連邦軍のモビルスーツ!なんでこんな所にっ!」
「いらっしゃい、待ってたぜ悪魔


368:!」 相対速度がほぼ同じである以上、両者は併走状態になる、この間合いはモビルスーツの間合いだ! 「くたばりやがれっ!」 ザクレロの真上からビーム・スプレーガンを乱射するジム、全弾直撃し反射の火花が咲く、やったか!? 「何っ!?」 ザクレロの頭部は黒くすすけてはいたが、穴は開いていなかった。 「対ビームコーティングかっ!」 「マシンガンなら良かったんだがな、惜しかったなモビルスーツ!」 ジムに向き直り、右手のヒートナタを振りかざすザクレロ。 「くっ!」 盾でそれを受けるジム。通常の受け方では無く、下面から縦方向に受け止める、先のザクにも決めた打ち込み方、 エディとジャックがジムの操縦方法を研究する課程で、ルナチタニウムの盾の使い方は大きな研究材料だった。 これのみがガンダムと同じ強度を持つなら、その使い方次第で防御力も接近戦での戦力も非常に重要だ。 普通の盾の受け方をして早々に使用不能にならないようにする動きがオハイオ・ジムには組まれていたのだ。 しかしヒート・ナタも並みの武器では無い、刃の先端が盾に食い込んだ状態からナタを加熱し、ジムの盾を 溶かしながら斬り進んでいく。 ここでジャックは思い切った行動に出る。盾ごと左腕を回転させ、テコの原理でヒート・ナタを巻き込み、ひん曲げる。 薄刃な上に熱を通しているその刃は、横方向の力を受け折れ曲がり、熱を失う。内部で断線したのだろう。 宇宙の低温で急激に冷やされる両金属、特にルナチタニウムは加熱から冷却による固着が速い。 そのままヒート・ナタを取り込み、盾と鎌は溶接されたようにくっついてしまった。 刃がちょうど盾のシャークペイントの顎の根元で止まっているその姿は、まるで鮫がザクレロの腕に 食らいついているようだった。 「もらった!」 もう逃がさない、ビームサーベルを抜き、ザクレロに突き刺そうと振りかぶるジム。しかし次の瞬間大きく揺さぶられ、 木の葉のように振り回される。ザクレロがジムを振りほどくべく急激に方向転換したためだ。それでも両者は離れない。 「くそっ!ひっついてんじゃねぇ!!」 デミトリーも必死だ。ザクレロの機動力を持ってすればモビルスーツに取り付かれる心配などない。 しかしこういう形で食らいつかれてはやばい、あのサーベルで突き刺されたらコーティングも持たないだろう。 死にものぐるいで振りほどきにかかるザクレロ、必死に姿勢を直し、サーベルを刺そうともがくジム。 黄色い化け物とそれに食らいついた鮫、2匹はそのまま戦場を不格好なダンスで横断していく。



369:三流(ry
17/07/02 23:17:41.86 c4SS+G9s0.net
「曹長!」
ヨーツンヘイム付近からワシヤ中尉のジムが飛ぶ。
「あの、バカ!」
基地周辺からエディのジムが機動する。

幾度かのダンスの後、振り回されながらもついにサーベルを刺さんと姿勢を取るジム、しかしそれはザクレロの
真っ正面での体制だった。ザクレロも口内ビームをジムに向ける、外しっこない距離、どっちが速い!?
ジムのサーベルだ!しかしそれは命中直前で突っ込んできたヅダのシールドが受け止める、返す刀で発射される
ザクレローのビーム、直撃かと思われたが、別方向から高速機動してきた別のジムによって的をかっさらわれる
溶接された部分がちぎれ飛び、ジャックのジムを抱えて飛び去るエディのジム。
「ぐは、っ・・・エ、エディさん?」
「もう十分だ、撤退するぞ!」
「・・・え?」
分からない、もう少しであの悪魔を仕留められた。逃がせばまた脅威になる。しかも艦を半分失い形勢不利な
この状況で撤退は・・・
「あれを見ろ!」
ジオンの基地に目をやる、そこには小さな爆発の光芒が連鎖的に起こっていた。

「な・・・マドックが、沈む!?」
呆然と見やるデミトリーに、ワシヤが説明する。
「多分、内部に侵入されていたんだ、戦闘開始してすぐだろう、内側からやられたら手の打ちようが無い、
ここは引くぞ!」
「ぐっ・・・」
歯がみしながらもザクレロをヨーツンヘイムに向けるデミトリー。見ると基地に詰めていたムサイやパプアも数隻
離脱を開始している、残存するモビルスーツもそれに向かう、基地が無くなればそこを死守する意味は無い。
連邦軍もまた残った2艦のサラミスに撤収しつつあった。もともとポーズだけの小競り合いの予定だっただけに
基地を沈めたらそれ以上は望まないし、旗艦マゼランを沈められた以上、長期戦も出来ない、いい潮時だろう。

サラミスに取り付いて帰還の途に入る連邦軍、全員が戦死者に敬礼を送りつつ宙域を後にする。
ジャックはふと、自分のジムの盾に刺さったままの敵の刃を見やる。
同胞はこいつに殺された、憎むべき敵の刃。・・・いや、違うな。敬すべき勇者の牙の痕。
それを盾からもぎとり、その空間にそっと投げ落とす、その刃を見送って敬礼をし直す。

数時間後、ジャブロー攻防戦が連邦軍の勝利に終わった一報が入る、
ジャックもエディも、これから苛烈になる戦争の予感を感じていた。


第七話でした。ザクレロは前作でも出しましたが本当に好きな機体です。
しかし唯一の華がトゲだらけのバラというべきキャデラックさんとは、色気の無いSSだ。
そのへんは艦これの人に任せるか(失礼w

370:三流(ry
17/07/02 23:23:25.01 c4SS+G9s0.net
あ、致命的な誤字・・・
>>316
×ワシヤ中尉のジム
○ワシヤ中尉のヅダ

・・・何やってんの俺orz

371:三流(ry
17/07/06 23:41:30.39 vRohA6le0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第八話 ソロモンの時間、前編

「大隊長就任、おめでとうございます。」
ジャックがグラスを掲げそう言うと、周囲の30人ほどから拍手が起こる。まぁグラスの中身は全員ただの水ではあるが。
「ありがとう、みんな。隊長としての責任を痛感するよ。」
薄く笑いながらエディ・スコット大尉がグラスを上げ、言う。
ソロモン決戦の直前、部隊編成に際しエディは前回の戦闘の功績が認められ、ジム・ボール大部隊の
指揮官に抜擢されることとなった、その記念顔合わせパーティ。
「まぁ特進、抜擢も当然ですよ、ドム5機にザク3機撃破ですからね。今やルナツーのエースだし。」
「しかしお前は曹長のままか、貧乏くじだったな。」
エディ大隊、その末席にはジャックも加わることになる。しかしエディは功績と抜擢の都合上
一気に大尉まで抜擢されたのに比べ、ジャックは元々雇われ軍属であり、正式な軍教育を受けていないことから
階級、立場共に変化無しだった。
「別にいいですよ、出世したくて軍に入ったわけじゃなし。」
かつては復讐のため、しかし今は自分の居場所と、無き兄貴の意思を継ぐため、自分はここにいる。
「そういや聞いたか?お前がやり合ったあのモビルアーマー・・・」
「ええ、先日の戦闘であっけなく倒されたそうですね、あの「ガンダム」に。」

ジオン軍モビルアーマー、ザクレロ。先日の基地攻防戦において、ジャックと死闘を演じた悪魔。
その最後はあっけなかったものらしい、連邦軍のフラッグ・モビルスーツともいえるRX-78/2・ガンダムとの
遭遇戦で最後を迎えたそうだ、ものの30分もかからない戦闘で。
憎き敵ではあるが、�


372:h意を払うべき強敵でもあった。それがいともあっさりと散ったことにジャックは 切なさを感じずにはいられない、そんなにも差があるのか、ジムとあの「ガンダム」には・・・ 「そういやあのガンダムを乗せた戦艦も合流するらしいな、ホワイトベース、だったっけ?」 「ああ、指令も話してたよ。少年兵がほとんどのの部隊らしいが、各地で大活躍したらしいぞ。」 グラスの水をあおり、ひと呼吸置いてみんなを見回して言う。 「さぁ、俺たちも負けてられないぞ!そろそろ任務に戻ろう!」 「はいっ!」 全員が一斉に敬礼、散開する。ここは旗艦マゼランの中、本来は彼らも任務中だが、艦の指揮を執る ワッケイン指令の計らいで設けた小休止の席、いつまでも浮かれてはいられない。



373:三流(ry
17/07/06 23:42:09.70 vRohA6le0.net
ルナツーおよび地球から出動した大艦隊、その中心に彼らはいた。いよいよ敵要塞ソロモン攻略「チェンバロ作戦」、
この決戦に際し、ルナツーをほぼカラにして出てきた。理由は一つ、ソロモンの陥落後、そこを前進基地にするため。
捕らぬ狸の何とかという者もいるが、連邦軍には確固たる勝算があった。
ソロモンの防壁は強固を極めている、中でも脅威なのが「ネズミ取り」と言われる自動選別攻撃装置。
無人のビーム砲台なのだが、基地表面や通路の各所に無数に配置されていて、しかも見えないように
カモフラージュされている。
識別信号を発していない機械が近づくと無条件で攻撃、撃滅されてしまう。戦闘がモビルスーツ戦に特化しつつあり
要塞攻略がモビルスーツによるアタックに準じるならば、このシステムは攻める側にとってまさに脅威だ、
基地に取り付いたジムは、敵モビルスーツと戦いながら、いつ別方向から狙撃されるか分からない恐怖にさらされる。
逆に敵はその場所を熟知している、誘い込んで十字砲火を浴びせるなど戦術はいくらでもある。

ジオンに潜入しているスパイから得たこの防壁を突破する方法、それに連邦軍はチェス盤を
ひっくり返すような方法を採用した。
-新兵器ソーラーシステム-
無数の集積ミラーを使い、ソロモンの外壁をネズミ取りごと焼き尽くし、そこから内部に突入しようというのだ。
敵がネズミ取りをあてにしているなら、敵部隊はソロモン表面からそうは出てこないだろう、それを逆手に取り
この新兵器で一気になぎ払ってソロモンを陥落させる腹だ。

「俺たち第三艦隊は時間稼ぎが目的だ、ただ手を抜いて敵さんにバレたら最悪、ソーラーシステムの展開前に
鏡を全部割られるってこともある、引っ越しの荷物を全部ルナツーに持って帰るハメになるぞ。」
エディ大隊のジム・ボールにエディの通信が飛ぶ、最終ミーティングは出撃前のコックピットでするのが恒例だ。
だが、エディの軽口にも笑う余裕のある者は少ない、各機体のモニターには、不気味な十字の要塞が映し出されている
猛将ドズル・ザビの守護する軍事要塞、さらに決戦ともなればジオンの名のあるエース達も出てくるだろう。
赤い彗星シャア、白狼マツナガ、深紅の稲妻ジョニー・ライデン、アナベル・ガトー・・・
現場の兵士にとって、この戦闘が上層部の思い描くような楽観的な戦闘では決してないのである

374:三流(ry
17/07/06 23:44:19.10 vRohA6le0.net
宇宙世紀0079:12月24日、ソロモン会戦が開始される。
連邦の先行部隊によりビーム攪乱幕を展開、要塞設置の主砲が無力化されたことにより、ジオンは艦隊を発進、
水際の戦力を分散させることに成功する。
第三艦隊のモビルスーツ部隊はいくつかに別れ要塞を襲撃、別働隊の第二艦隊がソーラシステムを展開するまで
時間を稼ぐのが任務だ。
「各人、時計合わせ。3・2・1・・・スタート!」
全員がシステムの、そして手持ちの時計のアラームを合わせる。今からきっかり一時間後、
ソーラーシステムが照射される。
それまで敵を要塞に釘付けし、時間直前に離脱する、時計を見ながらの戦いに緊張が走る。
その時に逃げ遅れると味方の武器で焼かれる羽目になる、かといって時間が来たからといって撤退する敵を
ジオンが放っておくはずも無い、敵との押し引きの間合いが鍵となる。

「エディ大隊、全機発進!」
大隊長の号令と共に、マゼラン1隻、サラミス5隻の艦隊からモビルスーツ・ジムとモビルポッド・ボールが
次々と発進、合計30機が隊列を組み、敵要塞の右上部分にむけて突進する。
他の艦からも次々にモビルスーツ等が発進している、遠目には特徴的な形状のペガサス級戦艦ホワイトベースの
姿も見える。彼らは別働隊、例のガンダムの活躍は見えないか、とジャックは思う。
「まぁいい、俺は俺の戦いをするまでだ!」
エディ大隊の先頭を切ってシャークシールドのジムが進む、その目標点の要塞部から、次々に光点が発進していく。
来た、敵モビルスーツ部隊、かなりの数、相手も大隊クラスか。
「フォーメーションα!攻撃開始!!」
ジャック含む前列の6機のジムが一斉にバズーカを放つ、クモの子を散らすように散開する敵モビルスーツ。
先行のジムはそこで分散、自分たちの隊列の中央に穴を開けると、二陣に控えていたボール6機が一斉に砲撃を開始する。
密集した状態での連続砲撃が次々とソロモン表面に着弾、そこでボールはブレーキをかけ停止、固定砲台としての
位置を確保する。
先行していたジムに続き、第三陣のジム・ボール部隊18機が突撃。ジムはマシンガン、ボールは近接戦闘型、
相手の懐に飛び込んで飽和攻撃そ仕掛ける算段だ。

375:三流(ry
17/07/06 23:45:09.31 vRohA6le0.net
だがジオンもしたたかだ、ボールの砲撃に動揺せず、散開したザク・リックドム部隊が小隊ごとに連携、
手近なモビルスーツを包囲して叩きにかかる。連邦の機動&飽和攻撃vsジオンの連携攻撃、戦闘の空間に
ひとつ、またひとつ、爆発の光芒が咲く。
ジャックはすでに要塞表面近くまで来ていた。ビーム攪乱幕が充満しているため、スプレーガンや
ビームサーベルは使えない。残弾の尽きたバズーカを捨て、モビルスーツ用のマシンガンを装着
敵モビルスーツに銃撃を浴びせる。だが敵も動きを止めず、直撃を盾で巧みに防ぐ、こいつら・・・強い!
先日の攻防戦とは明らかに敵の練度が違っていた。操縦するのが困難なジオン製モビルスーツを
まるで手足のように使い、小隊規模で囲んで倒しにくる。
ドムがバズーカを放ち、ザクがマシンガンの死角からヒートホークをかざして接近、彼らはここで
目標の破壊を確信しただろう、しかしそれはジャックが仕掛けた罠!
突っ込んでくるザクに盾を打ち込む、モノアイスリットを丸ごと破壊するジムの盾。次の瞬間には
ザクはマシンガンの銃撃を浴び、爆発する。その刹那、機動したジムを別のドムのヒートサーベルがかすめる。
油断も隙も無い、一瞬の油断も即、死につながる。考える暇すら惜しんで起動し、戦闘のワルツを踊るジム。
後詰めの部隊の援護砲撃によりなんとかドム2機の追撃を振り切るジャック、そこで振り返り、戦場を見る。

明らかに押されている、砲台の役目を担うボール部隊は敵に接近されると危険度が増す、それを逆手に取り
ボールを狙うと見せて、フォローに入るジムを囲んで倒す。遠距離射撃を防ぐべく閃光弾で有視照準を狂わせ
ボール部隊に切り込むドム。やはり要所で機動力に劣るボールがアキレス腱となり、的確にそこを突いてくる。
「要塞表面に集結


376:しろ!」 エディ大隊長の檄が飛ぶ、広範囲空間の戦闘は敵に一日の長がある、だが要塞周辺に迫られれば敵も 戦闘のみでなく防衛も意識せざるをえない、時計を確認、あと25分!持つか・・・? 足の遅いボールを先行させ、敵の攻勢を食い止めるジム達、その動きにさすがに敵も焦りを見せる。 一斉にソロモン表面に殺到する敵味方モビルスーツ。



377:三流(ry
17/07/06 23:45:53.21 vRohA6le0.net
要塞表面で味方を待つジャック。しかしその時、彼は背中に冷たい気配を感じ、振り返る。
要塞のハッチから、一機のモビルスーツが姿を現す。銀色に輝く、見たことの無い機体、新型か!
嫌な予感を感じ、即そのモビルスーツに特攻するジム、マシンガンを放つが、レモンのような形の盾に蹴散らされる。
次の瞬間、猛烈な勢いで機動する銀のモビルスーツ。あっという間にジャックとの距離を潰し、体当たりを食らう。
「ぐわあっ!」
ぶちかましを受け、吹き飛ばされるジャック機、次の瞬間にはそのモビルスーツが抜いた両刃のビーム長刀が
ジムを胴薙ぎにしていた。
「ぬ、ビーム攪乱幕か、なるほど・・・」
銀色のモビルスーツ、ゲルググのコックピットで男が呟く。薙いだはずのジムの胴はまだつながっていた。
新型の機体、その性能に気がいって戦場の状況を把握しきれていなかった、攪乱幕がビーム長刀の
威力を弱めていたのだ。
しかし彼の目的はジム1機の破壊ではない、戦場が膠着しつつあるのを見て、彼は指揮から戦闘に仕事を変えた。
大隊長である自分が自ら敵をなぎ倒し、味方を鼓舞し、敵の戦意を潰すために。
ジャックのジムを無視し、連邦軍部隊のまっただ中に突き進むゲルググ、マシンガンを猛射し、
ボールを、ジムを討ち取る。

「カスペン大隊長!」
「俺たちがやります、無理をせずに指揮を!」
ジオン部隊に合流したモビルスーツが声をかける、カスペンがそれに返す。
「私に気を遣ってる暇など無いはずだ、攻勢をかける機会を見逃すな!」
突如現れた強力な新型モビルスーツ、その存在に連邦部隊は明らかに動揺していた。もしあの銀色の機体が
次々と要塞から出てきたら・・・
「させるかあっ!」
銀色の機体が脅威と感じ取り、すかさず突撃するエディ大隊長のジム。こいつが戦場にいるだけで味方は萎縮する
しかし今こいつを倒せば状況は変えられる、敵のモビルスーツとのわずかなやり取りから、この機体の主が
この大隊の指揮官であることをエディは読み取っていたのだ。
マシンガンを撃ち、敵に突進するジム、ゲルググも受けて立つとばかりに機動、盾を前面に構えマシンガンを蹴散らし
ヒートホークを打ち込む、盾で受け止めるエディのジム。、しかし出力の差がありすぎる、そのまま押し込まれる。
その接触を合図に周囲でも激しい軌道戦となる、しかし士気の差は歴然。一機、また一機と落とされていくジムとボール、
もともと撤退する予定だっただけに、不利になると逃げたい衝動がどうしても沸く。それは練達の部隊相手の戦闘で
致命傷になる隙だった。

378:通常の名無しさんの3倍
17/07/06 23:53:49.08 YdysfcqhO.net
①①①①

379:三流(ry
17/07/06 23:54:06.42 vRohA6le0.net
ゲルググに押し込まれ、どんどん要塞から遠ざかるジム、目の前で自分の部下が次々に戦死していく。
「くっそおぉっ!」
食い込んだヒートホークごと盾を捨て、ゲルググをいなして戦場へ向かう、それは大隊長としての責任感、
しかし機動力で勝る敵に背中を向けることは自殺行為に等しかった。
追撃するゲルググはあっという間にジムに追いつき、とどめの一撃を加えんとす。
その時、カスペンは目の前のジムの陰から、勢いよく特攻してくるジムを発見した。
「野郎おぉぉぉっ!!」
ジャックがゲルググに吠える、エディを救うため、コイツにさっきの借りを返すため、戦場のど真ん中を突っ切ってきた。
ゲルググに体当たりを食らわすジャック・ジム。間に盾を挟み、サメの顔のペイントをゲルググのモノアイにたたきつける。
「すまん、ジャック!頼むぞっ!」
ゲルググをジャックに任せ、主戦場へと飛ぶエディ機。時計を確認、ソーラーシステム照射まであと3分!
間に合うか・・・?


第八話でした。
戦闘シーンは正直文章にするのが難しいです、頭の中で描いた戦闘を文章にしても
読んでる人がその光景を思い浮かべられるかというと・・・正直自信が無いです。
感想待ってます。


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