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新人職人がSSを書いてみる 33ページ目 - 暇つぶし2ch250:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:07:43.76 lE2EhDwC0.net
「ジブラルタルに居座ってる宇宙人共を灰にしてやろうぜ!皆!!」
ロドリゲスは、通信機に向かって大声で叫ぶ。
「了解です!」
「やってやりましょう!」
「蒼き清浄なる世界の為に」
部下達もそれぞれ大声を張り上げて己の勇気を奮い立たせる。同様の光景は、別の爆撃機部隊でも繰り広げられていた。
無線封鎖域は、まだ遠いとはいえ、これは軍の規律を乱す行為とも取られかねなかった。だが、指揮官クラスでもそれを咎める者はいなかった。
いつ死ぬかわからない状況では、この様に兵員の士気を高める行為は、必要だった。
己を、仲間を奮い立たせる咆哮を上げながら、鋼鉄の翼竜達は、獲物の待つ空へと向かっていった。
彼らは、その途中で何が待ち受けているのかということを知らない。
だが、兵士である彼らは、命令に従うしかなかった。
――――――ユーラシア連邦領海 ビスケー湾上空―――――
梯団を組んだ地球連合爆撃機部隊は、間もなくジブラルタル基地の存在するイベリア半島にたどり着こうとしていた。
「陸地が見えて来たな…」
ロドリゲスは、前方に広がる陸地―――イベリア半島北部海岸を見つめて言う。
この海域は、地球上で最も鯨やイルカ類が生息している海域であり、遥か昔には、バスク人を初めとする様々な民族が捕鯨活動を行ったことでも知られている。
C.E 70年現在、この海には、別の種類の鯨も存在していた。その鯨は、血肉ではなく、鋼鉄の体を有していた。
「前方の海域に敵艦確認!艦種は、…ザフト野郎の〝クジラ〟です」
ロドリゲスの操縦するモルニアの搭載レーダーは、海上に浮かぶ敵を発見した。これは、NJによる電波障害が覆っている地球では奇跡に近いことだった。
「例の潜水空母か…」
眼下の海には、ザフト潜水艦隊の主力戦力であるボズゴロフ級潜水空母がその巨体を海上に浮かべていた。海上のボズゴロフ級は、1隻だけでなく、2隻存在していた。
また前の方の1隻は通常型と異なり、発射台の様な物体を甲板に載せていた。
対照的に後ろの方は、通常型である。2隻の上空には、ザフトの航空戦力の中核をなす飛行MS ディンが12機V字編隊を組んで飛んでいる。
「その2000m上にげた履きもいます。〝カメラ野郎〟です。」

251:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:09:02.24 lE2EhDwC0.net
副操縦士のセバスティアーノ少尉が報告した。
その報告の通り、ディン部隊の更に上空には、グゥルに乗ったジン長距離強行偵察複座型が滞空していた。VTOL機であるグゥルは、
大量に燃料を消費する代わりにヘリコブターの様に空中をホバリングすることが可能であった。
そのジン長距離強行偵察複座型は、通常の任務で携行している重突撃機銃やスナイパーライフルではなく、奇妙な箱型の装置を両腕で抱えていた。
その装置は、銃器というよりもビデオカメラに近い形状で、先端には、無数の赤く光る小型センサーが装着されていた。その形状は、昆虫の複眼を想起させる。
そして装置の先端は、遥か碧空を飛ぶ地球連合軍爆撃機部隊に向けられていた。
「物資輸送の途中か何かだろうな…向こうも攻撃できないだろうが、俺達もこの高高度じゃ、爆弾の無駄だな」
「ディンは潜水艦の護衛なんでしょうが、あのげた履きは何のために浮かんでるんでしょうね?」
「俺達の監視の為だろう」
「ECM強度を最大にしておけよ。ミサイル�


252:ナも食らったらシャレにならん」 「了解!」 セバスティアーノは、搭載されている電子妨害装置の出力を最大に引き上げた。他の爆撃機も同様の行動をとった。 次の瞬間、全てを一変させる異変が起こった。それは、空中ではなく、遥か下界…海上にて起きた出来事であった。 前方にいたボズゴロフ級で爆発が発生したのである。オレンジ色の鮮やかな炎が、ボズゴロフ級の艦体を包み込み、一時的にその姿を隠した。 「!?何だ?自爆か!」 突如海上で発生した爆発を目撃したロドリゲスは唖然とした。上空の爆撃機部隊のパイロット達は、それぞれその光景を目撃した。 彼らの思考はそこで中断された…不運な一部は、永遠に… 海上での爆発の直後、新たな爆発が生まれたからだ。 それは、ボズゴロフ級が浮かぶ海上から遥かに離れた高高度………爆撃梯団の右端にいた編隊で起こった。 「第33中隊がやられた!」 「指揮官機被弾!!」 爆撃梯団の中で、悲鳴のような通信が飛び交った。 「何が起こった!?」 ロドリゲスは、突然の悲劇に驚きつつ、後方警戒用のカメラからの映像が表示されたモニターを見た。 そこからは、大西洋連邦軍のB-7爆撃機3機が、燃え盛るブーメランとなって地上に落下していくのが見えた。 間髪入れず、第2の爆発が空気の薄い高高度で炸裂し、今度は、ユーラシア連邦空軍のモルニアが6機、撃墜された。



253:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:16:14.47 94MtHAui0.net


254:ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
17/06/08 01:17:28.80 lE2EhDwC0.net
「………対空砲弾による攻撃と思われる!」
通信機から僚機のどれかから拾われた電波が音声化されてコックピットに響いた。
「対空砲弾…」
それらの対空砲弾は、海上のボズゴロフ級潜水空母から発射されたのは明白であった。
「艦載式の電磁対空砲だと!」
敵の兵器の正体に気付いたロドリゲスは、思わず叫んだ。電磁対空砲……旧世紀の高射砲のレールガン版とでもいうべきこの兵器は、
誘導性能こそミサイルに劣るが、コストパフォーマンスでは勝っていた。
また電磁加速された砲弾は、ECM等の妨害や迎撃を受ける可能性のあるミサイルや大気による威力の減衰という欠点があるレーザーやビーム等の光学兵器と比べ、一度発射してしまえば、
運動エネルギーを喪うまでは直進(誤差の範囲ではあるが、地球の重力による影響もある)するという利点があった。
開戦前は主要な軍事基地には電磁対空砲陣地が配置され、開戦後でも3月8日のビクトリア基地攻防戦でも、軌道上から降下してきたザフトの降下部隊に大損害を与えている。
だが、4月1日にザフトが地球に撃ち込んだニュートロンジャマーで原子力発電が無力化され、
軌道上の発電衛星も艦隊戦の結果、宇宙の藻屑と化した現在のエネルギー事情では、
レールガンを対空火器として運用するのは、ミサイルやレーザーと同等か、それ以上に割に合わないと考えられていた。
その兵器を、ザフトは、高高度を飛行する地球連合軍爆撃機部隊の迎撃に転用したのである。
ジブラルタルを目指していた地球連合軍爆撃機部隊の前に立ち塞がったボズゴロフ級は、
通常型ではなく、対空型に改造された改造型ボズゴロフ級であった。
この艦は、ローラシア級の主砲である450mm単装レールガンをベースに開発された対空レールガン AALG-22 ジルニトラを装備していたのである。
このボズゴロフ級潜水空母の戦力の大半の源泉ともいえるリニアカタパルトを潰して設置された
この大蛇の様なレールガンの射程は、ロケット加速式誘導弾頭との併用で高度3万メートルにも及ぶ。
反面貫徹力では、ジンの装甲にすら弾かれるほど威力が大幅に低下していたが、薄紙同然の装甲しかない爆撃機相手にそれは必要なかった。
またエネルギーの問題に関しては、バッテリーの役割を果たす補給潜水艦を随伴させることで解決していた。
「あのカメラ野郎が誘導してる


255:んだな!」 そして、NJ下の戦場で最大の問題となる命中率の問題は、モビルスーツに観測機材を搭載し、観測機とすることによって解決していた。ロドリゲスは、 相手がどの様にこの高高度にいる爆撃機に対して正確に砲弾を浴びせているのかのカラクリも正確に予想していた。 だが、彼の優れた洞察力もこの状況では何の助けにもならなかった。 ジンから送信される観測データを元にボズゴロフ級は、天空に向けて魔弾を送り込み続けた。電磁加速された砲弾が高高度で炸裂する度に青空に爆発の華が咲く。 誘導砲弾の破片をエンジンに受けたモルニアが黒煙を吹き上げながら高速で落下を開始する。 爆弾槽に被弾し、搭載爆弾が誘爆した機体は、大音響と共に空中で大爆発した。 飛び散った無数の破片が、密集体形を組んでいた僚機を襲い、更に被害を拡大させる。炎の塊に呑み込まれた後続機が後を追う様に爆発する。



256:ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
17/06/08 01:25:08.54 lE2EhDwC0.net
「畜生!」
ロドリゲスの目の前で、爆撃機部隊は、次々と火の手を上げ、天空から墜落していく。
一部の爆撃機が、一矢報いんとばかりに海上の改造ボズゴロフ級に向けて爆弾を投下した。
だが、それらは、浴槽に浮かぶ針に遥か上から砂粒を当てる様なものである。
投下された爆弾は、その全てが、吹き荒れる風と大気の温度変化、湿度と言った様々な要素に翻弄され、
ボズゴロフ級から離れた海面に幾つもの水柱を空しく生み出しただけに終わった。
一部の機体は、低空に降りて海上のボズゴロフ級に襲い掛かろうとした。
「頼むぞ…」
ロドリゲスの第778部隊を含む梯団の爆撃機は、旋回してその空域に留まる。周囲を見ると他の爆撃機部隊の多くも、
彼と同じ様に低空に降りた仲間が、海上の脅威を排除して進撃を再開できることを期待した。
ユーラシア連邦空軍の保有する戦略爆撃機 モルニア爆撃機は、戦略爆撃だけでなく低空での対艦攻撃も可能な運動性を有している。
低空からボズゴロフ級に迫るモルニアの編隊にボズゴロフ級の護衛を務める飛行MS ディンの部隊が迎え撃つ。
爆撃機に過ぎないモルニアは、加速性能はともかく、運動性能でディンに大幅に劣っていた。
戦いは、一方的なものとなった。重突撃機銃をエンジンに受けたモルニアが爆散し、コックピットに散弾を食らった機体は、
パイロットの肉片と強化防弾ガラスの破片を撒き散らしながら海に突っ込む。
ザフトの飛行モビルスーツは、その後数分間に渡って低空を飛ぶ鋼鉄の巨鳥を狩ることを楽しんだ。
次々と対空散弾銃や重突撃機銃を受けて三角翼の白い機体が、撃墜されていった。
1機のディンが、モルニアの上から急降下、すれ違い様に右腕に握った重斬刀を突き刺す。
コックピットの真後ろに楔を打ち込まれた白い鉄の鳥は、その巨体をよたつかせ、海面に激突し、四散する。
低空に降りた爆撃機は、1機残らず、ボズゴロフ級を護衛するディンによって撃墜された。
そして、ボズゴロフ級は、2隻とも無傷であった。

257:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:32:08.63 lE2EhDwC0.net
「こちら、〝ビッグブーメラン〟撤退する。」
最後尾を飛んでいたB-7部隊が反転した。これ以上の進撃は不可能と判断し、ヘブンズベースに向けての撤退を始めたのだろう。
彼らを皮切りに梯団を形成していた爆撃機部隊が次々と回頭を開始した。
「全機回頭…ヘブンズベースに帰還するぞ」
部下の命を預かる指揮官としてロドリゲスは、判断を下した。
「撤退するんですか?!」
セバスティアーノは、思わず相手が上官であることも忘れて叫んでいた。
「馬鹿野郎!これ以上ここに留まってどうなる!先に落とされた奴らの後追いでもしたいのか!」
高空にいれば、対空レールガンの餌食になるだけ…かといって低空に降りれば、
護衛のディンに撃墜される…これ以上この空域に留まる


258:のは危険だった。 「……すみません、隊長…」 怒鳴り返され、我に返ったセバスティアーノは、操縦士であり、指揮官のロドリゲスに謝罪した。 「…改めて言う!全機撤退!あのレールガンの射程から逃れるぞ」 「了解」 先程の戦意に溢れた声とは対照的な声で部下達は応答した。 指揮官機のモルニアを先頭に第778爆撃機中隊の機体は、ヘブンズベースへと針路をとった。 「…セバスティアーノ」 「…」 「お前の気持ちは分かる…だが、今の俺達じゃあ無駄死にするだけだ。」 「…はい」 「いつか奴らの本拠地に爆弾を叩き込む日が必ず来る!それまで俺達は生き延びて任務をこなすんだ…」 「はい!」 その後、一部の機体が強行突破を図ったが、その全てが、ジルニトラの砲撃を受けて叩き落され、生き残ったものはいなかった。 その意味では、ロドリゲスの第778爆撃中隊以下の針路を変針した部隊が、強行突破しなかったのは、正解と言えた。 なお、レイキャビク等、アイスランドの基地より出撃した別動隊は、 ジブラルタル基地の上空に達する寸前で、ジブラルタル基地外周に設置されたジルニトラの地上設置型  リントヴルムを12基有する対空陣地によって迎撃を受け、半数が撃墜され、退却を余儀なくされた。 この時、アイスランド方面から進撃した爆撃部隊は、ステルス爆撃機 B-7を主力としていたが、上空の観測機からの視覚情報によって 誘導される対空レールガンの前には、その高いステルス性能も無意味であった。 爆撃作戦 バックステージ0025は、無残な失敗に終わった。数日後、地球連合欧州方面軍司令部は、 爆撃部隊が十分に補充されるまで、爆撃機戦力を温存するという方針を決定した。 これにより、航空支援が減少したヨーロッパ戦線の地球連合地上軍は更なる苦闘を強いられることとなる。



259:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:36:55.72 lE2EhDwC0.net
今日はここまでです。
この話は、拙作 連合兵戦記における地球連合の戦略爆撃とザフトの対抗手段を描いた作品です。
ちなみに本編で現れた戦略爆撃機部隊は、レイキャビクの部隊です。
感想、アドバイスお待ちしております

260:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:37:08.08 94MtHAui0.net


261:通常の名無しさんの3倍
17/06/08 01:37:50.61 94MtHAui0.net
乙乙
流石に読むのは明日にしようw

262:通常の名無しさんの3倍
17/06/10 09:25:35.62 TRVSmT6j0.net

なんだろう、モビルスーツ出てないのに中々面白い

263:通常の名無しさんの3倍
17/06/10 21:57:49.14 7Uo+DWHV0.net
お待ちしてましたー・・・長い停滞だったなぁ、このスレ。
爆撃機VS高射砲の戦い、太平洋戦争のB29戦を彷彿とさせますね
あっちは爆撃側の無双でしたが。

264:新人になる予定
17/06/11 06:41:54.60 uPgQ1tZq0.net
こんにちは
突然ですけど一つ相談させてください
私は今ガンダムSEEDの2次創作をしたいなと思っているのですけど、なにぶん初めてなこともあって題材に悩んでいます。
候補は4つあり、
①ゾイドシリーズとのクロスオーバー
②ぼくのかんがえたさいきょーの劇場版SEED
③艦これとのクロスオーバー(ただしゲーム未プレイ)
④いっそ本編から数百年後のオリジナルストーリー
このどれかを表現してみたいなぁと漠然に思ってます。SSを書くのは初めてなので、身勝手ながらここで勇気を貰えればなと。
誰かしらレスポンスお願い致します。
長文失礼しました

265:通常の名無しさんの3倍
17/06/11 09:37:57.90 edHkl2a80.net
>>231
おはよう
個人的な意見だけど
>>1のガンクロで見たことがあるような気がするから、それを読んで隙間があるか、かぶらないか考えるのもいいかも
②元ネタがないから(冬ソ�


266:i的なという案を除けば)完結させるのが難しそうだけど、やりがいはあると思う ③ゲーム未プレイだと、ゲームの設定に詳しい人からツッコミがはいるかもしれない ④よくある意見では、「数百年後ならもうSEEDである必要なくね?」ってのを見る。ダメとは思わないけど 他の人の意見ももらえるといいね



267:通常の名無しさんの3倍
17/06/11 11:03:00.00 v5c5owRA0.net
大丈夫、ここのスレは基本みんな親切だし
投稿しながらアドバイスを貰っていけば話ごとにクオリティも
上がっていくと思う、俺もそうだったし。
ひとつ余計な世話を焼くなら、開始から完結までの流れというか
クライマックスやラストシーンをしっかり構想しておくと
途中で飽きずに書ききれると思う。

268:通常の名無しさんの3倍
17/06/11 14:41:16.63 UuVhTJDF0.net
>>232
①のゾイドとのクロスオーバーは見てみたいな

269:新人になる予定
17/06/11 23:08:13.25 uPgQ1tZq0.net
お三方意見ありがとうございます
まだ何も決まっていませんが、近いうちにここに何かしら投下させてもらおうと思います。その時はよろしくお願い致します。

270:通常の名無しさんの3倍
17/06/11 23:13:34.96 edHkl2a80.net
>>235
まったり待ってるよー

271:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 10:34:32.02 klsYB2ov0.net
こんにちは
>>231だった者です。
勢い任せで決心して書けたものができたので、今日の23時頃に投下しようと思います。
色々と意見をくれると嬉しいです。
今回は、>>234氏には申し訳ないですけどゾイド主題のものは諦めました。
でもゾイドは好きなので、いつか作中でそのネタを書きたいと思ってます。

272:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:02:13.08 klsYB2ov0.net
投下します

273:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:05:51.14 klsYB2ov0.net
夢。
夢を見ていた、そんなような気がする。
それは白く、昏い夢。どこか懐かしく安心する温もりの中で、なぜだかどうしようもなく哀しくて痛い、誰かの悲痛な叫びをただ受け止め続けるだけで。そして全てがごちゃ混ぜになって霧散する、そんな夢。
そんな夢を見ていたのかもしれないと思い、果たしてそれは一体どんな心理状況なのだろうと疑問に思い、そもそも自分は何故夢を見ていたのだろうと一頻りに頭を悩ませて。
そろそろ目覚めなければならないと、青年は思った。
目覚めなければ。
脅迫的なニュアンスを含む、至極通常のその思考。それに抗うことなく、青年は次第に覚醒する意識を自覚して、流れに乗るように努めた。
眼を開く。
薄ぼんやりとする意識に、薄ぼんやりとした視覚情報を入力する。
夢を忘れ、現実を認識する。

セカイに目覚める

そして、
「……、ここ、は」
どこだと、知らない天井を見つけた寝ぼけ眼の青年は独りごちた。
紫晶色の瞳をしばたたせ、彼はそれ以上のアクションを起こせないでいた。
ひどく身体が重い。気怠く、指先一つ動かすことすら億劫な目覚めは、まるで目覚めるという行為に全ての気力を使い果たしてしまったのではないかと思える程の最悪で。
更には頭も重く、霞がかった思考は自分が今まで何をしていたのか、何故今まで眠っていたのかを瞬時に判断できない程のものになっていた。
故に彼は、目を開けて、声を出す、それ以上ができない。
そのままボーッと、天井を見つめ続ける。
その視線の先には。
老朽化の進んだ木組みの天井と、古ぼけた蛍光灯があった。真っ白なカーテン越しの陽光に照らされた、ノスタルジックな雰囲気を醸すそれは、青年の知らない視覚情報だった。
どこかからやってきた潮の薫りとさざ波の音に満たされた、ここは知らない空間だと一目で理解した。ついで、彼は自分がベッドに寝かされていたのだと知る。
ここはどこだろう。
軽く視線だけで周囲を見渡してみると、ここは沢山のベッドを収容した大きな部屋で、青年はその隅の窓際を陣取っていた。
ベッドは10床、等間隔に並べられいずれも清潔そうな白いシーツが敷かれているのを確認したところでほのかに鼻を擽る消毒薬の臭いに気づき、おそらく医療関係の施設ではないかと思い当たった。
しかし、それにしては人類が宇宙で暮らして半世紀以上の現代で、今時天然物の木材で建築された病院などあるのだろうか。他に人がいるような気配もなく、ならここはド田舎の保健室……のようなものなのかもしれない。

274:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:07:26.50 klsYB2ov0.net
何故自分はここにいる?
ここに至るまで、自分は何をしていた? そう、そうだ……たしか、大変なことがあったような、そんな気がするのに。
(どうしようもない何かが、あったハズなのに)
そこから先が思い出せない。
いつのまにか眠気はすっかり引いていて、自分が何者なのかは、どんな人生を送ってきたのかは明確にわかるようになっていた。なのに直近のことだけが、どうしてか直近のことだけが、未だ思い出せない。
そうして彼は、幾つもの疑問に頭を占拠されてしまう。思考の海に溺れさせてしまう。そう、何かが違うハズと脳が全力で叫んでいるんだ。
だって、連続性がないのだ―今自分がこのようになっているのは酷く不自然なことなのだと、理由はわからないのにそう思えるのだ。これはなんだかおかしいんだ。
『情報』が欲しい。
自分にとって身近な情報を見つけられないのは、苦しい。
「なんなんだ、これは……?」
この状況に、わけもなく困惑するばかりの現状に、ひどい不安を覚えて再びぽつりと独り言。
眼を細め、それに応える声はないと知りながら、彼は声を世界に出力した。
だから、
「……удивился」
「え……わっ!?」
まさしく自分の真横から発せられたその『声』に驚いて。青年は思いっきり、大袈裟なほどにビクッと身体を引き攣らせてたのだった。

機動戦士ガンダムSEED×艦隊これくしょん ―艦これSEED 響応の星海―
《第0話:終わりの先にあるもの》

「……あぁ、すまない。こっちが驚かしてしまったようだね」
それは鈴のような、透明感のある幼い少女の声で。
どこかに苦笑いのエッセンスを含めた謝罪の台詞が―青年の左側、ベッド脇の簡素なサイドボードの位置から―飛んできた。
「タイミングが悪かったかな。私もまさか起きるとは思わなかったから」
一瞬、正直、幽霊かと思った。

275:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:09:12.56 klsYB2ov0.net
ほんの少しだけとはいえちゃんと部屋を見渡して、誰もいないと判断したのだ。なのにいきなりこんな近くに音もなく現れて、それはもう幽霊だろう。
しかし彼は常々幽霊なんぞいないと思ってる類いの人間で、むしろ意外にも幽霊が苦手だった部下をからかうポジションの男だった。幽霊なんてオカルトはありえない。
なので、つまり、もちろん、この声は幽霊なんて非現実的で非科学的なものでは断じてないのだ。絶対に。
小さな声なのに、よく響いて通るその『声』に、吃驚しただけなのだ、単に。
そう瞬時に思考を流した青年は、流した冷や汗を知らないフリしつつ脈打つ心臓を落ち着かせるよう努めた。
確かめなければならない。
二重の意味でひっそり覚悟を固めた青年は、ゆっくり頭を傾け、声の主を視認しようとした。視て認めようとした。
視る。
そこにあったものは、
「……」
まるで満点の青空の蒼を映した氷のようだと、思った。
蒼く白い少女がいた。
ただ冷たいのではなく、優しい―勝手な妄想かもしれないけど、そんな内面が透けて見えそうな蒼い瞳が、とても印象的。
蒼銀をそのまま鋳溶かしたかのように輝き、ふわふわクルリと広がって綿雪のように少女を彩る長い銀髪と相まって、物語の世界からそのまま飛び出してきた氷のお姫様みたいだと一瞬、呆けた頭でそう思ってしまっていた。
「……氷のお姫様?」
「え?」
「あ……え、えと。うん、何でもないよ……変なこと言って、ごめんね」
「? あなたが謝る必要は、ないと思うけどね」
言葉を使って話ができる人間がいた。
(聴かれてない、よね? 小さく呟いただけのはずだ)
うっかり思考が口から漏れ出てしまっていたのか、相当恥ずかしい単語を口走ってしまっていた。なんだそのロマンティック全開な言い回し。願わくは彼女の耳に届いていないように―と、密かに青年は祈る。
そんな男の小さな願いなど露ともしらない小さな白い娘は、小さな頭をわずかに傾けただ青年を見つめるだけだった。銀髪がふわりと揺れた。
歳は大体10才頃……いや、もう少し上だろうか。
どこか眠たげな可愛らしい顔立ちと、先ほどからの妙にクールで大人びた言葉遣いというギャップが、彼女の年齢を妙にわかりにくくさせるカモフラージュの役割を果たしていると思えた。
でも、それが悪意や邪気を孕んだものの産物ではないと感じさせるのは、きっと彼女が自然体だからだろう。真紅のタイが似合うセーラー服に身を包んで黒い帽子を目深にかぶる、そんな少女だ。
青年は安堵する。何もかもが不明なこの状況に、一つの光がみえた気がした。
会話ができる。

276:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:10:48.10 klsYB2ov0.net
会話とは情報の交換だ。彼女なら自分が知りたいことを何か、知っているかもしれない。
勝手な期待だと知りながらも、けれどこのままではいられない青年は、ちゃんと少女と会話をするために漸く身体を起こす。
「ねぇ、君。君は……っ、あ、あれ……?」
「Осторожно……無理しちゃ駄目だよ。四日も眠ってたんだ、あなたは」
「……、……そんなに」
「ああ」
起こそうとして、結局できたことは上半身を少し持ち上げるだけの行為だった。
痛みはなく、ただただ身体が重いだけ。目覚めてからずっと付きまとっていた正体不明の気怠さは、想像以上に身体の自由を奪っていたのだ。身体は再びベッドに沈み、なんてことのない運動に息を切らせる。
四日……四日も寝っぱなしでいれば、こうもなるのだろうか? 少し悲しくなった。
少女はサイドボードに置いていた、水をなみなみに張った洗面器から一枚のタオルを取り出して、ギュッと固く絞りながら言う。
あまり表情が豊かな方ではないのだろうか、眠たそうにも澄ましているようにも見えるその顔に小さな変化すら顕さないまま、淡々と。
「浜辺に倒れていたのを発見したのが四日前の朝。通りがかった遠征隊がこの鎮守府まで連れてきたんだ」
けっこうな騒ぎだったんだよ、とどこか懐かしむようなイントネーションで少女は濡れタオルを青年の額に乗せた。
ヒヤリとほどよい冷気が、いつのまにか気持ち悪い油汗を滲ませていた青年の頭を優しく癒やす。
しかし。
青年は、しばし無言のまま少女の顔を凝視した。ありがとうと言いかけて、今の台詞の中に、重要な意味を持つ単語が紛れていたことに気づいたのだ。
「な、なにかな」
「……チンジュフ?」
「そうだよ。佐世保の……」
「ここは、日本の軍の施設なの?」
鎮守府。
たしか、そう・・・ユーラシアの島国、極東の地。オーブ連合首長国のルーツである、ジャパン―日本国では、軍施設をそのような名称で呼ぶこともあると、そう聞いたことがある。
遠い記憶、いやいや参加した座学で得た知識だ。
それに、と青年は思考を加速する。
思えば自分たちは先ほどからオーブ公用語を、つまりは日本語を自然に使っていた。
バイリンガルが当たり前のご時世で、しかも彼女は時々ロシア語を使っているから断言こそできないが、その流暢な言葉の流れ、全体的なイントネーションは日本人のものだ。
極めつけは少女の服装で、まさかこんな年端もいかない女の子が水兵であるわけもなし、今この世界でセーラー服を学生服として重用しているのは彼の国だけだ。

277:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:11:47.10 klsYB2ov0.net
であればここは日本国なのか。
もし本当にそうであれば。思いの外あっさりと、この情報のない現状から脱せられるかもしれない。
そう考え、期待して、発した質問は。
「……Да。ここは日本の佐世保鎮守府で間違いないよ」
「……そう、か」
明確な肯定として、青年に光を与えた。
まったく思わぬ展開で、思わぬところから転がり出た待望の『情報』に、彼は浮かれた。
そう、自分は軍属の人間なのだ。知りたいことは、軍から訊ける。探す手間が省けたというものだと。
世界の今、己の現状、いまいちよく思い出せないそれらは、自分の立場を使えば簡単に解るのだと。
だから、青年は会話を続ける。
目の前にあるかもしれない答えを得ようと、言葉を続ける。
「教えてくれて、ありがとう―タオルも。君のおかげで……助かったよ」
「気にしなくていい。この世の中だ。こうなることだってあるさ」
「そうかな。……なら君に一つ、お願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
「Ладно」
「うん。僕は君に―っと。そういえば、名前がまだだったね」
なんか君って言い続けるのもイヤだし、まずは此方から名乗るよと喋る青年は、気づかない。
ここが軍だとすれば何故、こんな学生の少女がここにいるのか。何故、こんな木組みの古めかしい建物なんて使っているのか。何故、この自分がここに連れられたのか。
その全てに意味があることに。
まだ気づくことができないまま、青年は進んだ。
それらのことに全く考えがいきつかないまま、焦燥感に駆られるままに。

このセカイが、どういうものなのか、知らないままに。

「僕は、キラ。キラ・ヒビキ。新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊の、隊長をやってるんだ。……もしできたら、ここの責任者に会わせてもらえないかな」
かつて最強のパイロットと謳われた青年は、新たな戦いの海へと進む。

278:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/13 23:14:10.27 klsYB2ov0.net
以上です
ペースは不定期になると思いますがよろしくお願いします

279:通常の名無しさんの3倍
17/06/15 10:23:27.88 TrAMplC90.net
乙です

280:通常の名無しさんの3倍
17/06/15 22:37:57.55 2QkAL9ms0.net
投稿乙でした。
0話ということで評価は難しいけど、


281:話の「入り」は良かったと思います。 本当の評価はここからですよ、次以降も期待してます。 久々に書きたくなってきたな・・・



282:三流(ry
17/06/17 00:21:46.53 CwDs/E2I0.net
「判決、被告を敵前逃亡、並びに利敵行為の罪状により、本日12:00、銃殺刑に処す」
壇上の男がそう言い放った瞬間、その法廷、つまりルナツー第4会議室は悲痛な空気に包まれる。
肩を落とす者、すすり泣く女性、理不尽さに怒りを震わせる者、そこにいる誰もが
その判決を受け入れられずにいた。そう、判決を読み終えた裁判長さえも・・・
「ふざけんじゃねぇぞワッケイン!!」
傍聴席の隅から壇上に向けて絶叫が飛ぶ、若い男の声。
「なんだその判決は!結論ありきじゃねぇか、認められるかそんなもん!!」
周囲の者に取り押さえられながらもさらに吠える。
その基地の司令官に、また軍法会議の裁判長に対する暴言、本来なら被告とまとめて
銃殺刑でも不思議ではないその絶叫も、誰も咎めはしない。
「馬鹿かお前は!!!」
咎められた・・・死刑判決を受けた被告本人に。
「場所をわきまえろ!そもそも誰にそんな口をきいておるか、ジャック・フィリップス軍曹!!」
前を向いたまま、後ろの愛弟子を叱りつける。被告人ヒデキ・サメジマ中尉。
ため息をつき、裁判長に向き直った彼はこうフォローする。
「申し訳ありません指令、いかんせんまだまだ子供のようです、もう少し厳しく躾けるべきでした、
非は上官たる私にあります、彼には寛大な・・・」
「かまわんよ、本当のことだ。」
そのワッケインの発言に会場がどよめき、そして悟る。
この軍法会議は彼より上からの結論ありきで降りてきた「儀式」なのだと。

283:三流(ry
17/06/17 00:22:22.94 CwDs/E2I0.net
宇宙世紀0079、この年初頭に勃発した独立戦争は、年半ばまで独立側、つまりジオン公国に
有利に展開してきた。
モビルスーツ・ザクを初めとする様々な新兵器、独立という高い国民意識を掲げた意思統一
そしてコロニー落としに代表される容赦ない攻勢、連邦軍が各所で敗走を続ける中
このルナツー基地だけは基地としての体裁を保ち、その勢力を維持してきた。
それは地球を挟んでジオンと正反対の位置にあるという立地が大きかったが、
その基地内の人間のたゆまぬ努力の成果でもあった。
その中にあって、その男、ヒデキ・サメジマの名前を知らぬ者は無かった。
強靱そうな肉体と人当たりの良い陽気な性格、そしてあらゆる事柄に高いモチベーションと
行動力を持って、多くの者に慕われてきた好漢、若者たちは彼を「サメジマの兄貴」と呼んでいた。
コロニー落としで家族全てを失い、絶望と憎悪に塗りつぶされていた若者ジャック・フィリップスも
彼に救われた一人だった。
「・・・隊長、サメジマの兄貴・・・すいません、俺が、俺がよけいなことをしたばっかりに・・・」
両脇を抱えられたまま、下を向いてぼろぼろと涙をこぼながらそう話すジャック。
「なんでお前のせいになるんだよ、馬鹿言ってんじゃねぇ、指揮官は俺だぞ。」
「でも、俺が・・・あんなペイントしてなけりゃ、こんな事には・・・」
「それを許可したのも俺だ、いやむしろ嬉々として推奨してたじゃねぇか、
気にするな、責任


284:は誰かがとらにゃならねぇ、いつかお前にもその番が来る、それが組織ってもんだ。」 上半身を後ろに向けて、笑顔で答えるサメジマ。そこには、いつもの「兄貴」がいた。 これから処刑される男の小ささや儚さは微塵も感じさせない、頼もしさをオーラのように纏った男。 それは2時間後、その命を失うまで、微塵も欠けることは無かった。 MS IGLOO外伝 「顎(あぎと)朽ちるまで」 第一話 軍法会議にて。



285:通常の名無しさんの3倍
17/06/17 00:25:41.53 CwDs/E2I0.net
見切り発車ではありますが、「顎朽ちるまで」スタートです。
イグルー内で「チンピラ」「ヒャッハー」などと評される
連邦軍兵士の側から見たお話です、感想もらえるとありがたいです。

286:通常の名無しさんの3倍
17/06/18 02:03:37.15 DE081daE0.net
乙です
一度に二つも新しいのが来るとは思わんかった
楽しみが増えるね

287:通常の名無しさんの3倍
17/06/19 16:41:36.44 mma9ruiw0.net
スレが復活しつつあるな

288:三流(ry
17/06/20 00:03:28.67 QT9OsxKy0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第二話 軍人の言葉

-霊安室にて-
一人の男が横たわっている、穏やかな、そして精悍な顔で。
周囲には数々の花束、記念の品、葬る言葉を記したカード、まもなく彼は宇宙へと葬される。
軍律違反で銃殺刑にかけられた男は、その失態に似合わぬ悼まれ方でその時を待っていた。
弔問客はすでに退席を命じられ、部屋に残っている者は2人、
サメジマの小隊の隊員であったエディ・スコットとジャック・フィリップス。
未だに嗚咽を止めないジャックに対して、エディはずっと黙祷を続けている。
同僚のジャックより5歳年上なことが、彼に大人の態度を取らせてはいる、しかし泣きたいのは彼も同じだった。
「ねぇ兄貴、俺は一体・・・」
一息おいてから、言葉をつなげるジャック
「誰を、褒めればいいんですか!」
彼は邂逅する、この尊敬すべき兄貴に教わった、宝物のような言葉を・・・
今年の新年、17歳のジャックは休暇を地球の祖父の家で過ごしていた。
サイド2の工場でメカニックとして働いていた彼は、クリスマス休暇から新年までは
この青い星に降りるのが恒例になっていた。
自分へのご褒美、そして優しい祖父や祖母、使用人や旧友との年に一度の再会。
年が明けて1月3日、全宇宙にに電撃的なニュースが走る
-ジオン公国、地球連邦に宣戦布告-
地球に長居は出来なくなった。ジオンと連邦が戦争になれば、その間にあるコロニーは
軒並み巻き込まれることになる、会社の同僚や近所の友人達も気になる、片思いの彼女も・・・
1月5日、シャトルで宇宙へ、貨客船に乗り換えた時点で船内の全員に告げられる、
サイド2がジオンの進行を受け、占領下に陥ったこと、当船は連邦政府の指示により
ジオンと反対側の連邦軍基地、ルナツー近海の宇宙で待機を指示されたこと。
-遅かった-
みんなは無事だろうか、あの娘は大丈夫かな、ジオンの軍人にたぶらかされたりしてないかな。
そんな心配は杞憂であることを、程なく彼は知ることになる、より悪い、最悪の方向で
1月7日、その馬鹿馬鹿しいB級映画のようなシーンが全宇宙に配信される、ほぼ生中継に近いタイミングで。
-サイド2のコロニー「アイランド・フィッシュ」地球へ落着-
そのたちの悪い冗談のような悪夢は、ジャックにとってさらなる悲劇をもたらす。
-連邦軍の抵抗により、コロニーは破壊され3つに分断、最大の破片はオーストラリア、シドニーに落下-
彼が2日前までいた地の名前、祖父母が、旧友がいた地、そこが人類史上最悪の人災によって消滅した。
自分の居場所、帰る故郷、ジャックはこのふたつをこの日、同時に失った。
政治と軍人の都合によって、彼はこの宇宙にたったひとりぼっちで投げ出されてしまったのだ
家族も、友人も、仲間も、口うるさい上司も、恋心を抱いていた少女も・・・自分が生きてきたすべての「縁」を
この世から消し去られてしまった、まるで消しゴムで文字を消すように。

289:三流(ry
17/06/20 00:04:35.16 QT9OsxKy0.net
宇宙での待機は長かった、ルナツーには軍事関係の戦艦や空母が優先して入港し、しかも付近の宙域にも
続々と押し寄せている。来るべきジオンとの決戦に備え、戦力を結集していたのだ。
その膨大な戦力は、ジオンの凶人を鎧袖一触で叩きのめすと誰にも思わせた。
悪夢は続く。
-ルウム戦役において、連邦軍は惨敗を喫す-
ジャック・フィリップスにとって、この世はもう絶望でしか無かった。
まるで運命という神に虐められているような理不尽の連続、俺ばかりを不幸にし、
張本人のジオンを贔屓する、なぜ!どうして!
やり馬の無い悲しみが憎悪へ向かうのは自然な流れだった。
ジオンを殺す!ジオンを潰す!ジオンを消す!俺から全てを奪った奴等に同じ思いをさせてやる!!
混乱の続くルナツーで、彼は処遇に軍属への参入を申請した。
もともと寄せ集めに近いこのルナツーでは、人材不足は深刻な問題だった。開戦の混乱から
この基地に避難してきた住民の中からでも使える人材は必要だった、それが彼の申請を通した。
モビルポッド・ボールの整備員、および緊急時のパイロット資格、それが彼に与えられた仕事だった。
「・・・なんだ、こりゃ!」
その機械を見たとき、ジャックはただただ呆れ果てていた。無理も無い、作業用ポッドに砲塔を乗せた、ただそれだけの機械。
メカニックのジャックにとって、それは馴染み深い作業機械であり、そして酷いとしか言いようのない兵器?だった。
これではまるでユンボ(パワーショベル)で戦車と戦えと言ってるようなものだ。
メカニックとしてモビルスーツの存在は知っていた、コロニー落としやルウムの映像から見てその優秀さも知っている
それに対して使うのがそのお粗末すぎる機械となれば、搭乗者には死んでこいといってるようなものだ。
「こんなので・・・ジオンと戦えっていうのか?」
「いいねぇいいねぇ、任務は難しい方が燃えるってもんだ、なぁ整備士クンよ!」
ポンと肩を叩かれる、ジャックより頭一つは背の高い、肩幅の広い軍人、ニヤリと歯を見せ、笑う。
「し、失礼しました!」
慌ててなれない敬礼をするジャック、何故「失礼しました」と言ってしまったのかは分からない
ただ、その男の態度が不思議とそう言わせていた、それは咎めるのでは無く「まぁ見ていろ」と
言われた気がしたから、そんな気にさせる。
「ヒデキ・サメジマ少尉、この部隊の小隊長だ、よろしくな。」
「ジャック・フィリップス軍曹です、この部隊の整備担当です。」
敬礼の後握手をし、後ろにいるもう一人の軍人を指さす。
「俺の部下のエディ・スコットだ。ついでによろしくな。」
「隊長、アタマ殴っていいですか?」
笑い合う二人、ジャックはそれを見て暗い感情に襲われる、こんな奴等にジオンをぶち殺せるのか・・・?
戦争を分かってない、それがもたらす悲劇を理解していない、そうとしか思えなかった、軍人のくせに!
しかし、このルナツーにいる軍人は多かれ少なかれ、彼の求める資質を欠いてるようにしか見えなかった。
宇宙がほぼジオンの制圧下にある中、息を潜めて事なかれ主義で日々を過ごしているようにさえ思えた。
佐官であるワッケインが指令であることを考えても、この基地はまっとうな人事体制ができていない、
もっとも、そんな場所だから避難民であるジャックが軍属になれたのだが・・・

290:三流(ry
17/06/20 00:06:03.77 QT9OsxKy0.net
「砲塔のバランス悪いんだ、もうちょい重心を後ろにならないか?」
赴任して3日後、サメジマにそう問われる、無茶を言う人だ、と思った。
どんな急造兵器でも、生産ラインに乗ってしまえば大がかりな改造はこんなドックじゃ不可能だ。
一応その旨伝えると、思ったよりあっさりと納得してくれた、その件に関しては。
「砲塔のマガジンをマニピュレーターで自己付け替えできないかな?」
「スラスターの出力がピーキーすぎる、やんわりと方向転換したいんだが。」
「電池切れが早くてな、大容量のバックパック開発できんか?」
連日連日、彼はジャックに無理難題を持ち込んだ。もちろん対応できるのもあったが
大抵は少し考えれば不可能なのが分かりそうなものだが・・・極めつけはコレだった。
「戦艦の主砲とっぱらってボールを艦載できねぇかな?」
・・・一体、整備士を何だと思ってるんだこの人は。
連日連日ツッコミを上司に入れる日々が続いた。そしてその後、サメジマは決まってボールでテスト飛行に出て行く
ああ、また何か思いついて無理難題を言われるのか。
あれ?
思えばこの基地でボールのパイロットは相当数いる。しかし皆、2~3日に1回、短い訓練をすればいいほうで
彼のように戦時下にふさわしく、いやそれ以上に熱心にテスト飛行を繰り返している人は誰もいない、
不思議に思ったジャックは数人のパイロットに聴き、事情を知った。
ルウム以降、モビルスーツの必要性は連邦軍全体の課題となっている。
本国では一刻も早いモビルスーツの実戦投入目指して開発が進んでいる、しかし機械だけで戦争は出来ない
それを操る人間がいてはじめてその兵器は効果を発揮するのは当然だ。
そんなパイロットの候補生たち、いわばモビルスーツパイロットのプールがこのルナツーのボールパイロットなのだと。
となれば、適性試験に合格すればやがてザクをも上回るモビルスーツに乗ることが出来る、
それなのに何を好んで、この大砲を担いだ作業用機械で訓練などしなければならないのか、幸いここはジオンの
攻勢もそうはない、大人しくしてればもっとマシな状況が訪れる、つまりはそういうことだ。
「あの人だけは別だがな。」
エディ・スコットがそう語る。サメジマが注文をつけていたのは何もジャックだけでは無かった
戦闘におけるフォーメーションや戦術、敵モビルスーツ・ザクの研究データの流用、新たな兵器の開発から
地球本国との連携、ジオンが攻勢をかけてきた時のシュミレーション、上は指令から下は下士官まで
連日精力的に取り組み、周囲を巻き込んで奔走していた。そのモチベーションの高さはどこから来るのか・・・
「ま、何事も真剣にやらなきゃ気が済まないタチでな。」
ワイルドな笑顔を見せ、楽しそうに仕事に取り組むサメジマ、そんな彼の行動力に、ルナツー全体が
熱を当てられ始めていた。

291:三流(ry
17/06/20 00:06:52.53 QT9OsxKy0.net
8月に入ると、そうした熱気が実績になって現れてきていた。
サメジマによって確立されたボールの戦法、運


292:用は、ルナツー近海での小競り合いにおいて 画期的な効果を発揮しはじめていた。 対モビルスーツ戦はもとより、艦隊運用におけるボールの使用法、敵索や先制攻撃から撤退の殿の戦い方 細かに改良された機体のセンサーや動力向上、着艦から再発進までの時間の短縮 そしてとうとう、一部のサラミスにボールの艦載機械が乗っかるに至る頃には、彼は「兄貴」と呼ばれるのが 自然なほどの信頼を得ていた。 それは同時に、ジャックにも新たな居場所、そして「縁」を与えてくれていた。 サメジマを中心としたルナツーの「輪」そこにジャックの居場所は確かにあった。 彼は少しだけ、ジオンに対する憎悪を忘れていた。 そして9月末、新たな転機が訪れる。連邦制モビルスーツ、ジムのルナツーへの実戦配備。 これにより多くのボールパイロットが引き抜かれ、連日ジムのテストプレイに明けることとなる、 必然的にサメジマのような熟練のパイロットは、現場を維持するためにジムへの移籍は後まわしとなり 抜けた部隊の分も働くことが要求された、10月末にはメカニック兼補充パイロットのジャックもついにお呼びがかかる・・・ ジャックは戦場に出ることで思い出していた。いや、思い出そうとしていた。ジオンにされた仕打ちを、憎悪を。 彼はあえて上司にそれを告げる。ジオンへの恨みを、故郷を失った悲しみを、奴等を地獄の業火で焼き尽くしてやりたいと。 サメジマの返礼、それは鉄拳だった。強烈な右フックが彼をマネキンのように吹き飛ばす。 痛みより驚きに固まるジャックの胸ぐらを掴んで怒鳴るサメジマ。 「一般人みたいなコト言ってんじゃねぇよ、ジャック・フィリップス!てめぇ軍人だろうが!!」 兄貴の初めて見た激情、それは怒り。軍人としての教育ではなく、教師が生徒に諭すでもなく 1個人ヒデキ・サメジマがジャック・フィリップスに向けた、彼に教えるべき大切なこと。 「お前はこれから戦争に行くんだ!敵を殺すんだ!その敵に家族がいないと思ってるのか!?」 ジャックはその言葉に血の気が引く思いを味わった。そんなジャックを見てサメジマも手を離す。 「・・・いいかジャック、仮に俺やエディが殺されても敵を憎むんじゃねぇ、それは軍人のすることじゃねぇよ」 「そんな!」 サメジマの兄貴が死ぬ、エディさんが死ぬ、また自分の居場所が無くなる・・・そんな、嫌だ、そんなこと! 「そん時は敵を褒めるんだよ、あのサメジマを倒すとはたいした敵だ、ってな。 そしてお前がその敵を倒して『奴は強かったぜ』って武勇伝にするんだ。それが殺された仲間や敵に対する敬意ってもんだ。」 「敵を・・・褒める・・・」 そんな発想は微塵も無かった。ただジャックの胸中深く、その言葉が染み込んでいった。 「俺たちは所詮、駒だ。コロニーを落とした連中も、上から命令されてやったにすぎん。 そんな奴等をいちいち憎んでいたらキリがねぇだろ、むしろ辛い任務をよくやったと褒めてやれ 戦場でもし、そいつらに出会ったら、お前の手で過去の罪を精算してやればいい。」 ジャックの中で何かが変わった、敵は憎まなくてもいい、憎くも無い敵を殺さなけりゃならない、それが軍人。 そしてその軍人ジャック・フィリップスが迎える初の出撃、それが新たな悲劇の第一歩だった・・・。



293:三流(ry
17/06/20 00:10:03.26 QT9OsxKy0.net
以上、二話終了です。
文章のダイエットしすぎると単なるドキュメントになってしまうし
全部詰め込むととても完結しそうにないし・・・難しいっす。

294:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:34:30.42 Glt//LAx0.net
乙です。
えらく漢前な兄貴分だというのに亡くなるとは惜しいものです

まったくダイエットできない自分も投下します

295:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:36:38.65 Glt//LAx0.net
―艦これSEED 響応の星海―

「僕は、キラ。キラ・ヒビキ。新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊の、隊長をやってるんだ。……もしできたら、ここの責任者に会わせてもらえないかな」
ずいぶんと


296:酷い、大人のやり口だと。汚い言い方だと、キラ・ヒビキを名乗る青年――キラ・ヤマトは自虐した。考え無しでこんな台詞が言える奴は、きっと性根から腐っているに違いない。 キラ・ヒビキ中将。 その名は、二度の戦争を戦い抜いた英雄、世界を救ったフリーダムのパイロットとして知られている。 【紅蓮の剣】たるシン・アスカ、【閃光の楯】たるアスラン・ザラと肩を並べる最強のモビルスーツパイロット。 【蒼天の翼】――それがユニウス戦役終結後のC.E. 74に成立・発足した『新地球統合政府』によって喧伝されている、青年の肩書きだった。 かなり偏向・誇張されたものであるものの、今やどんな子どもだって知っているモノであることは彼自身もよく認知していた。 この名を持ち出せば、どんな事情があろうと自分に便宜を計らってくれると、知っているからこそできる物言いだった。こんな大人にはなりたくなかったのにと、青年は内心ため息をつく。 ヒビキの性は、彼の育ての親であるヤマト夫妻を世間から護るため、オーブのアスハ家の血縁であることや旧地球連合のヤマト少尉であった過去を隠すために名乗り始めたものではあるが、 それこそがかつてキラ・ヤマトと呼ばれた彼の今だ。むしろ、禁忌の扉を開いてしまったユーレン・ヒビキとヴィア・ヒビキの息子として、これ以上相応しい名前もないように思えた。 政治的都合と自己否定から生まれたその名は、否が応にも強い影響力を持つ文字列なのだ。 それはどこであろうと変わらない。 「……」 「……?」 変わらない、筈なのだが。 キラが、なにか様子がおかしいと感じ取ったのは、自己紹介してからきっかり五回ほど秒針が揺れてからだった。 自己紹介された側である少女が、先ほどから打てば響くように応えてくれていた無表情の少女が、沈黙を保っているのだ。それも、少し困ったように眉根を寄せて。 驚いているわけじゃなく、呆然としているわけでもなく。 その反応は明らかにおかしいと、彼は怪訝に思う。想定していた、今まで経験してきたリアクションとは全く異なる、この人は一体何を言っているのだろうという、異物を見るような顔だ。 この少女が何者であろうと、この世界でそのような反応をする者なんていない筈なのに。 しかし、いつだって世界は無情である。 彼女は「そのような反応」をするのが当然の人物だった。 「……すまない。私はあなたがなんて言っているのか、解らない」 「……、……え?」 「新地球統合政府、宇宙軍……そして機動部隊。私はそれを知らない」 「な……」



297:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:37:42.99 Glt//LAx0.net
絶句するしかなかった。
(ちょっと、待ってくれ。いくらなんでも、それは)
知らないだなんて、ありえるのだろうか。
地球連合とプラントにオーブ、汎ムスリム会議やアフリカ共同体その他多くの独立国家を含む、全地球規模の国際組織を知らないとは、どういうことだ。そこには当然、この日本国も含まれているのに。
ユグドラシル・プランのもとに、多くの超巨大公共事業計画が実行に移し、世界を復興させようとする組織だというのに。いくらマイペース気質と言われがちな日本の民とはいえ、そんなことが。
だが。
帽子の鍔をつまんで、申し訳なさそうに無表情を歪ませる少女に、キラはなにも言えなくなってしまった。
きっと彼女は本当に知らないのだ。青年にできることは、あまりにも悪意や邪気がない彼女からそう確信することだけだった。
何故だか、罪悪感が湧いてきた。間違っているのは自分のほうなのだ、勝手な理屈を振りかざすなよと、言外にそう言われているような被害妄想すらやってくる。
もしかしたらこれは、こんな幼い少女を利用し�


298:謔、とした罰、なのかもしれない。己の身分を持ち出してお願いを聞いてもらうとする狡い大人になってしまったから、世界はこの少女を自分のもとに遣わせたのかもしれない。 「なんでもそう上手くいくと思うなよ」と。 そうやって自分勝手に自己嫌悪してどんより落ち込むキラを哀れに思ったのか、少女は「けど」と前置きをして続ける。 「ただ、あなたを司令官に、ここの責任者に会わせることはできるよ」 「そう、なの?」 「Да。司令官もあなたと会いたがっているから」 どうも彼女はキラが思っている以上に、ずっと聡い人間であるようだ。 知らない単語や組織の羅列に惑わされることなく、得体の知れない身元不明の男のお願いの本質にきっちり応える彼女は、それだけで一般の少女とは違う思考回路を持っていると判断できる。 「どうやら悪い人でもないようだしね」 「……ありがとう」 しかしこうなると、また別の疑問が頭をもたげてくる。 この娘は本当に何者なのだろう。 悪い子ではないようだ。吃驚するほど世間知らずだけど、きっと何かしらのやむを得ない事情があるのかもしれない。けれど、どうもこの基地の責任者とは顔見知りで、しかも会わせることができるときた。 どうにもチグハグである。 思えば、少女自身が民間人なのか、それとも軍に籍を置く者なのかすらもハッキリしない。そもそも今までどこにいたのかも、名前すらも。



299:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:41:52.84 Glt//LAx0.net
つまり全てが謎に包まれていた。自然体で何も隠そうとしないからこそ、その謎は更に色を濃くしている。
そうしてキラは、目覚めてから何度目かも解らない疑問符を、いい加減それ以外の言葉を喋れないのかとウンザリするほど繰り返してきた、質問の言葉を投げかけた。
「君は、いったい……」
その言葉は、突如鳴り響いたけたたましいサイレン音にかき消された。

《第1話:二つの世界、二人の見解》

「な、なに!?」
「……っ!」
キラは狼狽え、少女は顔に緊張を走らせる。
大音量で鳴りやまないサイレンは、青年にとっては聞き慣れないものではあった。しかしその経験上、これは「ただ事ではない」と本能的に察知する。これは避難警報だ。天災、若しくは敵襲、そういう類のもの。
危機なナニカがこの地にやってきた。
警告を促すサイレンは、更にその音量を増していく。
逃げろ、対応しろと呼びかけてくる。
『哨戒中の暁より入電。鎮守府正面近海にて深海棲艦を発見。第一種戦闘配備、第二艦隊は直ちに出撃、迎撃してください』
アナウンス。女性の声が、敵襲であると告げた。
第一種戦闘配備―明確な敵意を持ったモノが、ここに接近しているのだ。
しかし、
(シンカイセイカン? 聞いたことない……テロ組織の名前? それに艦隊って、モビルスーツはないのか?)
近海であるのなら、MS空母は必要ないだろう。【GAT-04 ウィンダム】であれば悠々行動できる距離だ。なにより、世界中の主要基地には新型の【GRMF-03F セガール】が配備されている筈なのに。
つまり、敵はMS空母の艦隊が必要なほどに強大なのか、それともMSがいないかのどちらかだ。
日本の軍事事情はよく知らないが、どうにも自分の知る常識がここにはないと、キラは判断した。
ともあれ。
これに対応するのは軍の仕事だ。
キラは成すべきことをと思い、少女は空を仰ぐ。
成り行きで軍属になった身ではあったが、今ではその身が持つ使命を十二分に認識している。なにより青年は、護るべきものがあれば自ら動くタイプだ。いつどんなときだって、その根は変わらなかった。
軍属である自分が、軍の代表的身分である自分が、動かなければ。

300:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:42:58.97 Glt//LAx0.net
この目の前の、無表情でいようとしても尚恐怖感を滲ませてしまっている少女だけでも、安全な場所に逃がさなければ。
そうでなければ、ならないのに。
「くそ……! なんでっ!?」
身体は依然として動かない。
たとえ戦えなくても、なにかしなくてはと思うのに。
いくら気合いを入れて起きようとしても、重過ぎる肉体からどんどん力が抜けていくようだ。
ここに至って青年は、自分の身体に大変な異常が起こっていると認識することができた。たかが四日寝込んだだけでこうなるものか。モビルスーツの爆発に二度巻き込まれようと、こんなことになることはなかった。
全身不随。
そんな単語が、ぞわりと脳裏を掠める。
「Не беспокойся」
青年の思考を読んだかのようなタイミングで、少女。
「身体に異常はないらしいよ。今動けないのは【マッチング】が上手くいってないからかもと、先生は言っていた。いずれ元に戻るとも」
「何を……」
「あなたは、私たちが護る」
だから、安心してと。
何かを決意したかのような、何かを押し込めたような表情でそう言い切り、少女はクルリと振り返った。銀髪が緩やかに宙を舞い、少女を隠す。
「しばらく眠ったほうがいい。そうすればきっと、身体が動くようになると思う」
「ま、まって! ちょっとまって!!」
何もかも解らない、置いてきぼりなキラは、早足で部屋を出て行こうとする少女を必死に呼び止めた。体中を汗塗れにして混乱するしかなく、そうすることしかできなかった。
訊きたいことは増えてく一方で、解らないことはその倍のペースで増えていっている。彼女が何を言っているのか、何を知っているのか、何をしようとしているのか、理解も想像もできない。
身体が動かないという恐怖感も相まって、もはや容量一杯まで追い込まれていた。
「護るって……そんなのアベコベだ! 逃げなきゃダメだ、君は!」
それでも彼が一番に案じたのは、少女の身の安全だった。
護るだなんて、まるで君が、何かと戦いに行くかのようじゃないか。なんで身体は回復すると言い切れるのか、そんなことは置いといて。ただただ、その単語はひどく不穏だった。
キラはヒビキとして、曲がりなりにも軍隊の将官として、これまで沢山の兵士を見てきた。中には無表情な者もいた。そんな彼らの内面を伺う術を、必要に迫られて身につけた。だから感じ取れてしまうのだ。
顔が見えなくたって、解るのだ。

301:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:43:59.17 Glt//LAx0.net
君みたいな子が、そんな顔をして何かに立ち向かうなんて、あってはならないのだと。
「だからっ、僕が戦わなくちゃダメなんだ。君は―」
「響だよ」
「―、え……?」
少女は再び振り返る。
「特三型駆逐艦二番艦の、響。それが名前」
「……響?」
「名前が同じというのは少し、恥ずかしいな?」
少女は、響と名乗った女の子は、不敵な笑みを浮かべていた。
「沈まんさ、私は。あんな奴らにやられる程ヤワじゃないし、やられるつもりもない。……あなたは私たちを信じていればいい」
「……」
「帰ったら司令官を紹介しよう。私はもう行かないといけないから、指切りはできないけど。約束しよう」
なにかが吹っ切れたような、それは戦士の顔だった。
全身に力を漲らせ、集中力を研ぎ澄ませた、青年が見慣れた種類の人間の姿。嘘偽りなく、上っ面ではなく、どこまでも説得力と自負に溢れた、それは兵士のモノだった。
こうなればもうキラに響を止めることはできない。彼女を信じる以外の選択肢がなくなった。彼女の選択を侮辱したくはなかった。
なれば、青年は選択する。消去法ではなく己の意思で、なにがなんだかわからないけど、とにかく、彼女を信頼するという道を。自ら進んで無理矢


302:理にでも全面的に信じると決めた。 「……わかった。響、君を信じるよ。――気をつけて」 「Спасибо。行ってくるよ」 そうして響は、今度こそ部屋を出て行った。 ◇ (氷のお姫様、か) 響は、ギシギシ軋む身体に鞭打ちながら、走る。



303:通常の名無しさんの3倍
17/06/21 16:54:22.20 VbWd2Rem0.net
支援

304:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:55:06.64 Glt//LAx0.net
『あの日』から今日で丁度一週間、それからずっと続くヤツらの攻勢に、身体はもうボロボロだった。
いや、少女だけではない。みんな限界なのだ。堅牢を誇ったこの佐世保鎮守府が陥落するのも、時間の問題だ。
それでも、少女は走る。
(なかなか可愛らしいな。寝ぼけていたのだろうけど)
先ほど会話を交わした青年の言葉を、思い出す。
つかの間の休息だった。敵の攻撃の手が緩み、今のうちに休んでこい寧ろ休めと、無理矢理に医務室に放り込まれたのが約4時間前のこと。
交代休憩なのだからせめて2時間後には起きなくてはとセットした目覚まし時計は、「コイツは没収だ」と書かれたメモを残して行方不明になっていた。
そうしてうっかり4時間も寝てしまった少女は、ふと、そういえばあの遭難者はどうなったのだろうと思い立ち、出動する前に顔を見ておこうとしたのだ。
見ておこうとして、足を縺れさせ転んだ。
痛かった。こういうのは電の役割だろうと思った。
何処かから「失礼なのです!」と聞こえてきそうだとも思い、しばらく突っ伏して床の冷たさを堪能してから立ち上がろうとすると―きっと転んだ音で目覚めたのだろう、青年がここはどこだと呟いたのだった。
(新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊の、キラ・ヒビキ……ね)
少女にとっては、いや、現地球人類にはまったく馴染みのない名前だった。知っているのが当然といったニュアンスで発せられた、どこぞのアニメ漫画でしか出てこないであろうキーワードの羅列。
それを言ってしまったら自分たちも似たようなものだったが、兎も角、新地球統合政府や宇宙軍なんてものはこの世界に存在しないのは確実なのだ。
いや、もしかしたら【深海棲艦】みたいな侵略者が宇宙にも実はいて。彼はそれと密かに戦う戦士なのかもしれないとも思ったが、そもそも密かに戦う意味がわからないのでその線はないだろう。
ないのだが。
響は漠然と、その言葉に嘘はないのだろうと思っていた。
あの青年は、ただの遭難者ではない。彼と一緒に発見されたモノについても、彼の特殊な体質についても、全てが謎に包まれていて、その事実が彼の言葉に真実味を持たせていた。
少なくとも現代科学ではとても解明できない謎の塊だ。まず間違いなくこの世界の常識から外れている。
(いったい、どんな人なんだろう)
なにはともあれ、響は彼を信頼できる人だと評した。
一見して、のんびりしてそうで、微笑んだ顔は一瞬女性のようにも見える優しそうな風貌。でも自分に正直で、少し強引そう。たぶんそういう人なのだろうと、直接会話してみて感じた。
素性はわからないが、嘘をつける器用さまでは持ってなさそうだった。

305:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 16:56:35.20 Glt//LAx0.net
だからこそ思う。

彼もまた、こちらのことは何も知らないのだろうと。

今時、鎮守府にいる女性がどういうモノであるかなんて、世界中の常識なのだ。そんな女性であるところの少女に「逃げろ、自分が戦うから」と言える人間なんて、とっくに絶滅している筈なのだ。
てんでわかってない常識知らず。
しかし彼は、再び戦うために産まれたこの身を、本気で案じているようだった。そりゃ、少女は武装さえしなければ見た目はただの非力そうな女の子に過ぎないのだから、知らなければ無理もないのだが。
(私は響。特三型駆逐艦二番艦の響、艦娘だ)
再び戦うために産まれた、超常の力を持つ存在。
少女は【艦娘】と称される、現人類の最大戦力の一人だった。
だからこうして、少女は戦うために走っている。
でも。
でも、そんな自分をただの子ども扱いして「逃げろ」と叫んだその気遣いは、存外心地よいものだった。
「自分が戦うんだ」と、動けない身体なんか問題じゃないとばかりに放たれた言葉は、はじめてのものだった。
戦えと言われるより、ずっと勇気が湧いた。
この本当にどうしようもない絶望に立ち向かう覚悟が、痩せ我慢から約束になった。
(本当にアベコベだよ。同じ名をもつ君)
なればこそ、走る。
その想いには、応えなくてはならない。
「Извините。すまない、遅れた」
「な、ちょっ、響!? なんで!?」
「瑞鳳。こんな状況で一人だけおちおち寝てはいられないさ」
そうして響がたどり着いた先は、すっかり寂れてしまった軍港だった。
かつて多くの人で賑わっていた面影もなく、機械や建物の残骸が手つかずのまま放置されている、物悲しい場所。
そこには既に三人の少女が集っていて、今まさに出撃準備を終えようとしていたところであった。
なんとか間に合ったようだと、響は内心安堵する。
「そうだけどっ。でもまだ完治してないのに……ねぇ木曾、時雨が代わりに来るんじゃ?」
「いや。時雨は、だめだそうだ。艤装のダメージが思っていた以上にヤバいと連絡が来た。当分出られねぇだろうってな」
彼女らは誰も彼もがみな、まるで統一感のない奇妙な格好をしていた。たった今響が話しかけた少女は、袴をショートにした松葉色の弓道着で、その隣には黒い眼帯とマントを装備した白と浅葱色のセーラー服。

306:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:00:03.26 Glt//LAx0.net
そして極めつけに、大胆なミニにカスタマイズした紅白の巫女服がいた。
名をそれぞれ、瑞鳳、木曾、榛名という。
まるで場末のコスプレ大会決勝戦のような現実離れした格好の集団だったが、奇妙なのはなにもその個性大爆発な服装だけではない。
彼女らのシルエットは、通常の人間のソレとは大きく逸脱していた。
彼女らは全員、艦艇の砲塔や艦首等を模した、見るからに重そうで大きい金属製のパーツを背負っているのだ。
個々の服装なんか全く問題にしない、まるで我輩こそが船であるとアピールするようなその奇妙で巨大な装備は、華奢そうな少女達に軽々しく背負われているくせにその実、筋肉もりもりマッチョマンの集団ですら数cm持ち上げるのがやっとという恐ろしい重量を持つ。
勿論、これは伊達や酔狂で作られた筋トレ兼コスプレ用セットなどではなく、備え付けられた大ぶりな砲塔や魚雷はちゃんとモノを破壊できる、歴とした【本物】である。
これこそが【艤装】。
人間よりもずっと優れた、化物じみた能力を持つ【艦娘】専用の、海よりいずる人類の敵たる【深海棲艦】を討つことができる武器だった。
「そんな……じゃあ動ける駆逐艦は響だけってこと……?」
「……相手には例の新型もいる。なら駆逐艦の速力は不可欠だ。悔しいが、オレ達だけではな……確かに、手負いだろうとお前の力は必要だ」
一見して奇妙にも思える彼女達は、まぎれもなく艦娘と称される存在であった。
いつの間にかその背に大きな艤装を装着していた響は、未だ痛む節々をおくびにも出さずに無表情を貫き、言う。
「私も戦う。許可を」
その言葉は、ミニ巫女服を纏い黒の長髪を潮風にたなびかせる、長身流麗な女性―�


307:アれまで沈黙を保ち、水平線の彼方を見つめていた榛名に向かって放たれた。瑞鳳と木曾もつられて、彼女を注目する。 響を含めてもたった四人だけになってしまった【第二艦隊】のリーダー、金剛型戦艦三番艦の榛名。 わけあって鎮守府の最高責任者が不在なこの現状、主力の【第一艦隊】すら未帰還な今では、彼女が一番の責任者だった。一つの判断が、戦局全てを左右する、そんな立場だ。 活発でお転婆な大和撫子と評されることもある彼女は、その面影もなく沈鬱な顔を伏し、考えを纏める。 現場指揮官としての、思考を流す。 これからの戦闘に駆逐艦はいてほしい。しかし響は相当の実力者とはいえ万全ではない。瑞鳳の言うとおり無理はさせられない。だが木曾の言うとおり代わりになる人材はもはやいない。当然敵は待ってはくれない。 正直、答えは一つしかない。 一つだから、決めるのが怖かった。



308:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:01:59.55 Glt//LAx0.net
榛名は、非常時であるとはいえソレを決断するのが己であるという事実と、その恐怖と戦わねばならなかった。
しかして、彼女もまた歴戦の戦士であった。
「……そう、ですね。それしかないですね」
やがて榛名は深く深呼吸をして、凜と。響の瞳をまっすぐ見つめ返し最後の確認をとる。
静かに、けれどその一語一語に大きな力を込めてその覚悟の程を、この中で最も小さな少女に問う。
「響さん……本当に、大丈夫なのね?」
それに対して響は間を置かず、簡潔に「もちろん」と応えたのだった。
「不死鳥の名は伊達じゃないさ」
必ず生きて帰る。約束を守る。
そう心に決めて迷いなく。
そして、できればもう一度話をしてみたい。その時は「氷のお姫様」発言をネタにしてからかってやろうと、響は思っていた。



キラが再び目を覚ました頃には、すっかり夜の帳が下りていた。
少女の言うとおりに一回寝たら、何故か本当にすこぶる快調になっていて、そんな彼は辿り着いた無人の軍港にポツネンと座り込んでいた。律儀にも体育座りで、満点の星空を見上げる。
「……はぁ」
ため息。
吐き出された二酸化炭素は白く煙って、消えた。
日本は冬だった。
身を引き裂くような寒気の中で独り、防寒性能など欠片もない検査衣のまま、じっと座る。
彼は、何かに驚くのも疑問に思うのも、嫌になって疲れ果てていた。これが夢なら楽でいいのにと恨み言をいう気力もなく、胡乱な瞳で星見をする。
そもそも「これが夢なら」なんてのは絶対にあり得ないのだとキラはその経験から熟知しているのだ。なにがあっても現実は現実でしかない。
もういい加減、認めねばならないのだろうと、キラは瞳を閉じる。これ以上何かに驚くのも疑問に思うのも、時間と体力の無駄なのだ。認めて、これからを考えなくてはならない。

309:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:03:33.02 Glt//LAx0.net
「もしかしたら、過去の地球、なのかな。ここは」
結論を言葉にしてみる。
そう。
夜になって歩けるようになり、星降る空を目にしてみたら。
その空は己の知るものではないのだと思い知らされた。
そこには、綺麗な月と星しかなかったのだ。

軌道間全方位戦略砲『レクイエム』によって深く傷つけられた筈の月表面に、その疵痕はなかった。
L5宙域にある筈の砂時計型コロニー群『プラント』が影もなく消えていた。
ユグドラシル・プランのもとに建造された、オービタルリング型自律型惑星防衛機構『ノルン』すらどこにもなかった。
南の空に輝くオリオン座には、超新星爆発を経て消滅した筈のベテルギウスが元気に光っていた。

全てがキラの常識を否定するもので、キラが異端であると宣告するファクターだ。
誰かに説明されるよりずっと鮮明に、この世界を表現する光景だ。
ここはきっと過去の地球。タイムスリップしたと考えれば、辻褄は合うような気がした。
「なんだかな」
無性に誰かと話をしたい気分になる。
現実逃避がしたいわけじゃない。この突拍子のないことを、言葉という形で誰かと共有したかった。いや、誰かなんて遠回りな言い方はやめよう。
キラはやはり、あの響という少女に会いたかった。
ここで初めて会ったのが彼女だから、なんてのは理由になるだろうか。あんな10才前後の幼い少女を心の拠所にしている恥ずかしさは、この際現実と一緒に受け入れてやろうと開き直るには少々大きすぎるが。
あの打てば響くように応えてくれていた声が、とにかく恋しい。
一人でいるには『ここ』は少し寒すぎる。
「大丈夫かな」
そんな彼女がいなくなってから、どれくらいの時間が経ったろうか。
この近海に、シンカイセイカンなる敵が来て、彼女はそれと戦いにいった。どうやって戦うのかは知らない。オペレーターなのかもしれないし、技師なのかもしれない。パイロットはあり得ないだろう。
なんにせよ命をかけた戦いをしている、そう雰囲気で察せた。彼女はまだ戦っているのだろうか。
それが心配なこともあって、キラはこの港を訪れ、今の今まで座り続けているのだ。
遠くから潮風にのって、僅かだが砲撃音と爆発音が聞こえる。音からして火薬式実体弾とミサイルか、彼の戦場の主役は。ビーム兵器の独特な音は聞こえない。

310:通常の名無しさんの3倍
17/06/21 17:07:18.86 VbWd2Rem0.net
支援

311:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:07:55.78 Glt//LAx0.net
港に来てから二時間。
キラが再び眠った頃からだとしたら、延べ六時間程か。
砲撃音は途切れない。戦争は終わらない。
いつまで続くのか―
「……? ……誰だ?」
ふと、視線を感じた。
感傷に耽っていた思考が、瞬く間に現実に呼び戻される。
ハっとして辺りを見渡すと―いつのまにか、キラの前方50mほどあたりに人影があった。
人がいた。
一目見て、響ではないことは解った。その体格は大人のものだ。
ぽつんと、此方をむいてダラリと立っている。
見落としていたのか、突然現れたのか、さっきまで誰もいなかったのにとキラは呆気にとられる。なんだろう、過去の人はテレポーテーションが使えるのだろうか。
(? なん、だ。あの人)
突拍子のないこと続きで、遂に思考回路までナチュラルに吹っ飛んだかと自虐し、いやそもそも人はどこにいたって不思議でもなんでもないと思いながら立ち上がりろうとして―その人と目が合った。

そして、そして。決定的に、その人は何かが間違っていると感じた。

音が消える。
世界が切り取られたように思えた。知らず、ドッと嫌な汗が噴き出す。
目を凝らす。
雲一つない満点の星空、月明かりに照らされて、細部までよく見える。
その人は女性のようだった。
その人の肌は嫌に白かった。
その人はずぶ濡れでボロボロだった。
左腕が、肘から先が千切れてなくなっている。青とも黒ともつかない液体が、全身の切り傷から溢れている。右目が虚空であった。
右腕になにか、巨大な黒い金属のパーツをつけている。

312:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:10:01.21 Glt//LAx0.net
その人は、遠く、ただ突っ立っている―
「……え―」

―否。ソイツは、既に目の前までに迫っていた。

「―ガ、バッ!!??」
衝撃。
瞬間。キラの身体はいとも簡単に、紙切れの如く吹き飛ばされ、遙か後方30mにあった建物に突っ込んでいた。
「…………ぁ!!!!!!」
赤レンガの建物に背中から叩きつけられ、呼吸困難�


313:ノ陥る。 肺から全ての空気が押し出されたのだ。 遅れて、激痛。 もうそれは激痛としか表現できなかった。 ごぽりと粘着質な音がして、血塊が口から溢れる。後頭部が鈍い痛みを訴える。殴られた瞬間にメキャリと嫌な音を立てた腹部がどうなったかは、考えたくなかった。つまり、それらをひっくるめて。 殴り飛ばされたということだけが、今キラに把握できる全てだった。 「ぅ、ぐぁ……げほっ、げふ!?」 全身が燃えるように熱い。 死ぬ。これは死ぬ。 どんな人間だろうと死ぬ、間違いなくそんな一撃だった。 (……生き、てる……? まだ僕は) それでもキラは、思考を硬直させずにただただ回転させた。 キラ・ヒビキは二度の戦争を戦い抜いた英雄、世界を救ったフリーダムのパイロット。かなり偏向・誇張されたものであるものの、それはなにも空虚な作り物ではない。 鍛え抜かれた戦士としての思考が、彼に空白を赦さなかった。 (コイツは敵だ) 誰が敵で味方か、とか。どんな思想の陣営か、とか。そういうのではなく。 コイツは人類の天敵だ。 この化物はそういう存在であるということが、感覚的に本能的に、理解できて受け入れることができた。何故だろう。 それはきっと、殴りつけた姿勢のまま停止しているアイツから、邪気のない敵意までもぶつけられたからだ。 このままでは悪意なく殺される。当然のように踏みつぶされる。そう確信をもって言える。



314:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:12:04.56 Glt//LAx0.net
そんなのは。
(認められるか……!)
抵抗しなければならない。今を生きるモノとして。
キラはその『敵』を睨み付ける。
まだ、何故か、運が良かったのか、一発喰らったら普通死ぬような一撃を受けて生きている。
ノーバウンドで壁にたたきつけられても尚、生きている。
死ぬほど痛いけど、まったく身動きができないけど。
もう一回殴られたら今度こそ死ぬかもしれないけど。
だから抵抗するのだと、キラは睨んだ。
「こんなので、死ねるか……!!」
息も荒く叫ぶ。
それに反応したのか、ソイツはぐるりと体勢を立て直した。
そして、
ソイツは、その敵は、【深海棲艦】と称されるその存在は。
手負いの獲物に対して、容赦なく再び飛びかかった。

命が終わるまで、あと一秒。

315:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/21 17:14:54.88 Glt//LAx0.net
以上です。
とりあえずこんなノリと分量で続いていくと思います。
もうちょっと減らした方が良いのでしょうか?

316:三流F(ry
17/06/22 00:36:04.23 QHr9rYhw0.net
乙ですー。クロスオーバー作品の最初の見せ場、世界観のすり合わせいいですねー。
文章は十分読みやすいし適量だと思いますよ。
盛り上げていきましょう。

317:三流F(ry
17/06/22 00:37:42.93 QHr9rYhw0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第三話 青い閃光
「そんじゃ6時間後に出発だ、準備が出来たらよく休んでおけよ。」
サメジマにそう言われ、自室に引っ込む彼を見送って、ジャックは思う。
休めと言われても気分が高揚して寝られそうに無い、それでなんとか寝付いて
寝過ごしたら大事だ。
とはいえ準備は全て済んでいる、それは小隊はもとより母艦のサラミスの搭乗員全員がそうだった。
地球軌道周辺のパトロール任務、定期的な任務のため支度はルーチンワーク的に行われる。
今更特別なことがあるわけでもない。
つまりヒマだ。
母艦に搭載されている愛機ボールを見上げる、サラミスの主砲部を取っ払ってボールの架台を装着した艦、
まさか兄貴のあの案が採用されるとは、何事も常識にとらわれずに言ってみるもんだ。
しかし異形ともいえる主砲無しの巡洋艦に比べて、何かが物足りない、
そう、ボールがあまりにも普通すぎるのだ。もちろん開発当初に比べれば十分なバージョンアップは果たしているし
兄貴の注文に応じてガン・カメラやアクティブスラスター、内部のCPUには敵戦艦やモビルスーツのデータと
それに対応した照準システムを備えた、この「オハイオ小隊」スペシャルのボール。
しかしそれにしては外見があまりにも寂しい、このボールなら何か特別を感じさせる外観があってもいいはずだ。
・・・待てよ、兄貴の「サメジマ」って名前、確か日本語で「shark islaid」っていう意味だったな。
海洋生物の中で最も危険な魚、古来の戦闘機にはエンブレムやペイントにも使われた生物・・・
彼の中であるアイデアがひらめいた、メカニックの彼が最も得意としていた仕事のひとつ。
「あと6時間・・・間に合うか?」
疑問を口にしながらも行動に出るジャック、生き死にを賭ける戦場への初出撃前、
思い立ったことはなんでもやっておいて損は無い、後悔という損は。
艦周辺のドックにサイレンが鳴る、発進30分前、各人員が慌ただしく行動を開始する。
サメジマやエディも自室から起き出して、ノーマルスーツとヘルメットを小脇に抱え、愛機に乗り込・・・
「なんじゃこりゃあぁぁぁっ!」
思わず絶叫するサメジマ、事情を知っている周囲の人員がくすくす笑う。さすが兄貴、いいリアクションだ。
彼らが乗る3機のボールには、その正面にデカデカとサメの顔がペイントしてあった。
一見凶悪そうな、しかしよく見ると愛嬌もあるその面構えにサメジマは大笑いし、エディは頭を抱える。
「お前の仕業・・・以外にありえんか、ジャック。」
未だ作業着で、全身にスプレーの吹き返しでカラフルに染まったジャックを見て言う。
「気に入らなければ剥がせますよ、ものの3分で。」
正確にはペイントシール、極薄のフイルムをボールに貼り付け、その上にペイントする。
ボールの形状に合わせた修正プログラムを組み、元絵をインストールしてペイント構成を決める
かつてサイド2でメカニックの師匠に教えて貰ったペイント方法、普通は自家用車に使うモノだが
兵器に使うのは多分初めてだろう。
「ダメだダメだ、はがすなよ絶対!これ俺たちの専用ペイントに採用決定だ!」
絶賛するサメジマ、最初の「ダメだ」が不採用で無いことにため息をつくエディ、周囲に拍手と口笛が鳴り響く。

318:三流F(ry
17/06/22 00:38:52.16 QHr9rYhw0.net
「サラミス級シルバー・シンプソン、発艦!」
艦長の号令一下、1隻のパトロール艦がルナツーを起つ、所属のオハイオ小隊と共に。
ジャックにとっては最初の、サメジマにとっては最後の出撃に・・・。
会敵は意外に早く訪れた。地球軌道を周回しはじめてまもなく、ジオン軍の補給艦を捕らえるサラミス。
おそらく連邦軍の裏をかくためにあえてルナツーに近い宙域を航路に選んだのだろう、だが
狙いは良かったが運は無かった。本来ならミノフスキー粒子によって隠密行動がかなったのかもしれないが
丁度その航路


319:上でパトロール艦と鉢合わせては意味が無い。 「敵艦捕捉!オハイオ小隊はすみやかに配置に付け!」 艦内にサイレンとアナウンスが鳴り響く、その中をノーマルスーツを装着しヘルメットを抱えた3名が 愛機に向かう、サメジマ以下2名。 ボールのハッチは宇宙船外にある。本来は主砲のメンテナンスのためのハッチから外に出る3人 ボールにつながるワイヤーを取り、自分の体を愛機に引き寄せる。ただ今日はいつもと違い その愛機には勇ましい、そしてちょっと愛嬌のあるペイントがある。思わずニヤけるサメジマ。 古来よりこういうペイントは決して遊び心だけではない、搭乗者の士気を上げ、敵の戦意を削ぐ その効果に一番便乗しているのがほかならぬサメジマ隊長だった。 「敵補給艦、定期急行便、エスコート無し・・・カモだ!」 ボールに乗り込み、敵輸送船をレーダーに捕らえながらそううそぶくサメジマ。 シャークマスクに当てられたか、ワルっぽい口調で状況を復唱する。そんないつもと違う隊長の口ぶりに ジャックはノリがいいなぁ、と苦笑い。 しかしサメジマには別の真意があリ、エディもそれを理解していた。おそらくこの戦闘はほぼ 一方的な虐殺になる。そんな殺戮に初陣のジャックが付いてこられるか一抹の不安があった。 目前の補給艦は地球に進行したジオン軍が、占領下から略奪した物資や鉱物等をジオン本国に持ち帰るための部隊、 当然逃がすわけにはいかない、連邦にとって彼らは地球という家に押し入った強盗であり、持ち去られた物資は やがて自分たちを攻撃する兵器や兵士の腹の足しになるのだ。 少し前なら威嚇攻撃で投降させ、拿捕するという戦法もとれただろう、輸送船の武装などたかが知れている しかし今はモビルスーツがある、もしあの輸送船にザクが多数搭載されていたなら、たちまち立場は逆転する、 非情なようだが、初弾で致命傷を与え、モビルスーツを使う前に撃沈せしめる、それが自分たちを殺さない最良の作戦。 しかしボール1機に人員は1人、敵補給艦には100人前後もの人員が詰めている、だからこの戦闘は少数による大量虐殺になる もし自分がそんな躊躇を見せれば、部下の士気にも影響する。特に初陣のジャックには。



320:三流F(ry
17/06/22 00:39:38.68 QHr9rYhw0.net
「オハイオ小隊、出撃する!ブリッジ、舫いを解け!!」
その声を合図にサラミスから打ち出される3機のサメ顔ボール、顎は放たれた。
敵モビルスーツが発艦する前に初弾を打ち込めるかが勝負だ、迷わず一直線に輸送船に突入する。
それを知った輸送船は散開行動を取る、すなわちモビルスーツを搭載していないか、もしくは発進準備が出来ていない証拠、
サメジマは、そしてエディはこの戦闘の勝利を確信した、あとはあの坊やに引き金を引けるかだ。
彼を誘導するべく、サメジマはさらに芝居がかった口調で続ける。
「ふっ!散ったか、手遅れだ、ルナツーに近づきすぎた罪は重い!!」
照準器が輸送船を捕らえる、初段命中疑いなし!
その瞬間、サメジマのモニターに光の線が走った、エディやジャックのモニターにも同様に。
高速で、とてつもない高速で何かが機動している。ミサイル?いや違う。それは意思を持って
縦横無尽に動き回っていた、サメジマの背中に冷や汗が走る、ザクか?
すでに発艦してこちらを引き込んで迎撃するつもりか!・・・それも違う、それにしては輸送船を危険にさらしすぎる。
そこで思考を中断し、ザク用に開発した照準システムを起動する、詮索は後だ、とにかくザクを倒すことが最優先だ。
ザクの速力、姿勢により移動しようとする方向を追尾するようにプログラムされた照準が敵モビルスーツを捕らえる
が、ロックオンしたその瞬間、敵はすさまじい加速でその照準をぶっちぎる。こいつは・・・ザクじゃない!
「な、なんだ!?」
「まさか・・・ジオンの新型モビルスーツか!」
その青い閃光はすさまじい速力で機動し、ボールを翻弄する。相手も3機、しかし速力は完全にウサギとカメだった
勝ち目は無い、サメジマとエディはすぐさま悟った、この戦の敗北と、次に成すべきコトを。
「隊長!母艦を狙われる恐れが!」
「分かっている、撤退するぞ!!」
エディの声にサメジマが応える、そして合流、幸い初陣のジャックもこの状況に恐れずに集結できた。
3機は一目散にサラミスに向かう。敗走では無い、戦略的撤退。敵と味方の戦力差を見れば当然のことだし
母艦のサラミスを落とされるわけにはいかない、オハイオ小隊は3人だが、サラミスには120人から乗っているのだ。
加えてあれが敵の新型モビルスーツなら、この映像は貴重な資料となる。解析し、新たな対抗兵器やシステムを確立する
その為にも彼らはなんとしても生きて帰還する必要があったのだ。
「ようお疲れ。どうだった?戦場は。」
サラミス艦内の休憩室、サメジマの声に応える余裕も無く、青い顔で震えているジャック。
無理も無い、戦場は楽勝から絶対絶命へと急転直下した舞台、新型モビルスーツに殺される恐怖心に襲われ
仲間の足を引っ張らないようにするのが精一杯だっただろう。
「さぁて、帰ったら忙しくなるぞ。あの機体の分析して対応策を練らなきゃな。」
そう声をかけ、彼にドリンクを手渡す。自室に引っ込むサメジマはしかし、ひとつの疑問を振り払えないでいた。
-なぜだ、なぜあの速力の差で、俺たちは逃げおおせたー

321:三流F(ry
17/06/22 00:47:16.15 QHr9rYhw0.net
第三話でした、ようやくイグルー本編と合流です。
まぁ隊長の名前でバレバレだったとは思いますがW

322:通常の名無しさんの3倍
17/06/22 23:18:01.54 Klu/4s9i0.net


323:三流F(ry
17/06/23 00:09:32.21 4BZYqPon0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第四話 英雄退場
その後は特に会敵も無く、順調に2日間のパトロール任務を終ようとしていた。、
しかし悲劇はここから始まる・・・
ルナツーのドックに入港し、下船のための準備を整えるオハイオ小隊の3名、
しかしすぐに3人が違和感に気づく、どこかルナツーの空気が違う。物質的な話ではもちろんない、
船の中からでも、ドック内で働く作業員の視線や表情が明らかに固い、一体何があったのか?
「・・・あ、ワッケイン指令、珍しいな。」
ジャックが言う、この基地の指令であるワッケインがドック内にいるのは珍しい。
しかも下船の通路デッキの先にいる、まるで誰かが下船してくるのを待ち構えているように・・・
サメジマは違和感を感じながらも、先頭を切って船を下り、デッキをまっすぐ歩いて行く
顔を見合わせながらエディとジャックがそれに続く。
「指令自らのお迎えとは光栄ですな、シルバー・シンプソン所属オハイオ小隊、只今帰還しました。
やや固い笑顔を見せ敬礼をする、しかしワッケインは手を後ろに回したまま返礼をしなかった、
顔を伏せ、目線すら合わせようとしない。
「ヒデキ・サメジマ中尉、ならびに小隊所属の二名、このまま司令室に出頭のこと。」
そう言って背中を向けて歩き出す、要するに付いてこいという意味だろう。しかし一体何事か・・・
司令室で見た物、それは彼ら3人にとって血の気が引く映像であった。
-おめでとう連邦軍の諸君!我々はついに諸君も


324:モビルスーツの開発に成功したという情報を入手した- -しかし、喜びに沸く諸君らに、我々は悲しむべき事実を伝えねばならない!- -兵器局発表!我々は主力モビルスーツ「ザク」を遙かに上回る新型機の開発に成功した!- -EMS-10「ヅダ」である- それはジオンのプロパガンダであった、そしてそこにある機体を3人は知っている。 今回の出撃で遭遇した、恐るべき機動力を誇る青い新型機! -現在このヅダは、ジャン・リュック・デュバル少佐指揮のもと、最終試験を実施中である!- -さぁ、この新型機の量産も間近だ!- そこまで見て、一度映像を止めるワッケイン。 「・・・どう思う?」 「我々はこれと遭遇しました。敵のプロパガンダを認めたくはありませんが、これは事実です。」 サメジマが答える、今後はザクではなく、このヅダを相手にせねばならぬことを伝える。 「そうか。」 それ以上何も言わない、そしてワッケインは録画の続きを再生させる。 その後の映像を見たとき、彼らはこのルナツーに漂う空気の正体を知った。



325:三流F(ry
17/06/23 00:11:27.62 4BZYqPon0.net
-これは、先日の遭遇線の際、わが軍の「ヅダ」が行った戦闘映像である-
それ以上の解説は無かった、また必要なかったとも言える。それはヅダとジオンの使用する観測ポッドの映像。
3機のヅダと、オハイオ小隊の戦闘、それは捕捉修正の無い、客観的な映像だった。それがさらに事態を悪化させる。
縦横無尽に飛び回るヅダに手も足も出ないボール、しかもそのボールはまるで3流アニメの悪役のような
サメの顔が描かれている、無力な輸送船を襲おうとした凶悪なサメと、それを蹴散らす青い騎士。
そして手も足も出ずに、すごすごと逃げ出す3匹のサメ、
誰がどう見てもこの映像における英雄はヅダであり、チープな悪役はオハイオ小隊であった。
ボールが逃走したあと、ヅダは虚空に向けてシュツルムファウストを発射する、それは信号弾。
つまりこの時ヅダは、実弾を持っていなかったのだ、それがオハイオが逃げたとき追撃がなかった理由。
「この映像が配信されたのは昨日のことだ、そして今日の朝一番に連邦政府から通達が来た、
この映像の事実確認をし、しかるべき処置をせよと。」
その言葉の意味をサメジマは、そしてエディは噛み締めていた。
-軍法会議-
今年初頭に始まったこの戦争、それは連邦にとって「悪のジオンを打ち倒す為の正義の聖戦」に他ならなかった。
コロニー落としによる大量殺戮、進行作戦による占領、略奪、治安の悪化、物資の欠如、インフラの低下
全てはジオンによって仕掛けられ、もたらされた悲劇であると。
「正義を持って悪のジオンを打倒せよ!」これは連邦全体のスローガンとして軍民問わず叫ばれていた。
だが、このプロパガンダはそんな風刺を一蹴しかねない、連邦はまだしもジオン国民がこれを見て
自らの戦意を高揚させるのは誰にでも想像が付く。
「敵前逃亡、利敵行為、それが罪状だ。ヒデキ・サメジマ中尉。」
あえてサメジマにだけそう伝える。それは処刑する人員を最小限に抑えようとするワッケインの配慮だった。
「承知、いたしました。」
敬礼を返すサメジマ。エディは唇を噛み、ジャックは思わず身を乗り出し、叫ぼうとする。
「そんな!あれは逃亡なん・・・」
「黙れ!」
サメジマがそれを一喝する、せっかくのワッケインの配慮を無駄にはさせられない。
それにこの映像は決定的だ、少なくとも安全なジャブローあたりであぐらをかいている政治屋どもにとって
自らの主張宣伝の妨げになると、綱紀粛正をヒステリックにわめきちらすのは容易に想像できる、
サメジマは、自分の命運が尽きたことを悟った。

-こうしてルナツーの英雄は、1本のプロバガンダによって命を落とした-

326:三流F(ry
17/06/23 00:15:35.52 4BZYqPon0.net
『そん時は敵を褒めるんだよ、あのサメジマを倒すとはたいした敵だ、ってな。』

軍人である以上、死は受け入れるべきもの、殺し合いが軍人の仕事なのだから。
しかし彼は強敵に殺されたわけではない、画期的な新兵器の餌食になったわけでもない、
政治家の都合と、敵の政治宣伝によって味方に殺されたのだ。
それでも、その死に顔に無念さは伺えなかった。
「ねぇ兄貴、俺は一体・・・誰を、褒めればいいんですか・・・」

第四話でした。
イグルーの小説で603のプロホノウ艦長が「誰も傷付けず、誰も傷つかず勝つ」
と言っていたのが印象的だったので思いついたエピソードです。

327:通常の名無しさんの3倍
17/06/26 03:10:53.63 8ndbwpUL0.net


328:三流F(ry
17/06/26 11:10:09.96 VSUjlWZh0.net
MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第五話 新たな顎

サメジマを葬った後、エディとジャックは同じ部屋に軟禁された。
エディはサメジマを悼み、ジャックは呆然と運命の非常さを噛み締めている、
何故、こんなにも俺にばかり理不尽が起こる。いや、俺の周りの人間が、か。
自分はひょっとして死神の類じゃないのか、そんな妄想までよぎる。
ふと、軟禁部屋に設置されている連絡用のモニターが写る、何事かと振り返るエディ
呆然とモニターの明かりで顔を照らすジャック。
-ジオンの皆さん、いつも素敵な放送をありがとう、さて、今回のお話は・・・-
連邦軍のプロパガンダだった。その内容はチープで馬鹿馬鹿しく、彼ら二人にとっては
子供だましにも見えない低レベルな「言い訳」だった。
-かつてこのヅダはザクⅠとの正式化競争に敗北してるというのです-
-しかし改良とは名ばかり、実は中身は全然変わってないというのです、ヤレヤレ、こんな機体が新型とは-
ジオンが流したヅダの優位性を見せる放送、それを否定するためにわざわざ作ったのか、このチープな放送。
呆れるばかりだ、ヅダがザクⅠより劣る?そんなことはありえない、実際に戦ってその強さを見てきた二人にとって
その放送があまりに間違ってることは疑いなかった。いくら自分たちの正義や優位をイメージさせるとはいえ
この子供の言い訳のような説得力の無い、しかも先日のジオン放送に即反応してこのお粗末さ、
そうまでして前の自分たちの戦いを無かったことにしたいのか!

329:三流F(ry
17/06/26 11:10:47.90 VSUjlWZh0.net
-まぁオデッサの戦いが連邦の勝利に決した今-
その一言が二人を覚醒させた。オデッサといえばジオンの地球最大の拠点、そこに詰めている人員は
数万じゃきかない、そこがもし本当に落ちたのなら・・・
ドア前に詰め寄るエディとジャック。
「おい、見張り!本当か、オデッサを陥落させたってのは。」
ドアの向こうにいる見張りに声をかける。
「ああ、この基地静かだろ。さっきみんな出撃したよ。脱出した敵も相当数いるようだしな、七面鳥狩りさ。」
宇宙へ緊急脱出するならHLVと呼ばれるカプセルで打ち上げられるのが基本だ、詰めれば百人以上が乗れるそれは
悲しいかな地球軌道への脱出しか出来ない。
無抵抗の彼らの元に、ジオン印のタクシーが迎えに来るか、連邦印の狼の群れが来るか、全ては時間との闘いだ。
ジャックは思う。ジオンの将兵は確かに憎い、しかし抵抗も出来ないカプセルに乗った彼らを撃つことは
戦闘ではなく虐殺ではないのか?兄貴と同様、自分の死に誇りさえ持てない、恐怖と阿�


330:@叫喚に包まれた死。 むろん彼も分かっている、もし数万の将兵を見逃せば、彼らは再びジオン兵として自分たちを殺しに来る、 ただでさえ兵力数で優位な連邦がここで数万のジオン兵を叩けば、今後の戦争は一気に連邦側に有利になるだろう。 それでも・・・コロニー落とし、プロパガンダによる兄貴の死、そしてこの七面鳥撃ち、ジャックは改めて 戦争の非常さに身震いした。 思えば兄貴があれだけ精力的に動いてたのは、そんな戦争の非常さをよく分かっていたからじゃなかったのか・・・ 3日後、軟禁を解かれ司令室に連行される二人。そこで受けた命令はやや意外なものだった。 「エディ・スコット、並びにジャック・フィリップス、両名は本日付をもって任務に復帰、 モビルスーツ、ジムのパイロットとして訓練を受けた後、しかるべき所属に当てる。」 ワッケインから言い渡されたのは罰則ではなく厚遇だった。なぜ、と聞く前に指令が続ける。 「あの青い奴、ヅダとか言ったな。オデッサに急行した4個小隊が、わずか3機のヅダに全滅させられた。 その中にはジム2個小隊も含まれている。」 ああ、そういうことか、と思う二人。あんなプロバガンダを打った連邦の愚かさは、当然の報いを受けたわけだ。 あれを見てヅダを舐めてかかった者もいるだろう、そうでなくてもザク相手のマニュアルでの戦闘じゃ とても歯が立つ相手じゃない、火消しに慌てた宣伝は逆に火の粉をあおっただけだった。 「オデッサの脱出兵は9割ジオンに持って行かれた、千載一遇のチャンスを逃したわけだ。 当然、こちらとしてもモビルスーツを操る精鋭は一人でも多く欲しい、そういうことだ。」 ワッケインは最後にこう言い添える、それは二人にとって救いだった。 「サメジマがいたら・・・良かったんだがな。俺が言うことじゃないがな。」 それは故人に対する悼みでもあり、彼らに対する期待の表れでもあった、サメジマの意思を継ぐ者として。



331:三流F(ry
17/06/26 11:11:39.50 VSUjlWZh0.net
翌日から彼らのジムパイロットとしての訓練が始まった。基本動作の習得、武器の使い方、加減速、方向転換など
しかしそれは思っていたより遙かに簡単な操縦だった、下手をするとボールより扱いやすいのではないか・・・
その理由は3日目からの実践練習で明らかになった。2対2のジム同士での実践形式、成績は10戦全敗だった。
とにかく思うように動いてくれない、操作が簡単な反面、出来ることが異様に少ないのだ。
モビルスーツを巨人のイメージで操作していたらジムはまともに言うことを聞かない、内部にプログラムされた
動作をルーチンワークのように組み合わせることによって初めてまともに戦闘できる。
整備員やパイロットを問い詰めて、二人はその原因を突き止めた。
このジム内に入っている動きのルーチンは、「RX-78ガンダム」というジムの上位互換機が実践の中で
学習してきたプログラムだったのだ。
ザクの脅威に合わせて開発されたモビルスーツは、何より「操作の簡単さ」がまず求められた。
事実、鹵獲したザクは調べてみると、その操縦の難しさに誰もが驚いた。
逆にそこに連邦軍の開発部は活路を見いだした、性能は互角でも、より操縦しやすい機体を作れば
短期間で実践に耐えうるモビルスーツとなる、その為にまずザクに圧勝できる強力なモビルスーツ
すなわち「ガンダム」を作り、その実践データを流用、量産期に使えるデータのみを抜き出し搭載する
これが連邦軍のモビルスーツ量産作戦「V作戦」の骨子だったのだ。
しかし現実にはそううまくいくものではない。ガンダムとジムでは出力が数倍違う、同じように重力下を走っても
ガンダムではスムーズ


332:に走ってもジムではぎこちない走りになる。 全身強靱なルナチタニウム合金のガンダムと、盾だけルナチタニウム合金のジムでは防御の姿勢も違ってくる ガンダムなら盾で半身を隠していればいい状況でも、ジムなら全身を縮めてすっぽり盾に隠さねばならない。 「どうやら、俺たちのやることは決まったようだな。」 「ええ、何しろ俺たちはオハイオ小隊、あの兄貴の部下なのですから。」 エディの提案にジャックが答える、やるべきコト、兄貴が生きていたならこうしたであろうコト。 翌日から、ルナツーのメカニックは二人の無理難題に悩まされる日々が始まった・・・



333:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:07:00.81 ctIH441u0.net
乙です
ヅダはいい機体ですから仕方ない面もあるでしょう
ジオニックの陰謀さえなければ…
投下します

334:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:09:14.89 ctIH441u0.net
―艦これSEED 響応の星海―

左肩脱臼。
死を覚悟した追撃が、たったそれだけで済んだのは一重に、運が良かったからに他ならない。
不気味なまでに肌が白いその女―文字通り「血の気がない」その化物―は、それこそ人間のものとは思えないスピードで獲物にとどめをささんと飛び掛かり、対するキラは咄嗟に左手で掴んだ石を盾にした。
化物が隻腕で、バランスを崩していたのも幸いだったのだろう。化物のパンチをまともに受け止めた、子どもの頭部ほどの大きさだった石は粉々に砕かれ、衝撃で左肩が脱臼した上に背にしていた赤レンガの壁が崩壊、
キラは化物もろとも建物内にゴロゴロ転がり込んでいった。
だが、なんとか直撃だけは免れることができた。
「ぐ……、くっそ……!」
死ぬかと思ったが、まだ生きている。
ならまだやれることがある。
立ち上がれ。
「げ、ぅッ!?」
だが、幸運はそれで使い果たしてしまったようだ。むしろ負債を抱えてしまったとも言える。
甘かった。
いち早く戦闘態勢に復帰した化物が、今度はキラの腹部を思いっきり蹴っ飛ばした。
キラはサッカーボールのように、大型トラックに跳ね飛ばされたマネキンのように一直線にぶっ飛び、厚い壁を突き破って建物外に追い出される。まるでアニメ漫画のような、冗談みたいな一幕。
何度も何度もコンクリート製の大地に身体を打ち付けながら跳ね飛び、回転し、とある【何か】にぶつかってようやく止まった頃には、キラは全身血塗れになっていた。
鮮血の赤が、月明かりに照らされた無機質なコンクリートを点々と彩る。
「……が……ぁ、っうぁ……」
虫の息。
理不尽な暴力に晒され、これといった抵抗もできないまま大の字でくたばった青年は、まさに死に体だ。かつて最強のパイロットと謳われた人間は一瞬で、完全に敗北した。
なにもできない。なにも考えられない。もうなにも動かせない。逃げるという生命の根本的な気力さえ、潰されていた。生命体としてのスペックが桁違い―いや、別次元だった。
ミジンコは人間に勝てない。勝負を挑もうとも考えられない。そういう次元。
腹部から大量の血が流れ出し、あっという間に血だまりが出来上がる。
あとは息の根を止められるのを待つだけだ。
攻撃に反応し、今の今まで意識を保ち続けていたことこそが奇跡だったのだ。

335:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:11:05.38 ctIH441u0.net
(……いや、これは、おかしい)
そう、まだキラは意識を保っている。

保ててしまっている。

(もうとっくに、死んでなきゃおかしい)
奴の襲撃から既に十秒が経っていた。
そもそも普通の人間なら初撃で、少なくとも蹴り飛ばされた時点で意識を失い、順当に死んでなきゃおかしい。戦士としての勘がそう告げている。状況がひどく矛盾している。
人工子宮生まれの最高のコーディネイターだからとか、ここ最近はまじめに鍛えているとか関係ない。人間、何十メートルもぶっ飛ばされるような打撃を喰らって生きていられるほど頑丈には出来ていないのだ。
眼差しの先に広がる、美しい星の海を見上げて、空恐ろしいまでの冷静さで自問する。
であれば、今生きている「自分」はなんだ?
もう絶対に動けないと思っていたのに、なのに膝を震えさせながらも立ち上がることができている「自分」はなんだ?
人間ではないのかもしれないなと、自答した。
(まだ死なない。まだ死ねない……!)
だからどうしたと、再び自問。
今を生きている、それ以上になにかが必要あるのか。
なにかにつけて誰もが納得する正当な理由がなければならない必要があるのか。
生きているのなら、生きなければならない。
生きのびると言うこと。どこかチクリと痛むその単語は、たとえミジンコであろうと追求し続けなければならないものだから。
だから人は、戦う力を捨てられないのだ。
「……【おまえ】がなんでこんな所にいるのか、僕は知らない。でも、ここにあるのなら」
戦う為の力。
キラにとっての【ソレ】は、今や彼の背にあった。
空を見上げて偶然発見した【ソレ】は、この現実を打開できる唯一のもの。知り尽くしていて、絶対的な信頼を寄せるもの。
こいつがあれば戦えると、一目見た瞬間に確信した。あの化物に、あの人類の天敵に抵抗できると。
咳き込みながら、自力で立つこともままならない身体を支えるために背中を預けていた【ソレ】は、港に鎮座していた巨大な鉄灰色の巨人だった。あまりにも見慣れた、ここに在ることがどこまでも不自然なその機体。
過去かもしれないこの世界に在ってはならないもの。

336:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:13:07.63 ctIH441u0.net
構うもんかと呟く。
そして。
遠く、化物がのそのそと建物から這い出てくる様を、霞む瞳で見つめながらキラは物言わぬ機体に語りかけた。
血反吐を吐きながら、願う。
かつて戦うことを恐れ否定し、それを乗り越え世界の為に戦い続けていく覚悟を誓った青年は、生きたいと願う。
「僕に力を貸してくれ」
それに応えるように。
一対の角のようなアンテナと人間のようなデュアルアイ、意図的にヒロイックな形状にデザインされた装甲を纏い大ぶりなライフルとシールドを懸架した18mの機械人形―【GAT-X105 ストライク】が、微かな光を放っ
たように思えた。
偶然にしては出来すぎている。
わからないことは後回しに。
できること、やれることをするだけだ。
その為には。
「僕は、生きる」
どこまでも膨れ上がる『生』への強い渇望。
それだけを支えにキラは、「右手に握った大型ライフル」を化物に向け、トリガーを引いた。

《第2話:ヒトデナシ達の三重奏》

「まずは、礼を言わせて頂きたい。昨日は、深海棲艦を撃退してくれて、ありがとう。おかげで命拾いしたよ我々は」
「いやそんな……僕はただ死にたくなくて、無我夢中で……」
一晩明けて、翌日のお昼。
全身を包帯でグルグル巻きにされた青年キラ・ヒビキは、同じく包帯グルグル巻きの壮齢の男性と面会していた。
昨夜の修羅場を辛くも生き延び、つい今し方に昨日と同じベッドで目覚めたキラは、昨日見たものと同じ天井と熱っぽい身体を認識して溜息をついた。今回もなんとか生きてるけど、こんなズタボロ状態


337:で目覚めるのは三度 目だしもう勘弁してほしいと思う。イージスが自爆したりインパルスに貫かれたり、そして化物にボコられたり、むしろこれでよく五体満足でいられるものだ。 そう他人事のように感心して頷いていた時にその男はやってきて、こう言った。 「私は二階堂大河少将だ。この佐世保鎮守府を取りまとめる提督――つまり最高責任者だな、ここの」



338:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:15:06.75 ctIH441u0.net
短く切り揃え逆立てた黒髪に、日焼けした精悍な顔つきが凜々しい筋肉質の男。いかにも歴戦の軍人といった頼
もしい様子で、渋いバリトンボイスで深々と礼を述べるこの人物が、キラが会いたがっていた責任者のようだった。
そう、軍属のキラが自分の「今」を手早く知る為にコンタクトを取りたがっていた、響が紹介してくれると約束した軍のお偉いさんである。
しかし、その目的は既に半分以上瓦解していることは理解しており、いまここで「僕キラ・ヒビキなんですけど、ちょっと近況教えてくれますか」と言ってもむしろ混乱を招くだけだろう。ここは正真正銘本当の意味で「ここ
はどこなんですか」と訊かなければならない場面だった。
ここは己の知る地球ではなく、己は異邦人であると嫌でも実感したからだ。
「傷はまだ痛むかね?」
「……あ。えぇ、はい。……まぁなんとか」
「そうか。……しかし、護衛の一人もつけずにいたのは此方の落ち度だ。すまなかった」
「そんなの。僕が勝手に出歩いたのがいけないんですから……。……其方も、大丈夫なんですか?」
提督を名乗る二階堂少将も、キラに負けず劣らず傷だらけであった。
ぱっと見、右腕と左脚を骨折しているらしい。真っ白のギブスと松葉杖が痛々しく、検査服から覗く胸板にも包帯が巻かれていた。出歩くのも辛そうな重体だ。
それでも男は嫌な顔ひとつも見せず、頭を振って応える。
「いやなに、見た目は派手だがそう大したものではない。ただまぁ強引に病院に担ぎ込まれてな。……そのタイミングで攻めてくるのだから、敵もなかなかにやるものだ」
「……なにが、あったんですか」
「空爆だよ。深海棲艦のな」
ズタボロになるのは男の勲章とは思わないかねと冗談めかして笑ったのち、傷に障ったのか顔を引き攣らせたその男は、損壊し倒壊した建物の下敷きになったのだという。昨夜ようやく退院(後に聞いたことだが、強引に抜
け出してきたらしい)できたとのことだ。
「……」
「……」
沈鬱な沈黙が場を支配する。
男の発言と状況からして、この佐世保鎮守府という基地は相当に劣勢な立場にいるのだろうなと、キラは推測した。軍事施設だというのに妙に人がいないのも、全体的にボロボロなのも、その深海棲艦とかいう敵に押されて
いるからだと、言外に匂わせていた。
深海棲艦。
昨夜戦った―いや、一方的にボコボコにしてくれたあの化物が、そうなのだろうか。
個なのか組織なのかは不明だが、あのとんでもない化物を、とても人の手によるものとは思えないアレを、この提督は認知している。そして昨日のアナウンスの内容からしても、この基地があの化物相手に戦っていることは
明白だ。
アレはいったい、なんだ?

339:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:17:05.41 ctIH441u0.net
「さて、では事情聴取と情報交換を始めよう。君のことは響からも報告を受けているが、直接一から説明してくれるとありがたい」
「響……そうだ。あの娘


340:は? どこにいるんですか?」 ゴホン、と咳払いして続けられた提督の台詞に、キラは「彼女は無事なのか」と今更ながらに心細くなった。 あんな化物相手に立ち向かって、無事でいられる筈がない。改めてキラは彼女の言葉と選択の重さを悟る。彼女を信じると決めたからって、敵を知ってしまえばもうその気持ちは揺らいでしまっていた。 今起きたのだから仕方がないとはいえ、まだ顔を見ていない。気になって仕方がなかった。 早く会いたいと、切に思う。 「それも含めて、だ」 提督は、思わず前のめりになっていたキラを制する。 「彼女が今どうしているか。それは未来人、若しくは異世界人かもしれない君が、此方の常識を知らんことには 説明できないものだ。同様に我々が、君がなにをどこまで知っているのかも知らなければ。これはそういう問題だ」 二人はほぼ同一の結論に辿り着いていたようだった。 つまり、キラは18m級の巨大ロボット兵器とこの世界にやってきた、異邦人であるのだと。そう判断するには充分すぎるほどのヒントはそこかしこにあったのだ。 キラにとってのそれは星空と化物であったし、提督にとってのそれはキラと一緒に発見されたロボットと彼の発言そのもの。 この目で見たモノしか信じないと豪語する主義者も納得の物的証拠だった。 同じ日本語で会話できているとしても、同じ日本という国家が存在しているとも限らない。二人を取り巻くそれぞれの世界は全く異なり、共通する常識なんてものは多くないと考えるのは極当然のこと。 提督は、響はお互いに共通する常識では語れない存在であるのだと告げていた。 物事には順序がある。彼女は後ろの方だと。 この世界の男がそう言うなら、異邦人であるところのキラは従うほかなかった。 「知りたいこと、訊きたいことは互いにある。私としても君のロボットに興味津々なのでね。……だが、そうだな。まず一つ言うが……とりあえず彼女は無事だ。だから安心なさい」 常識を知る為に、世界を知ろう。 ◇ 「ッくしゅん!」 「ん? 風邪か?」



341:通常の名無しさんの3倍
17/06/27 17:20:05.71 OwAeB4lz0.net
エラー回避

342:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:20:33.03 ctIH441u0.net
「いや……」
提督とキラが情報交換を始めたのと同じ頃。
響は木曾と共に哨戒任務につき、海上の人となっていた。
艤装を装着した彼女達は、まるでスケートでもしているかのように、すいすいと生身のまま海上を滑走する。
荒れ狂う灰色の海もなんのその、慣れた体裁きで当然のように支配下に置き、サーフボードも使わず二本の脚のみで成す様はまさに魔法のよう。
この水上を沈むことなく進める超常的能力は、艦娘が生まれつき備える基本能力の一つだった。
セーラー服と黒マントは20ノットの巡航速度で周囲の警戒にあたる。
「とりあえず、もうこの辺りは大丈夫そうだね。やっぱり昨日のアレが敵主力だったみたいだ」
「なら少なくとも半日は凌げるか。しかし―チッ、こうも電波障害が酷いとな。この海域はもう解放したろうが」
「だから私達が出てるのさ」
「九州一帯を覆う新たな磁気異常。明石が言うことが本当なら、オレ達の敵は深海棲艦だけじゃねぇのかもしれないな」
磁場が乱れている海域には【敵】がいる。
それが今や子どもでさえ知っている、この世界の常識である。
そう。
ことの始まりは六年前。世界中の海が突然に、原因不明の凄まじい電波障害に襲われた。
海上においてあらゆる長距離レーダー・センサーが妨害され、人類の発�


343:Wに大きく関与してきた電波通信や電波航法といったものが悉く使用不可になった。 あまりにも唐突な出来事であり、当時海上に在った船や飛行機のほぼ全てが消息不明になったという。 海を越えるには昔ながらの海図と星を用いた航法が必要不可欠となり、通信と貿易と移動は陸上のモノのみに制限、人類の文明は大きく後退することになる。世界は海によって分割され、有線通信で辛うじて繋がりながら安 全地帯となった陸だけの生活を余儀なくされたのだ。 そしてその一年後、つまりは五年前。 海よりいずる異形の化物――後に【深海棲艦】と呼称される『人類の天敵』の存在が確認されたのは、戦争が始まったのはその時だった。 「Что это значит?」 「……すまない、ロシア語はさっぱりなんだ」 「長い付き合いじゃないか。そろそろ覚えてくれても。……どういうことだいって意味だよ」 「あー……。……ヤツらに制圧されていないのに電波障害が――しかも陸にまで出てるってことは、原因は別にあるんじゃないかって」 「例の隕石?」 「タイミング的にはな」 「新しい敵なんて、お腹いっぱいだよ」 「違いない」 UFOみたいな形のモノから人間に近い形のモノまで。



344:ミート ◆ylCNb/NVSE
17/06/27 17:23:15.21 ctIH441u0.net
世界中の海に現れた深海棲艦は、そのそれぞれが現代の最新鋭軍艦にも引けを取らない火力・防御力・機動性を
備えており、群れをなして手当たり次第に人類に襲い掛かる習性を持つ。そんな化物に、世界の海軍は瞬く間に粉砕された。
文字通りに、歯が立たなかった。
レーダーとミサイルを封印された従来の艦艇は、同等以上の戦闘能力を持ちながらより小型なヤツらにとってはただのデカい的でしかなかったのだ。海を制圧し、陸にもその侵略の魔手を伸ばしてくる化物を相手に、沿岸に
展開した戦車部隊で防衛ラインを形成するのが人類の精一杯だった。
そういった具合に暴れ回る詳細不明の深海棲艦だが、解っていることも確かにあり、そのうちの一つが電波障害との関連性である。
深海棲艦はその個々が特殊な電磁波を放出している。特に群れを統括するボスの放つ電磁波は強烈であり、近年の研究ではこの電磁波によって意思疎通をしていることが判明している。また、アメリカ海軍の決死の奮闘によ
り、ボスを失い解放された海域は電波障害からも解放されることも実証された。
磁場が乱れている海域には【敵】がいる。【深海棲艦】がいない海域の磁場は正常である。そして陸は人類の絶対生存圏なのだ。
存在する理由も侵略する理由も謎に包まれているが、その因果関係だけは確実なものであり、世界の常識となった。
「敵の特性が強化された線はどうだい?」
「どうも波長というか、性質というか、まぁいろいろ異なるらしい。そいつが新たな磁気異常を引き起こし、かつ敵を強化しているんじゃないかと。迷惑極まりないな」
そうして未知の脅威に晒され続けてきた人類が、敗北せず五年も生きながらえてきたことには理由がある。
【艦娘】という名の奇跡が、人類の味方をしたのだ。
かつて、第二次世界大戦の折りに活躍した軍艦の名と魂を受け継いだ、生まれながらにして戦う力を備えた超常の少女達。厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
深海棲艦と同時期に世に生まれた彼女達こそが、現人類の最大戦力であり最後の希望だった。
彼女達は人間のような見た目でありながら、その元となった軍艦の能力をそのまま人間サイ�


345:Yに凝縮したような 性能を備えている。その点は深海棲艦と同様――水上を滑走し、特殊な電磁波を発し、圧倒的な火力・防御力・機動性を備える――だが、彼女達は人語を解し、人類に深い思い入れを持つ存在だった。故に彼女達は己の意思 で人類に味方し、深海棲艦と戦う道を選んだ。 何故生まれたのか、どのような生命体なのか、どこから来てどこに征くのか。その全てが不明であるヒトデナシ同士の戦争が始まった。 そうして五年、人類は艦娘を主力とした防衛戦や反攻作戦を決行、いくつかの海域を開放しながら戦争を継続して、今日に至る。 戦況は人類側の優勢に傾きつつあった。 「私達で対処できることかな」 「わからねぇ。わからねぇが、電波障害の影響を受けずにいられるオレ達でダメなら、人類は今度こそお終いだろう。ならやるしかない」 「うん……」 「なんだ、突撃隊長様が随分と弱気じゃないか。……まぁ、気持ちはわかるがな。あの隕石が原因だってんならオレだって正直お手上げさ」




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